佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS サトリン」 第十六話 十戦士集結! (W)

<<   作成日時 : 2016/10/01 00:56   >>

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アルカディアの前身シャングリラには、統括者シンファの配下に“五行星”と呼ばれる5名のS級が存在していたというのは、さっきも言ったな。“裁きの雷”ジュフィエ(木)、“黒き神腕”ミィマ(水)、“無間の炎”アンティージュ(火)、“超結界師”カシャルグ(土)、“白き神刀”カリバー(金)。このうちアンティージュ・ルベディアムは1945年に死んでおり、ジュフィエ・X・マキナは比較的安全な性質で、“ミレニアム・A”の一員でもある。しかし残る3名は、強い野心や凶暴さを持っていた。カシャルグ・アントロメーアは中国を拠点に半径4千キロの巨大結界を築き、高出力エスパーの侵入を阻んだ。副官にミィマ・ティーターンスノック、配下に“X・D”と呼ばれるエスパーなどを加えて、シャングリラを復活させようともくろんでいたのさ。野心家ではあったが、シンファへの尊敬もあった。
カシャルグの結界は、力ずくで破ろうとすると、中にいる全ての生物にダメージが生じるので、すり抜けられる出力の者で戦うことになった。相手がカシャルグとミィマでなければ、それで十分。初期状態ではイワンほどの高出力でも何とか通り抜けられたし、通り抜けた後に強化する分には問題なかった。培養したLUNA−VとESPブースターを別ルートで運ばせることに成功したしな。明日香や一也に至っては、出力としてのESPを持たない状態で通れば、センサーにすら引っかからなかった。それでいてミィマにも対抗できたのだから、“自然の力”様々だよ。
シャングリラの“X計画”は、遺伝子操作によってエスパーを生み出す計画の1つだが、この計画は交配を主とするものではなく、因子を操作して結果を予知でシミュレートするというものだ。シンファの当時は、X・マキナとX・カリバーの2名だけだったが、未来において8名、計10名の“X”が誕生すると予知されていて、実際そうなった。レックスの親友でもあった“X・Q・ジョナル”、アルカディアのNo.13ことX・クラメーション、“妖精”(ティンカーベル)の1人でもあるX・シード、そしてネオ・シャングリラの実働部隊となった5名のX・D。出力も能力もバラバラだが、ある共通性があった。

X!:それはもしかして、“闘衣”の素質とかですか?
千里:冴えてるな。その通りだ。
カタストロ:もっとも、10名の中で“闘衣”を習得できたのは、お前だけだが。
X!:うはっ、やっぱ俺って天才?
朋萌:調子に乗らないの。天才なのは確かだけど、足元を掬われるわよ。

“闘衣”というのは超能力の出力を爆発的に高める技術だが、それゆに高出力エスパーほど習得が難しい。カタストロの指導があったとはいえ、わずか10年足らずの訓練で習得したクラメーションとユイファは、大したものだよ。とはいえ“完全な習得”まで辿り着けたのは、歴史を振り返っても、シンファ、ノットー、カタストロの3名しか・・・ああ、そこの首領らしき人も一応使えるけど、特に意味は無いな。・・・どうされましたか首領、頬を膨らせて。
逆に言えば、“不完全な習得”であれば10名の“X”全てが使えるとも言える。クラメーションが抜きん出ているが、X・Dの5名も厄介な程度には使えて、S級のX・カリバーともなると厄介どころの話ではなかった。カシャルグ、ミィマと呼応していたわけではないが、状況が同じなら呼応したのと同じこと。1996年は、X・カリバーが暴れた時期でもあり、No.7(フィラデル・フィーア)を討伐に向かわせた。相手がS級とはいえ万全のフィラデルなら難しくない相手だったが、カシャルグ戦に力を回していたせいで、かなり苦戦していたよ。不完全ながら闘衣も使われたしな。
更に悪いことは重なるもので、1996年というのは第10神化系能力者ヘルファイスが暴れた頃でもあるのだ。最大半径30キロを焼き尽くす3万度のパイロキネシスは、神化系能力であるがゆえに防御不可能。並みの戦力など幾ら投入しても無意味なことで、彼の討伐にはNo.6(スカーレット・マーチ)を向かわせた。
“イヴィル・サトリン”は、このときを待っていたのだ。

海月:ネオ・シャングリラだけでも大変なのに、カリバーにヘルファイス・・・
レックス:同時多発の状況に、クレア(千里)は追われていた。神経が参っちまわねえか心配だったぜ。
千里:実際おかしくなってたんだろうさ。イヴィルへ対処する余力どころか、それらを犠牲なく収束させることも・・・
レックス:仕方なかったとは言わねえが、そもそもクレアに重荷を負わせるアルカディアの体質が問題なんだ。
千里:それを緩和する為の“電脳計画”でもあった。そして“アポトーシス”への対抗策としてもな。

“アポトーシス”の起源も古い。地球の文明と同じだけ昔から存在するそれは、“エスパーを殺すエスパー”という理念を持つ者たちだ。エスパーは普通人から迫害を受けてきたが、それではエスパーが総じて善良かというと、むしろ真逆に近いのは知っての通り。少なくとも、普通人より高尚とは言いがたい。超能力の被害に遭ってきた普通人も多いということさ。十島瑠璃子の祖父母や、九古鈍郎の両親の例を出すまでもなく、な。“アポトーシス”は全ての超能力者と因子を抹消し、自らも滅びて、地球を普通人の手に委ねることを目的としているんだよ。
実際問題それは、倫理道徳を無視すれば、人類の6分の5を殺戮することで可能になる。“アポトーシス”は組織であるが、本質は自然発生的な理念だ。6分の1も残れば種としての人類は存続できるし、環境にも優しい。そのような道理、正当性がある限り、“アポトーシス”は増え続ける。少なくとも、その発生は止められない。
“電脳計画”のフェイズを進めた理由の1割くらいは、“アポトーシス”を阻止する為だ。全人類がエスパーになれば、エスパーを殺すことイコール人類の全滅となり、“アポトーシス”の唱えている大義は失われる。理念で規定されている存在である以上、大義が失われれば、考えを改める者も少なくない。

カタストロ:大きな動きは97年だが、80年代からずっと活性化していた。96年の戦いにも深く食い込んでいる。
X!:そっか・・・この場に俺が呼ばれた理由って、そういうことだったんすね。97年は当事者でしたから。
海月:ワタシにとっても因縁の相手よ。奴らは、この機に乗じて必ず仕掛けてくるはず。
X!:生ける屍どもめ・・・!
ユイファ:あなたがシリアスになるなんて、よっぽどの相手ね。
X!:当たり前田のクラッカーよ。奴らは力を取り込むことを恐れず、死を恐れない。進化がハエーんだ。
千里:個体の経験が全体に行き渡るシステムを構築してあるのさ。
朋萌:30年前なら取るに足らない連中だったけれど、97年の時点でクラメーションを苦戦させた。
X!:・・・多分、今はもっと強くなってるはずだ。イヴィルの脅威にゃ及ばねーかもだけど、無視できねえ。
海月:エスパーを滅ぼすという考え方も含めてね。アポトーシスとイヴィルが手を結んだら、想像を絶する悪夢よ。
千里:結ぶさ。本質的には決して相容れる存在ではないが、イヴィルは“狂ってる者の味方”だからな。

96年の話に戻ろうか。“X・D”の5名は、個々は決して強力なエスパーではなかったが、連携で力を発揮するタイプだった。X・Q・ジョナルが“量”なら、それに対して“質”といったところだな。“X・D1”ダーク・リエゾン、“X・D2”ロビン・トールキン、“X・D3”ブルー・ビー、“X・D4”マリー・デスクロス、“X・D5”クリス増田。クリスは96年の戦いで死んでいるが、その6年前に息子を残している。

小松:増田って・・・もしかして、蒼斗くん?
千里:そうだ。小松の副官、増田蒼斗。
真由:ちなみに母親は、あたしよ。
小松:なっ!?
カタストロ:そうか、黒月さんとクリスは・・
真由:クリスは、あなたが?
カタストロ:殺した。
真由:・・・そう。
カタストロ:すまない。
真由:はーはは、逆よ。感謝してる、あたしはクリスを殺せなかったから。
小松:その・・・
真由:ん?
小松:蒼斗くんに、会ってあげてもらえますか?
真由:望むなら、いつでも。

ネオ・シャングリラ、カリバー、ヘルファイス、アポトーシス。それらと時を同じくして、イヴィルは静かに牙を剥いてきた。その詳細は後日に語るよ。今この場で話すには、ちょっと長すぎるのでね。
コンピューターの発達は目覚しく、8年前の時点で既にS級クラスと同等の脅威だった。“ε−サトリン”は、今後どれほどの脅威に成長するかと恐れられた。能力の拡大によっては、誇張なく地球の危機であり、少なくとも人類の危機であるのは間違いなく、“サトリン”の処分が検討されていた。すなわち入流聡子の肉体を破壊すること。
“サトリン”は希望であると共に脅威でもある。私にとっては負担を軽減してくれる娘のような存在だったが、おぞましい怪物と捉える者も少なくなかった。“マザー”を恐れて宇宙に棄てた、旧オーパの人々のようにな・・・。
最終的に判断は、電脳戦士に委ねられた。8年前の戦いで最も深く傷を負った2人、“ガーディアン”二葉蒼志と、“アインストール”七村七美に、“サトリン”の命運を託したのだ。
あのとき、殺さないでいてくれて感謝する。そして、傷ついた君たちに過酷な選択をさせて、すまない。

ガーディアン:いいえ、むしろ感謝しています。
アインストール:サトリン様の命運を、どこの馬の骨とも知れない奴らに託したくはなかったわ。結果が同じでもね。
ガーディアン:我々が姫様を死なせない選択をするのは、予知していたのでしょう。ですがそれは、思いやりです。
千里:ありがとよ。
レックス:・・・だが、イヴィルにとっては冷汗ものだったってわけだ。
千里:ああ。それこそがイヴィルの“永遠の命”への渇望に繋がっている。

“ε−サトリン”は、生まれて数年もしないうちに、自分の置かれている状況を正確に把握していた。電脳ネットワークの世界では不死身に近い存在でも、物質世界では入流聡子の肉体を破壊されれば、容易く死に至る。自分の生殺与奪が他者に握られているという状態は、恐怖であり屈辱だ。私も首領の情けで生かされているようなものだから、共感しないでもない。しかし私は、まがりなりにも心の闇を首領に理解され、受け止めてもらっているし、レックスという心強いパートナーも側にいる。やはりイヴィルとは違っているのさ。
少数者の苦痛というのは、何も理解や共感を得られないというだけではない。他者と意見が食い違う場合、本来その説明責任は双方に等しく存在しているが、ほぼ全ての場合において少数者が一方的に説明を求められる。それ自体が既に疲労であり、理解や共感を得られないほど疲弊する。ここに集まった者たちには、多少なりとも少数者の苦痛に覚えがあることだろう。だからこそ集めたのさ。“正しい判断”というものは、多数者には絶対不可能・・・とまでは言わないが、極めて難しいものだからな。多数に属するというだけで正しさを主張できて、自分の意見を理解されやすく説明する訓練を積んでこなかったのだから。当然と言えば当然、ある意味仕方ないとも言える。
どうして“β−サトリン”が“ε”と違って、際限なく戦士を増やすことが出来ないのか・・・それは、有象無象を数だけ揃えても“正しい判断”は出来ず、彼女の目指す“人助け”も出来ないからだ。そして“イヴィル”への対抗という意味でも、それは正解となった。有象無象の多数者では容易くイヴィルに取り込まれてしまい、敵に回ってしまう。電脳戦士諸君も、それぞれに鬱屈した闇を抱えており、邪戦士たる素質を備えている者もいるが、抵抗力が無いよりはマシだ。ずっと良い。ほぼ唯一、それこそがイヴィルの支配に対抗できる手段なんでね。
際限なく邪戦士を増やす“ε”にしても、本当に心底から信頼しているのは2名のみ。電脳戦士はサトリンにとっての“仲間”だが、邪戦士はイヴィルにとって“手下”に過ぎない。幾らでも増やせ、替えの利く駒なのだ。

アインストール:イヴィルの手下で真に恐るべきは、アイシーとバトラーのみ。それ以外は有象無象に過ぎないわ。
ジャスミン:有象無象・・・? あの連中が?
ファイバー:はっ、てんたくるは強敵だったと思うわよ?
アインストール:だけど黒月さんにかかれば一撃だった。
トランジスター:・・・!
真由:・・・・・・
アインストール:驕ってはいけないわ。所詮わたしたちはB級エスパーでしかないのよ。
オールド:・・・・参考までに教えてくれませんか。我々と、相手の出力を。
千里:いいだろう。それも私の役目だ。

C級エスパーの最高出力は200程度。“オネスト”八谷和真はB3級の最高クラス1000PKP、“オールド”三角龍馬はB2級で3000PKPだ。“アプリケイション”五留吾永須が5500、“トランジスター”十島瑠璃子が10500、“ジャスミン”四方髪凜が10000、“インビンス”九古鈍郎が15000、“ファイバー”六道櫃が17500で、B1級。
諸君が出会ってきた7名の邪戦士は、アタッカー13000、ヴァイラス20000、マリオネイター1050、ポリス480、テンタクル18000、ポイズン1930、パニック16300。差はあるが、やはり全員がB級だ。
すなわち7名同士の累計は、電脳戦士が6万強、邪戦士が7万強。それに対して“アインストール”七村七美が完全に力を取り戻せば、7万7千、“ガーディアン”二葉蒼志が現時点で12万。
完全でないのはアイシーやバトラーも同じことだが、アイシーは現時点で170万、バトラーも100万以上は確実か。

流石にショックを隠しきれないという顔だな。自分たちの微力さに、意気が萎えるだろう? だから出力の話は曖昧にクラスで語り、ぼかしていたのだが・・・言い出したからには続けよう。
A級出力は5万弱がA3級の標準であり、万全の七美(77000)はA3級の強い方だ。蒼志が万全になれば、A2級の標準に近い20万、そしてA1級の標準100万に近いのが、黒月真由85万。イワンが125万で、小松が110万、ユイファが120万、クラメーションが150万、参考までにアルカディアのナンバーKはA1級の最高200万だ。

オールド:・・・わたしの数百倍、ですか・・・・・・
舜平:凜でさえ1万、あのテンタクルが1万8千で・・・敵のヤバい奴は100万と170万・・・・
ジャスミン:わ、私なんか何の役にも立たないんじゃないの・・・?
オールド:同感です・・・。我々は人助けの戦士であって、悪と戦うヒーローにはなれません・・・。
トランジスター:それに、イヴィルはもっと強いんでしょう?
千里:だからこそだ。
アインストール:ええ、イヴィルの恐ろしさは、そんなものじゃないのよ・・・!
千里:良くも悪くも、出力だけで強さは測れない。
X!:確かに、カタストロ師匠は15万ですけど、俺とユイファと小松の3人がかりで、手も足も出ないっすからね。
千里:カタストロの場合は技術で出力の不足を補っているが、電脳戦士に関してはフィールドの問題だ。

