佐久間闇子と奇妙な世界

アクセスカウンタ

zoom RSS 「千里」 第十九話 龍閃村事件 (中)

<<   作成日時 : 2016/05/02 01:35   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0

■■■■■■■■■■



火村家の一人息子・巽は、服を引ん剥かれて竜王家の地下室にいた。
「ああああううぐううう・・・・!!」
良平によって体中の気を乱され、絶叫にも近い悲鳴が響き渡る。
「ふん、駄目だな。男の悲鳴は女のそれに比べて艶っぽさが無くていかん。」
もはや口を割らせるのではなく、痛めつけるのが目的となっている。
良平は極度の女好きなので男の悶える声に興味は無かったが、巽の悲鳴は多くの人間の嗜虐心を呼び起こしてしまいそうな程に甘美な響きを持っていた。
「あ、あああ・・!」
全身から脂汗が噴き出し、口からは涎が溢れ出し、更には失禁していた。
良平は苦痛を快楽を同時に与えられる。巽はマゾヒスティックな衝動と格闘することになった。命良への思いが彼の心を支えていた。
「おっと・・つい目的を忘れてしまうところだった。六道のババアに依頼したのはお前だろう。どうやって依頼した? 奴らはどんな方法で命良を奪取するつもりだ? 洗いざらい吐いてもらおうか。」
「知らない・・・知ってたとしても言うもんか・・うう・・・」
「よく吼えたな小僧。だが力なき者の牙は己に返ると知れい。」
良平は巽の体内の気を、更に掻き乱した。
「ごえ・・・・・・!?」
今までの比ではない。全身の血流が沸騰するような熱さと、内臓がねじくれるような痛み、吐き気。目を開けているはずなのに真っ暗で、頭の中身がギョルギョルと渦巻くような気色悪い痛みが容赦なく襲って来る。
「ああっ、ああっ、あうっ、があああ・・・!」
獣のような声をあげ、巽は悶絶した。
だがそれも一瞬のことで、すぐさま意識を無理やり覚醒させられて、再びのた打ち回る。
「くくく、ここまでされても白状しないか。それほど命良が愛しいか。わしは、そういう一途で剛直な少年の心をへし折るのが大好きでね・・・。」
「・・・・・・。」
次に何をされるのか、巽は容易に想像できた。
良平は巽から手を放すと、少し離れた椅子に腰掛けた。
巽の肉体に与えられていた苦痛も消え去り、マゾヒスティックな肉欲も消滅した。
「ハァ・・」
彼は小さく息を漏らしたが、次に来るであろう攻撃に備えて再び身を強張らせた。
「・・くくく、予想はついているようじゃな。次にわしが何をし、そして、それに耐えられるかどうか考えている・・・。」
「・・・・・・。」
「火村・・・巽くん。お前は・・この攻撃に耐える自信があるようだが・・。そう・・・怒りによって・・。」
良平は、わざとネチネチした口調で話す。
「・・・だが・・。既に・・お前の心は折れかかっている・・・。元来、人間とは・・弱く・・・薄汚いもの・・・。真っ直ぐな心も・・・どんな人間でも・・・少しだけ心が曲がっているものだ・・・。」
良平は淫らに笑いながら、蓄音機を取り出した。
「わしのような野太い男の声だけでは興が乗るまい。ここに・・・命良の声・・・命良が啼き、気を遣るときの淫らな声が・・記録されている・・・!」
日頃から、自分が命良に行っている所業を見せ付けたい良平だ。その内容を語ってくるだろうとは、巽は予想していた。だが、蓄音機は予想外だった。そこまで考えを及ぼす時間が無かった。
「巽・・・想像したことはあるじゃろう。命良を・・抱くことを・・・何度も犯すことを・・・。」
「誰がっ!」
「くく・・それがいかん・・・いかんよ・・・。欲望を否定した時点で・・終わり・・・。お前の負けは決まった。」
「何だと・・」
「そう、今は怒りがあるから・・・。しかし・・・忘れてないかな、今・・自分が・・・裸だということを・・・。口でいくら否定しようとも・・・体は正直・・・嘘をつかない・・。くくくくく・・・。」
この言葉で巽は局部へ意識を集中させられた。それだけで一物に熱が溜まるのがわかる。
「・・・・・・。」
巽の体に汗が流れる。
良平はそれを嬉しそうに見ながら蓄音機を操作した。
最初にボスンと音が鳴り、その後に嬌声が響いてきた。
《ひあああああああああああああ〜!!》
声に混じって、肌のこすれる音や、ぴちゃぴちゃという音も聞こえてくる。生々しい陵辱の放送。
巽は身を固くした。太腿に力を入れて耐えた。
《ああああ〜!》
《いい、ひい、あひいい!》
良平は、そこでいったん放送を止めた。
「くくく・・・どうした・・? そんなに脚に力を入れて・・・。それを・・大きくしたら負け・・。そう思っているのだろうが・・・無駄、無駄。抱きたいと思っているのだろう・・・命良を・・・陵辱・・淫らな声をあげさせてみたいと・・!」
「誰が!」
「・・・まだそんな威勢が残っとるのか。くくく、そう・・そう・・そうでなくては、へし折り甲斐が無いというもの。」
良平には更なる奥の手があった。
今までの責めも霞むほどの、地獄が巽を待ち受けていた。
「なあ、巽。お前は、それが大きくなったら負けだと思っているようだが・・・それは違う。そんなもの、負けでもなんでもない。」
それが応援の言葉ではないのは明らかだが、どういう意味で言ってるのか巽にはわからなかった。
「日常茶飯事・・なんだよ。お前のように・・・経験の無い者にとっても・・・。無論・・・わしは抱いておる。この世の誰よりも・・・命良を貪っている。前からも・・後ろからも・・・。飲ましているし・・出している・・・。毎日・・・毎日・・・血が出ようとも・・・血が出ていようとも・・・考えつく限りの・・・半分程度か。まだまだ・・・恥辱を・・・屈辱を与える方法は・・・使わないでおいてあるものが・・・たくさんある・・。くくく、どうだね・・・素晴らしいだろう、巽・・・。」
「くだらねえ、くだらねえぜ貴様! 絶対に許さない・・!」
ありったけの憎悪を込めて、巽は良平を睨みつけた。
「そう・・・その目が・・・これから敗北の色に染まると思うと・・・。くくく、強者の快楽とでもいうか・・。」
良平は笑いながら、呼び鈴を鳴らした。
「入れ。」
扉を開けて、1人の少女が入ってきた。まだ12歳。
来年の春に火村巽と結婚する予定の、乾子々(いぬい・ねね)であった。
服と名の付くものは下着に至るまで一切身につけておらず、下からは糸を引き、目は何かに操られているように虚ろだった。
「貴様っ・・!?」
巽は顔を青くして良平を睨んだ。
「どうした・・・やけに顔が青いが・・・。くくく、そうともさ、何というか・・・一足早く夫婦になってもらおうかと・・・。」
良平は舌なめずりした。
「やめろ、来るな!」
「おお、子々ちゃん。来て欲しいそうだ。行きなさい。」
「はい・・・。」
だらあと涎を垂らしながら、子々は巽に跨った。
「くっ・・!」
度重なる拷問で力尽きている巽には、撥ね退ける力は残っていない。
そして子々は、良平によって、気を必要以上に注入されていた。
「ううっ!」
ねっとりとした温かい感触に、巽の物はそそり立った。
「大丈夫・・・その程度では敗北にならん・・・。真の敗北は・・・これから、これから。さあ子々、挿れなさい。巽に女にしてもらいなさい。」
「はい・・・。」
「やめろ、やめろ、やめてくれー!!」
しかし、その言葉でどうにかなるものでもなく、巽の物は子々の中へ呑み込まれていった。
「あっ、くっ・・うっ・・」
巽は悶え、呻き声を発する。
「どうだ・・・気持ちよかろう・・・。初めてだったんだろう? 実は子々も初めてなのだよ。天に誓って手は付けていない。正真正銘の生娘だ。まだ月の穢れも来ていない清い体。そこへ、お前が、その肉の棒で、刺し貫いたのさあ、はっはっはあ!」
「うう、うう、く・・くう・・・!」
怒りで良平を睨みつける。発しても発しても収まらないほどに怒りが湧き上がってくる。
しかし同時に、言い知れぬ肉の快楽が襲ってくる。突き飛ばそうにも、指一本動かせない。手足に意識を集中したら、その瞬間に放ってしまいそうだった。
「遠慮はいらない。思いっきり出すがいい。その為に、この娘を調教しておいてやったのだ。くくく、いやらしい娘だ。子供のくせに・・・たった1回気を操っただけで肉の悦びを覚えてしまった。命良に比べて何といたぶり甲斐のない・・・。ああ、もちろん・・・肝心なところには手をつけていない。その証拠に破瓜の血が・・・ああ、その体勢では見えないか。」
「宇・・・あ・・・く・・・はあ・・・」
「随分と苦しそうだな・・。若い者が、そう我慢するものじゃない。わしの経験からすると・・・もってあと数秒・・・。」
良平の言葉に呼応するように、子々は恍惚とした顔で涎を垂らしながら腰を動かし始めた。
「はあん、あんっ、いいよー!」
「あっ・・・くっ・・・」
(う!!)

巽は敗北した。

いやらしい笑顔で巽を見つめる良平は、笑いながら言った。
「どうだ、気持ちよかっただろう。これでお前も一人前の男だな。かっかっか・・・。」
「・・・・・・。」
巽は恥辱で顔を真っ赤にしてうなだれていた。
そこへ良平が更に追い討ちをかける。
「なんということだ。もう命良に合わせる顔が無い。・・そう思っているのだろう。」
青二才の考えることなどお見通しと言わんばかりの口調。良平の攻撃は終わっていなかった。
巽と良平は別種の人間、相容れない人間である。良平が自分の感覚から巽の心理を推し量れるとすれば、それだけ巽の人間のとしての器が小さい、底が浅いということなのだろうか。
少なくとも巽は、そう思ってしまった。心まで裸に剥かれているようで、たまらなく恥ずかしかった。
「・・・穴があったら入りたいか? たった今、入ったばかりなのに。」
良平はどこまでも巽の心を抉るつもりだった。へし折るだけでは飽き足らず、その上から踏みつけ、糞や小便を降りかけようというのだ。
「なんだ・・・一度出したくらいで、もうへばったのか・・。そうそう、全身の気を抜いていたな。返しておこう。」
「っ! やめ、ろっ! 近寄るな!」
「そんなに慌てなくてもいい。元気を入れてやるぞ。」
良平が巽の柔肌に触れると、そこから電流が走ったように気が流し込まれた。
巽の物は先ほどにも増してそそり立ち、本人が痛苦を感じるほどに膨れていた。
「さあ、もう一度・・・いや、一度と言わず、二度三度。若いんだから、まだまだやれるだろう・・? 子々も乗り気じゃ。」
「あはあ・・・・もっと・・・」
「やめろ、やめろ、もうやめてくれ・・・!」
恍惚とした子々とは対照的に、巽は情けない顔で懇願した。

しかし、どんなに拷問を加えても、依頼方法や手はずについて吐くことはなかったのである。
(おかしい・・・。とっくに心は折れているはずなのに・・?)
良平は訝しがった。
(何かある。)
しかし、それが何なのかはわからなかった。
所詮は別種の人間、巽の心理までは読めても、思考まで想像を及ぼすことは出来なかった。


- - - - - -


龍閃村でも最も大きな家である竜王家。その中の最も奥に20畳の部屋がある。入口は1つしかなく、5間もの高い天井に対して不釣合いなほどに小さく見えた。
その中央あたりに紫色の着物を身につけて、竜王命良は座っていた。下に何も身につけず、虚ろな瞳の億に“怒り”という輝きを放っている。
少し離れたところで蘆屋牧無が立っていた。動きやすいように簡素に仕立てた黒い着物には、向日葵の刺繍が施されている。
「・・・何も、訊かないのですか。」
「いや、別に。私の役割は君を見張ることだけだんね。」
「そう。」
「・・怒って、いるんかね?」
素っ気無い命良に、牧無は思わず訊いた。
「あなたに対してだけではないわ。」
命良は目を伏せた。
「・・世の中には、不幸な、惨めな境遇の人間が・・・多すぎる。そう思わない?」
「ほう。君には他人を思いやれる余裕があるのか。」
「世の中で自分1人だけが不幸だと、20歳を過ぎても思ってる奴は馬鹿よ。余裕があるんじゃなくて、馬鹿でないというだけの話。普通の思考力と想像力を持っていれば、檻の中にいてもわかることだ。」
「耳に痛い言葉だんね。かつて私が大量殺戮を行ったのは、力が強かったからだけじゃない。人並みの思考力を持っていなかったから・・。」
「昔話なんて聞きたくない。大事なのは今・・。過去にすがるのではなく・・今を・・・今日を生き抜いた者だけに明日は来るのよ・・・。」
「・・・その口ぶりだと、知ってるな。助けが来ることを。」
牧無は眉を動かして目を吊り上げた。
しかし命良は動揺する素振りを見せず、淡々と言葉を続ける。
「証拠が無くても推測は出来るわ。あなたの能力はわからないけど力量はわかる。相当に強い。そんな能力者が私を見張ってるんだ。何かあったと思うさ・・・それを突き詰めていけば、どこぞの連中が私を救いに来ており、依頼者は巽。そうなるだろう。・・・99パーセント間違いあるまい。残りの1パーセントは証拠が無いから・・・つまり、現にこの目で確かめてない分よ。」
「ほう、巽を売るかい。」
「舐めないでよ。私も“竜脈”の使い手・・・巽が拷問されてることくらい知ってるわ。」
命良は再び目を上げた。
「ただ・・・」
「ただ?」
「いや、巽はどうやって外に依頼したのかと思ってね。私より自由度は高いとはいえ、所詮は籠の鳥・・。」
「その点は私も気になっている。もしかして・・いや、もしかしなくても、そこが勝敗の決め手だ。その点さえ除けば完璧と言っていい防御を強いてあるのだから・・。」
「この世に完璧な防御なんてあると思ってるの?」
「無いね。」
「はあ・・?」
命良は眉をひくつかせた。
「完璧な防御は存在しない。しかしそれは、“いついかなる敵が相手でも”という但し書きが付く。つまり・・・抽象的なのさ。相手によっては完璧な防御は存在し得る。穴熊相手に王手はかけられまい?」

将棋において自軍の王を守る陣形は幾つもあるが、その中で“穴熊”は最高の防御力を誇る・・・それゆえに崩されたときには確実な死が待っているが、将棋において陣を崩されることは危篤状態にも等しい。重病人には生きる権利はあっても殺し合う力は無い。もちろんこれは基本的、一般的な話であって、応用は果てしなく深い。
この状況は似ているのだ。“穴熊”が最強の防御力を持つと言われる所以は、絶対に王手がかからないということである。爆雷符によってテレポートを遮断している今、いきなり命良を連れ去ることは出来ないはずだ。

牧無は不安を打ち消すように喋り続ける。
「相手の目的が命良の奪取なら、命良こそが王将。単に身柄を確保するならテレポーターを使うだろうが、その対策はバッチリだ。空間を固定するなどという洒落た真似は出来ないが、掻き乱すことは十分可能。私の能力はサイコ・サンダー。空中には私の念を込めた式紙がウヨウヨ飛んでいる。それは空間を掻き乱すと共に、外部からの物理的侵入をも拒んでいる。例えば戦闘ヘリによる攻撃は通用しない。相手は、こうしてチマチマと近づいてくるしかない。」
「空間を掻き乱すだけでテレポートが防げるものなの?」
「・・確かに、千里ちゃんの能力なら、どこにどのタイミングでテレポートすればいいか完璧にわかるでしょうね。後は思考中継とテレポーターがいれば、あっさり侵入できる。穴熊といえども絶対の防御ではない・・・幾つかの駒を犠牲にすれば破れる。」
「・・・・・・。」
「しかしだんね、千里ちゃんの能力は現在、制限された状態にある。推定出力は120万から130万。そこから推し量れば、侵入の成功率は、いいとこ90パーセントだろうよ。」
「90パーセント・・?」
命良の顔に訝しげな歪みが宿る。
「そうだね、将棋なら実行するかもね。しかし現実ではどうかな。断言してもいいけど、千里ちゃんはやらない。だって失敗したら高確率で式紙の餌食だよん。ウヨウヨと飛ばしているのは私の念力をこめた爆雷符。テレポートした瞬間にドカーンだ。千里ちゃんなら99パーセントでもやらないね。命良なら、やる? 死亡率10パーセント。」
「・・・なるほど、やらないわね。自分が行くならまだしも、部下にはやらせない。千里という人も、そういう性格なんでしょう?」
「その通り・・。千里眼の能力は思っているより万能ではない。相手が千里眼の能力者だとわかっているなら、こっちにもやりようがある。そもそも、相手に知られたらパーになる作戦など、最初から大した作戦じゃないのさ。本当に強力な作戦というのは、見抜かれても破られないものを言うのだ・・・。断言するが、将棋の初心者はテレパシー能力を持っていてもプロ棋士には勝てない。絶対だ。」
囲碁向きの性質なのに将棋が好きで好きでたまらない牧無の話は続く。
「千里眼の能力は、読みたくないものまで読んでしまう。余計なことまで読んでしまう。千里ちゃんでなかったら、爆雷符の存在に気付かずテレポーターを突入させて大成功。後で知っても、結果良ければ・・だ。しかし千里ちゃんは、あらかじめ知ってしまう。それが命を危険に晒す行為だと知っている。石や駒は捨てられても、人間は捨てられないさぁ、フッフッフッ・・・。」
「人間としてはともかく、指揮官としては失格?」
肯定する返事が来るだろうと命良は思っていたが、牧無は少し表情を曇らせて呟いた。
「そうとばかりも言えない・・・。たとえ短期的にはそうでも、長期的には・・・。そこが人間の戦における複雑さというか・・妙というか・・味というか・・。人間は駒じゃないからな。」
「意外ですね。こんな仕事やってるのだから、もっと酷薄な人間かと思ってましたよ。」
「そんな皮肉を言われると立つ瀬が無えやんん・・・。」
牧無は困惑したような顔を見せた。
「まあ、あなたにはあなたの事情があるのでしょう。・・ところでひとつ。」
「ほいほい。」
「万が一、テレポーターが侵入したときのことは考えてあるの?」
「そりゃー、もちろん。私が千里ちゃんの能力を読み違えてるとか、千里ちゃんが何らかの補助によってテレポーターを100パーセント送り込めるようになってるとか、誰かが先走って勝手に入り込むとか、いろいろ想像つくよ。でもさあ、行きはよいよい帰りは恐いってね。王手をかけただけでは勝ちじゃないだろう? 侵入するときは1人でも、帰りは命良、君を連れて行くんだよ。当然その難しさは行きの比ではない。出れないんだよ、この村からは・・・。王手をかけた駒は、瞬く間に成飛車の餌食さ。」
「・・・諦めろ、と?」
「それは自由に。狭い自由だがな。」
「・・・・・・。」
命良は諦めていなかった。
一見すれば鉄壁と思える牧無の防御壁にも、穴はある。穴とも呼べないかもしれない代物だが、火村巽の依頼方法の謎である。
天には繋がっていない糸かもしれない。しかし、辿れば天に近付けるかもしれない。
命良は、そのときが来たら即座に行動に移れるように、意識を集中させていた。


- - - - - -


村の北側、跳ね橋を挟んで千里たち3人と村人6人が睨み合っていた。
「They have eighteen cards of thunder. Be careful. 」
「OK,Clair. 」
ようやく英語で喋ってくれたので、レックスはホッとした。
すると千里は肩を竦めてフッと笑った。
「Sorry,Rex. Japanese is my first language. 」
「Oh・・I know I know. Then what we do?」
「Wait. We need not shoot the rapids. 」
「Yes Ma'am. 」
レックスは軽く敬礼の仕草を取り、サムも黙って頷いた。


村の南側では夜果里が木に寄りかかって立っていた。
「・・来た、来た、やって来たね。藍縄の連中・・・。」
藍縄鉛水と4人の娘、角水(すみ)、暗水(あみ)、水王(みお)、水車(みのり)。深い堀を挟んで5人は夜果里と対峙した。
すぐに戦いが始まるかと思いきや、互いに睨み合ったまま動かない。
(こちらの隙を狙っているのか、京狐夜果里。)
鉛水は間合いの外から夜果里の表情を観察した。
面白くなさそうな顔で突っ立っていて、焦っているような気配は無い。
(くそ・・。)
質的有利は夜果里にあり、数的有利は鉛水たちにある。
夜果里はA3級トップ、出力10万の能力者。鉛水の力は夜果里の3分の1でしかなく、他の4人は10分の1程度・・・すなわち単純な足し算では、いいとこ夜果里の8割。この状況で先制するのは危険だ。
実際、牧無が鉛水に出した指示は“足止め”であった。相手が攻撃もせず、動きもせず、立っているだけならば、鉛水としても戦う必要は無いのだ。
しかし鉛水は戦いたかった。勝って自分の強さを、存在価値を証明したかった。
(どうした・・・かかってこい・・・! 攻めてきたのはそっちだろう!)
鉛水の焦りを知ってか知らずか、夜果里は攻撃する気配をピクリとも見せない。
実のところ、夜果里の役割も“足止め”なのである。だが、鉛水の側からすれば想定の外・・・強力な駒である夜果里を足止めに使うなど考えられない。
(・・・・・・・。)
鉛水の焦りは蓄積されていった。


- - - - - -


「夜果里ちゃんと鉛水は睨み合いか・・・。」
式紙を使って牧無は戦いの様子を見ていた。
彼女の式紙・・・陰陽道で“しきがみ”と言えば通常“式神”という字を当てるが、それとは別物である。
もちろん無関係ではなく、憑代に雷の術式を組み込んだものを、牧無は“式紙”と呼んでいる。しかし流石に紛らわしいので、“爆雷符”という呼称が通称になっている。
爆雷符は、使用者の意思で飛ばして爆発させることが可能であり、近くにいる人間や動植物の位置を知ることも、地形を把握することも出来る。
ただし作成者である牧無自身は、単純な操作しか出来ず、むしろ他人が使った方が有用であることが多い。本職の陰陽師ならば、いわゆる“雷獣”を作り出すことも可能だろう。
牧無は50年の修行で爆雷符の作成と単純操作までは出来るようになったが、その先は更に50年修行しても一向に上達しなかった。子供の頃から憧れていた陰陽師への道を、20世紀になって諦める決心がついた。
「千里ちゃんみたいな能力があったら生で見るように観戦できるぅだがな・・。」
夢を諦めたときのことを思い出しつつ、牧無は残念そうに呟いた。
「式を飛ばしているのではないの?」
命良は質問を口にした。
「私の能力は強力であっても精密性に欠ける。本職の式神使いには及ぶべくもないね。竜巻の中で談笑は出来まい?」
「そうね。・・それで、藍縄鉛水は京狐夜果里に勝てると思うの。」
「まず勝てるだろうよ。鉛水も馬鹿じゃないさ。足止めの指示は無視するだろうけど。」
「京狐夜果里は一族の歴史でも五指に入る実力者だと聞いてるわ。」
「まあ確かに。夜果里ちゃんは強いよ。1対1で勝てる超能力者は、この世に100人といるまい。鉛水は、その100人の中には入ってないね。」
「数で勝てる相手なの?」
「その通りなんだ。雑魚なら何人揃えても無駄だけどん、鉛水は夜果里ちゃんの・・多分3分の1くらいはある。他の4人も10分の1くらいは。」
「・・・ちょっと待って。それじゃあ5人合わせても京狐夜果里の7、8割じゃないの。」
「勝てないと思う?」
「勝算が無い差ではないけど、あなたは“まず勝てる”と言った。それがおかしい。」
「・・・夜果里ちゃんは確かに強いけどね。戦闘に強い性質じゃない。」
「性質・・。」
「そう。出力も技量も相当のものだけどね、勝つべくして勝つ戦い・・強い者が勝つ戦い・・強者の戦いだん。」
「・・戦いとは、強い者が勝つのではなく、勝ったものが強い。そう言いたいの?」
「理解が早くて助かるよ。自分より強い相手に勝ててこそ、戦闘に強いと言える。」
「でも今回は総合力でも劣ってるのではないの。」
「そうかなあ。」
牧無は問いかけるような口ぶりで言った。
「計算、間違ってる?」
「いや、足し算は合ってる。でも人間の能力は足し算じゃない。雑魚を幾ら集めても強者には勝てまい?」
「なるほど。ならば逆も然り。及ばないまでも食らいつける力量があれば、数の有利が物を言う。そう言いたいわけね。」
「その通り・・。夜果里ちゃんは1対1の戦いでは、良平が相手でも勝てるかもしれない。雑魚を薙ぎ払うのも得意だと思う。でも多角的な戦闘に弱い。戦いのスタイルが固まりすぎてるから、計算ずくでしか戦えないのよねん。」
「つまり、計算外の事態に弱い・・。」
「それもあるけど、もっと単純に人数が増えるだけで対応が困難になるってこと。戦闘に強い性質の持ち主は無意識が最良の選択をしてくれるんだけどなん。」

