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zoom RSS 「NEKTAR」 六、暗鬼

<<   作成日時 : 2016/05/16 00:00   >>

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副隊長コムザインの招集により、砕組の正規メンバー173名全てが一箇所に集められた。
1つの分隊に8名、それが25分隊。全滅した二十、二十二、二十四分隊と、3名を失った第四分隊を計算に入れて、200−27で173名。B1〜C1までの念力使いが集まっている。
(こうして集めてみると・・・)
40代前半の若き副隊長コムザインは、表情を暗くしていた。
(・・・こちらの不利がはっきりとわかる。)
4月1日。“アンティローグ”の中枢10人は9人に減っていたが、B級は1000人近くに増えていた。
(A級10人よりB級1000人の方が厄介だ。俺とフィー姉でA級10人は片付けられるが、こいつらでB級1000人は無理だ。)
173名の内訳は、B1級かそれと同等の者が10名、B2級が39名、B3級が103名、C1級が21名。
それに対して“アンティローグ”のB級メンバーはB1級が約100名、B2級が約300名、B3級が約600名。
訓練度や連携を考えても、明らかに不利である。しかもB級上位陣は急速に訓練度を高めているという。
(四月馬鹿とでも思いたいぜ。)
それでもコムザインは部下の前で弱音を吐かない。
ここで彼が弱気になっていては、全体の士気が大幅に落ちる。
いつも通りの、よく響く重低音で点呼を取った。

「アルフレッド・フーエ第一分隊!」
「応!」
「ラプソディア・カッセル第二分隊!」
「はい!」
「アージェ・ケールズン第三分隊!」
「は!」
「ハービス・カチュラム第四分隊!」
「ここに。」
「リリーベル・ドラギノ第五分隊!」
「あい!」
「ラドル・スネイク第六分隊!」
「おうよ!」
「マック・ニコルソン第七分隊!」
「はっ!」
「アトラト・ウグヌス第八分隊!」
「はい。」
「クリス・オープン第九分隊!」
「はいっ。」
「ウロイ・ディムニス第十分隊!」
「はい。」
「リッチモンド・スカイハイ第十一分隊!」
「はァい!」
「ヴェネシン・ホーネット第十二分隊!」
「はい・・・。」
陰気で焦点のろくに定まっていない目で返事するヴェネシン。
ハービスとリックは一瞬だけ目を遣った。
コムザインや他の者は気にかける様子もなく、点呼は続いた。
「トトル・スピツ第十三分隊!」
「やっ!」
「セト・シズミ第十四分隊!」
「ハー!」
「デイビス・マチャルゴ第十五分隊!」
「ハッ!」
「キム・ヨーカム第十六分隊!」
「ハイ!」
「シュスタス・ネトン第十七分隊!」
「はい。」
「カーム・シュミット第十八分隊!」
「はい!!」
「ユガク・シテアム第十九分隊!」
「や。」
「マイヤ・ルフ第二十分隊!」
2秒沈黙。
「ピドモ・センキ第二十一分隊!」
「はい!」
「ロティエル・カムデン第二十二分隊!」
2秒沈黙。
「ハーペル・ジャレンデル第二十三分隊!」
「はーい!」
「バーシュ・コールフィルド第二十四分隊!」
2秒沈黙。
「ルルファル・アシ第二十五分隊!」
「ははっ!」
「・・かつてない厳しい戦いになるだろう。既に死者も出ており、これからも死者は出る。だがそれはいつものことだ。平生から弛んだ気分で任務に当たっている者など、この中にはおるまい。お前らは命を懸ける覚悟で砕組に入ったはずだ。それすなわち死を覚悟するということ。たとえ敵が何者でも怯むな! 害する者を打ち砕け! 肉片まで武器と考え、死するともコンマ何秒でも抵抗し時間を稼げ! アルカディアの勝利を人民の安寧が為に!」

