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zoom RSS 「NEKTAR」 二十六、唯一神

<<   作成日時 : 2016/06/21 00:00   >>

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今やすっかりアンティローグの本拠地と化している、ニューヨーク・シティ。
神殿では十戒上位陣の敗死で、さぞかし動揺していると思いきや、クリエ・ソゥルの存在がそれを抑えていた。
「皆の者、恐れるな。私がいる。」
クリエは白い法衣をはためかせて、人々の前に姿を現した。
テレパシーと二重になっている声なので、大きくなくてもよく通る。
「十戒も私以外は全て敗れた。しかしそれが何だというのか。彼らは私や君たちの心の中に生き続けている。後は私に任せたまえ。私が1人で10人分戦ってくる。まずは、1人でこちらへ向かってくるフィー・カタストロを弑し奉ろう。続いてはコムザイン。そしてデュース・ディーバー。武運拙く敗れた部下たちに代わって、私がアルカディアを壊滅させてこよう。私はアンティローグの“唯一神”クリエ・ソゥルだ!」
「クリエ様あ!」
「クリエ様万歳!」
「クリエ様ァー!」
神殿を包んだ熱気は、アイド・カルトーのコンサート以上だった。
「それでは行ってくる。」
クリエが片手を挙げると、そこへ巫女の1人、“再生”のパラメッタが近付いてきた。
「あ、あの、わたしも連れていってください。」
「心配無用。私は無敵だ。ここで待っているがよい。」
クリエはそう言って、テレポートで去った。

残されたパラメッタは、何か小声で呟いたが、そこへ3人の巫女がやって来た。
“色欲”のホーニー。“暴食”のミールディッシュ。“憤怒”のレイジーナ。
「ちょっとお、調子こいてんじゃないわよ〜。」
「なあに出しゃばってんの〜?」
「こっち来なさいよお。」
3人に引きずられて、パラメッタは神殿の奥へ連れていかれた。
「どういうつもりなのよ!?」
「あんたみたいな足手まといが何様のつもり〜?」
「まさかクリエ様の勝利を疑ってるのお?」
「・・・そうです。」
珍しくパラメッタが口を利いた。
しかしそれは3人を逆撫でする発言だった。
「なんですってえ〜!?」
「ふざけんじゃないわよ〜!」
「このゴミが! 淫売が!」
3人はパラメッタを袋叩きにした。
「クリエ様は、負けます・・。」
「まだ言うか!」
「クソが!」
「死ねえ!」
猶も容赦ない暴力が加えられる。
「フィー・カタストロには勝てません・・・。」
「それでも栄えあるアンティローグの巫女かあっ!?」
「恥を知れメスブタ!」
「クリエ様の御言葉に偽りなど何ひとつ無いのよ! クリエ様が勝つと言ったら勝つの!」

