佐久間闇子と奇妙な世界

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<<   作成日時 : 2016/02/07 00:00   >>

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◆ ◆ ◆



世界にひとりだけならば

孤独を感じることもない

周りに人が多いから

感じる孤独も強くなる



世界に貴方とふたりなら

どれほど心地よいだろう

だけど孤独が強いほど

貴方の価値を噛み締める



◆ ◆ ◆



平行世界の僕は、今日も嫌われているようだ。
街を歩けば、周囲から罵倒を浴びせかけられ、汚いものを見るような目を向けられる。
嫌われ者の、竜堂神邪。僕とは正反対、だけど同じ僕だ。

世界を小説のように読める本“ブック・オブ・ザ・ワールド”は、平行世界も断片的に読むことが出来る。
あったかもしれない現実を見ることで、今日も僕は自分が恵まれていることを実感する。
下卑た趣味だが、同じ僕だ。僕の精神衛生に役立ってもらおう。そうでもしないと、やりきれない。

どちらが本当は幸せなんだろうね?

実像の嫌われ者と。
虚像の人気者では。



- - - - - -



「ね、ねえ、竜堂? わたしが明日、遊園地に付いて行ってあげてもいいのよ?」

僕の日常には、煩わしい要素が多い。
休み時間に本を読んでいると、またしても邪魔が入った。

「どうせ一緒に行く友達とかいないんでしょ? わたしが一緒に行ってあげるんだから、感謝しなさいよ!」

おわかりだろうか。僕は遊園地に行く予定など無い。
苛立ちながら僕は本を閉じて、彼女を睨む。

「僕に何の用? 大河に交際デュエルを申し込んで、無様に敗北した狩枝紅葉(かりえ・もみじ)さん?」
「そんな言い方しなくたっていいでしょ!?」
「“そんな言い方しなくたっていいでしょ”?」

僕は棘のある声を意識して、彼女のセリフを繰り返した。

「行動を押し付け、友達がいない寂しい奴と認定した挙句に、感謝して当然だという態度を取るような人に対して、僕の言った“事実”は、それほど厳しいかな?」

すると彼女は目に涙を浮かべて、走り去っていった。ざまあ。

「お前、美少女にも容赦しないのな・・・。」
「大河!!???」

僕は振り向きざまに首を痛めた。おお痛い痛い。
デュエリスト能力で治しながら体も向けると、そこにナイスガイの大河マサキが立っていた。
彼と僕とは親友なのだ。親友、いい響きだ。そうですか、貴方もそう思いますか。摂理ですからね。

「やあ大河、今日もナイスガイだな。惚れ直すぜ。」
「サンキュー、俺も好きだぜ竜堂。」

僕らは肩を竦めて笑いあった。
こうした他愛無い会話が愛しい。

「その笑顔を他の奴らにも向けてやれば、軽く100人は友達できるだろうに。」
「生憎だが、僕は博愛主義者じゃない。100人の軽い付き合いなんて、ひとりの親友とは天秤にも乗らない。」

どこか遠くを見つめながら、僕はフゥと息を吐いた。
今日の青空も美しい・・・。

「たとえ大河でも、僕の友達は増やせない。僕の友達を増やすことは・・・誰にも出来ない。」

僕は自慢の黒髪を掻き揚げながら、俯いてポーズを取った。
世界は・・・美しい・・・。

「いや何で若干カッコイイこと言ってやった風なわけ?」

親友の大河が呆れているが、構わない。

「そうそう竜堂お前、また告白してきた奴をこっぴどく振ったんだって?」
「いちいち覚えてないね、そんなこと。僕は忘れっぽいんだ。」

嫌われ者の方の僕と違って、この僕は物忘れが激しい。
だからこそ余計なことに気を煩わされず、大事なことだけに集中できる。

「断るにしても、少しは優しくしてやれよ。」
「大河は優しいなァ。だけど僕は、ちっとも僕の本質を見てない奴から、好きだの何だの言われても、ちっとも優しい気分にならないんだ。」

表層を撫でただけで僕の内面を理解したつもりになって、心の清らかさに惚れたとか言われるのは、外見だけで判断されるより何倍もムカつくんだよ。
そういう奴は、内面を理解する気など更々ないのさ。自分は外見ではなく内面で人を判断する、高尚な人間だと思われたいだけで、そこに僕への好意なんて微塵も無い。

だいたい僕自身が、見た目で人を判断する人間なんだから・・・。
知ってるだろう? この外見は、僕が自慢のデュエリスト能力“シフト1”で整えたものだ。
見た目で人を判断なんかしないって人々は、結果的に僕の内面を見ていない。
外見を無視できる権利は、視覚障害者だけに与えられたものだと思わないか?

「確かに、外見“だけ”で人を判断するのは良くない。それは僕も賛成する。中身を無視されて外見だけを褒められるのは、気分の良いものじゃないからな。」
「おおう、ぐさぐさ来るぜ。」
「どうして?」

「いや、俺も竜堂が美少女でなかったら、親友になれてたかどうか怪しいからな。」

きめ細かな肌、艶やかな黒髪、蕩けるようなキュートな瞳。
元から造形は悪くないが、それをデュエリスト能力で昇華させた結果だ。
今ならセーラー戦士も務められる気がする。
名乗り遅れたが、竜堂マヤ。それが僕の名前だ。

「何を言ってるんだい大河。君は僕を、外見と内面の両方で好きだってことなんだろ? むしろ最高じゃないか!」
「しかし、お前の内面を理解できてる自信とか無えからなぁ・・・。」
「だから大河は好きなんだ。人の気持ちを理解することを怠らない。君の“好き”は、心に響く。」
「いや、器用なだけだって。」
「器用。結構なことじゃないか。何を恥じる?」

僕は不器用な奴が嫌いでね。大嫌いでね。
人を傷つけておきながら、不器用という言葉を免罪符に“本当はいい奴”扱いされるのは、ムカつくんだ。
情熱家だとか、好きな気持ちが抑え切れないとか、冗談じゃない。
その程度の情熱や衝動は、誰でも持っているんだ。

不器用な奴は情熱が強いわけじゃない。
好きな相手を、つい傷つけてしまう衝動よりも、相手を尊重したいという気持ちが脆弱なだけだろう?
だから不器用な男はクズなんだよ。

“口は悪いけど根はいい奴”なんて存在しない。その逆はあってもな。
口が悪ければ、中身はもっと悪い。中身が表面より良いということは決してない。
もちろん僕も、こうして口に出している10倍は悪い奴だぜ、大河。

「悪い言葉ばかり吐いていると、心が澱む。だから大事なことは何度でも確認したいんだ。好きだよ、大河。」
「ありがとよ。俺も好きだぜ。」

・・・・・・
・・・・・・・・・

・・・だけど、君の「好き」と僕の「好き」は、きっと違っている。



◆ ◆ ◆



「ただいまァ。」
「おかえり、我が娘よ。」

きめ細かな肌、艶やかな黒髪、夜より暗い漆黒の瞳。
そして扇情的な・・・テノール。そう、テノール。
スラリとした脚をテーブルに乗せて、本を読んでいる美人・・・の、男。

そう、男だ。これが僕の父親、竜堂美人(りゅうどう・みひと)。
男ながら「美人」という形容が似合ってしまう。
40歳とは思えないほどの若々しさで、20代でも通用する。

「行儀が悪いよ、父さん。」
「父さんの読書は荒っぽいからね。」

名前負けしていない、男ながら美人と称して相応しい容貌。
しかし性格は掴みどころがない。死んだ母さんは、どこに惹かれたんだろう。
最近また新しい恋人と付き合い始めたらしいが、いつまで続くことやら。

「母さんは、こんな男の何が良かったんだろう。」
「“こんな男のナニで善がったんだろう”? 年頃の娘が、なんて下品な。父さんは悲しいな。」
「僕が悲しいよ。」
「母さんが惹かれた私の良いところは秘密だ。それを教えたら、マヤも私に惚れてしまうじゃないか。」
「いらっ。」

もちろん言うほど苛立ってなどいない。
母さんは、こういう愉快なところに惚れたのかもしれないな。

“冥界死点”(フォーシィス)、“無限神腕”(サクリファイア)、“神炎”(ゴッドフェニックス)。
それに加えて、レベルイマジナリー能力“逆錐創世”(メティスカロフ)。
ひとりにひとつずつのデュエリスト能力を4つも持っているのは、人格が4つに分裂してしまっているから。

「カルシウムが足りてないのか? さては大河くんとケンカした。」
「してないよ。いつも通り、僕らは仲良しだ。」
「いつも通り、仲良しか。」

きっと僕は、本当の父さんを知らない。
人格が分裂するに至った経緯も知らない。
そこには想像を絶する過酷な体験があるのだろうけど、それとなく尋ねても、はぐらかされるばかりだ。

今までの関係を壊す覚悟でないと、聞けないことはある。
僕の大河への思いも同じだ。他愛無い会話で「好き」と言うだけでは、思いは伝わらない。
親友という関係を壊さなければ、恋人にはなれないんだ。



◆ ◆ ◆



「そういえばさ大河、好きな人っているの?」
「あん?」

あるとき親友から、尋ねられた。
あらたまって考えると、いねえな。

「そうなんだ。」
「竜堂は?」
「それは秘密というもの。」
「ずりぃ。」

まあ別に、根掘り葉掘り聞くことでもねえけどな。
実際こいつに好きな人がいるとは到底思えん・・・。

俺も人のことは言えない、恋愛オンチだけどな。
何度か告白されたことはあるが、どうもピンと来ないで振っちまってる。
竜堂に「優しく振ってやれ」と言うのも、俺の罪悪感を払拭したいだけなのかもしれん。

中学時代に初恋みたいなものを経験したことはあるが、告白しないまま終わった。
臆病な俺に比べれば、告白してきた奴らの方が、よっぽど勇敢だ。
今頃どうしてんだろうな、まどか姉ちゃん。

「ああ、今日も平和だなァ。」
「平和か? むしろ逆じゃねえのか。」

新聞やニュースを見れば、今日も各地でカンサービーストの被害が報じられている。
人類は多分、そう遠くないうちに終焉を迎えるんだろう。

5年前、人類は未曾有の危機を迎えた。
多くの人類が“決闘癌獣”(カンサービースト)に変貌する、「デビルマン」みてえな事態。
現在、地球上の大半はカンサービーストが跋扈する世界だ。
残された人類は、フィールでバリアを張った都市の中で生活している。世界中には、このドミノ・シティのような場所が数十箇所はあるという。

「まるで『火の鳥』未来編か、『進撃の巨人』みたいだね・・・あるいは、『OZ』か。」
「いくらバリアを張っていても、中にいる人類がカンサービーストに変貌するんだから、どうしようもねえ。この世界を創った神様ってやつは、人類を見捨てちまったのかもな。」
「あはは、上手いこと言うね。飽きられたオモチャは、壊されるか、捨てられるか・・・どっちも最悪だ。」
「失望したんじゃなくて、飽きられた、か?」
「どっちでも同じ意味だ。」
「そうかもな。」

俺たちは黄昏の時間を生きている。



- - - - - -



「よおっす、大河くん!」
「美人(みひと)さん!?」

まるで兄のような気さくさで、実際、兄のように見える竜堂の親父が後ろから抱きついてきた。
男に抱きつかれても嬉しくはないが、悪い気はしねえ。

「今日もナイスガイだな、大河くん。2年後あたり、うちの娘を嫁に貰ってくれねえか?」
「すっげえ話が飛躍しましたね。」
「いいじゃないの。2年後なんて、人類が生存してるかどうかも怪しいんだ。許婚くらい作っとけ、男の子。」
「どーゆう理屈っすか。」

そういや俺と竜堂って、男と女なんだよな。
・・・やべ、意識したら照れてきた。

「お、その反応はワンチャンある? 手札に加えちゃう?」
「変なこと言わないでくださいよ、美人さん。俺と竜堂は、そんなのじゃないっすから。」
「じゃあ、どんなの?」
「親友ですよ、親友。」

・・・真面目な話、恋愛関係ってのは、どこか対等じゃない気がする。
わかりやすく言えば、彼氏に“守ってもらう”女の子。それって対等か?
否定はしねえ。対等でなくても幸せなことは幾らでもあるし、世の中それの方が多い。
だが、対等でありたいという思いも、それらと同じだけ尊重して欲しい。

俺は竜堂と、対等でいたい。

「なるほどなァ。」
「だいたい、竜堂も俺を恋愛対象として見てねえでしょう。恋愛フォルダに入ってない。」
「童貞みたいなこと言うなよ・・・いや、童貞なのか。別の世界の情報が混在してるな。」

美人さんは時々、わからないことを言う。
それは竜堂も同じか。この世界の誰とも違うものを見てる。
人それぞれとかいうレベルではなく、“残りの全人類と異なる”感じなのだ。

「まァ、ひとつ言っておくとすれば、私も“竜堂”だ。マヤのことは名前で呼んでくれないか? 紛らわしい。」



◆ ◆ ◆



「つまり要するに不器用な優しさという言葉は定義矛盾に等しいんだよ・・・優しければ、それは、もう、不器用とは、言えないんだ。よ。ね。」

毒のように濁った瞳の美少女、永遠アルドは、優しいようで毒の籠もった言葉を吐いた。長い黒髪が揺れる。
僕も彼女と同じ意見だ。上手い言葉が見つからずに黙っていることは、不器用なんかじゃない。ありきたりな言葉を呑み込む忍耐は、優しくて強い。それを不器用なんて言葉で表現したくは、ない。

「また会長の四方山話が始まったか。」

筋肉で太った厳つい男が、やれやれという風に微笑んだ。その眼光は純粋で、鋭い。
器用・不器用の話で言えば、おそらく彼は「不器用だけど優しい奴」と言われることだろう。
本当は逆なんだがね。普通に優しい彼のことを、勝手に不器用と決め付けている奴らがいる。

たおやかな美少女の会長と、厳つい畦地濃海(あぜち・のうみ)の副会長。
美女と野獣のコンビは、この生徒会では夫婦と呼ばれている。

「会長なんて余所余所しい・・・ハニーって、呼んで、ほしい。な? だぁりん?」
「仕事中に、そんな砕けた呼び方をするべきではないです、会長。」
「もう終わったもん・・・ボクは、優秀なんだ、から。ね。」
「それでは下校したらどうですか?」
「濃海の意地悪! ドS!」

「かいちょお、暇なんですか?」

茶髪のポニーテール、見た目はガングロギャルの書記、桃里すももが手を止めて言った。
彼女の速記能力は、異常とも言える速さと正確さを誇る。だからこその書記だ。

「まァ、人生は壮大な暇潰しだという説はあるけどね。」

そして僕、竜堂真夜は会計。そう、会計は僕だ。他に7人いたりすることはない。
アルド会長とは顔が似ているけれど、僕はショートヘアだ。髪型でキャラの住み分けが出来ている。

「まあ、こうしてデスクワークをこなしていると、とても人類が滅びる瀬戸際だとは思えねえよな。」

最後に庶務の大河マサキ。僕の親友だ。今日もナイスガイだ。
ちなみに現在は、昼間にカンサービーストを処理した報告書を作ったりしている。

この西虎(さいこ)高校では、生徒会の業務にカンサービーストの処理も含まれているのだ。
それは暴走する生徒を鎮圧する延長線上なんだけど、やはり終末だって気がする。
大河に言わせれば、たかが終末、週末と変わらないってことなんだろうけどね。

「そういえばアルドは、これまで何体くらい斃してきたか覚えてる?」
「どうしたの急にマヤ・・・質問に、答えると、イチイチ、覚えてない。ボクの“裂く死ぬ世界”(ノットワールド)は、そんなこと、数えなくて、いいもの、だから、ね。」
「ふと思っただけさ。アルドならカンサービーストを殲滅して、人類の救世主になれるって。」

それだけの力を、アルドは持っている。
僕の“シフト1”、父さんの“メティスカロフ”、それらと同等か、それ以上の力。
だけどアルドが何て答えるかも、僕は知っていたんだ。

「そんな価値は人類に無いよ・・・今いる、カンサービーストを、全滅させ、たとして、残りの、人類から、カンサービーストは、発生してくるし、人類が、増えれば、カンサービーストも、増える。どうしようも、ないよ。そんなのを、相手に、人生を、過ごすなんて、ボクは嫌だ。な。」
「まァ、そう言うだろうと思った。アルドがカンサービーストを殲滅するとか言い出したら、むしろ反対してたかも。」
「実際そうやって反対されたよ・・・忘れた、の?」
「そうだったっけ? 僕は忘れっぽいんだ。」

そうやって僕とアルドが取り留めの無い話を繰り広げていると、大河が落ち着かない様子になっていた。
何だろう。僕とアルドの百合百合しい会話に、萌えてしまったんだろうか。

「・・・な、なァ、俺も竜堂のこと、下の名前で呼んだ方がいいのか?」
「そんなことを考えていたの? いいよ、宇宙レベルで考えれば、何も問題ない。」
「地球レベルでは大いに問題あんのか!?」
「嘘だよ、マサキ。」
「お、おう、マヤ。」

世界が滅びる瀬戸際に、こんな小さなことで悩んでいられるなんて、僕たちは幸せだなあ。



◆ ◆ ◆



マサキと一緒に下校していると、子供の騒ぎ声が聞こえてきた。
見れば、幼い子供が母親を罵倒して、走っていた。

こういうのって嫌だな。

「しかも、こっちへ走ってくるし。」

可愛くない子供が、僕がよけるのが当たり前だと言わんばかりに、真っ直ぐ走ってくる。
きっと今まで、自分から道を譲ったことなんて無いんだろうな。

「死ね。」

僕は指先からフィールを発して、子供の顔を吹き飛ばした。
続けざまに手足、胴体、全てを吹き飛ばして消した。

すると豚みたいな中年女が何か叫んで、口から破壊光線を放った。
仕方ないので僕は、フィールによる範囲攻撃で、小さな児童公園ごと更地に変えた。

「あァ、手加減しんどい。」
「相変わらず子供に容赦ねえな、お前・・・。」

マサキが呆れた顔で呟くが、当然の処置だ。
親友との楽しい時間を邪魔したんだから、死んで当然。
これが不可抗力なら、僕も考えるけどね?

「僕にとって“可愛い子供”は、ピカピカのエンジェルのみだ。それ以外は“うんこども”だよ。」
「やめろ、美少女が口にしていい言葉じゃねえ。」
「マサキは美少女に何の夢を見てるんだい・・・。」

まァ、それはさておき。
生きる権利ってのは、等しく与えられているものではないってことさ。
カンサービーストは元は人間だけど、討伐や駆除の対象になってるだろう?

やらなくても出来るのが天才。
やれば出来るのが凡人。
やっても出来ないのが無能。
やろうともしないのがクズ。

よく言われるよね。
ありふれた凡人というのは、優れている方なんだってこと。
盆暗の盆と音が同じだから、イメージが引きずられているけれど、凡というのは“おおよそ”と書く。
やろうともしない、出来もしないくせに、自分は凡人だと主張する人々は、どこまで自分評価が高いんだろうね?

しかし意味通りの凡人とは、スタンダードのこと。標準、普通だ。やれば出来るし、やらなければ出来ない。
ならば天才と無能が、対称の関係にあるんじゃないかな。
だったら、クズと対称にあるのは何だろう。

クズというのは、例えば、天才を引き合いに出して努力を怠る。努力しても追いつけないからとか、努力することも才能のうちだとか、それを怠ける理由にする。もっともらしいことを言って、怠けているだけなんだ。
例えば、醜悪なパロディ。モチーフを貶めた描き方をした挙句に、途中で放り出して完成させない。

やろうともしない。それは正確には、「行動する」という選択肢そのものが存在しないということだ。
では、それと対称なのは、「やらない」という選択肢が抜け落ちている奴ってことになるね。

凡人は、やれば出来るが、やらないこともあるし、やらなければ出来ない。
天才は、やらないからこそクズに落ちることもある。
やっても出来ない無能は、諦めてクズに落ちるかもしれない。

天才までを含めた全てと異なる、クズに落ちようがない存在。
それは“怪物”と呼ばれるのかもしれないね。
時に天才はおろか凡人にも劣る、しかし時に勝る。
クズに落ちないから、カンサービーストになることもない。

「クズに生きる価値は無いと、わざわざ主張するまでもないんだ。この世界は、魂の貧弱な者に容赦しない。」

おかげで、毎日が心地よい。
僕は幸せだ。

「何だかなあ。もっと優しい理屈ってのは無えのかね。」
「ならばマサキ、君なら何を考える?」
「いや、俺も否定したいわけじゃねえんだ。・・・

・・・要らない人間を殺して、理想の世界を作るべきだとは思っちゃいねえ。

だけど、人を迫害する弱さを、俺は絶対に認めねえ。
加害者も恐かったんだ、なんて意見を、許しちゃいけねえんだ。

俺には昔、友達がいたんだ。小学校のときな。
苗字も覚えてねえが、シンヤって名前だった。
そいつは大勢に、いじめられていて、屋上から飛び降りて死んだ。

自殺なんかじゃねえ。シンヤは、あいつらに殺されたんだ。
遺書が偽造だとか、そういうレベルの話じゃねんだ。
いじめから逃れようと自殺したなら、いじめた奴らが殺したも同然だ。

そんな奴らが、のうのうと生きて、青春を謳歌してやがる。
俺は世界に絶望したね。すぐに世界がメチャクチャになって、せいせいしたね。
シンヤをいじめた、あいつも、あいつも、あいつも、みんなカンサービーストになった。

「そんな奴らを俺は、この手で、ぶっっ殺してやったんだよ!!」

マサキは叫びながら笑っていた。
仇を取れて、嬉しそうだった。



◆ ◆ ◆



「何か飲むか?」
「お茶でいいよ。」
「おう。」

おわかりだろうか。僕は成り行きでマサキの家に来ている。
ちなみにマサキはカンサービーストに両親を殺されている。

緊張してきたなァ。

「マサキ、可愛いお客さん連れてきたね。」

え? ・・・・・・え?

「初めまして、大河天(たいが・そら)です。」

きめ細かな肌。艶やかな黒髪。溢れるような大人の色気。
このプロポーション抜群の妖艶な女は、何者!?

「・・・マサキの、お姉さんですか?」
「いや、違う。いとこでもない。」

どういうことだ。まさか死んだと思っていた母親が生きていたのか。
それにしても若すぎるような気はするが。

次の瞬間、マサキの口から衝撃の事実が飛び出した。

「・・・・・・ばあちゃん、だ。」

ジャンジャジャ〜ン!

「マジかよ! 何歳なんだ、あの人!?」

飲み物を用意しに台所へ行った後姿を見て、僕は本気で驚いていた。
いやらしいヒップラインが、ぷるんと揺れている。

「俺は親父が18のときの子で、親父はばあ・・・ソラが16のとき産んだって。」
「ということは50歳・・・世の中には科学では解明できないことが数多くある・・・。」

「フィールよ、フィール。」

お茶を運んできたソラさんが、納得いく答えを示してくれた。
なるほど、フィールなら全てが理解できる。

「やはり世の中、科学で解明できないことは無い・・・。」
「美人すぎる祖母と同居するのも、なかなか大変だけどな。」
「美人といえば、美人(みひと)さんとはお付き合いさせていただいてます。」
「そうですか。」
「めでたいぜ。」

・・・ん?
今、サラッと何か言わなかった?

・・・・・・
・・・・・・・・・

「「えええええ!?」」

僕とマサキは同時にお茶を噴き出した。

「ということは、マサキは僕の、義理の甥ということになるの!?」
「いや、驚くポイントはそこでいいのか!?」

父さんが最近付き合い始めた恋人が、まさかマサキの祖母だったとはな・・・。



- - - - - -



それにしても、マサキが僕のアプローチに鈍感なのは、普段から美女を見慣れているせいだったんだな。
ソラさん(顔芸とか分身とか出来そうな名前だ)みたいなレベル高い女と暮らしていれば、大概の女に食指は動かないだろう。それは不幸なのかはわからないが。

「じゃあ、これから美人さんとデートだから。」
「お、おう。」

ぎこちない笑顔で、マサキが手を振る。
気持ちはわかる。身内の恋愛事情って、妙に照れ臭いよね。

そして、正真正銘ふたりっきりである。ぱねぇ。

「ゲームでもやるか?」
「うん。」

ぷよぷよとボンブリスとスリーセブンで3時間ほど白熱したバトルを繰り広げ、気が付けば家は消滅。
でかすぎたんだ・・・僕たちのフィールが・・・。

そこへ通りかかった月島さんが、元通りの家を用意してくれた。やったね。
なんか一瞬で寸分違わぬ家が出現したんだけど、マジぱねぇな。

「ところでマサキ。僕のこと、名前で呼んでくれないの?」
「うっ・・・」

自分で宣言しておきながら、気恥ずかしいらしい。愛い奴よのう。

「お前のキャラはブレブレだな!」
「しーん、名前で呼んでくれないと反応しません。」
「してるじゃねえか!」
「返事が無い。ただの屍のようだァーー!!」
「そんな元気な屍がいてたまるか!」

ふざけは置いといて、真相でも語ろうか。
5年前に僕は、“シフト1”で物理法則を書き換えて、この世界にカンサービーストを出現させた。
何を言ってるんだって顔だね。しかし物理法則ってのは、そんな堅苦しい代物じゃないんだよ。

全ての人類がフィールを発生させることが出来るようになった。人類モーメント化ってところかな。
この世界をメチャクチャにしたのは僕で、マイナスのフィールがカンサービーストを生み出した。
だからマサキ、僕は君の両親の仇ってことになるね・・・。

冗談なんかじゃないよ。
唐突に告げるようだけど、僕にとっては何日も前から考えていたことだ。
今日、ここ。このときだって、思ったのさ。

「・・・いや、すまねえ。嘘や冗談じゃねえってのはわかる。だが、お前が物理法則を書き換えたから、この世界は滅びかけてるって言われても、ピンと来ねえ。」

マサキが言葉を選んでいるのが見て取れた。
本当は、ピンと来ないわけじゃないのだろう。

「何か色々ゴチャゴチャしてるけど、ひとつ確かなことがある。お前は親の仇なんかじゃねえよ。」
「僕が物理法則を書き換えたから、カンサービーストが出現したんだよ? マサキの両親は、カンサービーストに殺されたんじゃないか。」
「そうだ。俺の両親を殺したのはカンサービーストであって、お前じゃない。お前は法則を書き換えただけだ。」

わかってる。マサキの言ってることは、優しい慰めだ。
僕は悪い奴だ。世界をメチャクチャにした、最悪だ。

「僕は悪い奴だ。」
「お前は悪くない。俺も世界がメチャクチャになればいいと思っていた。シンヤが殺されたとき、そう思った。大事な人や、大切なものが、たくさん他にあるにもかかわらずな。」
「僕は最悪だ。」
「お前は俺たちの願いを叶えてくれただけだ。」
「そうじゃない。」

もうひとつ真相を語ろうか。
結論から言えば、シンヤの遺書は偽物だ。

シンヤは加害者に追われているうちに屋上へ辿り着き、追ってきた奴らから逃げようとした。
フェンスを乗り越え、気が付けば真っ逆さま。ぐちゃりと音がして、それでおしまい。
だから遺書は、誰かが偽造したんだろうね。

何故それを僕が知ってるかって?
ああ、そうだよ。久しぶり、マサキ。僕だよ。

「それとも、初めましてかな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

思ったほどの感動は無いもんだね。けっこう落ち着いているよ。
マサキも同じじゃないか?

「シンヤ・・・お前、女だったのか?」
「両方さ。僕は生まれながらにして、1つの魂で2つの肉体を持っている。二重人格の逆みたいなものかな。」
「そんなことが・・・いや、美人(みひと)さんなら、ありえるか・・・。」
「男の体の方は、ぐちゃぐちゃになって、火葬された。今更もう未練も無い。」
「・・・・・・シンヤは・・・世界を憎んでいたのか。」
「どうだろうね? もう思い出せないよ。僕は忘れっぽいんだ。」

前にも言っただろう、僕の人気は虚像だ。
好きだの何だのと言い寄ってくる奴らの中には、シンヤを蔑んでいた奴らが大勢いるんだぜ。
性格が悪い、性根が腐っている、気持ち悪い、意味不明、生きてる価値が無いって、そんなことを言ってた奴らが、同じ口で好意を吐く。僕の中身が好きだなんて、平気で口にする。

マサキ、僕は僕自身の願いを叶えただけなんだ。
自分勝手に、好き勝手に、世界をメチャクチャにした。
そして反省も後悔もしていない。
僕は、悪い奴なんだ。

「そうかもしれねえ。だけどシンヤ、世界がメチャクチャになればいいってのは、俺の願いでもあったんだぜ?」

言ったはずだぜ、シンヤ。
“俺たち”の願いだって。

真剣に世界を好きになろうって努力して、疲れ果ててボロボロになるまで諦めなくて、振り切った限界を三度も振り切って耐えてきて、ようやく絶望した奴がいる。
お前は、そういう奴ら全ての願いを叶えたんだ。

