佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS ○○学科のアルト先生

<<   作成日時 : 2016/02/06 00:00   >>

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子供の頃の最悪の思い出は、自分の世界が壊れたこと。
私にとっての最大の屈辱は、大事なものを守れないこと。
目玉をギョロギョロさせた教授の質問に、私は心の中で即答した。

今現在、私の周囲は平和で溢れている。光の洪水の中にいるようだ。
この大学にも長く居るが、そういえば私も、それなりの齢になった。
私の面倒をみてくれた人が、私を引き取った年齢に。

しかし平和は、平和ならではの面倒なこともある。
色恋沙汰は、むしろ平和な方が大変だ。


「先生、好きです! 付き合ってください!」


ブラックコーヒーを飲み終わった途端、静寂な廊下をバリトンの声が切り裂いた。
私を見つめる彼の眼差しは真剣そのもので、これが冗談や罰ゲームでないことは明らかだ。
女子学生から人気の高い彼に、浮いた噂ひとつ聞かなかったのは、こういうことだったのか。

裏表の無いストレートな感情をぶつけてくる、まだ成人式も済んでない男子学生。
そこから、子供の頃に出会った少年を連想してしまうのは、我ながら単純な思考回路だ。
特に容姿が似ているわけでもないが、困っている人を放っておけない、お人好し繋がりだろうか。
思わず微笑んで溜息をついてしまう。我ながら気持ち悪い。

すると彼は、それを違う意味で受け取ったのか、羞恥と諦観の混じったような顔で横を向いた。

「・・・おかしいですよね、やっぱり。」

確かに一般的には、そうなのだろう。
教授と学生、10の年の差、それに・・・


「男同士なんて、気持ち悪いですよね・・・。」


困っている人を放っておけない彼は、彼が助けた人よりも困った顔をして、涙ぐんでいた。
周囲からは、女子にモテることを羨ましがられている彼。やっかむ者も少なくない。
しかし彼の態度は、それを特に喜んでいないので、いっそう風当たりがキツくなる。

同性愛者であること、セクシャル・マイノリティーであることは、普段の生活から苦労する。
大勢が当たり前だと思っていることが、彼らを苦しめる。

「わかってるんです、先生はフツーの男だって。でも、俺は告白せずにはいられなかったんです!」

しかし彼は、ひとつ勘違いしているようだ。
私は君が言うような、「フツーの男」などでは決してない。
低い声、骨ばった体、悪い人相・・・外見的には男そのものだが、私の肉体的性別は女だ。

そのことを告げてやったら、こいつは、どういう顔をするだろう?

といっても、私は自分のことを男だと認識しているし、公的にも男で通している。
好きになる相手も女で、恋愛的な意味で男を好きになったことはない。
生殖器と染色体を除けば、確かに「フツーの男」かもしれない。

しかし男にしては華奢で、女にしては骨ばっていて声も低い。ハスキーボイスやアルト声を通り越して、男の声だ。
そんな中途半端な肉体に、コンプレックスを抱いてきた。
冗談めかして自虐的なセリフを吐いたこともあるが、傷ついただけだった。

こいつも傷つけてやろうか。

「私は、君のことを気持ち悪いなんて思わない。」

なんてな。

「だけど、君の気持ちに応えることは出来ない。私には好きな人がいるから。」

心を殺すことしか出来なかった、子供の頃とは違う。
今の私は、自分の心も相手の心も、守ってやることが出来る。

それでこそ平和ってもんだろう。


・・・なァ、ヒーロー?



- - - - - -



子供の頃の最悪の思い出は、自分の世界が壊れたこと。
汚れてもいい格好で、私は男の子たちと遊ぼうとしていた。
かつての同僚に聞かれたら、しつこく詳細を訊かれそうな光景だ。

