佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「千里」 番外編 四十年後へ贈る言葉

<<   作成日時 : 2016/05/02 00:30   >>

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1963年1月1日に生まれた、女の赤子。
今は無名の彼女が、後に超能力史に大きく名を刻むことを、このとき誰が知っていただろうか。
親も本人も知らない、未来の事実。
それをギガマイル・クレッセントは知っていた。


- - - - - -


「わたしも健康に気を遣わないといけない歳になってきたかしらん?」
27歳のレンファ・アータスティーは、鏡の前で呟いていた。
中華系の顔立ちで、目は大きい方だ。特に皺は無いが、少し目に隈が出来ている。
「何歳でも健康には気を遣うものよ。」
横にいた30代の女性が微笑みながら言う。
スラッとした美人の歌姫。砕組第二分隊長ラプソディア・カッセルだ。
「まあ、それはそうか。」
「ところで、聞いた?」
ラプソディアが柔らかい声で尋ねる。
「あ、聞いた聞いた。あのナントカ計画のことでしょ?」
「ええ。」
「月組隊長は何を考えてるのかしらん。この前もX・Q・・・ナントカって男の子を拾ってきたし、どうも読めないねえん。ま、読めないのは我らが砕組隊長も似たり寄ったりか。」
「ふふ、そうね。」
ラプソディアが相槌を打ったとき、レンファは何かに気付いたように手を叩いた。
「そうか、そうか、そうだわん。X計画か、X・Qって。」
「エックス計画?」
「そう。わたしの先祖が理論を構築して、既に2体の成功例を出してるって。」
「ああ、もしかして、X・マキナとX・カリバーのこと?」
「そんな名前だったかな。Xだけに10人だったっけか。あれ、でも月組隊長が計画を引き継いでるのかしらん?」
「そうじゃないの?」
レンファが何に疑問を抱いてるのかわからず、ラプソディアは怪訝な顔をした。
「いや、だって月組隊長がアルカディアに入ってから10年も経ってない。拾ってきた男の子って15歳なのん。」
「それは、アルカディアに来る前から・・」
言いかけてラプソディアは気付いた。
「そう、月組隊長って23歳でしょ・・・8歳以前に計画を引き継いでたって、千里眼を考慮に入れても、ちょっち無理あるような・・・。」
「確かにそうね。だとしたら彼女の祖母かしら。」
「あ、なるほど。その可能性はあるっぽい。万里子さんがX計画を引き継いで、それを更に引き継いだわけか。」
「そう考えるのが自然ね。」
「しかしアルカディアってば、エスパーを生み出す計画が好きだよね。何を企んでるのかしらん。あ、企んでるって人聞き悪いか。どんな構想を描いてるのかしらん。」
「案外、行き当たりばったりかもしれないわよ。X・マキナとX・カリバーは制御不能の怪物って聞いてるわ。」
「ということは、あの子も化物なのかしらん? そんな風には見えなかったけどな。」
レンファは少年の様子を思い出していた。
「まあ、怪物かどうかは心で決まるわね。ウロイによれば、X・マキナの方は自制が利いてるらしいわ。」
「隊長とだったら、どっちが強いかしらん?」
「それはわからないわ。砕組の人間としては、シュシュ隊長の方が強いことを信じたいものだけれどもね。」


「ウロイさん、X計画について教えてくれない?」
レンファは食堂で張り込みをして、砕組第十分隊長ウロイ・ディムニスを捉まえた。
「うろっ?」
ざるそばを食べようとしていた痩せ気味の男が、呼ばれて振り向いた。
「ほら、わたしの先祖が編み出した計画らしいから。知っておかないとスッキリしなくて。」
「うろおい、僕も詳しく知ってるわけじゃありませんよ?」
「知ってる範囲でいいから。ねん?」
「わかりました。けれど、その前に食事させてください。」
「ん・・・。」
レンファは渋々だが肯定した。

「レンファさんの知ってることと重複する箇所もあると思いますが、系統立てて話しますので、ご容赦ください。」
「わかった。終わるまで黙っとく。」
レンファは唇をギュッと結んだ。
それを見てウロイは話し始めた。
「アルカディアの発足は20世紀になってからですが、この組織には“シャングリラ”という前身があります。首領と副首領が存在したようですが、実際に組織を運営していたのはシンファ・アータスティー、つまりレンファさんの祖先です。“星の統括者”と呼ばれていたようですね。」
レンファが頷いてるのを見ながら、ウロイは話を続ける。
「シンファの直属には、3名の“星巫女”と、5名の“行星”がいました。アルカディアの重幹部を“星”と呼ぶのは、ここに因(ちな)んでいます。」
「へー、そうなんだ。・・あ、ごめん、続けて。」
「はい。えー、巫女の方は、マリー、アリス、クラリスという名前くらいしかわかりません。この連中は謎が多いです・・・。で、行星の方ですが、全員がシンファの実験によって生み出されたとされています。」
「!!」
「真偽は定かではないですが、シンファは強力なエスパーを生み出す実験を20も30も同時遂行していて、その中でも最大の成功例が5名・・・単独でシュシュ隊長と互角の怪物たちです。」
言いながらウロイは、レンファの表情が曇っていることに気付いた。
「うろおい、誤解の無いように言っておきますと、シンファが非人道的な狂科学者だったということではありません。倫理に反することが無かったとは言いませんが、強力なエスパーを生み出すというのは、コムザイン副隊長を生み出したオクトパス計画くらいのものだと想像してもらえば、だいたい合ってるでしょう。」
「・・・わ、わたしに、気を遣ってない?」
「うろ・・・そりゃまあ、わからない部分は善意で解釈してますが・・・。」
「ごめん、いいわ。続けて。」
レンファは焦って手を振った。
「はい。X計画というのはですね、核となる部分は予知能力に関する難しい理論が絡んでいて、ちょっと説明できないんすが、かいつまんで言うと、10人のエスパーを生み出す計画です。」
「当初から10人だったんだ。・・あ、ごめん。また話しちゃった。」
レンファは再び固く唇を結んだ。
「いえ、いいですよ。臨機応変で。」
「ありがと。」
「10人の能力は未知数・・・今はギガマイルさんがいますから、未知ではないかもしれませんが、とりあえず未知としておきます。いつ生まれるかもわからない。残りの7人は多分まだ生まれていませんね。」
「どういうこと?」
「うろろ・・・この先は僕より、ギガマイルさんに訊いた方がいいと思います。下手な説明を聞くと、かえって混乱しますから。」
「そう・・・。」
(本当は説明できるんじゃないかしらん?)
何しろ、物腰が低いようで食えない男だ。砕組でも特異な第十分隊を指揮する、通称“ナイト・ヘッド”。
“最大射程”(ラージェストレンジ)とも呼ばれているが、どちらにしろ一筋縄ではいかない人物である。


