佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS クロス・アバター   第五話・後編

<<   作成日時 : 2016/08/28 00:00   >>

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◆ ◆ ◆



僕らはグチャグチャの肉塊だった。
精子と卵子が結合して、桑の実が出来て、魚になる。
手が生える。足が生える。手が手が手が足が足が足が。

蠢くミートボール。手足の数は干支の倍。
目玉の隣に尻がある。口の隣に臍がある。
綺麗な体も位置を変えるだけで醜い。

僕らはグチャグチャの肉塊だった。
きっと自分しか愛せない。



僕らはグチャグチャの肉塊だった。
だけど幸せだった。何の悩みも苦しみも無かった。
人を傷つけることもなく、傷つくこともなく。

ミートボールは完璧だった。
自分が醜いことも知らず、綺麗な心で生きていた。

戻りたい。



『寂しいなら、ひとつになろっか?』



◆ ◆ ◆



黒須数多:LP1100、手札1
場:E−HEROヘル・ゲイナー(守0)
場:うずまき(フィールド魔法)

湯布院根黒:LP1500、手札0
場:The supremacy SUN(攻3000)、ハネクリボー(攻1300)
場:振り子の揺れる闇の世界(フィールド魔法)




「は?」

ネクロの目に映った光景は、彼の理解を超えていた。

ぶつかり、破壊されたのは、炎の巨人の方だった。
デュエリスト能力で、戦闘破壊されないはずの《ソドム》が消えている。

既に時は数多のターン。
絶望の太陽が復活し、燦々と燃えている。

だが、フィールドにコンファインモンスターが存在しない今、《イグニス・リン》の効果は適用されない。


「・・・・・・いいな、それ。」


すぐに理解が追いついた。

ネクロ自身が言ったことだ。
そんなこと誰が言ったか。

数多のデュエリスト能力が、永続効果だなんて、誰か言ったか。
数多のデュエリスト能力が、相手モンスターには適用されないなんて、誰か言ったか。



「わりぃなネクロ。絶望はここまでだ。」



生殺与奪(ヘッドクォーター) (所有者:黒須数多)
モンスターが戦闘破壊されるのを無効に出来る。



安らかな笑みが、手札をプレイした。

「なあ、ネクロ。お前が勘違いしてたのは、俺のデュエリスト能力だけじゃねえと思うぜ。」

彼が発動したのは、1枚の速攻魔法だった。

「結城十代が精霊ユベルと、どうやって融合したか知ってるか?」

「―――っ、《うずまき》を発動したのは・・・!」



「このルールは、スーパーエキスパートルールじゃねえ。GXルールだ。《融合解除》発動だぜ。」



ネクロの体から、再び黒い靄が噴き出す。

「んぐっ・・・・・んああああ!!」

「正直、《The supremacy SUN》が出たときはヒヤッとしたが、逆に好都合だったぜ。なにせ、スーパーエキスパートルールとGXルールで、同じ効果を持つカードなんだからな。迷彩になってくれた。」

4人の少女たちが、次々と解放される。
完成しかかっていたパズルは、砕け散った。

手塩聖夜。
白木原ダリア。
笑氏園花。
脳堂美宇。


「お前の言ったことは正しいと思う。上から目線で、偉そうに説教なんて垂れたくもねえ。・・・だがな、ひとつだけ言わせてもらうぜ。絶望なんて、こんなに簡単に打ち破れるんだ!」

「・・・・・・いいな、そのセリフ。だが、勝敗は別だぞ。」



黒須数多:LP1100、手札0
場:E−HEROヘル・ゲイナー(守0)
場:うずまき(フィールド魔法)

湯布院根黒:LP1500、手札0
場:The supremacy SUN(攻3000)、ハネクリボー(攻1300)
場:振り子の揺れる闇の世界(フィールド魔法)




「ヘル・ゲイナーでは、The SUNに勝てない。守備表示で凌ぐしかない。だが、次のターンで僕が、貫通なり除去なり引けたら、面白いよなァ?」

「引けたらな。」

「引いてみせるさァ。このデュエルに勝利して、お前を吸収する。その後で彼女たちを再び吸収する。結局は同じことなんだよ。」

どんみりした目が、デッキに手をかけようとする。

だが、その耳にギリギリと歯車の回る音が聞こえてきた。


「は?」


「魔法カード《パワー・ボンド》!」


《古代の機械究極巨人》 (攻4400→8800)



冷たい鋼鉄の左腕は、絶望の太陽を木っ端微塵に吹き飛ばした。

彼我のステータス差は5800。
ネクロのデュエリスト能力で4000マイナスされても、1800のダメージが通る。


湯布院根黒:LP1500→0





「は・・・・・・はは、なるほどな。そうだな。」

がっくりと膝をついたネクロは、ぼろぼろと泣いた。

「不公平なデュエルを強いた僕が、その不公平さで負けても、文句は言えねえよな・・・。」
「そーゆうことだ。ありがとよ、園花。そして・・・」

照れ臭そうな顔で、数多はネクロの手を取った。

「ありがとよ、ネクロ。楽しいデュエルだった。」
「数多・・・。」




「お前が好きだ、ネクロ。」



◆ ◆ ◆



素粒子のひとつに、グルーオンというものがある。

物質は原子から出来ているが、原子核は中性子と、プラス電荷の陽子が集まって出来ている。
電気的な力は極めて強く、重力と比べれば千京倍の更に千京倍・・・。
原子核という狭い空間に、そのような強烈な斥力が生じていれば、間違いなく粉々になってしまう。

しかし、グルーオンの存在が、それをさせない。
これが支配する核力は、電磁気力の更に百倍。物理学最強の接着剤である。
グルーオンによって、プラスの電荷を持つ粒子同士が、極めて狭い領域に存在できるのだ。



◆ ◆ ◆



「わーりぃ、遅れちまった。」

ジャケットを羽織った青年が、申し訳なさそうに頭を掻きながら歩いてきた。
相手の男は、モデルかと見まごう長身で、サングラスをかけている。

「いや、僕も今しがた来たところだ。マジでな。」

サングラスを外した目は、どんみりと濁っていた。

「あー、参った参った参っちゃうよなァ。俺達もうコーコー生じゃなくなったとか。」
「早いもんだな。あれから2年、僕たちは相変わらずだ。ノエルは進学せず実家の手伝い、ダリアは短大を出たら結婚が決まってるし、園花は戦場へ戻っていった。美宇は平和にボランティア活動だ。」

黒い濁り玉は、今にも崩れ落ちそうだ。
それを見ていると、ジャケットを寂しい風が吹き抜ける。

「ははっ、俺たちって、なーんも無えのな。」
「そうさ、僕たちは何も無いよ。何も無いことが許されていて、当たり前だった時代は過ぎ去った。何も無いことを、嫌でも意識しなければならねえ。つらいぜ。」
「なあネクロ、どうして・・・・・・いや、こんなこと言っても仕方ねえけどよ、どうして俺たちは高校生のまんまで、いられねえんだろうな。」
「そんな青臭いセリフが吐けるようなら、中学生でも通用するぜ?」

どんみりと濁った瞳は、濁ったまま安定していた。



「で、あんたが7人目でいいのか、竜堂神邪?」



パーカーを着た青年は、少年と形容した方がいい顔立ちと体格。
言葉の代わりとでも言わんばかりに、爽やかな笑みを浮かべていた。

「正確には僕が“1人目”なんだけどね・・・生まれた順番としてはね。」

6人分もの内臓が集まっていた生命体。
そんなものが、母親の胎内とはいえ、長く生存できるはずもない。

「君たち6人にとっては、バラバラにされた悲劇かもしれないが・・・僕としては感謝しかないなァ。」

竜堂神邪は双子で生まれてきて、死産だった。
母親は、双子を繋ぎ合わせて1人の人間を作った。
死ににくい肉体の、邪神。

「他の6人を繋ぎとめていた、接着剤のような臓器一式・・・もはや闇アイテムの一種と考えた方がいい。」

それを抜き取ることで、6人はバラバラに、自動的に人間の形になった。
抜き取られた“糊”は、双子を繋ぎ合わせる為に使われた。

「母さんが“堂一族”(シュラインファミリー)の宗主なのは幸いだった。おかげで僕は生き延びた。」

美宇の苗字は“脳堂”・・・その意味するところは、言うまでもない。

「あらかじめ安心させておくけれど、僕は数多くんやネクロ君を吸収するつもりは無いよ。ただ、最後に残った疑問を解消しておこうと思ってね。物語で言えば、エピローグ・・・いや、蛇足かな?」

数多も、そしてネクロも、疑問には思っていた。
どうして7人が固まって生まれてきたのか。

「つまり、僕が言うまでもなく、薄々わかってると思う。」

決して起こりえないことではないと、納得させてきたが、もう駄目だ。
闇の瘴気を纏った臓器一式なんて、生物学だけでは説明できない。

「実験だったんだよ。闇のデュエル組織“カンサー”のね。」

そんな気はしていた。
そんな気がしていた。

「あの街は、本当のところは、“カンサー”の実験体にされた被害者を、異常が無いかどうか調べる施設でね。」

そうだろうと思っていた。
そうに違いないと思っていた。

「・・・だろうな。俺たちなんかより、よっぽど環境をメチャクチャにしてしまえる能力者が、野放しなんだからよ。」

ビートダウンという概念が通用しない者。
ライフを削るという概念が通用しない者。
いとも容易くフィールドを一掃できる者。
普通のカードを極悪火力に変えてしまう者。

挙げていけば切りが無い。
目の前にいる神邪も野放しの怪物の1人だ。

そうした化物たちに比べれば、数多たちの能力やカードの、なんと“ささやか”なことか。

「竜堂神邪、俺たちを、臆病者と笑いに来たのか? “カンサー”と戦わない、少年マンガの主人公としちゃ歳のいっちまった俺たちを、ジジイと嘲笑いに来たのか?」

その言葉で神邪の笑みが消えた。

「まさか・・・その逆だ。僕は“平和ボケ”って言葉が嫌いなんだよ・・・いや、もう好きだな、いっそ。」

頭をガリガリと掻く神邪は、数多のようで。
その底なしに濁った瞳は、ネクロのようだった。

「殺し合いに身を投じるのは、平和に生きてる人々を蔑む為じゃない。」

だけど数多のような常人ではなく。
ネクロのような安定感も無い。

「数多、ネクロ。僕らの運命は、交差することはあっても、一致することはない。戻るべき場所がある奴は、戦わないことを恥じるべきじゃない。」

狂ったニトログリセリンは、しかし優しい顔で。

「・・・それだけ、伝えておきたかったんだ。」

“兄弟”へ向かって笑みを浮かべた。






   クロス・アバター   完

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