佐久間闇子と奇妙な世界

アクセスカウンタ

zoom RSS クロス・アバター   幕間

<<   作成日時 : 2016/08/23 00:00   >>

驚いた ブログ気持玉 1 / トラックバック 1 / コメント 0

◆ ◆ ◆



顔良し、成績良し、運動良し。
家は金持ち、女は不自由しない。

僕に足りないものは何だろうな。
僕に足りないものは何だろうな。



◆ ◆ ◆



「僕に足りないものは何だろうな。」

湯布院根黒(ゆふいん・ねくろ)の呟きは、保健室の壁に消えた。
細身の長身を寝台に横たえ、切れ長の瞳は溜息で曇る。

「・・・わかってるさ。」

麻痺した頭が、惰性で言葉を吐き出す。
ぼんやりとした不安で頭が痛くなる。

「最初から持っている者に幸せなど無い。持たざる者が欲しいものを手に入れるのが“幸せ”だ。」

醜い容姿から美しくなれば。
悪い成績が良くなれば。
苦手な運動が得意になれば。
働いて大金を手にすれば。
頑張って女に振り向いてもらえば。

「僕の持ってないものは何だろうな。僕の持ってないものは何だろうな。綺麗な心か。馬鹿馬鹿しい。」

ぼんやりとした不安が拭えない。
ネクロは起き上がって、覚め切らぬ目を擦った。



- - - - - -



「あんたが脳堂美宇?」

学校を早退したネクロは、少し遠くの私立高校へ足を運んだ。
そこに“残る1人”がいる。

細身なのに豊かな胸と、くびれた腰。
プラチナブロンドの髪を、流すように伸ばした美少女。

「のうどう、みう・・・“右腕”だから“みう”なのか・・・あはは、単純だな。」
「何ですか、あなたは?」
「いや、美少女なんで驚いた。ノエルやダリアも形無しだな。」
「話をする気が無いんでしたら、失礼します。」

感情の凍ったような目で、美宇は歩き去ろうとした。
しかしネクロが口にした言葉が、その瞳を見開かせた。

「俺は湯布院ネクロ。」

歩き去ろうとしていた足が止まり、きびすを返す。
モデルのように立ちながら、美宇は瞼を怪訝に歪める。

「ゆふいん、ねくろ・・・あなたが?」



◆ ◆ ◆



僕らはグチャグチャの肉塊だった。
精子と卵子が結合して、桑の実が出来て、魚になる。
手が生える。足が生える。手が手が手が足が足が足が。

蠢くミートボール。手足の数は干支の倍。
目玉の隣に尻がある。口の隣に臍がある。
綺麗な体も位置を変えるだけで醜い。

僕らはグチャグチャの肉塊だった。
きっと自分しか愛せない。



◆ ◆ ◆



「ずっと真面目に生きてきた人がいるとして。」

半開きの瞼の下で、美宇の怜悧な唇が開く。
彼女の部屋は殺風景で、愛想が無い。

「他人から、真剣さを茶化され、真面目すぎて気持ち悪いと言われ、傷つく毎日。他人の無神経さ、不真面目さに苛立つ毎日。それに耐えられなくなって、限界が来て、奪う側へ回る。」

女子の部屋に来ても、色気のある展開にはならない。
ネクロは出された紅茶を飲みながら、黙って聞いていた。

「すると最初から不真面目だった人たちと同じ扱いを受ける。同じどころか、真面目だった分だけ、より悪い評価を下される。実際それは正当な評価で、間違っていない。」

冷たい瞳は半開きのまま、冷たい言葉を発し続ける。

「真面目というのは一種のブランドで、信頼を裏切った分だけ失墜するのは当然のこと。」

張り詰めた部屋の空気が、ネクロを窒息させていた。
腹を触ると、氷のように冷たく感じた。

「だけどその評価は優しくもない。途中で破綻するなら、最初から不真面目に生きる方が得で、世の中に不真面目な人が増えていく。気持ち悪いのよ。」

全ての不真面目な人間よ、お前らはゴミだ。消えろ。
そう言いたげな冷酷な視線で、美宇は淡々と述べる。

「真面目に生きれば、真面目に生き続けなければならない。途中から不真面目な生き方をしても、自分の中にある優しい心が傷ついていくだけだから。」

紅茶の味がわからない。
ネクロは飲み干して、言葉を吐き出した。

「僕は最初から“持っている”から、足りないものも探せない? 持っているものを維持する義務がある? 僕のステータスはブランドで、裏切ってはならない? 足りないものを探している暇があるなら、今あるものを守るべき?」

溢れ出す疑問形は、内側へ向かう激昂。
美宇の言葉は、悪徳への誘惑。

「寂しいのね、あなた。」

紅茶のカップを台所へ持っていき、美宇は手に力を込める。
ぱりんと簡単に砕けた破片が、彼女の手から血を流す。

「わたしたちは自分しか愛せない。どれだけ言葉を紡いでも、自分の物差しで曲解する“他人”なんて要らない。」

カップの破片が捨てられる。
がちゃんと軽い音がする。

「わたしたちは、理解し合えない現実を正しく認識し、それに心が耐えられない。・・・だったら、どうする?」



◆ ◆ ◆



僕らはグチャグチャの肉塊だった。
だけど幸せだった。何の悩みも苦しみも無かった。
人を傷つけることもなく、傷つくこともなく。

ミートボールは完璧だった。
自分が醜いことも知らず、綺麗な心で生きていた。

戻りたい。


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
驚いた

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
決闘学園・壊   目録
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ...続きを見る
佐久間闇子と奇妙な世界
2016/08/28 00:27

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
クロス・アバター   幕間 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる