佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第五話 虎の最後 (中)

<<   作成日時 : 2016/09/09 00:25   >>

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その日の夜。「ブラックタイガー」の溜まり場は、いつもと雰囲気が違っていた。
幹部5人のうち、九古舜平、枝巻猛、津田馬手紀の3人がいないのだ。殆ど皆勤の3人が揃って不在というのは、何かあったとしか思えない状態だった。
残る2人の幹部のうち1人、紅一点の真知子(まちこ)が訝しがって虎男に訊いた。
「ねえ、リーダー。舜平サンとかは?」
「知るか!」
「・・・・・・。」
真知子は、扇情的な体つきの女で、歳は20歳。いつも黒のライダースーツに身を包み、胸元を強調していた。「ブラックタイガー」の男たちの中には彼女に情欲を抱く者が少なくないが、彼女が胸を見せたいのはただ1人、虎男だけである。
虎男と真知子は深い関係にあるのだと、グループの殆ど全員が思っていた。事実、人前でディープキスを始め体を絡ませたりすることは珍しくない。
しかし、それが全てであって、それ以上の関係は何も無かった。幹部の間では、虎男には他に本命がいると専らの噂であった。
(リーダーには本命がいるらしい。)(あたしは?)(抱いてもくれない)(あたしとのことは遊びなの?)
(きっとそうね。)(清純なコなんだわ。)(男はやっぱり)(そういうスレてない女を選ぶのよね。)
真知子が浮かない顔をしていると、虎男は彼女を片手で引き寄せて唇を奪った。
「ん、ぐ・・・。」
いつも通りの光景なので、皆は気にしない。
「すまねえ、八つ当たりしちまって。」
ぶっきらぼうな声で、虎男が言う。
「ふ・・・・。」
喜びとも諦めともつかない表情で、真知子は微笑んだ。
1人の少年が駆け込んできたのはそのときだった。
「リーダー!」
「どうした、ヒロスエ?」
その少年は、石泥地区での出来事を早口でまくし立てた。
「何だと!?」
その場にいた全員が一斉に立ち上がった。


