佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「NEKTAR」 一、宣告

<<   作成日時 : 2016/05/08 00:00   >>

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1972年3月14日。
月組隊長クレア・クレッセントは自室に部下4名を呼び集めた。
「レックス、サム、ルナ、リュウ。よく来てくれた。」
白い指で腹を撫でさすりながら、クレアは安楽椅子に座っていた。
妊娠のせいで、長い黒髪も艶が落ちているが、その代わりに、ただでさえ大きな胸は更に膨らみを増している。
「さてと、奴らが電波ジャックを行うまでには時間がある。単刀直入に話そうか。」
「電波ジャックだあ?」
レックスが、ただでさえ鋭い目を、いっそう鋭くした。
「奴らの名は“アンティローグ”という。“神酒”を服用して、エスパー化した集団だ。」
「怪しい匂いがプンプンする名前だな。」
「ソーマ・・・聞いたことがありますね。」
サムが大きな体をソファーに沈めた。
ルナとリュウはテーブルに仲良く腰掛けて、レックスは壁によりかかった。

ここで、あらためて月組第一部隊のメンバーを紹介しておこう。

現在妊娠中の隊長は、クレア・クレッセント。
安楽椅子に腰掛けて、膨らんだ腹をさすったりしているが、その眼光に母性は感じられない。
現在32歳だが、見かけだけならば10代に見えるほどの童顔と肉体。
先述の通り胸は大きく、垂れることなく張りがあり、ツンとした形をしている。
妊娠中にしては肌は荒れておらず、瑞々しい輝きを保っている。
長く美しい黒髪も、艶が落ちている程度だ。
世界最高の千里眼であり、その出力は過去の歴史を紐解いてみても類する者がいない。
普段は出力をセーブしているが、それでもS級を遥かに上回る能力値である。

副官の大男は、サム・バロン。
色黒で逞しい肉体の中には、機知に長けた脳細胞がある。事務作業から戦闘までこなす。
フォーマルな服の上からでもハッキリわかる筋肉を誇り、空手と柔術を体得している。
脂の乗った34歳であり、控えめながら、いなくてはならない存在である。
何かと他の組との摩擦が多い月組が、まがりなりにも平穏にやってられるのは、彼の尽力だ。
能力は“調整”(コーディネイト)という、読んで字の如く他のエスパーの能力を安定されるもの。
地味で効果が見えにくいが、クレア、ルナ、リュウ、3名とも安定しない能力の為、月組では重宝している。

ルナとリュウは双子の姉弟であり、クレアの子供である。
1955年生まれの、まだ10代半ばの少年少女だ。クレアの見た目も10代なので、並ぶと母でなく姉に見える。
能力は2人とも空中浮遊や物質通過、肉体強化にテレポートと、様々に持っている。
ルナは満月のときに、リュウは新月のときに、それぞれ能力が最大になる。
弱まっているときは使えない能力も多いが、双子間とクレアの間でのテレパシーは常に使える。
丸顔で大きな瞳の明るい表情に、髪型はお団子にツインテールの少女がルナ。
顔は同じで、無口で銀髪の少年がリュウ。ルナと違って髪は短い。2人とも前髪を触角のように垂らしている。

最期にレックス。
21歳の青年で、10代の頃から変わらず目つきが悪い。それで誤解を受けることが多い。
着痩せするタイプで、ラフな服の下には引き締まった肉体が存在している。サムから習った空手は有段の腕前。
“増幅”(アンプリファイア)という能力の持ち主であり、通常のアンプリファイアとは性質が異なる。
多くのアンプリファイアはエスパーの出力をプラスするのに対して、彼の能力は2倍のマルチプライだ。
クレアの千里眼は、増幅可能な能力の中で最大出力を誇るので、レックスとはこの上なく相性が良い。

以上の5名が月組の第一部隊である。
この他に第二部隊が存在するが、それも5名と、わずか10名しかいない。

「そもそも“神酒”というのじゃ・・・うおえっ、えあっ!」
横の洗面器に胃液を吐いてから、クレアは仕切りなおして喋り始めた。
「そもそも・・・おええっ!」
またしても胃液と唾を吐いて、口を拭く。
「“神酒”というのは服用するとおうえええっ!」
更に吐く。悪阻が酷い。
「はーっ、はーっ、あ゛ーっ・・・」
「大丈夫かよ。」
レックスは少々うんざりしつつも、クレアを気遣った。
「クレアさん、水を。」
サムが水をコップに注ぎ、リュウが無言でクレアの背中をさする。
「あれー、わたしは何をすれば?」
ルナがちょっと困った顔をした。
「うーっぷ・・・ハァ、ハァ、まったく、普通は悪阻なんて妊娠5ヶ月もすれば消えるものなんだが、なのに私は未だに続いている。誰の陰謀だ?」
「ストレス多いのな、お前。」
「レックスが冷たいからだ。」
「オレのせいかよっ!?」
レックスの鋭い目が丸くなった。
「この程度のストレスなど、レックスとイチャついたらすぐ消える。」
「嫌だ。」
「おええっ!」
レックスが顔をしかめると、クレアは再び吐いた。
「ねーねー、ソーマの話は?」
「私も詳しく知ってるわけではないのですよ。クレアさんに説明してもらわないと。」
「・・・・・・。」
リュウも無言でクレアを睨む。
「はいはいわかってますとも。そもそも“神酒”というのはうおえええ!」
「またかよ!」
レックスは思わずクレアの頭を叩いた。
「ぶふもっ!」
クレアは鼻水と一緒に胃液を吹いた。
「うあっ、鼻の中が痛いっ! かゆいっ! 臭いっ!」
「うるさいっ!」
「あーん? 妊娠の苦しみも知らねえガキがうるあああ!」
クレアは汁を吹きながら、レックスにラリアットをぶちかました。
「ぶっ!?」
レックスがよろめき、サムが体を支えた。
「うっ痛っ! 腹、痛っ!」
クレアが額に汗を滲ませて、腹を抱える。
「「クレア!?」」
「クレアさん?」
「今の衝撃で陣痛が・・・」
「マジかよっ! 馬鹿じゃねえの!?」
レックスは血相を変えて、罵りながらもクレアを抱き上げた。
「・・・あ、収まった。」
「ああ・・」
レックスがホッとした瞬間。
「うあ痛たたたたたたたたたたたたたたたたたた!!」
「うわあああっ!?」
レックスが慌てて、ルナとリュウもオロオロしているうちに、サムが棚から台車を取り出してクレアを乗せた。
体が落ちないように両側で支えて、4人はクレアを素早く分娩室まで運んだ。
「はー、はー・・・」
「ふー・・・」
「はあ〜。」
「・・・・・・。」

息を整えてから4人は、部屋に戻った。
「あれ?」
ルナがメモを発見。
クレアの字だ。
『こうなることは予知していた。私は放っておいてテレビを観ろ。』
レックスは頭を抱えた。
「わかってたんならラリアット自重しろよ妊婦・・・。」
「まあまあ。とりあえず言われた通りテレビを・・」
サムがリモコンに手を伸ばした、そのときだった。
「うおえええ・・・」
「!?」
「あ!?」
「え!?」
再び聞こえてきた嗚咽。
今度はルナが口を押さえて、ぺたんと蹲(うずくま)っていた。
「ルナ!」
リュウがルナの体を抱えて部屋を飛び出していった。
後にはレックスとサム、2人の男だけが残された。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・今のって・・・?」
レックスは出口の方を指差して、サムに訊く。
「まあ・・・そういうことなんだろう。」
「ああ、そう・・。」
「・・・・・・。」
少しばかり気まずい沈黙が流れる。
はっきりと言いたくない雰囲気だ。
「・・・オレ、思うんだけど、クレアもルナも、リュウがテレポートで運べば良かったんじゃないかな。」
「いや・・・それだと中の子供に負担がかかるのだと思う・・。リュウのテレポートは不安定だしな。」
「そうすね・・・。」
どうでもいいことを語りながら、2人は複雑な思いで腕を組んだ。
「・・・テレビを観よう。」
「そうだった。」
気を取り直してテレビを点けると、何の変哲も無いニュース番組をやっていた。
「チャンネルは何番だ?」
「はてな。メモには書いてないが。」
するとその時、ニュースキャスターが横へ吹き飛んだ。
「「!!?」」
代わりに瞬間的に出現したのは、10人の奇妙な連中。

手足のヒョロ長い、痩せこけた男。
オーダーメイドらしきスーツを着た弁護士。
悪戯っぽい表情の少年。
下半身を丸出しの男。
同じ顔で、両手に血まみれのナイフを持つ男。
後ろ向きで、両手の指を頭に当てている30過ぎの男。
空中で寝転んでいる中年男。
仮面を被った、おそらく男と思われる人物。
露出の多い、フリルだらけの衣装を着た、アイドル歌手。
そして中心にいるのは、白い法衣を身につけた、若々しい男だった。

この何の脈絡も無さそうな10人の登場に、レックスもサムも面食らった。
そのうち、白い法衣の男が喋り始めた。
《突然に参上する無礼をお詫び申し上げたい!》
若々しい、張りのある声だ。
《我らは“アンティローグ”・・・シナイの神兵! これより世界の覇権を握ることにする。まずはこの地、国連本部ニューヨークを接収する。くれぐれも逆らおうなどとは思わないことだ。我らには火も水も効かぬ。軍隊も戦車も戦闘機も、我らの前では人形と玩具に過ぎぬ。抵抗する者は一切の容赦なく殺す。その証拠を見せよう・・・。》
カメラが向きを変える。
スタジオの中央に、苦しそうな顔をした人々が集められている。
不自然に体が捻じ曲がり、そのまま微動だにしていない。
「やめろ、何する気だ!」
レックスが叫ぶが、相手はテレビ画面の向こう側だ。
《今から起こることは特撮でもなければ手品でもない。刮目せよ!》
集められた人々の体が更によじれ、メキメキと音を立てて千切れ、鮮血を飛び散らせた。
《見たかね諸君、これが我らに逆らう愚か者の末路だ。しかし安心するがいい、我らに従い我らに尽くす者には、秘伝の妙薬を与えよう。これを飲めば我々と同じ力が手に入る。こぞって忠誠の証を見せてくれたまえ!》
そこで映像は途切れ、テレビの画面はザァーという音と共に白黒の砂漠となった。


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エスパー奇譚』長編小説 「千里」 NEKTAR 目録
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
コング「1972年3月14日。ホワイトデーか」
火剣「この年はまだバレンタインデーだけじゃないのか」
ゴリーレッド「電波ジャック?」
コング「セーブしても凄い世界最高の千里眼。ちなみに山田太郎のラリアットもセーブしよう」
火剣「相手は普通の人間じゃないから大丈夫だ」
ゴリーレッド「サム・バロン。事務と戦闘の両方が得意。これこそ理想」
コング「深夜放送で屈強な男を見ると犯されたくなると言っていたM女優がいたな」
火剣「満月の時?」
コング「僕は毎日が満月」
ゴリーレッド「レックス21歳。若い」
コング「火剣も誤解を招いて50年」
火剣「うるせえ」
ゴリーレッド「悪阻に苦しむ姿はエスパーは万能ではないと思うが、それともわざとか」
火剣「予知能力でメモを置いていったか」
コング「ということはラリアットは愛情表現。まさか山田太郎のラリアットも?」
ゴリーレッド「違うと思う」
火剣「10人のエスパーか。人は恐怖で支配された時、どういう行動に出るか。命のために従うか。邪悪な敵に従うなら死を選ぶか」
コング「死を覚悟した者に処刑は怖くない。殺さない苦悶の拷問こそ従わせる近道だ(美女・美少女に限る)」
ゴリーレッド「悪党の発想だな」
火剣「悪党は男も拷問する」
ゴリーレッド「この10人は強敵。恐るべき酒だ」


火剣獣三郎
2016/05/08 12:01
>火剣さん
いよいよ始まりました。相手も予知能力を持っているので、早めに対応しても変化させてくるので、ここまで準備期間。

佐久間「やはり山田のラリアットは愛情表現だったか。」
山田「どこまでポジティブなんだ。」
維澄「この頃のレックスは、まだ青さが多いね。」
八武「人が成熟するには30年はかかる。肉体は別だが。」
山田「おい。」
佐久間「成熟した社会ほど、肉体と精神の乖離が大きくなるという話はあるな。そう考えると、アルカディアが消極的になる理由も、わかる気がする。」
神邪「世界を進歩させてしまうと、矛盾軋轢も酷くなるということですか? やるせないです。」
佐久間「まあ、理由の1つでしかないが。」
八武「美女が悪阻で苦しむ姿は、これまた乙なもの。」
神邪「レベルが違う!?」
山田「違うのは世界だ。」
神邪「まだ僕は師匠に追いつけない・・・!」
山田「追いつく必要がない。それよりも、これは本当に殺されてるのか。」
佐久間「何を楽観的な。」
神邪「逆らったから殺したんでしょうか。逆らってもいないのに、見せしめに殺されたという可能性は・・」
維澄「あるかもしれない。」
八武「アイドル歌手は助けよう。」
山田「お前は何を言ってるんだ。」
アッキー
2016/05/08 18:43

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