サッカーをしていた少年たちの輪に、入ろうと声をかける機会を窺っていた。
折り良く、私のもとへサッカーボールが転がってきたので、拾い上げた。

私は、一緒に遊びたかった。
ただそれだけだった。

しかし彼らは私を拒絶し、そして私も彼らを拒絶した。
災いは、雪だるま式に膨らんでいった。

大人がやって来て。
透明な盾を持った部隊がやって来て。
重火器や戦車、ヘリコプターがやって来て。

私は“バケモノ”になった。
他に誰の机も無い教室は、否応なく孤独を自覚させた。

私は寂しかったんだ。



私にとっての最大の屈辱は、大事なものを守れないこと。
寂しさの代わりに訪れたのは、温かさと、それを失う恐怖。

いずれ失われるものなら、この手で終わらせてやろうと。
今でも時折、心のベクトルがバランスを失いそうになる。


「おかえりなさいアナタって、ミサカはミサカは三つ指ついて、お出迎えしてみる!」
「・・・何やってンだ、オマエ。」

帰ってきた私を出迎えたのは、メイド服を着た少女だった。
思わず真顔で硬直し、昔の口調でツッコんでしまった。

「あ、それともブルマが良かった? ってミサカはミサカはアナタの性癖に媚びてみる!」

頭痛がしてきた。

「ぎゃはははは、もう育ち過ぎちゃって対象外だってさ。」

そこへ対照的な毒気たっぷりの声が飛んできた。
ツッコむ気にもなれず、おかげで私の方は毒気が抜けた。

さっきまでの鬱屈した思考が馬鹿馬鹿しくなるほど、この今は、平和だ。





   とある科学の鈴科先生   -終-

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内 容 ニックネーム/日時
火剣「オペラ座の怪人」
コング「いい話だ」
火剣「ファントムは泣かされたな」
コング「見事な復讐劇」
火剣「悲しいけど何かいい話に感じた」
コング「醜いから何をしても許されるのか?」
火剣「それで思い出した。裁判でよくある過去の悲惨な体験で減刑を狙う弁護士」
コング「自分を悲惨に遭わせた張本人への復讐なら情状酌量の余地はあるが、全く無関係の人間を殺したら何の理由にもならない」
火剣「ところで鈍郎もそうだが、まあ鈍郎の場合は茶倉と結婚しているから多少違うだろうが、世間の無理解はヘタしたら自殺に追い込む。いや何人も自殺に追い込まれている話を聞いた」
コング「趣味ではなく『脳』が女であり男なんだと3年B組金髪先生で知った」
火剣「金八先生だ」
コング「鶴本直の葛藤は泣ける」
火剣「脳は男で体は女。周囲は自分を女としか見ない。直は部屋にサンドバッグがあり、毎日鍛えていた。心外な男子には鉄拳制裁!」
コング「しかしそんな強い人間ばかりではない。中学生は残酷だから金八先生じゃなかったら残忍な虐待・迫害もあり得た」
火剣「東京の一部の区では肩身の狭い思いをしないような改正が行われたが、全国的にはまだまだで、テレビも笑いごとにしている」
コング「僕も本当に理解している自信はないので口出しできない」
火剣「俺もだ」
コング「難しい問題であーるの・・・」
火剣「2億4千万の瞳は80年代であの歌詞は先駆的か?」
コング「♪おーとこをおんなをハーフをー、生きてるだっけじゃさーびしいよー」
火剣「トイレや更衣室や風呂のように男女の二択しかないのが世の中だからな」
コング「人間として真っすぐ見るのはムズイ。僕の目には美女及び美少女しか映らない」
火剣「・・・難しい世の中だ」
火剣獣三郎
2016/02/06 17:15
>火剣さん

最近、妹が「オペラ座の怪人」のセリフ起こしをしていまして、あらためてストーリーを眺めてみました。カルロッタは別に嫌な奴ではなくて、むしろ恋人を殺されて可哀想だと思ったり、クリスティーヌやファントムの印象も少し変わりましたね。

佐久間「カルロッタ復活!」
山田「美女と野獣といい、アッキーのパロディはヒロインの戦闘力が高くなるな。」
八武「良いことだ。強い女は好き。」
維澄「カルロッタは咽を潰されて終わりかと思いきや、ちゃんと復帰してたんだ。」
神邪「なるほど、ファントムは情状酌量の余地は無いということですね。同情できるかどうかと、罪の軽重は別物。」
山田「そうだな。生い立ちに同情するからこそ、軽い罪で済ませてはならないという見方も出来る。」

私も精神的に男女両方の性を持っているので、表面的な性で見られることには、どうしても違和感を覚えます。元の名前よりもハンドルネームの方がしっくりきますし、表面的な性別で役割分担を引き受けたくないという感覚が強いですね。

佐久間「男性脳、女性脳の他に、中性脳というのもある。」
八武「精神的性別は、実はグラデーション的なのだよねぃ。」
山田「なるほどな。」
神邪「僕も中性でしょうか。」
佐久間「どっちかというと女性脳寄り。私は逆に男性脳寄りかな。」
維澄「鶴本直は男性脳にしては髪は長めだったけど、しかし佐久間もロングか。」
佐久間「まあ、あれは別のドラマもあるだろうし、あまり短くは出来ないだろう。」
山田「メタだな!」
佐久間「・・・それに、男並みに短くしても男と受け取られない。」
山田「ああ・・・。難しいな。」
佐久間「肉体男で脳は女の場合よりも、迫害には遭いにくいが、認識も変えにくい。」
アッキー
2016/02/06 22:55

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