佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 決闘倶楽部   インターローグ 龍牌の男

<<   作成日時 : 2015/02/25 00:00   >>

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◆ ◆ ◆



また、時を遡ってみようか。

今度は4年ほど。
あの忌まわしいダークネスの事件の頃。



- - - - - -



オレンジ色のオカッパ頭に、半月の双眼を携えた男が、闇の中に独り。
手に持っている箱には、紐で封印が成されている。

目の前にいるのは、失踪した婚約者の姿。
ただし、失踪から6年も経っているのに全く変わらぬ容貌と、湧き出でる甚大な闇の瘴気が、それが決して彼女本人ではないことを物語っていた。

「ミスターT・・・!」

男はギリッと歯を軋った。
白露の姿を真似て、人の心を弄ぶ外道。

怒りと共に、彼の双眼が角度を変えていく。
古びた箱は、禁断のゲーム。その封印が解かれていく。
空間が歪み、箱から出てきたブロックが、規則正しく配列されていく。

「・・・始めようか、ドラゴン・ブロックを。」

先程までの弱々しさを感じさせない、自信に溢れた声で、男はゲーム開始を宣言した。



- - - - - -



武藤遊戯に出会うまで彼は、良い思い出など何ひとつ無かった。
貧弱な体格と弱気な性格で、いじめの標的になることが多かった。
古今東西のゲームを蒐集している実家の、秘密の部屋で、独りで遊んでいることが多かった。
逃避していることを意識しながらの独り遊びでは、面白さも半減だ。

彼の実家は闇の家系のひとつで、蒐集しているゲームの中には、いわくつきのものも幾つかあった。
そのうち“龍牌”と呼ばれるものが、彼の人生を―――結果的には良い方向へ―――変えていくことになる。

正式には“龍札”(ドラゴン・カード)と呼ばれる、闇のゲーム。
デュエルモンスターズと区別する意味で、“龍牌”(ドラゴン・ブロック)と呼ぶ人も多い。
基本的にはポーカーや麻雀のようなもので、同じ札(牌)を3つ揃えることで、龍を召喚する。

このゲームの封印を解いたことによって、彼もまた武藤遊戯と同じく、“闇の番人”の宿命を負うことになった。
見えるはずのないモノが見えるようになり、闇の風水師に操られた後には、武藤遊戯や獏良了と重なって、三千年前の亡霊の姿が、くっきりと見えるようになっていた。


平野白露と出会ったのは、大学生の頃。
吉森教授のゼミに、スラリとした清楚な女子が入ってきたときは、男子学生は総じて釘付けになった。
ただし彼だけは、白露の背後を見ていた。寒々しい闇の中に、仮面が浮かんでいた。

親しくなったのは、白露の方から声をかけてきたからだった。
彼女いわく「何か人と違うものを感じた」のだそうだが、それが“闇の番人”のことだったのかは謎のままになった。

それから友人へ、恋人へ、そして婚約者へ至った経緯は、詳しくは語らない。
彼の胸だけに収めておくべきことだろう。



- - - - - -



「ドラゴン・ブロックだと!? 貴様、闇の番人だったのか!」

ミスターTは、元の姿に戻っていた。
サングラスをかけた長身の男。
もっとも、これを本来の姿と呼ぶべきかどうかは微妙なところだが。

「フフ、ボクからプレイさせてもらうよ。」

ダークネスがしもべミスターTと、闇の番人がひとり井守はじめの、“ゲーム”が始まった。

しばらくは静かなもので、カタン、コトンと、互いに牌を引いて捨てる作業が繰り返される。
だが、静かなのは見かけだけだ。水面下では、複雑な駆け引きが行われている。

このゲームを複雑化させている要因は、3つ。
最後のひとつは言うまでもなく、バトルにおける駆け引きであるが、準備段階における2つのルールが、このゲームを単なる運任せのゲームにしていない。


「ふむ・・・私は、この牌を捨てよう。」

「それだ、龍(ロン)!」

しめたとばかりに、井守がミスターTの捨て牌を手牌に加える。
このゲームでは、相手の捨てた牌で役を作ることが出来るのだ。

「ボクは、《水龍レベル四》と、《金龍レベル三》を召喚する!」

ミスターTの方は、まだ役が完成していない。
このゲームでは、出来るだけ早く役を完成させた方が有利になる。何故なら・・・

「フフ・・・五行相生。金は水に力を与える・・・!」

水龍に金龍が力を与える。
ターンを重ねるごとに水龍はパワーアップしていき、手が付けられなくなるだろう。

だが、ミスターTは笑っていた。計算通りとばかりに。

「ふ・・・揃ったぞ、召龍! 私は《土龍レベル五》と《木龍レベル五》だ!」

ミスターTが召喚したのは、どちらも井守の龍を凌駕する大きさを誇っていた。
いかに金龍が水龍に力を与えるとはいえ、1ターンでは知れている。
しかも、水は木に力を与えてしまうのだ。