ああ、確かに悪い奴だ。
でもな、それが良いって奴も確実にいるんだ。

「それでいいと思わねえか? 世界が滅ぶ黄昏で、今更カッコつけて平和を願うほど、俺は人間できてねえ。」
「マサキ、ありがとう。・・・好きだよ。」
「ははっ、俺も好きだぜシンヤ・・・いや、マヤ。」

この期に及んでも、僕の気持ちが届かないのかい?
仕方ない、少し強引な手段を取らせてもらうよ。

「マサキ、愛してる。」

僕はマサキを押し倒した。

「ま、マヤ!?」
「世界が滅ぶ黄昏で、この気持ちを隠せるほど、僕は冷血じゃない。」


シルエットが重なった。






   平行決闘   完

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内 容 ニックネーム/日時
コング「一人ぼっちの孤独感と集団の中にいるのに孤独感を抱くのとでは種類が違う」
火剣「孤独でも自由ならいいが自由のない孤独はきついな。俺様も団体行動が苦手だからよく浮いていた」
コング「僕は友達がいないから常に一人。自由な孤独は辛くない」
ゴリーレッド「辛いと思うが」
火剣「面倒くさい人間関係に悩まずに済むという利点もある」
ゴリーレッド「人は切磋琢磨して磨かれるという部分もある」
コング「それはまともな人生を送って来た人間へのアドバイス。白夜行みたいに小学生で真っ裸にされて写真撮られたり、母親を殺したり。そんな過去がある少女に前向きに生きようとは言えない」
火剣「異性の親友を意識した時」
コング「♪どーこでー、こーわれーたーのおーフレーンズ!」
ゴリーレッド「壊れるのが悪いとも限らないが」
火剣「友情をベースにした愛情は強固だ」
コング「恋人でも対等の関係はある」
火剣「密林でビーストに襲われても共に闘う女子はいいな」
コング「ジャスミンやかごめのように」
火剣「優しく振るのは難しい」
ゴリーレッド「傷つけないようにしている気持ちが伝われば」
火剣「女があまりにもきつく男を振ると、ストーカーに豹変する危険性がある」
コング「父親と友人の祖母は考えにくい」
火剣「実年齢よりも見た目重要」
コング「テーガン!」
ゴリーレッド「魔法がとけた時が怖い」
火剣「終末を週末くらいに思える達観。人類滅亡ではなく自分の人生で考えた場合、それは凄い達観だ」
コング「現実と思っている『今』が長い長い大河ドラマだったらと考えたことがある」
火剣「大河だけに」
ゴリーレッド「ならば名優のごとく見事な名演技で演じきりたいものだ」
火剣獣三郎
2016/02/07 13:52
>火剣さん
私にとって中学までの学校生活は、まさしく自由なき孤独でした。団体行動には今でも苦手意識が強いです。
終末に近い黄昏の世界ですが、かえって自由に生きている人々がいて、そして絆で結ばれていますね。

佐久間「街の人ごみ肩がぶつかって独りぼっち♪果てない草原、風がビュンビュン独りぼっち♪」
山田「どっちかというと街の方が不安になるかな。」
神邪「集団行動が苦手というより、集団そのものが恐いです。街の人ごみは、敵意を剥いて襲いかかってくることもありますから。」
八武「やはり神邪くんは、女の子でいる方が色々と上手くいくのかねぃ?」
神邪「そうでもないですよ。向こうの世界の僕と違って、僕はマサキに恋愛感情は抱いてないですし。」
維澄「男モードのときは信用できる発言だけど、女の体になったときはヤンデレになってない?」
神邪「ハッハッハ、佐久間さんには敵いませんよ。」
佐久間「ヤンデレ巫女と呼んでくれ。」
山田「何それ恐い。」
佐久間「マヤも誠実な相手なら優しく振るが、シンヤを嫌う奴から好意を寄せられたら、傷つけることを躊躇わない。そこが大事だ。」
八武「振るのは変わらないのだねぃ。」
神邪「本命がマサキですからね。しかし母さんが父さんで、マサキの祖母と・・・こういう世界もあったのかもしれないと思うと、何だか感慨深いです。」
アッキー
2016/02/07 20:20

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平行決闘 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
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