佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「千里」 第十六話 アルカディア幹部会 (上)

<<   作成日時 : 2016/05/02 00:45   >>

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アルカディア幹部“六角七星”。最高幹部“六角”は番号は序列を顕し、重幹部“七星”は並列の存在である。この下に77人の準幹部“七十七璧”が存在している。
1970年の初頭、七星の1人、フィリップ・ケストナーが、本人の希望で退職することが決定した。“鉄壁超人”と呼ばれ、数々の功績を残した彼の退職は、多くの人から惜しまれた。退職祝には、彼の友人や部下、新旧の教え子たちが集まった。
逞しい体つきと厳つい表情は50を過ぎても健在で、本来ならまだまだ現役で働ける中での引退だった。
「ふう・・。」
祝賀会での酔い醒ましに外を歩いていると、そこで最高幹部ギガマイル・クレッセントを出くわした。
「フィリップ、孫が生まれるんだってな。」
「・・・貴様も来ていたのか。」
フィリップは彼女が嫌いだった。年若くして最高幹部になってることや、日本人であること、そして何よりも気に入らないのは“変革者”であることだ。フィリップにとって、彼女はアルカディアの秩序の破壊者だった。
本名は三日月千里。最高幹部の中でも最も若く、重幹部でも彼女より年下はいない。
「そりゃあ来るさ。」
「ジャップの小娘が何しに来た。」
「やだなぁ。もう小娘と呼ばれる年齢でなし。」
最近30歳になった彼女は、10代半ばの外見で笑顔を作ってみせた。
はにかんだような笑顔は、それが無垢な少女のものであれば好ましく映ったかもしれない。
「何しに来た。」
「祝いに来たと、素直に思ってはくれないのか。」
「馬鹿な・・。」
フィリップは吐き捨てるように言った。
「それじゃあ、もう帰るよ。」
ギガマイルはフィリップの側を通り抜けて歩いていった。
すれ違うときに彼女は一瞬だけ立ち止まった。
「孫の様子に注意しとけよ。」
「なに?」
「どうせ言っても無駄なんだが、言うだけ言っておくのが私の流儀でね。」
そう言って彼女は振り返ることなく、ひらひらと片手を振って去っていった。

これ以降、フィリップ・ケストナーとギガマイル・クレッセントが会うことは二度となかった。


- - - - - -


それから1ヵ月後、ギガマイル・クレッセントは再びアルカディア本部を訪れた。
厳重なセキュリティーがかけられた、アルカディアの深部。幹部の集う会議室は、そこにある。
そこへ続く長く薄暗い廊下を、ギガマイルは歩いていた。
レックスにも見せたことがないような、異常なほどに落ち着いた表情。超然とした雰囲気は、どこか人間味が薄い。
一切の物事を並列に想起しているような、薄暗く静かな微笑。
月組隊長クレア・クレッセントではなく、アルカディア最高幹部ギガマイル・クレッセントの顔だ。
「・・・。」
歩いていくと、左手に女が立っていた。30代くらいに見えるが、強力なエスパーの例に漏れず、見かけ通りの年齢ではない。本来は50歳だ。
右目に眼帯をしていて、視えない左目は鋭くギガマイルを睨んでいた。
「久しぶりね、ユカリ。“鉄鬼計画”以来じゃない。」
「気安く名前で呼ぶな・・。」

京狐夜果里(星の四・獣組副隊長)
サイコキネシスA3級
空間干渉A3級
メタルイーター

「つれない奴だ。15年来の付き合いだというのに・・。」
「あたしを怒らせに来たのではあるまい?」
「ウッキイ、ウッキイ!」
夜果里の肩に乗っている猿が、彼女に同調するように抗議の声をあげてギガマイルを睨みつける。

ハヌマン・アンタ(角の五・獣組隊長)
ヒュプノシスS級


「はいはい、もう行きますよ・・。」
ギガマイルは目を伏せて歩き出した。
しばらく歩くと、右手に姉弟と見まごうような雰囲気の2人が立っていた。
それぞれ40代だが、やはり遥かに若く見える。
男の方は中背より少し小柄で、やや細身だが頑丈そうな体つき。威風堂々とした物腰と、余裕を含みつつも凛々しい表情。短く切られた髪は、毛先が揃っていない。
女の方は、同じく細身で頑丈そうな体つきをしている。細いというより絞り込まれている。長い黒髪はあまり手入れはされてない様子で、鋭い眼光と共に野性味がある。

コムザイン・シュトラスツェーベリウム(星の五・砕組第一副隊長)
A1級サイコキノ

フィー・カタストロ(星の六・砕組第二副隊長)
A2級サイコキノ

「久しいな。コムザイン、カタストロ。」
それだけ言うと、ギガマイルは返事も待たずに歩いていった。2人とも自分と会話する気が無いのがわかっていた。

もうしばらく歩くと、扉があった。
荘厳な趣のある、深い群青色に塗られた木製の扉。アルカディアの幹部が集う会議室の入口である。
ギガマイルは片手で扉を開けて中に入った。
部屋の中には群青色の円卓があり、12の席が配置されている。その中の一番奥の椅子に、見かけ20代くらいの女が腰掛けていた。
しっとりとした長く黒い髪の美女。白い着物を肌に直接身につけている。
「やっほー、クレアちゃーん。元気ー? 私は元気だよー♪」
彼女は笑顔で右手をひらひらと振った。
「・・・・・・。」
ギガマイルの顔が曇る。
「ここよっ、ここ。私の左の席に座ってよ。」
彼女は興奮した様子で椅子をバンバンと叩いた。
「はいはい。」
ギガマイルは言われた通りに椅子に座った。
「あれ、今日は素直なんだ。いつもはもっと嫌がるのにー。抵抗するクレアちゃんを大人しくさせるのが私のライフワークなんだけどなー。」
「・・・どうせお互い久しぶりでもないけれど、とりあえずコンニチハ、“女神”(ゴッデス)ミセス・ジュエル。」

ジュエル・パレ・グル(角の壱)
神化系能力者

「よーし、じゃあ始めようかしら!」
首領ミセス・ジュエルが言うと同時に残りの席のうち9つに幹部たちがテレポートされ、空いた1つの席には机の上にモニターが現れた。モニターには外見が20歳くらいの男が映っている。
髪も髭もろくに手入れされておらず、冷たい憎悪を孕んだ目をしていた。

ライ・アンチェス(星の一)
サイコキネシス
テレポート
テレパシー
クレヤボヤンス
プレコグニッション
各自・超A級

ミセス・ジュエルの右側には、見かけ50歳くらいの男が座っている。
がっしりした体格で、気品のある物腰が執事服と相性が良い。

アモン・ガゴルグ(角の二)
神化系能力者

更にその右には、外見は10歳かそこらの少年に見える人物が座っている。
幼いようで老成した雰囲気もあり、簡素に短パンとノースリーブのシャツを着ている。

ミチルド・レジャミラス(角の三)
神化系能力者

ミチルドの右側には獣組隊長ハヌマン、その右側に副隊長の夜果里。
ミセス・ジュエルの左側には“角の四”ギガマイル・クレッセント、その左側にいるのはフードを被って顔を隠している人物。大きな目だけが隙間から外をギョロギョロと覗いている。

シュシュ・オーディナーク(角の六・砕組隊長)
S級サイコキノ

その左側に副隊長のコムザイン、カタストロと続く。
モニターを挟んで2人。カタストロの隣にいるのはサイケデリックな服装をした女。見かけは20代半ばで、顔中だけでなく体中の至るところにピアスをしている。

サイ子・メビウス(星の二)
サイコキネシスB1級
リミッター
ジャミング

夜果里の隣は、真っ赤な剣のような髪をしたイタリア人の女。見かけは20代後半だ。

キアラ・テスタロッサ(星の三・火組隊長)
A1級パイロキネシスト

「うわー、幹部が勢揃いなんて、いつ以来かしら?」
ミセス・ジュエルは嬉々として言った。

角の壱 “女神”ミセス・ジュエル
角の二 “神の僕”アモン・ガゴルグ
角の三 “神の子”ミチルド・レジャミラス
角の四 “月神”ギガマイル・クレッセント
角の五 “獣王”ハヌマン・アンタ
角の六 “念縛要塞”シュシュ・オーディナーク
星の一 “虚無”ライ・アンチェス
星の二 “沌乱”サイ子・メビウス
星の三 “炎の旅人”キアラ・テスタロッサ
星の四 “鉄狐”京狐夜果里
星の五 “壊滅大帝”コムザイン・シュトラスツェーベリウム
星の六 “挽念化生”フィー・カタストロ
星の七 “鉄壁超人”フィリップ・ケストナー

