佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第十五話 約束のクリスマス (戦闘T)

<<   作成日時 : 2016/10/01 00:38   >>

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鈍郎のいない家で、茶倉は一日だけ休んだ。
待ってるだけの女は性に合わない。
まだ自分は何も知らない。
全てを知る為に、行こう。
12月28日、25歳の誕生日に、彼女は出発した。

「吉岡一曹、知ってることを話してくれますか?」
何も当てが無しに行動したわけではない。休息の一日で方針は決まっていた。
変わらぬ柔和な笑顔で、吉岡人見(よしおか・ひとみ)は待っていた。
「そうね。話してもいいのだけど・・・」
何から話そうか迷っているのか。あるいは茶倉の覚悟を計っているのか。
いずれにしても、ビンゴ。
鈍郎の居場所を突き止めるのが早かったのは、吉岡のおかげであるが、では彼女の情報源は何かと考えたとき、白紙の第三者であるはずがないと確信するには十分だった。
「それは私の口からではなく、七村さんの方から聞くのがいいわ。」
「え・・・?」
出た名前を聞き返そうとしたとき、まさに本人、七村七美が現れた。
黄色いミニスカートに、サングラスによる変装。
「貴様――」
「ごめんなさい!!」
茶倉が驚き目を尖らせた瞬間、七村は勢いよく頭を下げた。
「――え?」
「わたしが早まったせいで、取り返しのつかないことになるところだったかしら!」
「・・・・・・。」
何だか拍子抜けだった。
調査による印象では、七村七美という人物は、狂信者さながらの危険人物だったのだが。
(会ってみないとわからないこともある、か――)(あるいは演技)(フェイク)(まさか)
電子力場プロテクトがあったとはいえ、銃で撃たれて、この態度。ヒステリックな狂信者ではない、大人としての器の大きさを示された。
もっとも、そのように茶倉が感じたのは、鈍郎が殺されかけていたことを知らないからであるのだが・・・。
「わたしに出来ることなら、何でも言ってほしいかしら。」
「それでは――」
知ってることを洗いざらい話せ、と言いかけたが、それでは何から話していいかわからないだろう。
それよりは、きちんと核心を突いた質問を重ねていくべきだ。知ろうとするなら、何を知りたいのか定めなければならない。
「・・・“イヴィル”とは何者ですか?」
それは茶倉の想像を超えて、核心に突き刺さった問いだった。
「・・・っ、イヴィル・・・!」
みるみるうちに七村の顔は青くなり、土気色にすらなった。
「嫌・・・嫌あ、嫌よ助けて・・・ごめんなさい、ごめんなさい、許して、わたし嫌あああ!」
「七村さん!」
すぐに吉岡が七村を抱き締めて、落ち着かせた。
「ひくっ・・・ひぐっ・・・恐いよ、こわいよ・・・」
「・・・・・・。」
まさか今の質問で、こんなになるとは思っていなかった。
少女を通り越して、幼児にすら見えた。

「ごめんなさい、わたしとしたことが動揺してしまったかしら?」
たっぷり5分は吉岡の胸で震えていた七村は、澄ました顔で笑った。
これが以前なら、気取った態度だと思ったかもしれないが、あの狼狽振りを見た後では印象が違う。心が壊れないように、必死で自分を保とうとしているのだ。おそらく狂信的な振る舞いも、それに類するものなのだろう。
「サトリン様と、わたしたち電脳戦士は、人助けの為に動いているわ。困ってる人を助けて、その人も他の人を助けていく、人助けの連鎖。24年前に、あの子が唱えた“願い”―――」
(あの子?)
困ってる人を助けたいというのは、“サトリン”が唱えたものだと思っていたが、唐突に新しいカードが出てきた。
「あの子の切なる願いが生み出した10のプログラム。それが電脳戦士なのよ。第一の戦士“サトリン”、第二の戦士“ガーディアン”、第三の戦士“アインストール”、第四の戦士“アプリケイション”、第五の戦士“トランジスター”、第六の戦士“ジャスミン”、第七の戦士“インビンス”、第八の戦士“ファイバー”、第九の戦士“オールド”、第十の戦士“オネスト”。」
「吉岡一曹も戦士なんですか?」
「いいえ、私は戦士補佐というところね。七村さんのパートナーよ。あなたと同じ位置。」
「やっぱりあの人も、夫も電脳戦士なんですね。それは決まっていたことなんですか?」
「わからない・・・としか言いようがないかしら。プログラム自体は24年前に作られたけれど、それを課せられる者まで決まっていたかどうかまでは、わからないわ。」
七村は申し訳なさそうに身を竦めた。
茶倉の方が一回り年下のはずだが、年齢差が逆のように感じられる。
(ああ)(この人も)(同じ)(私と)
大人になりきれない、大人になり損ねた人間。
このとき茶倉は、七村の過去を知らなかったが、後で知ったときは、同情こそしても驚きはしなかった。
そのくらいの、並々ならぬ過去を背負っているだろうことは、わかっていたのだから。
「少なくとも、邪戦士は決まってなかったはず・・・存在自体あるはずのない、あってはならないプログラム。」
「邪戦士?」
七村の様子が再び狂気じみてきたので、それを打ち切る意味でも茶倉は問いを挟んだ。
「サトリン様の人助けを邪魔する、悪いプログラムたちのことよ。あなたも知っているはずじゃないかしら?」
「・・・・・・まさか。」
ここで察しないようでは、そもそも来る資格など無いだろう。
“イヴィル”とは何者か?
その質問に答えてくれたのだ。
「“イヴィル”こそは最初の邪戦士。全ての邪戦士の産みの親。第二の邪戦士“イヴィルアイシー”、第三の邪戦士“イヴィルバトラー”、第四の邪戦士“イヴィルアタッカー”、第五の邪戦士“イヴィルヴァイラス”、第六の邪戦士“イヴィルマリオネイター”、第七の邪戦士“イヴィルポリス”、第八の邪戦士“イヴィルテンタクル”、第九の邪戦士“イヴィルポイズン”、第十の邪戦士“イヴィルパニック”。これら悪しきプログラムも、24年前に生み出されたと聞いているわ。」
「そのプログラムは誰が作ったんですか?」
「・・・・・・。」
茶倉の問いに、七村はすぐには答えなかった。知らない様子ではないが、答えにくそうだ。
「・・・質問を変えます。“サトリン”は、“誰”ですか?」
先に“イヴィル”の方を質問したのは、“サトリン”が何者かと訊いたところで、返ってくる答えは予想済みだからだ。
(ひたすら褒め称えるだけだろう。)
七村が悪人とは思えないが、カードを全て提示してくれるほどの親切心を持っているとも思えない。
隠し事をする理由が、過去の傷、殊に“恐怖”であるなら猶更だ。
(あの取り乱しようは異常だった。)
まんざら茶倉も知らない感覚ではない。
そして七村が、自分より狂気の淵に近いところにいることも、感じ取れた。
「わたしの口から言うべきことではないかしら。」
七村は少し目を伏せてから、はっきりと言った。
そのとき茶倉は、もしかすると七村も、案外こちらの考えるほどには事情を知らないのではと感じた。
茶倉の知らない事情を多く把握しているのは確かだとしても、起こっている事態については殆ど把握できていないのではないか?
(本当の事情通は“ガーディアン”?)(あるいは)
あるいは単純に、“サトリン”本人が言うべきだという意味かもしれない。
(それに、一から十まで説明してもらわなければ十を知ることが出来ないというなら、ただの子供ではないか。)
子供のまま大人になって。
気が付けば25歳。
夫が自分と結婚した年齢。
(大人にならなければ)(ならない)
大人になるということは、くたびれた妥協などではない。より鋭く研ぎ澄まし、芯は鈍重にどっしりと。
そうでなければ、子供の笑いものだ。過去の自分に顔向け出来ない人間になど、なってたまるものか。
「いずれ・・・」
「?」
ばつが悪そうに七村は、おずおずと再び口を開いた。
「いずれ事実は明るみに出るわ。真実は白日の下に晒されるわ。それまで待ってくれないかしら?」
「待ちましょう。」
即答できたのは、そう遠くないうちに疑問が解消する確信を得たからだった。
そして同時に、茶倉は気付いたことがあった。
(サトリンはテレパシーのような能力を持っていた。イヴィルも同じだとすれば、下手に喋らないのは賢い判断だ。)
そのことに気付かなかった自分の不明を恥じると共に、それを指摘しなかった七村に疑問を感じた。
疑問といっても不信感を伴わない、純粋な疑問であり、ある恐ろしい可能性が頭に浮かんでいた。
それが当たっているならば、七村の狼狽ぶりにも説明がつく。むしろ気丈だ。
「泊まっていく?」
「はい。」
吉岡の好意を受け取って、茶倉は宿泊した。
女たちの共同戦線は、2003年の終わりを以って始まった。


- - - - - -


九古鈍郎が連れて来られたのは、サトリンが所有する島の1つだった。
後に邑甘富良実が匿われることになる、この島に、今いるのは男ふたり。
鈍郎の前には、自分より一回りほど年上であろう、スラッとした中年男性が立っていた。
(ウホッ、イイ男・・・!)
どちらかというと鈍郎は、年のいった男の方が好みである。若い男には出せそうもない、落ち着いた風格、貫禄。
性的な意味を差し引いて考えても、自分も将来そうなりたい、重厚な男になりたいと思う。
軽薄な男は嫌いだが、自分の中にも軽薄さが無いとは言えない。男と女を比べてどうこう言う気は無いのだが、もう少し具体的に、若い男と若い女なら比べてみようとも思う。
自虐的なものを差し引いても、あまり“若い男”に良い思い出が無い。もちろん三角や八谷など例外はいるのだが、相手の心情を無視した勝手な物言いや、勘違いした馴れ馴れしさなどは、圧倒的に若い男から発せられることが多い―――少なくとも鈍郎は、そう考えていた。
じじむさい子供だったのも、そうした軽薄さへの反発を含んでいたのだろう。早く老人になりたかったし、今でもアンチエイジングなどクソ食らえだと思っている。鈍郎の目指すのは、グッドエイジングだ。
ふと思うが、「自分はもう若くない」という物言いは、哀しみではなく、落ち着きの言葉ではないだろうか?
鈍郎は、重厚な人間性が得られるなら、引き換えに若さを失っても構わないと考えている。
「初めまして、第二の戦士“ガーディアン”こと、二葉蒼志(ふたば・そうし)です。」
二葉は名刺を出して鈍郎に渡した。
「あ、どうも。えーと、九古鈍郎です。第七の戦士“インビンス”でしたっけ。」
どこか他人事なのは、自分の力を自覚してないからであった。
自分の中に、回転する白と黒の石・・・イメージはあるが、それが何なのかは見当つかない。
「まだ自覚はありませんか?」
「そうですねえ・・・。」
鈍郎は気まずい顔で返事をした。
すると二葉は肩を竦めて困った顔。
「姫様にも困ったものです。自覚を持っていない戦士などを連れてきて・・・。」
その言い方に鈍郎は、一瞬ムッとしたが、すぐに誤解だとわかった。
二葉は頭を下げていた。
「申し訳ありません。」
「えっ・・・」
「自覚を持ってからスカウトするべきでした。“アインストール”と“トランジスター”を許してやってくれますか?」
「あ、それは、まあ・・・。今後あのようなことが無ければ、はい。」
「厳しく言って聞かせます。」
「あ、いや、なるべくお手柔らかに。」
正直なところ、彼女らを罰して欲しいという思いは無い。
それが優しさなのか甘さなのかはともかく、自分に気を遣わずに仲間内のルールに則って対処してもらいたい。
(いや、これから私も仲間になるのか。)
好奇心や期待感よりも、不安の方が強かった。
左翼グループでの件など、“仲間”に関する記憶に、あまり良いものはない。
相手の出方次第ではあるが、この組織では自分を引っ込めるようなことは、しないでおこうと決意した。

「サークルファイア? それが私の能力名ですか。」
鈍郎は紙に書かれた字を見て、ふんふんと頷いた。
“偶石握殺”と書いて“サークルファイア”と読む。こういうのは嫌いじゃない。
訓読みなるものの存在からしても、こうしたルビ打ちが出てくるのは必然と言えた。
(同士討ちさせる能力か・・・。)
自分の心の歪み様が、具現化されているようで嫌な気分だったが、しかし二葉の話によると、誘拐事件のときに十島を助けたのが、この能力だという。
「姫様から聞いた話ですが。」
「・・・・・・。」
「不安に思っているのなら、その能力を使いこなすことです。今は、そのことを第一に考えてください。」
「わかりました。具体的に、どうすればいいのですか?」
「それは僕よりも、“アインストール”や“トランジスター”の方が向いているのですが・・」
二葉が言葉を濁したのは、七村が鈍郎を殺しかけた件だろう。
それはもう済んだことだが、しかし彼女らの方が向いているとは、どういうことなのか?
「何故かは不明ですが、奇数番号の能力は制御し辛いのです。かといって姫様は何分も動けないので、なるだけ自力でやってもらうしかありません。」
「・・・もしかして、妻の銃撃で?」
「それは違います。大丈夫です。そもそも姫様は、本来なら“外”で動けるはずがないのを、無理に動いているのです。秋口には既に具合が悪くなっていました。」
(サトリンが姫君なら、この人は執事といったところか。)
執事マニアでもある鈍郎は、二葉の口調に萌えた。
「それでも動けるのは、“願い”の力なのでしょう。」
「願い・・・。」
すると、かしこまった顔の二葉の肩に、ぴょこんと帽子の少女が現れた。
「んんっん〜、何か照れるな照れちゃうな。」
相変わらずのボーイッシュな格好に、軽快で澄んだ声。
緑色の“E”の文字が、くるりと回って、17歳のままの少女の顔が眩しく光る。
それを見る二葉の顔は、娘を見るような慈しみに溢れていると同時に、どこか寂しげでもあった。
「姫様、大丈夫なのですか?」
「の・の・の・の〜、の〜プロブレム。それより二葉くん、いいこと言った! 九古くん、私たちの超能力はね、みんな“願いの力”なのだよ。」
「“願いの力”・・・。」
「超能力には、“自然の力”と、それを思うように扱おうとする“意志の力”があったんだ。私たち電脳戦士の持つ超能力は、そのどちらとも違う、第三の力。」
そのときのサトリンは、いつもの明るい調子ではなく、落ち着いた静かな様子だった。
「私たちの力は、内面と向き合うことで成長・変化する。願いの方向へ、超能力は進化する。」
「それが負の思いであっても?」
「そうだよ。それが君の力なのだから。」
挑戦的に目を鋭くする鈍郎に対して、サトリンは澄んだ瞳と神秘的な声で応じた。


- - - - - -


それから4日ほどが過ぎて、2004年も動き始めた。
21世紀最初の“死”の年の、最初の“死”の日。
「姫様、あまり無理されずに。」
「の・の・の・の〜、万事OKエンジン全開だよ。でも、ちょっとキツいかな。」
サトリンの顔色は、誰が見てもわかるほどに悪くなっていた。電子力場で作られた体も、時々ブレる。
「邪戦士への対応でしたら、無理は僕の役割です。どうか休んでください。」
「んんっん〜、私は九古くんのことが心配なんだよ。彼の性質は、邪戦士に近いものがある。」
「そのようですね。」
「戦いの指揮は二葉くんに任せるよ。私は九古くんの・・」

そのとき2人の視界に、輪郭の滲んだ“E”の文字が見えた。

「「・・・っ!!」」
ナンセンスなレタリングを施したような、毒々しい色の“E”。EVIL。
「お呼びでナイのにコンニチハ! イチャついてるとこ悪いけど? 復活宣言しに来たよ!」
あっかんべーをしながら、彼女は現れた。
“イヴィル”。
「まさか・・・早すぎる・・・!」
「る・ら・ら・ら〜、“ガーディアン”は慌てんぼうのサンタクロースだね! 私は予告しに来ただけだよ! 今年中に完全復活してやるってね? その為には、どんな犠牲も厭わないよ! ん、ん、んあっん〜♪」
「やめてよイヴィルちゃん! その犠牲になるのは、今を平和に生きてる人たちなんだよ!?」
「ん、ん、んあっん〜、平和って何? 99人が笑っていれば、1人が泣きを見ていても平和なのかな? おぞましィ。」
「そんな詭弁は聞きたくないよ・・・。あんなことを、また繰り返すの?」
「る・ら・ら・ら〜、そうやって耳を塞げばいい。目を塞いでいればいい。平和を守ると唱えながら、銃とナイフを磨けばいい。人を助けて、人を殺せばいいんじゃないかな、ぶっころ〜☆」
「姫様を侮辱するなら、この僕が相手になるぞ、“イヴィル”!!」
「あらまビックリ恐い恐い。勇ましいナイト君が付いてますね、可愛いね? でも“ガーディアン”? 私を殺す覚悟はあるのかな〜?」
「っ・・・」
「ん、ん、んあっん〜、やっぱり口だけだろん。どうせ君には、私を殺すことなんて出来やしないのさ。誰に何を言われるまでもなく。」
「貴様・・・貴様は何故、こんな・・・!」
「わかんないよ、君ごときには。」
“イヴィル”は優しげに笑い、次の瞬間ゾッとするような邪悪な笑みを剥いた。
「わかるわけないだろ、“守護者”。誰かを守ることしか出来ない奴に、狂った者の心はわからない・・・・・・」
不吉な風が渦巻いていた。

「出でよ、レクラ、ミヒャエル、バルバロッサ!!」

稲妻の剣に、純白の翼、そして雷獣が姿を現した。
「1分だ。1分だけ君と遊んでやる。るるるるるるる!!」
人差し指を立てて、“イヴィル”は舌を出しながら笑った。


「ん、ん、んあっん〜、思うに才能というものは、“ある”か“無い”かじゃないんだな、これが。」
雷光を纏いながら、彼女は言う。
「グーはチョキに勝つけど、パーには負ける。そういうものなんだ・・・ぶつかり合うなら、だけど。るらららら。」
彼女の前では、スラリとした中年の男が、息を荒げて立っている。
男の後ろで、容姿は彼女と瓜二つの少女が涙を流している。
「もっと細かく言えば、AはBともCとも高め合うけど、BとCは損ない合うとか。DはEを高めるけど、EはDを潰してしまうとか。Fは他を潰すけど、単独で最大の力を発揮するとか。そうした様々な関係の集合体で、社会は動いている。る・ら・ら・ら〜、わかるかな。要は“組み合わせ”なのさ。絶対値だけで考えたら、現状、とても私では“ガーディアン”に敵わない。だけど実際には、君は血まみれで、私は呑気に演説ぶっている。ま、1分を過ぎたから戦えないんだけどさ。」
「1分・・・。」
「そ、1分。ワン・ミニッツ。性格には62秒。完全復活には程遠いけど、千里の道も一歩からだし歩けるし? せいぜい私に気をつけて過ごしなよ、ばいちゃ〜♪」
雷光が拡散すると共に、イヴィルの姿は消えた。
二葉は膝をつき、込み上げてくる恐怖を必死で呑み込もうとした。
「二葉くん! 二葉くん!」
「大丈夫です、姫様。大丈夫・・・。」
「いたいの、いたいの、とんでけ〜! いたいの、いたいの、とんでけ〜!」
「姫様・・・。」
本当に痛みが引いていくようだった。
少なくとも恐怖は和らいでいた。


- - - - - -


その少し後、七村、吉岡、そして茶倉のもとへ、映像のブレたサトリンが現れた。
「・・・を・・・・・て・・・・・イヴィル・・・・・に、気を、つけ、て・・・・・・・」
それっきり、通信は途絶えてしまった。
七村は狂乱にこそ陥らなかったものの、死人のように青くなった。
「悪夢が・・・96年の悪夢が・・・・再び・・・」
「しっかり!」
吉岡が七村の背をさする。
ただならぬ事態、それも自分の想像を絶するような事態が起こっていることを、茶倉は感じ取っていた。
(96年の悪夢か・・・。私にとっては・・・)
その4年前、1992年の悪夢。
(奴は・・・“イヴィル”は・・・いったい、いつから存在していた・・・?)
もしかすると自分は、選択を誤ったのかもしれない。そんな予感が唐突に浮かんだ。
1992年、七村と五留吾は既に電脳戦士になっていたという。ならば自分が母の狂乱について、有耶無耶にせず追求していたら、もしかすると1996年の“何か”は、食い止められたか、軽減できていたかもしれないではないか。
七村に何があったかは訊けてないし、吉岡も電脳戦士のことを知ったのは最近だという。
しかし、あの気丈な七村が子供のように怯えるほどの“何か”が起こったのは確かだった。
(今度は間違えない。このことを伝えなければ。)


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2016/10/01 01:06

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「サトリン」 第十五話 約束のクリスマス (戦闘T) 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
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