佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 決闘航海   Coffee Time 〜乾坤一擲! D・カッター!〜

<<   作成日時 : 2015/05/10 00:05   >>

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◆ ◆ ◆



浜百合氷澄の父親は、名の知れたゲームマスターだった。
M&W、デュエルモンスターズは当然のこと、ポーカー、ブラックジャック、セブンブリッジ、囲碁、将棋、麻雀、様々なゲームに通じていた。
若い頃に、短い間だが、ゲームキング武藤双六に師事していたこともあるという。

氷澄は父親から数多くのゲームを学び、世界中を旅する父親に連れられて、多くのものを見聞きした。
ゲームが強い父親が好きだった。優しい父親が好きだった。大きな背中の父親が好きだった。
大好きな父親と一緒に世界中を旅し、氷澄は幸せだった。

しかし1年半ほど前のこと。
リンネによる全世界デュエリスト能力者大会が行われ、氷澄は本戦へ進出。
2戦目にサン・レイティアに敗北し、目を覚ましたときにはタスクフォースに手当てを受けていた。

それっきり、父親の姿を見ていない。
浜百合王日(はまゆり・おうび)は、行方不明になってしまったのだ。

父の行方を追って、氷澄は翔武学園の吉井康助に辿り着いた。
もしかして父はリンネに挑み、敗北して闇に葬られたのではないかと、考えたのだ。
娘が謎の空間へ連れ去られて戻ってこないなら、父親は神にでも挑むだろう。

しかし、その推測は否定された。

「約束だからね。今までにデュエルに負けて、わたしの力で罰ゲームを受けていた人たちは、全員解放したよ。」

リンネは確かに、そう言ったという。

デュエルモンスターズの契約的性質は絶対だ。それこそ、大切な人の為なら世界を敵に回したり、神に挑むことさえ厭わなかったりするよりも、更に更に絶対的なものなのだ。
創造神たるリンネ自身ですら、決闘法則には逆らえない。自身が決闘法則そのものなのだから当然だ。

氷澄の見る限り、とても康助が嘘をついているようには思えなかった。
そして実際、彼の言うことは本当だった。


氷澄は、父親を探して今でも世界中を旅している。



◆ ◆ ◆



「ぁ・・・う。はぁ・・・・・」

午前1時半から仮眠を取った大河柾は、4時半に目を覚ました。
まだ夜も明けきらない空は、不気味な紫色をしている。

「まだ5時前かよ・・・。老人か?」

体力が衰えると、長く眠っていられずに、早起きになるという。
しかし逆に、深い睡眠(ノンレム睡眠)なら、3時間どころか1時間半でも事足りる場合もある。
当然ながら柾は後者だった。有り余る体力は、老いとは無縁に思えた。

その一方で、隈のある目をした親友は、船酔いで眠れずにグロッキー状態だった。
胃袋こそ闇の瘴気に喰われて消失しているものの、三半規管を揺さぶられているようだ。
これほど大きな船なら、揺れも少ないのだが、敏感な親友にとっては問題である。
低気圧が近付くだけで、頭痛と眩暈と吐き気を覚え、姿勢を崩すというのだから、相当なものだろう。

「お〜は〜よ〜う〜、マサキ。」
「おおう、無理すんな。コーヒー飲むか?」
「ありがと・・・。」

スタッフを読んで注文すると、数分でコーヒーとサンドイッチが到着した。ミルクも上等なものだ。

「豪華客船だけあって、ルームサービスは充実してるね。」
「ああ、高いカネ払っただけのことはあった。」

親友は少し回復したようで、口調に張りが出てきた。
内臓が無いからコーヒーを飲んでも関係ないと思いきや、内臓があった頃の感覚が再現されて、精神的に落ち着くのだという。

(やっぱ普通の人間だよな。)

