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zoom RSS 「サトリン」 第六話 七美の神

<<   作成日時 : 2016/09/09 00:35   >>

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私の名前は九古鈍郎。“サトリン”というエスパーを追っている。
端的に言えば、自分の精神の安寧をはかる為だ。サトリンは様々な超能力を持っていて、その能力で“困っている人を助け”ている。
私は彼女に対して敵意と共に畏敬の念、それから感謝も抱いている。私がサトリンを追うのは8割がた自分の為だ。そしてそれは、恐怖と不安と好奇心によって構成されている。

11月、私は四方髪凜という少女に目をつけた。彼女は以前に聞いたサトリンの声に、よく似た声を持っていたのだ。
声で気付いたのだが、彼女は綾小路茉莉花という別の顔も持っていた。
茉莉花は19歳。病気がちだった彼女が元気になったのは2年前だという。つまり17歳のときだ。友人の八谷の話では、サトリンは自分を“永遠の17歳”だと称していたとのことだ。
私は四方髪凜をサトリン本人だと疑ってるわけではない。かつては疑っていたが、今では別のことを考えている。すなわち、サトリンは四方髪凜の母親ではないかということだ。
しかし、それを確かめるすべは失せてしまった。綾小路茉莉花は行方不明、四方髪凜は連合をC野という女性に任せて引退したということだった。
忌々しいと同時に、途方に暮れる。
暮れると言えば、そろそろ今年も終わる。
2003年も12月。32歳の冬だった。


12月24日のクリスマス・イブ。
雪のちらつく中、私はクリスマスケーキを買うか買うまいか迷っていた。
実は私は茶倉と結婚してから、一度もクリスマスを祝ったことがない。クリスマスどころか、行事というものを祝ったためしがない。彼女にとっては、それらは全て“無駄”なものなのだ。
私生児である茶倉は、幼い頃から苦しい生活を送っており、誕生日や行事などを祝ったことがなかったという。彼女の病的なほどの無駄嫌いは母親から仕込まれたものらしく、大人になってからもその習慣が染み付いていた。
そんな彼女と私は長らく不和な生活を送っていたが、最近になって他ならぬサトリンのおかげで仲良くなった。今年こそ私は、妻とクリスマスを祝いたいと思っているのだ。
(うん・・・流石にケーキ丸々1個は怒られるよな・・・。ショートケーキならどうだろう。)
(個数は)(2個)(怒られる)(1個)(1個を2人で)(貧乏臭い)(親密度アップ)(ラブラブ)
「・・・・・・・・・。」
(ありえない・・・・。)
私は我に返って溜息をついた。
妻とは確かに仲良くなったが、まだ夫婦のそれではない。未だ性交渉はゼロだ。
だからといって浮気・・・もとい、浮体はしないですよ。人として当たり前でしょう。他に恋人が欲しかったら、まず離婚するのがスジというもの。
(まあ、気長にいくさ。)
そして私は道の角を曲がった。
すると、髪をゴムで一括りにした女性と、ばったり顔を合わした。
その女性は12月だというのに半袖の黄色いシャツで、赤いミニスカートを穿いていた。しかし私が最も注目した点は、右手にジャックナイフを持っていたことであった!
「・・・!」
思わず恐怖で後ずさる。
「あなたがサトリン様のことを嗅ぎ回っている、悪質なプログラムかしら?」
「えっ・・・」
その言葉に戸惑う私に、女はナイフで切りつけてきた。
「うわっ!?」
指先が切れた。
「かしらかしら、ご存知かしら? わたしの名前は七村七美(ななむら・ななみ)。しかしそれは偽りの名。わたしの真実の名は、第3の電脳戦士“アインストール”!」
「・・・!? ? ?」
この女、年齢はよくわからないが、頭の中はそれ以上にわからない。
わかっていることは、私は今、命の危機に晒されているということだけだ。
「サトリン様を付け狙う悪いプログラムは、このわたしが消去(デリート)してあげるかしら!?」
そう言って女はジャックナイフを逆手に持ち替えた。
「田中流暗殺拳・裏楔。」
ナイフが来る。
私はそれを間一髪でかわしたが、所詮は素人、無駄の多い動きだ。
裏拳の応用でナイフを突き立てられた。
「ぐあっ!?」
熱が腕に刺さった。
全く話にならない。私はただの主夫。この女は特殊な訓練を積んだ使い手。
「安心するかしら。殺しはしない・・・。ただ、人格を抹消してやるだけよ!」
「・・・っ、それは殺人に値するぞ!」
しかし、私の言葉など彼女にとってはどうでもいいことだった。
“批判の武器は、武器の批判に取って代わることは出来ない”
どこかで聞いた格言を思い浮かべながら、意識が拳の弾幕の前に遠のいていく。
(くそ・・・こいつも超能力者! 人格を抹消する能力!? くそっ、くそっ、迂闊だった! ヤバい世界に首を突っ込んでるんだ! けれど、どこかで甘く見ていたのか・・・? 私は人間・・・・相手は・・・エスパー・・・・・・・・それが、ここまで、これほどまでにも・・・・・・・・・・・)
そのとき、強い衝撃が来た。
どこを殴られたのかもわからず、私は倒れた。
(私の・・・・人格・・・・・。)
理不尽な力に対する怒りと、このまま消えてしまうという恐怖と悲しみが、暗雲にかき消されていく。
嫌だ。嫌だ。死にたくない。
茶倉。会いたい。
顔を見たい。


- - - - - -


「さて・・・・。」
七村七美は、うつ伏せに倒れた九古鈍郎の首を掴んだ。
「ふん、生きてるのかしら?」
脈は打っていた。
「よし・・・。」
生命活動を停止することには罪悪を覚えるのか、彼女は安堵の息を漏らした。
「さて、それでは消えてもらおうかしら?」
七美は表情を元に戻し、鈍郎の頭に手をかけた。
そのとき、少女の声が飛んできた。
「待って!!」


- - - - - -


(うう・・・・。)
目覚めると私は病院の一室らしきところにいた。
こうして実感があるということは、どうやら記憶や人格は消されていないようだ。
「痛ぅ・・・・・!」
全身がズキズキと痛い。
あれは現実だった。
(あの女・・・・やってくれたな・・・・・。)
痛みを我慢して起きると、膝に誰かがもたれかかっていた。
この人が助けてくれたのか?

もたれかかっていたのは、女の子だった。
どこかで見たことあるような・・・。
「ん・・・。」
彼女が顔を上げたとき、私は驚いた。
「お、お前は十島瑠璃子!?」
右頬に十字の、左頬に丸型の痣を持つ、三つ編みの少女。半年前に会ったときと寸分違わぬ人懐っこい笑顔。
十島瑠璃子は、私が講師を務めていた頃に受け持った生徒で、誘拐事件に巻き込まれてからすぐに引っ越していった。頬の痣によって事の正否を判定できる“聖痕”(スティグマ)という超能力の持ち主だ。
「久しぶり、先生。」
「ああ・・・久しぶり・・・。」
私は戸惑っていた。
「十島が・・・助けてくれたのか?」
「まあね。先生は私たちの仲間だもん。」
「仲間?」
どういう意味だろう。
このとき私は、彼女が以前“絆”がどうたら言っていたことを思い出していた。
それと何か関係があるのだろうか。
「そう、電脳の十戦士。私は第五の戦士“トランジスター”。」
「・・・・・・。」
何だろう。十島まで、あの女と同じようなことを言い始めた。
戦士? 私が仲間? パラノイアじみているところは仲間かもしれないが。
困惑する私の前に、扉を開けて1人の女が入ってきた。
「ぎゃあっ!?」
思わず叫び声を上げてしまったのは致し方ないだろう。
私を襲った女、七村七美だった。
しかし彼女は、私を襲ったときと違って目つきが正常だった。
「ごめんなさい。」
「へ?」
いきなり謝られて、私は少しの間、その言葉が誰の口から発せられたのか認識できなかった。
「・・・今、七村さんが言ったの?」
「そうです、ごめんなさい。あなたが戦士の1人だったなんて知らなくて・・・。」
そう言う彼女からは、最初に会ったときの狂気や毒々しさはすっかり消え失せていた。
「いや、まあ、それはともかく・・・戦士って何よ。」
すると七村の目に再び狂気が戻った。
「ご存じないかしら? サトリン様の率いる、選ばれし者たちの集まりよ! サトリン様と共に、困っている人を救うのよ!」
そう言ってから七村は十島の方を向いた。
「リコ、この人はまだ戦士としての自覚を持ってないのかしら?」
「そりゃそうよ。先生は私たちみたいに昔からサトリンを知ってたわけじゃないし。」
「様を付けなさい。」
「はいはい、サトリン様ね。七村先輩にとってサトリン様は神様だもんね。」
「そうよ、いい機会だから話してあげるわ。わたしがサトリン様に救われたときの話を・・・。」
そう言って七村は語り始めた。
10人の戦士とやらも気になるが、彼女の話も聴いて損は無いだろう。ここは黙って聴くことにした。


- - - - - -


今から14年前・・・わたしは歓楽街で男たちの相手をしていたわ。物心つく前から男たちの慰み者だったから、かれこれ20年以上もそんな暮らしをしていたかしら?
人間って、あまりに酷い環境に長くいると、発狂するか愚鈍化するのよね。わたしは後者だったわ。有機物で構成された便所として、何も考えられなくなっていったわ。
そんなときね、サトリン様がわたしのもとへ現れたのは。

最初、目の前に1個の眼球が現れたとき、わたしは驚きもしなかった。
眼球が宙に浮かんでいるのによ?
それくらいわたしは無感動な人間になっていたのね。
『ぎゃあっ!?』
わたしが相手をしていた男が叫ぶのを聞いて、ようやく事態を理解したわ。
でも不思議と恐いとは思わなかったわね。わたしにも本能的に敵味方を区別する能力があったということかしら?
次の瞬間、バチッと音がして、客の男が倒れたの。
そして眼球は、わたしの方を見た。それと同時に甘く優しい声が聞こえてきた。
『こんにちは、私サトリン!』
『・・・・サト・・・リン・・・?』
『サトリンね、困ってる人の味方なの! でもね、この姿を見たらみんな逃げちゃうの。逃げなかったのは君が初めてだよ!』
『・・・・・・・・。』
わたしは手を震わせながら眼球を包み込んだ。
すると眼球が、まるで映像がブレるように消えかけたの。わたしはビックリして手を離したわ。
『の・の・の・の〜。私のホログラムを作る能力は、まだまだ未熟だから〜。』
『ご、ごめんなさい・・・。』
『いやいや、それよりも〜。君は困ってるんじゃないの?』
『困ってなんかいません・・・。』
『の?』
愚鈍になっていたから仕方ないとはいえ、サトリン様に対して随分な口を利いたわ。今でも後悔してる。
『・・・どうやら、相当心を抑圧してるみたいだね。虐げられた弱者ゆえ。悲しいね・・・。』
『・・・・・・。』
そのとき、ポタッと水が落ちてきた。上を見ると何も無い。
『!』
わたしは、自分が泣いてることに気付いたわ。
涙は、止め処も無く溢れていた。サトリン様が超能力で、わたしの心を縛っているものを取っ払ってくれたのよ。
『・・・ひどい・・・生活を・・・送ってきた・・・。何度も・・・・体を汚され・・・・。』
わたしの口から次々と言葉が溢れてきた。イメージを上手く言葉にすることが出来たわ。これもサトリン様の力なのよ。
『みんな・・・嫌いだ・・・・死ねばいいんだ・・・・。』
『うん、うん。今まで君が出会ってきた人々は、みんな君を虐げるばかりだったんだね。』
『口では・・・憐れみの言葉を発する男もいたけれど・・・結局わたしを汚すんだ・・・。ニセモノの憐れみなんか、いらない! いらない! いらない! いらない!』
『七美ちゃん・・・。』
『愛が欲しい・・・。幸せになりたいよ・・・。』
『わかったよ、七美ちゃん。私が愛をあげる。私が幸せにする。私と一緒に、この狂った世界から脱出しようよ!』

そしてわたしは店から逃げ出した。
サトリン様が電撃で店の連中を薙ぎ払っていってくれて、建物から出ることは出来たわ。
でも、外の世界にも汚いやつはたくさんいて、わたしを襲ってきたわ。そいつらもサトリン様が撃退してくれた。
けれど、わたしは気付いてしまったの。電撃を放つ度にサトリン様がどんどん弱っていくのを。
『サトリン・・・もういいよ・・・。これ以上やったら死んじゃうよ・・・!』
『の・・・の・・・の・・・の・・・この程度の苦労を厭うくらいなら・・・最初っから、人助けしようなんて思わないさ・・・。』
『サトリン・・・・。』
わたしも力の限り戦ったわ。目潰しでも金的でも、何でもやった。
相手に噛み付くのは、歯が折れるまでやったかしらね。
満身創痍になりながら、わたしたちは逃げ切ったわ。
あのときの朝日の美しさを、わたしは忘れない・・・。


- - - - - -


「・・・そして、わたしはサトリン様に、人格抹消能力と共に、第三の戦士“アインストール”の称号を頂いて、この病院で看護婦として務めてるわけ。わかったかしら?」
「ああ・・・。大変な人生を送ってきたんだな。」
「よしてよ。同情なんていらないわ。サトリン様が如何に素晴らしいか、そして人を救うことがどんなに素晴らしいことか、それを理解してもらいたいのよ。」
「ああ・・・それは素晴らしいことだろう。だが、どうして私なんだ? 他にもっとマシな人間は幾らでもいるだろう。」
「それはわからないけど・・・サトリン様の選別に間違いは無いわ。」
「・・・まあ、それはいいとしてもよ? 残念だが、私は自分を犠牲にしてまで人助けをする気は無いよ。それと、君には悪いが、まだ私はサトリンを信用したわけじゃない。」
「まあっ、何て言い草かしら! リコ、この人本当に7番目の戦士に間違いないのかしら?」
「それは間違いないね。ほら。」
十島の左頬の丸い痣が赤く浮かび上がっていた。
「・・・まあいいわ。じきに戦士としての自覚も出てくることでしょう。しばらく修行してもらおうかしら。」
「ええ? それは困る。家事があるからさ・・・。」
「要求は却下する。」
「そんな・・・。おい、十島、何とか言ってやってくれ。」
「うーん、それに関しては私も七村先輩に賛成だな。」
「おい・・・。」
私は浮かない気分で溜息をついた。
妻に何て言えばいいんだ?




   第六話   了

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