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zoom RSS 「千里」 第十九話 龍閃村事件 (上)

<<   作成日時 : 2016/05/02 01:30   >>

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1971年、春。
艶かしい黒髪を風になびかせて、薄緑のキャミソールを着た女が2人の男を連れて日本へ来ていた。
少女のような顔立ちと華奢な体躯だが、その瞳には漆黒の夜が咲き誇っている。
ただでさえ豊かな胸が強調されて、男の片方は目のやり場に困っていた。
「ふぅ、暑い。この服装は正解だったわ。」
日本語で話しているので内容は聞き取れなかったが、服の端を摘んで風を送る光景は目に毒だった。
そんな彼はシャツにジーンズ、それにパーカーを羽織っている。引き締まった体つきだ。
もうひとりも逞しい体つきで、色黒。ジャージのようなハーフパンツ、上半身はタンクトップ。
「お久しぶりです、六道(りくどう)さん。」
「久しぶりじゃの、千里ちゃん。」
ヘリのローターがぶんぶんと騒がしく回転するその下で、三日月千里と六道櫃(りくどう・ひつ)は挨拶を交わした。
「その名前で呼ばれるのも久しぶりですね。」
ギガマイル・クレッセント。あるいは、クレア・クレッセント。
アルカディア最高幹部にして、月組隊長。
本来ならアジアは副隊長アレクセイ・フョードロヴィチの管轄であるが、しかし今回の任務は、いわば特別任務。組織として請け負ったものではなく、半ば私的なものだ。
依頼者が是非にとクレアを指名してきたのだ。いや、クレアでなく“三日月千里”を。
「紹介します。レックス・ブースターとサム・バロン。私の部下です。」
ヘリから2人の男が降りてきた。
「Good evening Mrs Ri kudo.」
「Nice to meet you.」
「よろしゅう。」
六道は2人の手を取った。彼女の手は、顔や体と同じく皺だらけだった。

三日月千里と六道櫃は、互いに懐から紋章を取り出した。木製のメダルを樹脂でコーティングしたもので、それぞれ“月”と“六”と書いてある。
「三日月の奇なり邪色に包まれて、風乗る灰の如く、我が眼は千の翼に乗って、花を見る。明石の記しに揺れる心。」
「六道輪廻の八生宿りが闇の間に繰り返し、六劫生滅、八世覆滅、闇に戻ってまた戻り、地獄、餓鬼道、畜生道、修羅、人間と、天道と、合わせて六道と言う也・・・。」
「知己なれば、略式にて。」
「了承。」
「What's?」
「It's ceremony.」
レックスの問いに千里が答える。
この儀式は本人確認の為に行うもので、一族の当主に紋章と唄が伝えられる。本来は他にも幾つか儀式があるのだが、知り合いなので省略したのだ。
今となっては、あまり意味のあるものではなく、しかし伝統として受け継がれている。
「それでは、“林檎作戦”開始といきましょうか。」
4人はヘリに乗り込んだ。
これで目的地の近くまで移動する。
「・・・まったく、何だってあたしがこんなことに協力せねばならんのだね。」
操縦士が文句を口にする。片目に眼帯をしているが、慣れた手つきで操縦を行っていた。
「まあまあ夜果里ちゃん。これも人助けじゃ思て、な。」
「ふん、六道さんの頼みでなければ、誰が・・」
「それに、これはアルカディアとしての仕事じゃないわ。“ミレニアム・A”として行くのだから。ねえ夜果里。」
「気安く下の名前で呼ぶな。それと、ミレニアム・Aの仕事とか言ってる割には、サムやレックスを連れてきているのは、どういうわけかねえ。」
「それくらいは大目に見て欲しいな。私は三日月家の当主といっても一族とは疎遠なのだし、京狐一族は殆ど残ってないし、六道さんはエスパーではない。相手は竜王(りゅうおう)一族と、傭兵として藍縄(あいなわ)の連中が5名。それに・・・」
「はいはい、わかった、わかりました。」
夜果里は千里の言葉を遮った。
「別に作戦に反対してるわけじゃない。文句が言いたいだけさね。・・・それで、藍縄からは誰が来てるのかね?」
「来るわ。」
「あ?」
突然ガタッと機体が揺れて、ヘリはコントロールを失った。


