佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 白と黒、あるいは、虚無と引力

<<   作成日時 : 2014/12/26 00:00   >>

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◆ ◆ ◆



十九路の盤面を挟んで、竜堂神邪と大河柾は石の音を響かせる。
乾いた木の塊に、冷たい石が並んでいく。

「っつあァ、駄目かぁ・・・足りてねえな、こりゃ。」

柾は舌打ちして自分の額を叩いた。
盤面には黒と白の石が、合わせて200近くあり、この対局が終わりに近いことを示している。

「投了する?」
「いや、最後まで打つだけ打とう。」

だいたい5目前後の負けになりそうだと計算しながら、柾は黒石を打っていく。
格下相手なら引っくり返せるかもしれない差だが、相手が神邪では逆転は許してくれない。

それから10分ほど経った頃に、盤面は収束した。

「7目か。」
「そうだね。」

囲碁は普通、陣地の広さを数えやすいように、打ち終わった後に整理する。
しかし、ある程度の力量があれば、対局中に既に数え終わっている。

儀礼的に整理をしながら、柾は首をひねっていた。

「どうしたの?」

同じく石を整理しながら、神邪は尋ねた。

「いや、何で負けたかなぁと思って。」
「今回はミスらしいミスは無かったけど、緩い手が多かったからね。」
「それなぁ。気が付いたら形勢が悪くなってるっつうか、不気味だぜ。そもそも5子も置いて、およそ負けるはずがねえと思ってんだがなぁ・・・。」
「その感覚は正しいけど、僕は部分の戦いでマサキに勝とうとは考えてないから。」
「全体を掌握する力なぁ。よく言うけどさ、全体とか読み切れねえだろ?」
「まァね。雑誌は読み切れても、囲碁の手数は読み切れない・・・でもそれは将棋も同じだぜ?」

盤面は綺麗に整理された。
計算結果が正しいことを確認して、2人は碁石を片付け始める。

「将棋なら互角なんだがなぁ。」
「直近では僕の方が負けてるよ。マサキの思考は将棋向きなんだよねぇ。」
「それは俺も思う。将棋の場合、部分で勝てば大体いけるし。将棋は戦術のゲームで、囲碁は戦略のゲームって言われるが、そういうことなんだよな。」
「将棋は相手の玉を殺して勝つゲームだからね。例外はあるけど、基本的には相手を殺さないと勝てない。」
「だからシンヤは攻撃偏重なんだよな。」
「囲いを組むってのが苦手なんだよ。僕の腕前では、手数に見合うだけの防御性能を発揮できなくてさ・・・。」
「そんだけ攻撃的なのに、囲碁では逆なのな。」
「囲碁は将棋と違って、必ずしも殺さなくていい。互いに1つも石を取らなくても決着できるだろ?」
「平和的なゲームだな。」
「生かして嬲るだけさ。囲碁では、小さく生かして大きな利益を得る戦略が王道だしさ。」
「まあ、模擬戦争って意味では、残酷さの度合いは同じか。」

碁石を碁笥に入れ終わり、蓋を閉めて、盤に乗せる。
互いに挨拶をして、これで対局は終了だ。

「僕からすれば、将棋は途中の有利不利が、あんまりわからないんだよね。」
「そうか?」
「相手を追い詰めても、一発逆転があったりするじゃない。マサキには毎回それで負けてる。」
「確かに、殆ど負けてても相手の玉を詰めれば勝ちだしな。」
「アルドにもよくやられたもんだよ。」
「アルド? 永遠アルドか?」
「彼女が転校生なのは知ってるだろ。マサキんとこに来る前に通っていたのが、僕が通ってた幽堂高校だ。」
「あそこに通ってたのか・・・。」
「つい2,3年前のことなのに、遠い過去みたいに懐かしいなあ。」

神邪は目を細めて昔を回想した。

(そう、あのとき僕らは―――



- - - - - -



幽堂高校の建っている場所は、かつては墓地だったという。
1つのクラスに20人、それが20クラスで400人。学校全体の生徒数は、およそ1200人。
広い敷地の中には、当然ながらデュエル場も存在する。