「今回の議題は、みんな知ってる通り、フィリップ君が退職しちゃったんで、その後釜をどうしよっかなーという話なんだけど。それじゃ、アモン。司会よろしくね。」
「かしこまりました。」
アモンは恭(うやうや)しく頭を下げ、そして10人に向かって再び礼をした。
「それでは僭越ながら、わたくしアモン・ガゴルグがこの場を取り仕切らせていただきます。鉄壁超人の後継者を選ぶということですが、皆様方、それぞれに思い浮かんでいる人物がおられるのではありませんかな。」
その言を受けて、モニターの男ライ・アンチェスが発言した。
「アリョーシャはどうだ・・。」
“齢月決帝”アリョーシャは月組の副隊長で、ギガマイルの部下である。
「アリョーシャねえ?」
意外にも真っ先に難色を示したのはギガマイルだった。
「あいつは強いことは強いが、やりたいことしかやらない。役職だけ与えても、城の中に閉じこもっている状況が改善するとは思えない。それでは意味が無いどころか、組織内での月組勢力拡大に伴う摩擦が害悪だ。私はデュースがいいと思うがね。」
“獄炎魔帝”デュース・ディーバーは火組の副隊長であり、キアラの部下である。また、抜けたフィリップと同じく砕組系列でもある。夜果里とサイ子は、ギガマイルの発案なのが気に入らないにしろ、内容は賛成だった。
しかしコムザインが異を唱える。
「しかしなあ、同じ組の隊長と副隊長が同じ階級というのはあまり良くないと思うのだがな。」
「ウッキイ! ウッキイ!」
ハヌマンも同じ意見のようである。
「キアラさんは、どう思われますか?」
アモンがキアラに訊いた。
「アタシはあまり気が乗らないね。デュースは今の役職が気に入ってる。そうだろう、ギガマイル。」
「まあ確かに。」
「幹部会の決定なら従うだろうけど、アタシは無理強いしたくない。」
そこへカタストロも頷いて同意した。
「ならば・・」
あまり抑揚の無い声でシュシュが話し出した。
「誰を選べばいい。デュースも、アリョーシャも、駄目ならば、重幹部の力量たる者はいない。」
「ヴェネシン・ホーネット、ネイル・グレイ、ハービス・カチュラム、レンファ・アータスティー・・・」
サイ子が砕組の名だたるエスパーの名を挙げていくが、途中でシュシュが遮った。
「重幹部の力量には遠く及ばない。力量も、軍才も。」
「ギガマイルさん、月組の他の面々はいかがですか?」
「アリョーシャに務まらないなら、他に務まる奴はいない。」
アモンが水を向けたが、ギガマイルは断る。
「いっそ斬空剣星はどうだ・・。」
「あいつに人の上に立つ仕事は務まらないね。」
ライ・アンチェスの提案を、夜果里が即座に却下した。
「うーむ・・・。」
「・・・・・・。」
会議室に沈黙が流れた。

「誰がなろうと同じだよ。」
沈黙を破ったのはミチルドだった。
「従えば厚遇するし、逆らえば消す。答えなんてのは、いつもシンプルなものさ。」
「そうだねえ。」
「乱暴だが的を射ている。」
夜果里とコムザインが同意する。
「・・ならば、交代制にするか?」
ぽつりとキアラが言った。
「いいね、それ。“準星”という階級を新たに作って、数人が一定期間で交代する。悪くないと思う。」
カタストロの提案に、大体みんなが首を縦に振った。
それを見てアモンは両手を挙げて注目させる。
「それでは誰を選びましょうか?」
するとギガマイルが言い出した。
「何か試験を設けて選抜するのがいいだろう。あまり多くは選べないし、実力が同程度の中から幹部会の恣意で選ぶのも不満が出る。私は試験内容を決定しないから、誰か考えて。」
ギガマイルは強力な予知能力者なので、試験内容を決定することは自分の選んだ人間を役職に就けるのと同じになってしまう。公正をきす為には、自分で考えるわけにはいかなかった。
「試験ね。」
夜果里が言う。
「何を判別するかが問題だが、戦闘能力、統率力、事務処理能力、育成能力、あたりか。」
「フィリップの後継者だから、部下の管理や育成に重点を置くのがいい。」
カタストロが付け加えて、具体的になってきた。
「そうだな、フィリップの穴を埋めるには・・。」
コムザインも頷きつつ同意する。
シュシュは無言だが、反対しないところを見ると依存は無いようだ。
「それでは決を採りましょう。」
アモンの言葉に従って、ジュエル以外の全員が投票する。
結果は賛成10、棄権1だった。反対が無いので、賛成として話が進む。
「では、育成能力重視の試験を行うということで決定としまして、内容を詰めていきましょう。」
会議はそれから50時間ほど続いた。


