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zoom RSS 「NEKTAR」 十三、地を這うワーム

<<   作成日時 : 2016/05/28 00:00   >>

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ノースカロライナ州は大西洋に面していて、煙草の生産が盛んである。
もうもうと立ち込めるヤニ臭い煙の中で、七罪巫女が1人“傲慢”のホーティネは立っていた。
威風堂々としたポーズで、両耳に2本ずつ、両鼻に3本ずつ、口に10本。合計20本。
両腕を広げ、仁王像のように立ち尽くしながら、ホーティネは20本もの煙草を同時に吸っていた。
この光景に、内村圭地率いる土組の5人は圧倒されていた。呆れつつも圧倒される何かがそこにあった。
「ぶっ!」
ホーティネは口に咥えた10本を地面に吹き散らかした。
「お前たちが私の相手か。タバコ吸いながらでも殺せるな。」
「なんですって?」
土組最年少のサンディが声を荒げた。
「乗るなサンディ、安い挑発だ。」
内村隊長は冷静である。
「ははっ、冷静になれば勝てると思っているのか。揃いも揃ってC級の雑魚ばかり。5人どころか50人でも楽勝ね。」
元から傲慢なホーティネだが、相手がC級エスパーだと侮って、ますます増長していた。
「最高! サイコキネシス!」
ホーティネは100パーセント全開の攻撃を放った。
それは何の障害もなく5人を吹き飛ばす。
「はーはっはっ、くたばった。当然の結果ね。」
しかし5人は、吹き飛ばされたはしたものの、大してダメージを受けていなかった。
「何で?」
すぐに立ち上がる5人を前に、ホーティネは動揺した。
「クレイマン召喚!」
グレイ・マッドが土の人形を作り出す。
「砂煙!」
サンディが砂埃を巻き上げる。
「転べ!」
六楽深津が叫ぶと、ホーティネは足が縺れて転んだ。そこへ砂が目に入った。
「うぐおお!」
ホーティネは考え違いをしていた。
確かに単純な力の合計では、ホーティネの力は土組5人を合わせた20倍以上である。
しかしこれは数値で勝敗を決定するゲームではない。エスパーといえども飯は食うし、眠りもする。
もちろん目に砂が入れば戦いどころではない。
「うにいい!」
ホーティネが目に入った砂を取ろうとしている間に、グレイ・マッドの土人形が襲いかかる。
「何よこんなもん!」
ホーティネのサイコキネシスで土人形はバラバラになるが、その中には大量のミミズが仕込まれていた。
「転べ!」
深津の限定ヒュプノシスでホーティネが体勢を崩す。
耳や鼻の穴に嵌まっていたタバコは、どこかへ落としており、代わりにそこからミミズが侵入していた。
「ぎひいいいっ!?」
「ふふん。」
ウェルトが笑った。彼の能力はミミズ限定のテレパシー能力。
人間とミミズの対話である、実質的にはミミズを操る能力に等しい。
「うひゃあああ、耳の奥がもぞもぞする〜、鼻の中がうねってる〜!」
「さあ、逃げるぞ。」
圭地の指令で5人は揃って早足で逃げ出した。
「うおのれ待ちやがれ!」
ホーティネがサイコキネシスを放つが、当たらない。
彼女はここでも勘違いをしていた。エスパーの戦いだからといって超能力だけで戦うとは限らない。
圭地は神経系のガスを撒き散らしながら逃げ出したのだ。
「うあああ・・・!」
景色がぐにゃりと揺れた。吸いまくっていた煙草の影響もあって、ホーティネは強烈な頭痛で叫んだ。
「ふぬぬぬぬ!」
目に入った砂を取り、体内のミミズを始末すると、ホーティネは怒りの形相で5人を追いかけた。
流石にB1級だけあって、すぐに追いつく。サイコキネシスは伊達じゃない。
しかし彼女は、もっとよく考えるべきだった。サイコキネシスで殆どダメージを与えられなかった、その理由を。
理由のひとつは圭地が“土の恵み”(ソイルグレース)で地面を柔らかくしていたからだが、それだけではダメージを半減も出来ない。
「ぜってー許さんゴミども・・・。1匹ずつアリンコのようにプチプチと捻り潰してくれる。」
ホーティネは気付いていない。彼女は追いついたのではなく、誘い込まれたのだ。

「食らえ!」
怒りの声と共に石が飛んできた。
「あ?」
ホーティネはサイコバリアで弾こうとするが、もろに食らってしまった。
「げっ!?」
石は次々に飛んできた。瓦礫には事欠かない。
「ぐああ、ああ、何故だあ!」
逃げ惑いながら、彼女は奇妙な装置を目にしていた。
(これは!)
広範囲対応ESPリミッター。
1972年の段階では、手軽に持ち運びが可能なサイズでも、B級を完全封殺できるだけの性能に達している。
「ふぎぎぎ!」(こいつさえ壊せば!)
しかしそこへ横からキック。
「げほっ!」
もはやホーティネの相手は土組の5人だけではない。
アンティローグの破壊活動で被害を受けた人々が、戦いに加わっているのである。
「俺の家を返せ!」
「わたしの子供を返してよ!」
「このヤロ、このヤロー!」
「死ねー!」
土組が戦うまでもない。ESPリミッターで無力化されたホーティネは、一般的な20代の力しかない。
「ごばあっ! こんな馬鹿なァ! 私が! このホーティネが! 七罪巫女の第三位、“傲慢”のホーティネが、地べたを這いずり回るだけの虫けらどもに〜!?」
ホーティネが叫びながら肉塊になっていくのを見て、圭地は呟いた。
「確かに俺たちは地を這う虫のような存在かもしれん。だがら、お前が驕らずに戦っていたら確実に負けていた。それくらいの差がある。だが、力の差がありすぎることに不信感を抱かないなら馬鹿だ。人が獣を狩るときは、勝算を持って挑むものだろう。己の力を過信し、驕りたかぶり、弱者の力を侮ったのが敗因と知れ。」
だが、ホーティネから聞こえてくるのは、肉が潰れる音ばかり。
「・・・もう聞こえてないか。」
ホーティネが完全な肉塊となっても、人々は殴り続けていた。
それを見ながら圭地は、20年前のことを思い出していた。当時の土組は正式な「組」としては認められておらず、人数も10代の3名だけだった。
内村圭地、六楽深津、グレイ・マッド。
この3人は本来、「組」として活動できるような力は無いはずだった。実際、任務にも失敗が多かった。
おそらくはアルカディアの一般市民と同程度の戦闘能力しか持ってないだろう。
そんな3人だったが、失敗した任務でも必ず生還するのだった。そのことを、周りの人間、特に砕組の面々は、臆病者と嘲り罵ったが、3人の才能に気付いていた者も少数だが存在した。
かつてフィー・カタストロは言った。
『単なる臆病者は、逃げ続けた挙句に最悪の死を迎える。土組の3人は臆病者かもしれないが、考えない勇士よりも考える臆病者が生き残るのだ。』
カタストロが属性組を正式に「組」とするように、はたらきかけるようになったのは、その頃からである。
『砕組は強いよ。神組は別として、文句なくアルカディアの最強部隊だ。しかしそれは傲岸不遜が生み出す強さであり、ある意味では非常に脆い。戦いというものが常に真っ向勝負なら、こんなことを言う必要もないが。』
今まさにカタストロの言った通りの状況になっているではないか。
圭地はつくづく彼女の先見の明に感心した。
A級10名B級1000名などという、馬鹿げた力を相手に、砕組は青息吐息だ。このままでは壊滅に近い。
それに比べて風・火・土の組は、敵の間隙を突いて七罪巫女を始末していってる。
圭地はジェラシィやグリンディーヌが斃されたことはまだ知らないが、そのことを確信していた。
最高時のギガマイル・クレッセントの凄さを、彼は少なからず知っている。
「帰るか。」

そのとき、上から声が響いてきた。
「そりゃあないよな。」
「!」
その中年男は空中で寝転んでいた。
「ん〜。」
無精髭を触りながら、彼はもう片方の手で伸びをした。
「ダウン・プロミネンス!」
いきなり激しい炎が降り注いだ。
悲鳴と絶叫がこだまする中、黒焦げになった死体を踏んで、男は降り立った。
「休め・気をつけ・前ならえ、おれはレスト・プロミネ。アンティローグ十戒の第四位、“休息”のレスト。テレビにも出たんだけど、覚えてるかな。」
忘れるはずがない。土組はあの映像を録画したものを何十回も観て、手がかりを掴もうとしたのだ。
「なかなかのご高説どうも。弱者の力を侮るなかれって、素朴だけど鋭いとこ突いている。強いと、それがなかなか出来なくてね。」
雰囲気が違う。十戒の第四位ならA1級の実力だろうが、パワーだけではない。
「おれも弱者だったから、わかるんだ。その考え方、好きだよ。」
「・・・・・・。」
「そう警戒するな。」
「いきなり人々を焼き尽くした奴を警戒するなって無理な話よ。」
サンディが反論するが、レストは動かずに話を続ける。
「無力化したなら縛って転がしとけばいいのに、嬲り殺しだよ。それはないよ。」
「アンティローグのせいで酷い目に遭った人々なのよ。当たり前じゃないの。」
「なるほどね。それじゃあ娘を嬲り殺しにされた仕返しに焼き払った、おれの行為も正当ってわけだ。」
「!?」
「娘・・・!?」
このときになって土組の5人は気付いた。
一見ものぐさな中年男にしか見えないレストの目の奥に、ドロドロした憎悪が含まれているのだ。
「おれもね、お前らと同じく地を這う虫けらだった。生まれつき体が弱くてね、休み休みしか働けなかった。社会に出てからも、ろくに働けず、底辺をのたくってきた・・・。世間はおれを怠け者と罵った。体が弱いだけで、働く意欲は誰にも負けないってのに。だからおれは力を手に入れた。そして今はマネージャーとしてバリバリ働いている。何が悪い? 愛想尽かして出て行った娘も、アンティローグに入ったら戻ってきた。」
「人を不幸にして、幸せを掴んで、嬉しいの?」
サンディが反論を続けるが、声が弱々しい。
「おれたちアンティローグが不幸にした人間って、要するに今まで幸せだった人間だろう? 底辺を這う虫けらなど眼中に無い、眼中に入れば侮蔑の視線を向け、罵りの言葉を吐きかける。そういう連中だろう。おれはそういう“善良な市民”ってやつが大嫌いでね。」
レストは憎悪を剥き出しにしてから、短く息をついた。
「おれの予知・・・間に合わなかったな。リーダーが妨害念波を出してるはずなのに、どうやって先手を取った?」
憎悪を込めた目が5人を射竦める。
娘が殺されたのを目の当たりにしても冷静なのは、情報を引き出して戦いを有利に進める為。
それほどまでにレストはアンティローグの勝利を切望しているのだ。
一度は愛想を尽かされたことも含まれているのかもしれない。ある意味では娘の死によって大義名分を得た。
「ご存知、我々はプルキネシス(2種類以上の超能力を同時に扱うこと)を苦手としている。テレパシーで思考を探ろうとすれば、その隙を突かれるかもしれない。だから口で説明してくれないか。」
レストの迫力に5人は怯んだ。
かといって喋れば用済みで殺されるだろうし、嘘をついても見抜かれるだろう。
黙っていたら1人ずつ殺される。レストは殺すことを躊躇わない。
土組5人は追い詰められた。


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エスパー奇譚』長編小説 「千里」 NEKTAR 目録
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
コング「強姦のホーティネ」
ゴリーレッド「傲慢だ」
火剣「今度はノースカロライナ。広範囲での戦争状態か」
コング「20本も加えるとは」
ゴリーレッド「黙れ」
コング「タバコの話だぞ」
火剣「冷静だからいい場合もあれば熱くなったほうがいい場合もある。戦いは難しい」
コング「最高とサイコキネシスを掛けたのか。♪最&高になーりたいの」
火剣「油断大敵だ。奢りは敗因につながる」
コング「火剣もホーティネを応援しているのか?」
火剣「違う」
ゴリーレッド「エスパーは人間。肉体的苦痛は感じる。石が当たれば痛いし大勢に殴られれば死んでしまう」
火剣「超能力だけで戦うイメージは間違いだった」
コング「懐かしい。きょうつけ! 小さく前へならえ。休め」
ゴリーレッド「休息のレスト」
コング「サンディ。もっと生意気に挑発的に反論し罵倒するんだ。何それはたわごと? それとも遺言?」
ゴリーレッド「黙れ」
コング「大丈夫。なぶり殺しにはされない。レストの言う通り全裸にされて手足を縛られて転がされるだけだ」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「NO!」
火剣「娘じゃそれでは済まない。同じように嬲り殺される危険性がある」
ゴリーレッド「善良な市民といっても、貧しい人、体が弱い人を無意識に見下して追い込んでいる危険性はある」
火剣「人間の憎悪は増幅するからな。ましてや娘の復讐なら躊躇ないだろう」
コング「やはりサンディに体を張ってもらおう」



火剣獣三郎
2016/05/28 09:18
>火剣さん
北米あちこちで“神酒”を飲んだ人間が暴れています。ホーティネに向かったのは土組と、そして市民。しかしホーティネは“休息”のレストの娘でした!

佐久間「タバコ20本。実にシュールな光景だ。」
山田「舐めきってるな・・・。」
神邪「土組の連携がいいですね。」
山田「ウサギとカメを思い出した。」
佐久間「ホーティネは冷静に戦っていれば楽勝だったな。」
八武「縛って転がすだけでは復讐にならない。」
山田「黙ろうか。」
八武「何を想像しているのかね?」
維澄「リンチする心理はわかる。だけどレストの言うことも一理あるね。」
神邪「体が弱いって、どうしようもなく惨めです。」
佐久間「弱い頃に虐げられるほど、強くなったら残虐になる。」
八武「そうだねぃ。」
山田「どうすればいい?」
八武「哀願。」
佐久間「愛玩?」
山田「ダブルラリアットの時間か。」
八武「違うよ。」
神邪「レストに同調はしませんが、ごく普通の市民から耐えがたい苦痛を受けている人は存在します。」
山田「アンティローグは、そうした人間の集まりなのか?」
佐久間「まあ、社会に馴染めない人間を集めているのは確かだ。」
アッキー
2016/05/28 21:54

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