佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS Under the rose   (前編)

<<   作成日時 : 2015/09/07 00:00   >>

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◆ ◆ ◆



直訳:薔薇の下

意訳:秘密の、内緒で



◆ ◆ ◆



マキアは、長い黒髪を広げて、均整の取れた裸身を顕わにしていた。
全身でセックスアピールを訴えるような体をしていながら、恥じらいのある清楚な表情。
うっとりとした表情で、学校一の美少女が男を見つめている。
いつもは気の強い彼女が、好きな男の前では可愛い女の子だ。
男の屹立したものを、驚きと戸惑いを含みながら、おずおずと見るのが可愛らしく、男はマキアを抱きしめる。
まだ誰も冒したことのない未踏の地へ、男は喜びと共に踏み込む。

『あああっ!』

痛みでマキアの顔が歪むが、その表情には既に性的な快楽の兆候が見えており、意中の男と結ばれた喜びに満ちて、すぐにでも笑顔を作ろうと頑張っていた。

『愛してるよ、マキア。』



- - - - - -



・・・以上、斉賀滴郎(さいが・てきろう)の夢である。

素敵な初体験を夢見るのは、女子の専売特許ではない。
滴郎は良い夢の余韻で、うきうきしながら学校へ向かった。
彼の意中の人であるマキアは、既に学校に来ていて、テニス部の朝練を頑張っていた。

(テニスウェアってのは、何でこんなにエロいんだろうな。ありがとう!)

誰にともなく感謝を述べて、滴郎はニヤニヤしながら歩いていった。
教室で友人と会って、機嫌の良い理由を尋ねられると、滴郎は今朝の夢のことを話した。

「もうこれって運命じゃん?」
「まーたまた、斉賀が釣り合うわけねえじゃん。」
「・・・っ!」

そう言われて、夢の余韻から醒めてしまう。
滴郎は現実を実感し、溜息をついて机に頭を預けた。
もう少し夢を見させてくれと思うが、友人の言うことは正しい。正しすぎて残酷だ。

名刀万金亞(なとう・まきあ)は、天に愛されたような少女だ。
資産家の娘として生まれ、すれ違う誰もが振り返るような美少女で、成績も優秀、性格も穏やかで優しい。
しかし八方美人ではなく、筋の通らないことに関しては真っ向から立ち向かう、厳しさも持っている。
居合いドローの達人でもある彼女が、デュエルで体操着泥棒を捕まえたのは、語り草になっているが、それも彼女の数ある逸話の1つでしかない。

それに比べて、斉賀滴郎は、庶民の生まれで容姿は平凡。成績は並みで、運動も得意ではない。
性格にしたって、教室で友人とエロ話をして女子から嫌な顔をされるような、普通の男子だ。
マキアとは彼我の距離感38万キロの、月とスッポン。
デュエルモンスターズでいえば、《サイガー》のような存在。

サイガー レベル3 地属性・獣族
攻撃力1200 守備力600
守備は見た目ほど高くないが、ツノによる攻撃は強力だ。


「ちょっとは夢見させてくれよ・・・。」

友人に文句を言うが、しかし本気で怒っているわけではない。
自分の凡庸さは、自分が一番わかっている。

「ははは、しょげんなって。ほら、今月のグラビアすっげーぞ。」
「おおっ、おっぱいでっけー!」

夢で見たマキアの胸も大きかったと思い返し、滴郎は興奮した。
この友人も悪気は無いし、よく写真集やAVを貸してくれるのだ。皮肉でなく、いい友達を持っていると思う。

滴郎にとって、マキアは高嶺の花。自分には手が届かない存在。
きっと、金持ちでハンサムでスポーツ万能で、真面目な努力家と結婚するのだろう。

(そんな男でないと、マキアには釣り合わない・・・!)

とても尊敬できないような、くだらない男が近付いてきたら、そのときはナイトの役目を担う覚悟はあった。
プリンスにはなれなくても、ナイトにはなれる。それが滴郎のモットーだったのだ。



◆ ◆ ◆



帰り道、マキアは物憂げな顔をして歩いていた。
それというのも、父親が婚約者を紹介してきたことで、ただでさえ憂鬱な日が重くなっているのだ。

ハンサムな青年実業家で、年齢は一回り離れた30歳。丁寧な物腰で、謙虚な態度。いい人だと思う。
高校を卒業したら結婚してほしいと言われ、戸惑っているところだ。
父親がいたく気に入ってしまって、断れそうもない雰囲気。

(いい人だとは思うけど・・・。)

やや年齢が離れているのが気になることを除けば、申し分ない相手だろう。
条件で選ぶのならば、願ってもない男性だ。
同級生の男子のような、下品で子供っぽいところが無いのも、魅力的だと思う。

(情熱的な恋をしたいなんて思うのは、わたくし贅沢なのかしら?)

幼い頃からロマンス小説や少女マンガを読んでいて、熱烈な恋に憧れていた。
しかし同世代の男子は幼稚に見えて、やっぱり現実とフィクションは違うのかと思う。

少女マンガに出てくるような男なんて、現実にいるわけない―――・・・


―――そう、思っていた。



- - - - - -



「人間は可能なことだけ想像する」という言葉があるが、想像したことは、どれだけ現実になるのだろうか。
マキアは自分のピンチに助けてくれる男性を想像して、胸を熱くしていたが、しかし実際ピンチになったときは、自分の力で乗り切ってきた。

かつて武藤遊戯が、カードプロフェッサーのシーダー・ミールを、一瞬で撃破したことを覚えているだろうか。
これは“居合いドロー”と呼ばれる技術であり、海馬瀬人がペガサス相手に行っていた、「手札を全て捨ててデッキトップのカードを攻撃表示で場に出す」というのも、これに通じる。

極めてキレとコクのあるドローによって発生したフィールは、雑魚デュエリストなら数人まとめて薙ぎ払ってしまえるほどの威力があり、マキアが倒したチンピラの中には、あまりの衝撃で改心する者が後を絶たない。

後に実装されるライディングデュエルでは、フィールによって空を自在に飛翔したり、闇に堕ちた心さえも元通りにすることが可能になっていた。デュエルの進化は、人の心の進化でもあるのだ。


だが、この時代このとき、マキアは窮地に陥っていた。

「・・・っ、居合いドローが通用しない!?」

周りを囲んでいる者たちは、フィールによって相応のダメージを受けていたが、リーダーらしき細身の青年は、周囲の薄いバリアのようなものを張っていて、フィールを防いでいる。

「おやおや、その程度の居合いドローなど、珍しい技術ではありませんよ。わたしは“カンサー”A級46席、“限定”のスピネル。」
「“カンサー”!? あの闇のデュエル組織の・・・!」

逃れられない闇が迫る。
マキアはデュエルディスクを展開し、唇を結んでデュエルに応じた。

「「デュエル!」」

名刀万金亞:LP8000
スピネル:LP8000


「わたくしの先攻、ドロー! デュエリスト能力を発動します!」

マキアのレベル3能力は、先攻を取ることで有利だ。


“斬り捨て御免”(ドロップレイピア) レベル3能力 (所有者:名刀万金亞)
自分のメインフェイズに1度、カード名を1つ宣言して発動する。
相手の手札の枚数だけ、自分のデッキからカードを墓地に送り、その中に宣言したカード名があれば、相手の手札を全て捨てて、その枚数×300ポイントのダメージを与える。



「わたくしは《星見鳥ラリス》を宣言し、5枚のカードを墓地へ送ります!」

1枚目《ハーピィ・レディ》、2枚目《幻のグリフォン》、3枚目《バード・フェイス》、4枚目《ハーピィ・クイーン》・・・
そして5枚目が、《星見鳥ラリス》だった。


スピネルの手札は全て墓地へ捨てられた。


名刀万金亞:LP8000、手札5
場:
場:

スピネル:LP8000、手札0
場:魔轟神ルリー、魔轟神ルリー、魔轟神獣ケルベラル
場:



「魔轟神・・・!」

捨てられたときに効果を発揮する、暗黒界に似たシリーズ。
暗黒界よりもステータスで劣る分、コストで捨てられても効果を発動するのが強みだ。

しかしそれよりも、ライフが減っていないことが気になる。
デュエリスト能力だろうか?


―――その答えは、YES!


