佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第七話 ダッシュ

<<   作成日時 : 2016/09/09 00:40   >>

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2003年12月26日。
九古鈍郎は、ゆっくりと動けるまで回復していた。
「外と電話できないか?」
「駄目だよ、センセー。」
瑠璃子がたしなめた。
「頼むよ。せめて妻と連絡が取りたいんだ。」
「・・・妻?」
瑠璃子の顔が曇った。
「ああ、妻の茶倉とだ。」
「・・・ふーん・・・・そう・・・・。」
瑠璃子は俯きながら立ち上がって、部屋を出て行った。

「あーあ・・・センセーに奥さんいたなんて・・・。知らなかったな・・・。」
十島瑠璃子は病院の入口の近くに座っていた。
すると髪の長い女性が、でっかいショルダーバッグを背負って近付いてきた。
気の強そうな美人だ・・・と思っていたら、彼女はショルダーバッグからライフルを取り出して瑠璃子に突きつけた。
「・・・え?」
瑠璃子は何が起きたのか理解できなかった。
「妙な真似をするな。殺されたくなければな。」
無表情で、冷たく落ち着いた声。
「九古鈍郎のもとへ案内しろ。」
「え?」
すると彼女は眉をピクッと動かした。
「・・・私は無駄が嫌いだ。二度は言わない。」
「は・・・はい・・・。」
瑠璃子は彼女を病院の中へ招き入れた。

銃口を突きつけられながら歩いていいて、瑠璃子は怯えながらも口を開いた。
「あ、あの・・・・あなたは一体・・・・?」
「茶倉だ。」
(チャクラ・・・・?)
「あらかじめ言っておくが、私は勘が鋭い。妙な考えは起こさないことだ。」
「・・・・・・・・。」
張り詰めた空気の中を、2人は鈍郎のいる病室の前までやって来た。
そこに丁度、七美が来ていた。
「る、瑠璃子・・・・!」
怯えて震える瑠璃子に、無表情の女がライフルを突きつけている。
いや、この女の表情は、“無”ではなく・・・
「七村先輩・・・・・。」
瑠璃子の声は助けを求めていた。
そこへ茶倉が言う。
「動くなよ、七村七美。こいつを殺されたくなかったらな。」
「なぜ・・・わたしの名前を・・・・。」
「そんなことはどうでもいい。もう少し離れてもらおうか。」
「・・・・・・?」
「十島瑠璃子、お前もだ。10メートルでいい、向こうへ行け。」
2人は言われた通りに離れるしかなかった。
すると茶倉が、初めて笑みを見せた。
「死、ね。」
銃声が、4発。
七美と瑠璃子は、何が起こったか理解する前に倒れた。

茶倉は、2人が動かなくなったのを確認して、病室の扉を開いた。
そこに今の銃声を聞きつけて、何事かという顔で鈍郎が扉の側まで来ていた。
「茶倉!?」
鈍郎は目を丸くして、あんぐりと口を開けた。
「迎えに来たわよ、あなた。」
「どうしてここが!?」
「質問は後よ。急いで脱出するわ。」
茶倉は夫の手をグイッと引っ張って廊下に出た。
「!?」
2人が倒れている。硝煙の匂いがする。
しかし倒れている2人が誰なのかを判別する間もなく、妻に引きずられて走らされた。


- - - - - -


「うっ・・・。」
呻き声と共に七美は起き上がった。
「・・・ったく・・・“ガーディアン”のプロテクトがかかってなければ死んでたかしらね・・・。」
銃弾は皮膚に少しめり込んだところで止まっていた。
「リコ、瑠璃子、起きなさい!」
七美は瑠璃子を揺さぶった。
「うっ・・・痛うっ・・・・!」
瑠璃子は足に一発食らったのが効いていて立てなかった。
七美は彼女を担いで病室へ向かった。


- - - - - -


鈍郎と茶倉は家に戻った。
平然とした顔の妻に向かって、鈍郎は遠慮がちに質問した。
「・・・なあ・・・・。・・・どこまで知っている・・・?」
「全てよ。」
「全て?」
驚く鈍郎に対して、茶倉はしれっと言う。
「そうよ。あなたがサトリンというエスパーを追い回していることも、八谷さんのことも、十島瑠璃子のことも、エイミー・オクトゥバーのことも、四方髪凜のことも、七村七美のことも。そしてあなたがBLにハマッていることもね。」
「なあっ・・・!!!? ※@#д×!!!」
鈍郎は、わけのわからぬ声を発しながら、あれこれ体を動かした。
「・・・い、い、い、いつから・・・・?」
「今年の1月ごろ、あなたの態度が急に優しくなったから、いろいろと調べてみたの。そしたらサトリンに・・」
「そ、そうじゃない、BLのことだ!」
鈍郎はガタガタと震えていた。
「ああ、それは最初から。」
「え? ・・・・さ、最初からって・・・?」
「・・・理解が遅いわ。最初からよ。7年前の4月、あなたと初めて会ったときからよ・・・。」
「そ、そんな馬鹿な・・・。巧妙に隠していたはず、というか・・・?」
すると茶倉はクスッと笑った。
「巧妙? あれで? 私は母親譲りで勘が鋭い。あなたのBL本の隠し場所は全て把握しているわ。」
「あ・・・・う・・・・?」
鈍郎は顔を真っ赤にしたり青ざめたりを繰り返した。
「フフッ・・・それに、どんなに巧妙に隠したとしても、同類にはわかるものよ。初対面で既に、あなたが腐兄だということはわかっていたわ。」
「ど、同類・・・!?」
「そうよ、私はれっきとした腐女子よ。」
「そ、そんな馬鹿な・・・今までそんな素振りは一度も・・・・。」
「これが巧妙ってやつよ。」
そう言って茶倉はクスッと笑った。
鈍郎は気付いていなかったが、こんなに茶倉が笑うのは結婚してから初めてのことだった。


「サトリン・サトリン・サト・サト・リン♪サトリン・サトリン・サト・リン・リン♪」
歌が聞こえてきた。
甘ったるい声。
軽快なメロディー。
夫婦に戦慄が走った。
「・・・どうやら、招かれざる客が来たようね。」
言いながら茶倉はショットガンを取り出した。
「たとえどんなエスパーだろうと、所詮は人間。こいつで頭を吹っ飛ばせば必ず死ぬ。」
茶倉は険しい顔つきで、ゆっくりと外に出た。鈍郎も続いた。
ゆっくりと、帽子を被った少女が近付いてきた。
「ハロー、お二人さん。私サトリン! こうして現実世界で会うのは初めてだね!」
そのとき、いきなり茶倉が発砲した。
銃声と共に、銃弾がサトリンの頭を吹き飛ばす。
「普通人を舐めすぎだ。いつも普通人がエスパーの思い通りになると思ったら大間違い。普通人には普通人のプライドがあるわ。」
そう言って茶倉が銃を下ろした瞬間、再びサトリンの声が響いた。
「ひどいなあ。」
「!!?」
「いっ!?」
頭の一部を吹き飛ばされても、サトリンは平然と立っていた。
「私には現実世界でのプロテクトはかかってないんだから・・・。」
「馬鹿な。」
茶倉の表情が、かつてないほど驚愕に覆われた。
「頭を吹っ飛ばされたら生きていけないことくらい、子供でも知ってる! 何なん・・・だ・・・・お前・・・は・・・・?」
するとサトリンの頭部が、ビデオの逆再生をしたように元に戻った。
「んんっん〜、ここにいる私は電子力場で作った幻影みたいなものだからねー。残念でしたー。」
「悪魔・・・!」
茶倉はギリッと歯を噛みしめた。
「ひどいなあ、悪魔はないっしょ。」
「・・・・・・・・。」

サトリンは笑顔で語り続ける。
「世の中には困ってる人が、たくさんいる。でも、私1人じゃ助けることの出来る人数に限りがある。だから九古くんの力が必要なんだよー。」
「そう言われても、私は普通の人間だし、生活もあるし・・・。」
「大丈夫。こっちへ来れば、君たち2人の生活は保障するよ。」
すると、茶倉は再びショットガンを構え直した。
「生憎だけど、他人に生活の全てを依存する気は無いわ。」
憎悪にも似た表情と共に、弾丸が4発、5発・・・
サトリンの体が次々と欠けていく。
「私としたことが惑わされてしまったわ。不死身のエスパーなど存在しない。どんなに変質的なエスパーだろうとエネルギー保存法則の名のもとにある。すなわち、こうして力場幻影を破壊し続ければ、いずれは消滅する・・・。」
「ぐむう・・・そりゃあそうだけど・・・・。」
「こちらの武器がショットガンだけだと思うか?」
茶倉は懐から手榴弾を取り出し、口でピンを抜いて投げた。
「食らえ。」
爆音と同時に茶倉は鈍郎を連れて家の中へ入った。
「さてと・・・!」
床の引き出しが開き、そこから茶倉はマシンガンを取り出した。
「そ、そんなもの一体どうやって・・・。」
「WAC時代のツテで手に入れたの。それよりも、来るわよ!」
「の・の・の・の〜。」
後ろにサトリンが立っていた。
「うわっ!?」
「テレポートか!」
茶倉は銃口をサトリンに向けてぶっ放した。
轟音が耳に痛いほどに響き渡る。
「ちょっとちょっとちょっと!」
サトリンが慌てて手を振るが、茶倉は聞く耳を持たない。
弾丸が力場幻影を壊していく。
「もう、話を聞いてってば!」
その瞬間、茶倉の体が動かなくなった。
「!?」
「だーかーらー、話を聞いてよ。」
再生していく力場幻影の口から、少し苛立ったような声が出てくる。
「何を・・・した・・・!?」
「ちょっと体内の電子を操ったの〜。力ずくでは外せないからね。」
「くっ・・・!」
茶倉の顔が恐怖と悔しさで歪んだ。

やがてサトリンは、すっかり再生した。
「九古くん、君に言っておかなくちゃいけないことがある。」
「私に、何を?」
「君は自分のことを普通の人間だって言ったけど、実は違うんだよ。」
「え?」
「ごめんね、君はエスパーになっちゃったの〜。」
「え? え?」
「私が助けた、というか関わった人ね。6人に1人くらいの割合でね、エスパーになっちゃう人が出てきちゃうんだよ。」
「何・・・え・・・?」
茶倉は、信じられないという顔で、思わず夫を見た。
「わ、私がエスパーに・・・。」
驚愕と恐怖。そして興奮と歓喜の混ざった顔。
その鈍郎に、サトリンは落ち着いた笑みを浮かべながら語る。
「うん。ほら、私って電子を操るエスパーじゃん? だから私の干渉を受けるうちに、最も影響を受けやすい脳がエスパー化しちゃったりするんじゃないのかなー?」
「なんて・・・こった・・・。」
鈍郎は頭を押さえた。
「だから、その超能力をコントロールする為にもさ、こっち来てよ。もちろん人助けもしてもらうけど。」
「そんな与太話を信じろと?」
茶倉は引かない。サトリンを睨みつける。
「本当のことだよ。その能力で、半年前にリコちゃんを助けたんだよ。」
「・・・・・・。」
「・・・わかったよ、サトリン。でも、コントロールが出来たら家に帰してくれよな。」
「あ、あなた! 行くつもりなの!?」
「仕方ないさ。もしも私の超能力が茶倉を傷つけてしまうことになったら・・・。・・ははっ、しばらく会えないだろうから、クサいセリフも恥ずかしくないな。」
「・・嫌よ・・・嫌・・・!」
茶倉は首をフルフルと振った。
「行かないでよ、あなた! 愛してるのよ!」
「茶倉の口からそんなセリフが出てくるなんて初めてだね。感動的だ。」
「茶化さないで!」
茶倉は歯を食いしばった。その目からは涙が溢れていた。
鈍郎はニッコリと笑った。
「萌えるねえ、その表情。・・・大丈夫、必ず戻ってくるから。」
「あなた・・・。」
「知った風な口を利くようだけど、茶倉、人生には何がしかの避けて通れない苦境が必ずあると思うんだ。そしてそれは、必ずしも悪いこととは限らない。」
「あなたがいなくなったら、私、浮気するかもよ?」
「それは絶対に、無いね。君は無駄なことが嫌いだろう?」
「・・・・・。」
茶倉は目をパチクリさせた。
そして目を伏せてフッと笑った。
「・・・わかったわ。・・・来年のクリスマスまでには戻ってきなさいよ。シュークリームでも用意して待ってるから。」
「ありがとう。・・・さよならは言わないよ。別れるわけじゃないからね。」
そう言うと、鈍郎は家を出た。
そして走った。
歩いていると、足が止まってしまう気がした。
1日でも早く妻のもとに帰る為に、今は走るのだと言い聞かせた。
昼過ぎのぼんやりした空気と喧騒の中に鈍郎が消えていくのを、茶倉はしばらくの間、見つめていた。




   第七話   了

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