佐久間闇子と奇妙な世界

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<<   作成日時 : 2016/05/24 00:00   >>

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1939年のアルカディア。
“神酒”研究班の直面している課題は、いかにして副作用を抑えるかということであった。
会議室に男の声が響いている。
『・・・多くのエスパーは、肉体や精神の構造が常人と異なっています。生物である以上は自分の力で自分を傷つけないようにする工夫が成されていますが、エスパーも例外ではありません。念力使いやテレポーターなどのPK能力者は、激しい動きや空間移動に耐えられるだけの筋力や内臓の強さを備えていますし、テレパスや透視能力者、予知能力者などのESP系は情報の多さや複雑さに耐えうる精神になっています。共通してニューロンが多いことは今更言うまでもありません。』
そこで三日月万里子が差し止めた。
『ノットー、超能力の講釈はもういいわ。要するに、超能力を持たない普通人が“神酒”を服用すれば、肉体や精神に異常を来たすということだろう。』
『それだけではありません。エスパーであっても“神酒”による能力増幅は危険なのです。B級はA級の出力に耐えられません。生物学で例を挙げると』
『わかった、わかりました。無闇に人体実験しようなんて言って悪うござんした。』
万里子は苛立った声でノットーを遮った。
『それで、本題に、入らないか。』
班長のシュシュ・オーディナークが言った。
『そうですね。結論から言いますと、精密なサイコキネシスの補助があれば、副作用を最小限に抑えることが出来ます。』
その言葉に目を輝かせない者はいなかった。人手不足のアルカディアだ、強力なエスパーはもっと欲しい。
研究班の7名は、大なり小なり“神酒”の魅力に取り憑かれていた。
最も目を輝かせているのは万里子だが、他の6名も大きく目を見開いている。
ノットーは話を続ける。
『“神酒”の本体ことダンツォルティの生存してた頃は、手当たり次第に人体実験を行い、死者も多数出ました。100人に服用させて、1人でもエスパーになれば他は死んでもいいという時代だったのです。しかし今は、1人の死者も出してはなりません。取り返しのつかないことにならない、確実な方法を取るべきです。わかりましたか万里子さん。』
『しつこいな。悪かったと言っとるだろうが。』
『被験者は、肉体・精神ともに念入りに吟味した者であること、弱みに付け込まないように了承を得ること、リスクをつまびらかに話すこと・・・』
『わかってる。それで誰にする。候補を5名くらい絞ろうじゃないか。』
万里子は懐から紙束を取り出した。
『とりあえず500人ほどリストアップしてきたんだが。』
それに続いて残りの6名も次々と紙束を出して机に置いた。
その総数2600枚。重複を除いて2138名のリストが揃えられた。
『まずは、振るい落としに、かかろう。各自で、1から5の、点を記し、25点を、合格点としよう。不公平の、無いように、1と5は全体の10パーセント、2と4は全体の20パーセント、3は全体の40パーセントとする。許される誤差は、全体の1パーセントまでとする。』

シュシュの出した条件によって、候補は608人まで絞られた。
その作業は確認や集計も含めて50時間ほどかかった。
『ふい〜、終わったあね。』
京狐夜果里が机に突っ伏した。
『くたくただ。』
フィー・カタストロも椅子にもたれて天井を見上げている。
『2人とも、まだ第一段階が終わったばかりよ。』
先輩のアーク・タロニスが、フィーと夜果里の肩を叩いた。
『ああ・・・。』
『そうだったね。』
この608名に面接をする。まだ実験内容には触れない。1人5分で人物を見て、1週間がかりで面接をする。
受ける方は5分でも、研究班の7名は合計50時間以上の仕事だ。合間には他の仕事もある。

面接を経て、再び608名を同じ方法で振るいにかける。これによって人数を165名にまで絞った。
人数が少なくなったので、10時間で終了。これを1人ずつ班の7名で審議し、3つのグループに分ける。
1人につき10分で、「可」か「不可」に判別し、10分内に決まらなければ「保留」とする。
「可」の18名は最終選考に残し、「不可」の10名を除く「保留」の山を多数決で「可」と「不可」に強制的に分ける。
ただし「可」は7名のうち5名以上の賛成を必要とする。
最終選考に残った31名の中から、最終候補7名を選ぶ。
最初に万里子は5名を言ったが、班の7名が各自1名ずつ選び出すことになったのだ。
こうして候補が決定するまで2週間。その7名を呼び出して、丁寧な説明をし、最終的に2名が被験者となった。

『さて、サイコキネシスによる補助を誰がやるか・・・。』
班の中で万里子と夜果里はサイコキネシスが使えないので、残る5人の中からということになる。
『では私がやりましょう。』
ノットーが手を挙げた。
『恐くないの?』
アークが思わず尋ねる。
『そりゃ恐いよ。』

緊張の中で行われた人体実験だったが、全く副作用を出さずに、2人の被験者はC級のエスパーとなった。
それから“神酒”の研究は大きく前進し、B級エスパーを10人以上揃えるまでになった。
『ここまで副作用は殆どゼロ。上手くいってるな。そろそろA級に挑戦してもいいんじゃないか。』
『また万里子さんは・・・。』
『ノットー、お前だってやりたいはずだ。』
『そりゃまあ、いずれはね。しかし今はB級15名の様子見です。今のところ大きな問題は無いですけど、長期的にはまだわからないのですから。“神酒”自体が、テレパシーや透視・予知を内蔵した物体です。この先何が起こるか、詳しいことは観察しないと見えてこないんですよ。』
『ええい、まだるっこしいな。』
『学問の発展なんて、得てしてまだるっこしいものですよ。』

こうして“神酒”の研究は順調に進んでいた。

少なくとも、表面的には。


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2016/05/24 00:01

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
火剣「1939年か。界隈で生まれているのはゴリーレッドだけか」
ゴリーレッド「副作用は重要だ。科学でも医療でも」
火剣「エスパーは常人とは構造が異なるのか。クレアを見ればそれも感じるが」
コング「七瀬は日頃は人々の想念をシャットアウト」
ゴリーレッド「全部聞いたら気が滅入るだろう」
コング「めーいちゃーん!と突然叫ぶおばあさんもいるし」
火剣「常人が神酒を飲むと異常をきたす危険性があるか」
コング「人体実験は美女・美少女を選ぶべきだ」
ゴリーレッド「なぜだ?」
コング「実験する側が興奮すれば疲れも吹き飛ぶ」
ゴリーレッド「男だけではない」
火剣「エスパーでも副作用の危険性はあるか」
コング「1939年のアルカディアはまだ人手不足だったのか」
ゴリーレッド「一人の犠牲者も出してはならない。これが本物のリーダー」
火剣「神酒の魅力・魔力に引っ張られない精神力が求められる」
コング「夜果里がマッパで突っ伏す姿はエキサイティング」
ゴリーレッド「服を着ている」
コング「全裸でうつ伏せになっている女の子はどうしてそそるのだろう」
火剣「無防備だからか」
コング「無防備。何というロマン溢れる言葉であろうか」
ゴリーレッド「少数派だ」



火剣獣三郎
2016/05/24 09:57
>火剣さん
ひっきりなしに周囲の想念を感知してしまえば、おそらく常人では発狂してしまうでしょう。七瀬の精神が常人離れしているのは、エスパーとして生きてきた結果ですね。

佐久間「つまり最初から構造が異なるわけではない。遺伝子の差異はあるが、能力に耐えうる構造は後天的に身につくものだ。」
神邪「先天的な要素はありませんか?」
佐久間「ゼロではないし、例外はある。シュシュのような強力すぎるエスパーともなれば、生まれつき耐性がなければ死に至るだろう。」
山田「いいことばかりじゃないな。七瀬を見ていても、むしろデメリットの方が多い気がする。」
八武「七瀬の場合は、社会的な側面も大きいのだがね。」
維澄「1939年だと猶更かな。大昔だと、むしろ崇められる側になるんだろうけどね。」
佐久間「生まれる時代を間違ったと、嘆くのは構わないが、嘆いていても仕方ない。足掻かねばな。」
神邪「万里子さんが暴走気味なのも、エスパーが迫害されてきた歴史を知っているからなんですね。」
山田「そういうことか・・。」
佐久間「アルカディアは常に人手不足だ。39年当時も、72年当時もな。世界的には常に少数派なのだから。」
アッキー
2016/05/24 21:39

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