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zoom RSS 「千里」 第十三話 吸血鬼の舞う夜

<<   作成日時 : 2016/05/02 00:20   >>

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■■■■■■■■■■



その夜、わたしは訳の分からぬ渇望を感じていた。
中途半端な時間に目を覚ますと、1月だというのに汗びっしょりだ。もっとも、体は氷のように冷え切っていたわけだが・・。

『血ヲ飲ミタイ』

頭の中に声が響く。
明らかに、わたしのものではない。いや、やはりわたしの声なのだろうか?
鏡を見ると、そこに髭をたくわえた30代の男が、こちらを見ている。いつものわたしの顔だ。口の中を見ても牙など生えていない。
しかし・・・

『血ガ欲シイ』

頭の中に響く、この声は何だろう。
内なる声がわたしを吸血鬼にするとでもいうのか。いやいや、このトランシルバニアが吸血鬼と縁の深い土地だからといって、流石に妄想の領域だろう。
わたしは疲れてるんだ。
そうに違いない。
疲れていると、幻覚が見えたり、幻聴が聞こえたりするからな。
だから・・・わたしの口の周りが血で汚れていたとしても、それは幻覚なのだ。もしくは歯茎から出血しているのだろう。毎日歯は磨いているが、たまにはそういうこともあるだろう。
だから、さっさと顔を洗って、幻聴など気にせず眠るべきなのだ。


- - - - - -


1969年の1月。
クレア・クレッセントは事務所でレックスと過ごしていた。サムは本部での仕事があり、リュウとルナも能力メンテナンスの名目で本部に戻っている。
「コーヒー淹れたぜ。」
「サンクス。」
クレアはコーヒーを飲んで一息ついた。
「ふたりっきりね。」
「だからどうした。」
レックスは素っ気無く答えて自室に引っ込んだ。
「・・・ふん。」
クレアは少し拗ねた顔をしたが、すぐに首を振って表情を元に戻し、仕事の続きに取りかかった。
「・・・・が死んだので補充要員に・・・・を。それと、・・・・に増援。食事会はパスだな。・・ん?」
本部から指令メールが一通、届いていた。
「あの野郎・・・。」
クレアは苦々しい顔でメールを消去した。
中身は読まなくてもわかっていた。


- - - - - -


その翌日、クレアはレックスとルナを連れて、トランシルバニアまでやって来ていた。
「ったく、何だってルーマニアくんだりまで・・・。本来ならアリョーシャの管轄なのに。」
クレアは口を尖らせていた。
月組には隊長“月神”クレア直属の第一隊と、副隊長“月帝”アリョーシャの指揮する第二隊がある。ヨーロッパは本来は第二隊の管轄なのだ。
「な〜にがバカンスだ。あの野郎、厄介な任務を押し付けられるのを察して、逃げやがったんだよ。」
クレアは苦々しく言い放った。
「それを予知できなかったのか?」
「何でもかんでも予知してるわけじゃない。私の能力はアルカディアの法律で制限されているし、私自身の意思で、日常的には更に制限している。アリョーシャはアルカディアで私に次ぐ予知能力者でね、2つの制限下にある私よりは強い。」
「おい、まさかそいつのせいで予知が狂ったなんてことはないだろうな・・・・・あ・・・。」
言ってからレックスは口を押さえた。
クレアは少し暗い顔をしたが、首を振った。
「制限された私が予知できることは、アリョーシャも予知できる。だからアリョーシャのせいというならば、アリョーシャが意図的に何かしたということになる。」
「・・・悪かった。」
苦い記憶を思い出させてしまったという意味でも、仲間を疑ったという意味でも、レックスは反省した。
「お前は悪くない。それよりも、これは貸しにするわよ、アリョーシャ。」
「本人のいないところで言ってどうする。」
「アリョーシャの能力は予知だけじゃない。聞こえてる。」
「この距離でか・・・。まったく、エスパーってのはオレの想像の範疇を幾らでも超えてやがる。」
レックスは肩を竦めた。
「心配しなくても、アリョーシャくらい強いのは稀だ。何億人に1人ってとこだな。怠け癖さえ無ければ、私の代わりに最高幹部にもなれていた男だ・・・。私に最高幹部は重い。いち部隊の長が分相応だ。」
「・・・・・・。」