- - - - - -


アルカディア重幹部“星”(ほし)に次ぐ地位は、“璧”(へき)である。由来は古代中国にあり、同じく“連城の値”の故事から、アルカディアの城壁たる意味を込めて“壁”の字も同時に使われることになった。
基本的に77人がその地位に就いており、“七十七璧”と呼ばれている。砕組の偶数分隊長や、“月帝”アリョーシャ、“炎帝”デュースなどが、ここに属する。滅多に人員の変動が無い幹部らと違い、準幹部である“璧”は、しばしばメンバーの入れ替えや補充がある。今回もフィリップの引退に伴って保守派と目されるエスパーが6人も抜けた。
“璧”の補充もさることながら、今回フィリップの抜けた穴を埋めるべく、新たに“準星”という役職が作られることになった。“璧”と“星”では権限などに大きな差があるが、“準星”の持つ権限は“星”に匹敵する。4人で3ヵ月後とのローテーションとなる予定だ。

砕組は、にわかに活気づいた。
試験を受ける者、応援をする者、賭けを行う者、観戦希望者、様々である。ひとつの祭りと言っても差し支えない。
「ウロイ、お前も受けるのか?」
第十二分隊長ヴェネシン・ホーネットが、第十分隊長ウロイ・ディムニスに訊いていた。
「いやー、とてもとても。“大雀蜂”のホーネットさんが出るとなったら、席ひとつ無くなったようなものですし。勘弁。」
「そうかね。試験内容には投票もある。部下に慕われてるお前なら、いい線いくと思うが・・。」
ヴェネシンは黄色く長い髪を掻き揚げた。
彼女の細い首が顕わになり、ウロイは少しドキッとした。
「・・・。・・・。いやー、もう勘弁してくださいよー。僕あ、今の地位で十分ですって。」
「ほー、“ナイト・ヘッド”と呼ばれた男が、随分と丸くなったものだ。それとも別の狙いでもあるのか。」
「勘弁してくださいよー。」
ウロイは後ずさった。
そこへ第六分隊長“サイド・ワインダー”ラドル・スネイクがやって来た。引き締まった体型で、女好きである。
「よーう、お二人さん。早くも前哨戦かな?」
「・・・。ラドルさん。」
同期を前にして、ウロイはホッとしつつも一瞬意味ありげな表情を浮かべた。
「おー、ウロイ。苦手な奴が来たとか思わなかったか?」
「うろおい、何を言い出すかと思えば。」
ウロイは肩を竦めた。
「まあ正直、苦手ですが。でも嫌いじゃないですよ。それと僕は試験には出ませんから、牽制しなくてもいいんですよ?」
「・・・少し会わない間に、いっそう読めない奴になったな。」
「いやいやいや、勘弁してくださいよ。」

第四分隊では、副官リックが分隊長ハービスと話していた。
「え、出ないんで?」
「私に幹部など務まらんよ。たとえローテーションでも、荷が重すぎる。」
「しかし、分隊長は有力交付の1人なんですよ。既に分隊長に賭けてる人間は大勢いて・・・おれも。」
「リック・・。」
ハービスが呆れた顔で睨む。
「わー、すんません!」
「・・・まあそれはいい。」
ハービスは軽く溜息をついた。
「正直に言えば、腕試しがてら出てみるのも悪くないと思っている。しかしだ、武闘大会と違うからな、これは。」
「うーん、おれもそうですが、第四分隊の人間は分隊長が出世すると嬉しいんですが。」
「・・そしたら第四分隊は解体されるかもしれないぞ。」
「えっ?」
「ケストナー副隊長の代わりというなら、そうなる可能性も低くない。第四分隊は解体されて、予備員になるか他の隊に組み込まれる、かもな。」
「それは嫌ですね・・・。」
「私もだ。試験に受かる自信はあるが・・・・今回は静観するよ。」