“虚空の闇の瘴気”に内臓を侵蝕され尽くして、飲まず食わずでも生きていけるようになったと聞いたときは、流石にバケモノだと思わずにはいられなかったが、付き合ってみれば普通に見える。
虚空の闇に消えていくというだけで、食べること自体は出来るのだ。勿体無いから食べないだけで、食べようと思えば食べられる。(サンドイッチは食べなかったが)



- - - - - -



親友が眠りについたので、柾は部屋を出て朝の空気を吸いに出た。
不気味な空から吹いてくる風は、程よく冷たくて、熱気を落ち着かせてくれる。

5時ごろに船内へ戻り、散策を開始。
いつ何があるかわからないのだ、見取り図だけでなく、実際に足を運んで船内を把握しておく必要がある。

(この区画は、まだ行ったことが無かったな。)

ボウリングやビリヤードなどの施設が目に映った。
バッティングセンターもあり、体を動かす系のゲームが並んでいるようだ。

柾がビリヤード場に足を運ぶと、氷澄の姿があった。こちらに気付いてウインクしてきた。

「・・・!」

動揺して、思わず足が止まる。

(バッカ俺、何をドギマギしてんだ。)

しかし冷静になれないのは仕方ない。氷澄のキューを持つ姿は、人目を引く美しさがある。
正確無比なショットが次々と炸裂し、挑戦してきた男たちを打ち負かしていく。
強さと美しさの融合は、柾の最も好むところだ。

(・・・・・・。)

脳裏に邪竜の姿がよぎり、柾はゾクッと身を震わせた。

「・・・イイねぇ。」


しばらく氷澄のキュー捌きを見ていたが、挑戦者の中に、昨夜の酔漢がいた。
酔いは醒めてるようだが、しょぼくれ度に磨きがかかっており、気力の充実している氷澄と対照的だ。
当然ながら、そんな状態で勝てるはずもなく、見てるだけで哀れになってくるほど落ち込んでいた。

この船の性質を考えれば、スタッフに連れて行かれた後で海に放り投げられてもおかしくないと思っていたが、どうやら表向きには普通(?)のカジノで通すらしい。

中年男は、またしても氷澄に襲いかかろうとしたが、氷澄はキューで鳩尾と男の急所を突いた。

「おおっうおっくおっがこっかきっあ・・・・・・」

中年男は脂汗を流しながら、よろよろと壁にもたれて、ずるずると落ちた。

「お、おい、しっかりしろ。」

見てられなくなった柾は、中年男に声をかけた。
間近で見ると、いっそうくたびれた様相が目に入る。諦めの入った自信なさげな表情に、よれよれの服。
決して細くはないが、あまり食事をしてなさそうな体は、抱えてみれば驚くほどに軽かった。

医務室へ連れて行くと、中年男は俯きながら、涙を流していた。

「あんた、いい人だな・・・。うっ・・・く・・・」
「痛むのか?」
「いや・・・情けが目に染みて・・・。」

話を聞くと、元々ツキの無い人生を送っていた男は、ギャンブルに手を出して借金を背負い、妻子にも逃げられたという。行き着いた先が、この非合法カジノだが、ここでも借金を重ねるばかり。
正直それは自業自得ではないのかと思ったが、しかし同情の気持ちが湧いてくるのも確かだった。

柾は幼い頃に父親を亡くしたので、中年男性というものが、よくわからない。
最も身近にいたのは、鷹野麗子の父親、シルベスターだった。
まだ20年も生きてない自分には、想像もつかないような経験があるのだろうと思った。

ナイスミドルなシルベスターと、目の前の男では、だいぶ違うのだが、長く生きているというだけで一定の敬意を払うものだというのが、柾の感覚だった。
人格に敬意を払えなくても、人生に敬意を払うことは出来る。そこは親友と感覚が違う。

「借金が、もう1億もあるんだ! おしまいだ!」

百億の借金を抱えた少女を知ってるので、感覚が麻痺しそうだが、当然ながら1億の借金は尋常ではない。
庶民の感覚からすれば、その100分の1でさえ、胃に穴が開いてもおかしくない。
それが本人の責任であるにせよ、柾は助けてやりたいと思った。

(といっても、ポンと大金を出すのも何だかなぁ。)

デュエル・マネーを20億ポイント近く所持している柾からしてみれば、1億ポイント(≒1億円)を出すことは、物理的にも心理的にも不可能ではない。
しかし、年下からカネを恵まれて、プライドが傷つくのではないかと思ったのだ。
根底にあるのが、うだつのあがらない人生が嫌だという感情なら、恵まれるのではなく勝ち取りたいはずだ。

「・・・なあ、提案があるんだが。」



- - - - - -



その数分後、柾は再びビリヤード場に姿を現した。

「よぉ、勝ちまくってるじゃねぇか。流石だな。」
「それほどでも・・・ありますわ。」

氷澄は営業スマイルに戻っているが、ギャグを挟んできたあたり、あまり壁を感じない。
むしろ他の客の手前があるのに、ざっくばらんな口調だったら、かえって失望したかもしれないくらいだ。

(この笑顔は反則だぜ。)

笑顔というのは、人を惹きつける最大の要素だとか、耳にしたことがある。
どこか営業だけではない、心からの微笑みに思えるのは、術中に嵌まっているのだろうか。

(あー、やべぇ、マジになりそうだ。)

失恋の痛手を癒す特効薬は、新しい恋だという。
これが恋なのか欲望なのかは判断できなかったが、柾は頭の中まで火がついていた。

「マサキさんが勝負なさるのですか?」

クラクラしている間に、氷澄の方から勝負を持ちかけてきた。
自分から勝負しようと言い出すつもりだったので、渡りに船だ。(もう船内だが)

見れば、氷澄の目は挑戦的で、自信に溢れていた。
エクストリームデュエルで負けた雪辱を果たそうと思っているのだろう。
その自信が過信でないことは、キュー捌きを見ていて十分わかっている。

「そうだな・・・サシじゃ勝てそうにねぇし、2対2ってのはどうだ?」
「交互に打つということですわね。よろしいですわ。」

やはり柔らかい笑みが、美しくも可愛らしい。
とはいえ、目的を忘れる柾ではない。周囲を見回して、大きめの声で言った。

「というわけで、誰か俺とタッグを組まねえか?」

すると、先程の中年男が、おずおずとした顔で手を挙げた。

「よし、あんたと組もう。勝ち分は折半だ。」

これは打ち合わせ通りだった。
柾が呼んだら手を挙げるように、決めておいたのだ。

「あら、そんなツキの薄い人と組んで大丈夫なの?」

氷澄の仮面が剥がれ、口調も挑発的になる。
柾にとっては、そういう態度の方がやりやすい。

「あんたと勝負してた中では、マシな腕だったからな。」
「なるほど。それじゃ私は・・・」

今度は氷澄が周りを見回した。
スタッフのハスラーを呼んでもいいのだが、一方的なワンサイドゲームでは盛り上がらない。

・・・そのように氷澄が考えるのも、柾の計算のうちだった。

「お客様、おねが・・」

しかし、手を挙げた1人に氷澄が営業スマイルで話しかけようとしたとき。


「うおおおお、おれが相手だあああああ!!」


顔をパンパンに腫らした男が、駆け込んできた。


「・・・・・・誰?」
「おれを忘れたか!? “明るい顔の猫”オーダー・メニーだ!」
「生きてたのかよ!」
「死ぬところだったわ!」

とんと見かけないので、解雇されたと思っていた。
それを皮肉って言ったのだが、返ってきた返事に意表を突かれた。

「何だよ、船長に罰ゲームでも受けたのか? 31億も負けたんだもんな。」
「ぷごおおお、ゆるさなーい!」

スタッフである以上は、それなりの腕前なのだろうが、柾としては好都合だった。
計算は少し違ったが、むしろ他の客が加わるよりもいいかもしれない。

「あ、そうだ。オッサン、名前なんていうんだ?」
「平田だ、平田経成(ひらた・つねなり)・・・。」
「そっか、よろしくな平田さん。」

医務室の話で、既に名前は語られていたが、これも心理戦である。
話をスルーされたオーダー・メニーは、ますます冷静さを失った。

「おのれ、馬鹿にしおって! 罰ゲームのゴキブリを食ってパワーアップした“明るい顔の猫”の実力、とくと見るがいい! ぷごおおお!」



ビリヤードは、対戦相手と交互に、キューで手球(白球)を突いて、番号の付いている球に当てていくゲームだ。
手球を番号の若い順から当てていかなければならず、最初に当たる球が最も若い番号でないときはファール。
また、手球が番号の球に当たらないときもファールであるし、ポケットに落ちてもファールである。
もちろん、キューが手球以外の球に触れてもファール。手球が台から落ちてもファールだ。
このカジノでは、ファールに対する罰則が厳しく、1回のファールで掛け金の1割のペナルティ、3回のファールでゲームそのものに敗北となる。

ナインボールは、1番から9番までの球をダイヤモンド状に並べ、9番を落とした方が勝つというもの。
当然ながら手球を最初に当てるのは1番となる。

9番以外でも、ファールせずに番号の球を落とせたら、連続して打つことが出来る。
しかし、2対2で打つので、実質的に1人が連続して打つことは出来ない。チームとして連続して打てるだけだ。
柾は、それに加えて、自分と氷澄が打つ順番はチーム内で後にするという提案をして、氷澄もそれを呑んだ。



「1ゲームのミニマムが100万、MAXが1000万か。公式ルールと同じく、3ゲームにしようぜ。」
「さ、3ゲーム?」

柾の言葉に、経成は怪訝な顔をした。
あらかじめ打ち合わせておいたのは、協力をするところまで。後の展開は柾に任されている。

「悪りぃが、正直あんまり自信ねぇんだわ。無制限に続けて負けが込んだら、借金返すどころじゃねぇだろ。」
「あ、ああ・・・。」

その様子を見て、氷澄は首をかしげて笑う。

「あら、始める前から負ける気でいるのかしら?」
「おいおい氷澄ちゃん、これはアンタの為にも言ってんだぜ。勝ちが過ぎても、立場ねぇだろ?」

お互いに挑発的な口調。
柾と氷澄の間で、火花が散る。

「安心しろよ、3ゲームしかねぇんだ、のんびりミニマムでやろうって気は無ぇ。3ゲームとも上限いっぱい、1000万のゲームでいこうじゃねぇか。」
「それを聞いて安心したわ。だけど、そちらの方は、私に負けて残金が殆ど残ってないのではなかったかしら?」
「そうなのか?」
「は、はい・・・。」

そのことは既に聞いている。
柾は考えるフリをしてから、さも今に思いついたように言った。

「そうだなァ、負け分も折半にするなら、俺が貸してもいいぜ。どうする?」
「う・・・? ま、まさか、これは罠か!? オレを嵌めるつもりなのか!?」

どうやら経成は、柾がカジノとグルになっている可能性を考え始めたようだ。

「ああ、そ、そうだ、今までの負け分も嵌められたんだ! イカサマだ!」
「そう思うんなら辞退してもいいぜ。俺は別に構わねぇ。だが、借金を返せるアテはあんのかよ?」
「うっ・・・それは・・・・・」

経成は弱気な顔で肩をすぼめた。傍から見れば、詐欺の現場に見える。
しかし当然ながら、柾はディーラーとグルではない。

「早いとこゲーム済まして、じっくり朝メシ食いてぇし、えーと他の人・・・」
「ま、待て! やる! やるから!」

このあたりを打ち合わせしていなかったのは、わざとだ。
柾は経成の人柄を見て、細かい演技には向かないと踏み、アドリブに任せたのだ。

(さーて、ここまでは計算の範疇・・・。しっかし1000万ともなると、胃に悪いぜ。いや、1000円でも同じだな。)

