佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第十五話 約束のクリスマス 15

<<   作成日時 : 2015/12/01 00:00   >>

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九古鈍郎は、物心ついたときから兄に対して劣等感を抱いていた。
7つ離れた兄は、何事にも動じず、何でも知っているように思えた。
そんな兄が好きで、第二の父親のように敬愛していたから、劣等感にも負けなかった。
敵わないと感じ苛立っても、それを表面に出すことを、自分に許しはしなかった。そんな自分を誇りに思えた。
ふてくされたり不平を撒き散らしたりして、父や兄を悲しませたくなかった。
見ず知らずの世間様に対してではなく、尊敬できる人―――父に、兄に、そして自分に恥じぬ生き方をしようと、小学生になる頃には心に決めていた。
父・貞主が「恥を知るより大事なことはない」と口癖のように言っていたが、その度に勇気付けられた。
嫌悪や苛立ちを軽々しく人にぶつける愚を、自分に許してはならない。
人に嫌悪をぶつけるというのは、戦争する覚悟でやるものだと。
ケンカするときは、死ぬか殺すかまで腹を決めろと。
その覚悟が出来ないなら、耐えろと。
よく父は言っていた。
主に話を聞くのは鋭郎だったが、鈍郎も横で頷いていた。

優しく厳しい父が失踪したのは、鈍郎が10歳の誕生日を迎える数ヶ月前だった。
その前日に父は、「お前たちには2歳になる妹がいる」と告げた。
父は二度と帰ってこないとわかった。
「父さんは、自分を許せなかったんだ。」
そう言った兄は、自殺者を嫌うような人を嫌悪していた。
自殺者を嫌うような奴は、苦労を知らない。大した苦労もしてないのに、苦労をしたつもりでいる。
そんな兄の言葉に、鈍郎は半分だけ共感した。少なくとも、両親を悪く言われるのは嫌だと思った。
恥を知らない人間ほど、自ら死を選ぶ人間を悪く言うのだと、子供心に思った。

鈍郎が中学を卒業すると共に、兄は結婚した。
以前から付き合っていた人で、子供も生まれていた。
恋人の妊娠と出産、弟の受験勉強。
それらを同時にサポートし、自らの仕事もバリバリこなす兄・鋭郎は、スーパーマンのようだった。
結婚相手の坪内純(つぼうち・じゅん)は、ふくよかで小柄な女性だった。よく笑う人で、良き母だった。
絵に描いたような幸せな家庭で、鈍郎は独立してからも頻繁に遊びに行った。
このまま幸せが続いていくのだと思っていた。両親の死は、やがて過去になろうとしていた。

ところが3年後の1990年、不幸は突然やって来た。
鈍郎が大学へ合格した矢先のことだった。
泥棒が一家へ入り、そこへタイミング悪しく帰って来た純が、刺し殺されたのだ。
犯人は捕まっていない。
欠けた歯車は戻らない。
それから兄の家に行きづらくなった鈍郎は、甥が虐待されていたことも、死の報せと共に知ったのだった。
(兄さん)(どうして)(兄さん)(ごめん)(私が側にいるべきだったんだ)(兄さん)(兄さん)




つづく

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
火剣「小学生で自分に恥じぬ生き方を心に決めるとは素晴らしい」
コング「さては三国志を読んでいたな」
ゴリーレッド「厳格な父の教えだろう」
コング「恥を知るということは凄く大事だ」
ゴリーレッド「それ以上喋って薄めたらアメリカまで飛ばす」
コング「恥を知る誇り高きヒロインだからこそ、全裸で大股開きの恥辱は耐え難い仕打ち」
ゴリーレッド「アメリカンを頭からかけようか」
コング「待て」
火剣「喧嘩は死闘。その覚悟もなくすぐ手を出すのはゴロツキだ」
コング「2歳になる妹?」
ゴリーレッド「強盗とは、何という悲劇か」
火剣「なぜ虐待していたんだ?」
コング「人の家庭は外からではわからない。僕には家庭がないからお気楽極楽」
ゴリーレッド「孤独で寂しいという気持ちはないか」
コング「僕に家庭は似合わない」
火剣「胸を張るところが素晴らしい」
ゴリーレッド「人を自殺に追い込む原因を本気で追求しているグループもあるし、自死防止の行動をしている人たちもいる」
火剣「自殺の名所などに陣取り、そこで声をかけ、もしも経済苦ならいろいろな相談に親身に対応する」
ゴリーレッド「みんな自発で無償。政治がバックアップどころか、先頭に立って自死防止に命を張るべきだ」
火剣「自殺に対してどう考えているかで、その者の哲学がわかる。一人でも自殺なんて聞いたら胸が潰れる思いを感じてこそ初めて政治家と呼べる」
コング「レイプされて自殺という話は悲劇過ぎる。周囲の励ましの仕方が独創的でない通りいっぺんのものだと食い止められない」
火剣「自殺の3大原因、病気、経済苦、人間関係の中で一番物理的に手を打てるのが経済苦だ」



火剣獣三郎
2015/12/01 10:35
>火剣さん
恥を知ることは、尊敬と不可分に思えます。他者を尊ぶことを知らない人は、自覚も覚悟も無しに戦争を吹っかけるし、自殺を軽んじる。そういう連中が大手を振って歩いている世の中は、気が滅入ります。

佐久間「鈍郎のような小学生ばかりだったら、私も健やかな小学生時代を過ごせたんだがな。」
山田「三国志は読んでいただろうな。子供の頃から名著に触れることは大事だ。」
八武「ルナ先生とかな。」
神邪「名著です。」
山田「ちょっと待て。」
八武「おや、山田くんは否定するのかね?」
山田「俺が言いたいのは、綺麗事を磨いて武器にする方でな。」
維澄「なるほど、綺麗事は吐いてるだけでは駄目で、武器になるまで磨くのが大事。」
佐久間「自殺を否定するのは、ともすれば自殺者を責めているように聞こえる。自殺に向かわせる環境に言及していなければ、空論に過ぎない。」
八武「ところで妹って?」
神邪「2歳になる妹・・・鈍郎さんとは7歳差ですか。」
山田「そっちも気になるが、強盗に、虐待、悲劇が多い・・・。」
八武「妻を喪った悲しみが、虐待へ向かうことはある。特に、子供が難しい時期だとね。」
アッキー
2015/12/01 22:16

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