白組では副隊長のイウィー・ディークィルが隊長のX・Q・ジョナルと話していた。
イウィーは銀髪ショートヘアの21歳。ジョナルの最も信頼する女性である。
「というわけで、ジョナル。あなたは“準星”になるべきだと思うのよ!」
「・・・何が、“というわけで”なんだ? さっぱり話が見えないんだが。」
「かいつまんで言うとね、あなたも試験を受けることが出来るってことなのよ!」
「それが?」
「だからあ、巷では砕組の誰が準星になるかって専らの噂だけど、別に砕組に限ったことじゃないわけよ。あなただって去年、七十七璧の1人になったわけだし、条件は同じよ。」
「条件が同じでも結果は違うさ。」
「もー、何でそう、へっぴり腰なのよ!」
「冷静な分析と言ってほしいな。前と違って今度は個人勝負。今は白組の足元を固めた方がいい。」
「ちっちっち・・・あまーい。試験には“連携”があるのよ。他のエスパーと力を合わせるって、あなたの得意技じゃないの。足元だって、この1年で十分固まったわよ。わたしたちのことは心配しないで、どーんと行ってらっしゃいよ!」
「しかし・・」
「大丈夫よ! 育成能力重視なんだから。戦闘能力で劣位でも、育成にかけては優位よ。」
「まあ、一理あるかもしれないが、勢いだけで動くのは危険だ。ここはまずクレアさんに相談して・・」
「ラリアット!」
「げふっ!?」
ジョナルは首を押さえて咳き込んだ。
「そんなことじゃあ受かるものも受からないわよっ! いーい? これはひとつの機運なのよ。」
「思い込みの間違いじゃなくてか?」
「クラウチング・スタート!」
イウィーが両手を地面につけた。
「や、やめろ!」
「GO!」
イウィーがジョナルに体当たり。
「ごぱあ!」
ジョナルが床に転がる。
「痛たた・・。イウィー、何でも暴力に頼るのは良くないと日頃から・・」
「・・・だったら体に聞くわよ。」
「え? あっ、ちょっと、どこ触って・・! せ、セクハラも良くない! イウィー、あーっ!」
白組会議室の扉は固く閉ざされた。


- - - - - -


およそ1ヶ月にわたって行われる試験だが、その最初の日。
受験者35名が広い講堂に集められた。周りには応援や野次馬が詰め寄せていた。
「ふえー、重幹部が4人に最高幹部が3人。」
「すっげー。」
「マジかよ。」
「この試験って結構すげーんだな。」
「“角の二”アモン・ガゴルグ、“角の四”ギガマイル・クレッセント、“角の六”シュシュ・オーディナーク。」
「“星の三”キアラ・テスタロッサ、“星の四”京狐夜果里、“星の五”コムザイン、“星の六”フィー・カタストロ。」
「ひえ〜。」
遠巻きに周りで眺めている連中は、驚くやら感心するやらで騒いでいた。
この錚々たる顔ぶれが目の前にある受験者たちは、騒ぐどころですらない。今まで7名もの幹部を同時に前にした経験など、35名の誰も無い。
迫力が違う。存在感が違う。格が違う。そう思ってしまう。
そんなことではこの先“準星”としてやっていけないとわかっていて猶、気後れしてしまう。圧倒される。
痛いほどの空気を感じて、身が竦んで動けない者。あまりに圧倒されて涙ぐむ者、漏らす者。気絶している者もいた。
(クレアさん・・・いつもと全然違う・・・。)
ジョナルは流石に圧倒されるがままではなかったが、かなり緊張していた。
白組隊長として実務も詰んできた彼だが、まだ新米であることを思い知らされる。
(いや、違う。今はクレアさんではなくて、“ギガマイル・クレッセント”なんだ・・。)
そして遅ればせながら、更なる圧倒的な存在感を放つ人物が出現する。
「やあ、みんな、元気ーっ!?」
いつの間に現れたのか、壇上に白い着物を着た長い黒髪の女が立っていた。
しっとりとしていて、かつ爽やかに流れる黒く長い髪、上品だが気取らない気さくな物腰、人懐っこい表情。アルカディアの誰もが魅了される笑顔に、集まった人々は釘付けになった。
「えーと、それじゃあ、あたらめて試験官を紹介するね。一般教養の筆記試験を担当するアモン君。記録係のクレアちゃん。統率力を測るのは砕組の3人。戦闘力はユカリちゃんだけど、フィーちゃんが兼任しまーす。キアラちゃんがアドバイザーなので、積極的にアドバイスを貰ってくださいねー。新人の育成能力試験は、みんなでやります。もちろん私もね。それから、お楽しみもあるからお楽しみに!」
そう言ってジュエルは片目を瞑ってピースサインを決める。
ギガマイルが軽く溜息をついた。