この学校の特色は、生徒全員が何らかのデュエリスト能力を所持しているということだろう。
約6割はレベル1能力者で、レベル2が3割ほど、クラスに1人はレベル3が在籍している。
各クラスは互いに競い合う間柄であり、成績の付け方は学業とデュエルが半々という塩梅だ。

ただし、竜堂神邪と永遠アルドは、1組から20組の、いずれにも所属していない。

幽堂高校・特殊選抜クラス、通称“零組”(ゼロくみ)。
そこに籍を置いているのは、三学年すべて合わせても15名しかいない。


「はにゃ〜ん・・・ボクの、勝ちぃ。」

アルドが指した手は、そこから数えて13手先に神邪の玉を詰める、王手だった。
折り畳みの将棋盤に、軽快な駒音が響く。

「・・・負けました。」

読みの深さはともかく、単純な速さではスーパーコンピューターとも勝負できる神邪だ。
それが逃れ切れない詰みであることを判断し、潔く投了した。

凜とした空気が好きだと思いながら、しかし負けたことは猛烈に悔しいので、神邪は唇を噛む。
直近の10戦では、逆にアルドに唇を噛ませたことが多いのだが、それでも今は負けに違いない。

(時々こういう負け方をする。)

どうして負けたのかわからない。
指し手の良し悪しを検討することは出来ても、根本的なところで見当がつかない。

「それが将棋というゲームだよ竜堂くん。」

思考を見透かしたように、アルドが言ってきた。
とはいえセリフからすると、やや思考とはズレた発言ではあるが。

「どういう意味かな?」
「つまり要するに将棋は攻めなければ勝てないけど攻めてるときが最も防御力が脆いからカウンターのチャンスが生まれやすいということだよ。」

究極的には、相手の玉を詰めた時点の陣形が、最も脆いとされる。
相手の石を取りきった状態が強い、囲碁とは、殆ど真逆と言っていいだろう。

「竜堂くんの戦術は攻撃に偏りすぎてるからカウンターさえ決まれば脆いんだよね。」

ただし、その理屈を実行できる者は少ない。
アルドとて、毎回やれるものでもない。

「囲いを組むのは性に合わないものでね。手数に見合うだけの防御力があるとは思えなくてさ。」
「あは・・・竜堂くんの、思考は、あんまり、将棋には、向いて、ないね。」

それを言うなら、アルドも決して将棋向きの思考ではないのだが、神邪よりは向いてる方ではある。
また、向いてるかどうかと好き嫌いは別物だし、デュエリストたるもの、多くのゲームに精通しておくべきだろう。

デュエルキング武藤遊戯が、デュエル以外のゲームにも堪能であったのは有名なことだ。
それがデュエルの強さに影響を与えていたのは間違いない。

将棋の世界でも、羽生善治が突出して強いのは、チェスやシャンチーなど世界各国の将棋に詳しいことが、ひとつの理由として挙げられている。

広い知見と、それに伴う思考の汎用性。
それはゲームキングと謳われた武藤双六が大切にしていたことでもある。


「それじゃあ次は囲碁でも打とうか竜堂くん?」
「ハンデは?」
「先手でお願い。」

デュエルと感覚が似てることもあり、零組生は全員が将棋を嗜む。
しかし囲碁を打てるのは、神邪とアルドしかいない。

「「お願いします。」」

他の生徒も決して打てなくはないが、星目でも相手にならないくらい2人が突出しているので、自然と囲碁を打つときは相手が決まってしまう。

神邪としてはアルドと碁を打つのは望むところだが、彼女からの呼び方が「竜堂くん」と苗字に戻ってるあたり、特別な感情は無いのだと思うと、物悲しい気持ちが皆無ではない。
もっとも、彼女にした仕打ちを考えれば、こうして話せていること自体が奇跡だとも言えるのだが。