- - - - - -


龍閃村(りゅうせんむら)は、地図にも載っていない僻地の、小さな村である。数百年前に山奥の盆地を改造して作られ、村の者以外でその存在を知る者は少ない。
村の周囲は柵で囲まれており、その外側には深さ数十メートルにもなる溝が掘られている。唯一の出入口は村の北側にある跳ね橋で、1日2回のみ下ろされる。
ごく少数の例外を除いて、村に入った人間はいても出ることの出来た人間はいない。村の人間に限れば、生きて脱出できた者は数百年間1人もいない。
村の支配者一族の名は、竜王(りゅうおう)という。当主の娘・命良(めいら)は20歳。滑らかできめ細かい白い肌が評判の、美しい女性である。
「痛う・・・。」
命良は首を押さえた。そこには昨晩の情事により、痣が出来ている。
彼女の夫と呼べる人間は、半年も前にこの世を去っている。この痣を作った人間は、別にいる。
そいつは、わざと見えるところに痣を作って楽しんでいるのだ。命良が自分の所有物であると知らしめたいのだ。それにより村人が自分を畏れ敬い、命良が激しく羞恥を感じるのを見て喜んでいるのだ。
無駄なこととはわかっているが、ショールで首を隠して外に出る。
家の中にはいたくない。あいつの餌食にされるのは、夜だけでたくさんだ。
「それ・・・またあいつが?」
外に出ると、命良より3つばかり年下の少年が近寄ってきて、忌々しげに顔を歪ませた。
命良は沈黙を以って肯定した。
少年はガリッと音を立てて歯を軋らせたが、命良が即座に注意した。
「よせ、巽(たつみ)。誰が見てるかわからない。」
「・・・かまうもんか。」
火村(ひむら)家の一人息子、巽。まだ17歳だが、来年の春には5つ年下の少女と結婚が決まっていた。
「逃げよう、命良。」
「どうやって・・・。」
命良の瞳がドロリと濁る。
「お前が一度も勝てない私が、足元にも及ばない化物。更にそいつは、百を越す村人を率いている。無理なんだよ・・・。」
そう言って命良は、その場を立ち去った。

巽は彼女の後姿を見ながら、ぶつぶつと呟いていた。
「無理じゃない・・・無理じゃないさ・・・。」


夕刻になって命良は仕方なく家に戻った。
使用人によって食事が出来上がったところであり、命良は黙って食卓についた。
使用人を除けば3人。命良、父の良平(りょうへい)、息子の帝哢(ている)。
食事の間、竜王良平はずっと命良の全身をねめまわしていた。それは“父”としてのものではない。40代半ばの男の、ぎらぎらした性欲が顕れたものである。
彼は昨夜の情事を頭の中で事細かに思い出して舌なめずりしていた。瑞々しい白い肌を、自分の芋虫のような指が這いずり回り、そのおぞましさに命良が顔を歪める。声を出すまいと必死で歯を食いしばる。しかし・・・
そこまで想起してから、良平は箸が止まってるの気付いて苦笑いした。再び彼は白米を食べ始める。
命良は自分の白い肌と白い飯とが被って、まるで自分が貪り食われているような錯覚を起こして気分が悪くなった。

夜になると、地獄の宴が始まる。
命良は、ただひたすら耐えるしかない。下手に逆らっても事態が悪化するだけだということは、これまでの経験からわかっていた。
良平の持つ超能力は、“竜脈”(ドラゴナーブ)というドレイン能力であり、他者のエネルギーを吸い尽くすことも、また与えることも出来る。熟達した技量を持つ良平は、体内の気を自在に操ることが可能で、村の人間は誰も逆らえない。自分の気をコントロールして、眠らずにいられる良平は、誰にも寝首をかかれない。
「ふふふ。」
良平の芋虫のような指が、命良の柔肌を蹂躙し始める。命良はいつものように歯を食いしばって耐えるが、この先に待ち受けることを思うと絶望へ沈む。
突如、抗いようのない快感が襲ってきた。全身を快楽の針で突き刺されたような激しさに、命良は思わず嬌声をあげてしまう。
「ひあああああ〜!!」
腹の底から搾り出されるような声を出して、体を激しくくねらせて、のた打ち回る。
体内の気を操る良平の能力は、性感を支配する。命良の肉体は隅々まで良平に快楽漬けにされてしまう。はしたなく大声をあげて何度も絶頂し、気を失うことも許されず、更なる快楽の渦に呑み込まれ、また絶頂する。それが朝まで繰り返される。
自分の意思で動くことはままならず、全身の体液が搾り出されたような状態で小刻みに痙攣していた。
愛液と、血と、汗と、母乳と、涙と、唾と、鼻汁と、細胞の組織液と、尿と、精液と。それらが混じり合った形容しがたい生臭い液体にまみれ、命良は裸身を横たえていた。
抵抗する気力も湧き上がらず、羞恥と屈辱に心を蝕まれるのみ。
水で体を洗うときも、痣の痛みさえ快感となり、軽く気を遣ってしまう。
その後は深く深く眠る。ノンレム睡眠で、急速に回復する。命良の優れた体力もあって、昼前には目が覚める。
水を飲み、飯を食い、彼女は活力を取り戻す。同時に気力も戻ってくる。淫猥で従順な肉奴隷などではなく、人間としての誇りを幾許かでも取り戻す。
しかし、それすらも良平の望むところだった。心身共に屈服させても次の日には元通りになる。命良はプロメテウスであり、良平は大鷲であった。毎日のように命良の肉体を蹂躙し、気高い心をへし折るのだ。
最初から折れた花を踏みつけるよりも、自分で手折る方が比べようもなく心地良い。良平は、そんな人間だった。