「フィー姉、合格者って出ると思う?」
「さあねえ。」
コムザインは幹部の中では2番目に若く、幼い頃からカタストロのことを姉のように慕っている。やや子供らしい口調になるのは昔から変わらない。
「やってみないとわからん。」
カタストロもコムザインと話すときは、ざっくばらんな口調になる。血の繋がりこそ無いものの、姉弟のような関係だ。
「俺たちにビビッてる奴が、7000点も取れるのかどうか・・・。」
試験は9000点満点。一般教養が1500点、統率力が2000点、戦闘が2000点、育成が3500点。そして、ボーナスとして設定された得点を加え、7000点以上を取った中から上位4名を“準星”とするのだ。
「採点基準も厳しいんじゃないの。」
「それでなければ試験の意味は無い。これくらい乗り越えられないようではな。・・・で、誰が受かると思う?」
「あん?」
コムザインは、ぐるりと首を回してカタストロの方を向いた。
「中には面構え逞しいのもチラホラいただろ。目を付けてる奴はいるんじゃないのか?」
「・・・フィー姉には敵わないな。」
「4人を選ぶとすれば?」
「ヴェネシン、ネイル、レンファ。それと・・・誰にしようか。ハービスが出てないからな・・・。アトラトか。」
“大雀蜂”ヴェネシン・ホーネット。41歳。砕組第十二分隊長を務めるB1級サイコキノ。念力で鋭く強固な力場を形成することが出来る。その実力は分隊長最強と言われており、統率力も高い。本命。
“巨槌”(スレッジハンマー)ネイル・グレイ。29歳。砕組第十四分隊長を務めるB1級サイコキノ。若手ながら、その実力はヴェネシンに次ぐ逸材。念力のハンマーは強力だ。統率と育成能力に長けている対抗馬。
“末星”レンファ・アータスティー。35歳。A級では最弱の部類だが、B級戦力としては優秀で、その防御力はハービスをも凌駕する。1963年からは砕組の仕事を減らしているが、それでも功績を挙げている。
アトラト・ウグヌス。43歳。砕組第八分隊長を務めるB1級サイコキノ。彼を評する言葉として、「可もなく不可もなく」ほど相応しいものはない。安定して力を発揮し、淡々と任務をこなす職人だ。
「順当に強いのを選んでくるね。」
「面白味が無いと言ってるように聞こえるよ。」
それでもコムザインは嫌な感情を抱いてるわけではない。ただの相槌だ。
「私は・・・そうだな。」
カタストロは少し考えた。
「ジョナル、ラドル、キム、ヴェロニバル。」
「大穴狙いか?」
「ギャンブルは好きなんだ。」
“X・Q”ジョナル。21歳で白組隊長を務めている。C1級のサイコキネシス・テレポート・テレパシー・透視・予知を持つほか、カタストロ直伝のサイコガンを使える。
“ガラガラ蛇”(サイド・ワインダー)ラドル・スネイク。41歳。砕組第六分隊長を務めるB2級サイコキノ。バリアすら通過する“すり抜けサイコキネシス”の使い手。女好きで、若干やる気にムラがある。
キム・ヨーカム。17歳は砕組の最年少分隊長。まだ少年と言えるあどけなさを残しているが、出力はB1級でヴェネシンやネイルに匹敵する。物体を念力で操るのが得意。
“魔女”ヴェロニバル・ゼティエルト・サンデモン。45歳。報組の第80分隊長を務めるB1級テレパシスト。おせっかいおばさんの異名も持つ、ハイテンションな人物。


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<一般教養>(1500点満点)
1位:1491点、ヴェロニバル・ゼティエルト・サンデモン
2位:1477点、ガイディ・マリンド
3位:1418点、ノワール
4位:1402点、カラミュロウ
5位:1400点、アーミジェイ・テスクル
6位:1396点、マズア・ブシク
7位:1333点、X・Q・ジョナル
8位:1330点、ガイズメ・チョウス
9位:1290点、ヴェネシン・ホーネット
10位:1233点、ヌーム・ブシーム
11位:1215点、ネイル・グレイ
12位:1199点、レンファ・アータスティー
13位:1178点、ペーイム・スクランディー
14位:1164点、カルゼッタ・ブンレイ
15位:1150点、ダンゼンバ・チューイイ
16位:1108点、カーム・シュミット
17位:1097点、アンドリュー・クラウディア
18位:1095点、アトラト・ウグヌス
19位:1094点、ギリグリア
20位:1092点、ミジダム・ガズン
21位:1079点、メーグ・スピラバツナ
22位:1069点、ワンゼル
23位:1065点、キットチ・カーデイ
24位:1030点、プルグリン
25位:1022点、ノンデ
26位:1009点、ガーリザリ・デスアート
27位:1008点、ゼイタ・ゼモニス
28位:1004点、キム・ヨーカム
29位:1001点、ラドル・スネイク
30位:975点、ミース・プロービス
31位:957点、ロキウ・ガンドン
32位:912点、ローディ
33位:840点、カイスリィ・ディウム
34位:789点、クレスレン・ギウニ
35位:754点、マゴン・ザーシン