「ねー、さっきから2人だけで会話して、ずーるーいー。わたしも仲間に入れてよー。」
ルナが膨れっ面で2人の間に割って入った。
「ああ、そうね。今回の任務が回ってきたことで、良いこともあった。くだらないメンテナンスからルナを解放できた。」
「おいおい、メンテナンスって重要じゃねえのか? もしも超能力が暴走したりしたら・・」
レックスの脳裏に、再び苦い記憶がよぎる。
「私とサムが付いている以上、そんな心配は無用だ。少なくとも、本部の学者連中よりは信頼してもらいたい。定期メンテナンスなんて名ばかりで、実際は本部の学者どものモルモットにされるだけ。苦痛や羞恥を伴う、人権蹂躙も甚だしいものだ。」
「わたしやリュウの能力って、かなり珍しいらしいからねー。月齢に関するエスパーって、アルカディアでも10人いないから。」
「私は最高幹部の特権で免れているが、ルナとリュウに関しては、そうもいかなくてね。」
「・・・組織の理屈ってやつか。オレは、そういうのは嫌いだな。」
「私もだよ。だが、私はアルカディアを離れて生きていくことは出来ないんでね。私の能力は、他人と連携してこそ真価を発揮する。こうして組織にいなくては何も出来ない奴だよ。たとえアルカディアを抜けたとしても、獣のように徘徊するか、死ぬか、別の組織で同じようなことをするか・・。今より良いことはない。」
「・・・・そうか。」
「もー、クレアもレックスも暗くならないの。今が良い状態ってことはなくても、昔よりは遥かに良くなってきてるんだからー。」
「そうね。今は任務のことを考えましょう。」
「そうだな。しっかし、この二十世紀に吸血鬼とはな。」
レックスは苦笑いして、頭を掻いた。

「ん・・? ちょっと待てよ。」
レックスは頭を掻くのをやめた。
「吸血鬼って確か、処女の生き血を好むんだろ? ヤバくねえか。」
「ああ、それなら心配いらない。私らの中に処女はいないから。」
「え゛!?」
レックスは思わずルナを見た。
「なーに?」
ルナはキョトンとして小首をかしげる。
「いや・・。」
(冗談だったのか?)
急に振り向いて痛めた首を押さえながら、レックスは形容しがたい表情をしていた。
クレアは構わず話を続ける。
「・・それに、吸血鬼といっても御伽噺に出てくるような魔物の類じゃない。れっきとしたエスパー。変り種のね。」
「“エネルギー・ドレイン”とか言ったな。要するに、どういう能力なんだ?」
「そのまんまよ。生命エネルギーを吸収する能力。“吸血鬼”は血液を媒介にしていて、血を吸うことで生命エネルギーを吸い取る。被害者は一夜で何十年も老いてしまう。まだ死人は出てないが。」
肉体が急激に老いてしまった被害者たちは、病院に運ばれてアルカディアのヒーリング能力者による治療を受けている。それにより、老化も殆ど元通りになる。
「だが、これから死人が出ねえとは限らない、と言いたいんだろ?」
「その通り。もう少し正確に言えば、放っておけば近いうちに必ず死人が出る。生命エネルギーを吸われての老化だから、元に戻すのは比較的容易いが、死んでしまえば取り返しが付かない。奴の能力は少しずつだが、日増しに強くなっているからな・・。大量に吸い取ったエネルギーで、出力を上げているのだ。」
「・・ったく、どんなイカれた野郎だよ、そのストー・・・何だっけ?」
「ストリー・ゴイツ、33歳。イカれてるなんてとんでもない。実に良識のある男さ。危険人物であることに違いはないがね。」
「そりゃ、どういう意味だよ。謎かけか?」
「会えばわかるさ。・・それじゃ、当初の予定通り、ここからは別行動だ。」
「気をつけろよ。」
「そっくり返すよ。危険なのは、お前らの方だ。ちゃんとレックスを守れよ、ルナ。」
クレアはルナの耳元で囁いて、更に耳を舐めた。
「きゃっ?」
「緊張ほぐれた? それじゃ、よろしくね。」


レックスとルナが行ってしまってから、クレアは近くの店でコーヒーを頼んだ。
(サムが来るまで、私の方は暇だな。)
クレアの副官サムは、本部での仕事を片付けてから直接ルーマニアに来ることになっている。
(何せ今回の仕事はサムが要なのだ。レックスとルナが組めば、しばらくは負けることはないが、勝てもせん。相手は“吸血鬼”なのだからな・・・。今回も結構ギリギリだ。ひとつ間違えばレックスとルナが危ない。)
「ん? このコーヒーは、なかなか・・・。」
クレアはもう一杯注文することにした。


- - - - - -


“吸血鬼”ストリー・ゴイツの家は、すぐに見つかった。
古めかしいというよりは廃屋のような家が並ぶ、その一画。心なしか他の家よりくたびれて見える。
(ここか・・。)
レックスはゴクリと唾を飲み込んで扉をノックした。
「ゴイツさん、いますか?」
すると中から眠そうな声が聞こえてきた。
「ふあ〜い。」
頼りない足音がして、扉一枚を隔てて人の気配がした。
(来るぞ。)
レックスは目で合図した。
(うん。)
ルナが答える。
内側から扉が開いて、眠い目をこすりながら30代の男が姿を現した。
「ふあ〜、ううんっ。あなたは誰ですか?」
「調査官のレックスです。」
ルナは隠れて声だけ聞いていた。
「最近このあたりで若い女性が襲われるという事件がありまして。不審な人を見たり物音を聞いたりしたことがありましたら、教えてほしいのですが。」
「不審な人・・。あるよ。」
「! どこで・・・。」
「あなただよ。」
「だっとっとっと・・」
レックスは思わずズッこけた。
「別に冗談でなかったんですが・・。でも今の反応で、あなたが怪しい人でないことはわかりましたよ。しかし残念ながら他には心当たりが・・。」
「そうですか。では、また何か思い出しましたら、こちらへ連絡ください。」
レックスは名刺を渡して、その場を後にした。


ストリー・ゴイツ本人を確認し、ルナとレックスが交互に見張りをすることになった。
ゴイツに顔を覚えられているであろうレックスの見張り時間は少なめであり、レックスはやや不満だった。
(それにしても・・)
レックスは思った。
(確かに真っ当な人物であることは間違いないか。目を見ればわかる。クレアの方がよっぽど異常だ。)
レックスはクレアの不気味な目つきを思い出して苦笑いした。
(あらかじめ聞かされてなかったら、あいつが吸血鬼だなんて疑いもしなかっただろうな。・・・二重人格か?)
「・・・そろそろ交代の時間か。」


一方のゴイツは、自分を訪ねてきた目つきの悪い男のことが気にかかっていた。
(別段、悪い人間ではなさそうだが、いったい何者だろう。捜査官と言ったが、それらしい雰囲気ではなかったし。・・・しかし、若い女性が襲われたって? 偶然だろうが、嫌な気分だ。最近、夢を見るときは、決まってあの夢。わたしが吸血鬼になって、若い女性の血を吸う夢。体中に力が漲り、精神が昂揚する。だからだろうか、あの夢を見た朝は、やけに体の調子が良い。・・・・本当に夢なのだろうか?)

『血ガ欲シイ』

「ひっ?」
ゴイツはギクッとして周りを見回した。
(気のせい・・・だよな?)
少し冷汗をかいていた。


- - - - - -


それから数日後、ゴイツは夜の街を飛んでいた。
(・・・飛んでる? ・・・夢?)
体が思う通りに動かない。やはり夢なのかと思いつつ、身を切る冷たい風の感触が妙にリアルだと思った。
若い娘を見つけた。
少しばかり若すぎる気もするが、吸血鬼は彼女に狙いを定めた。ゴイツは真っ直ぐ彼女めがけて飛んでいった。

『血ガ欲シイ、血ガ欲シイ、コンナ時間ニ出歩クノガ悪イノダ。啜レ、生キ血ヲ吸イ尽クセ、貪レ!』

少女が気付いた。
うっすら笑ってるように見えた。
その次の瞬間、少女の姿は消えていた。
(なにっ?)
「こっちよ吸血鬼!」
(いつの間に背後へ!)
振り向くと、もうそこにはいない。
そして、右腕と右足に、続けざまに熱い痛みを感じた。
(わたしを殺す気か!?)
血が噴き出してるのに気付いてゾッとした。
(馬鹿な、これは夢だ、血よ止まれ!)
すると傷口は、みるみるうちに塞がった。
(やはり夢・・・。)