しかし客観的な有利不利とは裏腹に、鉛水は焦っていた。そして夜果里は余裕だった。
牧無は昔のイメージが根強く残っていて、鉛水を高く買っている。だが、今の彼は功を焦る俗物だった。もはや足止めという言葉は頭の中には無く、どのように攻撃を仕掛けようかと、そればかり考えていた。
火蓋が切られるのは時間の問題だった。

鉛水は考える。
(相手の大将は三日月千里。予知能力で、こちらの攻撃タイミングを読まれてるかもしれない・・。そう考えると奴の余裕も説明がつく。ならば・・・駒ひとつ切ってやればいいだけのこと!)
これが数の有利。なにしろ1秒未満の世界なのだから、無線通信かテレパシーの中継など高速伝達でなくてはならない。牧無がバラ撒いている爆雷符は、テレパシーにも影響を与えているし、無線では最初の1回を指示するのが限度だろうと鉛水は考えた。
「角水!」
鉛水が怒鳴るように命令を発し、攻撃が開始された。
夜果里は余裕で攻撃をかわすが、すぐに鉛水は残りの3人も向かわせる。自分は後方で全体が見渡せる位置にいて、4人の娘を手足のように使おうというのだ。


- - - - - -


「始まったか・・。」
牧無が呟いた。
それを命良が耳に留める。
「どっちが勝ってるの?」
「ええと・・・ああ、ごちゃごちゃしててわからーん。あっちゃこっちゃ動いてるからーん。」
不具合に苛立つ子供のように、牧無はジタバタして頭を掻き毟った。
「実況できないのって、そんなにもどかしい?」
「むい〜。」
命良の嫌味めいた口調に、牧無はぐうの音も出ない。
「図星。」
「そうだよ・・。まあいいや、勝てる戦いだから。」
「でも100パーセントじゃないでしょう。」
「それはそうだけどん、こっちとしては足止めになってくれればいいの。爆雷符も持たせてあるし・・・夜果里ちゃんにはあまり効かないと思うけど、一応。」
「足止めね・・・。」
「まあ勝てるよ。防御の角さえ頭にあればな・・。」
「防御の角?」
「将棋では普通、大駒は攻撃に使う。飛車や角は敵陣に成り込んでこそ・・それが基本だん。攻撃のゲームだからね。しかし・・攻撃のゲームだからこそ防御が重要なんだ。一定以上の戦いならね。重点は攻撃に置かざるを得ないが、重要性では防御・・・受けも軽視できない。まあこれも基本と言えば基本だけど・・・プロは受けに大駒を使える。苦し紛れの間駒じゃないぜ。いわゆる“渋い手”ってやつ。斬空使いの夜果里ちゃん相手にサイコキネシスの防御が通用しないと思うのは浅はかだ。司令塔に鉛水、防御役に角水ちゃん、他の3人が攻撃ってとこかな。」
「斬空をサイコキネシスで防御できるの?」
「単純に受けるんではともかく、“防御の角”はヤワじゃない。斬空は駒を跳び越える能力をプラスした香車みたいなものだけど、飛ばしたらそれっきり。起動は変えられない。」
「・・ああ、よければいいってこと?」
「正解。しかし鉛水だけでは心許ないさ。角水ちゃんがチョロチョロしてくれないと。まあ、鉛水ならやれることだ。」

そう、昔の鉛水なら間違いなく可能な戦術だった。しかし今、彼は4人とも攻撃に回していた。
夜果里の斬空は強力だが、間合いが狭い。防御に1人まわしていれば、司令塔に届く前に避けることが出来る。斬空は目に見えず高速で飛来するが、間に何かあれば姿を現す。揺れる草木を見て風を感じるようなものだ。
しかし鉛水は丸裸の状態である。衣服など斬空の前には盾にならない。
「うっ!」
独特の風切音と共に、鉛水の頬が裂けた。4人との戦いの間隙を突いて、夜果里の攻撃が鉛水に届いた。
夜果里は斬空戦闘の達人である。性質が戦闘向きでないにしろ、技量は並みの超能力者と一線を画す。無動作で斬空を放つこともわけない。
「戻れっ、角水!」
鉛水は臆病風に吹かれた。しかし、それは牧無の言う理想的な陣形と一致した。
(ちっ・・・。)
夜果里は心の中で舌打ちした。
態度には出さなかったが、実のところ疲労が激しい。見かけは若くとも50歳を過ぎた肉体だ。体力は全盛期ほどには無いし、複数を同時に相手するのは尋常でなく神経を遣う。
相手は40代の男と10代の少女たちだ。超能力者としての力は5人合わせても夜果里に及ばないが、体力は違う。なるべく早く決着をつけねばならなかった。
(結局はクレアの予知に頼るか・・・。)


ようやく牧無は戦いの動きを追えるようになっていた。
「うん、いい感じだ。細かい動きはわからんが、ちゃんと角水ちゃんを防御に回している。昔から、言わなくてもやることはやれる奴だったが、性根が腐ってしまっても変わってないだん。」
「・・・・・・。」
命良の顔が少し曇った。
牧無にとっては喜ぶべきことでも、命良にとっては助けに来てくれる人間の不利だ。
「これで勝負は決まったかな・・。今の夜果里ちゃんは5面指しをやってるようなもの。早い将棋なら夜果里ちゃんにも勝ちの目はあるけど、防御に重点を置いて粘り強く戦えば・・」
「体力?」
ピンときた命良が呟く。
「そうだんね。メタルイーター能力とやらで多少は強化されてるにしろ・・・5人相手では精神の消耗も激しかろう。」
「・・・・。」
「ただ・・」
「ただ?」
「うん。夜果里ちゃんに勝っただけでは全体の戦いに勝ったとは言えないからね。千里ちゃんのことだから、夜果里ちゃんの敗北も織り込み済みだろうよ。」
「それでは、どういう方法で私を救い出そうと?」
「はてさて・・。北の方も動かないし、東も・・・。南に注意をひきつけてる間に何かすると思ったけどね。まあ、わからないものを無理やりわかろうとしても、かえってマズいことになるからな。」
「それだけ防御に自信があると。」
「完璧さ。・・しかし、だからこそ恐いとも言える。千里ちゃんは勝算なしに戦わないから。」
完璧と言いつつも、こうもベラベラと喋りまくっているのは、彼女の不安の顕れだった。命良に対して解説し、点検する意味が、この会話にはあった。
「・・・穴というほどのものじゃないかもしれないけど、思い当たるのは巽の依頼方法だな。まあそれも良平が吐かせてくれるだろ。」
「何とも思わないの。」
命良の目つきが鋭くなる。
「心を痛めてるとか言うのは卑怯でしょ。だったら協力するなって話じゃないか。」
「あなたは・・」
命良は牧無を睨むのを止めた。
「いったい、どういう人なの。弱みを握られてるようには見えないわ。」
「私が善人に見える?」
「悪人には見えない。」
「人を見る目が無いね。」
「茶化しても無駄よ。善良な人間の価値観がおよそ統一されているのなら、こんな世の中になっていない。」
「私は善良じゃないさ・・。」
「この村の連中に比べたら十分よ。」
「ぅうん・・。」
牧無は言葉に詰まった。
過去に多くの人間を虐殺した自分が善良だとは決して思わないけれども、それを命良に言うのは憚られた。別に自分が善良でないと証明したいわけではないのだ。
「あなたの価値観は何。あなたがクソ親父に協力している理由を教えて。」
「正しいことでも一方的なのは嫌い。そう言えばわかるかな。」
「ふうん・・・。」
納得したのかしてないのか、命良はしばらく黙り込んだ。


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
『エスパー奇譚』長編小説 「千里」 第二部まとめ読み
□□□□□□□□□□ ...続きを見る
佐久間闇子と奇妙な世界
2016/05/02 01:50

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
「千里」 第十九話 龍閃村事件 (中) 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる