佐久間闇子と奇妙な世界

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<<   作成日時 : 2015/11/13 00:00   >>

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<殴り合いの後>

「・・・・・・。」
レックスは黙っていた。だが、その沈痛な表情は誰よりも雄弁だった。
消毒液や絆創膏を扱いながら、レックスは胸がキリキリと痛んだ。
「そう罪悪感を抱くな、レックス。こっちまで胸が痛い。」
クレアは困ったような顔で微笑んだ。
「すまねえ・・・この傷のことだぜ。」
「お前だって傷を負ってるじゃないか。」
「男と女じゃ、傷の重さが違うんだよ。・・・。」
それを自分に言う資格があるのかどうか疑問に思いながら、レックスは持論を口にした。
「気遣われるのは嬉しいが、女だから気遣われるのは鬱陶しいな。」
「わかってるよ、これが男女差別だってことくらい。だが、オレの生まれ育った街は、男が平気で女を殴って、痛めつけて偉そうなクチ利いて、それが当たり前に通ってた。金持ちは貧乏人を踏み躙るが、貧乏人の間でも、男が女を踏み躙ってた。そんな光景を見ていて、あんな男にはなるもんかって思ってた。女に暴力を振るう奴は最低だって思ってた。しかし気が付けばオレも奴らと同じ・・・女を殴る男になってたんだ!」
するとクレアはレックスの頬に手を添えて笑みを浮かべた。
「・・・私は弱いか?」
レックスは思わず仰け反った。
「男でも、女でも、強い者が一方的に弱い者に暴力を振るうのは、それこそ言葉の暴力も含めて、許されるものではない最低の行為と言ってもいいだろう。だが、私とレックスのケンカは、そんなものだったか? 私は昂揚したぞ。こんな虚弱な体で、それに女だから、“暴力を振るうまでもなく見下される”こともあった。女性に優しいと自分でも思い込んでいるフェミニスト気取りは、女を守る強い男である自分が好きなだけで、悪びれもせずに女を下に見るのだからな。始末が悪い。」
「・・・・・・・・・。」
レックスは思い当たるフシが多すぎて冷汗をかいた。
それを見てクレアは、ばつが悪そうに笑った。
「すまない、レックス。こういうことは、男の前で言うようなことではないな。可愛げが無いと自分でも思うよ。」
「そんなことねーよ・・・。」
クレアの言うことに納得したわけではない。幼少期からの感覚を、たかが2、3分の会話で変えられるわけがない。
しかし、可愛げが無いというところは即座に否定できた。
媚びないだけで、可愛いと。
「ここにも傷が。」
クレアは今しがた気付いたように、レックスの首筋を舐めた。
「っ!?」
「あ、すまない。いつものクセで。」
「・・・・・・。」
動じずに離れるクレアを見て、やはり可愛いより恐ろしいと思うレックスだった。










<男友達>

「ジョナルのバカっ、知らない!」
気持ちいいくらいの音を立てて、イウィーはジョナルの頬を引っ叩いた。そして部屋を出て行く。
それを見ていたレックスは、呆れた顔で肩を竦めた。
「何だあ、イウィーの奴・・。」
「そりゃあ今のはジョナルが悪いって。彼女の誕生日を忘れるとか、男としてどうかしてる。」
するとジョナルは少しムッとして返した。
「だったらレックスはクレアさんの誕生日を知ってるのか?」
「知らねえけど・・・って、オレとクレアは恋人同士じゃねえ!」
「そうだったのか? てっきり・・・。」
「てっきり、何だよ。」
「ヤッてるものかと。」
「バッ・・!」
「おいおい、こりゃマジか・・・。」
顔を赤くして慌てるレックスを見て、ジョナルはニヤニヤ笑った。
「お、オレは別にクレアと、どうこうとか、そういうのは!」
「何で?」
笑うのをやめて、ジョナルは今度は真剣に尋ねた。
「な、何でって・・」
レックスも空気が変わったのを察して、それで答えに窮する。
「・・・・相応しくねえだろ、オレなんか。」
「ふむ?」
「・・恋愛に、相応しいとか相応しくないとか、そんな頭でっかちの理屈は必要ない、好き合ってるかどうかが大事なんだって・・・そんな無責任なこと言う奴もいるけどさ、そりゃ、付き合うまでの話だろ? 添い遂げることを考えるなら、釣り合いを考えないなんて有り得ない。オレみたいな、育ちの悪い、学も無い、生意気なガキが、どうしたってクレアに釣り合うわけねーんだ。クレアにしたって、“釣り合いを気にもしないような無責任な女”じゃねえよ。」
「いよいよマジだな・・・。」
ジョナルは頬を撫でながら呟いた。
「確かにレックスの言うことは合ってる。だが、合ってるだけで正しくない。」
「どういう意味だ?」
「選択の問題でもあるんだがな。答が知りたかったら、重幹部のサイ子・メビウスを訪ねてみるといい。」
「あのピアスじゃらじゃらの女か。」
彼女のサイケデリックな外見を思い浮かべて、レックスは少し眩暈がした。
しかしモヤモヤを抱えたままより眩暈の方がマシだ。レックスは席を立った。
「ちなみにクレアさんの誕生日は1月2日だ。覚えていたら、何か贈ってやれ。・・・部下として。」
「ああ、サンキューな。」
大して長い付き合いでもないのに、昔からの兄弟のようだとレックスは思っていた。
ジョナルも可愛い弟を応援する兄の気分だった。