祖母の教育のせいだろうか、たとえ端金であっても、柾は“金を賭ける”という行為そのものに、罪悪感を覚える。
それについて親友は、労働の尊さを知っている人なら当然だと言った。

高校を卒業してから柾は、安月給の非正規雇用(いわゆるアルバイト)で働き、労働現場で嫌な思いをしてきた。
その経験から、カネを稼ぐということの労苦を、少なくとも人並みには知っているつもりだ。

「ルールを確認しとくぜ。片方のチームだけが全ての番号球を入れきったら2倍返し、それが1ターンなら2倍でなく3倍。そして、最初のショットで9番が落ちたら5倍・・・だったな。」
「ええ、そうよ。もちろん、お互いに適用されるわ。」

再び火花を散らし、ゲームが始まった。
球をセットするのは、公正を期すべく、双夢現が名乗り出た。側には心配そうな顔の凜堂涼香もいる。

「よっ。」

柾は気さくな笑みを涼香に向けた。
とても、これから大金を賭けた勝負に興じる人間とは思えない。

「マサキさん・・・。」

涼香は青い顔を赤くして、少し落ち着いた。
長く伸ばした麦色の髪と、14歳とは思えない発育の良さに、あらためて柾は見惚れてしまう。

それを見て氷澄が、ムッとした顔で涼香を睨んだ。
しかし涼香がキョトンとしているので、ばつが悪そうな顔で氷澄は目を逸らした。


手球を突き合った結果、先攻はディーラーチーム。
オーダー・メニーがブレイクショットを放つ。

「うおりゃっ!!」

流石にカジノのスタッフだけのことはあり、ショットは様になっていた。
しかし運悪く、球は1つも落ちない。それどころか、チャンスボールだ。

「チャンスだぜ、平田さん。」
「お、おう!」

経成は、やや空回り気味の気合を入れて、キューを構える。

「はっ!」

打つときだけ、彼の纏う空気が変わった。
手球と1番は激突し、めまぐるしくボールがぶつかり合う。

「よし、8番がポケットインだぜ。続けて俺が打つ番だな・・・。」

ファールは免れそうだが、9番は落とせそうにない。
そこで柾は、再び他の球を落とすことにした。

「頑張って、マサキさん!」
「声援サンキュー。・・・っ!」

短く息を止めて、柾のパワーショットが炸裂した。
ガランゴロンと音が鳴り、5番が入る。

「平田さんの番だぜ。」
「ああ、任せとけ!」

先程までの自信なさげな様子はどこへやら、経成は楽しげにキューをクルクル回して構えた。

「はっ!」

「・・・これは、なるほどな。」

ポケットインこそしなかったものの、球の配置は相手に不利だった。
これではファールを免れることさえ難しいだろう。

「私の番ね。」

氷澄は動じずにキューを構えた。
彼女がショットを打つのは、このゲームで初めてになる。

(うーん、やっぱイイ体してやがるぜ。尻のラインたまんねー。)

勝負の最中だというのに、男の性だろうか・・・柾の視線はキューの先ではなく、彼女に肉体に行ってしまう。
それを見て今度は、涼香が面白くなさそうな顔をして、自分の胸と見比べていた。
発育が良いといっても、涼香は14歳。流石に氷澄には敵わないのだ。

「妬けるなあ。」

現が、言葉とは裏腹に、面白おかしいものを見る表情で呟いた。
ビリヤードが白熱している水面下で繰り広げられる、女の戦い。これほど面白いものは、そうそう見られない。

「―――」

氷澄の双眸から一瞬だけ輝きが消え、無音のショットが放たれた。
無論、物理的には音声が発生しているはずだが、その場にいた者は、音を認識しなかった。
それほどまでに美しいショットだった。

