佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 屍の街 1

<<   作成日時 : 2016/09/10 00:00   >>

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もくもくと燻る煙が、夕暮れの空を舞うカラスへ向かって流れていく。
季節を感じさせない、うっそうとした街。薄暗い街。
公害を撒き散らしそうな雰囲気の工場に、ネオンサインのけばけばしい歓楽施設。
のどかな田畑に、倒れそうな案山子、藁づくりの屋根、木造家屋。
都会と田舎がごった返したような、鵺のような一帯。
そこへ鞄ひとつ、細身の男が現れた。

「佐久間のやつめ、こんなところに呼びつけて、いったい何の用だ?」
白衣に身を包んだ彼は、髪の毛も白く、しかし顔立ちは青年のように若々しい。
やや皺が見えるのも、かえって貫禄や風格を感じさせる。
八武死根也(やぶ・しねや)。それが彼の名前だ。
医者でなくても冗談のような名前だが、元の名前は志根也と字を当てる。
「妙なことを考えているなら、とっちめてやる。」
細く白い肢体を思い浮かべながら、八武は雑草を踏み分けて街へ入っていった。
近付くにつれて、排気ガスと副流煙の混ざったような匂いが強くなる。
「・・・たまらんな。」
職業柄この手の匂いには慣れてるとはいえ、鈍いわけではない。つい顔をしかめる。
それは不快だからというだけでなく、ここに住む者は長生き出来ないだろうと思ったからだった。
長生きするだけが人生ではないにしろ、選択肢を奪われるのは話が別だ。
「さて・・・」
すえた匂いのする道を歩き、地図に示された宿屋へ辿り着く。
壊れそうな扉、もとい、半ば壊れかかった扉を開けて、中へ入る。
「お待ちしておりました、ドクター。」
上品な笑顔を浮かべて、黒髪の美少女が恭しく礼をした。
(これはまた、えらく化けたもんだ。)
普段の佐久間と雰囲気が違う。服装が違う。身長さえ違う。
死者を弔うようなシックな服装に、艶かしい長い髪。濡れた瞳に、乙女色の表情。
(ううむ、犯したい。震えながら抵抗する手首を掴んで、押し倒したいぞ・・・!)
佐久間の本質は、虚無的で破壊的だ。刹那的で暴力的だ。
それゆえに―――逆説的に聞こえるが、それゆえに、何にでもなれる資質を秘めている。
極めて高い学習能力は、戦闘方面だけに発揮されるものではない。
凶暴で残忍な戦闘狂だからこそ、清楚で慎ましやかな淑女になりきることも出来る。
それは演じるというレベルではないし、ましてや本性を偽るだけの醜悪なパロディでもない。
本人は演技だと嘯いているが、誰にも見破れない演技は、果たして演技たりえるのかどうか。
(およそ佐久間に“本質”などというものがあるかどうかも疑わしいのだ。)
前世で上司だった彼女を思い浮かべて、八武は戦慄する。
あの吸い込まれるような虚空は、人生経験を重ねた今でも底知れない恐さを感じる。
「・・・・・・。それで、何の用かね?」
「お医者様に用があると言えば、ひとつしかありませんわ。」
そう言って佐久間は、きびすを返して歩き出した。
「こちらです。」
「んぅ・・・。」
調子が狂う面持ちなのか、それとも何となくなのか、八武は小さく唸った。
あるいは、こんな街にいたら病気になって当然だろうという、納得の唸りかもしれなかった。
「ここです。」
扉を開けると、そこには痩せこけた少女がいた。
あまりに痩せこけていて、一瞥しただけでは性別どころか年齢も判別つかなかったくらいだ。
骸骨と見紛うほどに皮膚が骨に張っていて、部屋に入ってきた人間に注意を払うこともなかった。
それだけの体力が無いのか、気力が無いのか、いずれにしても同じことだ。
「この子、体からトゲの出る奇病に悩まされていますの。」
そのとき佐久間は、うっすらと気味の悪い笑みを浮かべたように見えた。
だが、それも街の雰囲気に毒された幻覚かもしれなかった。




つづく

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八武死根也シリーズ小説目録
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2016/09/19 00:10

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