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zoom RSS 「NEKTAR」 二、神殿

<<   作成日時 : 2016/05/09 00:00   >>

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「何て奴らだ!」
レックスは震えながらテレビを叩いた。
サムも歯を強く噛んで黙っている。
先程の殺人劇は、まやかしなどではなく、あの10人のエスパー・・・“アンティローグ”という連中の仕業。
クレアに呼び出されたのでなければ、スプラッター映画か何かと思ったかもしれない。
当然の如く、超能力の存在を知らない人々は冗談だと思っていた。
日頃からエスパーの存在を主張している連中ですら「あれは偽者」「トリックですよ」と言う始末。
しかしそれは、混乱を防ぐ意味では良かった。アルカディアのメンバーの活躍もあって、パニックは防がれた。
報組による情報操作、20万人にも及ぶ末端の人々が行う、“噂”による情報操作。

「だが、これで終わるはずもなかろうよ。」
出産を終えて数日、クレアはレックスとサムを自室に呼んだ。
「真ん中の男が言ってただろう。秘伝の妙薬を飲めば同じ力が手に入るとな。あれが“神酒”だ。報道では規制されているが、既に大勢の人間が、自分も“選ばれし者”になりたいと思ってニューヨークを目指している。」
そう言いながらクレアは、プロジェクターを起動させた。
スクリーンに白い神殿が映し出される。ギリシャのパルテノン神殿にも似た装いの建築物。
そこに大勢の人々が押し寄せている。
《クリエ様ー!》
《お力をー!》
《わたしにくださいー!》
《わたしにー!》
《おれにー!》
《クリエ様ー!》
集まった人々は目をギラギラさせて、白い法衣の男を呼んでいる。
「こいつが“アンティローグ”のトップだ。クリエ・ソゥルと名乗っている。」
「クリエ・ソゥル・・・。」
レックスは怒りの籠もった目でスクリーンに映るクリエを睨んだ。
「あの10人は“神酒”の力で全員がA級エスパーだが、その中でもクリエは抜群のようだ。妨害念波が飛んでいるせいで、私の能力が鈍い。おかげで、遠隔透視した映像をスクリーンに映すくらいしか出来ない。」
クレアの頭には、機械が取り付けられていた。これで脳内の映像をスクリーンに映している。
「私の制限も緩くなっているが、“神酒”ってのは厄介な代物でね。服用すると少なくとも、5つの基礎能力・・・つまり、サイコキネシス、テレポート、テレパシー、クレアボヤンス、そして予知能力が身につく。」
「つまり、あの10人は全員がA級の予知能力者ってことかよ?」
「その通り。だから私も、この先どうなるか、細かいところは読みにくい。」
予知能力者同士が干渉し合うと、それだけ未来の変動が大きくなる。
行動で未来を変えること自体を予知することになり、それの繰り返しで幾何級数的にパターンが増えるのだ。
「ただでさえ予知能力はデリケートなんだ。私の能力はBC級の寄せ集めを連結させたようなもので、おおよそのことは把握できても、細かい部分なるほど、カテゴリーを絞り込んだサーチが必要になってくる。だからね、この戦いの結末は知ってるが、誰が死んで、誰が生き残って、どれだけの死者が出るかは、わからんのだよ。」
「それに、お前は病み上がりだしな。」
「おや、気遣ってくれるのかい。嬉しいね。」
妊娠は正確には病気ではないが、下手な病気よりは遥かに苦痛だ。
出産から数日、クレアの顔色はまだ少し青白い。
「それでクレアさん。私たちはどうすればよろしいですか。」
「交代で私の身辺警護をしてもらう。奴ら、これだけ堂々と宣戦布告してきたからには、私の命も狙っているはずだ。まさかA級エスパーが、あれだけ雁首そろえて、アルカディアを知らぬわけもない。仮面の男とかな。」
「仮面の男?」
「私が死ねば、予知アドバンテージを奴らに渡すことになる。それだけは阻止しろ。それに独りで情報処理とかしてると気が滅入る。話し相手になってくれ。」
クレアにとって重要なのは後者、アドバンテージよりも気分の問題なのだろうとレックスは思った。
現在のアルカディアにおいて大規模な予知能力戦が可能なのは、月組隊長クレア・クレッセントと、副隊長アレクセイ・フョードロヴィチのみである。アリョーシャ(アレクセイ)の管轄はユーラシアの為、クレアは独りで今回の戦いの情報処理を行わなければならない。戦局を、ひとつ次元の違う視点から見つめなければならない。
「あとそれと・・・時々はルナとリュウの様子も見に行ってやってくれ。」
クレアは温かい目で微笑んだ。


- - - - - -


3月下旬。
“アンティローグ”神殿には、相変わらず大勢の人が詰めかけていた。
熱狂は狂気へと転じ、押し合いへし合い、あからさまな暴力によって、死者重傷者も少なくない。
それらを更なる触媒として、いっそう熱は盛り上がる。あちこちで乱交や強姦が相次いだ。
神殿は“聖なる”邪淫の宴会場となった。人々の中から最も“奉仕”した7人が“巫女”として神殿に迎えられた。
中枢の10人は神殿を拠点にしながら各地へ出動し、“布教活動”に勤しんだ。
警察も軍隊も、まるで歯が立たなかった。彼らが弱いわけではない。相手が強いのだ。
A級の予知能力とテレパシーを備えた相手に、奇襲など不可能。サイコキネシスは戦闘機を容易く砕く。
神殿はB級トップクラスの“巫女”たちが常在している。中枢10人はテレポートも出来る。
軍隊の辿った末路は、人間を使った、肉の工作。生きたまま連結され、苦しみの中で息絶えていった。
3月14日にクリエが宣言した通りの事態になった。

「無駄なことを。そもそも神殿には何重にもバリアーが張ってあるんだから。」
米軍・国連軍の無謀な敗北を見て、クレアは溜息をついていた。
アルカディアから通達を送ったにもかかわらず、警察や軍隊を投入する首脳連中には、呆れるばかりだ。
「少々不意を突こうが、バリアーがある限りは、どうにもならない。それも忠告したんだがな。」
「催涙弾も麻酔ガスも効果ナシ。毒ガスも効かねえだろうな。“アンティローグ”の信者は増える一方だ。ああチキショー! オレも戦いてえよ! ここにいると、自分だけ楽してる気分になるんだ・・・! どれだけ怒ったところで、画面を隔てた怒りに過ぎねえんだ。」
「仕方なかろう、レックス。お前は周囲のエスパーの出力を問答無用で2倍にする。アンティローグに捕らわれたら、とんでもないことになる。」
「くそおっ!」
「これから前線へ向かう連中は命がけで戦うのに、自分だけは・・・という気持ちはわかるさ。私だって同じこと。命を狙われてるといっても、その危険性は比べるべくもない。」
「クレアはたった1人で戦況を見てんだろ。」
「そりゃそうさ。A級の予知能力者集団を相手に、戦略を立てられる奴が、私の他にいるか?」
「そういう意味じゃねーよ。しんどいことやってるかどうかって話だ。オレは・・」
「楽か?」
「楽だよ!」
「さっきから苛立ってるように見えるけどな。」
「んなもんは詭弁だ・・。」
「命の危険があるほど偉いわけでもあるまい。私のストレスを和らげて、情報処理をスムーズにするという重要な役目だ。話しててストレスを溜めない相手は少ないし、減らしてくれるのは今やレックスだけなんだ。」
「お世辞言っても何も出ねーぞ。」

「えー、私はー?」
突然現れたのは、白い肌襦袢を着た女。
後ろからクレアに抱きつき、胸が肩に押し付けられた。
「!?」
レックスは身構えた。暗殺者かと思ったのだ。
「はーい、レックス君。初めましてー。私はアルカディアの首領でーす。」
「・・・え、マジ?」
「あまり信じたくないが、残念ながら本当のことだ。」
「あーん、クレアちゃんのいけずー。イヂワルしないでよー。」
首領は目を潤ませてクレアを強く抱き締めた。
「ああ、暑苦しい。まだ3月なのにな。」
「そんなこと言っちゃやだよう。」
「ああ、首が絞まる。このまま絞め殺されるのか。」
「うえーん。」
首領は泣き真似をしながらクレアから離れ、服の乱れを直してレックスの前に移動した。
「わっ!?」
今までクレアの後ろにいたのが、何の前触れもなく目の前に出現したので、レックスは思わず後ずさった。
「んじゃ、あらためて自己紹介。私はアルカディア首領、ジュエル・パレ・グルでっす。よろぴくねー。」
言葉遣いの軽さとは裏腹に、滲み出る雰囲気は圧倒的で神々しい。美しいけれど、この世のものじゃない。
(何だろう、この感覚は。)
端的に言うならば、“強制的に癒される”。
今まで自分が味わったことのない感覚だと、確信を持てる。
アルカディア10万のエスパーの頂点、“女神”(ゴッデス)と呼ばれる神化系能力者、ミセス・ジュエル。
怪物ですら、彼女の前では可愛らしいペットに見えてしまう。
「はっ!」
気が付くとジュエルの姿は消えていた。
「何あれ・・・?」
驚愕が疑問の形で口から出てきた。
「この戦いの結末は知っているという意味がわかっただろう。あれは予知ではあるが、確信でもある。」
「あれは本当に人間なのか・・・?」
「相変わらず人を見る目は鋭いな。エスパーは人間の常識を超えた存在だが、奴はエスパーの常識すら超えている。同じ神化系能力者でも、私と奴とでは格が違う。」
クレアの顔つきは真剣だった。
「ふーむ。しかしクレアと親子みたいだったな。」
「どこが!?」
クレアは見たこともないほど不満な顔をした。
「何でいきなり機嫌悪くなるんだよ。性格は似てねーけど、顔とかそっくりじゃん。」
するとクレアの表情は、一転して明るくなる。
「それ本当?」
「何で今度は機嫌よく・・・。わっかんねーな、お前ってやつは。」
「首領は見る人が最も美しいと思う姿に見えるんだ。」
「・・・オレは顔だけで惚れない。」
レックスはムスッとした顔で、ソファーに座り込んだが、対照的にクレアは晴れ晴れと上機嫌だ。
「いやあ、いい気分だなあ。ストレスが消えていく。24時間は戦えそうだ。」


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エスパー奇譚』長編小説 「千里」 NEKTAR 目録
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
火剣「皆が本物の事件と思ったら世界的に大パニックになる」
ゴリーレッド「パニックは避けて正解だ。死ぬと思ったら死ぬ前に好き勝手なことをやろうとする人間も出てくる」
コング「たとえば好きな子を犯しちゃうとか」
火剣「でも情けないが神酒を求めて無数の者が押し寄せて来たか」
コング「警察は攻撃が無駄ならばどさくさ紛れに強姦する輩から女子を守るべきだ」
火剣「雨が降る・・・あ、もう降ってる」
ゴリーレッド「クリエ・ソゥル。最強の敵かもしれない」
火剣「妨害念波なんか出せるとは」
コング「クレアの身辺警護か。バスルームまで見張ることが重要だ。相手はテレポートもできる」
火剣「クレアが全裸のまま攫われたら大変だ」
コング「拷問される」
ゴリーレッド「その笑顔を蹴ろうか」
火剣「話し相手がイライラしてたら役目を果たせてない。若いなレックス21歳」
コング「巫女と聞くと陵辱したくなるのはなぜだろう」
ゴリーレッド「少数派だ」
火剣「犯してはいけない存在ほど燃えるからだ」
コング「ジュエルは見る人が最も美しいと思う姿に見える? それって最強」
火剣「ジュエル登場で間接的に24時間戦えるクレア」
コング「強制的にイカされるか」
ゴリーレッド「癒されるだ」
コング「おんなじことじゃろが」
ゴリーレッド「違う」

火剣獣三郎
2016/05/09 16:45
>火剣さん
エスパーの存在が社会的に認知されてない頃ですが、たとえ認知されていたとしても、おおっぴらになればパニックになるテロリズム。
クレアとしては、日頃の業務に加えて戦闘指揮まで執らなければならないので大変です。しかも妨害念波の中。

八武「大変なことになってきたね。」
佐久間「驚くのはまだ早いよ。」
山田「警察には市民を守ってもらいたいな。」
佐久間「その警察が率先して強姦するという。」
山田「そんな警官ばかりではないが。」
佐久間「ある警官の言葉。警官になった理由は、テロが起きたとき拳銃を持ってると強権を振りかざせるから。」
山田「不安を煽るな!」
神邪「相手はアルカディア本部にもテレポートしてこれるのですか?」
佐久間「強引には無理なんだが、方法はある。」
維澄「まあ、アルカディアのメンバーは行き来できているわけだから、首領の結界を過信するわけにはいかないね。」
佐久間「それに、位置を交換できるテレポーターの存在を忘れたか?」
八武「つまり、クレアが24時間以内にピンチを迎える。」
山田「いつもの妄想か。」
八武「違う、予言。」
佐久間「未来のレックスは慇懃無礼でからかう余裕もあるが、この頃のレックスは未熟だな。それが可愛くもあるが。」
神邪「それで癒されるわけですね、わかります。」
佐久間「山田の暴力も、照れ隠しと思えば可愛いものだ。」
八武「そんなDV被害に遭ってる妻みたいな・・。」
佐久間「それで合ってる。」
山田「違うから。」
アッキー
2016/05/09 21:17

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