白球は曲線を描いて他の球を避け、見事に1番の球にヒット。そのままポケットイン。

「な・・・」

驚愕し蒼白になる経成の前で、オーダーが打ち、9番がポケットインとなった。
1ゲーム目は、ディーラーチームの勝利。1000万DMの負けである。

「い、インチキだ! イカサマだ! ボールが、あんな曲がるわけがない!」
「落ち着け平田さん、れっきとした技術だ。“ガラガラヘビ”(サイド・ワインダー)って、高等テクだよ。」
「サイドワインダー・・・?」
「滅多に見れねえ、まさに“必殺技”。俺も久しぶりに見たぜ。」

その言葉に、氷澄は嬉しそうな顔をしなかった。
理由は、すぐに明かされる。

2ゲーム目もディーラーチームが先攻を取り、氷澄のブレイクショット。

そこで奇跡のような技が飛び出す。



「ダイヤ・カッター!!」



手球が凄まじい速さで1番に当たり、そこから台の上でボールが弾け回る。
計算し尽くされた伝統芸能のように、予定調和のように、9番がポケットイン。


「“必殺技”というのは、こういう技のことを言うものよ。」


運や偶然ではない。
狙って9番を入れたのだ。

この一瞬だけで、実に5000万DMの負けである。

「ひぃいいい・・・・たすっ、たすけ、お金お金お金おっかね〜!」
「“ダイヤモンド・カッター”・・・マジかよ・・・・・。」

経成は狂乱し、柾も目を丸くしていた。

「D・カッターを使えるのが自分だけだとでも思ってたの? 甘いわよ。」

氷澄は妖艶な笑みを浮かべてキューを立てる。
柾は黙っていた。

「あ、あんたも打てるのか? それで、あんなに自信ありげに・・・・ああ、でも、もう終わりだ、おしまいだ!」

たとえ第3ゲームで5000万DMを得たとしても、第1ゲームの負け分1000万DMがのしかかる。
そもそも、先攻を取れなければブレイクインすら出来ない。

「仕方ねぇな・・・。ま、運が悪かったと思って諦めろ。」

その言葉が、誰に向けて言ったものなのかは、わからなかった。

ラストゲームは、柾が先攻を取ることが出来たが、場はシラけきっていた。
結末の見えすぎた勝負は、見ていて面白くない。周囲の客たちは熱が冷めている。
そして経成は、床に座り込んで、がっくりと俯いている。

「マサキさん・・・。」

涼香は柾のショットを見守っていた。


「悪いな、氷澄。」


「え?」


すぐさま、場は騒然となった。

台に残った球は、手球のみ。


「まさか・・・・そんな・・・・・・」


ガコンガコンと鳴り響いた後には、まっさらな虚無が残っていた。


「親友の名前と、勝利の女神にちなんで、“ディーヴァ・カッター”!!


ブレイクショットで9番を落とせば、5倍返し。
1ターンで全ての番号球を落としきれば、3倍返し。

この2つのルールは、排反事象ではない。

すなわち15倍、1億5000万DMが手に入り、6000万の負け分をチャラにして9000万DMを獲得である。


「あ・・・・・あ・・・・・・ああ・・・・・・」

経成は涙を流して喜んだ。
絶望の後に差し伸べられる希望。それは、どれほど幸福なことだろう。

「約束通り、折半だ。4500万DMずつだな。」
「ありがとう・・・・ううっ、ありがとう・・・・・疑ってすまなかった・・・・・すまなかったぁ・・・・!」

経成は泣きながら何度も礼を述べて、柾の腕を硬く握り締めた。

(出来れば、借金がチャラになるとこまで勝ちたかったが・・・ま、そいつは高望みしすぎか。)

周囲の客たちは、決定的瞬間を見逃した者が多く、悔しがっていた。
もっとも、柾とて今の技は続けて出来るものではない。

「そんな木偶の棒にも情けをかけるなんて、甘いのね。あなたなら1人でも勝てたでしょう?」
「んなわけねーだろ、俺を買い被りすぎだ。“ディーヴァ・カッター”はシンヤのおかげで出来た技なんだ。」
「シンヤ? 竜堂神邪のこと?」
「ああ。俺の頭には、シンヤの演算能力を一部、移植してもらってんだよ。ようやく馴染んできたってわけだ。」
「移植・・・それは、デュエリスト能力で?」
「そうだ。便利な能力だよな。」

言葉だけ聞けば物騒にも思えるが、実際は学校の勉強の延長に過ぎない。
神邪は柾に数学を教え、その効果をデュエリスト能力で増幅。それにより、ビリヤードの球を、どこを、どれだけの強さで突けばいいかを、計算することが出来たのだ。

しかし当然ながら、頭にコンピューターが入っているわけでもなければ、パラサイト・マインドでもない。
馴染むの時間がかかるのはもちろんのこと、演算で精神力を消耗し、正直この一撃だけで、くたくただ。
ホカホカに焼けたパンに、甘いジャムをべったり塗りたくって、食べたかった。

「つーわけで俺は、朝メシ食いにいっとくわ。じゃあな。」

痺れた手を振りながら、柾は去っていった。

「待って、最後にひとつ言わせて。」
「ん、何だ?」

次の瞬間、氷澄の口から衝撃の事実が飛び出した。



「“ディーヴァ・カッター”だと、文法的には勝利の女神がカットされるわよ?」



「何・・・・・・だと・・・・・・!?」

カッコよく去っていこうとした柾は、焦り顔で振り向いた。
そして、親友のところへ一目散で駆けていった。





「シンヤぁあああ! 何で言ってくれなかったんだよ!?」

「そんなの、黙ってた方が面白そうだからに決まってるじゃないか。」
(あァ、見城さんをリスペクトしてるのかと思ってたんだ。他意は無い。)

「おい、本音と建前が逆だぞ。」

柾はジト目で神邪を見つめた。

「しかしちょっと待ってほしい。、浜百合氷澄を勝利の女神だと思えば、あながち間違いでもないんじゃないかな。」
「よーし、いい度胸だ。」

ドヤ顔で腕を組む神邪を、柾が背後から羽交い絞めにする。

「あっ・・・」

ふにゅっと、柔らかい感触が柾の腕に。

「・・・え?」

柾はギョッとして真顔になる。

「ああ、豊胸パッド入れてたの忘れてた。」
「何でンなもん入れてんだよ!」
「あー、これには深くない理由があって。」

びっくりした柾が、心臓を押さえながらツッコミを入れる傍ら、神邪がパッドを取り出していた。
ウォーターボインというやつだ。感触も本物そっくりだという。
ただでさえ女顔の神邪に、豊かな胸まで付いていたら、本当に女にしか見えない。

「ほら、黎川師匠が、豊胸パッド1年分を手に入れたことがあっただろ?」
「それと何の関係があるんだよ!」
「あんまり掘り下げたくはないんだけど・・・。」
「・・・ああ、そうか。わからんが、わかった。」

柾と神邪のデュエルの師匠、黎川零奈は、自分の胸が小さいことに激しいコンプレックスを抱いている。
それは、貧乳と呼ばれたら凶悪デッキで相手を叩きのめし、果てにはロケットランチャーまでぶっ放す程だ。

この世で最も敵に回したくないデュエリスト、柾にとってのそれが、黎川零奈である。
触らぬ神に祟りなし。零奈と胸の話が揃ったとき、掘り下げるのは危険だ。

(ふぅ、何とか誤魔化せたか。)

実のところ、柾の味わった感触は本物であった。
胸を揉まれた瞬間、神邪は慌てて時間停止し、肉体を女から男へ変更。デュエリスト能力“シフトワン”で次元をシフトすることで、柾のアームロックから抜け出し、船を脱出。
時間を停止した海面を歩き続けること(神邪の感覚で)1週間、ウォーターボインの売っている店に到着。代金を支払って品物を拝借し、同じだけ時間をかけて船へ戻り、柾の腕の中へ収まって、時間停止を解いたのだ。

かように、ビリヤードから豊胸まで、デュエルと無関係なものは無いのである。



◆ ◆ ◆



●Gカード
難易度:★
ディーラー:明るい顔の猫(オーダー・メニー)

●ワン・デュエル
難易度:★★
ディーラー:剣呑な胡蝶(双夢現)

●EXデュエル
難易度:★★★
ディーラー:死を運ぶ鳥(浜百合氷澄)

◎Qカード
難易度:★★★
ディーラー:死を運ぶ鳥(浜百合氷澄)

◎???

◎???

◎???


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
火剣「浜百合氷澄か。イイ女だな」
コング「笑顔を剥がしたい? 服を剥がすより心を剥がせか。深い」
火剣「処女には見えないが、身近に接したマサキの直感だからそうなのかもしれねえ」
コング「生娘かどうかが問題ではない。大事なことは清らかヒロインというイメージだ」
ゴリーレッド「負けたほうが一杯奢る?」
コング「何を言うとんねるぞ」
火剣「焦らない」
コング「お、本当は別のものを賭けたいか。それでこそ男よ」
火剣「情欲は仕方ない。イイ女は皆罪人だ」
コング「何でもひとつ言うことを聞く! 出た! 八武ロマン、八武ポリシー」
ゴリーレッド「ドウドウ」
火剣「全然月並みじゃねえ。マサキ。さてはデキルな。親友の神邪と同等レベルか」
コング「あり得る」
ゴリーレッド「詰めデュエルか」
コング「■の伏字は何だろう?」
火剣「氷澄の焦り顔はそそる。演技かマジか」
コング「サディスティック・マサキ」
火剣「悔しそうに唇を噛む美女は絵になる」
コング「目が覚めた時に手当て。やられちゃったのか?」
ゴリーレッド「やの漢字によっては病院直行だ」
コング「待て」
ゴリーレッド「大好きな父親を探す旅か」
火剣「ちなみに神邪は普通の人間ではない」
コング「強さと美しさの融合か。凄くわかる。僕も強い子好き」
火剣「美女の笑顔は魔法。これは仕方ない」
コング「恋と欲望の違い。またこの重要テーマが出てきたぞ」
ゴリーレッド「800文字超えそうだ」
火剣獣三郎
2015/05/10 18:41
>火剣さん
何だかんだで女好きのマサキ、浜百合氷澄にクラッときています。
神邪の親友を務めるだけあって、どこか“月並み”の感覚も麻痺しているかもしれない・・・?

八武「ううむ、いいぞ、実にイイ女だ。犯したい。」
山田「孔雀舞は、カジノのディーラーをしていて人間嫌いになったと聞いているが、こういう下心丸出しの男が多かったわけだ。」
佐久間「いや、本質はカネをチラつかせて寄ってくるという点であって、情欲は付随したものに過ぎない。」
維澄「まあ、情欲というなら城之内も決して枠から外れてはいないからね。それ以外の面、カネではなく、心意気が琴線に触れた。」
八武「孔雀舞も案外、処女だったりして。」
佐久間「ありえるから困る。」
八武「別に困らない。私としては、過去に男で酷い目に遭ったシチュエーションが好みだったりするがね。」
佐久間「男で酷い目か。私は現在進行形で男から暴力を受けている。」
山田「そこだけ聞くと印象操作されるが、自分の非道を言わないのはアンフェアだぞ。」
佐久間「アンフェア・ゲーム!」
八武「わからんかった。」
山田「すぐにわかった。」
佐久間「これがデュエリストレベルの違いだ。ただしマサキは、作る方はサッパリだがな。」
山田「それは俺もだ。」
アッキー
2015/05/10 20:48

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決闘航海   Coffee Time 〜乾坤一擲! D・カッター!〜 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
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