佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 決闘祭!   プロローグまたは前夜祭 (前編)

<<   作成日時 : 2016/10/16 00:05   >>

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◆ ◆ ◆



「磯野さん・・・本当に、例の案が通ってしまったんですか?」

佐野春彦は、額を押さえながら嘆きを漏らした。
俯く彼の頬に、心労の汗が伝い流れる。

「そうだ。全世界的なイベントなのだからと、海馬社長じきじきの御達しだ。」

「面白そうじゃない。発案は向こう(I2社)のペガサス会長だったわよね。」

淡々と答える磯野に、佐野は渋い顔だが、朝比奈翔子は乗り気な様子だった。
こういった波乱含みの催しは、彼女にとっては無ければ自分で企画したいほどのものだった。

「何が面白いものかっ! 隠しても隠し切れない人格破綻者の集まりだぞ!」

加賀美玲一が、ドンと机を叩いて立ち上がった。
かつて見城と朝比奈に負けて以来、彼は何かと荒れるクセがある。

「いつもいつも思いつきで決めやがってーっ! 大きなお子様がタッグを組むと手が付けられない!」

「やめろ、加賀美。方針が決まった以上、それに従うのが我々の仕事だ。」

粛々とした態度を崩さない磯野の背後には、7名のデュエリストの名前と顔写真が張られていた。
この7名が現在の、日本の公式レベル5能力者である。


天神美月

泣笠葉継

呉星十字

波佐間京介

安藤燈炉子

大河柾

淵乃井斑




◆ ◆ ◆



「“アステロイドベルト”!」

静かな夜を切り裂いて、凜とした声が響き渡る。
赤髪の少女はポニーテールを揺らし、今日も野良デュエルで相手を蹴散らした。

相手の男は悔しさよりも恐怖を前に出しながら逃げていく。
それを見ながら安藤燈炉子は、勝利の快感よりも倦怠感を覚えて溜息をついた。

「あァ、つまんねえ。」

「それなら私に誘われてみないか?」

背後、20メートルほど、全身を包帯で覆った女が腰に手を当てて立っていた。
夜を切り裂く声の波動は、燈炉子に勝るとも劣らない。

「消えろ。タスクフォースなんぞに用は無ェ。」

個人的な感情としては、燈炉子は月島火月のことは気に入ってる。
だが、思想的にも立場的にも相容れない相手と、親しく会話するほど融和的ではない。

「タスクフォースとしてではなく、個人的な用事で来た。決闘祭のことだと言えばわかるか?」

火月も温い会話より刺激的な会話の方が好みだ。
不敵な笑みを浮かべて燈炉子を見据えた。

「けっとーさい? それが何で個人的な用事なンだ?」

「前にも言ったはずだ。私は炎が好きだ。そして、やるなら全力でなければ不満な気質でもある。聖火を欠いた決闘祭など、いかにも盛り上がらない。」

困惑で表情を歪める燈炉子に対して、火月は恍惚とした顔で持論を述べる。
燈炉子が口を曲げて言葉に迷っていると、火月は続ける。

「迷っているならデュエルで決めようか? お前を相手に、私が勝てる確率は20パーセントといったところか。現実的な数値だ。」

その言葉に“何か”を見出したのか、燈炉子の表情が変わった。

「・・・いいだろう、参加するぜぇ。それはそれとして、デュエルはヤろうじゃないか。」

火月は答える代わりに無言でデュエルディスクを広げ、殆ど同時に燈炉子もディスクを展開した。


「「デュエル!」」



◆ ◆ ◆



「・・・無理?」

朝比奈は怪訝な顔をして聞き返した。

「無理って、どういうことよ。」

質問ではなく威圧。
たとえ相手が目上の、生徒会顧問のベテラン教師であっても関係ない。

「天神さん、レベル5能力者であることで周囲からあることないこと言われて、不登校にまでなったことあるでしょう? こういう場に出させるのは彼女の為に良くないと思うの。こういった心の問題は、無理をさせたら駄目。」

おっとりとした雰囲気の、小太りの女教師。年齢は50歳くらい。メガネをかけている。
良く言えば優しげ、しかし朝比奈とは彼女が学生時代から反りが合わなかった。
例えば、大して事情も知らないくせに「彼女の為」なんて平気で口にするあたり、どこか独善的な匂いがするのだ。

「天神は、それを乗り越えたわ。あんたたちが手をこまねいてる間にね。」

学生時代にも時たま垣間見せた冷たい目で、朝比奈は、これでも控え目に言った。
ベテラン教師は絶句して、目をしばたかせる。“この程度で”そこまで驚くのかと、朝比奈は軽蔑すら覚えた。

そもそも朝比奈は、教師という人種が好きな方ではない。
誤解を恐れずに言えば、“大人”という人種が嫌いだ。
揉め事を嫌い、何か事が起こっても、「そっとしておく」「いじらない」「様子を見る」・・・そんなんだから“時間”に置いていかれる、無為に歳を重ねただけの大人が、嫌いだ。

幼馴染が、いじめられていたのを、“大人”の手を借りずに戦ったことが背景にあるのかもしれないが、その後も重要なことは“大人”の手を借りずに行ってきた。
入学先に翔武学園を選んだのは、学生の自治、発言力が強いからというのが、ひとつの強い理由だ。
生徒会も、顧問がいなくても問題ない。名前だけ貸すということで、顧問は4月ごとに交替する。

「あんたじゃ話にならない。」

朝比奈の脳裏には、かつて天神を説得しに行ったことや、吉井康助とのデュエル、そして天神が「ここでまた、みんなとデュエルがしたい」と言ったことが、次々と浮かんできていた。
それは振り返ってみれば絆の軌跡であり、目の前の教師の物言いは、それを土足で踏み荒らす行為に等しかった。
“大人”としての体裁を取り繕うだけの半端な熱意は、お節介を通り越して迷惑ですらあった。

かつては自分も、天神の説得を諦めて、「放っておく」人間に成り下がっていた。これでいいはずがないと思いながら、何もせずに手をこまねいていた。
それだけに、悩みもせずに「そっとしておく」選択を平気で口にする、それが正しいと信じて疑わない“善意”には、正直なところ胸糞悪い。

無闇に「無理をさせない」というのは、無闇に「頑張れ」と言うのと同じくらい危険なことだと、どうして気付きもしないのだろうか?


「そうですね。」


今まで黙っていた吉井康助が、そう言ってデュエルディスクを構えた。
彼は朝比奈ほど気性が激しいわけではないが、かといって事なかれ主義者では決してない。むしろ普段の素直な印象とは真逆の、頑固で欲のある人間である。

「デュエルで決めましょう。僕が朝比奈さんに勝てば、天神さんは決闘祭には出ません。朝比奈さんが勝てば、要求を全面的に呑みます。」

「あんた、あたしに勝てると思ってんの?」

吉井の言葉から即座に彼の意図を読み取り、朝比奈は不敵な笑みを浮かべて挑発的な言葉を口にした。
それは読み取った意図が正しいかどうかを確認するセリフでもあった。

「負けませんよ。以前の僕とは違うんです。」

「・・・!」

やはり正しかったと確信し、朝比奈は目を輝かせた。

しかし横槍が入る。
予期していた横槍ではあるが。

「ま、待ちなさい、そんなデュエルで決めるなんて・・」

決闘偏差値70を超える翔武学園に勤める教師のセリフとは、およそ思えなかった。
デュエルを否定するなんて許されることではない。ワインらしき“何か”(※未成年の飲酒は法律で禁止されています)を飲みながら「それはどうかなと言えるデュエル哲学」を読んでいた鷹野麗子は、おもむろに本を閉じると、消火器を持ち出してホースを教師に向けた。

「ひっ!?」

「しばらく黙ってなさい。木偶は木偶らしく、しゃしゃり出ずに突っ立ってるがいいわ。さもなくば・・・」

中学時代から時たま見せた氷の微笑で、鷹野は、これでも控え目な発言をした。
消火器で威嚇するということは、その前に燃やすという脅しを暗に含んでいるのだ。
翔武学園が潤い、教師の給料など待遇が充実しているのは、生徒会のデュエリストが勝ち取ってきた成果だ。恩に着せる気こそ無くても、仇で返される筋合いも無い。

そもそも鷹野は教師という人種が好きな方ではない。嫌いでもない。
誤解を恐れずに言えば、路傍の石ころと同じようなものだ。
人生と言う名の道を歩いていれば時たま目につくだけの、つまらない景色だ。
もしも彼女が教師を好きになることがあるとすれば、教師としてではなく人間として好きになるのだろう。

