佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第九話 人の子

<<   作成日時 : 2016/10/01 00:02   >>

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この町には半年前から、謎の人物が住み着いている。
30歳くらいの、ぼうぼうとひヒゲを生やした男で、薄汚れた白いマントをいつも羽織っている。
僕の名は東馬心郎(とうま・こころう)12歳。ついさっき、その人に会ったんだ。

僕は転んで擦り剥いたんだ。丁度そこに、その人が通りかかった。
「お、大丈夫だべか?」
彼はすぐに近寄ってきて、僕の傷口に手を翳した。
すると僕の傷は、あっという間に消えたんだ。
彼の手は冷んやりしてて、気持ちよかった。
「これでもう大丈夫だべ。はあ、気いつけなされよ。」
そう言って、おじさんは去っていった。
その神がかりな能力と、インチキ臭い喋り方に気を取られて、僕はお礼を言うのも忘れてしまっていた。
「お母さん、今日ね、白マントの人に会ったよ。それでね、傷を治してもらった。」
「へえ〜。やっぱりそうなんだ。そういう噂は聞いてたけど。」
「噂?」
「あの人は神様の子供だって。名前もエイシュだし。あ、そういう、お礼に行かなくちゃね。」
そして僕とお母さんは、その不思議な彼、永須なる人物に会いに行った。
彼は町の外れの小屋を改造して住んでいて、看板には「永須」と書かれてあった。
僕と母さんが暖簾を潜ると、小屋の中で、1人の老人が寝ていた。
「はい?」
てっきり白マントの彼がいると思っていた僕は、拍子抜けした。
「あ、あの〜、永須さんは、どこに?」
すると老人は目を開いて言った。
「ニャア?」
「は?
僕は引いた。(気分的にも)
「あんたらは誰ニャア?」
「・・・・・・・・・ええと、永須さんに、お礼をしに来たんですが。」
「おお〜、永須様かニャア! あの方は、まさしく神の子だニャア!」
そして、この語尾が妙な老人は、永須さんの素晴らしさを訥々と語り始めた。
僕は語尾が気になって話どころではなかったが、この老人が白マントの彼に心酔していることはわかった。
「しかし永須様は遅いニャア。いつもなら、とっくに戻ってるはずなのにニャア。」
僕たち3人が少し不審に思っていると、煙草を咥えたパンチパーマの男がやって来た。
「おう、何だ、ジジイとオバンとガキか。」
煙と共に汚い言葉を吐きかけられて、僕はムッとした。
しかし問題は更にその後にあった。
「これからエイシュの公開処刑だ! よかったら見に来いよ、へへっ。」
「ニャアア!?」
老人は驚きのあまり、これが同一人物かと思うほどに表情を変えた。
驚きはすぐに怒りへと転化し、老人は男に食ってかかった。
「永須様に何をするニャア!」
「ニャアニャアうるせえんだよ、この猫ジジイ!」
男は老人を殴り飛ばした。
「あー、きっしょい・・」
すると背後から火花の音がした。
バチッ
「があっ!?」
男は悲鳴をあげた。
そのすぐ後に、別の声が聞こえてきた。
「萌えキャラに何をする。」
乱暴な男の後ろに、スタンガンを持った30歳くらいの男が立っていた。膨らんだリュックサックを背負っている。
「何じゃあ、てめえ!」
バチッ
「ぐあっ!」
乱暴な男は倒れた。
「とどめじゃ。」
リュックの男はスプレーを噴射。
プシューと音がして、乱暴な男は激痛で悲鳴をあげた。
「ぎゃああああっ!?」
どうやら催涙スプレーのようだ。男は涙をボロボロ出しながら、のた打ち回っている。
「さ、今のうちに!」
リュックの男に促されて、僕たちは足早に逃げ出した。

僕たち3人はリュックの男に付いていった。
彼は中央広場の近くのビルで、僕たちを招き入れて荷物を下ろした。
まだ僕は警戒している。
「さてと、とりあえず自己紹介から。その後に状況説明ね。私は九古鈍郎(くこ・どんろう)。」
「東馬心郎です。」
「心郎の母の心茱(しんじゅ)です。」
「根津水雷(ねず・みらい)だニャア。永須様はどうなってるのニャア!?」
「うん、多分、もうしばらくは大丈夫でしょう。今の状況はですね、この町のならず者たちに永須さんが捕らえられているということです。」
そう言ってリュックの男、鈍郎は、窓を開いて中央広場を指差した。
「ああっ!!」
永須が十字架にかけられ、下には廃材。その回りをならず者たちが囲んでいる。
更に二重に柵が張られていた。
町の人々は包囲その外から囲み、中には罵声を浴びせる者もいた。ならず者たちへの抗議の声だ。
「・・・ちなみに、ならず者たちのバックには、この町の有力者たちが付いています。警察はアテになりません。」
「・・・だ、大丈夫だニャア・・・・。永須様は神の子じゃから、きっと奇跡が起こるニャ。うん。」
そう言いながら根津老人は、脚を震わせていた。
「その奇跡を起こす為に我々がいます。この世に神はいません。彼だって人の子です。この世にあるのは、私と萌えキャラとその他です。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
僕たちは絶句した。
「もう一度言います。この世にあるのは私と萌えキャラとその他です。神はいません。」
「・・・・・・・・・・。」
僕は嫌な予感がした。
「あの・・・そのリュックの中身って・・・」
「ああ、萌えキャラいっぱいのBL本だ。」
「ゲッ・・・・・。」
何か永須さんを助ける為の道具とか持ってこいよ! よりによってBLかよ! この人ホントに助ける気あんのかよ!
「こんな事態になるとは予想してなかったからなあ・・・。まあ、ぼやいても仕方ない。私ら4人で彼を助けましょう。」
「できるのかニャア!?」
根津老人がリュックの男の服を掴んだ。
リュックの男・鈍郎は、自信なさげに言う。
「・・・・・ええと・・・あなたたちが協力してくれれば、多分できると思う・・・。」
「協力? 僕はもちろん。」
まだお礼を言ってないんだ。
「ええ。」
「もちろんだニャア。」
お母さんと根津老人も賛同する。
「・・・そうですか。では、絶対に逃げないでくださいよ。・・正直、私だって恐いんです。あなたたち3人が一緒に戦ってくれて、それで私もギリギリ逃げ出さないでいる勇気が湧いてくるんです。」
「・・・・・・・・。」
そりゃそうだ。僕だって恐い。誰だって恐い。あんな荒くれが何十人。
「で、どうやって助けるんだニャア!?」
根津老人が詰め寄る。
僕も同じ気持ちだ。普通に戦ったら勝てない。
「だから落ち着いてくださいって。あと2時間くらいは雨が降ろうが槍が降ろうが大丈夫ですから。」
「なぜニャ?」
「・・・彼には“ガーディアン”によって電子力場プロテクトがかけられていましてね、衝撃を緩和できるんです。」
「はあ。」
「・・・えー、要するに、殴られても蹴られても平気。銃で撃たれても大丈夫らしいです。ただし、そのプロテクトも残り2時間くらいで効果が切れますけどね。だから私が迎えに来たんですが・・・」
「ふむ。」
「あの、九古さん。」
お母さんが心配そうに言った。
「火をかけられたらどうなるんでしょう。」
「えーと、手足を縛っている縄が焼ききれて脱出できる、ですかね。プロテクトは断熱効果もあると聞いてます。」
「そうですか・・・。」
「まあ、なるべく急いだ方がいいのは、その通りです。ですが、焦りは禁物です。」
そうか、BL本を持ってきている彼こそ焦ってるんだろうな。
「大柄な人間には無理そうですが、私たちなら柵の隙間から入れるでしょう。そしたら後は、私は敵を殲滅します。」
「できるの!?」
「確実に殲滅する為に、心郎くんたちの協力が必要なんだ。いいね。」
「・・・う、うん。」
そのときの彼は、さっきまでとは別人に見えた。
僕は唾を飲み込んだ。

リュックの男・鈍郎は、早速指示を出した。
「まず、根津さん。」
「何ニャ?」
「あなたは語尾を、“ニャア”から“チュウ”に変えていただきたい。」
「・・・・・・・・わ、わかったチュウ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
お母さんの表情が強張った。僕の自分の顔が強張るのを感じた。
「・・・言っておきますが、これは作戦の最重要ポイントです。」
嘘 だ 。 絶 対 嘘 だ 。
僕と同じことを、お母さんも根津老人も多分考えてる。
そして鈍郎は更に信じがたい言葉を発した。
「そして心茱さんは語尾に“ピョン”を、心郎くんは語尾に“マキシマム”を付けてください。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
絶 対 に 嫌 だ。
しかし鈍郎の目は真剣だった。どう見てもふざけているようには見えない。
・・・本気なのだ。
僕は別の意味で不安になった。大丈夫なのか、この人。
そう思ってると、鈍郎は目をカッと開いた。
「さあ、どうしたんですか。萌えキャラになりたくないんですか?」
なりたくない。
「心茱さん、心郎くん、永須様を救う為だ・・・チュウ。」
「さあ。」
「言うんだチュウ。」
2人に迫られる。何だこれ。意味がわからない。
「・・・・・・・・わ、わかりましたピョン。」
・・・・お母さん・・・・・。
僕は今、本当に現実の世界にいるんですか? 教えてください神様。
「さあ、心郎くん、あとは君ひとりだ。」
爽やかな笑顔の鈍郎。
「さあ。」
鈍郎が僕の肩を掴んだ。
僕の本能は警告を発していた。
キケン
キケン
この人は危険
「ま・・・・マキシ・・・マム・・・。」
「もっと大きな声で。」
「マキシマム!」
「もう一度!」
「マキシマアアアアアム!!」
そして鈍郎は意気揚々としてリュックを背負った。
「それでは、永須のヒゲを剃った顔を見る為に! 出っ発ぁーつ!」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
この異様なテンションに、ちゃんとした理由があると知ったのは、全てが終わってからだった。


- - - - - -


・・・・僕は、一体どうしてこんな男と歩いているのだろう。こんな、頭にネコミミを付けたような男と・・・。
今すぐにでも逃げ出したいんだけど、永須さんを助ける為だ、我慢の子だ。
彼の名は、九古鈍郎。サトリンという人に頼まれて、仲間である永須を迎えに来たとのことだ。
“サトリン”という都市伝説のことは僕も知っている。困ってる人を助けてくれるという、謎の人物だ。お母さんも助けられたことがあると聞いてる。
その彼女が、もっと多くの人を助ける為に結成したのが「電脳十戦士」ということらしい。
第一の戦士“サトリン”
第二の戦士“ガーディアン”
第三の戦士“アインストール”
第四の戦士“アプリケイション”
第五の戦士“トランジスター”
第六の戦士“ジャスミン”
そして彼、九古鈍郎は、第七の戦士“インビンス”と呼ばれているとのことだ。
「・・・・そして、これから私らが助けにいく五留吾永須(ごるご・えいしゅ)は、第四の戦士“アプリケイション”。実は私も、会うのは初めてでね・・・。」
「・・・あの、そんなに色々しゃべっちゃってよかったんですか?」
「んー、喋るなとは言われてないし。秘密にするようなことでもないだろうし。」
「・・・・・・。」
そうしているうちに、中央広場へ着いた。
僕たちは人々の間を潜り抜け、隙を見て柵の隙間を潜って内環に突入した。
そこで九古鈍郎は大声を張り上げた。
「助けに来たぞ! 永須!」
その声に、ならず者たちや周りの人々が注目した。もはや後には退けない。
すると鈍郎は、携帯ラジオのスイッチを入れた。
チャラララッチャ、チャッチャラー
威勢のいい音楽が流れ出した。・・・つーか、これ、アニソン?
チャラララッチャ、チャッチャラー
「世界の萌えキャラ救う為ー♪遠い国からやってきたー♪ちょっと腐兄なイイ男ー♪」
そこで両手を複雑にバババッと動かして、
「幻想の第七戦士、インビンス! サトリンに代わって只今参上!」
鈍郎は決めポーズを取った。
「テンション高いチュウ・・・。」
「どういうことなんだピョン・・・。」
「マキシマム・・・。」
僕たちはドン引きしていた。
僕たちだけではない。あたりもドン引きして静まり返っていた。
にもかかわらず、鈍郎は構わずにポーズを決め続けていた。とても直視できない。
「萎えキャラども、覚悟しろ! このインビンスと愉快な森の仲間たちが、お前ら全員をゴミ箱ポイポイのポーイポッケッシャーンだ!」
「・・はあ!?」
「なんじゃオラあ!」
「しゃしゃってんじゃねえぞ!」
予想通り、ならず者たちは口々に喚きたてて、ナイフや鉄パイプなどを構えた。
その殺気立った様子に、僕は震えて鈍郎さんを見上げた。
「ど、鈍郎さん・・・。」
しかし彼は、ニヤリと笑った。

「シ ネ」

すると、なんということだろう。
ならず者たちは、持っていた武器で互いに攻撃し合ったのだ!
混乱の中、僕たちはわけがわからぬままに鈍郎に続いて、永須を十字架から降ろした。
そして死屍累々。ならず者たちは、1人を残して全滅していた。
「・・・1人、残ったか。」
鈍郎は昏い目で、残った男を見つめた。
そのとき僕は正直、ならず者より鈍郎が恐かった。
「て、てめえ! 何をした!?」
「これが私の能力・・・。自分及び味方に対して敵意と攻撃意思を持つ者2人を、互いに殺し合わせて敵を殲滅する。・・・ゆえに、“Invincible”。」
鈍郎は寒気がするような顔で笑っていた。
「ただし・・・この能力は、その性質上、敵の数が奇数なら必ず1人残してしまう。・・まったく、ツイてないな・・・。」
このとき僕は、鈍郎が何を言いたいのか、ようやくわかった。
親切に敵に説明しているわけじゃない。僕たちへ向かって言ってるのだ。
残る相手は1人とはいえ、ケンカ慣れしている荒くれ男。こちらは5人とはいえ、勝てるかどうか。
しかも相手はナイフを持っている。恐い、やばい、あ、足が震えている。
「心郎くん。私らが本当の勇気を示すのは、ここからだぞ・・・。」
鈍郎の頬には汗が浮かんでいた。

残る1人のならず者は、しばし戸惑っていたが、状況を理解してニヤリと笑った。
「へへっ、なるほど。わかったぜ。つまり俺には、もう相討ちするやつがいねえってことだ。」
男はナイフを構えた。
鈍郎もスタンガンと催涙スプレーを取り出した。
「植物状態か何かでない限り、戦闘力ゼロの人間はいないんだ・・・。弱者でも暴力を振るえることを教えてやる。」
「そうだチュウ!」
「やるわピョン!」
「マキシマム!」
この掛け声が、余計な雑念を払ってくれる。
僕たちは男を取り囲むようにして、少しずつ移動していった。
「かあっ!」
男がナイフで鈍郎に切りかかった。
ブシュッ
鈍郎の腕から血が吹き出す!
でも、そのときにスタンガンで攻撃!
僕らも攻撃を・・・と思ったら、男はナイフでスタンガンを叩き落とした。
「あっ・・・!」

サクッ

鈍郎の胸に、ナイフが突き立てられた。

だけど鈍郎は死んではいなかった。
彼がナイフを抜くと、みるみるうちに傷口が塞がった。
「なにい!?」
荒くれ男が驚いたのを見て、鈍郎の表情に余裕が出る。
「ふん、永須の存在を忘れていたか? たいていの傷は、どうってことないね。」
相手の武器を奪った。これで形勢逆転だ。
男は地面に落ちている他の武器を拾おうとしたが、ここで僕らの出番だ!
お母さんと根津老人と合わせて、しがみついて止めた。
「くそ、こいつら、離しやがれ!」
その隙に鈍郎が催涙スプレーを噴射。
「ぐああああっ!」
「勝負ありだ。即席とはいえ、私たちの連携を甘く見たな。」
そして鈍郎は鉄パイプを拾い、のた打ち回る男の頭に一撃を加えた。
バギャッ
男は倒れた。
勝った。勝ったんだ。僕たちは永須さんを助けることが出来たんだ。

ところが、永須さんは、がっくりと膝をついた。
「お、おい!?」
鈍郎が駆け寄る。
永須さんは胸から血を流していた。
「ど、どうして・・・?」
「お、オラの能力は、ヒーリングじゃないんだっぺ。傷を7分の1にして、オラが引き受けるんだっぺ。」
「な・・・!」
僕たちは急いで永須さんを病院へ連れて行った。
7分の1にするとはいえ、鈍郎が受けた傷は、明らかに致命傷だった。
永須さんは深手を負っていた。


- - - - - -


翌日、鈍郎の報せで、彼の言う“本部”から増援が来て、永須は運ばれていった。
「ありがとう、君たちのおかげだよ。」
「そんな、僕たちは何も・・・。」
あの男にしがみついたくらいしか、役に立っていなかった。
「十分、役に立ってくれたさ。それに、何も出来なくたっていいんだ。あの場にいるだけで役に立ってる。仲間がいると思えるからこそ、ああまで大胆な行動が取れたんだ。逃げることのない、仲間がね。」
「仲間・・・。」
「逃げないというのはわかっていた。おかしな語尾を強要したとき、従ってくれたからね。」
「そういうことだったんですか。」
あれは、僕たちを試していたんだ。
おかしな語尾を付ける恥ずかしさに耐えられるなら、少々のことでは動じない。それで勇気を補えたんだ。
「とはいえ、恥ずかしい思いをさせて済まなかったね。」
「いえ、わたし、実は恥ずかしかったけどちょっと快感だったピョン。」
「お母さんっ!?」
僕はギョッとして、お母さんの方を振り向いた。
「悪くないチュウ。」
「いやいやいや・・・。」
相変わらず僕は異次元にいるのだろうか。
まあ、いっか。それでも。
とても誇らしい気持ちが、僕の中にある。


- - - - - -


- - - - - -


電脳十戦士たちの集う“本部”は、防音設備の整ったビルの1フロアだ。
そこに三から七までの戦士たちが集結した。
第三の戦士“アインストール”七村七美。
第四の戦士“アプリケイション”五留吾永須。
第五の戦士“トランジスター”十島瑠璃子。
第六の戦士“ジャスミン”四方髪凜。
第七の戦士“インビンス”九古鈍郎。

「狙われた・・・・? どういうことかしら?」
七村が問うた相手は九古。
「今回の事件、裏で手を引いてる奴がいるということです。・・・不自然ですよ。永須のプロテクトが切れる、丁度その頃に襲撃されるなんて。」
「単なる偶然じゃないの。」
四方髪が言った。
「そんなことを言うと・・・ますます君を疑いたくなる。」
「なんだと?」
四方髪は眉を顰めて九古を睨んだ。
九古は目を伏せたが、話は続けた。
「ならず者と金持ちは、基本的に信用しないことにしていてね。両方に該当する君なら猶更だ。」
「てめえ・・・!」
四方髪は椅子から立ち上がった。
「私はなあ・・・・過去は捨てたのよ! 今の私は綾小路茉莉花でもない、剛虎男でもない・・・四方髪凜だ!」
「・・・君が“剛虎男”として活動していた“ブラックタイガー”とかいう暴走族の被害が、どれほどのものか・・・君は正しく認識しているのか。」
「っ・・・・・。」
「例の事件の後、サトリンを調べるにあたって“ブラックタイガー”についても色々と知ことになってね。君らの悪行の数々を・・・・様々な人から聞いてきたよ。」
「・・・・・・・・。」
「過去を捨てれば罪は消えると思っているのか? 金持ち娘の道楽に、庶民を巻き込むなよ。」
「・・・・・私の苦しみも知らないくせに・・・。てめえが舜平の叔父でなかったらブン殴ってやるところよ!」
四方髪は拳を震わせて九古を睨みながら、しかしクッと歯を噛んで座り込んだ。
「・・・やってみれば。」
九古は目を伏せたまま挑発めいたことを口にする。
それには四方髪もカッとなった。
「私をナメてるのか? もう既に力の4割は回復してるんだ。テメエ如き、いつでもブッ殺せるんだよ・・・。」
「私の能力を知ってて、そんな口を利いてるのか。君など舜平ごと、いつでも葬れるんだが。」
「な・・・に?」
自分だけならともかく、舜平の名を出されて四方髪は怯んだ。
「舜平も私に敵意を抱いているからな。・・・私の能力は、人数を限定すれば、敵意だけでも発動できるんだ。奴と共に死ぬか?」
「・・・てめえ・・・・。」
四方髪は歯軋りした。
「・・・・・・・・。」
九古は沈黙する。目を伏せたままなので、感情が不鮮明だ。
この光景に十島は目を丸くしていた。
「センセー、本当に九古センセーなの?」
「いかにも。」
「変わりすぎよ。センセーじゃないみたい・・・・。」
そのとき。
パンッ パンッ
七村が手を叩いて、一堂の注目を集めた。
「今はそんなことはどうでもいいんじゃないかしら? いさかいは後よ。問題は、我ら十戦士を狙ったということは、ゆくゆくはサトリン様を狙うつもりだということ。」
「だから・・・偶然じゃないの?」
「・・・警戒するに越したことはないんじゃないかしら? あなたを疑ってるわけじゃないけどね。」
「それはそうね。」
「じゃあ誰を疑うんだ。プロテクトの詳細を知ることが出来るのは、我々十戦士だけじゃないのか。」
九古の言葉に、一同は複雑な表情で沈黙した。
その中で、ただひとり。七村だけが焦りの表情を浮かべていたが、それに気付いたのは永須だけだった。




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「サトリン」 第九話 人の子 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
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