佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS サトリン」 第十六話 十戦士集結! (V)

<<   作成日時 : 2016/10/01 00:54   >>

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■■■■■



自分が“選ばれし者”だと思ったことはあるか?

入流聡子の残したプログラムが誰に課せられるのか、あらかじめ決まっていたのか否か。ある意味ではYES、ある意味ではNOと言おう。宇宙の誕生が、生命の発生が、人類の歴史が、自分の存在が、どこまで必然か偶然かを論じるようなものだ。正解はあるが、それは前提によって変化する種類の正解だ。予知能力者は、自分の力量の範囲で未来を変える力を持っている。未来を変えた者にとっては、あらかじめ決まっていた現在ではないが、その未来に手を加えてない者からすれば、あらかじめ決まっていたことになるだろう。これから話すことを聞いて、自分は電脳戦士として“選ばれた”のか、偶然“そうなった”のかを、それぞれが判断してもらいたい。
どこから話すべきなのかと言えば、私の祖母・三日月万里子(みかづき・まりこ)が生まれた頃からだろう。六道さんの姉的存在だった彼女は、鬼灯一族の頭首・鬼灯棗(ほおずき・なつめ)と協力して、“光兎計画”を成功させた。そうして生まれたのが“成功作”黒月繭里(くろつき・まゆり)、今の黒月真由だ。鬼灯一族は薬や毒に詳しく、人体改造を得意としていて、その技術と万里子おばあさまの千里眼を合わせて、計画は成功を見た。“完成”までには更に半世紀を要することになるが、“成功”だけでも十分な成果だった。黒月繭里はA級エスパーとして成長し、アルカディア第一期のメンバーとなった。

真由:はーはは、懐かしい話だわ。
X!:俺らの大先輩っすか!?
真由:といっても、正規メンバーとして活動していた期間は短いのよ。今でもアルカディアに戻ったつもりはない。
カタストロ:私の説得にも応じてくれませんね。
真由:処女だから。
カタストロ:は・・・・
真由:なんつて♪
トランジスター:黒月って処女じゃないんだ?
真由:はーはは、人前で大胆なこと言うわね十島ァ?
トランジスター:あ・・・あう///
真由:・・・あたしはノットーの女だったのよ。超能力の使い方もセックスも、嫌というほど仕込まれたわ。

ノットーは、A級のP・KとESPに加えて、相手の超能力をコピーして自らに加算する能力を持っていたのよ。それを反転させて使うことで、相手の超能力を相殺するの。途轍もなく難しい技術なんだけど、ノットーにとっては息をするように容易いことだった。あたしは彼の前では無力な少女だったし、三日月万里子の千里眼も相殺されて、ノットーの動きに気付けなかった。それとも、気付きたくなかったのかもね? 彼女も“女”だもの。
鬼灯一族と三日月万里子は、あたしを“理想的な女”として製作した。いつまでも少女のままの外見で、男受けのする美貌とプロポーション、そして感度良好で淫らな肉体。そういうデザインに加えて、ノットーに調教され続けてきたものだから、男なしではいられない体になってしまったわ。旧日本軍の特殊部隊に所属していたとき、あたしはリーダーであると同時に性欲処理係だった。毎日のように、男たちに精を注がれてきたわ。
だけどね、あたしはノットーを恨んでないのよ。道具として扱われ、人殺しまでさせられて、仲間を殺されて、それでも憎しみが湧いてこない。たとえ血塗られた道といえども、あたしに生き方を教えてくれたのは、紛れもなくノットーなの。あの人類最悪の男に、どうしようもなく惹かれてしまった。女として、自分の選択を言い訳することはない。
だけど十島、謝っておくことはあるわ。

トランジスター:え? どういうこと?
真由:十島のお父さん、育生は・・・あたしの愛人の1人だった。
トランジスター:そ、そうなんだ? でも、どうして謝るの? そういえば何か、前にも謝ってたけど・・・
真由:あたしの体液には催淫効果があるようにデザインされてるの。育生が浮気するようになったのは、そのせい。
トランジスター:・・・お父さんが浮気しなければ、家族は壊れなかった?
真由:家族が壊れたことも、十島が虐待されていることも、知ったのは最近のことだったわ。
トランジスター:だから守ってくれたの?
真由:十島を守ったのは九古さんよ。あたしは何も出来なかった。踏み込めなかった。
ファイバー:はっ、あんたは十分よくやってくれたわ。曾孫を守ってくれて感謝してる。
ジャスミン:そうです、イヴィル・テンタクルを倒してくれたのは、黒月さんですよね?
真由:・・・正体がバレないように、ギリギリまで力を隠していた。ごめんね。
ジャスミン:そんな、助けてもらってお礼を言うのは私の方です。
舜平:そうだぜ。ありがとう。
真由:三日月千里の能力を知っていれば、もっと早く出てきたかもしれない。
千里:だから知らせなかったのさ。むざむざイヴィルにデータをくれてやることもあるまい。
真由:頼りにしてるってこと?
千里:無論だ。ここに集まってもらった者は、直接・間接あれど皆、戦力として動いてもらうつもりでいる。

その為にも、話すべきことを話しておこう。私にとって最愛の家族で、理解者だった祖母・万里子が死んだ、1952年の8月。空を切り裂いて“ミコン”が現れた頃からな・・・。
私にとって万里子おばあさまの死は、人として大切なものを多く失い、人でなしの心を大きく得たものだった。まがりなりにも私が人のままでいられたのは、2人の友人、七村光子(ななむら・みつこ)と吉岡同人(よしおか・どうじん)のおかげであり、義弟ミコンの存在だ。家族にさえ恐れられた私と、気兼ねなく付き合ってくれる貴重な相手だったよ。どれほどの時間が経とうと色褪せない永遠とは、ああいうものを言うのだろう。
しかしそれは、現実は刻々と色褪せていくという残酷な意味合いも含んでいる。ミコンと過ごした夏は短く、変えることが出来た未来は、望みうる万分の一にも満たない。私は予知能力者の少女“三日月千里”から、アルカディアの最高幹部“ギガマイル・クレッセント”となり、人としての自分を置き去りにした。誰ひとり救うことは出来ず、全てが台無しになってから千里眼の出番を作ってやったというわけなのさ・・・。
ミコンは古代超人類の混血児で、オーバーナイン・テレポーテーションで1万2千年の時を超えて1952年へ跳んできたんだ。同じく1万2千年前から跳んできたコンシは、肉体を失ってアレクセイ・フョードロヴィチとして生まれ変わり、今は私の副隊長だ。今となっては、ミコンの思い出を語り合える、ほぼ唯一の相手だよ。
当時9歳だったアリョーシャは、同胞の存在を知ることさえなく、12歳だった私は大人の悪意の前に無力だった。千里眼の力も今と比べて遥か劣り、しかも不安定で未熟。史上最大の千里眼にも、自身の力をもてあましていた時期があったのさ。20代の頃はそんなことも忘れていて、30代の頃は恥ずかしくて記憶を墨で塗りたくなり、今となっては微笑ましいかな? 万里子おばあさまの歳になって、彼女の気持ちがわかると共に、微笑ましいというのは不謹慎でもあるだろうよ。ミコンを守れず、逆に守られてしまった未熟者。嫌になるね。今でも思うことはあるさ、もっと私が早くに気付いて対応していれば、防げた悲劇だとね。ミコンの死によって、私の力が安定したのは皮肉としか言いようがない。私の神化系能力は死者のESPをコピーする能力で、ミコンは自分の力を安定させる能力を持っていた。私は助けられてばかりだ。今も昔もな。
1952年当時、私には変えたい未来が5つあった。いや、当時の心境としては、変えてやるぞという意志よりも、諦めに近いものだったよ。そのうちの1つ、万里子おばあさまの死を経て、そのESPを吸収することで、他の4つも、よりよく見えるように・・・この場合は、より“悪く”見えるようになったと言う方がいいか。ミコンのESPを吸収していなければ、発狂していたかもしれん。恒常的に危うい精神状態の、ひねた子供であったわけだし・・・それは今もだが。
変えたい未来は、残り4つ。ひとつは七村光子のこと。ひとつは吉岡同人のこと。ひとつは家族のこと。ひとつは、自分のこと。光子は将来、年上で一見包容力のありそうに見える、悪い男に引っかかってしまい、生まれたばかりの娘を苦界に棄てることになる。同人は将来、精神を患って拷問まがいの治療を受けるのが見えた。家族は、母・八重子の死から始まって崩壊し、そして私は惨めに死ぬ未来が待っていた。実際こうして他人事のように語っているあたり、あの少女は死んでしまったのだと思っているよ。死者は何も出来やしない。友人の悪しき未来を打ち砕くことも、家族を守ることも出来ない。
再会したときの光子と同人は、すっかり人が変わっていて、光子には「どうしてもっと早く助けてくれなかったの」と恨み言を吐かれ、同人は拷問で廃人寸前になっていて私のこともわからないようだった。・・・光子の言う通りだ、どうして私はもっと早く手を打てなかったのか? せっかく生き延びたというのに、アルカディアの最高幹部としての責務を、友人たちより優先したのだ。あの輝かしい日々は、永遠に壊れてしまった。心の中の冷たい虚空で、壊れたまま漂っている。もはや他人の人生を眺めているようだ。

