佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「千里」 第十一話 レックス・ブースター (下)

<<   作成日時 : 2016/05/02 00:10   >>

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■■■■■■■■■■



レックスはしばらく2つの状態を行き来していた。
果てしない悲しみで苦しむときと、殆ど何も考えずに虚ろになっているときとを、交互に繰り返していた。
何度か、そういう状態を過ごしているうちに、4日が過ぎた。最初の日に酒が尽きたのは、レックスの体にとっては良かったかもしれない。
そして10月19日。この日がレックスにとって真に辛い別れの日になるのである。

この日、レックスのもとに訪問者があった。
扉をノックする音を聞いて、レックスはハッとして振り向いた。
「レックス、いる?」
ジョアンナの声だった。
レックスはすぐに扉を開けた。
「ジョアンナ・・・。」
「レックス、ちょっと来て欲しいの。」
「あ、ああ・・。」
どういうわけだろう。ジョアンナはやけに真剣な顔をしていたが、そこには恋人を殺された怒りや悲しみといったものは微塵も感じられなかった。
レックスは不可解に思いながらも黙って彼女の後についていった。
無言で歩くジョアンナの後姿が、何故か酷く不気味に感じられた。

案内されてやって来たのは、街外れの廃工場だった。
「・・・ジョアンナ?」
レックスは恐る恐る呼びかけた。
「レックス。あなたに会わせたい人がいるわ。」
「会わせたい人?」
「ええ。」
ジョアンナは廃工場の中へ入っていく。レックスもそれに続く。
中には40人くらいの若者たちが待機していた。だいたいがレックスの見知った顔。ランドの取り巻きたちだ。
そしてその中心、錆びてガラクタになった機械の上に、1人の男が腰掛けていた。
「・・・・嘘。」
そこには5日前に死んだはずのランドが、生きて座っていたのだ。
「・・・・・・・。」
レックスは思わず自分の頬をつねってみた。
「・・・・痛い。」
「おいおいレックス。俺が生きてて嬉しくないのか?」
まさしくそれはランドの声。
「アニキ・・・?」
「そうだ。夢じゃねえぜ。」
「で、でもアニキはあのとき殺されたはずじゃ・・?」
レックスは何が何だかわからなかった。
「ああ、今から説明する。どうしても死んだフリをする必要があったんでな・・。」

ランドは語り出した。
「ヘッドシーフ。巷じゃ、ジャック・ザ・リッパーの再来とか言われてるが、実際は、人間の首だけをテレポートで持ち去ることの出来るエスパーだ。」
「・・・・・!」
クレアから聞いた話と同じだった。
「どうしてそんなことを・・・?」
「それは・・・俺がヘッドシーフだからさ。」
そう言ってランドはニヤリと笑った。
「!!?」
レックスは戦慄した。そしてこのときにハッキリとわかった。ランドが生きていて嬉しいはずなのに、言い知れぬ不気味さを感じていたのはどうしてなのか。
ランドも、ジョアンナも、そして他のみんなも、今までレックスが知っていた彼らではなかった。特に、その中心であるランドからは、強い圧迫感が漂っていた。
「オウンとやり合ったときの一件で、奴は俺たちに目をつけた。俺がヘッドシーフだという証拠は掴んでいなかったが、あいつらにとっちゃ、証拠なんてどうでもいいことだ。いや、俺たちの中にヘッドシーフがいるかどうかってことすら、どうでもいいんだろう。目障りだから潰す。それだけだ。」
「・・・・・・。」
「というわけで俺はヘッドシーフに殺されたフリをするはめになったわけだ。」
そう言ってランドはフッと笑った。
「方法は簡単。まず、あらかじめ捕らえておいた身代わりの男に、俺と同じ格好をさせる。そして俺がレックスに近付き、テレポートすると同時に身代わりを首だけ残してテレポートさせる。これで入れ替わりの完成だ。あの死体は、温かかったろ?」
そう言って笑うランドに、レックスは心底ゾッとした。
こんなランドは知らなかった。
「レックス、騙してすまなかった。だが、敵の目を欺くには、どうしても必要だったんだ。敵を欺くにはまず味方からってな。」
「・・・・・・。」
「レックス。俺たちは幼い頃から散々いたぶられてきたよなあ。ここにいるみんなもそうだ。誰が俺たちをいたぶってきた? ゴールド家の3兄弟か。違うな。奴らは現段階では、直接的な暴力の実行者に過ぎない。その裏に狡猾で残忍な連中がウヨウヨいやがるんだ。」
「・・・ゴールドの親父か。」
「それだけじゃねえ。金持ち連中はみんなそうだ。奴らは俺たち貧乏人から何もかも奪っていきやがる。金も命も生活も・・・人としての誇りや尊厳もだ! 俺たちはずっと耐えてきた・・・。ベトナムへ行かされてんのも、殆どは貧乏人だ。たくさんの仲間が殺されたし、たくさんの敵を殺した。だが、その敵だって、本来は平穏に暮らしていたはずの人々だったんだ!」
「・・・・・・・。」
「今度は俺たちが奴らから奪ってやるのさ。手っ取り早く皆殺しにすることも出来るが、それだと奴らの顔が恐怖で歪むのが見れないだろ?」
「・・・・・!」
「社会に訴えても無駄なことだ。貧乏人の言葉は貧乏人にしか届かない。理解されない。共感されない。ゴネ得だ、ガキのワガママだと一蹴される。善良なツラした奴らの、そんな言葉に振り回されんのはまっぴらなんだよ!」
吐き捨てるように、泥を噴き上げるように怒るランドは、レックスのよく知るランドだった。
「アニキ・・・。」
「俺たちに協力しろ、レックス。お前の力が必要なんだ。」
「オレの力が必要・・・?」
「そうさ、レックス。何故なら・・・お前もエスパーだからだ。」
「ああ!?」
レックスは面食らった。
それにも構わずランドは話を続ける。
「自覚してないのも無理はない。お前の能力は他にエスパーがいて初めて発揮されるものだからな。」
「ちょっと待て・・・オレがエスパーって、そりゃ・・・」
「戸惑うのも無理ねえが、事実だ。お前の能力は“アンプリファイア”。他のエスパーの能力の出力を増幅する能力・・・。俺がヘッドシーフとして活動できたのもレックス、お前のおかげさ。お前が近くにいてくれたから、俺は申し分なく実力を発揮できた。」
「!!」
「そのせいでお前まで嫌疑リストの対象になっちまったようだが・・・。」
「・・ちょっと・・・・ちょっと待て・・・。・・じゃあ・・・今までの殺人は・・・オレの・・・。」
レックスはわなわなと震えた。
自分がエスパーであり、あの恐ろしい殺人事件の一端を担っていた・・。恐怖や罪悪感にも似たよくわからない感情が彼を襲った。
そして、それに追い討ちをかけるようにランドが言った。
「仲間になれ、レックス。断るなら・・・ここで殺す。」
「!」