レンファは月組の執務室へ向かった。
月組というのはアルカディアでも謎の多い組で、どちらかというと楽天的なレンファでも、1人で行くのは心細い。
とはいえ、個人的な知的好奇心に誰かを付き合わせるのも気が引けて、結局1人で行くことにした。
「はい、どうぞ。」
中には長身の男性がいた。隊長補佐のサム・バロンだ。
「あの、X計画について教えてほしいの。」
「何の為にですか?」
サムは目を細めてレンファを見る。
「祖先のことだから、知っておきたくて。教えてくれるかしらん。」
相手は年下だから強気で行けと自分に言い聞かせて、レンファは目を見開いて詰め寄った。
「いいよ。」
「!」
その声はサムのものではない澄んだ声で、後ろから聞こえてきた。
振り向くと、少女のように小柄な女が立っていた。
職人が手作りした人形のような造形美、ツヤのある漆黒の長い髪と、邪気と形容するに相応しい空気。
アルカディア最高幹部ナンバー4、“月神”(アルテミス)こと、ギガマイル・クレッセントだ。
「コーヒーを飲むか?」
言ってることは普通なのに、絡繰人形が喋っているような不気味さだった。
レンファは小さく頷くのが精一杯だった。
「表情が乏しいのは生来のものだ。気にするな。」
そう言ってクレアは既に用意していた熱いコーヒーを差し出した。
丁度いい熱さ、ミルクと砂糖の量。完璧すぎて逆に不気味だった。
「ありがとうございます・・・。」
「ウロイの話の続きをしようか。それとも理論の補足も含める?」
「え・・」
レンファが知りたいのは続きの部分であり、そこに話を持っていこうという心積もりをしていた。
しかしX計画の理論について曖昧にぼかされていたことも思い出し、すると知的好奇心が湧き上がってきた。
「補足から、お願いします。」
「星の統括者シンファは48の超能力を持っていて、そのうちの1つに遺伝子操作がある。これと未来予知を組み合わせることで、10人の超能力者を作り出そうとした。しかし不確定性原理と環境因子の絞込みの甘さから、結果予測にカオス系が最低で79581式発生し、生まれる時代と能力についてシンファは予知しきれなかった。」
カオス系というのは例えば、数列で初項0.5、ある項の数値をAとすると、次の項はA−A^2で規定されるような、極めて一般項を特定するのが困難(不可能?)であるものをいう。
それくらいはレンファも知っていたが、それよりもギガマイルの喋り方が人形が口を利いてるよう、あるいは機械が入力された情報について答えているようで、不気味に思えてならなかった。
「しかし予測にカオス系が混ざるのであれば、プランク時間で小刻みに予知すればいいだけの話で、実際そこまで細かく予知せずとも10人の生まれる時代と能力は判明できる。すなわち、先に生まれた2名と1948年生まれのX・Q・ジョナルを除く残り7名も、20世紀の終わりまでには生まれる。X・D1、X・D2、X・D3、X・D4、X・D5、X・クラメーション、X・シードで最後か。それでレンファ、お前が聞きたいのはX・Q・ジョナルの能力と危険性についてだったかな?」
「あ、そうですね。是非お願いしますわん。」
失礼だけど理論の方は聞くんじゃなかったと思いつつ、レンファはコーヒーを一口飲んだ。
「X・Q・ジョナルの能力は、C級の五基と、サイコスペルショック、不完全レベルU、この7つだ。サイコスペルショックは相手の超能力の出力が高いほど威力が高くなる、要するにX・マキナやX・カリバーへの対抗策のようなものだ。シンファは超能力の暴走を危惧して、製作する超能力者は互いに力を殺し合うような関係にデザインする傾向にあった。完全に予測できなくとも、それくらいは作為を絡めることが出来たようだ。」
ギガマイルは薄気味悪い目つきで淡々と喋る。
それが不気味だったが、知りたいことを教えてもらっている手前、文句は言えない。
「レベルUについてはカタストロが興味を持ったらしいので、彼女に一任してある。そして人格だが、それがレンファ、お前の聞きたいことなのだろうが、良心的で真っ当だと言っておこう。X・カリバーのような危険は無い。」
「そうですか。」
レンファは胸を撫で下ろした。
敬愛するカタストロ副隊長に、邪悪なエスパーが近付いているとなれば、気が気ではない。
そうでないことがわかっただけでも、安堵するに十分だった。
「それでレンファ、電脳計画についても聞きたいのか?」
「・・・!」
そう言えばそうだった。
(この人の千里眼、どこまでの範囲を網羅してるのかしらん?)
レンファは驚きながら頷いて、コーヒーの残りを飲み干した。

アルカディアでは、強力なエスパーを生み出す計画が3つある。前身であるシャングリラのときに比べると数が絞られているが、内実は精微されている。
このうち三日月万里子が主導した“光兎計画”は、彼女の死後、1960年にスカーレット・マーチの誕生をもって、一応の成功となった。しかしスカーレットは能力が不安定で、ギガマイルが育成中。また、派生として“闇兎計画”が進められており、未だ発展途上あるいは進行中の計画であると言える。
“鉄鬼計画”は、重幹部の京狐夜果里(きょうこ・ゆかり)という人物が中心になって進めており、目的のエスパーが誕生するのは、ギガマイルの予知によれば1970年10月28日であるという。
いずれもシャングリラ、あるいは更に前身であるユートピアの頃に作成された計画を、改良あるいは改造したものであり、“光兎計画”の進行が早まった背景には、当時の最高幹部ノットー・リ・アースの能力がある。
これらの計画で誕生するエスパーの能力は、千年前でも現代でも理解しやすいもので、計画に携わる人数も相応に多かった。
ところが“電脳計画”というのは、ギガマイル・クレッセントが考案した、全く新しいタイプのエスパーを作り出す計画なのだ。

「簡単に言うと、コンピューターを使って私の代わりが出来るエスパーを作り出す計画だ。」
「こ、こんぴゅうたあ?」
レンファは面食らった。
「こんぴゅーたーって、あのコンピューターですよねん?」
「そのコンピューターだ。」
「えー・・・。」
1963年当時のコンピューターの性能を鑑みれば、レンファの反応は当然だった。
「無理でしょう・・・。コンピューターですよ・・・。ギガマイルさんの代わりなんか務りませんよ・・・。」
「100パーセントでなくていい。半分でも肩代わりしてくれれば随分と助かる。」
「0.001パーセントも無理ですよ・・・。」
ギガマイル・クレッセントの、アルカディアにおける最も基本的で最も重要な任務。それは、メンバー20万人の居場所と健康状態を同時並行でチェックし、何か問題があれば予知して事前に対策を整えるというものだ。
20万人の命を守るだけでも相当な労力を要するが、更に健康の維持や、悩み事、揉め事など処々の問題、不可避的なトラブルなどの早期処理など、それぞれ異なった個性を持つ20万人全てが健康で文化的な生活を送れるようにする為には、どれだけの労力を払っているのか想像が追いつかない。
人ひとりの生活を維持するのに必要な費用を考えれば、少しは想像できるが、単純に20万倍というわけでもないし、単純に20万倍でも人間業ではない。
ゆえに、史上最大の千里眼と名高い彼女のスペックは、その殆どがこれに費やされている。残りの、余りと言って差し支えない程度の割合の能力で、日々の生活や月組の指揮を行っているのだ。
「こういった同時並行作業は、コンピューターの方が向いている。コンピューターそのものは“鉄鬼計画”の派生で高性能のものを作り出す予定で、将来的にはロボットのエスパーも生み出すことになる。」
「は・・・・・・? ロボットって、え、ギガマイルさん、空想科学と現実、ごっちゃになってません?」
「空想科学は未来の現実だ。ロボットエスパーの名は“小松”。2000年5月2日に生まれる。」
ギガマイルの目は、無機質で不気味だが、真剣そのものだった。
狂気は感じるが、虚は感じない。
「・・・本気、なんですね。」
「私は“鉄鬼計画”を円滑に進める為に、今年の秋には日本を拠点として動くことになる。“電脳計画”のスタッフが欲しい。というわけでレンファ、どう?」
「・・・!」
そう言われて、どこか引っかかっていたことが腑に落ちた。
ギガマイル・クレッセントが、自分が来ることを予知できないはずがない。だから今までの話は、嫌々ではなく必要があってのことであるはずだ。
一応は機密に属するはずの話を、こうして話してくれる理由。それは、スタッフとして招き入れたいという意思に他ならない。
「悪い話ではないと思うが?」
ギガマイルの目つきは、薄っすらと笑っているように見えた。
「回りくどい言い方をしても仕方ないから率直に言うが、レンファ、お前の能力は元々C級だったものを無理やりA級に引き上げたものだ。連携には向かない。」
レンファ・アータスティーは、アルカディアのA級エスパーの中で最弱とされている。
能力はサイコキネシスのみであるが、それは砕組の隊員の多くも同じだ。
ただしレンファが特殊なのは、攻撃と防御を同時に行えないこと、そして攻撃力が防御力の半分しかないことだ。
レンファの出力はA級としては最低ランクの22000PKPであり、それでも砕組で隊長・副隊長3名に次ぐ第5位であるが、攻撃力が11000PKP相当ということは、B1級の中位あたりである。
ゆえに総合的な戦闘能力では、偶数の分隊長の中でも真ん中くらいである。
それでも個人として見れば相当な力量ではあるのだが、実のところ厄介なのは、攻撃と防御を同時に行えないという方であり、単純に1つのことしか出来ないだけでなく、他者と連携するような使い方も出来ないのだ。
これは集団戦法を基本とする砕組では、致命的とまでは言わなくとも欠点であり、レンファは強さに一目置かれつつも同時に役立たず扱いされるという、微妙な立ち位置となっていた。
ハービスやラプソディア、ラドルやウロイなど、個人としても強い者はレンファを尊敬する方が前に出るが、集団で強さを発揮する者は、レンファを軽んじていた。
「シンファが自らの遺伝子を操作し、子孫が効率的に力を使えるようにした結果、お前の出力は本来の800倍に強化されていて、それによる肉体への負担も殆ど無い。シンファの技術は大したものだ。完璧と言っても差し支えない。しかし、完璧ゆえに、それが限界とも言える。連携できないのは先天的なもので、訓練で解決できるものではない。羽の生えてない生き物に羽の使い方を学ばせるようなものだ。」
「わ、わたしは砕組では役に立たないから、成功するかどうかも定かでない計画のスタッフでもやってろと?」
言ってから、きつい言い方だったと少し後悔した。
しかし、訂正する気は無い。
するとギガマイルは、手を組んで言った。
「レンファ、お前は“電脳計画”がもたらす未来を見てみたくないか?」
「未来・・・。未来ですか?」
「“電脳計画”の真骨頂は、新しいエスパーを生み出すことよりも、その後にある。砕組を軽んじる気は無いし、まして“光兎計画”や“鉄鬼計画”は私も関わっているから、悪口など言わないが、しかしそれでも、歴史を変える力は無い、と言っておこう。ただ強いだけでも、マルチタスクでも、アリョーシャで間に合っている。もちろんX・カリバーやヘルファイスみたいな連中に対抗する為に、強力なエスパーが増えるに越したことはないが、それでは世界を守るだけに過ぎない。それでは駄目だ。それだけではな。」
ギガマイルは何を見てるのだろう。
彼女の目には、何が見えているのだろう。
レンファは不安だったが、もう半分は興奮していた。
「サイコキネシスが使えるから、その力を役立てなければならない。そう思うのは間違っていない。しかしそれは、子供が産めるから、子供を産まなくてはならないという程度の、正しさだ。」
「・・・!」
「砕組を辞める必要は無い。いつでも任務に戻ってもらって結構。どちらかを選ばねばならないことはない。」
そう言ってギガマイルは組んだ手を外した。
「隠さず言おう。“電脳計画”は、慢性的に人手不足に陥ることになる。かといって、猫の手は借りたくない。誰でもいいってわけではないのでね。人手不足なのに選り好みしなくてはならない、これはジレンマだよ。」
ホゥと息を吐いたギガマイルの姿は、少し人間味が感じられた。
しかしすぐに無機質で不気味な目つきに戻り、手を組み直した。
「今ここで返事をもらいたい。“電脳計画”のスタッフとして働いてもらえるか否か。制限時間は3分だ。」

3分間、180秒の間に、レンファの頭の中で生まれてから今までのことが浮かんで消えていった。
超能力が当たり前に存在するアルカディアで生まれ育った彼女は、自分の超能力を砕組で活かすことを全く疑問に思わなかった。幼い頃から将来は砕組の一員として戦場へ赴き、引退後は後進の育成に力を尽くす。そんな人生設計を描いていた。そしてそれは、今このときまでは変わらず進んでいた。
(本当かしらん?)
本当に変わっていなかったのだろうかと、レンファは自分に問いかける。
幼い頃に思い描いていた設計と、現実が違う。それは当たり前だ。しかし、根本的に何かが違うのではないかと、どこかで思っていたはずだ。
20年前に思い描いた夢は、20年前の世界での最適解だ。それを上回ることはないし、それ以外を思いつくことも出来ない。
時代は変わる。
世界は変わる。
かつて描いた夢を、別の形で実現することが出来なければ、夢にすがりつく亡霊のような人間になってしまう。
自分が実現したいことは何だったのか。
どうして砕組で力を活かしたいと思ったのか。
力を活かしたいと思ったのは、何故なのか。
(そうだ、わたしは―――)

「・・・3分間も、いりません。その話、受けます。」
レンファは自分でも驚くほど冷静に、はっきりと意思を告げた。
「ありがとう。」
相変わらず、感情が籠もってるように思えない淡々とした口調だったが、それは些細なことだった。
レンファは決心したのだ。
「それでは“電脳計画”の詳細を語ろう。」
ギガマイルの目つきが鋭くなった気がした。
先の先まで見据えた荘厳な大人のようでもあり、楽しいことを見つけた子供のようでもあった。


- - - - - -


あるときギガマイルは、“電脳計画”のスタッフを集めて言った。
「この計画は全く新しいエスパーを生み出すものであると同時に、古くからの理想論に従うものでもある。過去の理想は未来の現実だ。諸君らには未来を想像してほしい。未来を想像できる者だけが、未来を創造できる。悠久の時を想える人間も、現実の10年後を想像するのは困難だ。20年もすれば世界に対する認識が全く異なっていて不思議ではない。30年後には今の生活など跡形も無くなる。40年後には生きてるかどうかすら定かではない。」
彼女は自分に言い聞かせるように、自分の瞳に人差し指を向けた。
いや、向けたように見えただけだ。実際には目尻を掻いただけだ。
「その40年後に向けて、諸君らは何を残せるだろうか? 誰かに、何かに、言葉でも物品でも、伝えたいものがあれば、心に思い浮かべて、強く念じてもらいたい。40年後の未来へ届くよう、私が取り計らう。そのときに私が生きてるかどうかに関係なく、必ず届ける。史上最大の千里眼ギガマイル・クレッセントの名にかけて、約束しよう。」

1963年8月15日。ギガマイル・クレッセントが日本へ向かうより、少し前のことだった。




   四十年後へ贈る言葉   完

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『エスパー奇譚』長編小説 「千里」 第二部まとめ読み
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