佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「千里」 番外編 燃え盛る炎

<<   作成日時 : 2016/05/02 00:35   >>

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アルカディアは神組を頂点として、その下に3つの系列がある。
直接戦闘部隊であり、軍隊としての要素が強い砕組系列。
情報収集・混乱収拾・食料輸送など、補助的な役回りをする獣組系列。
そして、既存の枠組みでは力を発揮できないエスパーを集めた、月組系列である。

「また月組の予算が増額だと・・・?」
砕組副隊長の1人、フィリップ・ケストナーは、苦々しい顔で書類を握り締めた。
他の副隊長2人、コムザインとフィー・カタストロは不在であり、フィリップは1人で煙草に火をつけた。
「あンの、甘ったれの役立たず共が・・・。要求だけは一人前か。」
それで砕組の予算が減るわけではなく、むしろ、欠落した分隊を再び増やす為に、相応に予算も増えているのだが、フィリップが腹を立てている要素は別にあった。
アルカディアの人民が汗水たらして生み出した価値を、当然のような顔をして持って行くのが許せなかった。
成果を出してもいない、これから成果を出すとも限らない、そんな曖昧で不確かなものの為に、物資や労力が払われるのが、何とも嫌で仕方なかった。
フィリップは、“光兎計画”や“鉄鬼計画”も嫌いだった。そんな道楽のような計画に湯水のように、それこそ目の回るような予算が投入されていることに、唖然とした。
やや大袈裟に言えば、夢の為に現実が切り崩されるのが我慢ならなかった。
「既存の枠組みでは力を発揮できないだと? ふん、力を発揮できないのを環境の責任にするなら、幾らでも責任転嫁できるわ。楽とは言わん、彼らにも彼らなりの事情がある以上、楽とは言わんが・・・・・・図々しい。」
冷たい口調で最後の一言を冬の空気に響かせたフィリップは、去年に始まった“電脳計画”についても思い出して、苦々しい顔をしていた。
前の2つは、自分がアルカディアに来る前からの計画なので、今更中止するわけにもいかないのだと、納得できる面もあった。
しかし新参者で最高幹部の座に就いたギガマイル・クレッセントは、全く新しい計画をスタートさせたのだ。
それはまるで、今までのことを軽んじられているようで、どうにも不快感が拭いきれなかった。
「あのジャップの小娘が来てから、アルカディアはおかしくなった・・・。」
そう言いつつも、実のところ同じくらい感謝もしているのだ。
ギガマイル・クレッセントが来てから、砕組の死亡率は激減し、任務達成率も上昇した。
手塩に育てた組員らが、今日も明日も生き残る。それだけでも多大な感謝に値する。

(しかし・・・)
と考え始めて、フィリップは砕組の執務室に自分以外の誰かがいることに気付いた。
振り向くと、そこに見知らぬ少女がいた。
「誰だ貴様は!」
北欧系の容姿で、銀色のロングヘアーと金色の瞳が印象的だ。
発育は良いが、まだ20歳にはなってない。18歳になったばかりだ。
「ワタシは月組第二隊が隊員、ディーネプラ・ポチュナイ。」
「やはり月組か。どうりで俺が知らないわけだ。」
月組のメンバーは、その全てを把握している者は少ない。最高幹部でも、砕組隊長シュシュ・オーディナークや獣組隊長ハヌマン・アンタは把握しきれていない。
「知らないんじゃなくて、知ろうとしないだけだろ・・・?」
ディーネプラの目つきは怒ってるようでもあり、それがフィリップは気に食わなかった。
「何の用だ。」
「ここに来る予定は無かったんだけど、聞き捨てならない言葉を聞いたからさぁ。」
彼女は机に腰掛けて、肩を竦めた。
「フィリップ・ケストナー。あなたには見えないのか?」
ディーネプラは思わせぶりな口調で語り出した。
それがフィリップを苛立たせた。
「枠から外れた者の活かし方が、見えないんだ。」
「・・・・・・必要ない。」
フィリップは軽蔑した眼差しをディーネプラに向けた。
「ほよよ?」
机から降りて、ディーネプラは意外そうな顔をした。
フィリップ・ケストナーと言えば、砕組で最も理性的な人物だと聞いていただけに、こんなことを言うとは、よほど機嫌が悪いのかと思った。
「月組など必要ない。ギガマイル・クレッセントは、最高幹部としての仕事を専門に行うべきだ。わけのわからない部隊を作るのではなく、従来からあるものを、より良くする方向に尽力すべきだ。」
「・・・・・・。」
その言葉から、ギガマイルに対する並々ならぬ評価と感謝が見て取れて、ディーネプラは思わず次の言葉を躊躇した。
躊躇したが、やはり言ってしまった。
「自分が理解できないものが高く評価されるのが嫌で、そんなものはいらないと、辛辣で無神経な言葉を投げつける。それがどれだけ人を傷つけるのかもわからないで、何を未来に伝えるつもりなんだ?」
「未来か。貴様ら月組は判を押したように、その言葉を口にする。DGクラスの予知能力者が統括してるからか知らんが、過去と現在に敬意を払わない奴に未来を語る資格など無いぞ。」
「敬意は払ってるんだが、それが見えないのかな、あなたには・・・。努力しなければ強くなる資格は無いと思い込んでいる人には、努力の仕方は一種類だけじゃないってことが理解できないんだ。」
ディーネプラは首を傾けて右手で頭を支える。
左でも右手と同じような形を取る。
「あなたまるで、恋愛は男女でするべきだと、頑なに思い込んでる人みたい。存在は肯定するとか、人それぞれだとか、それって結局は否定の言葉で、すぐ側にいれば、何かを主張すれば、自分の認識する範囲にいれば、心無い言葉を浴びせかける。わかるんだよ、ワタシには。悪意の無い嫌悪が、悪意の無い憎悪が、悪意の無い侮蔑が、わかってしまう。そういう性質で、そういう能力なんでね。」
「能力?」
そのフィリップの問いに答えず、ディーネプラは話を続ける。
「共産主義者どもは気に食わない。革命という言葉を容易く口にして、人の心を容易く傷つける。同性愛に眉を顰め、退廃した貴族趣味だと断じて否定する。女の格好をして出歩く少年を、とても男らしく矯正する。ワタシの故郷は、革命家どもにメチャクチャにされた。あいつらの言うことは嫌いでね。大嫌いでね。でも、ひとつだけワタシが気に入っている言葉がある。“地獄への道は善意で敷き詰められている”ってね。」
その顔は、とても18歳の少女とは思えなかった。
「ワタシは努力が嫌いでね。大嫌いでね。いや、あなたの質問に対する答えだよ、ワタシはコピー能力者でね。あなたの嫌いな、努力せずに強さを得るエスパーだよ。でもね、“ずるい”とか言ってほしくないんだ。」
「・・・!」
「あなた、もっと人の心を知るべきだ。世の中には想像を超えたエスパーがいるし、想像を超えた心がある。そんだけ、言っておきたかった・・・。じゃね。」
ディーネプラは、形容しがたい表情で部屋から姿を消した。
空間のブレは僅かだった。