「集計出た? フィー姉。」
「ああ。」
カタストロが点数表をコムザインに渡す。
「ふーん、やっぱ上位は報組が大半か・・。お、ジョナルが7位。やるねえ。」
「ジョナルに悪い印象は無い?」
少し意外そうにカタストロが訊く。
「ハービスの結界を打ち破ったような奴が、偽物であるはずがないだろ。」
「確かに。」
「点数比なら1167点いるが・・・ヴェネシン、ネイル、レンファは問題ないな。ラドルとキムは少しきついか。」

ジョナルはイウィーに殴られていた。
「痛いなあ。何するんだよ。」
「あんた、人が付きっ切りで毎日勉強見てやったのに7位ですって? 4位以内に入りなさいよ!」
「無茶言うなよ。どこの教育ママだ。」
「ま、ママって、そんな早い・・」
イウィーは顔を赤くした。
しかしジョナルは溜息をつく。
「だいたい勉強の助けになんか・・・むしろ邪魔。」
「何か言った?」
赤い顔がスッと冷たくなる。
「べ、別に。」
「4位との点差は100点以上もあるじゃないのよ! どーすんの!」
「そりゃ、テレパシストにはね。でも戦闘で不利だから、これから落ちるよ。」
「あんただってテレパシストでしょうが。だいたい、上が落ちてきたって意味ないのよ。順位で4位以内でも7000点以下なら落とされるんだからね!」
「以下じゃなくて未満だ。」
「ちょっと間違えただけよ。」
イウィーは気まずそうに横を向いた。
「まあ、わかってるさ。この試験のシビアさも。」
「いーえ、わかってないわ。わたしがこれから気合を入れてあげるわ!」
「またビンタですかい。」
「いいから黙って。歯ァ食いしばって目を閉じるのよ。」
「へいへい・・・。」
ジョナルは覚悟を決めて言う通りにした。
しかし頬に衝撃は来ず、代わりに唇に柔らかい感触が来た。
「えっ?」
目を開けると、イウィーが赤い顔をして立っていた。
「お、応援してるからね!」
そう言ってイウィーは走り去った。

ラドルは結果を見て顔を押さえた。
「あっちゃあ。・・ま、いっか。大項目4つのうち、1つで失点が500以内ならいいわけだからな。」
「そんなことで大丈夫ですか?」
浅黒い肌の少年が声をかけてきた。
「キム。」
「一般教養なんて、4つの中でも一番簡単なところじゃないですか。ボクなんて思いっきり落ち込んでいるのに・・。」
ハァと溜息をつくキムだったが、ラドルは陽気なままだ。
「いやっはっは、その通りだ。正しい。だがね、一番簡単なところで一番点が取れるわけじゃないんだな、これが。」
「ふむ?」
「オレとかお前はさあ、むしろ他の方が点取れるタイプなわけ。だから終わったことは綺麗さっぱり忘れて、楽しくいこーぜ。ダメモト、ダメモト。」
ラドルは笑いながら去っていった。
「・・・・・・。」
(励ましてくれたのかな・・・・。)

ヴェネシン、ネイル、レンファは、途中経過発表を見て、揃って顔をしかめていた。
「目標には10点及ばず・・。」
ヴェネシンが細い首を振って唇を噛む。本気で悔しそうだ。
「ホーネットさんは、受かるかどうかよりも自分との戦いですもんね。」
一回り年下の青年、ネイル・グレイは、意味ありげな顔で言った。
「ネイル、お前は受かりたいか?」
「もちろん・・。俺はね、なんとしても受かりたいですよ。」
「ほう。お前にも人並みに出世欲があったか。意外だな。」
ヴェネシンは馬鹿にするでも見損なうでもなく、素朴に驚いていた。ネイルは人と競うことが好きな男で、出馬を知ったときも腕試しが目的だと思っていたのだ。
「意外?」
引っかかったのか、ネイルが目を細めた。
「“自分との戦い”が似合うのは、むしろお前の方だろう。」
「ああ、そういう意味か・・。」
「レンファ、お前は?」
「そうですねん、100キリに1点足りないというのは不吉ですね。7000点に1点でも足りなければ落とされるわけですし。」
「お前なら50点くらい足りなくてもボーナスで何とかなりそうなもんだが・・。」
「そうですか?」
「7000点を得ても4位以内に入らなければ準星にはなれない・・・が、7000点に達する者が4人も出るかどうかも怪しいものだ。ハービスが4人目になると思ったが。」
「カミーユも出ないですからねん。ま、3人仲良く合格しましょ。」
レンファはニコッと笑った。
しかしネイルは肩を竦めて笑う。
「でも、ぶつかったら敵ですからね、アータスティーさん。」
「ネイル、お前なあ・・」
「ホーネットさんでもですよ。我々は仲間であると同時にライバルでもあるんですから。」
「まあな。」
ヴェネシンも目を細め、笑みを消した。

