佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第十五話 約束のクリスマス (エピローグ)

<<   作成日時 : 2016/10/01 00:42   >>

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■■■■■



そのうち、バラバラバラ・・・と、大型ヘリの音が響いてきた。
豊かな黒髪で右目を隠した中年の男が、不満そうな顔で立っているのが見える。
その奥から、麗しいテノールが響いてきた。
「ジェイムズ君、客人を迎え入れるのに、そんな顔は良くないな。もっと愛想を振りまいて。」
「・・・。」
中年の男は恨みがましい目をして、しかしすぐに笑顔を作って5人と、クラメーションに抱えられている少女の体を迎え入れた。
しかし無理やりの笑顔は不自然に引きつっていて、どこか滑稽だ。ユイファ以外の4人は、笑いを堪えながらヘリに乗り込んだ。
そこには、金色の巻き毛を輝かせた、見目麗しい中年男が座っていた。
「はじめまして。私は、ドリアン・レッド・グローリア伯爵。」
決して行儀のいい座り方ではないのに、どこか気品を感じる。
西洋美術の彫刻から抜け出してきたような、官能的な男だった。服装も露出が多く、鈍郎は喜んだ。
「九古鈍郎です。」
女に酷い目に遭わされた後だけに、男の色香は精神に優しい。ジェイムズと呼ばれていた男も、なかなかクセのある愛らしさを持っている。
老け専というほどでないにしろ、老けた男が好みである鈍郎としては、目の保養だった。
そして、妻の心境を察する余裕も、だいぶ出てきた。自分以上に、茶倉のショックは大きいのではないか。そう思いながら鈍郎は、自己紹介する妻を見ていた。
「咲村茶倉です。」
続いて3人も挨拶する。
「蔵目翔(くらめ・しょう)です。」
「火頭結花(ひがしら・ゆいか)です。」
さっき名乗っていたのと違うが、どちらが本名なのだろう。
「入流小松です。」
しかしそれは大した問題ではあるまい。
それより鈍郎は、茶倉のことが気がかりだった。
「ねえ、あなた。」
その茶倉が、小声で囁いてきた。
甘い息に耳を弾ませながら、鈍郎は振り向く。

「あの2人、どっちが“受け”だと思う?」

聞いて鈍郎は、やはりショックに対しては女の方が強いのかと思ったが、あるいはショックを意識しない為の、心の防衛かもしれなかった。
(それとも私を気遣ってくれたのかな。)
自分が妻を心配するように、茶倉も夫のことを心配していて当然だ。
「どう考えてもジェイムズさんの方が受けとしか思えないが、しかし“襲い受け”というのもあるしな・・・。」
難しいところだ。
ジェイムズの方は、心理が表情に出る、わかりやすい性格だが、ドリアン・レッド・グローリア伯爵。彼は謎めいた果実の王様だ。
(下手に切り込むと痛い目を見そうなところも、まさにドリアン、まさにレッド。)
自分も“レッド”(共産主義者の俗称)だけに、何となく親しみを覚えた。
「何の話してるんだ?」
クラメーション、もとい蔵目が尋ねてきた。
(しまった。)
ヘテロセクシャルの男は、こういった話題に露骨な嫌悪感を示す者が多い。せっかくの楽しみに、不快な横槍は入れないでほしくないのだが・・・。
「ホモ・セックスの話なら、俺も混ぜてくれよ。」
「「・・・!」」
鈍郎と茶倉の顔が輝いた。
「ああ、俺は結花と違って同性愛ってわけじゃねえ。男も女もイけるぜ。」
「私は美しい狂気が好きなだけよ・・・ふふ。」
「なかなか素晴らしい感覚をお持ちのようですね。」
伯爵も嬉しそうに微笑む。
「そう、美しさという芸術の前には、性別という垣根は恋泥棒の侵入を阻止できないのだよ。」
いちいち仕草がオーバーだが、彼の美麗さに相応しい。
世界的な大怪盗である彼は、こう呼ばれて親しまれている―――“エロイカ”と。

空の旅は、同性愛の話から、美術や音楽、演劇、またはセクシャル・マイノリティーの問題や人権について、そして弾圧の歴史や、それにまつわる耽美なエピソードの数々など、様々な方面を駆け巡った。
「・・・つまり、プラトンの言うところの愛、プラトニック・ラブとは、必ずしも肉体的な交合を必要とせず、むしろ精神的な充足を最高とする。プラトンは少年愛の人であったが、これは女同士でも、男と女でも同じことだ。欲望の解消というだけなら、春画という分化もある。ポルノ、官能作品の進化を見るに、欲望の行き着くところは、創作物こそイデアに再接近し、これまた1つの精神的充足でもある。我々は、性行為を教科書の定型文のように捉えることを是としない。愛の形は自由であり、また、自由でなければならない―――」

ひとしきり議論を済ませた頃には、航空機は目的地まで辿り着いていた。
滑走路の近くにあるヘリポートに寄せ、着地してすぐに、伯爵たちは飛び去ってしまった。短い間だったが、この出会いを忘れることはないだろう。
蔵目はイヴィルの体を抱きかかえると、航空機から一転、迎えの方へ向き直った。
スラリとした体躯の、若くはないがキリッとした美人が、黒い髪をなびかせて立っていた。
「おかえり。そして、ご苦労だった。」
その佇まいには隙が無く、鈍郎は思わずドキッとなった。
(茶倉が年を取れば、あんな感じかな?)
その様子を鋭く察した蔵目が、威嚇するような顔つきになる。
「鈍郎さん? あらかじめ言っておくが、フィーは俺が狙ってる女だからな?」
「いや、大丈夫。私は茶倉を愛しているからね。」
「あんっ・・」
鈍郎の言葉に、茶倉がビクッと可愛らしい反応をする。
そういえば“魔道絵筆”(ペンタブレット)の設定を解除していなかった。鈍郎が茶倉の名を呼んで、愛してると囁けば、性感が高まるようにしてあるのだ。
ただでさえ愛する夫から言われて嬉しいのに、性感も高まれば物凄く気持ちいい。
「初めまして、九古鈍郎さん、咲村茶倉さん。私はアルカディアのナンバー10、フィー・カタストロと申します。」
設定を解除しようか悩んでいる間に、フィー・カタストロが目の前まで歩いてきていた。
間近で見ると、いっそう迫力を感じる。背丈は茶倉と同じくらいの低さで、体つきも引き締まっているとはいえ華奢なのに、蔵目たち3人を合わせた以上のオーラを感じる。
「クラメーション、そいつを預かろう。」
そう言ってカタストロは、意識を失ったままのイヴィルを、蔵目から取って肩に担いだ。
「あっれ、ひょっとしてフィーちゃん、妬いてくれてんの? いや〜、照れるなあ。でも大丈夫だって。俺が50歳未満の女には興味ねーの知ってるだろ?」
そこへ結花が半ば呆れたような顔で言う。
「ふ・・・相変わらず守備範囲が極端ね・・・。」
「でも考えてみろよ。人類の寿命が延びるほど、俺のストライクゾーンは広がるんだぜ?」
「広ければいいと考えてる時点で、あなたの底が知れるわね・・・。」
とてつもない超能力戦の後では、こんな会話も、むしろ平凡で穏やかに感じる。
(どうりで火頭さんや入流さんでなく、蔵目さんが抱きかかえていたわけだ。)
航空機での会話では、彼は同性愛寄りのバイだと思っていたが、違った。小児性愛者にとってはハイティーンが老人に見えるように、蔵目にとっては成熟した女性であっても赤子を抱いているようなものだったのだろう。
意識を失い、くたあんと体を預けている様は、一般的には色っぽいものであるが、それだけにレズビアンの結花に預けるわけにはいかなかったということだ。
小松にしても、何やら複雑な事情がありそうで、“母親”の体を抱きかかえるのは気が重い。
そういうわけで、蔵目が運んでいたのだ。
(しかし、“アルカディア”?)
新出単語に、鈍郎は引っかかるものを感じた。
“理想郷”という意味であるが、そのままの意味ではないだろう。
(組織名には、何らかの“思い”が込められているはずだが・・・)
その先へ思考が行けない。
横を見れば茶倉は、周囲の観察に努めていた。足りない情報で思索するよりは、その方が有益そうだった。

案内された部屋は広く、中央にプラネタリウムの機械に似た、黒い球体があった。
状況が状況だけに、鈍郎は「GANTZ」を思い出す。もしかして自分と茶倉は、あのときに死んだのではないかという妄想が頭をよぎる。
そもそも自分や妻が超能力を持っていることからして、おかしいのではないか?
噛み合っていたはずの歯車が、再びズレ始めていた。
「少なくとも、これは現実よ、あなた。」
様子を察してくれたのか、茶倉が言った。
無闇に「大丈夫」と言わないことが、かえって落ち着く。
室内には、見知った顔も、見知らぬ顔も。
「センセーっ!」
十島が涙目で駆け寄ってきた。
いつもの三つ編みをほどいて、服装も大胆なキャミソール。雰囲気の違いにギョッとした。
(いかんいかん、私には愛する妻がいるんだ。)
そう思いつつも、胸は高鳴る。いったい誰の入れ知恵だろうか。
「はーはは、十島は本当に彼のことが好きだねー。」
そう言って笑う少女を見て、鈍郎は今度は、声に出して驚いた。
「え? ・・・え?」
彼女は、茶倉と瓜二つなほどに、よく似ていた。
髪型こそ、茶倉は切り揃えてショート、その少女はロングだが、双子のように同じ顔だった。
もしも同じ髪型と服装だったら、見分けられるのは自分くらいだと、鈍郎は思った。
(まさか本当に「GANTZ」?)
死んだ人間、死にかけた人間の、複製を作り出す黒い球体“ガンツ”。
最後に読んだのが、サトリンに連れて行かれる前だったので、細かい部分は記憶が薄くなっているが、その部分は覚えている。
(これで球体から歌が聞こえてきたらガチだな・・・。)
鈍郎が手に汗している横では、茶倉が七村と吉岡に話しかけられていた。
「怪我は無いかしら?」
「体の方は何とか。」
「命が無事で良かったわ。」
「吉岡一曹も今しがた?」
「ええ。」
他には、五留吾永須、四方髪凜、その横に九古舜平、それから六道櫃に八谷和真、三角龍馬と江口白羽もいる。
「おい、いつまで人を待たせる気だよ?」
舜平は、だいぶ前から来ているのか、苛立った様子だ。
凜も、それを止めようとしない程度にはイラついている。
「まあまあ、そう怒るものではないわよ?」
すっかり若い口調が板についた櫃が、着物の袖を振りながら笑う。
彼女としては、曾孫を宥めているようなものだが、姿形が若返っているばかりか、凜に似ているせいで、舜平の方はドギマギして毒気を抜かれてしまう。しかも着物の下は素肌だ。
「ひ、ひいおばあちゃん、舜平を誘惑しないで?」
「はっ、誘惑? 悪くないわね。」
ちらりと流し目をする櫃に、舜平は更にドキッとしてしまう。
「駄目よ、舜平は私のだからね! あげない!」
凜は舜平を胸に抱いた。半袖の黒いシャツ越しに、豊かな胸の感触と体温、芳香が、舜平を刺激する。
「それより、鈍ちゃん来たわよ。」
「おじさん・・・。」
「・・・・・・。」
舜平と鈍郎は、互いに気まずそうな顔で見合った。
するとそこへ、永須が割って入った。
「ケンカはダメだべ。チョコレートでも食べなされや。」
「サンキュ。」
「いただきます。」
そういえば頭に糖分が回ってなかった。チョコレートひとかけらが、切実にありがたい。

「罪滅ぼしのつもり?」

どこか軽蔑したような口調で言ったのは、見知らぬ女性だった。
可愛らしい顔立ちだが、目つきは鋭い。やや年かさで、多少の皺がある。
「朋萌ちゃーん、きついこと言いっこなしよ。」
後ろから彼女の肩を掴んだのは、蔵目だった。
「クラメーション? あんた事情知ってたっけ?」
「いや、知らんけつめど。」
「事情って何ですか?」
やや険しい口調で鈍郎が尋ねる。仲間を侮辱するようなら、黙っている義理は無い。
「ああ、ごめんなさい。でも、事情を知っても同じ態度を取れるかどうか・・・私にではなく。」
「・・・?」
ともえと呼ばれた女は、鈍郎に対する敵意は感じ取れなかった。
気になるが、鈍郎は残りの面々にも目を向けていった。
電脳十戦士が8名まで揃い、そのうち5名はパートナーを引き連れて、計13名。
蔵目たち3名と朋萌、そしてフィー・カタストロも戻ってきて、合わせて18名。
それでも、この部屋の人数のうち、6割といったところだった。
「フィーちゃん・・・もとい、カタストロさん。俺らもいていいの?」
「いてもらう必要がある。」
そんな蔵目とカタストロの会話を聞きながら、鈍郎は残る12名を見回した。
車椅子に座った、傷のある女。年のころは朋萌と同じくらいか、少し若い。清楚な色気がある。
眼鏡をかけて本を読んでいる男も、同じくらいの歳だろうか。アジア系のようだが、西洋人にも見える。
(ウホッ・・・イイ男・・・。)
読んでいる本のタイトルは、「微分方程式による三次元多様体の分類」という、何やら小難しいもので、読んでいる本人も理解に苦しんでいるようだ。
壁に背を向けて、ズボンのポケットに手を突っ込んでいる男は、ロシア系か。若者に似合わない凄味を持っている。
(ウホッ・・・イイ男・・・。)
銀髪で顔を隠しているが、かなりのハンサムだ。しかし“年上センサー”が反応するのは、どういうわけだろう。纏っている雰囲気は、確かに40は過ぎている男の貫禄であるのだが・・・。
髪で顔を隠しているのは、ときどき姿が2人に見えるセーラー服の少女も同じだった。美しいよりは可愛らしいという形容が似合っている、野に咲く草花の息吹を感じさせる人物だ。
彼女に寄り添っているのは、真っ直ぐな目をした青年。おそらく自分と同じくらいの歳だろうと、鈍郎は思った。
異彩を放っているのは、体操服にブルマの少女。色素の薄い、長い髪をなびかせて、呑気そうな眼をしている。しかし天然そうな表情とは裏腹に、リラックスしながらも隙が無い。
その少女の横にいるのは、父親だろうか。サングラスをかけているのは、左目の傷を隠す為かと推測した。
(ウホッ・・・イイ男・・・。)
軍服というのが、ストイックな雰囲気を醸し出していて、激しく萌える。そういえば機内で伯爵が、軍服の良さを語っていたことを思い出した。確か、NATOに好ましい男がいるとか何とか。
(NATOといえば、納豆が食いたくなったな。)
長らくシリアスを続けてきたが、鈍郎は基本的にコミカルな男である。自作の唄を披露したのも、イヴィルの洗脳とは関係ない。シリアスよりも尻アスが好きだ。
ちなみに納豆というのは、安価で栄養価の高い健康食品であり、無駄を嫌う妻が好んで食べている。肌がツヤツヤなのも、納豆のおかげだと思う。嬉しい。
納豆を嫌う人も多いが、嫌いなら黙っていればいいのだ。思想信条ではあるまいし、人の食事を妨害するような真似は慎んでもらいたい。
別に大して納豆が好きではない鈍郎だが、そう思う程度には好きなので、納豆が嫌われなければいいと思う。
チョコレートはありがたかったが、空いた腹を納得させるほどではなく、何か食べ物を思い浮かべると、無性に食べたくなる。
すると何故か、カタストロが納豆をグチャグチャと箸で掻き回していた。
「・・・!?」
「食べるか。」
練りカラシと鶏卵の黄身、出汁醤油と九条ねぎまで入っている。ありがたい。
差し出された大粒の納豆を、鈍郎はありがたくいただいた。
「ら、ライバル?」
蔵目が再び警戒の目つきを見せるが、すぐにカタストロに小突かれた。
「お前は上司の能力も忘れたのか?」
「朋萌ちゃんの? ・・・あ、隊長か。」
気になる会話を聞きながら、鈍郎は納豆を食べる。
おもむろに歩きながら、位置が遠くて眺められずにいる残る5名へ近付いた。
タンクトップとショートパンツの少女は、気の強そうな美人だ。ショートボブの髪型が様になっている。
その横にいるハンサムな男とは、恋人のような距離感だが、やや歳が離れている感じだ。
(私と妻も歳が離れて見えるんだろうな。)
別に鈍郎が老けて見えるわけではないのだが、茶倉が実年齢より若く(幼く?)見えるので、一回りくらいは離れて見えるだろう。
生物学のレポートを眺めている男も、年齢的には同じくらい、おそらく30代だ。野性味のある顔立ちで、あまり学者には見えないが、妻らしき女性と話している内容は、専門用語が苦も無く飛び交っている。
女性の方は20代というところか。ハネたショートにヘアバンドをしている、西洋風の美人だ。
しかし鈍郎としては、その後ろで目を光らせている長身の女の方が、より気になった。どちらかというとハンサムな男のような、中性的な顔立ちの彼女は、右目に眼帯をしており、シニカルな笑みを浮かべている。
(妻とタイプは違うけど、なかなか・・・おっと、私は妻一筋だ。)
これで総勢30名に、一通り目を通した。
どうせ見かけの年齢や雰囲気などは当てにならないんだろうと思いながら、鈍郎は納豆を食べ終わった。
やはり九条ねぎ入りは美味い。
「おいしかったですか?」
「・・・!」
背後から声をかけられたことで驚いたのではない。
その男の声は、中年らしい深みと落ち着きがありながらも、内に秘めたる獣性がスパイスとなって、理想的なバリトンとなっていた。
(こんな声が欲しい。)
そう思いながら振り向くと、そこに50代と思われる西洋人の男が立っていた。
いつの間に背後にいたのか。
「初めて会う方もいらっしゃいますので、あらためて名乗り申し上げます。俺は、アルカディア月組・隊長補佐の、レックス・ブースターです。レックスとお呼びくださいませ・・・・・・俺の日本語、おかしくありませんか?」
一同に向かって挨拶した後、レックスは鈍郎に小声で尋ねた。
「いえ、むしろ丁寧で上手ですが。」
(イイ男だな・・・。)
間近で見ると、その迫力に心が躍る。鈍郎の身長は170弱だが、それより10センチほど高いだろうか。
他の面々も鈍郎に同意し、頷くが、しかしレックスは何故か納得いかない顔だ。

すると、中央の黒い球から、きりっとしたソプラノが響いてきた。
「だから言ったろう、何も変じゃないと。」
よく見れば、その声の源は、黒い球に腰掛けている少女から発せられたものだった。
その位置にいながら、床まで伸びた長い長い黒髪。おそらく10代前半と思われる美少女は、しかし絶対に10代とは思えない、ゾッとするような殺気を放っていた。
いや、殺気などという生易しいものではない。これは“邪気”だ。
そして・・・
「あなたの仰ることは、何となく信用できないのですよ。」
その凄まじい邪気を放つ少女相手に、言葉こそ丁寧だが気安い態度のレックスも、只者でないどころじゃない。
「それに、剣呑な空気を発せられるのは、いただけませんね。」
「わかったから自己紹介くらいさせろ。私はアルカディア・ナンバー4、月組隊長・三日月千里だ。」
そう言うと少女は音も無く消えて、次の瞬間にはレックスの背中に抱きついていた。
「離れてくださいませ。」
「ヤだ。」
「子供ではないのですから。」
「大人でもヤだ。」
近くで見ると、豊かで形の良い胸が、むぎゅうと押し付けられていた。
妻も大きい方だが、それ以上の大きさだと、鈍郎は感心した。
「まずは、集まってくれて感謝する。」
千里はレックスから離れて、パイプ椅子に座ると、深々と頭を下げた。
「無理やり連れて来られた人も多いようですけれども、それも集まったと仰るのですか?」
レックスが皮肉めいた口調で言う。
「スカーレットを使えば5秒で終わる作業だったが、心を落ち着ける時間が必要だろう。」
「そうでございましたか。・・・やはり俺の日本語、どこか変ではないでしょうか?」
「いいえ、全く。」
すかさず鈍郎は、曇りなき目で爽やかに答えた。
(執事口調萌え!)
心の中で鈍郎は、レックスに日本語を教えたらしい千里に対して、惜しみない拍手を送った。
その千里が、人差し指を天井へ向けた。
「1分後に二葉も来る。そのときに話を始めよう。」
「それは、我々の知りたいことを全て話してもらえるということですね?」
相変わらず千里の邪気は凄まじいが、鈍郎は退かない。恐くないわけではないが、この邪気は彼女の“平常”なのだと判断した。
(言葉の通じない相手ではない。邪気は邪気であって、敵意や害意ではない。)
“偶石握殺”(サークルファイア)を有する鈍郎は、それゆえに他者の敵意や害意に対して敏感だ。
だからこそ、わかる。
「それも含めた、“全て”だ。」
この言葉にも偽りは無いと。
「ところで隊長、“ε”は?」
「アリョーシャが預かっている。こんなときくらい働いてもらわないとな。」
蔵目の問いに答えた千里は、どこからか出してきたホットコーヒーに口をつけた。

そのうちに1分が経ち、扉を開けて二葉が入ってきた。
「では始めよう。」
千里の意識が中央の黒い球へ向けられると、そこから光が出てきて、立体映像を形成した。
映し出されたのは、サトリンそっくりの美少女。
しかし“イヴィル”でもない。
立体映像のはずなのに、サトリンやイヴィルよりも人間らしい、人間に近い感覚を受ける。
「おはようサトコ。24年間よく眠れた?」
「おはようございます。1の世界では、それだけの時間しか経ってないんですね。」
切なそうに笑う少女は、守ってやりたくなるような、柔らかい雰囲気を持っていた。これはイヴィルにはもちろん、サトリンにも無かったものだ。

「紹介しよう。最古の電脳戦士にして、アルカディア幻組隊長・“α−サトリン”入流聡子(いりる・さとこ)だ。」

「・・・・・・・・・・・・。」
鈍郎は、ふと腕時計を見た。零時を過ぎていた。
「君らが“サトリン”と呼んでいるのは、タイプ“β”。」
千里は言葉を続ける。
「そして、タイプ“ε”・・・通称“イヴィル・サトリン”。それが邪戦士たちの、総元締めだ。」


- - - - - -


<イヴィルんチャット>

イヴィル:おかげさまで私! 大☆復☆活〜♪ ピンポンピンポーン♪ パラリラパラリラ♪
アイシー:おめっとさん
バトラー:おめでとうございますイヴィル様。
イヴィル:いやー、長かった長かった。8年前はサトリンの奴に、畜生、してやられちゃったりるれれ
アイシー:ちょww舌まわってねえww
イヴィル:あー、まだ復活したてでベロチューも出来ない体なのねん?
アイシー:キャハハ、誰とヤんだよww
イヴィル:・・・ごめーんね、アイシーちゃん。機嫌なおして?
アイシー:キャハッ、あれ、私テンション落ちてる? ショック受けてることにショックだわ〜。キャハハ
バトラー:何かあったのですか?
イヴィル:えーと、インビンス逆レイプして中出しさせちゃった♪
バトラー:ぶーーーーーっ!!?
アイシー:・・・・・・
イヴィル:怒らないで聞いてくれると嬉しいな
バトラー:いやいやいや、いやいやいやいや、何してらっしゃるんですかイヴィル様!?
イヴィル:せっかく生身なんだし、ナマでセックス♪セックス♪
バトラー:ああ、頭痛が・・
アイシー:キャハッ
バトラー:・・・しかも、それでショック受けてるって、アイシー貴様もしかして?
アイシー:え、それは知ってたでしょ? 知らなかったの? 驚きだ、キャハハハハ!
バトラー:どいつもこいつも・・・あんな頼りなさそうな男の、どこに惹かれたのです?
イヴィル:貞操観念?
アイシー:キャハハハハ、バトラーぁ、モテる男の悪口は、キモい男の常套句よ?
バトラー:風紀が乱れてますね。こんなことでは・・
アイシー:そーゆう風紀委員長も、とっくに男の味を知ってるくせに! キャハハハハ!
バトラー:くだらん。私は戦えればいい。
アイシー:キャハハ、まったくバトラーってば相変わらずリョナマニアなんだからあ。
バトラー:バトルマニアだ。
アイシー:そんでイヴィルは童貞厨?
イヴィル:そうかもね〜♪
アイシー:イイよ別に、私は処女厨とかゴミだと思ってるから、童貞に拘らないよ?
バトラー:その割にはショックだったようですが?
アイシー:アアン♪イジワルバトラーちゃん♪
イヴィル:あれ? ということはアイシーは、私のこともゴミだと思ってるのかな?
アイシー:キャハハハハ! イヴィルこそ私らのこと捨て駒くらいにしか思ってないくせに!
バトラー:私が飛車ですか。
アイシー:だったら私、馬? 馬並みチンポが好きなわけじゃないけど?
バトラー:だから貴様は何故そうやって、いやらしい方向に結びつける!
アイシー:キャハハハ! いやらしい能力だからかな? でもサイズに拘らないのはホントよ?
バトラー:聞きたくないわ。
アイシー:私マンキツだし〜、むしろ大きいのは嫌いかも。
バトラー:いつまで続ける気だ貴様は!
アイシー:んもう、ウブなんだからバトラーは。
イヴィル:そういうストイックなところも大好きだけどね♪
バトラー:イヴィル様・・・もったいない。
アイシー:もしかしてバトラーの本命はイヴィルなのかな? アァン♪妬けちゃうな、キャハハ!
バトラー:貴様のいかがわしい感情と一緒にするな! 私のは純粋な尊敬だ!
アイシー:キャハハハハ、カオ真っ赤だよ!
バトラー:ふざけたことを抜かすな! チャットで顔が見えるはずがないだろう!
イヴィル:私は見えてるよ〜。
アイシー:おせーて?
イヴィル:ダ〜メ♪
アイシー:いいもん、イヂワルイヴィル! バトラーのことなら体の隅々まで知ってるもん!
バトラー:貴様とそんな仲になった覚えは無い!
アイシー:え〜? お風呂で流しっこしたときの話だよ〜? ナニを想像したのかな〜っ?
バトラー:貴様・・・!
アイシー:バトラーったら、ちょっとエッチなところにホクロあるんだ♪ もしかして淫乱さんかもね。キャハハハ!
バトラー:くだらん! ホクロの位置なんかで性格を判断されてたまるか!
アイシー:でも私らの中で一番エッチな体してんのは、やっぱバトラーよね〜。キャハハハハ!
イヴィル:ま、負けない!
バトラー:そうです、イヴィル様の美しさこそ至高です。
アイシー:ん〜、イヴィルって確かに能力使ってパーフェクトボディなんだけどさあ?
イヴィル:ズルは良くない?
アイシー:うにゃ、パーフェクト過ぎてアニメみたいっていうか? 私ぶっちゃけ二次元に恋する趣味ないんだけど。
イヴィル:そんなあ・・・
アイシー:凄く綺麗な作り物ってゆーか? 美しいとは思っても、エロいとは感じないんだよね。キャハッ
イヴィル:アニメの方がエロいって思う人いるもん! いっぱいいるもん!
アイシー:まあね〜。ぶっちゃけ美しさだけならアニメに勝るものは無いと思うし〜。
バトラー:褒めてるんだか、貶してるんだか。
アイシー:数学の難問とかに似てるかも。美しいのはわかるけど、中身わかんない感じ?
イヴィル:相変わらずアイシーちゃんの感性は独特だね♪ そんなところも大好きだよ♪ちゅっ
アイシー:バ・・・バカ・・・
バトラー:どうしましたアイシー? 顔が赤いですよ?
アイシー:キャハハハハ! チャットで顔色が見えるわけないじゃん! 自分で言ったことも忘れたの〜?
バトラー:・・・その方が貴様らしい。
アイシー:は!? バトラーまで何!?
イヴィル:ん♪ん♪んあっん〜♪ みんな可愛い私の子。捨て駒だなんて思ってないからね?
アイシー:キャハハハハ! 残念だけど、それは信用しーないっと。絶対に信用なんか、してやるもんか。
イヴィル:・・・・・・
アイシー:キャハハハハハハッ!!





   第十五話   了

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