この約1年後、砕組の訓練生に問題児5人が入ってくるのだが、彼らに対してフィリップ・ケストナーが何を思って教育を行ったかは、定かではない―――――


- - - - - -


「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
1969年。白組の部屋で、組員サカルの元気な笑い声が響いていた。
「なんっすか、その計画っ、つか、頭おかしいっしょ?」
「まあ、クレアさんは天才だからな。」
話をしていたのは、白組隊長X・Q・ジョナル。至って冷静だ。
「や、おれの、頭おかしいってのも、天才って意味っすけど、や、しかしヤバいっすね。や、おれぁ、おれらエスパーも社会的にぁ常識ハズレってことっすけど、いやこれ常識を火にくべて虚数で割ったようなもんじゃないっすか。よくこんなん考えつきやすね、あん人は。」
「40年後に向けてメッセージを送るらしいぞ。開始から6年経ってるから34年後だが、何か言うことあるか?」
「や、や、や、無理無理無理。おれぁ未来に向けてメッセージとか、んな高尚なこと、こっ恥ずかしくって!」
サカルの顔は、本当に赤くなっていた。
何か恥ずかしいことを考えていたわけでもなかろうが、彼にとってはメッセージを送るという行為そのものが気恥ずかしくて仕方なかったのだ。
「そんなシャイなことで大丈夫か?」
ジョナルは心配そうな目になった。
するとサカルの動きがピタッと止まって、捨てられた犬のような顔つきになった。
「おれ、火組で上手くやっていけやすかね・・・。」
さっきまで元気だったのは、元気すぎると思っていたが、不安定になっていただけのようだ。もちろん元から明るい少年ではあるのだが。
「わからん。能力的に相性抜群なのは、わかりきったことだが、サカルの言ってるのは性格的なことだよな。」
「そうっす。」
「砕組系列とはいえ、属性組(火、水、風、土)は、砕組本家から脇役扱いされてるらしいから、俺らと境遇は似てると思うんだが、だからこそ逆に砕組の系列として半端者なんかとは違うって意識が前に出るかもしれん。」
「そうっすよね。火組だけは属性組の中でも別格っしょ?」
「ああ。重幹部のキアラ・テスタロッサと、B級の頂点デュース・ディーバーがいるところだからな。まともに戦えば、砕組の全分隊より強い。それだけにエリート意識は高いと思う。」
「何か、すっげえ不安になってきやしたよ。おれぁ、拾われっ子で田舎者だし、エリート様から見たら、やっぱ、あれっすかねー。」
力無く笑うサカルだったが、ジョナルは彼の手を取って言った。
「嫌になったら、いつでも白組に戻って来い。」
「えっ?」
「そのくらいは俺の力で何とかする。何とか出来なければ、クレアさんに頼み込んででも何とかする。」
「で、でも、おれの能力は、火組でないと活かせないって。」
「関係ない。いや、関係なことはないが、サカルが気分良く働けるかどうかに比べれば、能力を活かすとかいうことは二の次だ。」
「あ、ありやとやす・・・。」


その頃、火組では金髪の男と、包帯を巻いた女が話していた。
「いよいよ明日かー。な、ジェスレイ。」
金髪の男がウキウキした調子で話しかける。
「楽しみデスね。以前から期待してまシタから。」
包帯の女も、上機嫌で答える。
「そもそもドウシテ彼が今まで火組に入らなかったノカ、それが不思議デスよ。」
「あ、その理由、デュース副隊長から聞いた。耳貸して。」
彼はジェスレイの耳元で何かを囁いた。
「なるホド、それは仕方ないデスね。」
「だろ。ジェスレイなら、よくわかんだろ。サカル君が入ったら、手取り足取り教えてやれよ。」
「ソドムは?」
「いや、ほら僕は、あれだから。あまり近寄らない方がいいだろ、道徳的に・・・。」
お手上げというポーズで軽口を叩くソドムを、むしろジェスレイの方が痛ましい顔で見た。
「それよか、デュース副隊長どこ行ったの?」
「昨日、任務でルーマニアに向かいまシタよ。」
「ちゃあ、入れ違いかー。せっかくサカル君を迎え入れるのに、隊長も副隊長も不在って、まずくないか・・。失礼というか・・・。今時の少年って、そういうの気にしそうじゃない? 彼、確か戦後生まれだよな。」
「18歳か19歳デスね。」
「あー、一回り以上も離れてんのかよ。ちゃんと会話できるかな僕。センスが古いとか言われたらどうしよ。」
「案ずるより産むが易しという言葉もありマスよ。」
ジェスレイは至って冷静な態度を崩さなかった。


「あ、あの、サカルと申します。よろしくっす!」
自己紹介をしてから、サカルは大きく深呼吸をした。
それを見て火組の2人は安堵の表情を見せた。特に金髪の男の方は、何か任務を達成したときのように清々しい顔をしていた。
「えと、僕はソドム・ゴラモン。発火能力者としては亜流だから、君と似たようなものかな。」
金髪の男が手を差し出した。
サカルは照れ笑いして握手に応じた。
「それで、こっちの包帯女はジェスレイ・ザードン。」
「ちょっと言葉がおかしいデスが、気にしないでくだサイ。火傷で咽をやられているだけデス。」
「あ、アルカディアの技術で治さないんっすか?」
「コレは、戒めデス。能力の扱いに失敗して負った火傷なノデ、そのコトを忘れない為にも、痛みと不自由を味わい続ける必要があるのデス。臥薪嘗胆、じゃないな、咽もと過ぎれば熱さ忘れると言いマスからネ。」
「な、なるほど・・・。」
「引きマシたか?」
「や、感心してるんす。おれも能力の扱いに失敗して酷い目にあったことあるんす。だからっ、その痛みを忘れずにいるって、それって並じゃ出来ないっすよ!」
「ありがとうございマス。」
ジェスレイも手を差し出して、サカルは彼女の手を握った。熱が籠もっていた。
「サテ、簡単なものデスが、食事をしまショウか。ソドム。」
「びっくりするぜー。」
ソドムが持って来たのは、何と牛肉の塊だった。
「おおっ!?」
「塩コショウやスパイス、ハーブに漬け込んだ、特性牛肉だ。こいつを発火能力で焼いて食うのさ。」
「さ、流石っす。食事と超能力の修行を一緒にやるなんてっ、エリートは一味違うっすね!」
「はっはっは、エリートなんてもんじゃないってー。まあ、何かの組員ってだけでアルカディアでは200人に1人のエリートってことになるんだろうけど、だったらサカル君もエリートだろ。」
「えー、おれぁエリートなんてガラじゃないっすよ。」
「だろ。僕らも同じだ。今時エリート意識なんて持ってるのは砕組の連中くらい・・・おっと、いけね。本家の悪口あまり言わない方がいいや。」
「そうデスね。己の品位を下げマス。悪しきを以って悪しきを論じることなかれ、余計なことは言わぬが華デス。」
「さてと、じゃ、ジェスレイ頼む。」
「ハイ。」
ジェスレイは念力で炎を起こして、牛肉の塊を炙っていく。
瞬く間に食欲をそそる香りが広がり、3人の咥内に唾液がほとばしった。

「そうそう、言い忘れるところだった。僕ら火組の隊長、キアラ・テスタロッサって言うんだけど、5年前に旅に出たきり行方知れずになってんだよ。」
肉を食いながら、ソドムが話し出した。
「それで副隊長のデュースさんが、半ば隊長みたいな役回りしてるんだけど、今ちょっと任務で、ええと、どこだっけ?」
「ルーマニアですヨ。」
ジェスレイが答える。
「何でも、ブラックリスト2級のエスパーが出没してるらしいデスよ。」
「リスト入りかー。しかも2級って、僕やジェスレイの手には負えないクラス。」
「そんなに強いんすか?」
サカルが尋ねる。
「名前までは聞いてませンガ、2級となれば手強いデスよ。15年くらい前に砕組が大破したことがありマシタが、そのときに2級クラスのが5名だったか6名だったか、同時多発で。丁度、砕組の主力が方々へ飛んでる頃で、我々も駆り出されまシタね。覚えてますか、ソドム。」
「あのときは死ぬかと思ったなー。ああいう変なのが出てきたときこそ月組の出番だったんだが、まだ結成前だったというオチだ。」
「大変だったんすね・・・。」
「そーだよ、大変だったんだよー。聞いてくれるか、僕の失敗談。」
ソドムは泣き真似をしながらサカルの隣に座った。
「飲んでもいないノニ酔っ払ってるんデスか、ソドム。」

30分後。
「ってなわけで、もう散々よ。もう、いいとこなし。あんときは僕、いくつだったけなー。今のサカル君と同じくらいか。」
そう言ってソドムはサカルをまじまじと見た。
「僕が19歳のときって、こんなしっかりしてたかなー。」
「ええっ、おれぁ、しっかりしてないっすよー。あんまりお世辞言わないでくんなせえ。」
「いやいやいや、マジマジマジ。」
「シカシあのときは、砕組としては収穫もあったようデスね。カミーユ・ハートンを拾ったのが、あのときの何かの戦いでデシタ、確か。」
「あ、カミーユっすか。“アレスト”カミーユって、あの・・」
「そう、そのカミーユ。砕組で、分隊に属さず、しかし訓練生ではない。まして隊長や副隊長でもなく、肩書きとしては予備員だが、一目置かれてる2人だ。要するに、どこでも変わり者や規格外ってのは発生するってことだな。」
「それナラバいっそ変わり者を集めるという月組のヤリ方は、理に適っているカモしれませんね。」
「あれ、ジェスレイ。今までは不満あったの?」
「そういうわけデモありませんが、意図が読めないデスから。」
「あ、それぁ、おれも思いましたぁ。」
「デスよね。」
「あ、そうだ。思い出した。月組と言えば、第二隊にディーネって女の子いるじゃん。北欧系の美少女。あ、もう20歳は過ぎてるか。彼女を呼んどいた方が・・」

「もう来てる。」
ソドムの隣に、銀髪で金色の瞳の女が座った。
「おおっ!?」
「!?」
「!」

「ワタシのことを知っていてくれましたか。」
ディーネプラは笑顔で肉を頬張っていた。
「あんたの能力は有名だからな・・・って、それより、どうやって僕らの会話を・・・あ、予知か。月組だもんな。」
「いえ、サカルが火組に入るなら、面倒みてやってくれと、キアラさんに頼まれていたのです。」
「隊長に会ったのデスか?」
「5年前、彼女と手合わせをしたときに頼まれました。」
「あんときか。」
ソドムは思い出して頷いた。
「隊長、ちゃんと仕事してたんデスね。意外です。」
「だよなー。」
隊長が仕事するということが、これほど意外なことであるという事実に、サカルは少し心配になった。
上手くやっていけるかどうかという心配は杞憂だったが、別な問題が色々とありそうだ。
「コピー能力者には、コピー能力者ならではのコツがありますからね。そのことはキアラさんも承知ですよ。」
「あ、あの、あれぁ、前に失敗して大火傷したんっすけど、何が悪かったんすかね?」
サカルが緊張しているのは、教えを請う立場だからというだけではなさそうだ。
年上の美人を前にして、あがっているのだ。
「悪いと言えば、教え方が悪い。あなたに教えたのは誰?」
「あ、ええっと、名前は聞いてないっす。実験で。」
「科学者どもか・・・。」
ディーネプラは首を振りながら溜息をついた。
「大方、コピー能力を、手軽に強力な力を得られる能力だと勘違いしたんだろう。よくある間違いだ。」
「あ、それはっ、言われたっす。コピーしても、その能力を使えるだけのっ、ぎぢゅつが無いと駄目だって。それに注意してと言われたっす。だから、おれぁ、注意してやったんすけど・・・。」
途中で噛んでしまったが、サカルは気付かない。
ディーネプラも、そのまま話を続ける。
「それこそが大いなる勘違いなんだ。コピー能力を扱うときに必要なのは、技術以前に、認識だから。」
「認識、っすか?」
「自分が本来は持っていない能力を扱うというのは、どういうことか? 余計に手や足が生えてくるようなものだ。生えてくるのは触手かもしれない。それを操るには、認識力。想像力と言ってもいい。」
「イメージ・トレーニングっすか。」
「必然的に、そうなる・・。コピー能力者は、普通とは違う努力をしなければならない。それは傍目には怠けているように見える。そう見る人は多い。何しろ、想像しているだけなのだから。」
「でぃ、ディーネさんも、何か言われたんっすか?」
「口さがない連中は、どこにでもいるものよ。噂は信用できないのと同じことね。ワタシの能力も誤解されて広まってるみたいだし。」
「コピー能力、じゃないんすか?」
「そこまでは正しいわ。けれど、何でもかんでもコピーできるわけではないの。月齢能力者の能力を、それも1つだけ。あなたが発火能力しかコピーできないように、ワタシの能力も制限があるということなの。」