<リミット・メビウス>

「私に何の用だって?」
レックスがサイ子のもとを訪れたとき、彼女は服を肌蹴て乳首のピアスを弾いているところだった。
ちゃんとノックをして入室許可を貰ったのだが、何故このような光景が見えてるのだろうか。
しかしレックスもスラム街で生まれ育った身である。多少は面食らったが、話を始めた。
ジョナルとの会話を要約して話すと、サイ子は頷いた。
「・・・なるほど。お前の言うことは合ってる。」
「合ってるだけで正しくない。その意味がメビウスさんに会えばわかると言われました。」
「そうは言っても、所詮は正解なんて人それぞれだし・・・。正しくないどころか、合ってもいない、間違ってると言う奴だって少なくないだろう。私とて、釣り合いは大事だと思うが世間体はカスだと思ってる。しかし世の中には世間体が大事だって考えの人間もいる。そういうもんだろう。」
「・・・・・・。」
「しかし、X・Q・ジョナルが、お前を来させた意味はわかる。いつか私も、お前と話をしたいと思っていた。」
「え、それは・・」
「勘違いする前に言っていこう。恋愛感情は無しだ。私はレズビアンだしな。」
「そうですか。」
かつてのレックスの知り合いには同性愛者も何人かいたので、同性愛に驚くとかいうことはない。
「お前は乗算型アンプリファイアだそうだな。私は除算型リミッターだ。真逆の関係になるな・・。」
レックスは周囲のエスパーの出力を無差別に2倍にする。
一方のサイ子は、任意のエスパーの出力を10分の1にすることが出来る。
性質的には真逆だが、その使い勝手は天地の差だ。
「いつか、と言った意味がわかるか? “すぐに”話をするべきかどうか、私も迷ったんだ。つまりは、お前の超能力の可能性についてだが。」
「確か、アルカディアには優れたアンプリファイア能力者がいて、オレの能力はクレア以外には役に立たないってことでしたが。」
「それはクレアの嘘だ・・・。」
「嘘!?」
「優しい嘘ってやつだ。そう言っておけば、お前が無茶しないと思ったんだろう。能力を鍛えるなんて無茶をな。」
その言葉はレックスにとって目を丸くさせるに十分だった。
「・・・・・オレの能力、鍛えられるんですか?」
「あらゆる能力は鍛えることが出来る。使い方を工夫する訓練も、鍛えるうちに入る。」
「それなら・・」
「待った。」
目を輝かせるレックスに、サイ子は制止をかけた。
「お前の能力は今の状態で安定している。それを無理に改造しようとすれば、精神に重度の障害が残る危険性だってある。」
「・・・メビウスさんは、その危険な賭けに成功したってことですか?」
「発動を任意に、そして対象を任意に絞れるようになった代償として、痛覚や味覚の大半、それから視力と聴力も悪くしたな。目や耳が悪くなったわけじゃない、それを受け取る脳に障害が出たんだ。このピアス、好きで着けてるってのもあるが、“あるはずのピアスの感覚が消えたら”危ないってことだから、休むか病院へ行くようにしている。」
「・・・・・・!」
凄まじい話だった。しかし、クレアに釣り合うとしたら、それくらいの代償は覚悟しなければならないのではとも、やはり思ったのだ。
だが、恐ろしい。
「焦るな。」
「!」
サイ子の一言でレックスは我に返った。
「私は2年くらいで急激に訓練したから障害が出た。お前は丁度、あの頃の私と同じくらいの年齢だからな、若者特有の得体の知れない焦りや不安は、わかっているつもりだ。訓練するつもりなら、焦らないことだ。いいか、お前は自分の能力が任意発動したり、対象を任意に出来るようになるという、認識を得た。その認識で長時間を過ごすことが、既に訓練の一環なんだ。お前のようなタイプにとっては最も厳しいかもしれん。自分が役立たずの怠け者ではないかと思いながら過ごさねばならないのだからな。」
「・・・・・・。」
「クレアが不安になるのもわかる。お前は無理をするタイプだからな。」