しかし彼女たちの信頼とは裏腹に、クリエ・ソゥルの言葉に真実は皆無だった。
彼の目的は、アルカディア壊滅などとは全く別のところにあった。


- - - - - - -


正午を過ぎた頃、フィー・カタストロはニューヨークの近くまで来ていた。
アンティローグ神殿から数十キロ離れた地点。見渡す限りの瓦礫の山。
カタストロは空間の歪みを感じて飛行速度を緩め、空中で静止して身構えた。
(来る!)
ヒュウンッと、いかにもわざとらしい独特の風切音と共に、白衣の男は現れた。
「Good afternoon・・・ご機嫌いかがかな、“挽念化生”フィー・カタストロ。」
「9対1で悪い方よ。」
カタストロは煮え滾る怒りを隠して、冷静に返答した。
「それはいけません。この私を前にして機嫌が良くないというのは、いかにも不幸なことです。それに、たったひとりで来るとは・・・こちらとしては願ったり叶ったりですが、勝算はおありで? この“唯一神”クリエ・ソゥルを前にして。」
クリエは嘘くさい笑みを浮かべて、ポーズを取っている。
「・・・・・・。」
「むん!」
サイコキネシスがカタストロに放たれる。
「・・・。」
カタストロは斜めに弾く。
「ほほう、流石はアルカディア重幹部7名のうち、2位の実力者だけありますね。出力はこちらが3倍以上もあるはずですが、正面きってではなく斜めに逸らすとは。いやはや、見事なものですな。」
「・・・・・・。」
「まだまだいきますよ。」
クリエは念力の塊を連射した。カタストロはそれを難なく弾いていく。
互いに全力の10分の1も出していない、嘘くさい、白けた戦いが繰り広げられた。
「いやはや、いやはや、掠りもしませんか。しかもまだ本気を出してらっしゃらない。はっはっはっは・・・」
クリエは心の底から嬉しそうに笑った。
一見すると嘲りにも聞こえるが、本気で喜んでいることをカタストロは理解していた。
「・・・何故だ。」
「はっ?」
「お前も全く本気を出していない。質問に答える余裕くらいあるだろう。」
「戦いの最中に問答ですか。それも乙なものですね。」
クリエは嬉しくてたまらない様子だ。
「・・・何故、こんなことをした。アンティローグなどという組織を作り、人々を苦しめた?」
「ふぁ、ふぁ、ふぁ、テレビ放送を存じてないのですか? 私はそこでアンティローグの世界支配を謳ったはずですが・・。」
「・・・・・・。」
「“神酒”の力に選ばれた超エリート集団アンティローグこそ、世界を支配するに相応しい組織なのです。そしてその頂点は私。そう、“唯一神”クリエ・ソゥルです。」
クリエは両腕を広げて、高らかに宣言した。
「今更そのような質問をして何のつもりなのです? 聡明なフィー・カタストロの言葉とは、とてもとても思えませんが・・・。」

「その薄ら寒い小芝居を今すぐやめな、“叩割空帝”モース・リーガルっ!!」

カタストロは耐え切れなくなって怒鳴っていた。
怒りと情けなさで、顔が歪んでいる。
「・・・どうして、わかった?」
若々しく作り物くさいクリエ・ソゥルの顔は、みるみるうちに皺を刻み、精悍な中年男の顔になった。
アルカディア七十七璧“叩割空”モース・リーガル。彼の顔からは笑みが消えていた。
「こっちの質問にも答えろ、フィー。どうしてわかった?」
「どれだけ長い付き合いだと思ってる。直接向かい合えばすぐにわかったさ。顔と声を変えたくらいで私を欺けると思っていたのか。」
「言うね。」
「言うさ。“デビルズ”ノットーの若い頃の顔にしたのは皮肉か? 何かのメッセージか?」
「自由に解釈しろ。俺にもわからん・・・。」
「そうか。だが、こっちは答えられるだろう。何故こんなことをした。アルカディアを裏切り、アンティローグを結成し、大勢の人々を苦しめ、死に至らしめた・・・その理由を答えてもらおう。」

「ふん、お前のような天才にはわからんだろうな。凡人がどれだけ努力しても肩を並べることの出来ない天才には、その凡人の心なんてわかりはしないんだ。俺はいつも惨めだった。同い年で、同期でアルカディアに入ったのに、俺とお前の差は開く一方だ。どれだけ努力しても追いつけない、遥かな高み・・・。戦いだけじゃない、全てにおいて勝る存在が自分のすぐ近くにいるというのが、どれだけ辛いことかわかるか? これはもう嫉妬とかいう領域の話じゃない。凡人の憎悪だ。お前らは強い。“神酒”を飲んでA級にまでなった奴らを、ことごとく撃破していった。凡人ってのは、その程度なんだよ。天才が当たり前にこなすことでも、凡人にとっては神経尖らして意識しなけりゃ出来ないんだ。いや、それでもなお出来ないことだってある。百の努力では天才の壁は越えられない。ならば千の努力、万の努力をすれば天才に勝てるか? 馬鹿が・・・。その間に天才は億の努力を重ねているんだ。凡人の懸命な努力は天才の怠惰だ。ならば凡人と天才の差は、どうやって埋めればいい? その答えが“神酒”だった。俺は劣等感を持った凡人どもを集めて組織を作った。それがアンティローグだ。邪道と言うなら好きなだけ言えばいいさ。しかし現に砕組は壊滅寸前にある。彼らの長年の努力は、数十CCの液体の前に敗れ去ったんだ!」

「それが、アンティローグ結成の理由か。」
カタストロの声は震えていた。
「くだらないと思うか。ならば理解しなくていい。それでこそ天才なのだからな。」
モースの表情は、どこか嬉しそうだった。
クリエのときに見せた顔のうち、この表情だけは本物だった。
「理解、納得、共感、それら全て必要ない。結果が全て―――」
彼はどこか陶酔したような目つきで、念力を具現化した。

(“空間の粉砕”!)

