佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第十六話 十戦士集結! 10

<<   作成日時 : 2016/03/22 00:00   >>

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「試みに問う。人類の歴史上、もっとも多くの人間を死に至らしめた学者は誰か?」
頭巾とマスクに包まれた顔は、双眸の存在感を際立たせていた。
ハカセの質問に対し、才場はイマイチ要領を得ないといった顔をする。
「それは相対的なものでしょう。直接、というのであっても、学者の定義も曖昧ですし。」
「そう厳密な話ではない・・・Dr.ホワイトとDr.ティリングハーストの会話のようなものだよ。」
「なるほど、ノーベルやアインシュタイン、オッペンハイマーではなく、『進化論』のダーウィン。兵器よりも思想の方が多くを殺す・・・ゆえに“学者”というわけですか。」
「理解の早い男は好きだよ。」
かつて出会った天才少年を思い出しながら、ハカセは笑みを浮かべた。
「思想という点では、特定の宗教や主義よりも、一見して平凡な言説の方が恐ろしいのかもしれないですね。誰もが点検するものよりも、多くが信じて疑わないものの方が、よっぽど―――」
そう言って目を細める才場に、ハカセは「うふふ」と笑いかける。
「私は、いわゆる“マッドサイエンティスト”だ。研究と発見の前には他の全てが色褪せて見え、視界にすら入らない、きわめて“正直な科学者”だよ。どれほど不自然で歪んだ研究であっても、やらずにはおれないエゴイストだ。しかし“自然”とは何か? 生けとし生ける者に“死”をもたらす、命を踏み潰す世界を、“自然”と呼ぶのではないか? 文明の進歩によって人間の寿命が延びることは、おしなべて不自然なものだ。快適で安全な生活も、医学で病を治すことも、自然への反逆だ。“自然”というものは、どこまでも弱者に厳しく冷たい、残酷な神の支配領域なのだよ。」
「“自然に帰れ”・・・ルソーこそが、最も多くを殺した学者である、と?」
「いつの世においても、生きるということは自然に身を任せることではなく、自然に逆らう意志そのものなのだ。どこの誰とも知れぬ存在の気まぐれで、命を奪われたくはあるまい。たとえそれが神であってもだ! 自然が望むならと大人しく死を受け入れるのではなく、意地でも生きようと足掻き、死と向かい合う・・・それこそが“生きる”ということであり、遍く進化の源なのだ。“生きたい”と“生きる”は、きっと同じものだよ、才場くん。」
「“精一杯、生きる”・・・それもまた、大勢を殺しそうな思想ですね。」
「うふふ・・・己の信念を貫いた先に、どこへ辿り着こうと幸福ではないのかな? 天国や地獄であっても・・・虚無であっても。」
「・・・だからハカセ、あなたは強い。」
「君の“願い”は何かね才場くん? 生きようと足掻く為に必要なのは、自然を征服する“意志”と、未来においても二度と現れないであろう、素晴らしい“願い”なのだ・・・。」
「僕の願いは、叶うでしょうか。」
真剣な目つきで、才場はハカセに尋ねた。
「狂おしいまでに足掻きたまえ。生きようと足掻く者の傍らに身を置くのが、私のライフワークだ。命の匂いとは、常に進化の最先端にあるのだから。」
「ハカセが見たいのは、僕ではなくイヴィルさんの進化なんですよね。」
「それは拗ねているのかね? それとも質問かね? いずれにしても私の答えは“それだけではない”だ。」
ハカセは自分もビーカーの緑茶を口にして、そして才場を指差した。
「君は、裏表の無い人間を羨ましいと思うかね?」
「思いませんね。」
即答した才場は、言葉を続ける。
「これまでにも思ったことはありませんし、これからも思わないでしょう。それは僕の理性とは相容れないものです。」
「うふふ。私は生まれたばかりの赤子や元気いっぱいの子供に、生命の息吹を感じたことがない。ありのままの“自然な”生命の姿は、煩わしく醜いとさえ思う。自然なままの人間は、命が澱み、腐ってしまう。“不自然な不格好”こそ、美しいのだよ。」
「思ったことを何でも口に出すのは、“正直”ではなく“無神経”。ありのままの自分を隠せない心根は醜い。相手の気持ちを考えて無口になってしまうのは、“口下手”ではなく“優しさ”。たとえ不自然に見られようとも、それは美徳というわけですね。」
「うふふふ、君は教育者よりも科学者に向いているようだ。」
「それも悪くはないですが、やはり僕の本性は教育者なのですよ。科学者ではなく、科学者を育てる人間に、僕はなりたい。優れた者ほど学ぶべきことは多い。学びたい者が学びたいだけ学べるように、僕は教育者であり続ける。高度な教育は、容易く満足してしまう器などには必要ない。常に飢餓感を抱いている貪欲な才能こそ、教育で磨く価値がある。イヴィルさんが狂った者の味方であるように、僕は―――――」


- - - - - -


かつてアルカディアでは、“イヴィル・サトリン”を殺そうという動きがあった。力を課すことに制限の無い“ε”は、放っておけば際限なくプログラムを増殖させ、そのフィードバックで成長し続けると恐れられたのだ。しかも彼女は、狂った者の味方を自称するような、邪悪な性質を持っていた。かつての私よりも、恐れられた。
“イヴィル・サトリン”を殺すことは簡単だ。媒体である入流聡子の肉体を破壊すれば、それで事足りる。しかしそのときは“サトリン”も死んでしまうので、抹殺の選択は未だに保留されてるというわけさ。保留期限は“イヴィル・サトリン”が完全体になってしまうまで・・・。完全体になれば、もはや彼女にとって入流聡子の肉体は足枷にならない。他者の肉体を乗っ取る必要さえ、失せて消える。
対処療法としては、イヴィルの一部を課せられた“邪戦士”を無力化する方法がある。七美の能力“人格消去”(マインドデリート)は、イヴィルのプログラムごと人格を消し、後から“δ−サトリン”によって人格のみを復元する、不殺の道だ。コンピューターのデータは、物理的に破壊しない限り、削除してもメモリに残っている。それと同じで、“人格消去”といっても実際には記憶喪失状態に近い。この方法ではイヴィルのプログラムも完全には消えないが、七美の本来の能力は、その問題もクリアしていた。一時的に人格を消すこともなく、プログラムだけをピンポイントで完全消滅させることが出来るのさ。
などと言うと無敵の能力に聞こえるかもしれないが、出力が限られている以上、より大きな出力には押し負ける。それにイヴィルの本体は電脳世界の深い海に身を沈めているので、直接対決するには電脳世界へ行かねばならない。
それを可能とする者、電脳世界へ行くことが出来る者を、“電脳戦士”と呼ぶのだ。



つづく

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内 容 ニックネーム/日時
火剣「兵器よりも思想が多くを殺すか。間違った思想がはびこるのも阻止しなければいけないが、もともとは正しい思想を後の時代の人間が歪曲して危険思想にしてしまうこともある」
ゴリーレッド「かつて出会った天才少年とは」
コング「ハカセは自分がマッドサイエンティストでエゴイストだと自覚があるのか。余計強い」
火剣「才場も深い。裏表のない人間か。大人は赤ちゃんと違う。墓場まで持っていくべき秘密の二三はある。全部オープンに開けってぴろげな人間が良いとする日本だが、嘘をつくしかない人生もあるんだ」
コング「僕は常にオープン。裏表がない」
ゴリーレッド「人間かどうかも怪しい」
コング「待て」
火剣「正直と無神経。これは声を大にして言うべき主張だ。無神経は人を傷つける。人一倍言葉に気をつけている人を口下手とは言わない。聞き上手こそ真の雄弁だ」
ゴリーレッド「思慮深いからペラペラ喋らない場合がある。無口だから口下手というのは浅い見方だ」
コング「イヴィル暗殺計画なんかあるのか。でもサトリンまで消すことはできない。イヴィルはそんな悪い子ではないように思うが」
火剣「教育者を育て、学びたい欲求を満たすことは素晴らしいことだが、目の前の少女が麻酔なしで拷問同然の仕打ちを受けていることをどう見る」
コング「守名実は悪い子なのか?」
ゴリーレッド「だからってこの仕打ちは酷い」
火剣「電脳世界に入るのは勇気がいる」
コング「もちろん入る時は服が消滅して全裸か?」
ゴリーレッド「ターミネーターではない」
コング「美女・美少女しか入れない電脳世界。だから電脳戦士も面接が厳しい」
ゴリーレッド「黙れ」
火剣「電脳戦士は美少女のみか?」
ゴリーレッド「そんなわけない」
火剣獣三郎
2016/03/22 10:09
>火剣さん
ダーウィンは反差別の人でしたが、その思想を曲解した先に社会ダーウィニズムがあり、ナチスがありました。ルソーにしても、後世の人々の実践が、その価値を損なっていったように思います。
歴史上の偉人に学ぶのは良いことですが、自分で考えたことと照らし合わせてこそ価値が生まれるはず。

維澄「思想の価値は、実践によって決まる。それはマルクスも言っていたことなんだ。」
佐久間「他の考え方を否定するような実践者が、マルクス主義を駄目にしたと言いたいの?」
維澄「マルクス主義は、社会学の中で唯一メタ化した思想なのだけれど、これは数学界では、ごく当たり前のことでしかない。」
神邪「ですね。思想の価値は実践で決まると言われても、現代人にとっては当たり前のことを言われているに過ぎないですから。」
山田「なるほど、そりゃそうだ。当時は今ほど自然科学が発達してなかったんだった。」
八武「普段は無口な女の子が、機を得て雄弁になるのって萌えるよね。」
山田「女子限定か?」
八武「いつもは露出の少ない女の子が、特別なときには生脚を見せると萌える。これと同じ理屈だよ。」
山田「何の話になってるんだ。」
八武「真面目な話だよ山田くん。服装も発言も、魅せようと思えば思慮深さは必須。」
山田「そういうことか。」
神邪「本当の意味で口下手というのは、思ったことを何でも言ってしまうことなんですね。」
佐久間「自分の言いたいことは、整理して話さないとな・・。それには訓練が必要だが。」
維澄「その訓練を積まなかったのが、左翼が衰退した理由の1つ。」
アッキー
2016/03/22 21:10
維澄「それはさておき。電脳戦士は男もいるけれど、女は見目麗しいというのは当たっているかもしれないね。」
神邪「確かにそうです。」
八武「聡子、七美、瑠璃子、凜、若返った櫃。みんな可愛い。」
佐久間「対して邪戦士は、隆子や昼みたいなのが混ざっている。イヴィルの方が、容姿で人を選ばないというわけだ。」
山田「偶然だと思うが・・。邪戦士側にも美人はいるし。」
アッキー
2016/03/22 21:10

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