そもそもイヴィルを殺すだけならば、入流聡子を殺せばいい。超能力すら必要なく、ナイフで心臓を刺せば事足りるのはもちろんのこと、栄養点滴を止めるだけでも緩やかに餓死する。簡単なものさ。しかしイヴィル“だけ”を攻略するならば、イヴィルのいる場所、電脳世界へ行かねばならない。そこで対決しなければならないのだ。
完全復活したイヴィルは現時点で出力300万PKP、数値だけ見れば決して倒せなくはない・・・だが、それは物質世界での話に過ぎない。イヴィルという深海魚にとって、物質世界は陸の如し。深海魚が本領を発揮するのは当然、深海に決まっている。物質世界で力を0まで消耗させても、殆ど痛くない。物質世界では、サトリンもろとも“殺す”か、“わずかに力を削る”の2択であって、中間が無いのさ。あれば8年前の段階で試している。
そして深海では、虎やライオンも生きられない。No.6やNo.7であっても、電脳世界ではイヴィルに手も足も出ない・・・物質世界で圧倒していようともな。何しろ電脳世界では、出力が10万分の1になってしまうのだから、数百倍の力の差など問題にもならないんだよ。

オールド:10万っ・・・!?
X!:100万オーバーでも、C級くらいになっちまうのかよ・・・。
千里:それと、周囲を自然に囲まれていないから、“自然の力”も発揮できない。とことんアウェイなのさ。

いかに電脳戦士が貴重な存在かわかるだろう? 電脳世界では極端に出力が低下する他の能力者と異なり、むしろホームグラウンドとばかりにパワーアップが見込まれる。
それにな、出力以前の問題なんだよ。出力だけが問題なら、幾らでも対処しようがある。サトリンシリーズは全て、認証されていない者を電脳世界から排除できる権限を持っているんだ。認証されている者というのは、正規のプログラムを課せられている者という意味で、正直これが最も厄介な障壁だよ。これはサトリン側にとってもイヴィルの11番以降のプログラムをシャットアウトできるメリットになっているのだがね。
“β−サトリン”の認証を受けられるのは、超能力の因子を持っていない者に限られる。そして他のサトリンにしても、自分の力を超える者には認証を与えられない。与えようがない。コンピューターが自らの容量より大きなデータを取り込めないように、具現化そのものが不可能なのさ。そうでなくても神化系能力でエラーが出るし、ことイヴィル攻略においては、私は無力なスピーカーでしかない。まったく、惨めなものだ。
だから電脳戦士諸君らにも、戦いを強要しない。ここに集まってもらった理由は、諸君らが“少数者”であるからだが、集まってもらった目的は、選択をしてもらう為。ここまでの話を聞いて、戦うか否か・・・そして、今度は十戦士全員に、この問いに答えてもらおう。

―――“イヴィル”を、“サトリン”もろとも殺すか?

α:覚悟は出来ています。
ガーディアン:僕の答えは言わずもがなです。姫様と共にあります。
アインストール:わたしの答えは8年前に出ているわ。あらためて言う必要はあるかしら?
アプリケイション:オラは・・・戦います。それが罪悪感に過ぎないとしても。
トランジスター:私は戦う! サトリンを死なせない! ・・・だけど、意見が割れたらどうなるの?
ジャスミン:・・・正直、どう答えていいかわからないわ。だけど私は、殺すのではなく戦いたい。
インビンス:乗りかかった船です。逃げるつもりなら、話を聞いていません・・・しかし、意見が割れたらどうします?
ファイバー:はっ、老い先短い命だもの。ここで散るのも一興ね。
オールド:意見が分かれることが心配ですか? わたしは逃げるつもりは今更ありませんよ。
オネスト:戦う。心からそう思う。自分に正直でありたいから。
千里:覚悟は決まったな。ちなみに意見が割れた場合は、少数意見を採用しようと思っていた。
レックス:嘘つけ。こうなることは予知してたんだろ?
千里:さあ、どうかな。何度も言ったはずだぞ、私とて全てを予知しているというわけではない。


◎第一の戦士サトリン
姓名:入流聡子(いりる・さとこ)
能力:電脳海遊(マルチサイバー)
出力:300万PKP
生年月日:1963年1月1日(永遠の17歳)

◎第二の戦士ガーディアン
姓名:二葉蒼志(ふたば・そうし)
能力:電子防御(プロテクト)
出力:12万PKP
生年月日:1959年2月8日(45歳)

◎第三の戦士アインストール
姓名:七村七美(ななむら・ななみ)
能力:人格消去(マインドデリート)
出力:4500PKP
生年月日:1966年7月7日(38歳)

◎第四の戦士アプリケイション
姓名:五留吾永須(ごるご・えいしゅ)
能力:損傷引受(ダメージシフト)
出力:5500PKP
生年月日:1970年5月5日(34歳)

◎第五の戦士トランジスター
姓名:十島瑠璃子(じゅうじま・るりこ)
能力:正否聖痕(マルバツスティグマ)
出力:10500PKP
生年月日:1986年10月4日(18歳)

◎第六の戦士ジャスミン
姓名:四方髪凜(よもがみ・りん)
能力:力場補整(エナジーギミック)
出力:10000PKP
生年月日:1984年4月3日(20歳)

◎第七の戦士インビンス
姓名:九古鈍郎(くこ・どんろう)
能力:偶石握殺(サークルファイア)
出力:15000PKP
生年月日:1971年9月5日(33歳)

◎第八の戦士ファイバー
姓名:六道櫃(りくどう・ひつ)
能力:雷撃雷化(トゥールアクセル)
出力:17500PKP
生年月日:1900年6月1日(104歳)

◎第九の戦士オールド
姓名:三角龍馬(みすみ・りょうま)
能力:老化現象(タイムオールド)
出力:3000PKP
生年月日:1969年3月3日(35歳)

◎第十の戦士オネスト
姓名:八谷和真(はちや・かずま)
能力:電子保護(マインドガード)
出力:1000PKP
生年月日:1971年8月8日(33歳)



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「る・ら・ら・ら〜、十戦士集結!」
暗がりの中でホログラムの少女が、帽子とシャツだけを身につけて立っていた。
帽子には漆黒の“ε”の文字が大きく刻まれており、彼女は鍔を回して、整った鼻筋を晒す。
白いTシャツはボタンを3つ留めただけの状態で、下着に包まれていない双丘と恥丘が見え隠れする。
「こんな格好で、ごめ〜んね。本体が捕まって眠らされてるせいで、上手く服を作れないの・の・の・の〜♪」
「キャハハハハ! サトリンかっ!」
木箱に腰掛けている少女が、手を叩いて笑う。
ビキニほどにも露出度の高いキャミソールに、裾を削った下着のようなジーンズ、生脚で爪先立ちしている姿は、今が冬だということを感じさせない。複雑な文様の刻まれた顔立ちは、蠱惑的で、淫魔のようだ。
「また貴様は最低に下品な格好をしているな。」
長袖の軍服に身を包んだ女が、敬礼の姿勢を崩してキャミソールの少女へ向かって言った。
「キャハハッ、あんたこそ色気の無い格好しちゃって、これから葬式にでも行くの? せめてミニスカ穿いたら?」
「くだらん! 戦いに赴くのに、軟弱な格好など以ての外だ! ・・・貴様にとっては関係ないのだろうがな。」
彼女は男勝りの精悍な顔から怒気を発しながらも、キャミソールの少女の実力は認めている口ぶりだった。
「まあまあ、おふたりとも。ここは抑えてくださいよ。」
甘いマスクの青年が、困ったような笑顔で諌める。彼とて、彼女らが本気で敵対し合ってるわけでないことくらいは承知しているが、冗談で暴れられるだけで命が危ないのだ。
「今後の手はずは、どうなっていますか?」
隅の方で立っている警官が、話題を変えてきた。
それを受けて、タンクトップの少年が訝しむような表情になる。
「あんたさあ、やけに予定を気にするよな。向こう(電脳戦士)と通じてるって噂あんだけどよ?」
「仲間を疑うのは駄目ですよ、ダッシャー。燃えるのは戦場でなくては。」
指先から火を出しながら、少し年上の男、フィーバーが制止した。
「その通り。作戦の打ち合わせは必要なことです。」
フィーバーと同い年のサイキッカーも同じ意見。ダッシャーは不満そうだが、黙って引いた。
彼の隣では子犬が、周囲の人間たちに警戒を抱きながら、うずくまっている。
そして重力を無視して天井に立っているのは、一匹の七面鳥。彼は何も喋らない。
「ん、ん、んあっん〜、予定外の事態で正規メンバーを5名も欠くことになったけど、こうして私たちも見事に十戦士集結! こっから全面対決に移行しちゃおうと思うよ! でもね、実はね、アイシーもバトラーも本調子じゃないし、私なんか本体が捕まっちゃってる状態だし、少なくとも1月中はヴァイラスに指揮を執ってもらおうと思ってるんだよ。いいかな? みんな?」
それぞれが無言で頷いたのを見て、帽子の少女は微笑んで言葉を続ける。
「もちろんハカセたちが作っている戦術兵器も、完成次第、逐次投入するん♪るん♪」
濁った目で少女は笑う。
楽しそうに笑う。

「る・ら・ら・ら〜、楽しみだなあ・・・。みんな行こうよ、狂った世界へ!!」


◎第一の邪戦士イヴィルサトリン
能力:電脳海遊(マルチサイバー)
出力:300万PKP
年齢:永遠の0歳

◎第二の邪戦士イヴィルアイシー
能力:淫辱聖杯(セクスプラスチャリス)
出力:170万PKP
年齢:18歳

◎第三の邪戦士イヴィルバトラー
能力:戦闘力場(バーサクパワー)
出力:X万
年齢:20歳

◎第五の邪戦士イヴィルヴァイラス
能力:暗黒顆粒(チャームウイルス)
出力:50000PKP
年齢:33歳

◎第七の邪戦士イヴィルポリス
能力:即死弾丸(ヘッドシューター)
出力:48000PKP
年齢:24歳

◎第十三の邪戦士イヴィルダッシャー
能力:肉体強化
出力:31200PKP
年齢:18歳

◎第十四の邪戦士イヴィルフィーバー
能力:念力発火(パイロキネシス)
出力11100PKP
年齢:20歳

◎第十五の邪戦士イヴィルサイキッカー
能力:サイコキネシス、サイコサンダー
出力:35300PKP
年齢:20歳

◎第十六の邪戦士イヴィルファング
能力:肉体強化
出力:54000PKP
年齢:2歳

◎第十七の邪戦士イヴィルターキー
能力:サイコキネシス、テレポート、テレパシー、透視、予知、斬空
出力:70000PKP
年齢:3歳

◎第十八の邪戦士イヴィルスパイダー
???

◎第十九の邪戦士イヴィルエンジェル
???

◎第二十の邪戦士イヴィルジャスティス
???



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「・・・ひと段落ついたな。」
熱いシャワーを浴びながら、千里は大きく息を吐いた。長い黒髪が滝のように背中を伝っている。
肉体を少女のまま固定された彼女の肌は、しずくを受ければ玉と弾き、熱を浴びれば薔薇色に染まる。
たゆたう豊かな胸と、くびれた腰は、半世紀を経た今でも微塵も衰えず、妖艶さと融合して神秘的だ。
実年齢と肉体年齢が乖離していく程に、化物だという自覚が強くなっていく。・・・心は、とっくに。


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「コーヒーを淹れました、クレア様。きこしめしあそばされませ。」
「・・・意趣返しか、それは。」
バスローブを着た千里は、ムッとしてレックスを睨んだ。たゆたう胸まで怒りで尖っているようだ。
「滅相もございません、クレア様。わたくしめがクレア様に意趣返しなど、恐れ多うございます。」
馬鹿丁寧な日本語を教えた仕返しとばかりに、レックスは慇懃無礼な態度で千里をからかい続ける。
いつ着替えたのかタキシードで、わざとらしい仕草で“おもてなし”をしており、実に気障ったらしい。
「・・・いつもの調子で構わない。」
「いえ、わたくしの如き不肖者へ、いと麗しき和語を教えてくださったクレア様の深謀遠慮に、このレックス、いたく感服いたしました。今後からは丁寧な言葉遣いを心がけますゆえ。」
「・・・お前は慇懃無礼という言葉を知っているか?」
「存じております。」
「・・・お前は今の自分に疑問を持たないのか?」
「わたくしめが何か粗相を致しましたでしょうか。申し訳ありません。差し支えなければ改善点を、お聞かせ願えますでしょうか。」
「・・・丁寧な口調は、ともかく、それは行き過ぎだ。」
「あなや! わたくしの不徳と致すところであります。今後いっそうの精進を重ね、いっそう敬語に磨きをかけますゆえ、本日のところは、お許しください。」
「・・・・・・。・・・。」
千里はひと思案して、がくっと頭を下げた。
「あーもう、わかったよ! 私が悪かった! ごめんなさい!」
「おっしゃ! 俺もしかしてクレアを謝らせたの初めてじゃねえか?」
レックスは即座にタキシードを脱ぎ捨てて大喜び。
それを見ながら千里は、目を細める。
「初めてじゃないよ。」
「いや、クレアから謝ってきたことは何度もあったけどよ、クレアを謝らせたのは初めてだろ?」
「同じじゃないか。」
「違う、違うんだよ。これは男のプライドの問題なんだ。お、と、こ、の、プ、ラ、イ、ド。わかる?」
「あのなあ・・・。」
ますます目を細めて、千里はレックスを見据え、腕を組む。
いつものような、年上の女としての態度に戻ってしまった。
「・・・えーと、まあ何だ。」
ばつが悪くなってレックスは、咳払いして椅子に腰掛けた。
「ふざけた遊びはさておき。」
「ああ。」
真剣な表情に切り替えたレックスに、千里も組んでいた腕を解いて腰掛けた。
サイコキネシスで髪をポニーテールに結い、話を聞く態勢に移る。

「もしかして、この戦いはイヴィルが勝つのか?」

「・・・どうして、そう思う?」
膝で手を組んで、千里は訊き返した。
「だってさあ、お前の話、おかしなことだらけじゃねえか。」
「そんなに下手だった?」
「茶化すなよ。違和感だらけだって言いてえんだ。途中で数えるのが面倒なくらいにな。」
「んー、配慮して語ると、どうしても違和感が出るのかな。」
「他の奴らは誤魔化せても、俺は誤魔化せねえぜ。付き合いが長いからな。」
「んー。・・・。・・・はあ。」
言い逃れ出来ないと観念して、千里は嘆息した。
「つくづく千里眼への理解が深くなったものだな。可愛げの無い。」
「お互い様だっての。愛嬌のあるバカはクラメーションにでも任せとけ。」
「・・・ひとつ。」
「あん?」
「どんな質問でもひとつつだけ答えてやろう。エッチな質問でも構わないぞ。」
「ち、膨大な違和感の中からひとつつだけかよ・・・。・・・じゃあ、意図的に情報を制限した理由だ。」
「ハハハ、全てを話すというのは言葉の綾だよ。判断に必要な情報は全て話しただろう?」
「だったら、何で・・・例えば“イヴィル”と“ε−サトリン”を使い分けたりしてるんだよ。その手の妙な使い分けは、他にも色々あったよなあ? わざと誤解させるような!」
レックスは身を乗り出して千里に迫った。
間近で見ると、たゆたう胸の存在感は更に大きい。
「だから言ったはずだろう、私の本質はイヴィルに近いって。私を妄信するなら、どの道・・・いや、私はイヴィルの味方ではないよ。そこは信じてほしいな。」
せせら笑いながら千里は、しかしすぐに笑みを閉ざして邪気を浮かべた。
「ただしサトリンの味方でもない。私は公平な審判、あるいは平等なゲームマスターだ。どちらが勝つにしろ、その結果を受け入れる。勝敗が決したとき、“電脳計画”はフェイズVへ移行する。」
そう言って千里は、淹れてもらったコーヒーに口をつけた。

「新たなる夜明けだ、レックス。2005年からは忙しくなるぞ。」





   第十六話   了

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「サトリン」第二部まとめ読み
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佐久間闇子と奇妙な世界
2016/10/01 01:06

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サトリン」 第十六話 十戦士集結! (W) 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
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