いかにも軍人めいたコムザインの演説が終わり、各分隊は指示を待つ状態となった。
早くもアルフレッド第一分隊、ラプソディア第二分隊、アージェ第三分隊、ラドル第六分隊、アトラト第八分隊が出撃していく。
残る分隊は本部で待機していたが、そこで穏やかでない動きがあった。
「ヴェネシン・ホーネット準星。」
リックがただならぬ様相で近付いた。
「何だ・・・。」
コムザイン指揮下、ヴェネシンは一時的に元の第十二分隊長に戻っているが、リックは遭えて“準星”と呼んだ。
「理由は知ってんじゃないスか。」
「・・お前は確か第四分隊のリック・ビッグマンだったな。分隊長ハービスならともかく、その副官ふぜいが、わたしにそんな口を利くのか。」
相変わらず目は虚ろだが、口調から静かな怒気が伝わってくる。
リックは怯みそうになったが、何とか持ちこたえた。
「確かに、おれは分隊長の副官。そしてあんたは“準星”だ。普通ならこんな口を利けるものじゃないだろうけどよ。」
「やめろリック!」
息を切らしてハービスが現れた。
「分隊長・・!」
「下がってろリック。ヴェネシンとは私が話をつける。」
ハービスは子供を庇うように、リックを右手で制した。
「その様子だと・・・お前も私に何か含むところがあるのか、ハービス。」
「この2年間、何を調べていた?」
「それがどうした・・。今は関係ないことだろう・・。」
「本当にそうかな?」
「・・・言いたいことがあるなら、さっさと言ったらどうなんだ・・・うっとうしい・・・。」
「ここで言ってもいいのか?」
ハービスは怒り、ヴェネシンは煩わしい目で睨み合った。
周囲の面々はこれを見て、様々にどよめき立った。
リックならともかく、ハービスともあろう者が、わざわざ不協和音を放つようなことは考えられない。
少なくとも彼らの常識では、ハービスは分隊長の中で最もと言っていいほど不和を嫌う。
(まさかヴェネシン準星が?)
(いや、ハービス分隊長の方が敵と通じて?)
(何でも敵側の訓練度が急激に上がってるとか。)
(どっかの隊の戦術そっくりって。)
(ヴェネシン隊か?)
(ハービス隊かもよ。)
砕組のメンバーは、全員が対ESP訓練を受けている。生半可なテレパスでは心を覗くことは出来ない。
ヴェネシンやハービスともなれば猶更である。
(どちらが裏切りを?)
(裏切り?)
(裏切り!)
疑念の火は大火となり、すぐさま砕組全体に広がった。
サイコキネシスは人間の体など軽く砕く。肉が裂け、骨が砕ける音がした。
それはコムザインが事態を察知して駆けつけるまでの10秒ほどのことだったが、既に重傷者が出ていた。

「何をしとるか!」

現れたコムザインは、鬼の如き形相で一喝した。
ぴりりと引き締まった空気と共に、場は静まり返った。
「アルカディアの精鋭が揃いも揃って何たるザマだ!」
今まで暴れていた者たちも、頭に水を浴びせられたように大人しくなった。
「まったくだな。」
コムザインの後ろからクレアが出てきた。
「まあ、それがパージャ・フォールスの作戦であり能力なのだから仕方あるまい。ある程度はな。」
既に話をつけてるのだろう、クレアとコムザインは協力して説明と叱責を行う。
「“偽証”のパージャ・フォールスは、固有の能力を持っている。超能力の中でも数が少なく強力な、催眠能力だ。それも、自分の言ったことを信じさせるだけでなく、信じた人間の言葉にまで催眠効果を持たせる・・・言わば“感染催眠”(パンデミックヒュプノシス)。リックはともかく、ハービスまで疑心に囚われたのは、そういうことだ。」
「だが我ら砕組は対ESP訓練を積んできたはずだ! あの程度の催眠に引っかかって結束を乱すとは何事か! しゃんとしろ馬鹿ども!」
「・・・馬鹿かどうかは別にしても、敵がヴェネシン隊の戦術をコピーしていたことで、ヴェネシンの裏切りを確信してしまったことが失敗だ。3月の段階でヴェネシン隊とハービス隊を様子見として繰り出していただろう。敵はテレパシーやクレアボヤンスの能力者がゴロゴロしてるんだ。それらしく見せる程度なら、戦術のコピーなど容易いさ。」
「いいか、“アンティローグ”は非人道的なことを平気で行う! こちらを騙す為なら仲間でも殺せるのだ! 奴らの言葉を信じるな! 味方を疑うな! わかったか!」
「「「はっ!!」」」
圧倒された一同は、あらためて気を引き締めた。

ハービスが気が付いたときには、リックは姿を消していた。
「!」
(あの馬鹿!)
ハービスは急いで第四分隊のメンバーを集めてリックを追った。
コムザインの許可が無くても、それくらいは出来る権限がある。
(行き先はわかっている!)


ハービスの想像通り、リックはジェフリー・コンダクターこと“偽証”のパージャが構えている事務所まで来ていた。
「やあ、リック君。」
パージャは小馬鹿にした目で現れた。
「よくも騙しやがったな!」
「根本的なことを勘違いしているね、リック君。」
「てめえの話はもう聞かねえ!」
リックは念力の鋏でパージャに切りかかった。
「なるほど。」
パージャはサイコキネシスで苦も無く受け止めた。悲しいまでの力の差がある。
「これが“大鋏”と呼ばれるリック・ビッグマンの実力ですか。出力はともかく、技量はなかなか。念力の鋏で相手をちょん切ってしまう・・なかなかですね。」
「舐めやがって!」
「まさか。」
パージャは小さく笑って、リックの念力を粉々にした。
「くっ・・!」
「正義は我にありとでも言わんばかりの頑張りようですが、正直言って理解しがたい。騙される方が悪いのです。聖人相手にでも戦ってるつもりですかあ?」
「くそっ! 地獄に落ちやがれ包茎チンポ野郎!」
「何という低脳な物言い。もう死になさい。」
パージャのサイコキネシスがリックを襲う、その瞬間。
「喝っ!!」
「!」
「・・・間に合った。」
スコップを持って夜果里が膝をついていた。
攻撃の瞬間に、そこへ滑り込んでいたのだ。
「馬鹿な・・・ペックが始末したはず・・・。」
「そちらの情報網も大したことはないな。やはり素人の域は出ず、かね。」
夜果里は所々に包帯を巻いている痛々しい姿だった。
「私やディバウアならともかく、5位のペックに貴様程度が勝てるはずが・・・!」
「その通りさね。」
夜果里は説明せずにスコップを構える。
「墓堀り人・・・参る!」
「ちっ!」
パージャはテレポートで逃げ去った。
(逃げられるとでも思っているのかよ。)
夜果里は憐れんで笑い、座り込んだ。

パージャが逃げた先には、フィー・カタストロが待ち構えていた。
「げえっ!?」
その言葉を最期に、パージャの頭はぐしゃりと変形し、二度と元には戻らなかった。

―――ここからが反撃だ。

戦場でカタストロが、本部でクレアとコムザインが、同時に言い放った。


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エスパー奇譚』長編小説 「千里」 NEKTAR 目録
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
火剣「ついに登場、名優コムザイン」
ゴリーレッド「凄い迫力と存在感だ」
火剣「アンティローグのほうが有利?」
ゴリーレッド「B級1000人? そんなにいるのか」
火剣「士気は大事だな」
コング「♪なーつを愛するひーとーはー、水着もあーいーすー」
ゴリーレッド「士気が下がる」
火剣「懐かしい名前が呼ばれている」
コング「ラプソティ・カッセル。ハービス・カチュラム。ここに」
ゴリーレッド「ラドル」
コング「ウローイは返事は普通にはいか。うろーいじゃないのか」
火剣「ウロイも二面性を持っている」
ゴリーレッド「2秒の沈黙。辛い」
コング「マイヤは生け捕りにするべきだった」
火剣「感染催眠。そんな能力だったのか。やはり仲間割れ作戦か。軍にとって不和は命取り。内側から崩れるからな」
コング「夜果里がリックを助けた。リックが反省しないことを祈ろう」
火剣「秒殺? フィー姉とコムザインで10人片づけるという意味がわかる」
ゴリーレッド「なるほどコピーか」
コング「コピーなんかしなくても巫女の一糸まとわぬフォーメーションのほうが敵を惑わすと思うが」
ゴリーレッド「一糸乱れぬでいい」
火剣「10人全部倒したら1000人の士気はバラバラにならないか」
ゴリーレッド「クレアとコムザインとフィーの読みは正しいはず」
コング「団結を乱したハービスには乱れた罰ゲームを」
ゴリーレッド「独り言か遺言か?」
コング「独り言です」




火剣獣三郎
2016/05/16 22:43
>火剣さん
恐るべき催眠能力でしたが、コムザインが出てきて瞬く間に収拾へ向かいました。このカリスマ性が、砕組副隊長の一番手である所以ですね。
そしてカタストロは卓越した戦闘能力。十戒でも下のクラスは瞬殺してしまいました。むしろ大勢いるB級の方が厄介だったりします。

佐久間「被害ということを考えると、当然ながらB級千人の方が大きい。」
山田「なるほどな。派手なのはA級だが、地味な方こそ重要か。」
八武「おしなべて戦いとはそういうものなのだねぃ。」
維澄「しかしついに砕組が揃ったね。」
八武「ハービスには何らかの罰が?」
山田「それはリックに。」
佐久間「いや、ハービスの責任問題でもある。リックを副官に推薦したのもハービスなんだし。」
神邪「A級を殲滅するのも簡単ではないですね。戦えばカタストロさんの方が強いとしても、予知とテレポートで逃げ回られたら厄介です。」
山田「そうなんだよな。今回みたいに不意打ちで斃すしかない。クレアの存在は凄く重要だ。」
八武「クレアが落ちたら指揮はバラバラ。」
山田「不吉なことを言うな。」
佐久間「不意打ちを成功させる為にも、市民の犠牲を減らす為にも、なるべく多くを動かす必要がある。砕組の犠牲は出るが。」
神邪「スカーレットは動かせないんですか?」
佐久間「情緒不安定だからなー。」
アッキー
2016/05/16 23:30

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