佐久間闇子と奇妙な世界

アクセスカウンタ

zoom RSS Under the rose   (後編)

<<   作成日時 : 2015/09/07 00:05   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 1 / コメント 0

◆ ◆ ◆



「というわけで、ノヴァ・クリア。大河マサキの抹殺を命じる。」

アジトへ戻ったスピネルは、すぐに任務達成率100パーセントの暗殺者を呼び出した。
胡散臭い笑顔の少年は、招集に応じて参上し、告げた。

「お断りします。」
「!?」

スピネルの知る限り、ノヴァ・クリアが依頼を選り好みしたという話は無い。
孕んだ愛人を始末しろとか、不細工だから殺せとか、金持ちだからとか、そんな理由でも。
老人でも、幼い子供でも、残り少ない命の病人でも、ターゲットが誰であろうと。
ノヴァ・クリアは嫌な顔ひとつせずに、引き受け、そして確実に遂行してきたのだ。

「・・・おやおや、任務達成率100パーセントが、君の取り得ではなかったのですか?」
「どっちみち僕は、大河マサキには勝てませんから、同じことですよ。」
「A級零席の君が勝てないのか!?」
「勝てませんね。ノーマルデュエルならともかく、殺し合いの席で僕が彼に勝つのは無理です。」
「そこまで強い相手なのか・・・。おやおや、S級の管轄か。」
「・・・・・・。」

実際には、心理的な意味で無理だということなのだが、強いのは確かだ。町の不良レベルを遥かに超えている。
しかしこれは、どうやら自分が個人的に出向かなければならないようだと、ノヴァ・クリアは思った。



◆ ◆ ◆



斉賀滴郎の心は、嫉妬の炎で燃えていた。
好きな女が、不良なんかに惚れているのは、許せなかった。

これが、とても自分は敵わない、優れた男だというならわかる。
文武両道でハンサムで、真面目で将来性があって、マキアを大事にする男なら、諦めもついた。

しかし、女をとっかえひっかえしているような不良で、家も貧乏だという。
女を幸せにするには最低限のカネは必要だと、よく母親から言い聞かされてきたものだが、それ以前の問題だ。

(マキア以外の女に手を出してるような奴が、マキアを弄ぶなんて許せない!)

男も女も、生涯ただひとりの相手と体を重ねるべきだと、滴郎は考えている。
それに反する生き方をしている人間を軽蔑している。
他の女と体を重ねた男に、マキアの清らかな体を蹂躙されると思うと、殺意で顔つきまで変わりそうだ。


滴郎は普通の男子であり、人並みに臆病だが、人並み外れて臆病でもない。
それは無謀とも言えたのだが、J’sに乗り込んだのだ。



- - - - - -



「マサキさーん、変な奴つかまえましたけど・・・。」
「あん?」

制服姿の少女を膝から下ろし、マサキは怪訝な顔で席を立った。
わざわざ自分を指名するということは、以前に物陰から自分たちの様子を窺っていた少年だろうか・・・?

「・・・当たりか。都蘭布高校の斉賀。」

また“おとなPTA”が仕掛けてきたのかと思ったマサキは、先手を打って相手を調べ上げた。
斉賀滴郎は、取り立てて特徴の無い生徒だが、その地味さはスパイとしては優秀たりうる。

「え、こいつ、トランプ高校の奴なんすか?」
「こんな奴いた?」
「さあ・・・。」

不良たちが口々に言う中、滴郎はマサキを睨み続けていた。

「おれとデュエルで勝負しろ!」
「いいぜ。」

たとえスパイだとしても、挑まれたデュエルを断る理由は無い。
マサキは即座にデュエルディスクを展開した。

「おいおい大丈夫か?」
「あいつマサキさんの実力知んねーんだ。」
「逆に新鮮じゃね。最近マサキさんにデュエル挑む奴いねーし。」


「「デュエル!」」


大河マサキ:LP8000
斉賀滴郎:LP8000



「先攻は俺だな、ドロー。《不意打ち又佐》を召喚し、カードを1枚伏せてターンエンドだ。」

「おれのターン、ドロー! 《イグザリオン・ユニバース》を召喚し、デュエリスト能力発動!」

《イグザリオン・ユニバース》 (攻1800→2200)

「突進攻撃だ!」

「・・・・・・。」

伏せカードを開くと思ったが、マサキは微動だにせず攻撃を受けた。
《不意打ち又佐》が破壊され、マサキのライフが減少する。

大河マサキ:LP8000→7100

「カードを1枚伏せて、ターン終了。《イグザリオン・ユニバース》の攻撃力も元に戻る。」

滴郎のデュエリスト能力は、自分のターンに1度、自分の攻撃表示モンスターの攻撃力を、エンドフェイズまで400ポイントアップさせるというものだ。
効果だけ見れば《突進》の下位互換であるが、カード消費は無い。レベル1としては使いやすい能力だった。

「俺のターン、ドロー。《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚し、伏せカード《リビングデッドの呼び声》で《不意打ち又佐》を特殊召喚。更に《魔導戦士ブレイカー》を召喚。その伏せカードを破壊する。」

「・・・っ、チェーンして《収縮》を、《不意打ち又佐》に発動する!」

《不意打ち又佐》 (攻1300→650)

「やっぱ《収縮》だったか。《団結の力》を《不意打ち又佐》に装備して、攻撃。」

「・・・!」

《不意打ち又佐》の攻撃力は3050まで上昇し、《イグザリオン・ユニバース》を軽く蹴散らす。

斉賀滴郎:LP8000→6750

そして2回目の攻撃。

斉賀滴郎:LP6750→3700

ブレイカーの攻撃。

斉賀滴郎:LP3700→2100

《サイバー・ドラゴン》の攻撃。

斉賀滴郎:LP2100→0


「・・・っ、こんな・・・」

滴郎は、眩暈がしそうだった。
ここまで実力の差があったとは。


「おー、流石マサキさん。でも何で蘇生を先にやったんすか?」
「あ、それオレも気になってた。手加減?」

「ああ、2ターン目に《イグザリオン・ユニバース》の攻撃力を上げてただろ。ダメージ400を増やすだけの為に、情報アドバンテージを損なう真似なんかしねえよな?」

「えっと・・・つまり、どういうことっすか?」

「要するに、俺の伏せカードが《突進》か《収縮》だと踏んでたんだろう。攻撃力の低い又佐を、そうしたカードでサポートするのは自然なことだしな。」

「あ、そっかあ。《突進》だとしても200足りねーし、《収縮》でも相打ちに持ち込める。」

「そう考えるとしたら、斉賀はコンバットトリックを主体とするデュエリストなんだろうと推測した。だったら伏せてあるのは同じく《突進》か《収縮》の可能性が高い。そこから逆算して、ライフダメージ8000になるように展開した。」

解説してからマサキは、はにかんだような笑みを浮かべた。

「ま、ミラーフォースや《激流葬》だった場合は、俺が間抜けってだけだがな。」



- - - - - -



完膚なきまでに敗北し、それでも滴郎は納得していなかった。マキアに相応しい相手だとは思えなかった。
マサキに情けをかけられて、あの場を見逃してもらったのが、いっそう屈辱だった。

(学校サボって遊んでるから、デュエルが強いんだ。決まってる。)

自分が真面目に勉強している間に、カードゲームに興じて腕を磨いている。
そんなのは不公平だと、滴郎は思わずにはいられなかった。

(どれだけデュエルが強くたって、他の女とイチャイチャしてるような奴は、マキアに相応しくない!)

いてもたってもいられなかった。
ついに滴郎は決心した。

(あんな奴に奪われるくらいなら、おれがマキアと結婚する!)

次の日、滴郎は盛り上がった気持ちのままに、マキアに告白するつもりでいた。
しかし彼の思惑とは裏腹に、その日、マキアは学校を休んでいた。



◆ ◆ ◆



「お嬢様の来るところじゃないぜ。」

やれやれという顔で、マサキは拒絶の意を示した。
つい先日も、お節介な女教師が、復学を賭けてデュエルを挑んできたのだが・・・結果は、ご覧の有様である。

「あっ・・・ダメッ・・・マサキ君、こんな・・・生徒の見てる前で、わたしイっちゃう・・・ん!」

顔をしかめるマキアの視界には、骨抜きにされた女教師の姿があった。
とても聖職者とは思えない、浅ましい獣。
しかしマキアは、羨ましいと思う自分の気持ちに嘘がつけなかった。

そもそも、J’sの中どころか、奥の部屋まで踏み入ってる時点で、もはや彼女の心は篭絡されたも同然なのだ。
大河マサキを無視して生きていくことも出来たのに、自ら虎の檻へ足を運んでいる。

「・・・っ、わたくし・・・卒業したら、結婚するの。親の決めた婚約者と・・・言いたいことは、それだけ。」

しどろもどろのマキアは、他に言いたいことがあるとわかっていた。
認めたくないだけだ。自分も目の前の雌犬と同じだけ、浅ましい女なのだと。

「待てよ、本当に言いたいことはそれだけか?」
「・・・っ!」

その言葉を待っていた。喜んでしまっている自分がいる。
自分から言い出す勇気も無くて、男の方から誘ってくれるのを待っている。受身で、無責任。

(わたくしは、何て身勝手なの・・・。)