その少し前、横浜中央病院。
「うう・・・?」
「お、気が付いたか?」
呻き声と共に舜平が目覚めると、そこに自分が少し年を取ったような顔があった。
「わああああ!?」
舜平の叫び声に、病室の鈍郎、櫃、そして看護師がビックリして彼の方を見た。
「・・・・・ああ。」
鈍郎は、すぐに気付いた。自分の顔は舜平にとっては鬼門なのだと。
何年も舜平を虐待していた彼の父、鈍郎にとっては兄にあたる人物、九古鋭郎(くこ・えいろう)。
兄弟だけあって、鈍郎の顔は鋭郎によく似ている。
(そうだ・・・。)
鋭郎が死んでから舜平は鈍郎が引き取ったのだが、どうにもソリが合わず、半年もしないうちに共同生活は破綻したのだ。
(あれから、もう7年か・・・。あの後、間もなくして私は結婚したのだ・・・。)
その頃のことを思い出すと、どうにも地に足の付かない浮遊感を覚える。
鈍郎が回想に浸っている間に、舜平は完全に意識を取り戻して額の汗を腕で拭った。
「ああ、そうだ、親父は死んだんだった。あんた、親父の弟だな?」
「そうだ。7年ぶりになるな。」
「昔のことなんかどうでもいい。何でここにいる?」
「・・・四方髪凜という人物に、よろしく頼まれたんだ。病院へ送ってやれってね。」
「あんたも、あの集会に参加していたのか?」
「ああ。ちょっと個人的な調べ物をね。」
「調べ物?」
「そんなことよりも、ゆっくり体を休めることだ。ここんとこ、ろくに寝てないんだろ?」
「何で知ってる。」
「四方髪凜に教えてもらったのさ。」
「・・・・・・。」
「睡眠は重要だぞ、舜平。」
「うるせえよ、おせっかいも大概にしやがれ。それよりも今は何日だ?」
「18日だ。2003年11月のな。」
「Shit! 丸一日も寝っこけちまってたか!」
下の階で不審な物音がしたのは、そのときだった。
何かを殴るような鈍い音と、何かが壊れるような音。
「・・・ん?」
「ほらみろ! 奴ら、嗅ぎつけてきやがった!」
「奴ら?」
鈍郎が首をかしげると、それに被せるように舜平が答える。
「“ホワイトドラゴン”ってグループさ! 最近このあたりまで縄張(シマ)ぁ広げようとしてやがる・・・!」
「・・・・・・。」
鈍郎が無言のまま廊下の様子を窺うと、荒くれ者たち30人ほどが続々と向かってくるところだった。
「や、やばい。どうする、櫃ばあさん・・・?」
「大丈夫じゃ、心配すんな。」
青くなってうろたえる鈍郎を落ち着かせ、櫃は病室から廊下に出た。
そこへ白っぽい派手な服を着た男が近付いてくる。
「おう、ババア、“ブラックタイガー”の連中の部屋を知らねえか?」
「人を婆ァ呼ばわりするガキに教えるものは何一つ無いよ。」
「んだとこのババア!」
男は櫃に殴りかかった。
と、次の瞬間には宙を舞っていた。
「ゲフッ!」
派手に音を立てて、男は背中を強打して気を失った。
それを見て「ホワイトドラゴン」の連中は思わず後ずさる。
「・・これぞ木村流戦闘術・木の葉返し。」
櫃は構えを取ったまま男たちを睨みつけた。
「あ、あのババア、何モンだ!?」
おののく連中。
だが、それを掻き分けて、1人の男が櫃の前に現れた。他の連中とは違い、白いスーツとネクタイという、ともすれば場違いな格好をしている。不気味な薄笑いを浮かべた彼は、筋骨隆々とした男たちの中で異彩を放っていた。小柄で細身なのにもかかわらず、先程の男など比べ物にならないほどの強さが感じられた。
被っていた白い帽子を手に取り、彼は喋り出した。
「これはこれは、お強いご婦人だ。」
「・・・・・・。」
櫃は一目で、この白スーツの男が只者でないことを見抜いていた。
この狭い廊下、木村流戦闘術があれば30人でも相手に出来る地の利があるが、目の前の男1人が恐ろしい。思わず冷汗をかいた。
「ボブを一瞬で気絶させるとは・・・。これでも彼は“ホワイトドラゴン”の幹部なんですがねぇ?」
「・・・・・・・・・。」
「まぁいいでしょう。それが彼の限界というもの。あなたのような達人を相手にするのは無理がありましたのですねぇ。」
そう言いながら彼は帽子を傍らの部下に預けた。
「しかし、いかなる達人であろうとも私には勝てない。そのことを身をもって味わっていただきましょう。」
次の瞬間、櫃の視界から彼の姿が消えた。
彼女は本能的に危険を察知し、体を捻った。
白い壁に鮮血が飛んだ。
櫃は体の20箇所近くに切り傷を作っていた。
「ほう・・・よくぞかわしましたね。しかし、当然ですが、見切っていたわけではない。竜の牙はかわせても、爪まではかわせない。これが“竜巣”(ドラゴンネスト)の力です。」
白スーツの細目男は、いつの間にか元の位置にいた。
そして再び消えた。
今度は竜の牙が櫃の肩を抉った。
「あ、ぐ・・・・・!」
「まあ、こんなところです。人が竜に勝てる道理は無いのですよ。」
がっくりと膝をつく櫃に、スーツの男は笑いながら言った。
すると後ろから声がした。
「じゃあ、虎ならどうだ?」
剛虎男の声だった。
彼の息は上がっていた。
ヒロスエからの知らせを受けて、全速力で走ってきたのだ。
(“ブラックタイガー”の!)
(剛虎男!)
振り向くなり「ホワイトドラゴン」のメンバーたちは一斉に殴りかかった。
虎男は一瞬目を閉じると、カッと見開き、雨あられのように拳打を繰り出した。彼の四十四の制裁技の1つ“鉄拳隕石”の猛ラッシュが、荒くれ男たちを蹴散らしていった。
みるみるうちに辺りに大男たちの体が山と積まれた。
「ふうーーーっ!」
虎男は強く深呼吸した。
「ほう、やりますね・・・。」
白スーツの男は、この惨状を見ても少しも動じていなかった。
そして彼の姿が消える。
一瞬の後に虎男の間合いは侵略されていた。
「ぐふっ・・・・!」
しかしダメージを受けたのは白スーツの男の方だった。
虎男の四十四の制裁技の1つ、“鉄拳爆裂破”(てっけんバースト)が先に決まっていたのである。
もっとも、虎男も驚いていた。
「俺の“鉄拳爆裂破”を食らって、その程度のダメージ・・・。貴様、何者だ!?」
「フフ・・・・・・。」
白スーツの男は腹を押さえながら苦笑いした。
そこへ「ブラックタイガー」の他のメンバーが、ようやく駆けつけてきた。
「はあ、はあ、リーダー、足速い・・・。」
「まったくですよ・・・。」
真知子とヒロスエは息切れしていた。
しかし数秒後には呼吸を整えて前を睨む。
白スーツの男は、たじろいだのか一方後ろへ下がった。
「ふむ・・・これは少々不利ですねえ。決着はまたの機会にしましょう、剛虎男・・・。私は“ホワイトドラゴン”リーダー、白竜命(つくも・りゅうめい)。覚えておいてくださいね!」
そう言うと彼は部下を置いて、素早く逃げ去った。