想像力は時に現実を凌駕する。
模倣というのは、程度が低ければ単なる猿真似でしかないが、その猿も真似が出来る知性があるということは、猿真似も案外、程度は低くないのかもしれない。
真似をするというのは、想像することと似ている。絵画の模倣をするとき、描いた画家の気持ちや、そのときの環境に想像を馳せることが重要なのだという。観察というのは、ただ見るだけではなく、想像力の産物だというのだ。

「コピー能力者にとって最も大切なのは、思いやり・・・いえ、思いやりでなくてもいい。人の気持ちを想像できる能力に長けること。」
「うっす。」
ディーネプラの言葉に、サカルが真剣に聞き入って頷く。
「人の気持ちを思いやれる人ほど、模倣も上手い。内面まで真似るから、それはオリジナルと異なった、真似る人の個性が出るのだけど、それは多くの人間が賞賛してやまないオリジナリティーというものに通じる。逆に、無神経で人の気持ちを想像できない者の模倣は、みにくい。」
みにくい、と嫌悪を込めて、ディーネプラは誰かを思い出すように言った。
それが彼女の末の弟について言われたことだと、サカルが知るのは、だいぶ後になってからだった。
「自分が、どちらに属しているのか。折に触れて考える必要があるわ。年に1回くらいでいい。」
「肝に命じるっす。」
サカルの真っ直ぐな視線を受けて、ディーネプラは少し胸が痛んだ。
「・・・ワタシも、自分が他人の気持ちを思いやれているのかどうか、自信が無い。他人を醜いと批判するときこそ、最も心が汚染されやすいときだから。」
「えぁ、ディーネ師匠でも、自信ないっすか。」
「師匠はよして。」
ディーネプラは微笑みながら言った。
「お、おいっす、ディーネさん。」
サカルは真っ赤になりながら何度も頷いた。


やがて副隊長のデュース・ディーバーが任務を終えて戻ってきた。
そのときにはソドムとジェスレイは、別の任務で駆り出されていて、火組にはサカルと、ディーネプラだけが残っていた。
「わたしは副隊長のデュース・ディーバーだ。よろしく、サカル君。」
こげ茶色の髪の、中肉中背の男は、少し自信なさげに挨拶して手を出した。
幾つになっても初対面の人と会うのは緊張するものなんだと思いながら、サカルは手を取って挨拶した。
「しやっす!」
「早速だが、能力を見せてもらって大丈夫かな。発火能力専門のコピー能力だったね。」
「あ、えっと・・」
サカルは少しディーネプラの方を見たが、首を振ってデュースに向き直った。
「その前に、デュースさんのことっ、知りたいっす。」
「お?」
「えと、今回の任務ぁ、どんなだったんすか?」
「わかった、そこから話そう。といっても、わたしの出番はごくわずかだったがね・・。」

サカルの炎が燃え盛るまでには、まだ時間を要する。
それはきっと、正しいことなのだ。




   燃え盛る炎   完

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『エスパー奇譚』長編小説 「千里」 第二部まとめ読み
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2016/05/02 01:50

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