少し腰を落とした彼の左手は、何かを鷲掴みにするような形を取っていて、そこから円錐状に空間が破壊された。
カタストロは寸前で外に逃れ、そのまま拘束で離脱した。
巻き込まれる衝撃波で、周囲の瓦礫が吹き飛ばされていく中、モースは驚いたような笑顔を作っていた。
「・・“空間の粉砕”を初見で、この距離でかわすとはな。ギガマイル・クレッセントが『フィー・カタストロとクリエ・ソゥルが戦うこと』に拘った理由がよくわかるぜ。デュースやコムザインなら、今の一撃で死んでた。」
“炎帝”も“壊帝”も桁外れの攻撃力を有しているが、あくまで生身だ。
今のを食らえば、ひとたまりもない。そして初見でかわせるのは、カタストロだったからだ。
「空間の叩割ではなく、粉砕・・。この威力ならシュシュ隊長でも防御は不可能だろうな。」
「嬉しいね。久々に褒めてくれた。こいつが俺の固有能力・・・。十戒最強の攻撃を誇る“砕空”。空間を直接粉微塵にするから、誰も防御できない。空間干渉はPK最強・・・誰も俺には勝てないぜ。」
「褒めたわけじゃない。だいたい、お前の言葉は嘘だらけだ。」
「何・・・?」
「クリエの仮面を剥ぎ取っても、お前はまだ虚栄と欺瞞に満ちている。アンティローグ結成の理由も、先程語ったのが全てではあるまい。」
「・・・例えば、何が偽りだと?」
「ここで問うても本心は語らないよな、モース。ならば見えているところから剥いていこう。空間干渉はPK最強だと? 30年以上も前に夜果里から聞いたセリフを、今更お前から聞くとは思わなかった。」
「・・・この技が偽りだというなら、御託を並べてないで破ってみろ。“空間の粉砕”!」
円錐状の空間粉砕は、カタストロのあらゆる技術を以ってしても防御不可能。
彼女が寸前で攻撃をかわすと、そこへ次の攻撃が放たれる。
「・・・・・・。」
防御不可能の空間粉砕が次々と放たれる中、カタストロは無言で動き回る。
「そうした、反撃も出来ないか。」
「・・・・・・。」
カタストロは小さく溜息をついた。
「わかってないな。その技は確かに高い破壊力を持つが、決して攻撃力が高いわけじゃない。」
「・・・何?」
「“攻撃力”と破壊力”は別物だ。その技は破壊力こそ凄いが、私に傷ひとつでも付けられたか。」
「それがどうした。今まで全てかわしてはいるが、どれもギリギリ・・・。少しでも気を抜けば終わりだ。まさか念力切れを狙ってるわけじゃあるまいな。」
「・・・今まで全てギリギリでかわしている。その意味がわからないか?」
「ふん!」
先程よりも激しい“砕空”の連射。
しかし当たらない。
ギリギリで当たらない。
「・・・・・・まさか・・・」
「そのまさかだ。完全に見切ってるからこそギリギリでかわしている。少しでも気を抜けばと言ったが、私が戦場で気を抜いたことなどあったか。」
「・・・・・・。」
モースは目を見開いて歯を剥いた。
「・・・初見から・・・見切っていたのか・・・完全に・・・。そしてこれからも、一瞬たりとも気を抜かない、か・・・。そうだな・・・お前はそれが出来る奴だよ・・・。ははは、はははは・・・ひゃはははははは・・・!」
片手で頭を抱えて、可笑しそうに狂乱するモース。
その姿は、自分の技が通用しないことを喜んでいるようにすら見えた。
「そうでなくちゃな・・・そうでなくちゃ。フィー・カタストロは、そうでなくてはいけない・・・。」

突然彼は右手を翻した。
暴風が巻き起こり、風の刃が周囲数百メートルを切り刻んだ。

「・・・!」
「流石に驚いてくれたようだな。」
「その能力・・・ノーティ・バーグラーの暴風サイコキネシスか?」
「その通り。実際に目にするのは初めてのはずなのに、よく防御できるもんだ。」
「・・・・・・。」
「もちろん、これだけじゃない。」
次にカタストロを襲ったのは、激しい炎だった。
「レスト・プロミネのパイロキネシスだ。」
まだ続く。
モースの姿が二重になる。
「ペック・ペアのドッペルゲンガー! ・・から放たれる砕空ダブルだ!」
カタストロは炎を防御し、砕空もかわしたが、その表情は驚きを隠せなかった。
「ふふん。」
モースは分身を解除した。
「“魅了”や催眠系はお前には通じないだろうが・・・俺は十戒メンバー全ての固有能力を使える。顔に出るほど驚いてくれたのなら上々だ。これから本番といくか。」
そのときの彼の目つきは、カタストロでもゾッとするほど冷たかった。

アンティローグ第一位“唯一神”クリエ・ソゥルこと、モース・リーガル。
彼がその本性と真の力を見せるのは、ここからだった。



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エスパー奇譚』長編小説 「千里」 NEKTAR 目録
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
火剣「まさか・・・」
ゴリーレッド「そういうことだったのか」
コング「僕も天才だから凡人の気持ちがわからない」
火剣「負けてたかるかという気持ちは大事だが、あまり人と比べ過ぎると危険だ」
ゴリーレッド「嫉妬を通り越して憎悪にまでになる。異性への嫉妬は家庭を滅ぼすが才能への嫉妬は一国をも滅ぼすのが歴史の教訓」
火剣「アンティローグ結成の本当の理由とは」
コング「待てよ。モースの目的はフィーではないのか」
ゴリーレッド「ギリギリでかわせるということは全部見切っているということ」
火剣「余計凡人の劣等感を刺激してしまう」
コング「ここはモースもイルカに乗った少年を熱唱するしかない」
ゴリーレッド「歌ったら泣かす」
コング「♪君に!君に!君にあーうたーめー、やーあーてk」
ゴリーレッド「ドロップキック!」
コング「どおおお!」
火剣「歌詞とモースの気持ちは合ってる」
ゴリーレッド「十戒メンバーの固有能力を使えるのがクリエ・ソゥルか」
コング「バーグラー、レスト、ペックと来たらルード! あ、ルードは犯した瞬間に殺しちゃうからヒロピンにならない。やはりクリエ・ソゥルの気絶しない絶頂で辱めるのだ」
ゴリーレッド「パラメッタは何を知っている?」
火剣「モース・リーガルの本性、真の力とは?」

火剣獣三郎
2016/06/21 10:31
>火剣さん
そんなわけで、まさかのモース・リーガルでした。
「三帝の栄光」からここまで、長かった・・・。
つらつらと理由を語るモースですが、果たしてそれも本当の目的かどうかは・・・?

山田「モース・リーガル!?」
八武「ふうむ、そうか・・・彼の決意は、そういう意味なのか。逆に読んでいた。」
維澄「叙述トリックに騙されたというより、読み切れなかったね。」
神邪「モーゼの十戒、そしてモース硬度は1〜10・・・。名は体を顕していたんですね。」
佐久間「ちなみにリーガルの意味は合法。十戒の暗示でもある。」
山田「天才への憎悪か。わかりたくないが、わかる気がする。身近に佐久間がいるからな。」
佐久間「なにっ、山田は私の才能に嫉妬していたのか?」
山田「まあ嫉妬というとアレだが、否定はしない。」
八武「そうか、アンティローグ結成の真の理由は、フィーを手に入れる為と見た。」
維澄「なるほど、案外そうなのかもしれないね。」
八武「男は惚れた女を手に入れる為なら、世界を敵に回すことも厭わない生き物なのだよ。」
神邪「しかしカタストロさんには見切られてますね。二重の意味で。」
佐久間「カタストロも恋愛に関心が薄いタイプだからな。」
神邪「十戒の固有能力を全て使えるのは凄いですが、それを見切ってしまえるあたりが天才たる所以・・・もはや天才以上の化物です。」
佐久間「“化生”だからな。」
山田「その二つ名の意味を実感するぜ。」
維澄「パラメッタは、このことを直感していたのかな。」
佐久間「だがモースもまだ全ての力を見せていない。もつれるぞ、この勝負。」
アッキー
2016/06/21 23:12

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