「再生能力・・。これほどか。」
ルナは思わず舌打ちした。
殺すのは最後の手段なので、頭や心臓は狙えない。しかし、少々ダメージを与えたくらいでは、すぐに回復されてしまう。
(クレアが間に合わなかったら、殺すしかない。やだな・・・。)
敵を戦闘不能にする為に、あるいは戦意を削ぐ為に傷つけることは躊躇しないルナだが、命を奪うとなれば話が違ってくる。考えただけで内臓がキリキリと痛むほど嫌なものだ。それはリュウも、ルナほどではないにしろ持っている感覚だ。

再び空中で衝突する。
互いに傷を負う。
ゴイツの方が深手だが、その傷もすぐに回復されてしまう。今までに吸い取った生命エネルギーを再生に使っているのだ。
(・・これは冗談抜きでヤバいかも・・・。)
ルナの額に汗が流れる。
彼女は今、ほぼ最大の力で戦えている。パワーとスピードではゴイツを上回っており、勝とうと思えば今すぐにでも勝てる。
しかしそれは同時に、ゴイツの死を意味する。殺さずに勝つということは、ただ勝つよりも難しい。しかも再生能力を持ち、膨大なエネルギーを持っている相手。
(クレア〜、早くしてよ〜!)


- - - - - -


少し時間を遡って、その日の昼過ぎ。
クレアはサムと落ち合って、とある田舎の農村に来ていた。
「エリアーデさんのお宅は、こちらですか?」
クレアに尋ねられて、中年の女性は訝しげな顔で目をしばたかせた。その目は、どんみりと曇って、疲れきっていた。
「とりあえず、怪しい者ではありません。あなたの娘さん・・・ラルフィナ・エリアーデに、用があります。」
「・・はあ・・?」
婦人は気の抜けたような返事をした。
突然やって来た、謎の2人組。括ってさえ腰まで伸びた黒髪の、サングラスをかけた女。胸は大きいが、それ以外は痩せていて、小柄。少女にしか見えない。もうひとりは180センチを超える大柄な男。髪は短く、肌は浅黒い。
この対照的な2人を目の前にして、婦人は、やや怯え、混乱し、そして疲れと無気力感で思考力が鈍っていた。それゆえの、はっきりしない対応であった。
「私たちは、医者です。」
「・・・えっ?」
「“芋虫病”の患者がいると聞いて、治療しに来ました。」
「お医者さん・・・で、ございますか・・?」
「そうですよ。」
クレアは偽造していた医師免許を見せた。
「・・・治せますか・・? これまで、どの医者も匙を投げてきたんですよ・・?」
「治す為に、来たのです。」
クレアは落ち着いた微笑みを見せた。


ラルフィナ・エリアーデは16歳の少女。2歳のときに父を亡くしてから、母と2人で暮らしてきた。
貧しい中を何とかやりくりして生計を立て、15の歳までおよそ健康に育ってきた。幸いにも体は頑丈で、殆ど病気になったこともなかった。
しかし、15歳のある日、彼女は原因不明の奇病に罹ってしまう。手足が縮み、視力が低下し、味覚も鈍くなる謎の病気。世界中で数例しか発症者の存在しない病・・・通称、“芋虫病”。
ラルフィナの母は、出来る限りの手を打った。方々から医者も呼んだし、祈祷やまじないの類にも頼った。しかし全て効果は無く、後には借金だけが残った。
ラルフィナは日に日に、少しずつだが確実に弱っていき、死を待つばかりであった。
彼女の母も、絶望し、諦観し、無気力になり、無感動になっていった。


家の奥に入れてもらうと、ベッドに少女が横たわっていた。
手足はアザラシのように縮こまり、体は服の上からでもハッキリわかるくらい痩せこけ、顔は生気の無い死人のような土気色で、もう数日もすれば本当に死んでしまいそうだった。
「サム、ラルフィナの側に。」
「了解です。」
そしてクレアは、ラルフィナの母と買い物に出かけた。
「とにかく栄養をつけさせることです。ろくなものを食べてないのでしょう?」
「ええ・・。貧乏でして・・。借金もありますし・・・。」
「資金は用意してあるわ。ラルフィナの好物を選んであげて。」
「は、はい。」
クレアは千里眼によってラルフィナの好物は熟知していたが、母親に行動させることで気力を回復させようとしていた。何でもかんでもやってあげるよりも、出来ることは本人たちにさせた方が後々の為になる。それはアルカディアの理念でもあった。
「量は、これくらいでよろしいですか・・・?」
「ええ。足りなくなったら、また買いに来ればいいですよ。」
ラルフィナの母が選んだのは、やたらに甘そうなメロンが1個と、瑞々しい梨が3個だった。
「よさそうなものを選びましたね。あと、砂糖を買っていきましょう。」

支払いを済ませて、2人は家に戻った。
「サム、具合はどう?」
「私は至って元気ですが。」
「お前じゃない。ラルフィナよ。」
「ちゃんと生きてますよ。私の能力で少しは落ち着いたようです。」
「・・能力?」
ラルフィナの母が首をかしげた。
「ああ、そうでした。ちゃんと説明しましょう。サムは調整を続けて。」
「了解です。」
クレアはラルフィナの母と向かい合った。
「最後まで落ち着いて話を聞いてください。」
「は、はい。」
「この“芋虫病”は、普通の医者では治せません。何故なら・・・。」
「何故なら?」
「ここから先は、私たちを信用してもらうしかないのですが。」
「も、もちろんです・・。」
「超能力。」
「・・・え?」
「ラルフィナは超能力によって衰弱しています。」
「そ、そんな・・・。」
ラルフィナの母は、クレアの言葉を疑っているわけではないが、人知の及ばぬ超常的な力が相手だと思って愕然としていた。
「大丈夫です。治ります。」
クレアは、ひときわ強い声で言いながら、ラルフィナの母の手を握った。
せっかく回復してきた気力が萎えては元も子もない。やる気を挫くのは三流以下だ。
「ラルフィナの体は、とある人物と空間を越えて繋がりを持っている状態にあります。その人物に生命エネルギーが流れ込んでしまっていて、生命力を失っていく肉体は何とかして生命を維持しようとする。それが“芋虫病”です。」
「そ、その人物がラルフィナから生命力を吸い取ってると・・?」
ラルフィナの母はカタカタと震えていた。
「少し違います。ラルフィナが供給しているというのが正確です。その人物は与えられた生命エネルギーで肉体を強化して、夜な夜な若い女性を襲っているのです。」
「若い女を・・・。」
「襲って生命エネルギーを吸収するのです。そして、その一部がラルフィナに送られます。ろくに栄養を摂ってないにも関わらず、今まで持ちこたえてきたのは、その為です。」
すなわち、“吸血鬼”はストリー・ゴイツではなく、ラルフィナ・エリアーデだった。
ゴイツの頭に響く、血を求める声。それは生命力を失っていくラルフィナの渇望だったのだ。
「ラルフィナは自分の超能力を殆ど制御できていません。サムの能力は“調整”(コーディネイト)と言いまして、超能力を安定させることが出来るのです。しばらく側についていてやれば、徐々に回復するでしょう。」
「そうですか・・・よかった・・・!」
ラルフィナの母は、涙を流して安堵した。


数時間後、ラルフィナはしばらくぶりに口を利いた。
「おっ母あ・・・。」
「ラルフィナ!」
「果物を食べさせてあげて。」
クレアは砂糖を飲み物に溶かしたものも持ってきた。
「とりあえず、乾杯。」
超能力を使うと、糖分が減る。クレア、サム、ラルフィナ、そしてラルフィナの母もついでに飲むことにした。
(後はレックスとルナだ。芋虫病の治療は、まだ終わっていない。)
すっかり夜になっていた。
クレアは眠気を遮断して、遠隔透視を続けていた。


- - - - - -


ルナとゴイツの戦いは続いていた。
ダメージの総量で言えば、ゴイツが受けた方が圧倒的に多い。しかし再生能力を持つゴイツは、服以外は無傷で、ルナはあちこち傷ついて血を流していた。
(体力がもたない・・・。)
ルナは、まだ13歳の、小柄で華奢な女の子だ。超能力で肉体を強化していても、体力までは大幅に強くなるわけではない。限界が近かった。
「ハァ・・・ハアッ・・・!」
とっくに息はあがっていた。このままでは数分後には力尽きる。肉体を強化して動かしている分、力尽きたときのリスクは重く、死も覚悟しなければならない。
(殺すしかないか・・。)
ルナの瞳に殺気が宿った。
ゴイツはルナの様子が変わったことに一瞬警戒したが、すぐに突っ込んできた。どうせ再生能力があるからと、高を括っているのだ。
(ごめんね、死んで!)
ルナが手刀に念力を集約した。
空中で交差し、脳天をぶち抜けば終わりだ。
しかし。
「こっちだ、吸血鬼!」
「!?」
レックスの声だった。
ゴイツの動きが一瞬止まった。その隙にレックスは拾っておいた鉄パイプをゴイツの左肩に振り下ろした。
「ぐ?」
ガツンと鈍い音がして、ゴイツは怯んだ。
更にルナが正拳を顔面にぶちかます。
「がっ!?」
思わぬ反撃に、ゴイツはいったん退いて、空高く舞い上がった。
「レックス、出てきちゃ駄目よう!」
「馬鹿やろ、女の子がボロボロになってんのを見てられっか!」
「レックス・・・。」
「文句は後で聞く。」
レックスは上空のゴイツを睨みつけた。
「来やがれ、化物!」
「ふん。」
ゴイツは上空で回復すると、レックスめがけて急降下した。
(速っ・・!)
レックスは顔面と腹に一撃ずつ食らって吹っ飛んだ。
「がはっ!」
内蔵が破損したのか、夥しい量の鮮血が口から噴き出した。
「レックス!」
ルナは再び殺気を込めてゴイツを睨んだ。
「許さないわ。」
「・・・待て、殺すな。」
「!」
「・・クレアを・・・信じろ・・・・。」
息も絶え絶えにレックスが止める。
「わかった。」
ルナは冷静さを取り戻し、建物を背にしてゴイツと向き合った。
「さあ来い!」
ゴイツはレックスを放っておいて、ルナめがけて襲いかかった。
その瞬間、ルナは物質通過で建物を通り抜ける。ゴイツが勢い余って壁にぶつかったところで、壁から出てきた足が腹を強打する。
「ぐう!」
流石に効いた。ゴイツはよろよろと左へ歩いた。
そこへ後ろからレックスが鉄パイプで左肩を強打する。
「ごっ・・!」
戦い始めた頃に比べて、明らかにゴイツの回復能力は弱くなっている。レックスもルナも、それに気付いた。
「・・クレアの方が、上手くいってるみたいだぜ・・・。あと一息だ・・・。」
「レックス、内臓が破れてるのに無茶しちゃ駄目だよ!」
「・・・だから、とっとと片付けるんだよっ!」
更に左肩に一撃。
鈍い音がしてゴイツがよろめく。もはやレックスの攻撃をかわせない程に弱っているのだ。
「・・無闇に力を使いすぎだぜ、吸血鬼!」
レックスは口の中に溜まった血をゴイツの顔面に吹き付けた。
「うぶっ?」
ゴイツが目を晦まし、レックスが更に鉄パイプで殴りつける。
そこへルナも後ろから蹴りを入れた。
流石に力尽きて、ゴイツはレックスの腕の中に倒れ込んだ。
「ぐあっ・・・!」
その衝撃で、レックスは顔を歪めた。何しろ内臓が破れているのだ。
「危ない!」
すぐさまルナが2人を支える。
「サンキュー・・・。それじゃ、行こうか。」
「うん。」
ルナは2人を連れて、慎重にテレポートした。


「随分と酷くやられたな。」
少々顔色を悪くしたクレアが出迎えた。
気絶しているゴイツ、全身に血まみれのルナ、出血で意識が無くなりつつあるレックス。
「ラルフィナと、まとめて治療する。」
クレアは手早く指示を出して、ゴイツをラルフィナの側へ運んだ。
「サム、こいつもだ。ラルフィナとまとめて頼む。」
「了解です。」
そしてクレアは、針を火で炙って、レックスのところへ急いだ。
「横になって、レックス。」
「ああ・・?」
レックスは意識朦朧としながらも、言われた通りに体を横たえた。
クレアは針をレックスの首に刺して眠らせた。針麻酔である。
(何もかもが予定通り。つまり、レックスを救えるかどうかは私にかかっているわけだ・・・。)
クレアは持ってきていた簡易式の手術用具を取り出して、レックスの治療に取りかかった。
体中の血管や神経、細胞ひとつひとつの位置すら把握している。どこが傷ついていて、どう処置すればいいかも全部わかっている。医学の知識も十分ある。先程までイメージトレーニングをしてきた。それでも恐い。
(本部に戻れば良かったんだがな・・・。だが、ボロボロのルナでは、そこまでのテレポートは無理だし、出来たとしてもレックスの体が無事では済まない。)
最高幹部といっても、月組の仕事に関しては、クレアが動かせる人間は限られている。急な仕事だったので、組織からヒーリング能力者を連れてくる手はずも整えられなかったのだ。
(覚えてやがれ、アリョーシャ・・・。)


- - - - - -


翌日の朝。
「・・・・だるい・・。」
ぐったりと横になっているレックスが呟いた。
まだ頭がボーっとしているようだ。
「当たり前よ。応急処置をしただけだから、動くなよ。内臓が破れる。」
「へいへい・・。」
応急処置をしたのがクレアだということにも気が回らず、レックスは目を閉じた。
「サム、ラルフィナを連れてきて。」
「了解です。」
ラルフィナは相変わらず痩せこけていて、手足も縮んだままだったが、顔には生気が戻っていた。
「ラルフィナ、あなたの能力は他者に生命エネルギーを分け与えるヒーリング能力の一種よ。その力でレックスとルナを治してやってほしい。」
「・・は、はあい・・?」
ラルフィナは、よくわからなかったが、傷ついたレックスとルナを治したいという気持ちが湧き上がってきた。
すると、レックスとルナの傷が、みるみる回復していく。
「よし、そこまで。後はこっちでやるわ。向こうで果物を食べて、しっかりと栄養をつけなさい。」
「はあい。」
病み上がりどころか、まだ治療が必要なラルフィナに、これ以上の無理をさせるわけにはいかない。レックスとルナが生命の危機を脱したところで、ラルフィナを休ませた。
「ルナ、レックスを連れて本部へ。」
「はーい。」
すっかり危なげないテレポートでレックスを連れていった。

「さてと、エリアーデさん。ラルフィナの病気が完治するまで、ここにいさせてもらいたいのですが、よろしいですか?」
「そりゃあもう!」
ラルフィナの母も、だいぶ元気を取り戻していた。
「本当に、あなた方には感謝してもし足りません・・。娘の病気を治していただいて、借金まで立て替えてくれて・・。」
「・・礼を言われるのは心苦しいわ。」
クレアは目を伏せて言った。
「治療は依頼されての仕事に過ぎない。立て替えた金は組織の金で、元々は庶民が働いて得たもの。借金を立て替えてもらうのは、当然の権利と思って。」
「それでも感謝です。ええ、組織とやらではなく、あなた方に。」
「仕事でなければ助けなかったわ。」
「でも、こうして実際に助けてくれたじゃありませんか。やっぱり感謝です。」
「そう・・?」
あらためて、世界には性根の真っ直ぐな人間がいるのだと、クレアは思った。
そして彼女は、クスッと笑った。


- - - - - -


何があった。
何があった。
だんだんと思い出してきた。
わたしは戦ったのだ。
少女と・・鉄パイプを持った男・・。少女は10代前半。男の方も、よく見れば10代後半か20代前半・・?
体中が痛い。
目が覚める。
大男が座っている。わたしが戦った男とは別人だ。
彼は後ろを向いている。その向こうにベッドがあって、誰か寝ているようだ。
「ラルフィナ、果物食べる?」
「うん。」
女の声。他にも人がいるみたいだ。
「うう・・・。」
体が痛くて呻き声をあげてしまった。
すると大男が振り向いた。
一瞬ギクッとしたが、彼の目が優しげだったので安堵した。
「ああ、目が覚めましたか。大丈夫ですか、ゴイツさん。」
「あ、うう・・・!」
体中が痛い。
やはり、あれは夢ではなかったのか?
「ああ、無理をなさらずに。」

大男はサム・バロンと名乗った。
彼から事情を聞いて、わたしは愕然とした。
わたしが、夜な夜な若い女を襲っていたなんて・・・!
普通なら信じないところだが、何しろ思い当たることが多すぎる。サム・バロンも嘘を言ってるようには見えない。
やっぱり、そうだったのか。
幸いにも死人は出ておらず、生命力を吸われた女性たちも、組織とやらの治療で元に戻るそうだ。
それを聞いて、幾分か気が楽になった。
誰のせいでもないとはいえ、わたしが女性たちを襲ったのは事実だ。
死人が出なくて、本当に良かった・・・。




   第十三話   完

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『エスパー奇譚』長編小説 「千里」 第二部まとめ読み
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