(そもそも僕と普通に話せる時点で稀有だよねぇ。)

零組生でも、神邪と普通に会話できるのはアルドくらいのものだろう。
大概は話そうとしないし、話すときは波乱を免れない。

(・・・星打ちか。)

囲碁の盤面には、9つの黒丸があり、それを星と呼ぶ。(特に四隅のことを言う)
アルドは神邪から見て左側の3つに石を置く、通称“三連星”と呼ばれる配置を取った。

そこから穏やかな戦いが続き、局面は中盤へ入ろうとしていた。

そのとき。


「ここかっ、零組!!」


物々しい鉄の扉を開けて、騒々しい集団が入ってきた。
その数およそ30人ほどだろうか。数えたら、31人だった。

「・・・・・・。部屋に入るときに大声で叫ぶのは良くないですよ。」

思考を中断されて、神邪は苛々した口調で告げた。
とりあえず次に打つ手は決めたが、こんな形で対局を中断されるのは不愉快なものだ。

「竜堂くん・・・そんな、こと、言ってる、場合じゃ、ないと、思うよ。」

呆れたように言ったアルドは、集団に向き合って手を叩いた。

「その扉の認証コードを突破できたのは褒めてあげる・・・で、何の、用?」

対局を中断されて苛立っているのはアルドも同じだ。
とろんとした目つきの中に、怒りが隠せてない。

「貴様ら2人だけか? 他の連中はどうした!?」

リーダー格の男子生徒は、アルドの質問を無視した。
ますます苛立たせる要因だが、そこで神邪が“ブック・オブ・ザ・ワールド”を読みながら言った。

「なるほどね、ここに来るまで君たち色々あったんだ。泣いたり笑ったり戦ったり、それだけで小説1冊が書けるほどの冒険譚を経てきたわけだね。・・・けれど、だからといって僕らの邪魔をする権利は無い。」

「貴様らの悪逆非道な計画を邪魔するのに、小賢しい権利など必要ない!! どれだけの人間を不幸にすれば、貴様らは気が済むのだ!?」

対局の邪魔をするなという意味で言ってるのだが、別の意味で捉えたらしい。
リーダー格の男子生徒は、今にも殴りかからんばかりの形相で拳を震わせていた。

だが、怒りの度合いなら神邪とアルドも負けてはいない。
仮に零組が計画とやらに深く関わっているとして、それでも最低限の礼儀は守るべきだろう。

「最初から対話を放棄しておいて正義を気取るなんてヘドが出るぜ・・・殺して、やるから、かかって、こい。」

アルドと神邪は、デュエルディスクを展開した。
当然ながら、囲碁を打つときもデュエルディスクは装着する。デュエリストとしての基本だ。

「たった2人で31人を相手にするだと!? 舐めるな!」
「そうだ!」「やってやるぜ!」「おらあ!」「いくぜ!」

「そっちこそ、たった31人で僕らを相手にしようとでも?」
「雑魚は群れても大きくなれないんだよ・・・身の程を、知って、死ぬがいい。よ。」



―――デュエル!!



「ボクのターン・・・ドロー、《終焉のカウントダウン》、発動。」


終焉のカウントダウン (魔法カード)
2000ライフポイント払う。
発動ターンより20ターン後、自分はデュエルに勝利する。



「そして速攻魔法《時の飛躍》で3ターン後へ飛ぶと99ターンが経過して・・・ボクの、勝ちだぁ♪」


デュエルは呆気なく終了した。

あまりに呆気ない、それこそ数々の冒険を経てきた彼らにとっては残酷すぎるくらいに淡白な結末。
言葉を発することも出来ないほどに、31人は放心していた。

「確かにボクのデュエリスト能力は多人数を相手に出来るようなものじゃないよ。」

デュエルディスクを折り畳みながら、アルドは言う。

「けれどしかし全然わかってないようだから言うけどね・・・能力者が、能力以外の戦術を、用意してないと、思ったら、大間違いだ。」

デュエリスト能力者であるのは31人も同じことなのだが、アルドは敢えて辛辣な言い方を選んだ。
聞きようによっては神邪を皮肉ってるようでもあるが、そもそも配慮する間柄ではない。

