佐久間闇子と奇妙な世界

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<<   作成日時 : 2016/07/09 00:05   >>

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ダンツォルティ・アビリュステロスは、いかなる人物だったか?

結論から言えば、限りなく空虚に近い人間だったということになる。憎悪、憤怒、色欲、殺意、虚栄心、慈愛、尊敬、仁義、憧憬、勇気、妄信、悲哀、嫉妬心、好奇心、探究心、献身、友愛、破壊衝動、羞恥心、後悔、優越感、劣等感、倦怠感、向上心・・・・・・いくら挙げ連ねたところで、彼の中に見出せるものは何ひとつとして無い。
善意も悪意も無い、空っぽの人間。自らの持つ知識や記憶に優劣が無く、固有の関連性を持たない。さながら巨大なデータバンクのような人間だ。図書館は自ら本を読むことはなく、訪れた者が読むのみ。
喜びを感じていなかったことはもちろん、苦痛を苦痛として認識してもいなかった。どれほどに人権を侵害され剥奪されようと、彼は何も思わない。ただその事実を記憶するだけである。石版は痛みを感じない。
生理的なこと以外は特に動くこともなく、何も考えていない状態が平常だった。何をされても平常が揺らぐことはなく、彼の脳は淡々と情報を蓄積するのみだった。アルカディア本部にある“神酒”を調べてみても、彼は生涯ただの一度も、殺されるときでさえも、誰を恨むこともなかった。一切の悪意が感じられず、善意も無い。
記された事実は私でも吐き気を催すものだったが、そこに彼の感情というものは見当たらなかった。彼は人間の形状と機能を持った、別種の生命体だった。そうとしか言いようがないほどに、彼の精神は乖離していた。

それでは、彼自身の血肉である“神酒”を服用した人々が、揃いも揃って悪行に及んだのは何故だろうか?
“神酒”は服用した人間の性質を増幅するが、善意も悪意も等しく増幅するはずだ。現にヴェネシンとカームは、多少の違いこそあれ、殆ど元のままの自分であり続けた。人間は善悪両方の性質を持っていることは言うまでもない。今回の千人が全て悪の方へ傾いたのは、どう考えても不自然である。
私は、何者かの作為を感じる。それはおそらく、私でも不可視な領域“リバース”のことだろう。今回の事件で使用された“神酒”は、長らく奴らの手にあった。奴らの悪意が焼きついていてもおかしくない。

真の首謀者は闇に姿を晦ました。アンティローグは壊滅したが、やりきれないのは私だけではない。
コムザインは表面的には以前と変わらず尊大に振舞っているが、未だに夜は眠れていない。酒の量も増えたし、咳き込みながら煙草を吸い始めた。殆ど壊滅状態となった砕組は人員補充の目処も立っておらず、今回で辞職する者も多かった。コムザインの部下は今、5人だけになっている。
カタストロは重幹部の職を辞して、弔問の旅に出かけた。今回のことで一番傷ついたのは彼女だろう。最愛の弟子たちを無残に殺され、最高の友人を最も残酷な形で失った。犠牲者の遺族は数知れず、彼女がアルカディアに戻ってくるのは何年も先の話になる。

出立の際に、カタストロと言葉を交わした。
『クレア・クレッセント。』
『恨み言?』
『・・・私にそれを言う資格など無い。』
『・・・・・・。』
『ただ、アルカディアを去る前に、このことだけは伝えておかなくてはならないと思った。・・・クレア、自分を信用するな。』
『何だ、それは?』
『千里眼の能力者を相手に、こうして言葉で話している意味がわかるか。』
『?』
『本来なら、私の意図がわからないはずがない。』
『!』
『クレア・クレッセント。お前に感じていた気味の悪い違和感の正体が、今回の事件を通じて、ようやくわかった。』
『・・・・・・。』
『お前は人間だが、同時に神の領域に足を踏み入れている。そこなんだよ、“邪神”ノットーと同じ部分は・・・。』
『そうだろうな。私は冗談交じりにノットーの後継者だとか噂されている。ある意味では当たってるな。』
カタストロの言ってることは理解できる。神の領域に入ったとき、私は自分の感情が冷えていくのを感じる。
ダンツォルティと同じように、全ての事象が並列に見えてしまうことがある。好き嫌いという概念が入り込まない。
そうなったときの私にとって、人の命というものの尊さは理解できなくなっているかもしれない。もしかすると、今回これだけ多くの犠牲者を出したのは、おぞましい私の神的性質のせいなのか。そうでないとは誰にも言えない。
本当にゾッとする。千里眼の能力者だからといって、正しく自己認識できているとは限らない。そんな当たり前のことに今まで気付けなかったなんて、ショックにも程がある。本当に、気付いていなかったのか?
無意識の領域は圧倒的に広い。私という、比類なき千里眼でさえ、自らの無意識を知り尽くしてはいない。
なまじっか他人の精神は無意識の奥底まで覗けるからこそ、自分の無知に気付かない。

私は4月14日を暗い気分で迎えた。
32年前にノットー・リ・アースがアルカディアを裏切った日。当時も“神酒”が使われた。
また同じ失態を繰り返してしまった。
多くの犠牲者を出してしまった。
許されない。
しかし、心の奥底から別の声も聞こえてくる。
誰が死のうが、誰が生きようが、そんなことはどうでもいいと。
それに気付いた人間が、1人いたよ。
『クレア、お前・・・本当は、誰が死のうが、誰が生きようが、どうだっていいとおもってるんじゃねえのか?』
『え?』
よほど泣きそうな顔でもしてたのだろうか。
彼は私を見るなり、ギョッとして謝った。
『いや、すまん・・・!? 忘れてくれ。気の迷いだ。何か、無意識に口を突いて出てきた・・・?』

気の迷いなんかじゃないんだよ、レックス。
お前は誰よりも私を理解している。だからこそ、知られたくないことまで知られてしまう。
私の中身を知ったなら。嫌な思いをするだろう。吐き気を催す嫌悪感に苛まれるだろう。
私は悪意の塊が人の皮に入っているようなものだからな。我ながら反吐が出る。
十戒の連中やパラメッタをも上回る狂気と悪意が私の中に潜んでいる。どれだけ抑えようとしても滲み出る。

レックス、お前だけが私を狂気から救い出してくれる。
かろうじて人間でいられるのは、レックスがいるからなんだ。
お前がいるから、世界を美しいと思える。
生きてることが幸せに思える。

時が経てば、また笑えるようになる。

幸せなんだ、私は。










その後の経緯を少し記しておこう。

砕組の人員補充、すなわち人材確保と育成の為に、京狐夜果里が駆り出されることになった。
また、キアラ・テスタロッサも戻ってきて、同じ仕事を担当した。彼女は世界中に知り合いがいる。
夜果里が砕組方面の担当となったことで、報組は暫定的にギガマイル・クレッセントの管轄となる。
ギガマイルはティムの子を妊娠しており、12月に出産。(例の媚薬POSには排卵誘発の効果もある)
生まれた子供は名をティアラと名付けられた。ギガマイルことクレアの子供は、これで4人目となる。

アルカディアは大きく変化していた。
砕組系列では属性組の発言力も増し、月組系列の発言力も高まっていった。
重幹部代行としてスカーレット・マーチが運営に加わり、少しずつ世代交代の波が押し寄せていた。
難民の救済活動、建築物の復旧工事、エスパーの存在を隠蔽する為の工作、やるべきことは幾らでもあった。
いつもにも増して凄まじい忙しさだったが、それが辛さを忘れさせてくれた。

“神酒”の研究はギガマイル・クレッセントに一任され、表向けには完全に再凍結された。
他にもアルカディアの管理できていない“神酒”があるかどうか、歴史を巡りながら調査中である。





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エスパー奇譚』長編小説 「千里」 NEKTAR 目録
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
火剣「ウロイが殺された?」
コング「そんなバカな」
ゴリーレッド「不死身のウロイが」
コング「裸身の少女?」
火剣「片羽の天使」
ゴリーレッド「(7)が汗びっしょりになるとは」
コング「リバースは世界を裏から見るか。女の子は股よりもお尻を見られるほうが恥ずかしいと聞いた時にうつ伏せ拘束も効果抜群と知った。ドエス魔人の決めゼリフ『嘘を言ったらお尻を責めるよん』は効く」
ゴリーレッド「とりあえずリバーススープレックス!」
コング「があああ!」
火剣「ここでこの名が再び。サトリンの愛が勝つか、イヴィルの狂気が勝つか」
ゴリーレッド「戦慄のゲシュペンスト」
コング「挙げ連ねた言葉の中で僕にもあるのが、色欲、慈愛、尊敬、好奇心、探究心、献身、向上心」
ゴリーレッド「善悪両方ではなく悪だけ増幅するようにリバースが手を入れたのか」
火剣「コムザインのショックは大きい」
コング「クレアは神の領域に足を踏み入れていたのか」
火剣「クレアを最も知る男はレックス」
ゴリーレッド「神酒は多くの人生を狂わせた気がする」
コング「クレアは4人も産んだか。でも神の領域に入ったら余計にレイプされたことが新鮮だったのでは?」
ゴリーレッド「クレアに聞いてみればいい」
コング「NO」
火剣獣三郎
2016/07/09 11:02
>火剣さん
多くの戦死者の中でも、ウロイは特殊です。しかし、イレギュラーな死のようであって、実は(4)のシナリオには組み込まれていたのかもしれません。
サトリンとイヴィルの戦いも、このとき既に計画に入っていました。

山田「ウロイまでも。戦闘シーンが無かったから、生き残ったと思ってたのに。」
八武「うろおい・・・。」
維澄「ゲシュペンストやサトリンとも繋がっていたとはね。」
山田「コムザインは悲しみに暮れ、カタストロは旅立った。これからアルカディアはどうなってしまうんだ?」
八武「復旧作業が痛々しいねぃ。」
佐久間「新旧交代の過程でもある。」
山田「神酒は恐ろしい兵器。これは間違いない。」
佐久間「神の心境は、全てが並列に見える。犯されることも新鮮ではない。強いて言えば、逆に見飽きてるってとこか。」
維澄「なるほど、千里眼だから世界中の強姦事件が見えるんだ。」
神邪「少女の頃にも犯されていましたしね。」
佐久間「この心境は説明しにくい。説明しても、わからない奴はわからない。」
山田「レックスに殴られるように仕向けたのも、人間としての自分を味わう為なのか・・・。」
アッキー
2016/07/09 22:57

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