ショック。ショック。ショック。
レックスはこの短期間で、あまりに多くの衝撃を受けてきた。エスパーとの出会い、殺人事件の目撃、ランドの“死”、ランドが実は生きていたこと、自分がエスパーであること。
そして今、敬愛していた義兄の口から聞く、恐ろしい言葉。
「俺とお前が組めば無敵だぜ。軍隊だって敵いやしねえ。逆らう奴は、みんな首をすっ飛ばしてやる。」
「アニキ・・・。」
レックスは悲しそうに呟いた。
「・・・・・・・・。1分待つ。その間に答を決めろ。」

10秒。
20秒。
30秒。
長いのか短いのかよくわからない感覚で、レックスは時間の過ぎるのを待っていた。
もう答えは決まっていたのだ。
「時間だ。答を聞こう。」
「・・その前にひとつ訊かせてくれ。アニキは、オレに近付いたのは、オレの力を利用するつもりでだったのか?」
この質問にランドは少し目をしばたかせた。
「・・・正直、半々ってとこだな。お前と会った頃は俺の能力も今ほどは強くなかったが、何かに使えると思ってたのは確かだ。」
「そうか・・。オレの答えは・・・


オレの答えはNOだ。」

レックスは面と向かって宣言した。
この答えには一同ざわついた。
「ほう・・・そうか。残念だが殺すしかないようだ。仲間以外に機密をバラすわけにはいかないんでな。だが、死ぬ前に理由くらいは言わせてやる。」
「・・・アニキ。もしアンタが・・・オレと出会ったときのアンタが、胸の内を明かしてくれれば、それがたとえ全て打算であってもオレは・・・・オレは・・・・」
レックスの目には涙が潤んでいた。
「仲間になれって言ったよな。今までオレはアニキの仲間じゃなかったってことなんだと・・・そのときにわかってしまったんだ。今までの日々は・・・偽りだった。」
「・・・そうか。どうやら俺たちはすれ違いすぎたみてえだな。」
そう言ってランドは右手をレックスに向かってかざした。
不気味なほど無表情だった。
「お別れだ、レックス。」
「ああ。・・・偽物の日々でも・・・けっこー楽しかったぜ。」