“無敵結界”(スリーターンズ) レベル3能力 (所有者:スピネル)
自分のターンで3ターン目のエンドフェイズまで、自分のライフポイントは減少せず、敗北しない。



だが、沈黙するスピネルは能力の詳細を明かさない。
マキアは動揺を抑えられないままプレイングを続け・・・



- - - - - -



「おやおや、おしまいです。《魔轟神レヴュアタン》でダイレクトアタック!」

「きゃああああっ!!」


名刀万金亞:LP0


「何をボーっとしているのです、皆さん。早く彼女を捕まえなさい。」

スピネルの指示で、部下たちがマキアを囲む。
闇のデュエルで負けたことで、思うように体が動かない。

「助けてえっ!!」

「あまり乱暴してはいけませんよ。傷物にしたら価値が下がりますからね。」

スピネルは丁寧な口調で指示を出す。
それがかえって恐ろしかった。

(こんなこと思ってない! 考えてない!)

ピンチに都合よく駆けつけてくれるヒーローなんていない。
それを知っているからこそ、現実でピンチなど望まない。

「やめ、て・・・!」

すっかり弱気になったマキアは、男たちに両手を掴まれながら哀願する。
それを見てスピネルは満足そうに頷いた。

「おやおや、その反応・・・どうやら処女のようです。ギャシュリーを釣る餌としては上々。」
「・・・っ!」

ギャシュリーが誰だか知らないが、女を何だと思っているのか。
男性経験が無いことを、“価値”でしか測れない思考。男の思考。
マキアは身震いし、恐怖と嫌悪で青ざめた。



「大勢で女囲んで、何やってんだてめえら?」



青ざめた・・・顔が一瞬にして元に戻った。
マキアは声のした方を向いて、そこに1人の少年が立っているのを確認した。

西虎(さいこ)高校の大河マサキ。
その野生的な顔立ちや、逞しい体つき、そして何より虎のような目が印象的だった。

不良ではあるのだが、根っからの不良というわけではないらしく、ごく最近まで真面目な生徒だったらしい。
あの全世界デュエリスト能力者大会の後から、様子がおかしくなったそうだ。
予選で敗退したマキアは、本戦で何かあったのかと思っていた。


「大河マサキ!? 囲め、皆さん!」

総勢20人ほどが、一斉にデュエルディスクを展開する。
それを見ても、マサキは竦むどころか、呆れたように溜息をついた。

「ああ、駄目だな。雑魚のパターンだぜ。」

確かに、群れるのは雑魚と相場が決まっている。
しかしデュエルにおいて、数は暴力だ。1対1の万倍ほどの難易度で――・・・


―――などと計算している間に、マサキは《時の飛躍》を使ったループ攻撃で、スピネルたちを一掃していた。


「ひとりの人間は弱く、集団になるほど強いって話があるよな。別に間違っちゃいねえと思うぜ?」

デュエルディスクを畳みながら、マサキは不敵な笑みを浮かべる。

「1人より2人、5人より10人、数の有利は揺るがねえ・・・だがな、群れるほど、ひとりひとりの力は弱くなるって知ってたか? ただでさえ弱い奴が群れて、俺相手にどうにかなるとでも思ったのかよぉ!?」

「おやおや・・・わたしとしたことが、実力を見誤っていましたね。」

スピネルは捨て台詞を残して、部下を置いたまま逃げ去った。
マサキは後を追おうとして、しかしマキアを見て思い留まった。

「送ろうか。」
「け、結構よ!」

後になって、どうして突っ張ってしまったのかと、マキアは思い悩むことになる。



◆ ◆ ◆



そろそろ秋も終わる頃、マサキはJ’sという喫茶店にいた。
卑猥な落書きの多い喫茶店で、タチの悪い不良の溜まり場になっているところだ。

「あんっ、ああっ! いいっ・・・イっちゃうよ! マサキ・・・好きぃ・・・!」

茶髪をカールさせた少女が、マサキに跨って腰を振っていた。その表情は恍惚としている。
デュエルに勝てば恋人になってくれるという約束で、負けたら自分の体を好きにしていいという、少女にとっては勝っても負けても得しかない勝負だった。

「いいなー、マサキさん。デュエルが強いと女もよりどりみどりだぜ。へへっ。」
「カッコイイからなー。おれが女だったら抱かれてえ。」
「おまえが女になってもマサキさんの方からお断りだろ。」
「ひゃっはっは、爆乳美少女になる予定だし!」

不良たちの感情には、羨望はあっても嫉妬は見られない。
“おとなPTA”の圧力などから、自分たちを助けてくれたのは誰なのか、わかっているのだ。

大人たちは、「子供を守るため」と称して、子供たちから遊びの時間を奪った。
放課後に居残って遊んだり、道草したり、秘密基地を作ったり・・・そうした光景が見られなくなった。
不審者がうろついていて危ないからと、二言目にはそれだ。

子供にとって恐いのは、同じ子供からの迫害や、親からの暴力だ。
ニュースになる程度には“不審者”による事件も多いのだろうが、それより圧倒的に多い暴力を放置しているのは何故なのだろう。子供を守れていないではないか。

そして、守られなかった子供は、体が大きくなり、いつしか“不審者”としてのレッテルを貼られる。
警察は楽しそうに、本当に楽しそうに、“非行少年”たちに暴行を加えた。
ある少女は、連行された先の警察署で、輪姦されたという・・・。

マサキは単身で大人たちに立ち向かい、デュエルを駆使し、時には暴力も使い、弾圧を逆に潰していった。
そして程よいところで、牛尾という警官に話をつけて、不可侵条約に近いものを結んだのだ。
牛尾にとっても、セキュリティの膿を一掃する機会であり、マサキと協力して事態を収拾していった。
少女を輪姦した警官は、全員サテライトへ送られた・・・その前にマサキに半殺しにされたのは言うまでもないが。

不良たちの間で、マサキは伝説と化しており、男女ともに人気があった。
口先ばかりの大人たちなど尊敬しない。自分たちの為に動いてくれる者にこそ、人は心を動かされるのだ。


しかし、マサキを敵視しない少年少女が皆無であるかといえば、そうではない。
皆無でないというレベルではなく、味方と同じくらい敵も多い。
マキアも敵対する1人であり、不良たちのリーダーであるマサキを、何かと敵視していた。

実際には、マサキは不良のリーダーというわけではなく、誰かとタッグを組むことさえ頑なに断っていた。
リーダーであるという誤解こそ氷解しないものの、デュエルで助けられたときから、マキアの態度は変わった。
相変わらず敵対関係にはあるものの、どこかマサキを気遣っているような物言いになってきたのである。

それが面白くないのが、斉賀滴郎である。

マキアを好きな滴郎は、彼女の変化を敏感に察知して、一歩間違えればストーカーまがいの追跡を行った。
繁華街にて、マサキと敵対する姿を見ていた滴郎は、わかってしまったのだ。

(マキアは、あんな不良に・・・?)

友人に声をかけてきた不良たちを、マキアが居合いドローで薙ぎ払い、そこにマサキが出てきて話をする。

「居場所を無くした奴らを、一方的な暴力で薙ぎ倒すたあ、見過ごすわけにはいかねえな!」
「何が居場所よ、甘えないで!」
「甘え? 能力が通じねえくらいでオタオタしていた甘チャンは、誰だったっけな?」
「・・・っ、あのときは・・・助かったわ。」
「礼なんていらねえよ。お前なんか、助けなきゃ良かったと思ってるぜ。」

その言葉にマキアが一瞬、悲しそうな表情になったのを、滴郎は見逃さなかった。
いや、その前に気付いていた。普段は上品で優しい彼女が、ここまで激昂する相手。
自分相手に、ここまで本気の感情を剥き出しにしてくれるだろうか。

「・・・とにかく、学校に戻りなさい。大河くんのことを心配している人が、いるんだから。」

その言葉に今度は、マサキが心臓を貫かれたような顔になった。
引きつった笑みを浮かべながら、マサキは掠れたような声で言った。

「・・・・・・もう、いねえよ。」

幼い頃に両親を亡くしたマサキが、たったひとりの身内である祖母を、全世界デュエリスト能力者大会の最終日に亡くしたと知ったのは、それから程なくしてのことだった。






   後編へ続く・・・

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2015/09/13 00:09

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