幼馴染が交通事故で世を去ったとき、心が潰れそうなくらい嘆き悲しんだ自分とは対照的に、学校の教師は儀礼的な黙祷やら何やらをするだけで、すぐに平常に戻った。
今となっては教師に悪い感情は無い。大勢の子供を相手にしているのだ、所詮は“他人”であり、たかが1人の命である。いつまでも悲しんでいる時間は無い。冷たいとも薄情だとも思わない。それが“普通”だ。

ただ・・・石ころといえど、足元に転がってくれば蹴っ飛ばす。
わざわざ自分の足元に転がってくるなんて、物好きな石ころもあったもんだ。

それよりも、今はデュエルだ。


「「デュエル!」」

朝比奈翔子:LP8000
吉井康助:LP8000



「あたしの先攻、ドロー!」

カードを引いて、朝比奈は懐かしむように笑う。

「あのときとは逆ね。天神を引きずり出す為に、あんたは、あたしとのデュエルを受けた。そして今は、あたしが天神を引きずり出す為に、あんたとデュエルしている。」

意味も無く思い出を語っているわけではない。
先程の確信が本当に正しいのか、念には念を入れて確認しているのだ。
大胆にして慎重。どちらも朝比奈翔子という人間を語る際に欠かせない要素である。

と、同時に手札を確認して戦術を決める。

「永続魔法カード、《悪夢の拷問部屋》発動。懐かしいでしょう?」

そう言って朝比奈は、カードを1枚伏せる。

「はい、懐かしいです。」

「もう1枚、《悪夢の拷問部屋》を発動。そして、あたしの特殊能力発動。あんたに能力を10回使う。」


吉井康助:LP8000→1000



朝比奈翔子のレベル4能力“ガトリングボム”は、1ターンに10度まで、自分のメインフェイズに、プレイヤーに100ダメージを与えるというものだ。
そして、《悪夢の拷問部屋》は、相手への効果ダメージ1回につき300の追加ダメージを与える。
1回の能力発動で700、全弾放てば7000ダメージに達する。

「そして《火炎地獄》を発動。これで引導を渡してやるわ。」

「手札から《ハネワタ》を捨てて、僕へのダメージを0にします!」


朝比奈翔子:LP8000→7500



「・・・《ミスティック・ゴーレム》を召喚するわ。効果は言うまでもないわよね?」

吉井の戦術を95パーセントまで読み切って、朝比奈は更に展開を固定する。
一撃でも入れられれば壊れてしまいそうな岩石の塊が、場に出るなり、むくむくと大きくなっていく。


ミスティック・ゴーレム レベル1 地属性・岩石族
攻撃力? 守備力0
このカードの元々の攻撃力は、このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚されたターンに
相手がダメージを受けた回数×500ポイントになる。



《ミスティック・ゴーレム》 (攻?→15000)



「ターンエンドよ。」


朝比奈翔子:LP7500、手札1
場:ミスティック・ゴーレム(攻15000)
場:悪夢の拷問部屋(永続魔法)、悪夢の拷問部屋(永続魔法)、伏せ×1

吉井康助:LP1000、手札4
場:
場:



「相変わらず圧倒的ですね。でも負けません、僕のターン、ドロー!」

手札を一瞥し、吉井は1枚のカードを選び出す。
そこに昔のような頼りなさは無い。

「僕は、このモンスターを特殊召喚します。」

吉井が手札から特殊召喚したのは、全身が包帯で巻かれた・・・とはいっても艶かしい雰囲気など微塵も感じさせない、奇妙な造形のミイラ。
レベル5だが、ライフが1000以下のときに手札から特殊召喚できる効果を持つ。


茫漠の死者 レベル5 闇属性・アンデット族
攻撃力? 守備力0
LPが1000ポイント以下の時、手札から特殊召喚できる。
攻撃力は相手LPを100ポイント下回った数値になる。



かつて、アメリカ・アカデミアの校長が使っていたカードだ。
広く出回っている廉価版と異なる、本来のテキストで、希少価値は高い。
翔武学園のカード保管庫には、一般に流通してるカードは全て揃っており、幻のレアカードも集められている。


《茫漠の死者》 (攻?→7400)



「そして《流星の弓−シール》を装備します。」

攻撃力1000ダウンと引き換えにダイレクトアタックを可能にする装備魔法。
しかしオリジナルの《茫漠の死者》は、攻撃力決定が永続効果である。すなわち7400の攻撃力のまま、朝比奈に直接攻撃できるのだ。

「直接攻撃です!」


朝比奈翔子:LP7500→100
《茫漠の死者》 (攻7400→0)



「そして僕は《キャノン・ソルジャー》を召喚し・・」

「・・・罠カード《強制詠唱》を発動するわ。あたしの手札にある、2枚目の《火炎地獄》を宣言。」

白いシスター服を着た少女が出現し、呪文を唱え始める。
ソリッドビジョンの炎が噴き出して、吉井と朝比奈に降りかかる。


強制詠唱 (罠カード)
対象となるプレイヤーを1人選択し、魔法カード名を1つ宣言して発動。
選択したプレイヤーが、手札に宣言した魔法カードを持っていた場合、
そのカード1枚を強制発動させる。
発動タイミングが正しくない魔法カードだった場合、
その効果を無効にしてそのカードを破壊する。
(このカードの効果によって、相手ターンに魔法カードを発動することはできる)



そして、デュエルは決着した。


朝比奈翔子:LP100→0
吉井康助:LP1000→0



相手に1000、自分に500、《火炎地獄》は両方のプレイヤーに同時にダメージを与える。
引き分けを実現できるカードとしては最もポピュラーなひとつだろう。


「・・・引き分けね。」

「そうですね。どうしましょうか・・・。」

朝比奈と吉井は、困ったような顔をして首を振った。
そこへ、すかさず見城薫が思いついたように言った。

「だったら天神に決めさせりゃいいんじゃねえのか?」

パズルの最後のピースのように、ぴたりと嵌まるセリフだった。
この展開に持っていく為に吉井はデュエルを、引き分けに言及しないで提案したのだ。

朝比奈は既に卒業した身だが、天神には学校生活が残っている。
最初から天神に選択を背負わせれば、顧問は悪印象を天神だけに向ける可能性がある。
それは、天神の嫌いな、苦手な空気を呼び込む。かつて彼女を不登校へ追い込んだ中に、混じっていた空気だ。

我慢しようと思えば出来るし、立ち向かおうと思えば出来る。だが、煩わしい。そんなものにかまけていると、日常の喜びまで失ってしまいそうだ。
かつて佐野や朝比奈の説得に応じなかった理由に、それが無かったとは言えない。

無神経な善意は、リンネのような明確な“敵”とは違う。だからこそ余計に厄介だ。
「吉井康助は神にしか勝てず、翔武学園には神クラスがゴロゴロいる」なんてジョークがあるが、あながち的外れでもない。リンネは「どうやっても勝てそうになく、倒しても不都合が起こる敵」であったが、世の中には「倒すべき敵ですらない“善意”」が、そこらかしこに地獄の口を作っているのだ。
そういったものとの戦いは、おそらく永遠に終わることはない。

朝比奈や鷹野の態度、吉井の提案、見城のタイミング、それら全てが即興で計ったものだ。
厳しい戦いを乗り越えてきた生徒会メンバーからしてみれば、大して難しいことではない。
過保護にはしないが、独りで戦わせもしない・・・それが翔武学園生徒会なのである。


なお、天神美月が何と答えたかは言うまでもない。


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2016/10/16 00:06

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ドリンク生活も終えて、久々の通常モードな白龍です。
何だかまた楽しそうなことが始まろうとしていますね。マサキさんは決闘祭に番外編にと大忙し。まずは前夜祭の、各人が祭りに参加するまでのお話。お祭りはそれ自体も大いに盛り上がりますが、ドラマはその準備段階から既に始まっている。
さてさて、天神さん参加編にて。このデュエルこそが全てな世界というか学校でデュエルを否定するのはいかがなものかと、この教師に一言物申したくなるところで、出ました!鷹野さんの消火器攻撃!デュエルが始まります!パンピーは引っ込んでな!的な。かっこいい。
また、この吉井君、朝比奈さん、見城さんの見事なコンビネーション。やはり歴戦の戦友達は違いますね。
千花白龍
2016/10/31 00:01
>千花白龍さん
ドリンク生活!? 白龍さんの健康が心配だ・・・あ、でも終えましたか。良かった。
というわけで「決闘祭!」第1章です。準備段階も楽しいのが祭りの醍醐味、ここにも数々の人間模様が存在しています。
ある催しの為に各方面で公式レベル5能力者を集めている現在、天神美月の参加は本人とは別のところで厄介な“善意”が立ち塞がってきました。しかし翔武生徒会の絆は、この程度は厄介なうちに入らないとばかりに、スマートに片を付けます。
安藤燈炉子に続いて天神美月の参加が決まり、残るは5名。はてさて、どうなることやら。
アッキー
2016/10/31 22:40

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