佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「千里」 第十七話 魔犬再来 (V)

<<   作成日時 : 2016/05/02 01:05   >>

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アルカディアの戦闘メンバーは、撤退を余儀なくされた。
ラドル、ハービス、ラプソディア、キム、及び砕組のメンバー10名以上が重傷を負って戦線離脱した今、戦力は大幅にダウンしたと言わざるを得ない。
「撤退って、そりゃ駄目だろ・・・痛っ!」
動こうとしてラドルは顔を歪めた。
「やめとけラドル。勇敢と無謀は違う。」
「けどよ・・」
言いかけてラドルは黙った。ハービスの方が悔しそうな顔をしていたからだ。
「わたしは行くわ。」
「ラプソディア?」
「魔犬の攻撃は強力で鋭い。けれど反面、そこまで精度が高いわけでもない。防御に徹すれば戦えないこともないわ。」
「それは万全のときの話よ。」
「不調のときの戦い方もあるわ。」
2人の言い争いを聞きながら、ラドルは浮かない気分になっていた。
かつては仲の良かった2人だが、ここ数年は意見が対立することが多くなったように思えた。仲が悪くなったわけではなく、むしろ互いに信頼は強くなっているのだが、任務で意見を違えることが多くなったのだ。
(ベトナムで人生観が変わったんかな。)
ラドルもラプソディアの援軍としてベトナムへ行ったことがあるが、惨状に悲しみや嫌悪を覚えると同時に、ラプソディアが以前と別人に見えたことを思い出した。
(ラプソディアは、死に場所を見つけたように見えた。)
一言で「死ぬ覚悟」と言っても、そう簡単に出来るものではない。逃げ場を失って、なお難しい覚悟だ。
しかし、いったん覚悟を決めてしまえば・・・それも前向きな意味で、いつ死んでも悔いが残らないように生きるようになれば、それこそ輝いて見えるほど“生”が漲る。以前と別人のように、輝いて見える。
そういう意味ではラドルやハービスも近い感覚はある。死にたくないと思ったことはあっても、自分が死なないとは思っていない。
(こんな仕事だ。いつ死ぬかわからん。それはヴェネシン先輩もわかっていたんだろうが、やっぱりわかっちゃいなかったんだろうな。自分が死ぬ覚悟は出来ていても、妹に死なれる覚悟は出来ていなかった。それを甘いと責める資格は誰にも無えが・・・。)
ラドルは17年前に見たヴェネシンの顔を思い出しながら、小さく呟いた。
「いつか死に場所が見つかるといいな、先輩。」
彼は安らかに微笑んでいた。


その頃、レックスはクレア解任の知らせを聞いて、月組の部屋へ向かった。
自分が行ってどうにかなるものではないが、行かずにはおれなかった。
「クレア!」
「よう、レックス。」
血相を変えて扉を開ければ、呑気な声が返ってきた。
「てめー、なに呑気にコーヒーなんか飲ん・・・」
レックスの言葉が途切れた。
彼は目をパチパチとしばたかせた。
「・・・・・・。」
手で目をゴシゴシこすり、もう一度見る。
痩せ細った小柄な体。それに不釣合いなほど大きな胸。腰まで長く伸ばした黒髪。邪気を孕んだ目。
間違いなくクレア・クレッセントそのものだった。
少なくとも、外見は。
「誰だ・・・お前。」
「・・・・・・。」
女は答えずに笑顔でコーヒーを飲んだ。
「誰だよ、てめーは。」
レックスは再び訊いた。今度は先程よりも強い口調で、問い詰めるかの如く。
そこには恐怖も含まれていた。
「・・・へえ・・・・・何でわかったんだろう。」
女は不思議そうな顔をしてレックスを見た。
「この体はクレアのものだし、人格の6割は共有してるし、残りの4割だってそう違わないはずなんだけどなあ・・・。」
「あんたは・・」
「初めまして、レックス・ブースター。私は月組エクストラメンバー、マイル・クレッセント。クレアがクビになったんで、私が新たに参謀になる。そう提案する。」
「クレアが駄目ならお前って・・・そんな簡単にいくのか?」
「私とクレアは別人だ。人格の半分以上を共有していてもね。説明するから何の問題も無い。それよりも質問だ。どうして私がクレアでないとわかった? 幹部連中だって、そうそう見破れないのに。」
「んなもん、何となくとしか言いようがない。お前の能力で読んでくれ。」
「うんにゃ。私の能力はクレアとは全然違う。人の心を読むのは苦手なんだ。」
「あん?」
「だいたい私の能力はクレアに比べて貧弱だからね。能力制限されたクレアでも、私より遥かに優秀だろうね。」
「おいおい・・・そんなんで大丈夫かよ。クレアが惨敗した相手なんだろ?」
「優秀であることは必ずしも戦況を有利にするとは限らない。クレアは優秀であるがゆえに厄介な悪癖を身につけているし。」
「・・・?」
「いや、謎かけじゃない。優秀であるほど多くのことをしようとするからね。不調でも、能力を制限されていても。」
「能力制限って、解けないのか? エスパーの倫理観とかいうのは理解できるが、優先すべきことが・・」
マイルが首をかしげたので、レックスは思わず言葉を切った。
「その優先順位。アルカディアの優先順位は、20万人の市民の生活を守ること。20万人の生活を維持するべく、ギガマイル・クレッセントは能力の大半を使って・・・・もしかして、知らなかった?」
レックスの表情を見て、マイルは意外そうな顔をした。
「まあ、要するに、魔犬の被害は大きいけれど、それに対処する為に20万人の生活を犠牲には出来ないってことだ。ブラックリスト1級が出てくれば話は別だけど。」
「・・・・・・。」
「まあ見てな、レックス。奴ら3匹、まとめて叩き潰してやる。」