ズシュッ

その場にいた誰もが、何が起きたのかを咄嗟には理解できなかった。
「アニキ・・?」
レックスは信じられない光景を目にしていた。
ランドの頭を血まみれの腕が貫いていた。
「アニキ!?」
レックスがようやく目の前で起こっていることを理解し始めたときには、ランドの体は崩れ落ちていた。
その後ろに、左手を紅に染めた銀髪の少年と、目を大きく見開いたクレアが立っていた。
「クレア!?」
(それに・・・あの銀髪・・!)
レックスが驚いて目をパチパチさせていると、クレアが言った。
「殲滅しろ。」
それを言ったか言わないかの間に、リュウの姿は消えていた。
次の瞬間、レックスの視界には、次々と血飛沫をあげて倒れていくランドの舎弟たちが映った。
「あ・・う・・・」
何か言おうとして言葉にならない間に、惨劇は終わっていた。
わずか数秒の間に、この場の生きている人間は、レックスとクレア、リュウの3人だけになっていた。
「8秒31。反撃を許すには十分な時間ね・・。」
クレアの冷たい声が響き渡った。
「まあ、反撃など到底できないのはわかっていたけど。」
「うるさいな。仕方ないだろ。」
そう文句を言いながら、リュウはテレポートでクレアと共にレックスの前まで来た。
「クレア・・・!」
レックスは歯軋りしてクレアを睨んだ。
「最初から・・・知ってたんだな!? ヘッドシーフの正体がアニキだってことも! オレが、エスパーだってことも!」
「ああ・・。ランドがお前を利用してたこともな・・。」
「・・なんで・・なんで教えてくれなかった!?」
「・・教えたところで、私の言うことなど信じたか?」
「それでも・・・それでも・・・。」
レックスは涙を流して俯いた。
「・・ああ、レックス。お前が怒ってるのは自分になんだな。」
「!」
レックスはクレアをギッと睨んだ。
「ランドでも私でもなく・・自分の無力さが許せないんだ。」
「知った風な口を利くな!」
「すまないね、知った風な口を利くのは千里眼の性分だ。・・今日はもう帰るよ。独りになりたいだろうからな。」
「とっとと行けよ!」
「ああ。・・リュウ。」
クレアが言うと、リュウはテレポートでクレアを連れて、その場から消え去った。


惨殺死体の群れを前にして、レックスは1人で廃屋に取り残された。
「ハ・・・ハハ・・・アハハハ!」
レックスは悲しみで歪んだ顔で笑い出した。
目からは止め処も無く涙が溢れていた。
「結局オレの人生って何だったんだあ・・。アッハハハハハ・・・。何が仲間だ。何がエスパーだ。ふざけんなよバーカ。」
段々と何が言いたいのか、何を考えたいのかすらわからなくなってきた。
「アハ、アハ、アハハ・・・ハハ・・・ハ・・・。」
レックスは乾いた笑い声を発しながら、その場にへたりこんだ。


- - - - - -


「未来が・・狂い始めている。」
事務所でクレアが呟いた。
「・・何だって?」
リュウが振り向いた。
「何者かが未来に干渉している。このままでは私とレックスはすれ違ってしまう・・。」
「・・・それはクレアのせいだろ。未来に干渉してるのはクレアじゃないか。だいたいクレアの言う“未来”って、15年も前の予知だし。」
「・・・・。ヘッドシーフの出現は、私の予知に無かった。」
「はあ?」
「ヘッドシーフの件が無ければ・・私とレックスの接触の仕方もだいぶ違った。お前やルナもいるし、予定していた未来へと事は進んでいた。」
「・・・・・・。」
リュウは溜息をついた。
「15年前のクレアの能力は、今のクレアに遠く及ばないだろ? その程度の予知が15年間も正確であり続けられるわけがない。」
「まあね・・・。予知は、それを知る者の行動によって、時々刻々と変わっていく。予知能力者は世界中にいるしね。」
「だろ。過ぎたことは仕方ないから、これからどうするかを・・。」
「そうね。細かいことは置いといて、レックスよ、レックス。・・・これから、どうするかな・・・・。」
そう言うクレアの瞳に一瞬だけ狂気が宿ったのを、リュウは見逃さなかった。
「クレア?」
「んー?」
クレアはリュウを見た。
昆虫のような気味の悪い目で見つめられて、リュウはギョッとして目をしばたかせた。


- - - - - -


ゴールド邸では、自警団の主だったメンバーが顔を揃えていた。
「これで、ヘッドシーフの正体もはっきりしましたな。」
「ええ。ランドとかいう男が怪しいと睨んでいたのですが、彼が手下もろとも殺されたとなると・・。」
「十中八九、レックス。」
「ふむ。・・レックスはランドの弟分だという報告を受けているが・・・。」
「仲間割れでもしたんでしょう。貧乏人は目先の欲につられて簡単に仲間割れしますからね。細かいことはともかく、ランド一派でレックスのみが生きているということは、彼がヘッドシーフで間違いないじゃないですか。」
「ふむ。・・オウン、お前はどう思う?」
ゴールド氏は息子に問いかけた。
「ふん、間違いないな。あのクソガキならやりかねん。・・実はさあ、2週間くらい前にランドとやり合ったじゃん。それさあ、まずレックスを尋問したのがきっかけなんだけど、そこであんにゃろー、銃を突きつけてもビビらなかったんだ。」
「・・銃を突きつけた?」
ゴールド氏がオウンを睨んだ。
「あ、いや、もちろん空砲。」
「・・・・・・。」
「そ、それでさあ、後で点検してみたら、殆どの銃から弾が抜き取られてたんだ。あの後、俺らの隊皆してダルくて動けなかったし・・。レックス・・ヘッドシーフは超能力を使えるという噂も・・・。」
「超能力? お前はその歳になって、まだそんなものを信じているのか。」
ゴールド氏は軽蔑の眼差しで息子を見た。
「い、いや・・。」
「まあいい。とにかく、様々な状況証拠から見て、レックス・ブースターがヘッドシーフであることに間違いはなかろう。討伐の準備にかかる。」