「まあ、君たちの遺志は僕が継いで、その何か怪しげな計画とやらは調べておくよ。零組が深く関わっているなら、遅かれ早かれだし。」


闇に沈んでいく31人を見送りながら、神邪とアルドは碁盤の前に戻った。



- - - - - -



(あの対局は僕が負けたんだったなァ。)

ソファーに身を沈めて、神邪は嘆息していた。
柾はコーヒーを飲みながら雑誌を読んでいる。

この穏やかな時間の中でも、神邪の脳は、目まぐるしく動く。

ひとつは、アルドと打った囲碁。
ひとつは、マサキと過ごす幸福。

ひとつは、幻覚と幻聴。
ひとつは、それとの戦い。

虚空の闇の瘴気に取って代わられた、機能だけの内蔵。
カラッポになっている、自分の肉体。


デュエルダンジョンで過ごす年末は、ひんやりとした石の壁に囲まれていた。






   白と黒   了

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2015/08/31 00:11

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
火剣「俺も将棋だけだな。囲碁はルールも知らねえ」
コング「アルドとレスリングしたい」
ゴリーレッド「全体を掌握する力か。将棋は事業にも役立つ」
火剣「将棋の場合スピードがものを言う場合がある。早指しでガンガン攻めると相手のリズムを崩せる」
ゴリーレッド「じっくり考える暇を与えないわけか」
コング「アルドが唇を噛むシーンを見たい」
ゴリーレッド「なるほど好き嫌いと向き不向きは違うか」
コング「アルドの服を剥きたい」
ゴリーレッド「タバスコを一気飲みしたい?」
コング「言ってない」
火剣「ところで31人は?」
コング「闇のデュエルか? むごいい」
ゴリーレッド「羽生善治はチェスも世界クラス」
コング「神邪がアルドにした仕打ちって何だ?」
ゴリーレッド「攻撃は最大の防御というが、サッカーでも将棋でもボクシングでも、攻撃する時にはカウンターを食らう危険性がある」
火剣「神邪は囲いをしないのか。自分が詰みそうで相手の囲いが強固だと諦めて投了ということがある」
ゴリーレッド「王手王手で攻めて詰まなくて、相手に駒を与え過ぎて、自分の王がガラ空きだと逆転負けもあり得る」
コング「囲碁は嬲るゲームか。僕は囲碁に剥いているかも」
ゴリーレッド「漢字」

火剣獣三郎
2014/12/26 21:04
>火剣さん
囲碁か将棋、片方でも精通している人は、様々な局面で思考の精度が高いと感じます。ゲームで鍛えた緻密な思考力は、色々な分野に応用が利きますね。

佐久間「私も囲いはあんまりやらない。美濃を組むことはあるけど。」
山田「俺も美濃が多い。たまに風車。」
佐久間「よく山田にはカウンターを食らう。」
山田「勝率は俺らの中で佐久間が最高だけどな。」
八武「アルドをガンガン攻めたい。」
山田「将棋の話だよな?」
佐久間「攻守のバランスは死根也が一番いい。オールラウンダーだし。」
山田「オランウータン?」
八武「SFかっ!」
佐久間「よく変な手が出るけど。」
八武「妙手と言ってくれたまえ。」
佐久間「栞は独り別世界。」
維澄「詰めに特化してるだけだよ。」
佐久間「神邪がアルドにした仕打ちは、『地の底の零時』参照。」
八武「ギロチンの話だね。」
山田「そこがメインじゃない。」
維澄「囲碁や将棋は、思考力を鍛えるだけでなく、自分の思い込みや勝手読みが修正されることで、認識力を鍛える面がある。」
佐久間「だから丁寧で上手な人とプレイするべきだな。セックスと同じで。」
山田「一言余計だ。」
佐久間「どこが?」
アッキー
2014/12/26 21:41

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