海月:ちい姉ちゃん・・・。
千里:そう悲しい顔をするな、みつき。全ては過去のことだ。

しかしそれは私にとってという意味であって、七村七美、吉岡人見、お前たちには私を責める権利がある。私は大勢のアルカディア市民を優先し、少数を切り捨ててきた悪しき為政者だ。

レックス:それは違う!
千里:黙ってろレックス。お前も通った道のはずだ。
レックス:っ・・・!
アインストール:頭では理解できているわ。でも感情が止められないのは何故かしら? 何故わたしが、わたしが
アプリケイション:七美さん・・。
アインストール:何故わたしが、こんな運命を背負わなくてはならないのかしら!?
ガーディアン:・・・・・・
トランジスター:七村先輩・・・。
インビンス:・・・・・・
アインストール:・・・・・・なんて、8年前にも叫んだのよ。今となっては赤面ものかしら?
千里:行き場の無い怒りを、それを受け止めてくれる相手に吐き出すのは、重要な儀式だ。
レックス:・・・・・・
千里:かつて私が吐き出す側だった。だから今は、受け止める役目だ。
人見:悪い人ね。
千里:私は菩薩じゃない。計画なしに思いを受け止めることなど出来やしない。レックスにも見透かされたものだ。
レックス:・・・すまない。
千里:何が?
レックス:昔のことじゃない。自分のことを棚にあげて、他の人がお前を責めるのを止めようとした。
人見:構わないわよ。だってそれって愛の成せる業ですもの。
アインストール:レックスさんも素直になれない人なのかしら?
千里:そうなんだ。ツンツンしてるばかりで、なかなかデレてくれなくて困る。ホントは私が好きなくせに。
レックス:うるせえ・・・。・・・
シュン:・・・お気持ち、お察しします。(おれとしちゃあ痛いほどわかるぜ・・・)
人見:ま、出来るだけ明るく行きましょうってことよ。無理に明るくしなくていいけど、義理で湿っぽくしなくていいわ。
イワン:ん、同感。
人見:それに千里さん、あなた・・お父さんの未来を変えてくれたんじゃないの?
千里:・・・・・・万分の一に満たない程度はな。
レックス:完全に廃人になるのは免れたってことか。
千里:共産圏を支援して、結果的に地球規模で福祉を向上させたのさ・・・。
レックス:何で浮かない顔なんだ? アリョーシャやイワンがソビエトに酷い目に遭わされたからか?
千里:そうだ。ここでも私は命の取捨選択をしている。
イワン:あんたの気にすることじゃない。あれはソビエトの暴走さ・・・。
千里:それを予知できない私じゃなかったんだよ。
イワン:どっちみち遅かれ早かれだ。あんたのおかげで救われた命があることも忘れてもらっちゃ困る。
千里:・・・・・・

確かに私は未来を変えた。悪しき未来を部分的には打ち砕いた。殺されそうになった家族を守ることは出来たし、こうして生き恥を晒し続けている。少女が少女のまま死ぬのは美しいが、生きて足掻くのが私の流儀なのでな、当時も今も、この先も。
同人が拷問まがいの治療を受けることを、幾許かでも軽減できたのと同様、光子の運命も少しだけ変えることが出来たんだ。結果は同じことだったが・・・。
それについては、ある男のことを語らずにはおけない。九古鈍郎の父、九古貞主のことをな。
私にとって友人と呼べるのは、後にも先にも3人だけだ。七村光子、吉岡同人、沢木銀一の3人。少女時代に出会い、別れた、三日月千里にとっての永遠だった。
九古貞主は私と同じ中学に通っていたが、そのときの私にとっては大勢の中の1人でしかなかった。彼が生まれたのは1939年だが、私は早生まれなので学年は同じ。それだけの間柄だったよ。クラスメートですらなかった彼が、光子の人生に大きく関わってくるとは、私にも予知できなかった。それは私が未来を変えた結果だったのだからな。
正直ノーマークだったのだよ。光子を誑かす男は年上と出ていたし、九古貞主が慕情を向けていた相手は私だったしな。しかし私は消息を絶つ前に、光子に手紙を残していた。そこで「年上の男に気をつけろ」と書いたことが、未来を変えたのだ。九古貞主は七村光子と結婚し、わずか半年で破綻した。私が変えたかった未来は、光子が不幸になってしまうことだったのに、その結果は変わらず、ただ相手だけが変わったのさ。

インビンス:じゃあ、まさか・・・
アインストール:わたしと鈍郎は、本当の姉弟なのかしら!?
千里:その通り。
インビンス:しかも七美ねえさんが生まれたのは1966年・・・兄より後だ・・・。
千里:離婚してからも関係は続いていたのさ。次の結婚が上手くいったのは癒してくれる愛人のおかげとも言える。
インビンス:・・・私には、責任は無くても知る義務はあった。
千里:だから話した。
アインストール:わたしにとっては今更かしら。わたしを見捨てた母の罪が、また増えただけ。
千里:8年前にも言ったが、七美には光子を責める権利がある。
アインストール:それも今更かしら・・。苦しみを訴える権利は、若い世代に残しておかなくちゃ。
千里:そうか。お前も私から見れば、十分若いんだが。
アインストール:口に出して訴えなくても、あなたが聞いてくれている。それで十分かしら。
千里:・・・ありがとう。


   光子___貞主___志穂
        |     _」_
        |    |   |
       七美  鋭郎  鈍郎


入流聡子が生まれたのが1963年で、同じくして電脳計画はスタートした。七村七美の生まれた翌年の1967年が、私が光子と同人に再会したときで、三角龍馬が生まれた頃でもある。変わり果てた友人との再会で沈んでいた私は、その翌年にレックスと出会うが、逸る気持ちを抑えきれなかったのは千里眼として失格だったな。わたしにとっては窮地を救ってくれた未来のビジョンでも、レックスにとっては初対面の相手だ。普通の人間に千里眼の事情を察しろと言っても無理な話だし、それ以前に超能力の存在を信じてもらうのが難しい。まったく、無様なものだった・・・レックスの前で私は、随分と醜態を晒したものさ。当時を思い返すと、今でも惨めな気分になる。
その頃の私はアルカディア上層部から警戒されていて、能力に極度の制限をかけられていた。結果的に私にとっても、無制限のまま力をもてあますより有益な、より精緻に能力を扱える状況になったが、それに至るまでの犠牲を思えば、手放しで喜べることではないな。無制限状態なら助けられたはずの者が大勢いるのだ。タウラとトーラの姉弟や、魔犬の犠牲者・・・それに、十島育生の両親も、その中に入る―――1972年のことだ。
封印された“神酒計画”を解き放ったのは、“リバース・オブ・アルカディア”の(7)、11番目の神化系能力者“T2”というエスパーだ。実行犯は別にいるんだが、あの北欧神話のロキのような“悪戯者”には随分と手を焼かされたものだよ。1964年は九古鋭郎の生まれ年だが、朋萌が奴に酷い目に遭わされた頃でもある。そのあたりについては割愛するが、それから8年後、1972年の大事件は忘れようもない。アメリカで起こった同時多発テロは、ベトナム戦争に伴い国際情勢の悪化が招いた、集団ヒステリーだと、一般には報じられているが、真実は“神酒”を注がねば見えてこない。たとえ状況が悪くとも、切っ掛け無しに人は、凶行へ走ることはないのだから。
ミコンを死なせた狂科学者の悪意と対決したのが1974年。私の能力の一部を持ち、ミコンの力の一部を備え、何より厄介な催眠(ヒュプノシス)能力を持っていたエスパーは、最初は静かに忍び寄っていた。奴が葬送曲を奏でるとき、人を死に誘う。ここまで聞いて、心当たりはあるだろう、九古鈍郎?

インビンス:1974年・・・母が死んだ年・・・!
千里:奴は人間の、一過性の感情を増幅することが出来るのさ。

人間は通常、“死にたい”とか“殺したい”とか思っても、すぐに霧散してしまうし、たとえ感情が持続しても実行までは至らない。しかし奴は、普通なら問題にもならないような感情を増幅し、実行に至らせてしまう。
その量的増幅は、質的な転換を遂げる。“あんな女と良い仲になれたらいいだろうな”と思えば、その後をつけて強姦に及ぶ。“刃物で指を切ったら痛いだろうな”とでも思えば、包丁やナイフを持ち出してきて、自分の指を切り刻む。ふと“死んだら楽かな”と思ったが最後、それしか考えられなくなり、自ら死を選んでしまう。

インビンス:・・・その、エスパーは?
千里:私が殺した。私にとってはミコンと、ミコンが好きだった少女の、仇討ちだ。
レックス:もう、あれから30年も経つんだな・・・。

だがレックス、お前も日頃から言ってる通り、年月で薄まる過去はあっても消える傷は無い。厄介な相手は“リバース”だけではない、シャングリラの檻から解き放たれたゲシュペンストの存在にもあった。私は部下を、レックスは友人を、殺されている。“悪戯者”のT2も、ゲシュペンストとの戦いで命を落としているし、よくぞ封じ込めてくれたと小松崎ランには礼を言いたいところだが、彼女の宿命の壮絶さを思えば、迂闊に気安い言葉はかけられないな。
1981年だ。横浜中央病院で看護婦を殺したゲシュペンストは、殺戮を繰り返した後に小松崎ランに吸収された。だが、太古より生きるゲシュペンストは、完全には吸収されず、逆にランにとって“爆弾”となってしまったのだ。それを仕組んだサグは、古代超人類の血が色濃く出たエスパーで、先祖の仇を討ち、地球を優れた者の管轄下に置こうと動いていた男だった。そのときに彼も死んだのだが、彼の望みは部分的に叶ったと言えるだろうよ。

インビンス:1981年・・・“決戦”の舞台は、九州の阿蘇でしたか?
千里:その通りだ。訊かれる前に答えておくと、九古貞主の自殺は、サグの副官パトナに誘導されたものだ。
茶倉:あなた・・・
インビンス:大丈夫だ。超能力というものの存在を知ったときから考えていた可能性だよ。
千里:そうか。ならば続きを話してもいいな? お前の妹の話になるんだが。
インビンス:・・・!

我々がゲシュペンストを追い詰めたのが1976年。そのときに咲村志織を巻き込んでしまった。巻き込むまいと発した警告が、かえって彼女の好奇心を刺激し、破滅へ導くことになってしまったのだ。ミル・ネヴィーは志織の好奇心を見誤り、私はゲシュペンスト相手に千里眼が通じず、結果としては最低だったよ。70年代までの私は、あるまじき失敗を繰り返している。・・・1980年以降も、パーフェクトには程遠いのだがね。
咲村志織はアルカディアが保護し治療したが、やがて彼女はエスパーの存在を調べようとするようになった。それがどれだけ危険なことか、教えてやれる人がいなかった。教えることは、すなわちエスパーの存在を教えてしまうことであり、好奇心の赴くままに明るみに晒されてしまう。その自体が来たときは、ナンバー8(ハヌマン・アンタ)の出番になっていたが、そうならないと予知できていた。だがそれは彼女にとっては、決して良かったとは言えなかった。
素人の単独調査としては実際、彼女は恐ろしいまでに深く首を突っ込んでいた。十島育生が重力使いの能力者であることまで突き止め、接触を試みたのだ。

トランジスター:・・・・・・
茶倉:・・・・・・
千里:ことわっておくが、咲村志織を妊娠させたのは、十島育生ではない。
トランジスター:そ、そうなんだ。
茶倉:・・・肉体関係が無かった、とは言わないのね。
トランジスター:・・・!
千里:察しが良いのは時に残酷だな。十島育生は、知ってることを話す対価として、体を要求した。
トランジスター:・・・お父さんなら、やりかねない、か。
千里:好奇心も洞察力に負けず劣らず残酷なもの、大きな対価を払った志織は、引き返す選択肢を捨てた。
茶倉:その頃の話は断片的に聞いてるわ。妻を亡くした男やもめと関係を持っていたとも。
インビンス:・・・―――!!
トランジスター:センセー? ・・・・・・・・え、まさか・・・?
茶倉:兄さん、なのね。
インビンス:・・・私には7つ下の妹がいると、父が言っていた。それが茶倉・・・なのか・・・?
舜平:聞いたことは・・・あったな。
ファイバー:・・・は、そうなると、母親が違うとはいえ兄妹同士で結婚したということなの?
トランジスター:そんな・・・
千里:ところが違うんだな、これが。
インビンス:えっ
茶倉:・・・え?
千里:咲村志織を妊娠させたのは九古貞主で合ってる。しかし、お前たちは兄妹ではないのだ。
真由:やっぱりそうだったのね。
トランジスター:黒月?
真由:志織は辿り着いたのよ。偶然に助けられたとはいえ、一介の市民が、このわたしへ。
千里:そのとき真由良(真由)も妊娠していたんだ。ちなみに父親は十島育生だ。
真由:育生だったんだ・・・。ごめん、十島。
トランジスター:う、うん。でもそれより、どういうことなの?
真由:あたしと茶倉さん、他人の空似なんてものでなく、凄く似てると思わない?
インビンス:あ・・・ここに来たとき、そう思ったんだったな・・・。
トランジスター:・・・あ、赤ちゃん取り違えられた、とか?
真由:以前から疑ってはいたのよ。真弓(娘の名)は志織に似ていて、あたしには似てなかったからね。
茶倉:・・・母さん?
真由:はーはは、ありがと。こんなあたしを母さんと呼んでくれるのね。
千里:図にするとこうなる。


   志穂___貞主___志織 真由____育生___隆子   ※貞主は光子との間に七美
      _「_      「           「      _「_       ※育生は他の女との間に陸生
     |   |     |・・(取り違え)・・|     |   |
    鋭郎  鈍郎   茶倉        真弓   累月  瑠璃子


トランジスター:ということは茶倉さんは私の姉・・・。あはっ、姉妹で同じ人を好きになっちゃったんだ。
茶倉:血は争えないわね。・・・それとも、争ってみる?
トランジスター:・・・・・・
茶倉:・・・・・・
インビンス:すまないが十島、私の答えはもう出ている。君の思いに応えることは出来ない。
トランジスター:・・・うん、わかってる。私は想ってるだけでいい。想ってるだけなら綺麗だから。

想ってるだけなら綺麗だというのは、ひとつの真理だな。では、汚れてしまったことに耐えられない人間は、どうなると思う? 自分であろうが他人であろうが、“汚れている”ことを許せない人間は、死ぬよりも恐いことがある。それは誇りを失って生きることであり、そうした人々に誇りが汚されることだ。“死んだ方がマシ”という言葉を冗談でなく本気で、そして自他ともにダブルミーニングで適用する。熱く湧き起こる正義の怒りは、時として法を超える。正義が法に裁かれるのなら、そんな法に守るべき価値は無いと、自らのルールで動き出す。怒りは純粋であるほど強力で、自分でも止められない。多くの理不尽に耐えてきた者ほど、動き出したら止まらないんだ。
こうした気持ちは多かれ少なかれ、人類の過半数が抱いているものだ。とりわけ若者、心が若い者ほど怒りも強く、理解は火の融合に、無理解は火に油を注ぎ、世界を焼き尽くす大火となるポテンシャルを秘めている。それは向かう方向によって、最も美しい正義となることもあれば、最も破壊的なファシズムになることもある。扱う者が破壊を望んでいる場合は、より強力かつ強固なファシズムとして、反対する者すべてを悪と断じるようになる。
サグの副官パトナは、“音声麻薬”と呼ばれた装置“アカバン”をバラ撒き、感情に指向性を持たせていった。最も上手い洗脳の方法とは、誰もが心の中に抱いているような感情を増幅してやることなのだ。大半の人間は、たとえ義憤に駆られたとしても、そうそう行動には移さないが、催眠(ヒュプノシス)によって指向性を操作させられれば話は別。普通に生きていれば一過性に過ぎない感情だろうと、存在する以上は増幅できる。それが自殺衝動であったとしても、無いものを与えるよりは簡単なのだ。

インビンス:母も父も、エスパーに殺された・・・。
千里:それが真相だ。許されるものではない。
インビンス:生きていてくれれば、その後も違ったのでしょうか。
舜平:・・・・・・
千里:そうだな。1990年の話をしよう。

現代日本が平和か動乱か、豊かなのか貧困なのかと、抽象的に話しても無意味なことだ。歴史区分や多数者を基準にすれば平和で豊かだし、生活の苦しい者にとっては貧困で、抑圧を受けている者にとっては動乱だ。立場や視点によって評価は全く異なるし、他者の立場を想定するほど評価は複雑化する。かように評価というものは下すのが難しく、決定に足りる情報を得ているか否かの判断まで含めれば、今度は時間との戦いになってくる。評価によって作られる成果を労力が上回ったとき、評価すること自体の意義が薄れることもある。
しかし、ひとつ単純なことを言えば、たとえ自らが豊かで平和な人生を送っていたとしても、貧困や抑圧に苦しむ者が存在すれば、豊かさや平和が脅かされる危険性があるということだ。ゆえに平和は精度によって質的に別物であり、目指すべきは世界平和ただひとつ。今あるだけの平和を守ろうとするのは、合理性を欠いた倫理であり、どこかで必ず破綻が起こっている。その破綻も大多数の者とは関係が薄いので、他人事として捉える者が多いが、当事者にとっては時代の流れよりも優先的に、意識や感情が集中する。1990年は、九古鋭郎の妻・坪内純が殺された年であり、それから九古舜平への虐待が始まった頃でもある。

インビンス:私が側にいれば、虐待は防げたのでしょうか。
千里:そう思う?
インビンス:・・・いえ。
千里:ならばそれが真実だ。
インビンス:・・・・・・
舜平:誰が・・・オフクロを殺したんだ? 誰が!
千里:それは本人に名乗り出てもらおうか。
舜平:・・・!? ・・・・は?
インビンス:この中に純さんを殺した犯人がいるとでも!?
ジャスミン:ちょっと待って・・・
アインストール:・・・・・
ガーディアン:・・・・・・
アプリケイション:・・・いつか、このときが来ると思ってたべ。
インビンス:え、永須さん・・・? 何を言ってるんですか・・・?
トランジスター:うそ・・・
ジャスミン:・・・・・・あんたが?
舜平:・・・・・・オフクロ、を・・・?
アプリケイション:舜平くんが虐待されたのは、全てはオラの責任だべ。
ファイバー:は・・・
インビンス:まさか、そんな
アプリケイション:殺したのはオラ・・・オレだ。
舜平:・・・あんたが、本当に? てめえが?
アプリケイション:そうだ。どんな罰でも受ける。
ジャスミン:・・・っ、信じられないわ。五留吾さん、“アプリケイション”は、貧しい者、はみ出し者の味方で・・・
アプリケイション:それはオレが、貧しくて、はみ出し者だったからだ。
舜平:っ・・・!
インビンス:・・・・・・・・

名は体を顕すという言葉があるが、それぞれの戦士名は能力の性質と関係している。“ガーディアン”と“電子防御”(プロテクト)、“ファイバー”と“雷撃雷化”(トゥールアクセル)のようにな。第四の戦士“アプリケイション”の本来の能力は“電影作為”(ブラウザクラフト)。任意の能力を無尽蔵に生み出すことが出来る、超常アプリそのもの。課せられし戦士は桐札零一(きりふだ・れいいち)・・・当時の第四戦士だ。そしてゴルゴタのイエスこと五留吾永須は本来、第五の戦士“トランジスター”であり、“聖痕”(スティグマータ)を課せられていたのさ。もっとも、ここで言う“本来”とは、入流聡子の想定した人格という意味以上のものは無い。人物ではなく人格だしな。

朋萌:自己犠牲の能力を得たのは、贖罪の感情から来るものとでも言いたいのね?
X!:そういうことだったのか・・・。でもさ朋萌ちゃ・・・朋萌さんが責める筋合いじゃねえって。
朋萌:話を聞いてなかったの? “電影作為”は人助けも戦いも万能にこなせる能力なのよ?
X!:あ・・・
朋萌:罪を償うのは結構なことよ。だけど電脳戦士の枠を奪い、“電影作為”を失わせたのなら話は別。
アインストール:・・・“電脳戦士の本分は人助けであって贖罪ではない”。
朋萌:七美さん。
アインストール:かつて私が言ったのと、同じことを言うのね。
朋萌:・・・・・・
アインストール:蔵目さんの言う通り、責めるか否かは当事者に任せるべきじゃないかしら?
朋萌:・・・そうね。
舜平:・・・・・正直どう考えていいかわかんねえよ。いきなり言われても・・・
インビンス:時間をくれませんか。今は事情を知っただけで十分のはずです。
千里:そうしよう。

それと朋萌の誤解を正しておくが、お前が思ってるほど“電影作為”は万能ではないぞ。任意の能力を作り出せるというのは、そのまま「思った通りの能力しか作り出せない」という短所でもあるんだ。多くのエスパーは自分の能力の原理など知らなくても力を使えるが、“電影作為”は詳細に原理を理解している能力しか作り出せない。強力で有用な能力には違いないが、出力以下のことしか出来ない前提もあるし、実質的には“電脳海遊”(マルチサイバー)の廉価版のようなものだ。“損傷引受”(ダメージシフト)の上位互換であるのは、言う通りでもな。
わかりやすく言えば、もしも“電影作為”が朋萌の言う通り万能に強ければ、桐札零一は8年前の時点でイヴィルを倒せていたはずだ。違うか?

朋萌:そ、それは・・・そうですが・・・
アインストール:わたしも零一を万能だと錯覚してしまったのよ。それを繰り返してはならないのではないかしら?
朋萌:七美さん・・・
アプリケイション:・・・・・・
ガーディアン:しかし朋萌さん、彼を高く評価してくれたことは、感謝します。
朋萌:・・・ええ。
トランジスター:・・・その、もしかして桐札さんは今・・・・
アインストール:そうよ。零一はイヴィルに触れることさえ出来なかった。
レックス:イヴィルが暴れたのが1996年でなければと今でも思うぜ。狙いやがったんだ、奴は。
千里:・・・アルカディアにとっては、半世紀ぶりの大災厄だった。

8年前、1996年について語ろう。


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タイトル (本文) ブログ名/日時
「サトリン」第二部まとめ読み
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佐久間闇子と奇妙な世界
2016/10/01 01:06

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サトリン」 第十六話 十戦士集結! (V) 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
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