アトラトは中間結果発表を見て、すぐにその場を立ち去ろうとした。
しかしそこへラドルがやって来て声をかけたので、彼は足を止めた。
「よーう、アトラト。どうだよ?」
「どうということもなく。」
アトラトは表情を変えない。
「少しは嬉しいとか悔しいとか無いか?」
「そういう感情が無いわけでもないですが、この試験に落ちたからといって人生が終わるわけでもありませんから。」
「それじゃあ何で受けたのさ。」
「準星には、なるべき人がなるものでしょう。私の実力がそれに相応しければなれますし、そうでなければ落ちる。それを判定するには試験を受けなければならないのです。」
「おー、模範的回答。出世欲とか腕試しとか、そういうのは無いのか?」
「これも一種の腕試しと言えなくもないと思います。」
「んー、なんかオレの思ってんのと違うんだよな。」
ラドルは頭をポリポリ掻いた。
「お前さあ、人生の楽しみとか目標とか無いわけ?」
「ありますよ。この世で最も難しいことです。あなたの言う楽しみとは意味が違うかもしれませんが、普通に生きて普通に死ぬことです。」
「・・・オレには、出来ないな。」
「まだ、あのときのことを引きずっているんですか?」
「おいおい、何でその話になるんだよ。」
ラドルは慌てたように顔を歪めた。
「私はあなたの思ってるほど無感動な人間でもないのです。あなたが今、何を思ったかくらいわかりますよ。」
「敵わねえな、あんたには。分隊最年長は伊達じゃねえや。」
「そうなってから結構経ちますね・・。」
アトラトは昔を懐かしむように空を見上げた。

黒髪がたなびき、スラリとした肢体が掲示板の前に颯爽と現れる。
彼女は掲示板を見て、固まった。
「ぬうううう・・・・・・!」
整った顔が無惨なほどに崩れ、物凄い形相になっている。
澄ましていれば美人と評されるが、何かと顔を歪めることが多い。
(冗談じゃないですことよ! この私が満点でない! 私は報組の星なのよ! そう、まさに星! 黒組白組より待遇はマシといっても、所詮は傘下のパシリ組! その地位向上のためには私が準星になるしかないのですことよ! そして! 準星の中でもトップ! すなわちトップ合格! それでこそ私! さああああ、気合! 気合! 頑張るのよヴェロニバル・ゼティエルト・サンデモン! 負けないわヴェロニバル・ゼティエルト・サンデモン! ぬあっはははは!)
「ぬあっはははははは・・・・・・」
大口を開けて豪快に笑っていると、そこへラドルが通りかかった。
ラドルはヴェロニバルに気付くと、思わず目を逸らした。
「何か考え事でもしていたの?」
ヴェロニバルは打って変わって冷たい声で、ラドルを睨んだ。
「いや・・・。」
「あのときのことを引きずって集中力を乱していたら、受かるものも受からないわよ。」
「お前は吹っ切れてんのかよ?」
ラドルは苦い顔で言った。
するとヴェロニバルは髪を掻き揚げて、薄笑いを浮かべた。
「私は“魔女”よ。毒入りのスープを飲みながらでも笑えるわ。」
「恐いな。」
「まだ慰めが欲しい?」
「いらねえ。オレの欲しいのは、時間を巻き戻す力だ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・どうして人は、変わっていくのかしらね。ありきたりな答ならすぐに思いつくけれど、理解できる言葉は道端にでも転がっているけれども、納得できる言葉は見つからない。」
「テレパシストでもかよ。」
ラドルは乾いた笑いを浮かべて息を吐く。
「“魔女”と呼ばれる私でも、超能力が魔法でないことは知っているわ。時間は戻らない。死んだ者は蘇らない。・・・人生は、やり直せない。」


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『エスパー奇譚』長編小説 「千里」 第二部まとめ読み
□□□□□□□□□□ ...続きを見る
佐久間闇子と奇妙な世界
2016/05/02 01:50

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