マイル・クレッセントがレックスを連れて訪れたのは、土組(つちぐみ)の部屋だった。
砕組系列ではあっても、メンバーも少なく戦闘能力も低いので、今回も本部で治療スタッフとして活動している。
「いるかい、ミツ。」
「千里。」
30代半ばの女性が、クレアの本名を呼んだ。
「今は千尋(ちひろ)の方だよ。マイル・クレッセントだ。どっちでもいいが、ミツを召集に来たよ。」
「あたしを?」
六楽深津(ろくらく・みつ)は、目を丸くした。彼女の能力は、相手を転ばせる力と、遠くの音を聞く力。それだけだ。
「あたしなんかの能力が、魔犬に通用するとでも?」
「もちろん。だから召集に来た。拒否する権利はあるけど・・・。」
「い、行くわよ。」
「俺も行く。」
そう言ったのは、土組隊長の内村圭地(うちむら・けいち)だった。
「お前は来るな、邪魔だ。」
マイルは表情を変えずに辛辣なセリフを吐いた。
「ミツを1人で危険な目に遭わせられるか。」
「大丈夫。私がついてる。」
「お前が危険なんだ・・。」
「信用ないな。さては18年前のことを根に持ってるね。むしろ結果的には感謝してほしいのだが。」
「いいから行かせろ。」
「来るな。」
あくまでも食い下がる内村圭地だが、マイルは一蹴する。
「俺とミツは生死を共にする。27年前に誓った通りだ。」
「そうよ。ケイが一緒でないとあたしも行かない。」
「んー・・・わかった。」
表情が変わらないので、渋々なのか予定通りなのかも判断つかない。
なかなかに不気味だったが、2人はマイルの後に続いて部屋を出た。

月組の部屋で、マイル・クレッセントはレックス、深津、圭地を席に座らせた。
「作戦メンバーを掻き集めるが、掻き集めると言っても残りは2人だ。風組の隊長は既にヴェネシンのところへ行かせてある。もう1人も、もうすぐ来る。」
数分も経たないうちに、1人の少女が扉を開けて入ってきた。
年齢は10歳。人形のように可愛らしい顔立ちに、肩までかかるフワフワの金髪。着ている服は、フリルのついた子供服だ。
「クレアあ。」
少女は鈴を鳴らしたような可憐な声でマイルに擦り寄った。
「久しぶり、スカーレット。」
「うんっ。」
名前の由来である赤い目をキラキラさせて、少女はちょこんと椅子に座った。
あまりに幼いので、レックスは心配になった。
「クレア・・・じゃなくてマイル。こ、」
スカーレットの姿が消えたので、レックスは思わず言葉を切った。
「犯すぞ、てめえ。」
ギョッとして振り向くと、そこにスカーレットがいた。
「・・・・・・え?」
この可愛らしい少女の口から発せられるには、あまりに汚らしい言葉だった。
「クレアに気安く話しかけるな、淫売の息子。」
「・・・・・・。」
天使のような容姿と声で、悪魔のような毒を吐く。あまりにあんまりなギャップだった。
レックスは怒るより先に眩暈がした。
「おい、そろそろ黙れよスカーレット。」
そう言ったのはマイルだった。ただでさえ侮辱の言葉だが、スラム街で育った、しかも捨て子のレックスに対しては、より大きな侮辱かもしれないのだ。
「だって・・」
スカーレットは涙目になった。
「だって、この腐れ魔羅野郎、クレアに馴れ馴れしい口を利くんだもん。」
「ハァ・・・。」
マイルは軽く溜息をついた。

