佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS クラメーションあるいは蔵目翔 4

<<   作成日時 : 2016/02/15 00:00   >>

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彼は悲しくなかった。母を殺したという、自責の念に苦しめられることもなかった。
母親のことを憎んでいたわけでもないし、鬱陶しく思っていたわけでもない。母親を苦痛から解放できて良かったと思うだけだ。家事労働で母親の負担を軽減するのと同じ感覚だった。
薬代を稼いだのが無駄だったとは思っていない。体を売る苦痛や嫌悪感を、母親への恨みに変えることもなく、ただ母親の最後の望みを叶える為に、彼は超能力を使った。
自分の意思で超能力を使ったのは、それが初めてだった。そのときに自分の力を自覚した。学校になど通ってない彼は、科学の常識など知ることもなく、自分の力に疑問を抱くこともなかった。
母親が死んでから、彼は生まれて初めて石泥地区の第三区を出た。第二区は第三区と大して変わらず、第一区であっても澱んだ空気や臭気は相変わらずだった。広場で集会か何かが行われていて、聞き取りにくい大声が響いていた。その横を通り抜けると、彼は石泥地区の外へ出た。

空気が違う。
匂いも違う。

彼の心に得体の知れない恐怖や不安が湧いてきた。今まで彼は、住んでいた街の空気が澱んでいたことを認識していなかったし、臭気を臭気と感じていなかった。初めて味わう排気ガスの匂いに、彼は吐き気を催した。
道行く人々が嫌悪の表情を顕わにして、彼を見る。そして足早に去っていく。
自動車が何台も何台も、見たこともない速さで走っていく。それを見ているだけで眩暈がした。
頭がガンガンと痛くなり、ますます吐き気が強くなる。反射的に彼は、空間干渉能力を行使した。
車が吹っ飛んだ。
ビルの壁に車体が叩きつけられ、爆発炎上した。
常識で考えられないことが起こったとき、人間の脳は事態を認識する為に、時間を要することが多い。轟音を聞いて駆けつけた人々の方が、当事者より早くに叫び声を発した。
パニックが始まった。
絶叫と共に逃げ惑う人々。
あちこちで衝突する、車、車、車。
彼は心の底から湧きあがってくる興奮を抑え切れなかった。
「うっひゃあ! こいつァべらぼうだぜコンチキショーめ!」
彼は交差点の中央に躍り出ると、やっほうと掛け声をあげて宙返りをした。
「コンコンチキのバーローだ! んだっとくらあ!」
喜びを表現する言葉が見つからず、苛々するくらいだった。
「どいつもこいつも、あー、どいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもダーッだ! あはははははは!」
彼は生まれて初めて大声で笑い、そこら中を飛び跳ねた。




つづく

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内 容 ニックネーム/日時
火剣獣三郎「学校に行ってないと科学だけじゃなくほかの常識や良識も知らないことになる」
コング「僕も学校に行ったことがないから九九は苦手だ」
ゴリーレッド「コングは衣食住揃っている環境だったから蔵目翔とは違う」
コング「そう、物心ついた時は格闘特訓の日々。シティーハンターと同じだ。ぐひひひ」
火剣「蔵目翔はジャングルの中で生存競争か。きついな。スラム街の外は決してキレイな楽園ではなかった」
コング「汚い少年を蔑んだ目で見たのがいけなかった。蔵目翔じゃなくても罪悪感が薄くなる」
火剣「無関心は怖いんだ。いつ自分に降りかかって来るかわからねえ」
ゴリーレッド「ドラマ『わたしを離さないで』も臓器提供のためのクローン人間をつくり、そういう施設があることを皆日本人は知っているけど口を閉ざしているという設定だ。目的は意味あるし、まあ、クローンだし、と」
火剣「スラム街もそうか。上から目線で救出というノリだと反感を買う。いかにプライド、人権尊厳を傷つけないで守るかが鍵だ」
コング「誇り高きヒロインがプライドを傷つけられるのは興奮するが」
ゴリーレッド「コングの頭が傷つくと興奮する人もいるかもしれない」
コング「いないいない」
火剣「しかし蔵目翔はどこへ行く。誰が止めないと」
コング「喜びを表現する言葉を教えれば落ち着くか。うりいいいいいい!」
ゴリーレッド「・・・」
火剣獣三郎
2016/02/15 16:58
>火剣さん
常識と無縁に生きてきた蔵目翔は、それゆえに超能力を発揮し、同時に暴走してしまっています。誰かが駆け寄ってきて保護していれば、こうはならなかったのかもしれません。果たして彼を止める者はいるのでしょうか。

佐久間「人間社会の常識は難しい。」
山田「難しくはないだろう。守り続けるのは簡単ではないが。」
佐久間「意味不明な言葉“みんな仲良く”。人を蔑む連中とも仲良くしなければならないのかな。」
山田「その連中が常識を守れてねえ!」
八武「みんな意外と常識は身についていないものだよ。」
維澄「学ばないと習得できないものだからね。」
神邪「僕も常識ある方ではないですが、世の中の大半が僕より常識知らずなのは何故でしょう。」
八武「なまじ自分は常識人だと思ってる人は、常識を学ぶことをやめてしまうからねぃ。」
山田「俺も気をつけよう。」
佐久間「やけに殊勝な山田。」
維澄「常識は不変ではないから、学ぶことをやめると次第に常識知らずになっていく。老人に多いタイプ。」
佐久間「老いとは醜いものだな。」
山田「それも厳しい意見だと思うが・・。」
八武「いつまでもエロく若々しくありたいものだねぃ。」
佐久間「そう、エロさと若さには密接な関係がある。」
神邪「そういえば蔵目さんは老女好きですが、もしかして彼を止める人というのは・・」
佐久間「次回登場。」
アッキー
2016/02/15 20:26

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