「これは・・・!」

「ふふ、気付いたかね? 私が水の牌を捨てたのは、わざとだ。それを使って、君は水龍を召喚してくれた。私の思い通りにね・・・ご苦労さん。」

「だが、五行相克! 金は木を打ち砕く・・・! 往け、金龍! 木龍を攻撃しろ!」

「甘い! こちらの土龍はレベル五だ、君の金龍より早いぞ・・・防御しろ!」

防御されては、レベル三とレベル五である。金龍の攻撃は通らない。
それどころか、反撃で金龍にヒビが入る始末だ。

更にミスターTは、木龍を水龍めがけて向かわせる。
水龍から力を吸い取った木龍は、レベル五を凌駕する巨大さを得て、水龍を破壊。



するはずだった。



「反生。」



はんしょう。
井守が呟いた不気味な言葉と同時に、水龍と木龍の大きさが、ひっくり返った。

「は・・・・・・?」

ミスターTが呆気に取られた間に、彼の木龍は大きなダメージを受けて大破した。

「はあ・・・・・・?」

理解できない。

サイズの大小が引っくり返っただけでも理解できないが、それよりも。

水が木に、ここまでダメージを与えるなど、本来なら絶対ありえない。

だが、通常ありえないことを可能にする異常、そんな現象をミスターTは知っている。
世界を創造した1枚のカードがダークネスの起源なのだから、死ぬほどよく知っている。



「反克。」



はんこく。
井守が唱えると同時に、既に彼の水龍は土龍めがけて流水撃を放っていた。
あふれ出る濁流は大地を飲み干し、溶かし崩した。

残るは木龍のみだが、濁流は勢い止まらず、大木をへし折り、流れの中に消した。


「く・・・デュエリスト能力・・・! 馬鹿な・・・!」


自らも濁流の中に沈んでいきながら、ミスターTは歯噛みした。
罅割れたサングラスが水中に没し、闇のゲームは終了した。


言うまでもないことだが、デュエルモンスターズは“トレーディングカードゲーム”という枠内に収まるものではなく、その本質は“遊戯を通じた契約”という抽象的概念にある。
三千年前のデュエルが、カードではなく石版で行われていたことや、カードゲームとしてのデュエルモンスターズにおいても複数のルールが存在していることからも、それは明らかだろう。
世界を創造した“始まりの1枚”も、カードというのは便宜的な捉え方であり、実際には“概念”とする方が適切だ。

概念としてのデュエルあるところ、当然ながらデュエリスト能力も存在しうる。
このミスターTが疑問に思ったのは―――それは没するまでの短い時間だが―――20歳を過ぎた井守が、何故デュエリスト能力を使えるのかということだった。


「・・・フフ、ボクの勝ちだ。」

吊りあがっていた双眼が、再び垂れ下がる。
かつて“龍牌”の封印が解かれたときから、あるいは更に以前からあったかもしれない、もうひとつの心。
理不尽に怒り、世界を憎む、もうひとりの自分。

闇の風水師が倒された後に、もうひとりの自分に芽生えた能力は、この日の勝利へと繋がった。




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2015/02/25 02:50

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
井守はじめ…。確か、遊戯王の初期に一度だけ登場した人で、教祖の真似事をして杏さんを眠らせてたっけ。最後は生贄を求める壺の中に封印されて生死不明だったと記憶しているけれども、誰かに助けられたんですね。牛尾さんといい、闇遊戯と関わった者達は性格がいい方向に変わっている気がする。城之内さんからしてそうだし。
井守さんもまた大切な者を守ろうと戦った者の一人か…。ダークネスは本当に色々な人の大切なものを奪ったんだ…。勝利はしたが、失踪した婚約者が帰ってくることは…。…いや、可能性はない訳じゃない…?
千花白龍
2015/02/28 21:34
>千花白龍さん
それ狐蔵乃と混ざってるーーー!?
初期のキャラは斜め方向に濃い人が多かったですね。
アニメでは井守くんも闇人格が生じていたり、ゲーム名がドラゴン・ブロックになっていたりします。闇人格の方だけ壺に封印されたという。
原作HPの「リアルタイムデュエル大会」と足して2で割ったような、パラレル設定としています。アニメで井守くんの家が、やたらと古めかしい大きな家だったことが、平野や闇坂の設定を作っています。
原作キャラの“その後”を描くのが好きな私ですが、何だか不遇な井守くん。彼には幸せになってほしいのですが・・・。
アッキー
2015/02/28 23:49

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