「櫃ばあさん、しっかり!」
鈍郎が櫃を抱き起こした。
「ああ・・・鈍ちゃん・・・。」
すぐにスタッフが来て、櫃は運ばれていった。鈍郎はそれに付き添った。
後に残った虎男たちは、舜平のいる病室に入った。
「リーダー!」
やはりという顔をして、舜平が安堵と歓喜の声を出す。
「え?」
「ん・・・?」
枝巻と津田も起きてきた。
虎男は3人をじっと見つめると、突然叫んだ。
「お前ら・・・3人揃って、このボケどもが! しばらくツラ見せんじゃねーぞ!」
そう言うなり、虎男は乱雑に足音を立てて、さっさと帰ってしまった。
しかし舜平は穏やかな笑顔。
「要するに、『3人揃っていなくなって、心配したぞ野郎ども! しばらく休んでおけ!』ってことだな。」
それで場の雰囲気は一気に和んだ。



それから2日して、舜平ら3人は退院した。
「流石、若いもんは傷が早ぉ治りよるの。」
六道櫃は白竜命にやられた傷が治っていなかった。特に深く抉られた肩が、まだ熱をもっていた。
九古鈍郎は、櫃の付き添いで病院に残っている。
「あ、そうだ、櫃ばあさん。入院してること、知り合いに連絡しときますね。」
「ああ、宜しく頼む。いつもすまんのう。」
「いえいえ。」
各方面に連絡すると、たちまち多くの人々が見舞いに訪れ、病室は花束と果物で溢れかえった。
「おばあさま!」
血相を抱えて病室に飛び込んできたのは、綾小路草栄だった。
「おや、草ちゃん。」
「ご無事で!?」
「もちろんじゃよ。」
櫃は笑って答えていたが、鈍郎は妙な顔をしていた。
「・・・・おばあさま、って?」
「ああ、草ちゃんの母親は儂の娘じゃよ。言ってなかったかいな。」
「初耳ですよ。」
そんな会話をしていると、こちらへ向かってくる足音がした。
「お父様、そんなにお急ぎになって。」
草栄の娘、茉莉花だった。
「え・・・?」
鈍郎はギョッとして彼女の方を向いた。
曾祖母に駆け寄る茉莉花を、鈍郎は目を大きくしばたかせて見つめていた。

一通りの挨拶が済んで、数分後には綾小路親子は帰っていった。
病室には櫃と鈍郎の2人が残った。
「鈍ちゃん、何をそんなに驚いとんね。」
「いや・・・だって・・・あの子・・・。」
「・・・・・・。」
櫃は思わず目を伏せた。
「鈍ちゃんにもわかってしもうたか。」
「じゃあ、やはり彼女は?」
「そうじゃよ。」
「草栄さんは、綾小路の人らは、このことを知って?」
「さぁ・・・しかし多分知らんじゃろう。」
「・・・・・・・・・。」
「茉莉花の好きにさせてやれ。儂らじゃどうにもならん。出来ることは、黙っていることだけじゃ。」
「そうですね・・・。」
鈍郎は、携帯電話を握り締めながら、それに同意した。


綾小路家にて、草栄は茉莉花を部屋の中央に正座させていた。
「お父様、何の話ですか?」
「・・・・・お前の母、菊菜が亡くなって、もう10年か・・・。」
「・・・・・・。」
「この10年間、わたしはお前を一人前の淑女にするべく育ててきた。」
そう言って草栄は目を伏せた。
「茉莉花。お前は・・・お前の・・・。ううん。」
彼は咳払いをして言い直した。
「冴木氷介という名に心当たりがあるか?」
それを聞いた瞬間、いつもは伏し目の茉莉花の目が大きく見開かれた。
「冴木なる輩が、この屋敷に侵入し、お前の部屋へ通っているという密告があった。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・本当なのだな。」
「はい。」
草栄の顔が紅潮した。
「いかん!」
その怒鳴り声に、茉莉花は思わず体を震わせた。
「淑女たるもの・・・そんな・・・不埒な・・・!」
草栄は顔を真っ赤にしながら、目に涙を溜めていた。
「お父様・・・。」
「当分、謹慎だ。護衛をつける。それから医者も呼ぶ。」
「・・・・・・・・・。」
茉莉花は黙っていた。
その沈黙は綾小路家では普段通りであった。
それゆえに、その不気味さに草栄は気付かなかった。


その頃、舜平は幹部の日呂末(ひろすえ)をホテルの一室に呼び出していた。
彼は「ブラックタイガー」の情報収集係で、リーダーの左腕とまで呼ばれている。“右腕”の舜平より1つ年下の16歳で、小柄で痩せた体つきをしている。
「何? 津田っちが綾小路家に冴木のことをタレコミ!?」
「何で僕の言ったことを繰り返すんですか?」
「うるせえ! そんなことよりも・・・!」
「何を怒って・・・もとい、焦ってるんですか? これで冴木なんたらだって手出しは出来ないでしょう。」
「馬鹿が! この状況は冴木氷介の思う壺だ!」
「はい?」
「冴木氷介の正体は、四方髪凜! 強大な力を持つ四方髪連合のトップなんだ! 旧家だか何だか知らんが、綾小路家がそんじょそこらのボディーガードを雇ったところでどうしようもない!」
「そんな、まさか・・・。」
「あの2人とは直接戦った。戦闘のクセが全く同じだったんだよ。」
「証拠はそれだけですか?」
日呂末が肩を竦める。
「だからお前を呼んだんだ。冴木氷介と四方髪凜が同一人物だという証拠を掴め!」
「わかりました。」
日呂末は胸に左手を当てて了解を示した。
「ところで、冴木は男で四方髪は女ですが、実際どっちだと思いますか?」
「多分、女・・・。」
「どうして?」
「冴木の声は、女でも出せるくらいだ。だが、四方髪の甲高くて大きな声は男には出せんだろ。」
「なるほど。・・・ということは、四方髪凜と綾小路茉莉花はレズビアンってことですか?」
「・・・・・・。」
舜平は無言で日呂末を睨んだ。
「やだなあ。そんな恐い顔で睨まなくったって。」
日呂末は人を食ったような笑みで肩を竦めた。


同じ頃、「ブラックタイガー」の溜まり場には、幹部の枝巻をはじめ、数人がたむろしていた。
(今日は幹部は俺だけか。珍しい・・・。リーダーがいないのはよくあることだがなあ。)
「ん?」
外に誰かが立っている。
「誰だ、入れよ。」
「それでは、お言葉に甘えて。」
「その声!?」
夕暮れの逢魔が時、鈍く妖しい太陽の光を背負い、白竜命が笑って立っていた。
「きさまあっ!」
入口に駆け寄る枝巻。
しかし竜命は、それをすり抜けたかのごとく建物の中に入っていた。
驚いて枝巻が振り向くと、仲間の1人が宙を舞って自分にぶつかってきた。
「ぐはっ!?」
その後は僅か十数秒の出来事だった。竜命の動きは枝巻も含め誰一人として見切ることは出来ず、傷つけられ、宙を舞い、血飛沫が散った。
「く・・・・・。」
枝巻は全身血まみれになりながら、立ち上がって竜命を睨んだ。
「おやおや、元気ですねえ。では伝言役はあなたにしましょう。剛虎男にお伝えください。決戦は3日後、石泥地区のエリア三で。あそこなら警察その他に煩わされることなく殺し合いが出来ますから。」
「・・・へっ・・・それなら3日後がてめぇの命日ってわけだ・・・。覚悟しやがれ・・・リーダーの強さは、まさしく・・・野生の虎・・・。」
そう言って枝巻は血を吐いて倒れた。

真知子が戻ってきたのは数分後のことだった。
「きゃっ!? 何これ! ヒゲ巻! みんな!」
「う・・・真知子か・・・。奴だ・・・“ホワイトドラゴン”リーダーの・・・。」
「なんてことを・・・。」
「3日後、石泥地区のエリア三・・・リーダーに・・・伝えてくれ・・・。」



横浜中央病院。
「おんしもまた入院か。」
「うっせえよババア・・・。」
櫃のからかいに、枝巻が悪態をついていた。
それぞれ、側には鈍郎と真知子が付いている。
「ところで真知子、リーダーには連絡ついたか。」
「いいえ、まだよ。」
「・・・そういや、俺ら、リーダーと連絡する手段、何も持っちゃいねえなあ・・・。」
「そうなのよ・・。あの人、自分のこと話すの嫌がるから。」
「だがよ、この状況は知ってるはずだぜ。3日後、いやもう2日後か。リーダーは必ず来る。」
「ええ。」
「じゃが、勝てるとは思えん。」
枝巻と真知子だけで盛り上がっているところへ、櫃が口を挟んだ。
「何だと、このババアっ!?」
枝巻が怒鳴り、真知子も櫃を睨んだ。
「あんたらのりいだあは確かに強いかもしらん。じゃがそれは、あくまで人間での話。」
「あのニヤケ男が人間じゃないとでもいうの?」
「ババア、まさかあいつが竜の化身だとかいうフカシ信じてんのか? これだから年寄りは・・・。」
「竜の化身か。うまいこと言いよるの。奴はえすぱあじゃ。」
「はあ?」
「えすぱあって何だよ、いんてり語使ってんじゃねーよ!」
「えすぱあに関しては鈍ちゃんが説明してくれる。」
「えっ!? 私が?」
鈍郎は声が裏返った。
「えー、オホン。エスパーというのは超能力者のことでして。超能力というのは・・・」
鈍郎は枝巻の方を見て言葉を選んだ。
「・・・触れずに物を動かしたり、人の考えを読んだりする力です。」
「ほう。」
「他にもありますが、ここでは白竜命の能力を説明します。」
「何でお前がそんなこと知ってんだよ。」
この枝巻の言葉を聞いて、鈍郎は「ほう」と思った。
(ボキャブラリーは拙いが、指摘は鋭い・・・。)
「・・・私なりの推論です。」
「・・・・・・。」
「もちろん、あのときの状況と、櫃ばあさんやあなたの証言などをもとにした、根拠のある話です。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
枝巻も真知子も黙って聞き入っていた。
鈍郎は2人の顔を見ながら話を続けた。
「白氏の能力も、触れずに物を動かす能力です。“いんてり語”では、サイコキネシスといいます。」
「さいこきねしす・・・。」
「彼が動かしているのは、おそらく空気です。空気を高速で動かすと真空の刃・・もとい、かまいたちが生まれ、相手を切り刻むというわけです。櫃ばあさんの傷は、まさしくかまいたちによる傷でした。」
「なるほどな。」
「白氏の場合、強いかまいたち、すなわち“牙”と、弱い数十のかまいたち、すなわち“爪”を合わせた使い方をしているようです。確か彼はそれを、竜の巣、英語で言うとドラゴンネストと呼んでいたと思います。」
「どらごんねすと、ね。」
「更に彼は、ごく短い距離のテレポート・・もとい、瞬間移動が使えるようです。これは枝巻さんの方がよく知ってると思いますが。」
「・・・・そうか、あれか。・・ふん、なるほど、よくわかった。だがな、えすぱあだって不死身じゃねんだろ。うちのリーダーは不死身だ。ほら、勝ちじゃねえか。」
枝巻は得意気に言い、真知子も頷いた。
「・・・・不死身というのは、物の喩えでしょう。エスパーを舐めちゃいけない。この病院で20年ほど前に看護婦が、ある殺人狂のエスパーに首の骨を折られて殺されているんです。」
「それがどうした? 女の細首を折るぐらい俺だって出来る。うちのリーダーは熊だって殺せるんだぜ?」
「・・・・・・・・。」
これ以上は何を言っても無駄だと知って、鈍郎は黙り込んだ。



- - - - - -


その夜、綾小路家。茉莉花の部屋。
茉莉花は部屋の中央で正座して瞑想していた。父に謹慎を命じられてから6時間以上、水も食事も摂らず、この状態を続けていた。
(嫌な予感がする。)
彼女は瞑想を終了し、押入れに向かった。
布団の奥をまさぐると、黒い携帯電話が出てきた。
(070−38−197169399375105824974944592307816)
茉莉花は急いで長ったらしい番号をプッシュした。
トゥルルル・・・・
数回のコール音の後、声が聞こえてきた。
しばらくの間、茉莉花は電話で話を聞いていた。
そして最後に「わかりましたわ。」と言って電話を切った。
(外の状況はわかった。)(行かなくてはならない。)
茉莉花は携帯の電源を切って押入れに突っ込んだ。
(虎)
(・・・あれから、もう2年。)
(虎)(虎)
(そう、“わたくし”は体が弱く、病気がちだった・・・。)
(“わたくし”は、幼い頃から虎が好きだった。)
(虎のように強くありたいと思っていた。)
(虎)(虎)(虎)
(自分の弱さが疎ましかった。)
(強くなりたかった。)
(・・・2年前、“わたくし”は大病を患った。そのときに夢か現か、不思議な体験をした。)
(虎)(虎)(虎)(虎)
(そのとき“わたくし”は、光の洪水の中にいた。そこに1人の少女がいた。)
(彼女は“サトリン”と名乗った。)
(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)
(“わたくし”は彼女から、力を貰った。体内の電子を制御し、肉体の運動能力を最大限に高める能力を。)
(電子コントロールの応用で力場を作れば、“わたくし”の虚弱な体でも強い力が出せる。)
(そして、それに耐え得るだけのエネルギーを彼女との通信で定期的に補充してもらっている。)
(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)
(そして“わたくし”は・・・・・いいえ、“俺”は虎になった・・・・・!!)

(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)(虎)

(そうさ、俺は虎だ!)
(この体に流れる熱い血が滾る)
(本能の赴くままに突っ走る)
(俺は虎だ!)
(夜の街を自慢のマシンで駆け抜ける)
(景色が万華鏡のように移り変わる)
(頭ン中が真っ白になってスカッとする)
(この最高の時間、邪魔する奴は誰だろうとブッ殺す)
(誰にも邪魔はさせない)
(誰にも)
(俺は虎だ!)
(心が裸になって、この広い大地を駆け巡る)
(俺は自由の為に生まれてきた!)
(俺は虎だ!!)


- - - - - -



午前零時。
召集を受けて「ブラックタイガー」のメンバーが集まった。
間もなくして、全身に殺気を漲らせた剛虎男が現れた。
(恐ぇ〜。)
(近寄りがてぇよ・・・。)
(こんなリーダー、久しぶりに見るぜ。)
(こうなったときのリーダーは誰にも止められない。)
(・・・・・・・・・。)
ある者は恐怖し、ある者は畏怖し、ある者は心強さを感じ、皆が武者震いを覚えた。
その中で舜平だけは虎男のオーラに、何か危なっかしいものを感じていた。しかし、それを口にすることはなかった。
「決戦まで24時間を切った。」
虎男はメンバーひとりひとりの顔を見つめて言った。
「次の午前零時、石泥地区のエリア三。それまでに各自、万全の戦闘準備をしておけ!」

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佐久間闇子と奇妙な世界
2016/09/09 01:00

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「サトリン」 第五話 虎の最後 (中) 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
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