佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「NEKTAR」 二十七、アンティローグ

<<   作成日時 : 2016/06/22 00:00   >>

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アルカディア本部。

「クリエ・ソゥルの正体は、モース・リーガルだ。いや、我々の知るモースもまた偽物だったということになるかな。」
クレアの言葉に驚かない者はいなかったが、疑う者もいなかった。
たとえ千里眼の言葉であっても、仲間がアンティローグのリーダーだと言われたら、それ自体を疑ってかかりそうなものだが、そんな人間は誰ひとりいなかった。
(モースが裏切った理由も何となくわかる気がするな・・。)
しかしそれで彼に同情はしなかった。
彼がアンティローグを結成し、多くの人々を苦しめ死に追いやった事実がある以上、同情は被害者への冒涜だ。
(これが主な理由というわけではなさそうだが、ともかくモースの本心を探るのは後だ。)
クレアの千里眼は目下、戦乱収拾の活動へ向けられていた。
その中でガードの固いモースの精神を覗くのは難しい。
原因究明よりも、人々の救助が優先されると判断した。
「十戒も残るはクリエのみ。奴の能力は特殊だからな、手持ちで最強のカードを使うと決めていた。」
「カタストロさんですか?」
ジョナルが訊いた。
「ああ。最初から奴の固有能力が読めていたわけではないが、妨害念波の発信源が複数あったものでね。単独の妨害念波なら、私の千里眼を鈍らせるのにS級の出力が必要なんだ。しかし出力だけはすぐにわかった。S級はいない。クリエの顔は過去視で見たノットーの若い頃そっくりだったし、何か厄介な能力者には違いないと踏んでいた。ま、概ね正解だったよ。」
「カタストロさんなら相手が何であろうと安心ですもんね。」
「どうかな・・。カタストロの強さを疑うわけじゃないが、十戒の中でもクリエだけは別格だ。他の連中は念力を絞ることも知らない素人だが、クリエの正体はモースだ。それすなわち超能力戦闘の達人ということ。他の9人と違って出力はハリボテなどではないし、念力の容量もカタストロとタメだ。」
「うむむ・・。」
「それだけならせいぜい帝クラス、カタストロにとっては楽に勝てる相手なんだがね。しかし厄介な2つの固有能力がある。防御不可能の空間粉砕も厄介だが、もう一方の能力はその比ではない。勝率は五分だな。」
「それってやばくないですか・・・。」
「それでも勝ってもらわなくては困る。保険としてシュシュ・オーディナークを向かわせているが、出来れば使いたくない。」
「わたしが行きましょうか。」
“炎帝”デュースが出てきた。
「今から行っても間に合わないよ。」
「う・・」
「最初はお前とコムザインも合わせた3人がかりという計画を立てていたが、途中で変更を余儀なくされた。クリエの能力解析が半分近く進んだ時点で、カタストロ単独に変更した。」
「何故カタストロさん単独で?」
「お前やコムザインでは“砕空”をかわせない。無駄死にだ。・・それがわかった時点で、カタストロには単独でクリエと戦うように伝えておいた。私に何か不測の事態が起こることも考えてな。」
クレアは資料室でのことを思い出して、忌々しそうに顔をしかめた。


- - - - - -


それから程なくして、フィー・カタストロとモース・リーガルの戦いは始まった。
モースことクリエの固有能力は2つ。
しかし彼は“空間の粉砕”に加えて、パイロキネシスや暴風、ドッペルゲンガーもやって見せた。
「・・・確かに驚いた。」
カタストロは既に落ち着きを取り戻していた。
驚異ではあるが脅威ではない。“砕空”も含めて、それら全てを捌ききった。
「しかしそろそろ、こちらからも攻撃させてもらうとしよう。」
「わざわざ予告か? どこの騎士だ。」
モースはサイコキネシスのフィールドを張った。
彼の念力出力はカタストロの3倍以上。普通に考えれば完全な防御。
「・・・。」
カタストロの右手に念力が集中する。
「念力の槍・・・“スティング・ランサー”か?」
「それでは通用しないだろう。」
念力の槍は発射された。
ただし、高速回転して。

「“ツウィ・スティング・ランサー”!」

「!」
回転する念槍はモースの念力場を削りながら貫き、彼の体めがけて一直線に向かってきた。
(“ルーム・ハンマー”!)
咄嗟に空間干渉の防壁で弾く。
しかしカタストロは、それを予測していて、次の攻撃に移っていた。
(“念爆崩拳”!)
空間防壁をもすり抜ける念力の爆撃。
モースは直撃を食らって吹っ飛んだ。
「くっ・・!」
「砕組分隊長の固有技は、全て私が教えたことは知っているだろう。今の2つは、その合成。ヴェネシンの“槍”とバーシュの“ドリル”を合わせた“ツウィ・スティング・ランサー”。ラドルの“すり抜け”とロティエルの“爆撃”を合わせた“念爆崩拳”。そして・・・」
話しながらカタストロは念力を集約していた。

「3合成、“クイン・ハンマー”!」

両手を交差させて同時に振り下ろす。
間合いも何も関係なく、あたり一面に攻撃が降り注いだ。
「ぐああああっ!」
テレポートも間に合わず、モースは全身から血を噴き出した。
「どうだ・・・体の中身までズタズタに切り刻まれる感覚は。」
「くくっ、えげつない技を使いやがる。」
流石に脳髄だけは防御できたようで、ボロボロになりながらも力は失っていない。
レストの“休息回復”で、すぐに元通りになった。
「・・・強いな、お前は。そして臆さない。嬉しいね。本当に嬉しいよ。」
再び、あの目。ゾッとするような冷たい目つき。
「ベインなど足下にも及ばない、真の天才。いつまでも強く、美しく、そして誇り高い。だから今だ。今ここで殺してやる。お前が衰えてしまう前に―――」
ぐきょっと奇妙な音を立てて、モースの顔が歪んだ。
筋肉の蠕動音、骨の軋む音。
モースが、モースでなく、蠢く肉の塊になっていく。
「・・・!」
カタストロは即座に腰を落として拳を突き出した。
(念爆崩拳!)

「念爆崩拳!」

「!?」
カタストロの放った技を相殺する、同種の技。
肉塊から放たれたのは、精度は粗いが紛れもなく念爆崩拳そのものだった。
それと共に肉塊は、人間の形に戻っていった。
髪は長く伸び、胸が膨らんだ。
「どうだい、フィー。似てるか?」
その姿は、フィー・カタストロ20代のもの。皺の数以外は瓜二つ。
すらりと伸びた手足にに、均整の取れたプロポーション。
「・・・鏡を見た記憶を思い出した。声まで同じなのも驚きよ。」
裏声ではない、ハスキーな女声。フィー・カタストロの声。
「これが“砕空”と対を為す、俺のもうひとつの固有能力。“同一化”(ミミック)。単なる変身でないことは承知の通りだ。」
カタストロの姿をしたモースは、カタストロと同じ笑い方をした。
「よく出来てる。大した能力だ・・。」
「ん?」
モースは意外そうな声で顔を歪めた。
「・・・あっはっは、はっはっはっは・・・違う。違うんだよ。わかってない。何ひとつわかってない・・・!」
笑いながらも、細く冷たい目はカタストロを見つめて離れない。
「この能力は、単体では変身能力と変わらないさ。内面も真似るには、普段からの研究だ。俺がどれだけアルカディアにいたと思う・・。こんなことだって出来るぜ・・・」
モースの胸が更に膨らみ、髪の色は紅蓮に染まった。
「キアラ・テスタロッサ!?」
そしてパイロキネシス。ベインやレストのような緩い炎ではない。
アルカディア重幹部キアラ・テスタロッサの炎と同じく、威力は絶大で速い。
(っ!)
カタストロは咄嗟に楕円形のバリアを展開して、炎を防ぎきった。
「キアラの炎も防げるとは、大したバリアだ。」
今のがカタストロ最大の防御技“エリプス・バリア”だった。
回避を主体とするカタストロは滅多に使わないが、キアラの炎は重幹部最速。カタストロでも避けられない。
「皮肉にしか聞こえないね。」
「半分はそうだが、もう半分は素直に驚いている・・。だから、こいつも防ぐなりなんなりしてくれよな?」
キアラの姿をしたモースの左手に、熱が集まった。
「“左手”か!」
カタストロを一気に距離を取った。
「正解・・・。」
ニヤリと笑ったモースの左手から、炎熱の塊が発射された。
ドオンと一発、爆音が響き渡る。
「オリジナルには少し及ばないが、上手いものだろ? キアラ・テスタロッサの“火掌発剄”だ。」
一発がナパーム弾ほどの威力を持つ炎熱爆撃。それが次々と発射されていく。
短い間隔での連続攻撃が地形を変えていく。カタストロは避け続けるしかない。
1分あたり500発以上もの重爆撃が、3分にもわたって放たれ続けた。
火種が切れた瞬間を狙って、カタストロは腕を交差する。

“クイン・ハンマー”!
“キング・ハンマー”!

両者の攻撃が激突し、相殺した。
「はっはっは、かすりもしない・・・やはりお前は最高だ! それでこそフィー・カタストロだ!」
モースの目がギラギラと輝き、狂喜の炎で紅くなる。
「このときを待っていたのだ・・・このときを! 俺がお前を殺せる戦いを!」
「わからんな。お前の言ってることは支離滅裂だ。私を殺したところで、お前に未来など無い。シュシュ隊長に0.001パーセントでも勝てると思っているのか?」
「・・・だから言ったろう、何ひとつわかってないと。」
モースは暗い目つきで静かに言った。

「最初からアルカディアに勝てるなどと思ってはいないし、勝とうとも思っていない。世界征服とか、あんなもの嘘っぱちだ。凡人どもが天才やエリートの集団に打ち勝つとか、それも枝葉の理由に過ぎない。自分が凡人か天才かなど、実はどうでもいいんだよ。どっちにしろ、うだつのあがらない負け犬ってことには違いないのだからな。俺の正体を見破ったとき、お前は『小芝居をやめろ』と言ったっけな。くくく、俺たちはその“薄ら寒い小芝居”がやりたくてアンティローグを結成したのさ。一生うだつのあがらない負け犬のまま、変わり映えのしない灰色の日々を送り、惨めに朽ちていく・・・・・・そんな連中に“神酒”は与えられた。負けてもいいんだ。死んでも構わない。歴史の屑として消えていくくらいなら、悪名を刻みたい人間の集まりなのさ。それぞれがそれぞれの望みを実現し、いっときの栄光と共に死んでいく。刹那的で退廃的なお祭り騒ぎだ。戦略も戦術も二の次。連携してアルカディアを潰そうとか考えてもいない。それぞれが勝手に暴れ、永劫消えない罪を魂に刻む。それもひとつの人生だ。悪党にでもならなければ叶えられない望みは、そのまま悪党になって叶えるしかあるまい。他人のものを貪りたい。嘘をついてでも栄光を手に入れたい。奪いたい。犯したい。殺したい。・・・まともな社会では許されることではないだろう。だがそれが俺たちの持つ望みなのさ。ろくでもない、本当にろくでもない、迷惑極まりない暗黒色の欲望。いつから歪んでしまったのかも忘れたし、思い出そうとも思わないが・・・。フィー、俺の望みはお前を殺すことだ。生存を諦めたのなら、ここで死ね。」

キアラの姿の左手の、再び炎の念が集約する。
その瞬間だった。
「!?」
突然のこと、彼の左手は凄まじく白熱して膨れあがり、大爆音と共に粉々に砕け散った。
「ぎ・い・い・い・あ・あ・あ!」
休息回復で左手を再生しつつ、モースはカタストロを睨みつけた。
カタストロもそれを見つめ返す。
「誤解させたのなら悪かった。私は生きることを諦めてもいないし、全ての技を見せたわけでもない。力で相手より劣るなら、相手の力を利用すればいい。」
彼女の攻撃能力は果てしなく広い。備えている超能力はサイコキネシスのみだが、その用途は多岐にわたる。
型もリズムも変幻自在。型の合成やサイコイレイズ、そして誘爆サイコキネシス。
出力や能力数で劣る相手とも互角以上に戦える理由のひとつが、これだ。
「・・・やるねえ。惚れ直したよ。生きるのを諦めたと思ったときは正直がっかりしたが、やはりお前は俺の思った通りの・・・いや、それ以上の人間だ。嬉しいよ。嬉しくてたまらない。それでこそフィーだ。最後はこの姿で戦うとしよう。」
ベキベキと音を立てて姿が変わる。
赤髪のキアラから、黒髪のフィーへ。

「この姿が一番いい。お前と同じ姿・・・。お前に憧れ、お前を求め、飢えたる心を慰めた姿。無人の荒野に独り佇み、乾いた風を一身に浴びる。独り独り独り・・・お前には孤独がよく似合う。誰も隣に並べない孤高の達人。誰かが横に並んだら、お前の価値は落ちてしまう。俺はお前を求めている。だが、お前は独りでなければならない。孤高でなければならない。孤高であるフィーを求めるというジレンマ! 矛盾! 耐え難い甘美な苦痛・・・際限ない心の渇水・・・。俺の望みを教えてやるよ。フィー、お前を奪い、貪り、犯し、殺すことだ! 姿や思想を偽ってでも、見せかけだけの組織を作ってでも、親兄弟を捨ててでも、他のことが手につかなくなってでも、魂の全てでお前だけを求めていたい! どうしたって手に入らないものへの愛・・・それを成就させるには殺すしかない。お前の心は手に入らなくても、永遠を手に入れることは出来る。強く、美しく、気高いフィー・カタストロ。優しさと厳しさを兼ね備えた、その至上の存在を、この手で弑し穢し尽くす。他の誰でもない、この俺がだ。フィーを手に入れようとする奴ら、みんな死ねばいい。フィーを貶めようとする奴らは消えて無くなるべきだ。何もかもいらない。他の何も求めない。過去も未来も必要ない。この瞬間が永遠に等しい輝きを持つ。お前とこうして本気で、全力で、殺し合う・・・そんな戦いを望んでいた。たった今を生きること以外に如何なる充実があるというのだ。過去は不動、未来は一寸先も闇の領域。光り輝く現在だけあればいい。十戒も9人が死に、“神酒”の治療薬も完成した。もはやアルカディアとアンティローグの戦いは終わった。俺は戦いの前に誓った。この戦いが終わったら、お前を手に入れるのだとな。高嶺の花は積んだ瞬間に色褪せてしまう。ならば摘むという行為そのものが永遠であればいい。フィー、今一度ここで誓う。お前を殺す。お前を殺す。絶対に殺す。死んだお前のハラワタを貪り尽くしてやる!」

カタストロの姿をしたモースは、周囲に念力のフィールドを作って突撃した。
(っ!)
まさか一瞬で間合いを侵略されるとは思っていなかった。
速い。出鱈目に速い。
「かはっ・・!」
手刀で腹部を刺された。
ぐちゃりと内臓が潰れる。
後退して念爆崩拳を放つが、その前にモースはキング・ハンマー!
「ああっ・・・!」
全身を内部まで切り刻まれて、カタストロは思わず悲鳴を発した。
念爆崩拳を放っていなければ、この隙を突かれて死んでいた。
激痛に耐えてサイコキネシスで全身を修復しながら、カタストロはモースの猛攻を受け続けた。
「げぼっ・・・」
強力な一撃を食らってしまった。破れた内臓から流れ出た血が、口から溢れ出す。
力と速さはモースが上、精度と技量はカタストロが上。総じて戦えば互角のはず。
ならば、この優劣をもたらしているものは何か。その正体が判別できる領域は、とっくに超えている。
1秒間に何十回も削られる大地が、それを物語っている。
カタストロは、自分と同じ顔をした妄執が迫ってくるのを感じ、それが死神の首狩り鎌に見えた。
常人なら致死量をとっくに過ぎている血を流し、彼女は息を荒くして戦い続けた。
(私が原因か、モース。私に対する執着が、お前を狂わせたのか。)
カタストロは明らかに動揺していた。それが捌きを鈍らせているのか、モースの狂った告白から、今まで相手に僅かなダメージも与えていない。防戦一方で、防ぎきれてもいない。
(馬鹿・・・。)
(馬鹿・・・。)
(馬鹿・・・。)
脳内で同じ言葉がリフレインされる。
悔しくて悲しくて、やりきれない。
(私は強くもないし美しくもない。生きる為なら殺人も厭わない、醜悪な化物だぞ? お前が憧れているのは私ではない。“フィー・カタストロ”という名の偶像だ。)
モースは惚れた相手に容赦なく攻撃を加えている。いや、惚れた相手だからこそ容赦しない。殺したい。

“愛してるけど殺す”のではない、“愛してるから殺す”。

(殺すよ、モース。)
カタストロも覚悟を決めた。
彼女の体が白く輝いた。
「!?」
形容するならば、白い炎。魂を燃やしているような神々しい念力のフィールドが、カタストロを包んだ。
次の瞬間、モースは殴り飛ばされていた。
「がっ・・げほっ・・・!?」
たった一発の念爆崩拳で、モースの体はボロボロにされた。
体感から推測して、50倍以上の威力。桁が違う。
「使うのは、ひどく気が進まないんだが・・・これが一応、私の切り札みたいなものだ。」
白く輝く念力場は消えている。一瞬だけ出したのには理由があった。
「電球がエネルギーの全てを発光に使っていないように、念力も全てのエネルギーを破壊に使っているわけではない。C級の出力でも全てを破壊のエネルギーに変えれば、A級に匹敵する破壊力を出せる。いつだったかな・・・お前が『C級はA級に勝てない』とかほざいて、ケンカになったのは。」
カタストロは昔を懐かしむような、遠い目をしていた。
「たいした・・・威力じゃねえか・・・。それで何故、使うのに気が進まない・・・?」
「この技は未完成だ。切り札と言うには恥ずかしいくらいに寿命を磨り減らす・・・。だが、お前を殺す為なら寿命の10年や20年、くれてやる。」
「嬉しいぜ。俺の人生も報われる。」
「・・・その馬鹿げた迷妄を打ち砕いてやる。」
カタストロは再び白く燃え盛った。
しかし、それと同時にモースも白く輝いた。
「!?」
「くはははは!」
両者は激突した。白く燃え盛る2人のエスパーが、周囲をバラバラに吹き飛ばしていく。
地面は泡のように簡単に切り裂かれ、数十キロ四方に渡って爆音と暴風が荒れ狂った。
「俺の思いを舐めるな! 誰よりも誰よりもお前を見つめていた! お前の変幻自在の念力を真似てるんだ・・・一度見た技は拙くも使える!」
形勢は決定した。たとえオリジナルよりも精度が劣ろうとも、出力で3倍以上も勝っている。
モースの猛攻を前に、カタストロは傷ついていくのみ。もはや彼女にこれ以上の切り札は残されていない。
誘爆サイコキネシスも、この距離で使えば自分が死ぬだけ。それ以前に使う隙も無い。
(眠い・・・)
身体を維持するサイコキネシスも弱まってきて、大量の血を失ったカタストロの意識は、次第に細くなっていった。

(フィー、これで最後だ。)
モースがとどめの一撃を放とうとしたとき、その腕が動きを止めた。
(!?)(動かない)(何故だ)
そのときモースは自分の体から白い炎が消え失せていることに気付いた。
自分の手が100歳を越えた老人のように、皺だらけになっていることに気が付いた。
「ごっ・・・ごれ゛ば・・・」
「・・・・・・。」
カタストロも元の状態に戻り、暗い表情でモースを見ている。
「・・・だから、言っただろう。寿命を削るって・・・。秒間数年単位で命を削る技なんだ。1分も経たずに老いて死ぬ。」
「な゛ぜ・・・お゛ま゛え゛ば・・・」
「大したものだよ、お前の同一化能力は。私と殆ど変わらない精度だ。使う方向は間違っていたが、その努力には敬意を払おう。・・・しかし、この技は未完成だと言ったよな。紙一重の精度の違いで、1秒あたりの消費寿命は何年も違う。」
「・・・・・・・・・・・・。」
モースは無言で悲しく笑って、地面に落ちていった。
老いた彼の目に涙が滲み、昔と変わらないフィー・カタストロの姿が映った。

美しい・・・。
フィー、お前はいつまでも美しいな。
これが最後の光景で、よかった。
報われた。
俺の人生は報われた。
悪魔に魂を売ってでも、こんな最後を迎えたかった。
フィー・カタストロ。
お前は永遠だ。
いつまでも、いつまでも・・・。
強く・・・
美しく・・・
気高く・・・
乾いた荒野を吹き抜ける、一陣の風だ。
そうだ、やっとわかった。
俺はフィーを殺したかったのではない。

こうしてフィーに・・・
・・・殺されたかったんだ・・・・・・



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エスパー奇譚』長編小説 「千里」 NEKTAR 目録
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2016/06/22 00:02

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
火剣「同情は被害者への冒涜」
ゴリーレッド「名言だ」
火剣「あとの9人は素人でもモースは達人。そういう意味で完全に別格だ」
コング「しかも大感情がプラスされている」
火剣「保険としてシュシュ・オーディナークか」
コング「保険は大事だ」
火剣「クレアは自分に起こる不測の事態を予知していたのか」
ゴリーレッド「不意打ちに近かったと思う」
コング「不意打ちは決まるんだ。ゴルゴ13が喫茶店の角にすわるのは正しい。後ろと横が壁」
ゴリーレッド「モースが愛したのはフィー・カタストロの偶像なのか」
コング「♪あなたーわたしのー、まぼろしをー、あいしたのー」
火剣「コピーは能力だけをコピーするが同一化は全部同じになるということか」
ゴリーレッド「キアラ・テスタロッサにもなれるということは」
火剣「クレアと首領は無理っぽいが。あとはシュシュ」
コング「1分間に500発は不可能だ」
ゴリーレッド「シャラップ」
火剣「目的はやはりフィーか」
ゴリーレッド「どこで道を誤ったか、それともモースにとってはこの道しかなかったのか」
火剣「同情は被害者への冒涜。ハービスたちのむご過ぎる戦死を考えると、モースのワガママでしかない。指揮官の罪は重い」
ゴリーレッド「負けてもいい。始めから勝つことを考えていないから作戦もない。こういう相手と戦うのは危険だ」
コング「キング・ハンマー! フィーがこれほどのピンチは珍しい」
火剣「フィーに殺されることを心の底では感じていたのか」
ゴリーレッド「ハービスたちのことを思ってエゴイストと切り捨てたい。モースは満足して死んだかもしれない。でもハービスたちは無念極まりない終わり方だった」
火剣「同情しそうになったらあの名言を思い出すのか。同情は被害者への冒涜。加害者天国の日本にもこの言葉は重要だ」

火剣獣三郎
2016/06/22 22:31
>火剣さん
同情は被害者への冒涜。この信念がクレアを突き動かしています。
クレアとて、アンティローグの面々に思うところはありますが、引きずられてしまっては己を見失う。組織の最高幹部として、厳しい態度で臨みます。
これで十戒も殲滅。アンティローグの巻き起こした騒乱は、これから収拾へ向かっていくことになります。

山田「モース・リーガルは悲しい男だった。何が彼を狂わせた?」
維澄「フィーは責任を感じる必要は無いが、やはり自分のせいでと思ってしまいそうだね。」
佐久間「狂わない恋など本物ではない。」
八武「恋愛はエゴイズムか。それもまた真理。」
神邪「あらゆる意味で、完全に別格でしたね。カタストロさんがここまで追い詰められるシーンを初めて見ました。」
佐久間「それも狂愛ゆえに。」
八武「神酒は飲んだ者の感情を増幅する。神酒を飲んでしまったから、抑え切れなくなったのか。」
維澄「・・・だけど、どこで飲んだんだろうね。ティムが神酒を渡した相手は少女だったというから、アイドに渡したってことなの?」
神邪「モースが同一化で少女に化けていた?」
山田「同一化は神酒を飲んで身につけた能力じゃなくて、元から持っていたのか。」
佐久間「そう思うか?」
山田「うーむ・・。」
八武「いずれにしても、犠牲は大きかった。マイヤ、ラプソディア、ハービス、ヴェネシン・・」
佐久間「女ばっかり。」
神邪「加害者の方が満足して死ぬというのは、救われない結末なのかもしれないですね。」
佐久間「もう少し話は続くよ。」
アッキー
2016/06/22 23:34

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