- - - - - -


レックスはナイトの家で腐っていた。時折訪れる近所の人々やナイトの妹たちの呼びかけにも殆ど無反応で、たまに返事をするくらいだった。
「全く、本当に抜け殻みたいだ。」
その声にレックスはビクッとして振り向いた。
そこにクレアが中腰で立っていた。
「クレア!?」
「私がここまで接近しても気付かないとは、お前らしくもない。」
そう言ってクレアは濁った目つきで笑った。
「・・何しに来やがった・・!」
「ハハハ、その意気その意気。無気力よりも怒ってる方がずっといい・・。」
「・・オレを苦しめに来たのか。」
「正解。」
クレアはレックスの眼前に指を突きつけた。
「腐るくらいなら苦しめ。」
「・・・・!」
レックスは少し仰け反った。
「私が恐いか?」
「・・・・・・。」
レックスは目をしばたかせた。
クレアは体勢を変えて、床に座り直した。
「腕力で私がお前に勝てないことは証明済みじゃないか。」
「・・・!」
レックスは顔を赤らめて、気まずそうに黙りこくった。
「・・ヘッドシーフの件は片付いた。これからは・・お前の獲得に全力を尽くせる。」
そう言ってクレアは立ち上がり、部屋を出て行った。
「せいぜい苦しめ、レックス。」
去り際にそう言ったクレアの不気味な笑い顔を、レックスはしばらく忘れることが出来そうになかった。


事務所へ戻ったクレアは、コーヒーを淹れ始めた。
「リュウも飲む?」
「いらない。・・それよりも、レックスのところに行ったの? どうせロクなことになってないと思うけど。」
「いや、目的は果たした。使い古された手だが、無気力な人間に活を入れるには、怒らせるか恐がらせるかすればいい。」
「・・・・・・。そんなことでレックスを仲間に出来るわけ?」
「・・・さあね。」
「さあねって・・・。」
「近日中に動くから、心積もりしといて。」
そう言ってクレアはコーヒーに口をつけた。
「・・・・・・・。」


その頃レックスは、相変わらず部屋でだらんとしていた。ただひとつ違うのは、その瞳に生気が戻りかけていたということである。
(・・・・何か・・ムシャクシャする・・。)
元々、行き場の無い怒りが虚無と絶望の闇へ墜落していたのだ。虚無感が薄くなれば怒りが顔を出す。
(・・・クレアがムカつくけど、恨むのは筋違いだし・・。アニキを恨めればよかったんだろうがな・・。)
しかし、ランドを恨もうとしても、レックスの心に浮かんでくるのは楽しい思い出ばかりだった。
(こんなことになるくらいなら・・と言いたいところだが、他に何も出来ないんじゃ、結局は同じだよな・・。)
レックスは段々と物悲しい気分になってきて、大きく溜息をつくと寝てしまった。


- - - - - -


翌日になって、レックスは食料を買わなければならないことに気付いた。
「チッ・・。」
幾らか金を持って、面倒臭そうに体を歩かせる。まだ立ち直ったとは言えないが、少しだけ回復しているようだ。
近くの店で買い物を済ました後、帰り道で嫌な顔を見た。
ゴールド家の長男オウン・ゴールドと、次男のポール・ゴールドだ。
「・・!」
レックスが気付いたときにはもう遅かった。
あっという間に周りを囲まれ、身柄を拘束されてしまった。
「くそっ!」
全快状態のレックスなら、こんなにあっさりと捕まりはしなかっただろう。そもそも自警団気取りの連中に出くわさないように気を配れたはずである。
「レックスちゃ〜ん、無用心でちゅね〜。」
全くその通りだと思って、レックスは悔しくなった。
まだ光の戻らない目で、オウンを睨んだ。
「おおっと、反抗分子の目つき。はいドーン!」
張り手が入った。
レックスは痛みでよろめいた。
「オウン、ここじゃまずいって。例のトコ行こうぜ。」
「OK、ポール。」
レックスは周りの連中に手足を掴まれ、目隠しをされた。
そのまま手足を縛られて、どこかへ運ばれていった。

着いた先は、ランドたちが殺された廃工場だった。
死体は処理されたようだが、まだ血の跡が生々しく残っていた。レックスは目隠しを外されてギョッとした。数日前の記憶が鮮明になり、胸が悪くなった。
「おー、流石のヘッドシーフも罪の意識に耐えかねているのかなー?」
「そりゃねえぜポール。罪の意識ってのは人間だけが感じるもんだ。」
「アッハハハ、違いねえ。」
周りがゲタゲタ笑うのを見て、レックスの心に激しい怒りが込み上げてきた。自分のランドへの思いを侮辱された気がして、体中がカーッと熱くなった。
ヘッドシーフは自分でなくランドだと言ってやろうかと思ったが、そう言っても無意味だと気付いて黙っていた。
「そんじゃー、処刑開始。銃でズドーンってのはつまんないからー、ナイフでグサッといこうぜ。」
「ナイス提案だポール。じゃあ俺からいくぜ〜。」
オウンは肉厚のナイフを取り出した。
「ほ〜れ、ほ〜れ。」
手足を縛られて身動きの取れない状態のレックスの目の前で、ナイフをチラつかせるオウン。
レックスは、いよいよ死を覚悟した。
恐怖よりも、どうなってもいいという諦めにも近い虚無感があった。