ちなみにスカーレットはクレアとマイルを区別できていない。
この中でクレアとマイルを区別できるのは、本人を除けばレックスくらいのものだろう。表面的には“ギガマイル・クレッセント”との方が差が大きいので、それを知る人間にとってはクレアとマイルの違いは言われないとわからない。

「さてと、内村氏が入ったので6人になるが、これにヴェネシンとヴェロニバルを加えて・・・あとは砕組の連中が何人かいるから十分だな。」
「十分か?」
「黙れ淫売の息子。」
レックスが疑問を呈したところへ、再びスカーレットが暴言を吐いた。
「・・・。」
相手が幼い少女なので、レックスは叱る気分にもなれず眉を顰めた。
自分を捨てた親を侮辱されても腹は立たないが、不愉快ではある。
その後ろからマイルがスカーレットを睨んだので、スカーレットは怯えた目をして黙った。
「・・・まあ、レックスの疑問はもっともだ。使用可能戦力を単純に足せば、互角よりいいことはないだろう。これから説明することを、よく聞いてもらいたい。」


- - - - - -


砕組の会議室で、ヴェネシンは引き続きメンバーを集めて作戦を練っていた。
しかし上手い策は出てこない。
(くそっ・・・やはり戦力不足だ・・!)
集まった中では突出した力を持つとはいえ、ヴェネシンもB級エスパーの範疇である。せめてモースが負傷していなければ、まだ違っていた。
(隊長さえいれば、怪我人など即座に治せるものを!)
思っていても口に出さないところがヴェネシンの理性だが、表情には苛立ちが顕れていた。
「いっそ火組を呼びますか?」
若手隊員の1人が言った。
「街中で炎熱系能力は使えない。」
「それはわかってます。しかし、今のままでは・・。」
「・・・・・・。」
ヴェネシンは苦々しい顔で沈黙した。
「火災になっても、また復興すればいいじゃないですか。まず魔犬を倒すことが先決です。火組は、隊長は不在らしいですけど、副隊長はあの“炎帝”なんでしょう?」
「だからだよ。わたしらと同じB級でも、“炎帝”デュースの力は文字通りケタが違う。街を簡単に火の海にしてしまうほどにな。魔犬を倒す為に、魔犬が出す以上の被害を出しては、それこそ本末転倒だ。」
誰よりも魔犬を倒したがっているヴェネシンの言葉だからこそ、特別な説得力があった。
そして、激昂しても理性は失ってないことを確認できて、意見を述べた者だけでなくメンバー全員が安堵した。
とはいえ、作戦が出ない状況には変わりない。
「クレアが上手くやっていれば・・・とばかりも言えないか。わたしも・・」
ヴェネシンは髪を掻き揚げて、ハッと息を吐いた。
「仕方ない。休暇中の連中に召集をかけて、それからカミーユを呼ぶ。策とも呼べない下策だが、これ以外に・・」

そこへ、扉を開けて1人の女が入ってきた。
「お前も奴も、魔犬に入れ込みすぎなんだよ。」
「京狐さん?」
狐を思わせる面長の顔に、鋭い吊り目。右目に眼帯。凹凸の少ないスレンダーな体。まさしく獣組副隊長、京狐夜果里だった。今年で50歳のはずだが、メタルイーター能力のせいか、砕組の人間に劣らず若く見える。
「孫の方はいいんで?」
「私事にばかりかまけてもいられないでねえ。あたしが加われば、戦力方面は何とかなるだろ。」
「それじゃ・・」
ヴェネシンの顔が明るくなった。
「後はお前の采配次第。少し肩の力を抜いて、あたしを使ってみな。」
「はい。」

マイルが4人を連れて入ってきたのは、夜果里が来てすぐのことだった。
「貴様・・何しに来た?」
「何しに来たは無いだろう、ヴェネシン・ホーネット。先んじてベーンを向かわせ・・」
マイルはベーンの性格を思い出して口をつぐんだ。
「ああ、京狐夜果里も来てくれたか。」
「・・・お前、マイルね。」
夜果里が気付いて言った。
「そう。流石は夜果里。」
「気安く名前で呼ぶな・・。」
「黙れ女狐。」
そう言ったのはスカーレットだった。彼女は夜果里を睨んで、そして睨み返された。
「マイル・クレッセント。子供の躾はきちんとしておけ。」
夜果里はマイルに向き直って、冷淡な調子で言った。
自分が噛み付けばクレアが責められると理解して、スカーレットはムッとしながらも黙り込んだ。
「スカーレット。そう膨れっ面をするな。この程度のことには慣れてもらわなくては困る。」
「む〜。」
「感情に呑まれると命を落とすぞ。」
「はぁい。」
子供といってもクレアの実子ではないが、異常なほどクレアに懐いているスカーレットは、他の者には極端に攻撃的だ。それゆえに、現時点で所属している組は無い。
「さてと、それでは作戦を説明しよう。」
「待て、クレア・クレッセント。貴様は解任したはずだ、忘れたのか?」
「ホーネット司令。私はクレアではない。マイル・クレッセントだ。」
「そんな理屈が通ると思うのか。」
「通るさ。魔犬に勝つ為には私の能力が必要だ。制限されたクレアよりは、役に立つ自信がある。」
「貴様の力など必要ない。」
ヴェネシンは苛立って、細い首をカリカリと掻いた。
「わたしとモース、それに京狐女史。それだけ揃っていれば、前のようにはならない。」
「確かに負けは無いだろう。でも勝ちも無い。」
「どういう意味だ。」
「わからないなら頭に血が上りすぎだ。夜果里も言ってるだろう、肩の力を抜け。」
「なに・・・?」
「マイルの言うことはもっともだねえ。」
ヴェネシンが殺気立ったので、夜果里が引き継いだ。
「ヴェネシン。何故あたしらは魔犬と戦う? 色々あるにしても、本来は弱者を守る為ではなかったか? アルカディアのメンバーの半分はエスパーでない普通人。アルカディアは、弱き者や虐げられている者を守る為に発足したのだ。忘れたわけではあるまいね。」
「・・・仰る通りです。」
ついさっき自分でも言ったことだ。
ヴェネシンは頭を下げた。
「サンクス、夜果里。」
「・・・・まただ、マイル。気安く下の名前で呼ぶなと、何度言えばわかる?」
「つれないなあ。私と夜果里の仲じゃない。」
「誤解を招く表現はやめろ。共通の人間に恩があるだけの関係だ。」
「まんざらそれだけでもないが。お前の息子がテレパシー能力を持ってることを・・」
「・・その先が、あたしにとっての禁句であることは覚えていると思うが、念の為に言っておこうかねえ。」
「はいはい、覚えてますよ・・・。」
マイルは目を細めて言った。

夜果里はヴェネシンの方に向き直った。
「ああ、ヴェネシン。中断して悪かったねえ。」
「いえ。」
そしてマイルが話し出す。
「それじゃ、まず配置から。本隊はヴェネシン・ホーネット司令に、私ことマイル・クレッセント。ヴェロニバル・ゼティエルト・サンデモン。六楽深津。レックス・ブースター。それと、深津の士気を上げる為に内村圭地。」
「・・・・・・。」
皮肉かと思って、圭地が少し渋い顔をする。
「魔犬との直接戦闘は京狐夜果里、モース・リーガル、ベーン・ウェイザー、スカーレット・マーチ。残りは避難誘導。」
「おい。」
リックが不満の声をあげた。
「何でおれらが避難誘導なんだよ。馬鹿にしてんのか?」
「ごちゃごちゃ人数だけ引き連れていってもどうにもならん。それに、勘違いするな。避難誘導には一定の戦力を割かなくてはならないんだ。市民を守ることが優先事項だと思え。」
「・・・・了解・・。」
リックは苦々しい顔で返事をした。


- - - - - -


ケルベロスとフェンリルは、傷ついた体を癒すべく、じっとしていた。
市民は束の間だが、魔犬の脅威から解放されていた。
「痛むかい、ケルベロス。」
「グゥウウ。」
魔犬のサイコキネシスは攻撃に特化していて、傷を修復するような技術は無い。自動的に発動するサイコキネシスが、本来の生物的なスペック以上の治癒効果はもたらすが、それでもヒーリングよりも遅い。
失った体力も予想以上だった。特にフェンリルは10代半ばの少女で、痩身な方だ。ケルベロスに比べて体力は劣る。しかし姉としての責任感か、弟の身を案じていた。
(エサどもめ。よくも。)
人間に対する嫌悪と憎悪が、どうしようもなく抑えきれない。
フェンリルは牙を剥いて唸り声をあげた。


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『エスパー奇譚』長編小説 「千里」 第二部まとめ読み
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