佐久間闇子と奇妙な世界

アクセスカウンタ

zoom RSS 「NEKTAR」 プロローグV

<<   作成日時 : 2016/05/06 00:00   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 4

俺がフィー・カタストロと出会ったのは、1938年。互いに16歳の春だった。
こんな綺麗な人間がいるものかと思ったものだ。野に咲く花とか可愛らしい形容は似合わない。
どちらかといえば、荒野や砂漠を吹き抜ける一陣の風。
彼方まで見通すような涼しい目つき、華奢な体つきにもかかわらず、凛として揺れずに佇んでいた。
ハルマッタンが一夜にして砂漠の地形を変えてしまうように、俺の心が揺り動かされるのも一瞬だった。

当時のアルカディアは猫の手も借りたい忙しさで、人材確保に躍起になっていた。
俺もそのときに見初められた口だ。
B1級の空間干渉能力者っていえば、アルカディアでもちょっとしたもので、上位50位以内の実力者だ。
同じ空間干渉能力では20位以内に京狐夜果里ってのがいるが、あいつのは“空間の断裂”。
俺のは“空間の叩割”だから、そんなに目の上の瘤ってわけじゃない。活躍する領域が違う。

思えば俺の故郷は、つまらない街だった。男は馬車馬のように働き、女は黙って家事をする街。
恋愛なんて口にしたら子ども扱いされる。結婚は子孫を残すためにするものだと。
毎日毎日、ただ生きているだけ。
体の中が灰だらけで、体自体が崩れて灰になっていくような、乾いた息苦しさと無縁ではいられなかった。

10歳のときに許婚が決められた。容貌だけが取り得の女で、馴れ馴れしいを通り越して図々しい。
感情的ですぐ泣くわ、忌々しいことこの上なかった。
人の美醜というものは容貌だけでは決まらないものだと早々に知った。
なぜ怒ったり悲しんだりして泣き喚くのか理解できれば我慢のしようもあるが、理屈も何も通用しない。
最悪だ。豚と同じだ。
俺もこの街で交配するだけの家畜に成り下がってしまうのかと思うと、嫌でたまらなかった。

15歳の誕生日には、結婚させられてしまうことになっていた。
俺はその数日前に街を抜け出して、二度と帰ることはなかった。
人並み程度には体が丈夫だったから、働く分には何とかなった。
子供だからといって足下を見るやつには腹が立ったが、生きるためには仕方ないと思った。
しかしこれでは、あの街にいるのと大して変わらないではないか。
開放感は3ヶ月もすれば消え失せて、それからの1年は長かった。

当時のアルカディア最高幹部ノットー・リ・アースに拾われたのは、1938年の初春。
たとえ彼が最悪の裏切りをはたらいた人物であっても、フィーと巡り合わせてくれたことには感謝している。

俺はフィーのことが好きだ。
不快な暑苦しさをも一瞬で吹き飛ばすような、涼しげな眼光が俺の心を捉えて放さない。
細い指で黒い髪を掻き揚げる仕草がそそられる。
常に冷静な態度から発せられる、通りの良い声は、俺の胸の奥まで響いてくるのだ。

初めて会ったときから34年。互いに50に達し、皺も増えた。
それでも俺の思いは幾許も褪せることなく、よりいっそう強くフィーに恋焦がれている。
同期でアルカディアに入り、ライバルというにはあまりにも上の存在で、高嶺の花だった。

「出動だ、モース。忙しくなるぞ。」
フィーが俺を呼びに来た。
モース・リーガル。
俺の名前。
「話は聞いてる。“神酒”だって?」
「そうよ。既にハービスとヴェネシンを動かしている。今回は砕組総力戦になるかもしれない。」
「確かにな。」
“神酒”というのは服用すれば普通人でもエスパーになれる代物だ。使い方によっては大事になる。
今回の戦いは熾烈を極めるだろう。

この戦いが終わったら、高嶺の花を摘みに行くよ。


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
エスパー奇譚』長編小説 「千里」 NEKTAR 目録
□□□□□□□□□□ ...続きを見る
佐久間闇子と奇妙な世界
2016/05/06 00:00

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
火剣「ヒストリーを感じるな」
コング「許婚のことか」
火剣「ヒストリーだ」
コング「容貌は重要だが」
ゴリーレッド「女はハート」
火剣「フィーは一瞬にして心を揺り動かすほど美しかったのか」
コング「16歳は食べごろ」
ゴリーレッド「頭を叩き割られる覚悟はあるか」
コング「ない」
火剣「恋愛を口にしたら子供扱いで結婚は子孫を残すためか」
コング「♪おらそんな村ヤダー」
ゴリーレッド「確かに人は生い立ちにより人格形成されることは免れない」
火剣「スラム街で生まれ育った人間と温かい家庭で育った人間じゃ話が合わないだろう」
コング「15歳で街を抜け出し運命の人との出会い。選択は間違ってなかった。メス豚で妥協しちゃいけない」
ゴリーレッド「頭叩割」
コング「待て」
火剣「50になっても変わらない思いか。美しい」
コング「ハービス!」
ゴリーレッド「反応が速い」
コング「頑張れハービスの敵!」
ゴリーレッド「脳天チョップ!」
コング「NO!」
火剣「戦いが終わったら、高嶺の花を摘みに行く。モース・リーガルは詩人だな」
コング「リーガルはフィーを守るという意味か?」
ゴリーレッド「どんどん超豪華キャストが出てきそうだ」
コング「高嶺の花を詰みにする。ぐひひひ」

火剣獣三郎
2016/05/06 16:28
>火剣さん
時代は戦前、まだ日本が資本主義以前だった頃は、こうした地域もあったと聞きます。
それから30余年、ベテランとなった2人が動き出しています。そこにはハービスの名も・・。

佐久間「ヒステリーは良くないものだ。」
山田「惚れた女なら可愛いと思うが。」
八武「ミガロスのように、だだをこねる程度なら可愛い。」
山田「あの破壊活動を、だだをこねると表現するか?」
維澄「街から出たいと思っているモースと、そうでない許婚では、話が合わないだろうね。」
佐久間「男女逆で考えれば、すぐわかる。街から逃げたい女と、顔だけのDV男。」
山田「なるほど。」
神邪「男だからといって、大黒柱になる必要は無いですよね。手を出してもいないのに、責任があるとか言われたくないですし。」
佐久間「それを押し付けるのが、閉鎖的な社会。」
維澄「貧しい中で生きる為ではあったんだろうけど、そこに不満を持つ者が出てくるのも必然だね。」
八武「フィー・カタストロ。50になっても美しい。」
佐久間「フィデル・カストロも老いてなおイケメン。」
維澄「活動的だと若々しくなるからね。」
神邪「これから戦いが始まるのですか。」
佐久間「そう、まさにデスゲーム。」
山田「ダジャレか?」
佐久間「そう、まさに」
山田「繰り返さなくていい。」
八武「ハービス、ヴェネシンときたら、次は誰かな?」
アッキー
2016/05/06 22:16
貪るなと犯すなは美女を目の前にして果たして守れるかどうか?
またコメントができない。
コング
2016/05/07 14:44
>コングさん
すいません・・・最近ほんとに多いです。
多分これで直ったはずですが。
アッキー
2016/05/07 22:02

コメントする help

ニックネーム
本 文
「NEKTAR」 プロローグV 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる