佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「NEKTAR」 十七、毒蜂の唄

<<   作成日時 : 2016/06/05 00:00   >>

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夜の闇の中に、青白い月の光を浴びて、女が立っていた。
ふわりとした黄色い髪と、折れそうなくらいに細い首。
不気味に輝く瞳は暗い色をしていて、殺気も怒気も感じられない。
ハービス、ウロイ、リック、ゼルークが痛みを堪えて起き上がったとき、そんな光景が見えていた。
ラドルも目を丸くして、彼女の出現に驚いていた。
「・・・間に合ったが・・・全滅には間に合ったが・・・死者が出たか、27人・・・。これ以上ね、死なせてたまるもんですか・・・。」
女の細々とした声に、ルードは恐怖を感じていた。
貫かれた傷は回復していたが、それが油断ではないのが問題だった。攻撃が来るのは察知していて、ラドルへの攻撃を中断して防御に切り替えた。それなのに貫かれたのだ。
更に、彼女からは感情めいたものを殆ど感じない。人間らしさを感じられない。
まるで死人が動いて喋っているように思えた。
「わたしは“大雀蜂”ヴェネシン・ホーネット・・・。お前を葬りに来た・・・。」
虚ろな目で淡々と喋る。
ルードはヴェネシンの出力を計ってみた。データの倍になってるが、それでもルードの方が4倍は強い。
しかし、それでも先程は腕を貫かれたのだ。力が劣っていて貫かれるなら理解できるが、その逆はわからない。
わからないからこそ、恐怖する。
「・・・お前が、誰とか、どうでもいい・・・。死ね・・・。」
誰も気配が読めなかった。
ヴェネシンは一瞬で間合いを詰めて、ルードを念力の槍で突き刺した。
「ああ・・・惜しい・・・。」
ルードは咄嗟に心臓への直撃は避け、腹に穴が開いたままテレポートしていた。
しかし短距離しか飛べない。すぐにヴェネシンに追いつかれた。
「つぁっ!?」
男根に念力を集中して薙ぎ払う。ルードの方が4倍も出力は高いのだ。真っ向勝負なら弾き飛ばせる。
しかしヴェネシンは不気味で、とてもそれだけの差があるようには感じさせない。
弾き飛ばされても、ゾンビのように起き上がって、再びルードと対峙した。
「・・・死者の定員って・・・決まってると思うか・・・?」
「?」
「わたしは・・・思ってる・・・。毎日毎日・・・老いや病気だけでなく、事故や・・・殺人で・・・命を落としていく・・・。どうやったって、それがゼロに出来るとは思えないんだ・・・。」
ヴェネシンの目が大きく見開かれ、口元が歪んだ。笑ってるようにも、怒ってるようにも、悲しんでるようにも見える。
「ゼロに出来ないならば、わたしが代わりに死ぬしかないなァ・・・たとえば、お前なんかを道連れにして・・・。」
「なに・・・何を言ってるのです・・・。」
ルードは冷汗をかいていた。
「具体的に言うと、わたしが何もしなければ、この5人が死ぬ。・・・でも、わたしが戦えば・・・ヒヒヒヒ。」
ルードだけでなく、ハービスたちも寒気がした。
「生命力をね、燃やしてるんだよ、攻撃と防御のときにね。」
「・・・?」
「鈍いな・・・。わたしも飲んだの・・・“神酒”・・・。」
「なに!?」
「なっ!?」
「ええっ!?」
口々に驚きの声が、夜の空を飛び交った。
「出力としては、まあ、A3級の中位くらい、だけどね・・・。ほら、“神酒”は、性質を増幅する・・・。わたしの寿命を全部使って、お前も道連れにして、それで5人分の命、まからないかな、神様?」
「・・・・・・!」
ルードは逃げ出したくなった。
だが、ヴェネシンが空間をジャミングしていて、テレポートは短い距離しか飛べない。
「・・・どうかな。一緒に神様にお願いするってのは・・・。ねえ、そうしようよ。ねえ・・・。」
「ひっ・・・!」
虚無的な狂気がルードに恐怖をもたらしている。
あくまでもルードは正気であり、残虐行為をしていても、狂人には恐怖を感じるのだ。
「スティング・ランサー!」
念力の槍がルードを貫く。今度は右肩。
腹の傷も、まだ治っていない。
(こうなれば、逃げに徹するしかなさそうですね・・・!)
しかしヴェネシンはそれを許さない。
「・・・逃げたい?」
ギュウンと音がして、ヴェネシンの周囲にエネルギーが集約する。
「ガトリング・ランサー!」
全方位攻撃のスティング・ランサー。
ルードは逃げきれず、両足を貫かれた。
「ぐっあっ・・・!」
「ヒヒヒヒ。」
全方位攻撃にもかかわらず、ハービスたち5人にはギリギリで当たっていない。
狂気に支配されていても、恐ろしいほどに技は正確だ。
「欲望のままに暴れる雄豚・・・お前のような奴は・・・苦しんで苦しんで死ね・・・。」
回復は間に合わせない。狂気のヴェネシンは急所を外しながら何度も何度も攻撃した。
「ぎっやああああ!!」
「ゆっくり殺す・・・ゆっくりゆっくりと殺す・・・。」
ヴェネシンは舌なめずりした。
「ひいいいいっ!?」
ルードはたまらず逃げ出したが、行き先にヴェネシンがいた。
「・・・ゆっくりしていけ・・・ゆっくり殺すから・・・」
「げぼっ!?」
頚動脈や頚骨を避けて、気管だけに孔を開けた。
「そろそろ・・・これ、いっとくか・・・。」
ヴェネシンは念力の槍を作り、ルードの巨大な男根めがけて突き刺した。
「ぎえええええええええええええええええええええええええええええええ」
ルードの悲鳴が夜の空気を振るわせる。
「フフ、いい音・・・。」
ヴェネシンはクスクスと笑っている。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええ」
気管の孔も塞がりかけていて、叫び声はルード自身の耳も潰しかねないほどに響く。
その絶叫がヴェネシンの耳には心地よく響いていた。
「いい声してる・・・。欲望の捌け口で殺された人々への鎮魂歌・・・。」
ハービスも、ラドルも、ウロイも、リックも、ゼルークも、自分たちを殺そうとしていたルードより、味方であるはずのヴェネシンの方が恐かった。
うっとりとした顔の彼女が、死神のように感じられた。
「ぎっ、がっ、ぐがっ・・・・」
ルードは呼吸もままならず、地べたを這いずって、もがいていた。
ヴェネシンはそれにもう数箇所攻撃を加え、内股の3分の2を破壊した。
「ぎぎぎいいい・・・! ぐぎいいい・・・!」
「あなた・・・死ぬわ。」
ヴェネシンは薄笑いを浮かべてルードを見下ろした。
いつの間にか彼女の顔には、深い皺が何十も刻まれていた。
細い首も皺だらけになり、今すぐにもズルリと皮が剥けて落ちそうだった。
老いた手首を震わせて、ヴェネシンはよろよろと座り込んだ。
「ヴェネシン!」
ハービスが走ってきた。他の4人も駆けつける。
「もう・・・終わりか。・・・わたし、死ぬのね・・・。」
「しっかりするのよ!」
「ああ・・・。」
ヴェネシンは皺の奥の虚ろな目でハービスを見た。
そのとき突然ハービスたちは、サイコキネシスで吹き飛ばされた。
「「「!?」」」
それと殆ど同時にルードが、最後の力で襲い掛かってきた。
予知していたヴェネシンは、ふわりと起き上がって、手刀でルードの頭を貫いた。
ルードは息絶えたが、同時にヴェネシンも何箇所も貫かれていた。
「ごふっ・・・」
今度こそ立ち上がる力も無く、ヴェネシンは暗い大地に倒れこんだ。


- - - - - -


気が付くとヴェネシンは5人に囲まれていた。
(え!?)(イブ!?)(キャンディナ!?)(どうして)(死んだはずじゃ)(あ)(そうか)(わたしも死んだのか)
(あ、アトラト? お前も死んだのか?)
『違いますよ。誰も死んでなんかいません。変な夢でも見たんですか?』
『それよりも姉さん、今日は―――の誕生日よ。』
(だ、誰のって?)
『ヴェネ、あたいね、結婚したのよ。ほら、あたいの夫と子供。』
残る2人は光でぼやけていて、顔がよく見えなかった。
(け? 結婚っっ!? 子供ォ!? わたし、おばあちゃんになっちゃったの?)
『そうよ。まだ寝ぼけてるの?』
『まあ、みんな揃ったことですし、歌いましょう。』
(そ、そうね。じゃあいくわよ、せーの!)

Happy-Birthday to you♪
Happy-Birthday to you♪
Happy-Birthday dear ―――♪
Happy-Birthday to you・・・

だんだんと5人の笑顔が光でぼやけて見えなくなっていく。
(幸せだなあ)(わたしは幸せだ)(この幸せがずっと続けばいいな)(ずっと)(ずっと)(・・・・・・)
光に包まれながら、ヴェネシンの意識は消えていった。


- - - - - -


「動け、この心臓が!」
ハービスは必死な顔でヴェネシンの心臓マッサージをしていた。
ラドルとウロイ、リックとゼルークも加わって、5人でヴェネシンを囲んで肉体の修復を施している。
しかし老いた肉体は修復する側から崩れていく。ハービス以外は諦めかけていた。
「ずっと孤独だったんだろ・・・表面では冷静でも・・・。私も今頃になって気付くなんてな・・・。起きろよ蜂女! 私らが孤独を癒してやる!」
ハービスがここまで激昂して必死になる姿を、4人は初めて見た。
そこにいるのは砕組分隊長ではなく、友を思う1人の女だった。
「起きろクソバカ! 起きろよ・・・!」
そのとき心臓がドクンと鳴った。
「ヴェネシン!」
「・・・py・・・thday・・・・you・・・」
「おい!」
弱々しい心臓の鼓動と共に、ヴェネシンが口ずさむのが聞こえてくる。
「・・・大きく・・・ったな・・・ンディナ・・・・いつの間に・・・なに大き・・・・きれいに・・・」
「笑ってやがる・・・。」
「・・・までは・・・子供だと思って・・・月日が過ぎるのは・・・」
「戻ってこいバカヤロ!」
ハービスが怒鳴り散らすと、ヴェネシンの口が閉じた。
代わりに、虚ろだった目がいったん閉じてから見開かれ、体中の傷が急速に塞がっていった。
皺も瞬く間に伸びて消え、若い体に戻ったヴェネシンは、忌々しそうな顔で起き上がった。
「せっかくイイ夢みてたのに・・・この馬鹿。」
「・・・!」
ハービスはヴェネシンに抱きついた。
「ちょっと、痛いって。」
「戻ってきた・・・戻ってきた・・・」
「仕方ないわね、まったく。・・・おかげで死に損ねたわ。」
ヴェネシンはハービスの肩を軽く叩きながら、溜息をついた。
「・・・いつまでも抱きついているな。とりあえずカームたちと合流するぞ。」
ヴェネシンは5人を連れてテレポートした。


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
コング「ヴェネシン・ホーネット見参」
火剣「死者の定員?」
ゴリーレッド「ルードは狂人のふりで狂人ではないから恐怖心を抱く」
コング「僕は恐怖心を抱かないけど正常だ」
ゴリーレッド「十分おかしいと思うが」
コング「ヒヒヒヒ」
火剣「まさか道連れ? そんなことしなくても倒せる」
コング「そろそろこれいっとくか・・・むごい」
ゴリーレッド「むごくない」
火剣「夢?」
コング「幸せだなあ。僕は君を犯している時が一番幸せなんだ。いいだろ?」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「ぎえええええ!」
火剣「熱いハービス」
ゴリーレッド「本気の情熱だ。心臓マッサージをする医師も少しやって諦める場合と、何度も何度もマッサージして戻って来いと叫びながら続ける医師もいる」
コング「若い体に戻った?」
火剣「とにかくラプソディアの仇を討った」
ゴリーレッド「もう一人のアタルは危険度がもっと高いかもしれない」
火剣「ルードも犯すのでなく殺戮のルードだったとは見抜けなかった」
コング「見抜けなかった」
ゴリーレッド「コングも残念がっているが人と違う理由だな」
コング「犯してから殺すまで30秒くらいあれば『やめろ、貴様・・・わかったやめて・・・いやあああ!」
ゴリーレッド「卍固め!」
コング「NO!」
ゴリーレッド「不謹慎男は死刑だ」
火剣「カームと合流。次なる敵は?」




火剣獣三郎
2016/06/05 16:38
>火剣さん
あわや全滅というところでしたが、“神酒”でパワーアップしたヴェネシンの活躍で、ラプソディアたちの仇を討つことが出来ました。
その代償として死に瀕したヴェネシン、しかしハービス必死の訴えが彼女を現世へ戻します。パージャの一件で対立したままだっただけに、あのまま別れたくはない。

八武「美しい女同士の友情だねぃ。」
維澄「コムザインとハービスが本命だけど、ヴェネシンもダークホース。」
佐久間「あくまで友情だ。」
山田「何とかルードを倒せたか。犠牲を思うと喜べないが。」
八武「私も喜べない。」
佐久間「違う意味で?」
神邪「しかしヴェネシンさんは、このまま安らかに眠りたかったかもしれないですね。」
山田「うーむ。」
佐久間「戦士は簡単には死ねないんだよ。」
山田「そういうことか。」
佐久間「死ぬときはアッサリ死ぬけど。」
八武「ラプソディアのように・・・。」
佐久間「そう。」
八武「ふぐう。」
山田「ふぐう。」
維澄「レクイエムを歌おう。ラプソディアは死んでも、彼女の鎮魂歌は生き続ける。」
佐久間「次はアタル兄弟の兄、マーダとの戦いだ。」
アッキー
2016/06/05 21:08

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