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zoom RSS 「サトリン」 番外編 秋の空

<<   作成日時 : 2016/10/01 00:28   >>

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台風の多い季節は、どうも苛立って仕方がない。
ただでさえ偏頭痛に悩まされている九古鈍郎は、しかし休養しているわけにもいかなかった。
「これも、乗りかかった船か。」
三角学園の一件で、邪戦士のうち1名が死亡、1名を捕縛、3名は任意同行。再び檻の中へ舞い戻った。
任意同行した中に、十島瑠璃子の母親である、隆子がいた。
「どんな気分かしら? 結婚相手の父親に挨拶しに行く男の気分?」
「からかわないでくださいよ七美ねえさん。私は十島と結婚する気はありません。」
「わたしは真面目に言ってるのよ。あなたがどういうつもりだろうと、向こうの感情は、そういう種類だってこと、ゆめゆめ気に留めておくことね。」
瑠璃子の家庭は複雑だ。
父親はミュージシャンとして知られる十島育生、今年で51歳。隆子との間に、息子の累月(るいげつ)と、瑠璃子を設けていたが、別の女性との間にも、陸生(りくお)という息子を作っていた。
育生が隆子と離婚したのは、1996年のことだった。そのとき累月は育生に、瑠璃子は隆子に引き取られた。
新しい家庭に馴染めなかった累月は、家に帰らないことが多くなり、現在は消息不明となっている。
「勝手なものですね。隆子さんが邪戦士になった責任の一端は、彼にあるでしょうに。」
「身勝手な男は腐るほどいるわ。だけど感情的になっても話がこじれるだけ。辛抱してくれるかしら?」
「なるべく善処します。」
とはいえ、腹のうちは煮えくり返っていた。瑠璃子が虐待されたのは、元はといえば誰のせいなのか。
浮気されていた隆子は、どれだけ女としての尊厳を傷つけられただろう。そして離婚したことで、かろうじて保たれていた精神の均衡は崩れ、娘を虐待するような母親になっていったのだ。
そのことを思うと、激しい怒りが湧いてくる。
しかし七美の言う通り、今回は育生を糾弾しようというのではない。瑠璃子にとっては、今更そんなことを掻き回して欲しくはないだろうし、隆子のことが無ければ来ることもなかった。
あくまで話は隆子のこと。場合によっては彼女の望み通り、育生に制裁を加える展開になるやもしれない。
緊張の面持ちで、七美はインターホンを押した。

七美と鈍郎を迎え出てきたのは、30歳前後の、しとやかな雰囲気の女性だった。髪を結って、着物姿。
大学生の息子を持つ母親にしては、ちょっと若すぎるのではないかと、七美も鈍郎も思った。
そのことを察したのか、彼女の方から疑問を解消するセリフが出てきた。
「育生さんの愛人で、如月(きさらぎ)と申します。」
「七村です。」
「九古です。」
売れているミュージシャンにしては、あまり豪華な家ではなかった。
セキュリティだけは最低限しっかりしてそうだったが、イメージしていたものよりコンパクトだ。
(だからといって好感を持つわけじゃないけどね。)
(まさかエスパーじゃないだろうな?)
七美と鈍郎は、それぞれ別々のことを考えていた。
鈍郎は、櫃を見ているからだけでなく、七美が若々しいのも超能力の副産物だと聞いている。どうも若い女を見るとエスパーと疑うクセがあるようだ。実際、瑠璃子や凜もエスパーであるのだし・・・。
そんなことを考えているうちに、育生が現れた。
「オレが十島育生だ。」
サングラスをかけて、アロハシャツという格好だが、細身というより痩身という具合で、やつれているように見えた。
とても有名な音楽家の姿とは思えないが、とかく芸術家という人種は括れないものだと相場が決まってもいる。
「失礼ですが、奥様は?」
「あいつなら昨日、陸生を連れて出て行ったばっかだ。そのうち週刊誌に載るんじゃねーか?」
七美の質問に、育生は投げやりに笑って言った。
愛人を囲っているのだから自業自得とはいえ、やつれているのは妻に逃げられたからなのか。
「では――」
「わかってる、オレが邪戦士と通じてるのかどうかって話だろ? ある意味それはYESだな。」
「「・・・っ!」」
七美と鈍郎は目を見開いて身構えた。
「アンダーグラウンドの知り合いも少なくないんでな。」
そう言いながら育生は、グラスに酒を注いだ。昼間から飲むつもりなのだろうか?
「流石に何もかもってわけにはいかないが、断片的に得られた情報を繋ぎ合わせて、オレなりに事件の経緯は把握しているつもりだ。隆子が狂ったのは、オレのせいだな。」
育生の目つきは疲れを見せていて、反省しているのか後悔しているのか定かではない。
「隆子は昔はイイ女だった。オレは毎日でも抱きたいと思っていたが、あいつは淡白な方で、拒否されることが多かった。最後に抱いたのは瑠璃子が生まれる前だった。オレの運命の女じゃなかったんだな。」
何を言い出すかと思えば、浮気の言い訳なのか。
それとも。
「女は色を失うと駄目だな。愚痴っぽくなってさ。・・・七村七美、あんたは8年前と変わらないな。オレは老けたが、あんたは変わらない。隆子も、あんたみたいなだったら・・・」
「わたしを8年前に見たことがあるの?」
七美の目つきは鋭くなっていた。育生の、女を見下したような発言も看過できなかったが、今はそれよりも第一に追及すべきことがあった。
「オレは邪戦士の“候補”だったと言えば、わかるか?」
「・・・!」
「世間じゃオレを、女をとっかえひっかえする浮気男と呼んでいるが、オレからすれば女の方がわからねえよ。自分だけを愛して欲しいと言いながら、求められれば拒否をする。拒否するくせに、浮気を責める、なじる。やってられるか。そんな女じゃ勃たねえんだよ。そんな心の隙間に付け込まれ・・・いや、回避できたのか?」
「どうして結婚しようと思ったんですか?」
鈍郎は思わず口を開いた。
「運命の女を探してるんだ。26年前から、ずっとな。」
育生の視線は、どこか遠くを見つめているようだった。
「九古鈍郎、だったな。」
「はい。」
「お前、童貞?」
「・・・だったら、どうだというんですか。」
「瑠璃子をよろしく頼むぜ。」
「!?」
鈍郎は面食らって、ぽかんと口を開けた。
「これはオレの持論だから、適当に聞き流してくれればいい。」
育生は、おそらく度数の低くないであろう酒をグイッと飲んでから、再び話し始めた。
「男はな、ただひとりの女を生涯愛し抜かないと駄目だ。それが出来ない男は、何をやっても負けなんだよ。」
先程までとは打って変わって、純朴な言説だった。
この男の中には、矛盾した清濁が、混ざらずに残っているのだろうか。
「かつてオレは、生涯の相手だと思える女がいた。だが、そいつは別の男とくっついて、そして行方不明になっちまった・・・。それからオレは、宙ぶらりんだ。音楽家として名を馳せて、カイロもプロデュースして、世間から見れば、オレの人生は成功だろうよ。」
だが、と区切って育生は、グラスを掴んで立ち上がった。
「くだらん負け犬人生だっ!!」
激昂した彼は、グラスを床に叩きつけた。
ガラスの破片と液体が、そこらかしこに散乱する。
「あ、あなた・・・」
愛人の如月が、慌てて駆け寄る。
育生は疲れた目つきで、再び向かいに座った。
「隆子とよりを戻す気は無いが、それでも瑠璃子のことだけは心配だ。あいつは、大きな心の闇を抱えている。独りのままじゃ、いつか破綻する。九古鈍郎、オレが言えた義理じゃないんだが、瑠璃子を幸せにしてやってくれ。」
「・・・私には妻がいるので、瑠璃子さんと結婚は出来ませんが、それ以外の方法で、必ず。」
「ままならねえな、世の中。娘の相手と対決する父親の役も出来やしねえ。」
育生は寂しそうに笑って、ハンカチで手を拭いた。
「九古鈍郎、あんたは昔のオレに似てる。勝手なことばっかり言ってすまねえが、オレみたいにはなるなよ。」


- - - - - -


七美と鈍郎が帰ってから、育生は疲れた顔でソファーに体を埋めた。
(いつまでもガキだなあ、オレは。)
同時多発テロで両親を亡くしたときから、自分の時間は止まっていた。
それを再び動かした“彼女”も、26年前に消え去ってしまった。
止まった時間の中で、育生は、がむしゃらに音楽の道を目指した。
気が付けば40を過ぎていて、いっぱしの音楽家として名を馳せるようになった。
それは良くも悪くも“彼女”なしには成しえなかったことで、いつになっても女は彼にとって謎めいた存在だ。
女といえば、今は如月が側にいる。育生は、ばつが悪そうに言った。
「さっきは悪かったな。」
だが、そう言って如月の方を振り向いたとき、彼は言葉を失うことになる。
「―――!?」
彼女の体は、斜めに赤い線が入り、そこから崩れ落ちて床に血溜まりを作った。
「あああああ!!??」
何が起こったのかわからなかった。
だが、前方から、黄色い声が響いてきたのは聞こえた。
「キャハハハハ! ぽいずん〜♪ってか? 名付けるならば“黒煙斬手”(キルネクス)!」
「おっ・・」
何かを言おうとした瞬間に、育生の首に真っ白な触手が絡みつき、締め上げた。
「・・・っ、ぐ・・・・・っ・・・・・」
「キャハハハハ! いいザマだっつーの! なんちゃって!」
「アイシー、ふざけ過ぎです。さっさと殺してしまいなさい。」
「バトラーなんかに指図される覚えはありませーん、キャハハハハ!」
そうしている間にも、どんどん首は締まっていく。息が出来ない。
育生は必死で意識を集中し、重力操作で脳を揺さぶろうとする。
だが、アイシーと呼ばれた少女は、びくともしない。
「キャハハハハ! 重力は、とっても弱い力でーす。こんなことしか出来ません!」
「・・・・っ!」
腹部に思い衝撃が来た。
ただでさえ息が出来ないのに、肺の空気を全て吐き出してしまった。
「・・・・・っ・・・・・っ・・・・・・・・・・・」
「ほーら、おもしろーい。ピクピク痙攣しちゃって!」
「まったく、あなたは何がしたいんですか。」
「文句あるなら付いてこなくて良かったんじゃなーい?」
「そうはいきませんよ。あなたの試運転に付き合うようにと、イヴィル様からの命令です。」
「キャハハハハ! イヴィルは最低だね! これからカマトトなバトラーには、ちょっと刺激が強いものを見せちゃうかもよ? ねえ〜!」
細い触手が、服の隙間から入ってくる。
「んじゃま、人生最後の射精、味わって逝ってね! キャハハハハ!」


- - - - - -


七美と鈍郎が、再び育生と会ったのは、病院の集中治療室だった。
そこには瑠璃子も来ていて、すがりついて泣いていた。
「お父さん・・・お父さん・・・!」
事件は、2人が帰った直後に起こったらしかった。
如月は真っ二つにされて殺され、育生は窒息して昏睡状態。今も意識は戻らない。
医者からは、男性器が原形を留めないほどに潰されていたと説明された。

「隆子さん、じゃないですよね?」
「ええ。十島隆子のアリバイは確認しているし、何より彼女に、ここまでのことが出来るとは思えないかしら。」
病室に瑠璃子を残して、七美と鈍郎は別室で意見を出していた。
「十島育生も重力使い。たとえパワーアップした隆子が相手でも、引けを取らない戦いが出来るはず。だからこそ、わたしは鈍郎と一緒に行くことにしたのよ。あんな男に襲われたくはないから。」
「心理的にはともかく、物理的に無理ということですか。」
「殺害自体は可能でも、人間を真っ二つにするようなことは無理ね。検死の結果、生体から切断されたとのこと。」
「エスパーの仕業、それも邪戦士の仕業と考えるのが妥当ですか。」
「そうね・・・。だけど、あんな真似が出来るとしたら――」
七美は口をつぐんだ。
その目には、はっきりと怯えの色が浮かんでいた。

空模様は崩れ、遠くで雷が鳴っていた。
台風の接近で、鈍郎の偏頭痛もキリキリと酷さを増していた。





   秋の空   了

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