「それじゃあいくぜ〜、一発目〜!」

ズシュッ

瞬間、レックスの前にクレアが顕れた。
ナイフの一撃をその身で受け止めたのはクレアだった。
「へっ?」
オウンが驚いていると、腹を刺されたクレアが血を吐きながら声を振り絞った。
「殲滅しろ・・!」
その途端、オウンの頭が貫かれた。リュウの手だ。
驚く間も無く、ポールも、他の連中も、次々とリュウに貫かれて死体となっていく。ランドたちを殺したときはまだ手加減していたのだと目で見てわかるくらい、容赦の無い殺し方だった。
いつの間にかレックスの縛めも解かれていて、彼はハッとしてクレアを抱きとめた。
「クレア!!」
そのクレアは苦悶の表情で腹を押さえていた。彼女の腹部からは血がドクドクと溢れ出していた。
慌ててリュウが転移してきて、レックスもろともクレアを連れてテレポートした。


- - - - - -


あっという間の出来事に、レックスの頭は、しばらく事態の把握に手間取っていた。
集中治療室の前で、レックスはリュウと一緒に手術が終わるのを待った。
「・・・こうして、まともに話をするのは初めてですね。」
「・・ああ。」
しばし沈黙。
「レックスは、僕のこと・・恐いですか?」
「・・・クレアにも同じこと訊かれたな。」
レックスは嘆息した。
「答えはNOだ。・・どうしてかな、お前は何十人も殺した殺人鬼で、アニキの仇なのに・・・。何故だか恐怖も憎しみも湧いてこない。命令を下したのはクレアだしな。」
「・・・・・・。」
またしばし沈黙。
「・・・・・・クレアの怪我は重いのか?」
「・・・相当危ないみたいです。」
「・・・そうか。」
更なる沈黙の後、今度はリュウの方から口を開いた。
「・・クレアのこと、恨んでますか?」
「・・・・・・。そうさな・・・。何ていうか、恨むとか憎むとか、わけわかんなくなってきた。ただ、少なくとも、このまま死んで欲しくない。あいつには問い質したいことがある・・・・。」


手術が終わり、ようやく面会が許されるようになって、レックスとリュウはクレアのいる病室へ入った。
「やあ、レックス、リュウ。元気?」
クレアの、あまりにもあっけらかんとした態度に、レックスもリュウも面食らった。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
クレアはニヤリと笑った。
「レックス、私に何か訊きたいことがあるんじゃないのか。」
「お見通しかよ。心を読んだのか?」
「読むまでもない。・・さ、質問しろ。何でも答えてやるから。」
「・・じゃあ、訊くぞ、何でわざわざ自分の身を危険に晒した? オレを助けるにしても、もっと良い方法が幾らでもあったはずだ。お前は予知能力が使えるんだろ? わざわざナイフを腹に食らって、自分の命を・・・。」
「・・・私が本気だってことを示したかったんだ。」
「?」
「レックス・・。私は感情の表現が下手だ。だから、私が本気であることをわかってもらう為には、自分の命を懸ける必要があった。」
「〜〜! ・・お前は、人の命だけでなく、自分の命も大事にしてないのか!?」
「当然だろう。私の命が他の人間の命より尊いということはない。」
「・・・そりゃ、理屈じゃそうでも、割り切れるもんかよ。お前、頭おかしーよ!」
「おかしくない。・・・多分。」
「多分って何だよ! あーもう!」
レックスは頭を掻き毟った。
「少し落ち着け。そう怒鳴られると傷に響く。」
「〜〜っ。」
「それと、ひとつ誤解しているようだが、私は死ぬ気は無かった。ナイフの位置、方向とスピード、全てを予知していた。だから死なない程度に自分を傷つけることが出来たというわけさ。」
「だからって・・危なかったって聞いたぞ! 予知は絶対じゃないんだろ、何か手違いがあったらどうするんだ!」
「それはない。経過はどうあれ私が助かることは予知していたし、そのことは私以外知らない。予知した未来を変えられるのは、あくまで予知を知る者だけよ。まあ、基本的にだけど。」
「だったら・・」
「そういうことは抜きにしても、私は自分の生き死にに関わることで予知を外したことは無い。」
「そんなこと言ったって・・・命を危険に晒したことには違いねえだろうが! ちょっとでもタイミング間違えたら死んでたかもしれねえだろ!」
「だから覚悟なんだよ。何が何でもレックスを仲間にしたいその為に本気の証を見せる必要があった。」
「方法間違ってるよ!」
「・・じゃあ、他にどんな方法があったというの。お前は私を忌み嫌ってるだろう。このくらいのインパクトが無いとな・・・。」
「・・・・ねえよ。」
「はい?」
「・・もう嫌ってねえよ。」
レックスは口を尖らして横を向いていた。心なしか顔が赤くなっている。
「・・うっわ・・・鼻血出そう・・・。」
クレアは思わず鼻と口を左手で押さえた。
「は?」
「いや、何でもない。」
クレアは首をフルフルと振った。
「・・・しかしレックス、やはり私が身を危険に晒さなければ、今でも忌み嫌っていたと思うよ。自分の手を汚さすに、安全なところから命令だけ下す奴は、反吐が出るほど嫌いだろう?」
濁った目で見られて、レックスは言葉に詰まった。
思わず出てきたのは、言いたくなかった言葉だった。
「・・何でオレなんかの為に、そこまでするんだよ!!」
何でオレなんかの為に。それは、ずっと思っていた。けれど、自分の価値を貶めるようなことは言いたくなかった。仲間には恵まれたが、それ以上に辛辣な評価を社会から受けてきた。年輩の人間から高い評価を受けたことはなかった。それに反発し、いっそう蔑まれる悪循環を繰り返す中で、ひねくれていった。
仲間も仲間ではなかった。そんな綺麗な街じゃない。ランドの舎弟たちの中には、かつてレックスに乱暴した者もいる。笑って過ごせるようになったのは最近のことだ。そして、それも偽りだった。
自分を高く評価してくれた大人は、クレアが初めてだった。そのことに戸惑って、差し伸べられた手を取るのが癪に障って、子供じみた反発をした。ひねくれすぎた心は、どうしても素直になれなかった。
「こんな貧乏人のクソガキに、お前は何で! 慈善のつもりか? 人助けする自分カッコイイって思ってんのか? 人に手を差し伸べることで、自分が恵まれてるって思いたいのかよ!」
「・・・随分と私を高く評価してくれるじゃないか。そういう高尚な志も皆無でないとはいえ、面映いな。」
そう言うクレアの顔には皮肉めいた笑みが浮かんでいたが、しかし急に彼女は暗い顔になった。
「本当のところは、くだらない理由なのさ。理解できないかもしれないし、また私を嫌いになるかもしれない。だが、聞いて欲しい。私の懺悔を・・・。」
「・・・わかった。」
クレアに暗い顔をされると、どうも弱い。
レックスは自分の言ったことを後悔しながら、大人しく話を聞くことにした。

クレアは少し沈黙してから語り出した。
「・・もう、15年も前になる。ある少女がいた。両親は死に、家族はバラバラになり、路頭に迷って街を彷徨っていた。十幾つの少女が1人で生きていくんだ、何をやったか、だいたい想像はつくだろう。」
「それって・・お前のことか?」
「黙って聞け。・・・いつも飢えていたし、心も荒んでいった。そして、冬がやって来た。そのままでも寒さや飢えでいずれ死んでいただろうが、彼女にはそうなる前に殺されるという未来が待っていた。彼女は予知能力者であり、そのことを予知し、恐怖に苛まれた。」
「やっぱお前だろ。」
「うるさい。・・・だが、彼女を恐怖から救ったのもまた予知だった。十数年後の未来において、成長した自分がある青年と暮らしている未来が視えたのだ。それはドン底の彼女にとって、たったひとつの希望だった。」
「その青年って・・」
「黙って聞けと言ったはずだ。・・・その後、彼女は“アルカディア”という組織の首領に命を救われ、その組織に入り、最高幹部の1人にまで昇りつめた。しかし彼女は決して幸福ではなかった。確かに命の危険は無くなったが、人間らしい暮らしもままならず、組織の大駒として人生をすり減らしていった。そんな彼女の希望は、相変わらず、かつて予知した未来・・とある青年と共に暮らす未来。そのときに予知した未来の自分は、実に楽しそうで、幸福に見えた。彼女はその青年と暮らす日を夢見て、十数年を過ごした・・。あれは空腹と絶望が生み出した幻想かもしれないという恐怖で、再び予知能力をはたらかせることすらしなかった。笑ってくれてもいい、予知か夢幻かもわからない、たった一度のビジョンにすがる、哀れな少女の妄執を・・・。」
「・・・・・・。」
レックスは笑えなかった。
「その間に何人か仲間も出来た。それで組織における私の負担も、いささか軽くなった。・・私は彼女の意志を引き継ぎ、15年前の予知を実現させる為に、この街へやって来た。」
「ちょっと待て、その少女とお前は別人なのか?」
レックスは、つい口を開いた。
「15年も経てば別人も同然さ。その青年を獲得するにも不純な動機がくっついてきたし・・。お前がアンプリファイア(増幅能力者)だったのは、私にとって都合が良かった。人材確保の為と、組織に言い訳が立つからな。お前にとっては踏んだり蹴ったりだったろうが・・。」
「・・・ああ。」
「さて、私は名前も知らない青年を探してこの街に来たわけだが、新たに千里眼の能力をはたらかせると、予定外の事態が起きていた。それがヘッドシーフの存在だ。しかも組織に報告書を出したら、ヘッドシーフ討伐の任務を押し付けられてしまった。というわけで当初の予定を大きく変更せざるを得なかった。」
クレアは一息ついて、目を数秒閉じた。
「・・・私は冷酷な選択をした。人を平気で殺せるように、自分の精神を構築し直した。不確定要素を少なくする為に、FBIにも釘を刺しておいたし、ブレイカーの連中も知り合いに頼んで遠ざけた。」
「!」
レックスの表情が険しくなった。
「ああ、わかってる。これは彼らに対する最大の侮辱だ。だがそれでも、やる必要があった。ひとつは今言った通り、不確定要素を排除する為。もうひとつは彼らを巻き込まない為・・・。ナイトの妹たちの預かり先の老夫婦は、アルカディアのエージェントだ。」
「・・・・・・。」
「私が彼らの命を惜しんで、自分の行動に影響が出るから、不確定要素が発生するんだ。どうでもいい奴らが何人巻き込まれようが知ったことではないから、不確定要素も生まれない。精神を冷酷に構築しても、人格が変わるわけじゃないから、やっぱり人が死ぬのは気分が良くない。」
「・・・・・・。」
「それで、いろいろと画策・・もとい小細工をしたのは、お前も知っての通りだ。ヘッドシーフは強いし、リュウとルナは同時に動かすことは出来ない。最大出力のリュウやルナでもヘッドシーフとは相打ちだ。リュウもルナも接近しないと攻撃できないのに対し、奴は遠方からでも使える一撃必殺の切断テレポートがあるからな。そこで私はヘッドシーフ・・・ランド・フュークスの、お前に対する情を利用した。ランドはあのとき・・お前をすぐには殺せなかった。」
「・・・アニキ・・。」
「全ては計画通り。ランドがお前を仲間に引き入れようとするのも、それをお前が断るのも、ランドがお前を殺そうとするときに躊躇い、隙が出来るのも、全て予知していた。私はランドの義弟を思う心に付け込み、リュウに彼を殺害させた。」
そう言ってクレアは少し話を止めた。
「・・・虫のいい話だろ。体よくお前を利用しておきながら、部下になれと言う。私もやってることはランドと変わりない・・・いや、ランドに劣るな。15年前はともかく、今の私はアルカディア最高幹部だ。お前の能力、アンプリファイアが欲しい。だから仲間になれと。そういうことだ。」
「・・・・・・。」
「以上で私の話は終わり。・・返事、聞かせてもらえる?」
レックスは、すぐには返事せず、逆に質問した。
「断ったら・・・殺すのか?」
「何でそう思う。」
「いや・・・だって、オレはお前を・・」
レックスは口ごもった。
「ああ、私を押し倒したことを気にしているのか? まあ、気にするな。私も気にしない。犬にでも噛まれたと思って忘れろ。」
「それ、女の側が言うセリフじゃねーよ・・・。」
「ハッハッハ、意外と古風なんだな。・・で、返事は?」
「・・・・・・。」
妖艶な目で見つめられ、レックスは咳払いした。
「・・・クレア、お前は最悪だ。偉そうだし、人の心を弄ぶし、命を何とも思ってない。やたらと説教してくるし、知ったような口きくし、気味悪い目つきで睨んでくる。優しくて思いやりに溢れていたアニキとは、天と地ほどの差がある。」
「・・・・・・。」
「だが、そんなお前にも、ひとつだけアニキより確実にいいところがある。・・自分の企みを、正直に話してくれたことだ。」
そう言ってレックスはクレアの顔を見つめた。
「いいぜ、オレの負けだ。仲間になってやる。だが覚えとけよ、気に入らなかったらいつでも辞めてやるからな。」
「ありがとう・・。」
「・・!」
クレアが涙ぐんだので、レックスは動揺した。
「そ、それともうひとつ。タメ口きくけど、それでいいか。」
「いいよ。イチイチ言うなんて律儀だな。」
「うっせえ、そういう性分なんだよ。」
「それじゃあ、これからよろしくな、レックス!」
そう言ったクレアの顔は爽やかで、健康的な少女のようだった。
今までに見たどんな表情よりも素敵だと、レックスは内心で思っていた。


- - - - - -


ゴールド氏は滅多に見せない怒りの形相で、悔し涙を流していた。
「ぬううううう・・・・!」
彼の息子2人、オウンとポールが部下たちと共に惨殺されたのだ。
「パパ、どうしたの? 何で兄ちゃんたちの仇を取らないの?」
三男のニックが泣きそうな顔で問いかけた。
「くっ・・・! FBIから圧力がかかったのだ・・・。この事件から手を引けとな。」
「そんな・・。」
「FBIの高官ライト氏が絡んでいる。我々の力ではどうしようもない。」
「畜生! 権力を振りかざす卑怯者め!」
「レックスの友人関係は全て死んでるかいなくなってるか・・・。復讐しようにも相手がいない。当のレックスも行方不明だしな。」
「くそっ、泣き寝入りするしかないのかよ! こうなったらスラムのクズどもを片っ端からぶっ殺してやろうぜ!」
「馬鹿者! 関係ない者を殺すなど、人道に反する行いだぞ。誇り高きゴールド家の男が、間違っても口にしてはならん! いいか、たとえ貧乏人といえども生きる権利はあるのだ。」
「・・・・・・。」
「我々に出来ることは、せめて第二・第三のヘッドシーフを出さないようにすること。町のパトロールを強化し、スラムを監視する。それくらいだろう・・。」

そこへ拍手と共に歌が聞こえてきた。
「ハッピーバースデイ、トゥー、ユー♪ハッピーバースデイ、トゥー、ユー♪」
「誰だ!?」
ゴールド氏が振り向くと、そこに病院用のベッドがあり、麗しい女性が上半身だけ起こしていた。
その横に、見知った青年と見知らぬ少年が立っていた。
「レックス・ブースター!? それと何だ、お前たちは!?」
「うるさい、傷に響く。」
「う・・・。」
爬虫類のような気味の悪い目つきで睨まれて、ゴールド氏とニックはたじろいだ。
「ミスター・ゴールド。せっかく誕生日を祝いに来てやったというのに、何かその態度は。」
彼女の顔には皮肉めいた笑みが浮かんでいた。
「な、名前も名乗らずに無礼、な。だいたい、どうやって入ってきた・・?」
「あァ、これは失礼。私はクレア・クレッセント。あなたの誕生日を祝うついでに、警告しておこうと思ってね。」
「警告だと?」
「そう。この件がきっかけで、貧しい人々が余計に苦しめられてはならない。あなたに自警団を解散してもらおうと思って。」
「こ、断る! このビッグ・ゴールド、いかなる脅迫にも屈っせん!」
「ああ、そう言うのはわかっていたから、自警団の連中は全員、足をちぎっておいたよ。」
「何だと!?」
「嘘じゃない。あなたたちも、これから同じ目に遭う。」
クレアがそう言うと、少年・・リュウが2人の目の前にテレポートした。
「「ひいっ・・!?」」
「一応、止血するけど、すぐに医者を呼びなよ?」
ブチッ
「ぎゃあっ!!」
ブチッ
「ぎゃああっ!!」

「覚えておくがいい。貧しい人々を虐げるほどに、お前らの体は少しずつ無くなっていく。地球上のどこにいようとも、常に見張っている。私はヘッドシーフほど慈悲深くはないから、楽に死なせてはやらないよ。」


- - - - - -


リュウのテレポートで病院へ戻って、クレアは一息ついた。
「んー、さっそく試してみたけど、やはりレックスの能力は凄い。なあ、リュウ。」
「確かに・・・。」
リュウはしみじみと言った。
「ただでさえ今のリュウは強いのに、レックスの能力で力が倍化してるから、テレポートであちこち飛び回っても全く疲れた様子を見せない。100人以上の足をちぎることが出来たし。」
「以前と同じことが半分の力で出来るというのは凄いです。」
「そう言われてもオレには実感湧かねえが・・。」
「お前の能力は貴重なんだ、レックス。常時発動型だし、アルカディアでも他に無い、“掛け算”のアンプリファイアだからな。」
「掛け算・・?」
「例えば、出力10のエスパーに対して、100を足すのと2倍にするのとでは、どちらの方が強化される?」
「ええと、そりゃあ・・・100を足す方、だな。」
「そう。では、出力1000のエスパーに対しては、どうかな。」
「・・・・2倍にする方。」
「その通り。私はその1000の方でね。殆どのアンプリファイア能力者は“足し算”だ。アルカディア最高のアンプリファイア能力者でも、私の能力を0.001パーセントも強化できない。お前の能力の価値がわかるだろ?」
「・・オレの“能力”ね。」
「・・まあ、お前の人格が貴重だと思う奴は、お前自身を除けば私くらいのものだろうがな。」
「ふん、別にいいさ。」
そこへリュウが口を挟んだ。
「ちょっと、僕を忘れてやしませんか?」
するとクレアがジロッと睨んだ。
「・・お前こそレックスの能力に価値を置いてるくせに。お前やルナがレックスに惹きつけられるのはな、レックスがアンプリファイア能力者だからだ。お前もルナも、自分の能力に対して肯定的に捉えてるから、その能力を増幅してくれるレックスに惹かれてるの。言ってみれば、エスパーの生理現象さ。」
「そんな・・・。だったらクレアだって同じだろ。」
リュウは口を尖らせた。
「ま、確かにそうだ。しかし私は、お前らと違ってレックスのことを昔から、よーく知ってるんでね。」
「!」
レックスの顔色が変わった。
「ずるいな、クレア。自分だけ千里眼の能力を持ってるからってさ。」
「・・・・・。」
レックスの顔が、ますます渋くなっていく。
今まで考えている余裕が無かったが、千里眼というのはレックスの私生活を覗けるのだ。人に見られたくないことは数限りない。男として女に知られたくないことも数々ある。
「てめー、どこまで知ってる・・?」
「・・それはもう、いろいろと。」
クレアはポーカーフェイスを崩さない。それが逆にレックスの羞恥心を掻き立てた。
「・・・・・・・・・。」
「安心しろ。誰にも言わないし、茶化すこともしない。」
「ふん。」
レックスは思わずそっぽを向いた。
「千里眼の能力者の宿命かね・・・。」
クレアは複雑そうな顔で苦笑いした。




   第十一話   了

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『エスパー奇譚』長編小説 「千里」 第二部まとめ読み
□□□□□□□□□□ ...続きを見る
佐久間闇子と奇妙な世界
2016/05/02 01:50

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