ある日のこと。良平は人を集めて会議を行っていた。村の主だった連中を含めて、10人程度の規模である。
藍縄家から来ている5人のリーダー・藍縄鉛水(あいなわ・えんすい)もいる。おそらく年齢は40歳前後で、良平より少し若い。堅苦しい印象を与える面構えだ。
他の4名は村の周辺を見張っており、そのうちの1人が侵入者に攻撃を加えているところだった。

「良平、鉛水、予想通り来やったよ。三日月に、京狐に、六道だ。」
美しい金色の髭を生やした、黒髪の女性。年齢は不明だが、見た目は30歳前後。ロシアか北欧の血が混じっている顔立ちだ。
寒い地域では髭を生やした女性も珍しくないが、彼女ほど立派なのは数少ない。口髭は生えてないが、顎から5センチほど、輝く髭がスラリと伸びている。何故か髪や眉と色が違うが、染めているわけでもない。
「それで、蘆屋(あしや)先生。状況と形勢はどうなってます。」
ざわつく中で、良平は冷静に尋ねた。冷静なのは鉛水も含めて3人だけだ。
「先生っちゃ堅苦しいなあ。お前が寝小便たれてた頃のこと知っとんのえで。いまさら先生も何も無いもんだ。」
「・・・っ!」
(糞婆!)
良平は心の中で毒づいた。
「何か言った?」
「いえ。」
龍閃村の暴君である彼も、この女には逆らえない。味方であれば心強いが、敵に回すと死んだも同然。
その名は、蘆屋牧無(あしや・まきな)。今回、彼女が味方であって本当に良かったと、良平は毒づきながらも思っていた。心の底から。
「まあ状況から言おか。藍縄の、スミちゃんが敵のヘリに攻撃してるけど・・・ありゃ駄目だな。夜果里ちゃんにゃあ敵わないっしょ。役者が違う。・・とゆっか、スミちゃんに、アミちゃんに、ミオちゃんに、ミノリちゃん。どして女の子ばっかり集めたのよ。だいたい予想はつくけどな。」
牧無の視線は鉛水に向けられていた。
「・・・・・・。」
鉛水は黙っている。
「まあそれはともかく、スミちゃんだけでなく爆雷符(ばくらいふ)も飛ばしてあるからヘリじゃ村へ入れん。ゆっくりしてられるさ。」
「形勢はどう見ます。」
良平が続けて訊いた。
「千里ちゃんがいるから情報力は向こうが上。六道家の協力も得てるから、物資も向こうが上だね。しかし戦力差はどうにもならない。こっちには、お前と鉛水と、その他もろもろ・・・・何より私がいる。やり合って負けは無えよ。」
牧無の言葉に一同は安堵したが、良平と鉛水だけは険しい顔をしていた。
「ふい、お前らはわかってるようだね。敵の目的は龍閃村の壊滅じゃなくて、竜王命良の奪取。それだけなら可能だろう・・。未来が読めるっちゃ、ある意味・反則的な能力だからあね。こっちゃら、やることは、裏切者を見つけること。目星はついてるだろ・・・」
牧無の眼が濁った光を放った。
「火村の一人息子か。」
良平が下卑た笑みを浮かべて答えた。
「良平も同じ意見なら間違いなかろうよ。引っ立てて少し痛めつけりゃー、ゲロするでしょ。鉛水、火村巽を連れてこ・・・あ、それとも良平が行くの?」
「いや、鉛水に任せる。それと見張りの4人を戻せ。」
「なーんかやらしーことでもしよーと思ってんのかー? まあいいや、私も挨拶くらいしてこよっかなーと思ってたところだし。」
牧無は席を立つと、軽快な足取りでヘリの落ちた方角へ向かった。


着地は成功したものの、ヘリコプターは飛行不可能な状態になっていた。
千里たち5人は、村を囲む森の外にいる。
「後部ローターが傷ついている。飛ばすのは無理ね。」
藍縄角水(あいなわ・すみ)のサイコキネシス攻撃によって奇襲を受けたとき、夜果里は咄嗟に斬空でサイコキネシスを切り払った。それで何とか無傷で助かったのだ。
「冷静に解説してる場合か。予知していたはずだろう、どうしてもっと早く知らせなかった?」
夜果里が千里を睨む。
「知らせたところでどうにかなることでもないわ。相手の方が遥かにリーチが長いのだから、こちらに合わせて攻撃を変化させてくる。それなら前もって知らせるよりも、夜果里の判断に任せた方がいいと思って。」
「そうやって情報を小出しにするのが貴様の悪いクセだ。こっちはヒヤヒヤものだったんだぞ・・。それから、気安く名前で呼ぶんじゃない。何度言ったらわかるんだ。」
「まあまあ夜果里ちゃん。そういきり立たんでえな。」
六道が間に入って夜果里をなだめる。
会話が日本語なので、レックスとサムは蚊帳の外だ。2人はアルカディアで日本語も学んでいるが、ネイティブの一般会話に付いていけるほど卓越してはいない。
「それで、話の途中だったな。藍縄から誰が来てるって?」
「角水(すみ)、暗水(あみ)、水王(みお)、水車(みのり)、そして鉛水。」
「厄介な連中ね・・。特に鉛水。“冥風道士”(めいふうどうし)藍縄鉛水。分家の出身だけど、たぶん本家の当主より強いだろ? 竜王家は、どうやって彼を抱きこんだの。」
すると六道が溜息をつきながら言った。
「理由はだいたい想像つくがの。今の藍縄は相当おかしなことになっとる。それと、蘆屋もの・・」
「蘆屋!? まさか奴が出てきてるんじゃないだろうね!」

「奴って誰のことかな?」

それは千里の声でもなく、六道の声でもない。もちろんレックスやサムの声でもないし、夜果里自身でもない。
余裕たっぷりの声。切迫さを微塵も感じさせない声。
「はろー、えぶりわんってな。夜果里ちゃん、元気してた? それと千里ちゃんに、六道の櫃っちゃん。後の2人は見かけない顔だけどーん?」
無造作に結い上げられた黒髪と、金色に輝くセクシーな顎鬚。
“爆雷烈姫”(ばくらいれっき)蘆屋牧無。通称、X・マキナ。
70を数える六道櫃でさえ子供のように呼ぶ彼女の年齢がどれほどなのかはさておき、敵に回すと恐ろしい相手であることには間違いない。単純な戦闘能力では、アルカディアの重幹部が束になっても勝てない。
「久しぶり、X・マキナ。今回は敵同士ね。」
千里は冷静に言った。
千里と逆に、夜果里は苦々しい顔をして牧無を見ていた。予想していたことでも、事実として突きつけられるとショックだった。
「冷静だん、千里ちゃん。流石はアルカディアの最高幹部ってか。」
牧無の目が、すうっと細くなる。
「今は剥奪されている身よ。それにアルカディアの仕事じゃないわ。知ってるはずだが?」
「心を読む能力ってあ、凄たらしいやら、うざくらしいやら・・・あんまし敵に回したくないもんだけどんね。」
牧無は肩を竦めて溜息をついた。
すると六道が一歩前に出てきた。
「それでマキ姉、わざわざ姿を見せに来たからには何かあるんかの?」
「いやいや、櫃っちゃん。何かやらかそうってわけじゃない。ちょっと顔が見たくてね。こっちゃら千里眼ほど便利な能力があるわけでなし、実際に近寄ってみないとわからないこともあるさ。懐かしい顔を見たかったのもあるけどねん。」
「変わってないの、マキ姉。安心したわいな。」
「安心・・?」
「蘆屋んとこ、相当おかしくなっとるからのう。」
「確かにな・・。」
牧無は悲しそうな申し訳なさそうな顔をした。
すると夜果里が我慢ならないという顔で牧無に詰め寄り、胸倉を掴んだ。
「んっ・・」
「どうしてだ! 何故あんたが!」
「放せぇや、夜果里。」
その言葉に従って夜果里は掴んだ手を放したが、細い双眼を牧無に向けたまま一歩も退かない。
牧無は目を伏せて、静かに話し始めた。
「・・・この世に絶対の正義など存在しないと私は考えている。だから私は自分より圧倒的に弱い者とは戦わない。私が絶対的正義でありえない以上、力で捻じ伏せるなど恐くて出来ない。臆病と言われてもいい、私はおよそ自分より強い者としか戦わない。」
それは、この場で千里たちを殺そうとしない理由でもあった。
蘆屋牧無は、善悪ではなく強弱で物事を判断する。かつて己の正義のもとに圧倒的な力で多くの人を殺め、己が力の強さ故に一切の抵抗を許さなかった。それを死ぬほど悔いた彼女は、どちらが正義であるかを二の次に置く。圧倒的に不利な方に味方する。
「光栄ね。」
千里が薄笑いを浮かべて言った。
牧無が竜王家に味方するということは、それだけ力の差があると見込まれたことなのだから。


竜王良平は、藍縄の4人の少女たち・・・角水(すみ)、暗水(あみ)、水王(みお)、水車(みのり)を集めて、邪淫の宴を行っていた。
悦楽と共に全身の精気を吸われ、4人の娘たちは止め処も無く嬌声を発し、果てていった。
「おおお・・・・蘇る・・・・蘇るぞ・・・・。体中に気が満ちて、活力が湧いてくる・・・・。」
その活力は彼のモノをそそり立たせ、娘たちを見る。
小刻みに痙攣し、淫らな液体を噴き出す少女たちを、良平は次々と味わっていった。
貫かれた娘たちは痛苦と歓喜で悲鳴を発し、じたばたと手足を動かしながら気を失った。

良平が悦楽を貪っている間に、牧無が千里たちとの接触を済ませて戻ってきた。
「よ、鉛水。良平は?」
「ええと、その・・」
鉛水の表情で察した。
「ああ、そうか。本当にやらしーことしてんのか・・。ったく、しょうがねえなあ、あの小便垂れが。今度は白い小便でも流しとんのか。」
「・・そんな下品な冗談を言いに来たんですか。」
あまり表情を変えることのない鉛水が、露骨に嫌な顔をした。
「悪い悪い、あの娘らを良平に差し出した張本人だから、これくらい聞き流してくれるものかと思って。」
「・・・!」
牧無は大して皮肉を込めたつもりは無かったが、鉛水にとっては痛烈な返撃だった。
(ふむ・・・。)
鉛水が苦悩の中にあることを表情で察し、牧無は気になっていた話を振ってみる。
「そう言えば、お前みたいな真面目なのが、良平に雇われてるってのも妙な話だよな。しかも女の子たちを差し出してまで恭順の姿勢を示すってのも腑に落ちない。やりすぎのような気がする。」
「やめろ、と?」
鉛水は青い顔で牧無を睨んだ。
「いや、文句は言っても反対はしない。というか、質問だよ質問。どうして良平に協力してんの?」
「・・藍縄本家が・・・・。」
そこまで言って鉛水は言葉を切ったが、数秒後に再び語りだした。
「俺は、本家に疎んじられて育ってきた。なまじっか力があるから目をつけられ、何かにつけて疎外された。俺は、俺の実力は、本家の誰にだっれ負けやしないのに・・!」
鉛水は震えていた。今まで固く蓋をしていた感情の器から、怒りや悔しさが溢れ出していた。
「俺は光が欲しかった。輝ける場所が欲しかった。その為なら何だってするさ・・。竜王良平は俺に輝けるチャンスをくれた! この俺にだぞ・・・。この俺に・・・。他の誰でもない、俺にだ・・!」
「感謝だけでなく、見放されることへの恐怖か・・。しかし、血を分けた娘4人の純潔まで己が所有と見なして良平に差し出すとは・・・もはや父親の所業ではないな。本当に・・・たった10年かそこら会わないだけで、これ程までになあ。お前が、あの藍縄鉛水と同一人物だと信じられん・・・。」
「子など、また産ませればいい。そうだろう? だって俺は、藍縄本家の種馬なんだから! 女房との間に愛情なんて無い・・・・牛や馬のまぐわいだ! 何が悪いか・・・輝くことを望んで何が悪いか・・・。」
己のエゴを腹から搾り出すように吐き出す鉛水を見て、牧無は悲しげに目を伏せた。
「強き力を持つ故に、か・・。私も別の意味で自分の強さに縛られているからな、わからんでもない。知ってるだろう、私の力は強すぎるからこそ致命的な弱点を抱えている。この状況では使えないんだ。」

蘆屋牧無の能力は、“電気”。
“爆雷烈姫”の名の如く、念力で発生させた電撃が大爆発を引き起こす。それが基本の能力なのだ。
ただでさえ扱いが難しく、練習もしにくい能力なのに、彼女の出力は桁外れである。力のサイズが大きすぎて、どんなに小さく絞っても龍閃村くらいなら一撃で消滅させてしまう。
弱点といっても単純に戦闘力における弱点ではなく、使えないといっても物理的に使用不可能なわけではない。
しかし反撃不可能な大量殺戮は牧無の最も嫌うことであり、他人がそれをするのにも心を痛める彼女が、まして自ら行うことはない。
「・・藍縄んとこも邪水狼(しゃみろう)と垂水(たるみ)が立て続けに死んでから半世紀。ここまで腐敗が進んでいたか。鉛水みたいなのを、ここまで歪ませるとあな・・。だがしかし、鉛水。ひとつだけ良かったのは、お前が自分のエゴで動いてるってこった。娘たちの純潔を踏み躙っておいて、大義とか唱えられたら恐ろしくてかなわん。だからな、悲しいけど、恐ろしくはないんだ・・。」
そう言いながら牧無は自分の髭を撫でていた。
喋り終わって彼女は深い溜息を漏らした。
(真面目な青年だったお前が、欲望に忠実な悪党になったことを、せめてもの救いと思わねばならんか・・・。だが私は、それ程までに恐ろしいのだ。真面目で誠実な若者が、大義を唱えて人を踏み躙るようになるのがな!)
牧無は沈痛な面持ちで立ち去ろうとした。
すると鉛水が声をかけて呼び止めた。
「ひとつ、聞かせてほしい。俺と京狐夜果里、どっちが強い? ・・・いや、俺と彼女と、戦ったら、どっちが勝つ?」
「・・・私の目から見ても鉛水は、現在の藍縄一族で最強だと思うけど、単騎で夜果里には勝てない。5人がかりなら勝てると思うけど・・・・。」
「・・・・・・。」
鉛水は歯を軋った。悔しいのだろうか。
「なあ鉛水よ。こればっかりは、どうにもならんのだいな。単純にサイコキネシスと空間干渉で相性が悪いというのもあるし、念力の型の問題も大きい。藍縄一族のサイコキネシスは、読んで字の如く“縄”だ。京狐一族の空間干渉は、“斬空”と呼ばれる“刃”だ。」
「・・・・・・。」
「多くの型に対して“縄”は有効かもしれん。場合に応じて“棒”や“鞭”としても使える。しかし“刃”には通じない。」
「・・そう、だな。」
「更に残酷な事実を言ってしまうが、出力においても技量においても向こうの方が上だと思う。夜果里は斬空戦闘の達人だ。並みの超能力者なら5人がかりでも勝機は掴めまい・・。」
「5人がかりね・・。」
鉛水は呟いて、その場を立ち去った。


- - - - - -


千里たちは行動を開始していた。
「Join me, Rex,Sam.」
「OK.」
「Roger.」
3人は森の中を移動し始め、後には夜果里と六道が残された。
「やれやれ、千里ちゃんは少々せっかちなのが珠に瑕じゃのう。まあ、命良ちゃんのことを思えば当然じゃがな・・。」
「そうですね。あと2分したら、あたしも動きます。」
「気ぃつけてな。」


- - - - - -


(ふ・・む。どういうつもりだろう。)
牧無は龍閃村周辺の人間の動きについて考えていた。
村の出入口である北の跳ね橋に向かっている3人は、千里と男2人だろう。
少し遅れて南へ向かっているのは夜果里に違いない。
となると村の東側で待機しているのは六道櫃だ。
(そう言えば・・・。)
牧無は考える。考える。
彼女の知る限り、千里は能力制限されていてもA級以上の予知能力やテレパシー、透視能力などを持っている。夜果里はA3級の空間干渉能力者だ。テレポートは出来ないが、空間を切り裂くことが出来る。すなわち性質に関わらず、あらゆる物体を切断できるということだ。また、千里には遠く及ばないが、それなりに透視能力も持っている。
六道櫃に関しては、一族の能力の種類は知っているが、彼女本人の出力は知らない。牧無は六道櫃が能力を使っているのを見たことがないし、誰かに訊いたこともない。
そして男2人の能力については、全くの未知数だった。
それに引き換え千里は竜王側のメンバー全ての能力を把握できる、おそらくは、本人よりも詳しく。
(私って、あまり相手の能力を知らないんだな・・・。情報力の差は思ったより大きいかもしんない。)
牧無は髭に手をやる。
(どういう作戦だろうな。それがわかればいいのだが。しかし千里ちゃんなら私に気取られぬように作戦を進めることも可能だろうし・・・。)
「むむ・・・。」
牧無は頭を抱え始めた。
(私の能力では“人の動き”を読むだけで精一杯。かなり遠くまで飛ばせるけど、精度が低い・・・。それが問題なんだよな。)

人間には個性というものがある。超能力戦では個々の戦闘能力に大幅な個性が出る為に、「将棋」の感覚に近い。
将棋は、個々の駒には戦場を見渡す能力は無い。全体を見渡せるプレイヤーの采配によって勝負は決まる。
プレイヤー役は千里と牧無。千里が相手の戦術まで見透かしているのに対し、牧無は駒の位置がわかる程度。言わば「囲碁」の感覚。能力サイズの大きい彼女は感覚もファジーで大局的なところがあり、局地的な戦術は苦手な方だ。将棋の駒が碁石に見える世界の住人である。
それでも普通は広い戦場における個々の人間の動きを把握するなどということは著しく困難であり、牧無は間違いなく竜王側における唯一無二のプレイヤーなのだ。
碁打ちや将棋指しも実際の戦争では戦場全てを把握することは出来ない。
ふんだんに科学技術を駆使してようやく実現できることを、超能力は個人の力で可能にしてしまえる。そこに超能力の大きな価値があるのだろう。

(戦力はこっちが上だから、駒落ち将棋に似たようなものだけんど、千里ちゃんは正体不明の持ち駒を持ってるしなー。顔立ちからして欧米人か? あんまバタ臭くないけど。)
牧無は髭を撫でながら考える。
(それに現実の人間は石や駒のようにプレイヤーに忠実じゃない。ふうむ、まずいかも。)
「・・あれ、いや、ちょっと待てよ?」
何か引っかかるものを感じて、牧無は髭を撫でた。
「そう・・そうだった。」
(こうして私が考えることも向こうには筒抜けなんだよな。しかし私の思考まで操れるわけじゃない。)
「なるほど、向こうの作戦が少し分かった。」
思索を終えて、彼女は良平のもとへ向かった。

「おーい良平。いつまでやらしーことやってんの。敵は動き出したぞ。」
ピストルを模した指のポーズで、牧無は右手を村の外へ向ける。
「おう。準備は出来とる。」
良平の能力により気力を満杯まで注がれた4人の娘たちが、まだ余韻が醒めぬ様子で立っていた。
「鉛水は?」
「いや・・見てないが。」
「まさかあいつ・・!?」
牧無は慌てて南の方へ意識を向けた。
(夜果里ちゃんだけか・・。)
胸を撫で下ろすと、丁度そこへ鉛水が現れた。
「蘆屋さん。」
「わあ、びっくりしたなあ、もう。」
「状況は?」
「うん、なんていうか、こっちにやり易いというか。北に千里ちゃんと他2名、南に夜果里ちゃん、東に櫃っちゃん。」
「・・・・・・。」
ぎらついた目をした鉛水は、沈黙し、しかし表情は雄弁だった。
「夜果里ちゃんと鉛水の戦いの場を、わざわざ設定してくれたってこたあ、何か魂胆あるに違いない。勝算ありと見たか、足止めのつもりか。いや、真の狙いは、こうしてこっちをうだうだと迷わせることだろう。鉛水、4人を連れて南へ。北には、とりあえず村人に爆雷符(ばくらいふ)持たせて5、6人。良平は巽を拷問。私は命良を見とくわ。」
てきぱきと指示を出した牧無は、颯爽と歩き出した。


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『エスパー奇譚』長編小説 「千里」 第二部まとめ読み
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