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内 容 ニックネーム/日時
コング「男女差別や男女平等の話には興味ある」
ゴリーレッド「ほう・・・れんそう」
火剣「DVはもちろん論外だが、対等の喧嘩は暴力じゃねえ」
コング「僕と千香のような」
ゴリーレッド「暴力でしかない」
火剣「クレアがいいって言ってるんだから、とりあえずいいのでは」
コング「クレアは昂揚したと言うし。別の昂揚の仕方も教えるのがレックスの役目」
ゴリーレッド「まだ恋人同士ではないらしい」
火剣「好き同士なのに」
コング「ちなみに僕は気取りではなく本物のフェミニン。女の子には優しいし見下していない」
ゴリーレッド「優しいという日本語って意味は何だっけ?」
火剣「かわいげか。クレアはかわいいと思うが」
コング「彼女の誕生日を忘れるのはレッドカードか」
火剣「恋人ならな」
コング「釣り合い、相応しいということを考える男がいるのか」
火剣「結婚となれば考えるだろう」
コング「僕は結婚を考えたことがない」
ゴリーレッド「胸は張らなくていい」
火剣「そうか、確かに端から見ればクレアとレックスは一度や二度レスリングしてると思うだろう。恋人じゃなくてもレスリングはする」
コング「サイ子は世間体はカスと。世間体などゴミと言いきる火剣と気が合うかも」
火剣「あまり友達になりたくないタイプではあるが」
コング「人をピアスで判断してはいけない」
ゴリーレッド「レックスの能力は鍛えれば誰にでも使える。クレアの優しい嘘は友情か愛情か」
コング「裸が平気な女子は好きだが恥じらうのも優しい嘘だ」
ゴリーレッド「上手くまとめたつもりか」


火剣獣三郎
2015/11/13 19:52
>火剣さん
同性同士でも男女でも、対等に殴り合いが出来る関係に、昔から憧れが強いです。しかし私自身は虚弱なので、それゆえに創作で描きたい気持ちが強いですね。

佐久間「私は山田と殴り愛が出来ることを誇りに思っている。」
山田「殴り合いだ。」
佐久間「やはり女は、美しさと強さを兼ね備えていなければな。」
八武「女の強さって、そういうものだったかね?」
佐久間「姫川亜弓は、演技の特訓中に不良とケンカして流血沙汰。これぞ女よ。」
維澄「カッコイイけど真似は出来ないね。」
佐久間「警官隊と殺し合った女が、何を言ってるんだ。」
八武「バイオレンスだねぃ。永井豪の世界。」
佐久間「あの世界は好きだ。力こそ全て。」
山田「だが最終的には心だ。」
神邪「心ですか・・・。」
佐久間「レックスはクレアに相応しい。それは、クレアに釣り合う男になろうという気概を持っているからだ。」
山田「なるほどな。自分を磨こうという姿勢か。」
維澄「自分の為に変わろうとしてくれる男性は、好ましい。」
神邪「僕が女性から好かれないのは、自分を変えたくないから、というのもありますね。」
佐久間「仕方あるまい。周囲から否定され続けたら、自分を変えたくなくなる。」
八武「ゆえにレイプを推奨する。」
山田「お前は黙ってろ。」
八武「自分を変えたくなければ、相手を言いなり奴隷にするしかあるまい?」
維澄「自分に合った人が見つかるまで妥協しない、という道もある。」
アッキー
2015/11/13 23:13
重幹部のサイ子さんがピアスだらけだということを初めて知ったと同時に安全装置の役割も果たしていたとは。100%趣味だと思ってました。ごめんなさい。
それだけでなく、話の重みが重幹部。説得力というか、納得感というか、長生きして色々な経験をしてこないとこういう話し方は出来ないんだろうなあ。
千花白龍
2016/03/30 20:04
>千花白龍さん
ピアスを着けている人に聞いたところ、つけていて気にならないわけではなく、むしろ鬱陶しいくらいだとか。しかし、だからこそ存在感を認識できて、それが良いとのこと。
安全装置というだけならピアスでなくてもいいので、やはり趣味の度合いは大きいのですが、そういった哲学も含まれていたりします。この頃で50歳は過ぎているので、やはり年の功がありますね。
アッキー
2016/03/30 22:52

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