女だからという理由で、甘えて生きていたくはない。
だけど乙女心は、たとえ強引にでも自分を奪ってくれる男を求めている。

「わたくしは―――・・・



◆ ◆ ◆



斉賀滴郎が、マキアを発見したのは、真夜中に至ってのことだった。
いかがわしいホテルの前で、滴郎は信じられない光景を目にする。

「何で・・・」

思わず滴郎は叫んだ。

「何でなんだよっ!!」

ホテルから出てきたのは、大河マサキと、名刀マキアだった。
恋人のように寄り添って、既に事後であることが窺えた。

「お前、斉賀・・?」
「斉賀くん?」

「何でそんな社会のクズなんかに処女を捧げるんだよお!! 何で真面目にコツコツやってる男が損して、お前みたいな不良が何もかも手に入れて!! 世の中そんなもんなのかよ!?」

「斉賀――」

マサキが何か言おうとしたとき、それを遮ってマキアが冷たい声を発した。

「あなた、最低ね。」

滴郎のマグマのように煮え滾っていた心は、氷の刃で奥底まで貫かれた。
それをすぐさまマグマで溶かそうとして、滴郎は頭に血が昇った。

「女なんてみんなクズだっ!!」

言ってはならない言葉だった。
マキアは心底から軽蔑した表情で、滴郎を見た。

「行きましょう、大河くん。」
「ああ・・・。」

マサキは物悲しそうな顔だったが、言いかけた言葉を呑み込んで歩き出した。
自分が何を言っても、滴郎を傷つけるだけだと、わかっているから・・・。



◆ ◆ ◆



時間を戻して、ホテルの中。

「やめとけよ。」

震える少女に、それ見たことかと、マサキは身を引いて言った。
いざとなると恐くなって、マキアは身を硬くして目を閉じていたのだ。

「大河くん・・・?」

卒業したら結婚。ただでさえ学校生活で忙しいのに、マリッジブルー。
大学に行くことも考えていて、しかし結婚すれば叶わない夢となる。
それほど絶対に行きたい大学があるわけではないが、道が閉ざされるというのは一種の恐怖だ。
好きな女が他の男と結ばれるときの恐怖と似ているかもしれない。

ストレスの蓄積で生理痛も重くなり、何かと頭痛に悩まされるようになった。
短い間に彼女の精神は、すっかり参ってしまっていた。
周囲に当り散らすことを自らに許さないマキアは、みんなの知らないところで、マサキに当り散らした。
甘えていたのは、自分だったのだ。

そんな自分を、今ここに至っても甘やかす。
結婚する前に思い出を作りたいという申し出にも、嫌な顔ひとつせずに受け入れ、やっぱり恐いと思ったら、自分の欲望を鎮めて、相手を気遣ってくれる。どこまで紳士的なのだろう。

「やっぱこういうことは、やけになってするものじゃねえだろ。」

そう言われて、自分が自暴自棄になっていたことに気付いた。
思い出作りだとか綺麗事を吐いておきながら、きっと自分は、ここで抱かれたら、彼を追いかけてしまう。
今まで築きあげてきたものを、どうでもいいやと投げ捨ててしまう。

「・・・ごめんね。」

マサキに抱かれることなく、しばらくマキアは泣きながら布団に裸身を任せていた。



◆ ◆ ◆



「あー、あー、あー、もう! もったいねえなあ! ちっきしょう!」

マキアを家に送り届けて、1人になってから、マサキは誰も見てないところでビルの壁に手をついた。
かっこいいことを言っておきながら、かっこつけておきながら、心の中は後悔でいっぱいだ。

「あーくそ、かっこわりぃ・・・。」

女の子の前だと、かっこつけたくなる。祖母の教育の賜物だけでなく、男の子として。
ドン・キホーテのように、女を尊重するナイトとして振舞いたい。

(かっこつけておいて、ホントかっこだけじゃねえかよ・・・。中身はグチャグチャのドロドロだ。)

去り際にマキアに言った言葉は、本心だ。
滴郎に対して憤ったことは、女として当然だと思うが、自分が過大評価されていることに耐えられなかった。

『斉賀のこと、あまり悪く思ってやるなよ。ああいう男の醜さは、俺の中にもグチャグチャある。』

彼をフォローしているようでいて、自分の罪悪感を払拭する為の発言だ。
マキアの頭からは抜け落ちているみたいだが、直前まで自分は他の女を抱いていたのだ。少なくとも自分は斉賀を非難する資格は無いと思った。

(そうだよ、俺は社会不適合者のクズ野郎だ。クズに相応しく、やりたい放題、好き放題、マキアを犯して、イかせて、俺の女にすれば良かったんだ。・・・あー、何でヘタレるかなあ。)

理性が勝利してしまったのは、親友を思い出したからかもしれない。
何をするでもなく女に嫌われる親友。暴言を吐かなくても、滴郎に対するマキア以上に嫌悪感を抱かれる親友。
女だけでなく、男からも嫌われる親友。不良に集団で殴られて、優等生から敵視されていた親友。

真面目に頑張ってる者が損をして、好き勝手やってる不良が人生に勝利する。
そんなことがあってはならないと、マサキ自身が思っていたことだ。
自分は不真面目なのに、手に入れすぎている。

ひたすら真面目に頑張ってきたシンヤが、俺みたいな奴を親友にしただけで、何で喜ばなけりゃならねえんだ。
あいつこそ報われるべきだろう。シンヤこそ愛されるべきだろう。俺でなく、シンヤが。



◆ ◆ ◆



「アハハ・・・相変わらず古風だなァ、マサキは。」

“ブック・オブ・ザ・ワールド”を閉じて、ノヴァ・クリアは嬉しそうに笑っていた。
低い気温の中で、少女は体操着とブルマという、寒そうな格好で屋外に出ている。

「人が人を嫌うのに理由は必要でも、人が人を好きになるのに理由は必要ないんだ。真面目な人が好かれるべきだなんて方程式は存在しないんだよ。ナンセンスだ。」

彼女はショートヘアを揺らして、可愛らしい顔立ちにゾッとするような笑みを浮かべて、地面を見た。

「・・・ねえ、君もそう思うだろう?」

物言わぬ斉賀滴郎と、何枚かのカードが散らばっていた。
ライフカウンターは0を差しており、デュエルの決着を示していた。

「まァ、君ごときは僕と比べても、真面目のうちに入らないんだけどさ。」

滴郎の懐から落ちた包丁を拾って、ノヴァ・クリアは溜息をついた。

「どっちを刺そうとしていたか、あるいは両方か知らないが、それでもデュエリストかよ貴様・・・。」

思わず包丁で背中を突き刺したくなったが、やめておいた。
マサキとマキアに関する記憶は、全て奪ったのだ。命まで奪う必要もないだろう。

(甘すぎるかな?)

しかしマサキのフォローとの兼ね合いを考えると、ここで命を奪うのは短絡的に思えた。
自分を迫害した連中は殺すとしても、滴郎はそこまで悪い奴ではない。

「“悪い奴”は、僕の方だからねぇ・・・。」

散らばったカードを元通りにセットしてから、ノヴァ・クリアは歩き出した。

「さてさて、思わぬ道草に時間取られちゃったや。本来のターゲットを、ぶっ殺しにいかねえと、な。」

少女の顔に怒りが満ちる。

「スピネルを経由して、僕にマサキを殺させようとするなんて、許せないよねぇ・・・。」

ノヴァ・クリアは“カンサー”の便利な“道具”だが、パソコンの検索機能が検索者の意図しない結果を弾き出すこともあるように、スペックの高い道具は大量の情報を得る。
スピネルが依頼者を伏せて、あたかも自分の部下を倒された恨みからの依頼であるかのように振舞っても、その程度の偽装を見抜けないはずもない。
そんなことをするくらいなら、マキアを誘拐する時点でノヴァ・クリアを頼ればいいだけの話なのだから。

その推測は当たっていて、本当の依頼者はマキアの母親だった。
結婚を控えている娘に、悪い虫がついては大変とばかりに、マサキを殺すことを考えたのだ。
しかも、マキアをスピネルに襲わせたのも、母親の差し金だったようで、恐い思いをした娘にボディーガードをつけるという算段だったらしい。生憎それは、マキアのプライドによって拒まれたわけだが・・・。

「婚約者も絡んでないか、吐かせておかないとなァ。」

マキアの母親は美人だ。ノヴァ・クリアはワクワクいっぱいな気持ちで、肉体を男にチェンジした。
最終的に殺すとしても、せいぜい楽しんでおくとしよう。

(好かれなくてもいいんだよ。もう僕に、人から好かれる資格なんて無いんだから。)

僕が恐いのは、嫌われることだけだ。

マサキから嫌われることが、いっとう恐い。






   Under the rose   了

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
決闘学園・壊   目録
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ...続きを見る
佐久間闇子と奇妙な世界
2015/09/13 00:09

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
Under the rose   (後編) 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる