佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 決闘祭!   Act 12 正午

<<   作成日時 : 2016/10/28 00:00   >>

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◆ ◆ ◆



主人格である彼女。
姉であり、妹であり、母親であり、そして魂の半身だ。

彼女が10歳を迎えたときの記憶を持っている。
優しかった母親を、犯されて殺された記憶。
その男に自分も犯されて、生理の来る前に処女を奪われた記憶。

父親の反対を押し切って、男に復讐することに決めた。
男が所属していた組織の、精鋭メンバーを、3割ほど始末した。

デュエリストを殺していくうちに、父親の言っていたことが少し理解できた。
安否を気遣われるのは煩わしいが、安否とは肉体だけのことではない。

人を殺せば、それに相応しい人格になる。
殺した奴らと同じではないけれど、別種ではあるけれど、自身も悪に染まり、沼の水を啜る者になっているのだ。

引き返せないわけではない。
いつでも引き返せる。

しかしそれが何だというのだろう。
「今なら引き返せる」なんて言葉は、滑稽を通り越して無感動すら与えてくれる。


最大の問題は、引き返した後にあるというのに。



◆ ◆ ◆



安藤燈炉子:LP100、手札0
場:
場:
墓地:なし
除外:《ネクロ・ガードナー》×3

エウレカ・セデミクラ:LP2000、手札0
場:鼻血を啜るアルカナフォースEX−THE BLOOD RULER(攻6100)
場:ライトロード・ビースト ウォルフ(装備)



終焉のカウントダウン:残り1



鼻血を啜るアルカナフォースEX−THE BLOOD RULER レベル10 光属性・天使族
攻撃力4000 守備力4000
このカードは通常召喚できない。
デッキから「アルカナフォース」3体を墓地に送ったときのみ特殊召喚できる。
このカードが特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い以下の効果を得る。
●表:守備モンスターに貫通ダメージを与える。
●裏:戦闘破壊したモンスターを装備し、その元々の攻守を得る。
自分のMPが減少したとき、このカードを破壊する。


“節制の神域”(インビジブルウォール) レベル5能力(所有者:エウレカ・セデミクラ)
手札の枚数、フィールドのカードの枚数、ライフポイントにおいて、相手が自分以下である状態を維持する。
(自分によって生じた相手の超過分は、ライフは失われ、カードはランダムに墓地へ送る。)




(・・・・・・・・・あちしの、負けか。)

安藤は自身の能力を意識して、ギュッと拳を握った。


無限隕石群 (アステロイドベルト) レベル5+能力 (所有者:安藤燈炉子)
自分のメインフェイズに相手に1000ダメージを与えることが出来る。



(だがよ――――)

安藤の眼光から曇りが消える。
雨上がりの空模様のように、澄んだ瞳だ。


「わたしのターン!」

安藤燈炉子は副人格。
ずっと起きている主人格が、肉体の主導権を交代する。

「あらら、今度は統合人格ではないのですわね。」

「そうだよ。統合人格の能力は、もしものときの為の保険・・・。エウレカさんが最大最強のレベル5能力者というのであれば、ギリギリ100ポイントまで追い詰められることはわかっていた。」

「わざと、勝利フラグを立てたということかしら?」

「そのわざとだよォ、神女サマぁ!」

急激にドロッと濁った眼光が、エウレカを直撃する。
安藤は赤い舌を出して、せせら笑う。

「くひっ、くひっ、くひひひひひひ、決闘無敗の処女っ子ちゃんにィ、今から敗れる痛みを教えてやるぜェ!? まずは前戯がわりだァ! アステロイドベルトを食らってろォ!」

ソリッドビジョンの隕石が2発、出現するなりエウレカへ放たれる。

「・・・っ!」

「くひゃひゃひゃひゃ! ちったァ色気ある顔すんじゃねェかよ! あちしもようやくエンジンかかってきたぜええ!」


エウレカ・セデミクラ:LP2000→1000→100



「そォら、もう一発!」

「通しません、通しませんよーーーーー!」


エウレカ・セデミクラ:LP100→100



神秘のヴェールがエウレカを包み込み、隕石を弾く。
これでは何度やっても無駄だろう。

「くひっ、なかなか頑丈な処女幕じゃねェの。北風でも太陽でも破れそうにないナァ? どうやら、あちしの負けのようだ・・・・・・“あちし”は、な。」

安藤の片目が、澄んだ瞳になる。

「“わたし”の能力、知ってますか?」

「もちろん知っていますわよ。火王杯での活躍は、鷹野さんがプロデュースしたDVDで拝見いたしました。貴女のレベル1能力“スパクラ”は、『1ターンに1度、自分のメインフェイズに相手に100ダメージを与えることが出来る。ただし、このダメージは自分のコントロールするカード効果のトリガーにはならない。』・・・決勝戦が終わったときに、貴女が言ったことです。」


すると安藤は、ペロッと舌を出してウインクした。

「ごめんなさーい、わたし嘘ついてましたー。栗間先輩の推測通り、わたしの能力は相手のカード効果のトリガーにもならないんです。そしてそれも本質じゃなくて、あらゆる効果と干渉しないんです。


「・・・・・・!?」

エウレカの顔色が、さぁっと青くなる。

確かに、腑に落ちないとは思ったのだ。
いくら何でも、自分の能力を使い忘れるなどということがあるだろうか。

しかしその違和感は、DVDに追加収録されていた読者への挑戦状で霧散してしまっていた。
緊張のあまり、自分の能力さえ使い忘れた、ドジで間抜けな低レベル能力者―――

―――そう思い込んでいた。


肝心なことを忘れていたのだ。

挑戦状の条件は現実と異なる。


<ルール6>
この小説は安藤比呂子の一人称で書かれていますが、彼女は故意の嘘はついてないと“仮定してください。”

<EXルール2>(能力に関する補足)
このデュエルで安藤比呂子の使用できる能力は、“線香花火”・・・『1ターンに1度、自分のメインフェイズに相手プレイヤーに100ダメージを与えることが出来る。ただし、このダメージは自分のカード効果のトリガーにはならない。』のみである“とします。”



どちらも過程を含んだ表現。
それすなわち、実際には異なる可能性があることを示唆している。

挑戦状の条件は、“現実の展開と矛盾しない”だけで、現実そのものとは限らないのだ。
多くの挑戦状では、およそデッキに入ってないようなカードでも使うことを許されているので、むべなるかな。



(だけど―――)

エウレカは考える。思考停止せずに、可能性に頭を巡らせる。

しかし、それを見透かしたように、安藤は無邪気な笑みを浮かべて言った。

「これ自体、わたしの嘘だという可能性を考えてるんですか? でも、なるべく早く決断してくださいね。これから3つ数えたら、デュエリスト能力を発動しますから。」

「・・・っ!」

「ひとーつ・・・ふたーつ・・・みーっつ! デュエリスト能力、発動! ス・パ・ク・ラ!」


夏祭りの夜にこそ映えるだろう、淡い火花のソリッドビジョンがエウレカに向かっていく。


そして

エウレカは



◆ ◆ ◆



試合が終わり、安藤は選手席へ戻ってきた。

凶悪な面構えではない、天真爛漫な顔つきをした歳相応の女の子だ。
人前に出てくるこそすら久しぶりな、安藤の主人格。

「あは・・・ごめんね。」

安藤は申し訳なさそうに手を合わせた。

「なんで謝んだよ。謝ることなんか何も無いだろ。なあ波佐間?」

「ええ・・・・能力の偽装が、卑怯だとは・・・・・ボクは、思いませんよ・・・・・・フフ・・・・・。」

「もしかして、2ターン目に思いついていた攻略法を、追い詰められるまで使わなかったことかしら?」

「それもありますけど、レベル5エキシビションマッチなのに、結局わたしが出しゃばっちゃって、これで良かったのかなぁって思うと・・・。」

「いいと思うわ。だって安藤さんは、きちんと勝ったでしょう? おめでとう。そして、ありがとう。」

閃光が届く前に、エウレカはサレンダーした。
チーム北斗七星とチームインターナショナルのエキシビションマッチは、3−2で勝利を収めたのである。

「本当に、驚きました・・・。YOUの言、ハッタリではないのでしょう?」

呉星が、まだ信じられないという顔で尋ねる。

「うん、ハッタリじゃないよ。でも少し嘘ついたかな・・・。わたしの能力、火王杯のときは本当に言った通りの能力だったの。その次の年に、燈炉子ちゃんは“クリムゾン・ドラグーン”と戦って、能力をパワーアップさせられたでしょ? あの影響だと思うけど、地下都市のときから、わたしの能力も少しだけ強くなったんだ。」

「ははっ、あの女、どれだけのデュエリストの人生を変えてんだか。」

「でも最大の勝因は、鷹野さんのDVDだよ。なまじ能力を知っていたからこそ、わたしを警戒しなかった。わたしの存在くらいは普通に知ることが出来るけど、燈炉子ちゃんの主人格って目で見て警戒してたら、もっと超攻撃的な戦術で1ターンキルしてきたと思うんだ。それが出来る手札が引けないデュエリストでもないでしょ?」

「そうですね・・・・・ボクが、能力を隠していたのも・・・・佐野さんに、警戒されない為でした・・・・・。佐野さんの、デッキが・・・・攻撃力8000を、出せることは・・・・・わかってしましたから・・・・・・。フフ・・・・。」

「ああ、そういや佐野も、波佐間の能力を生半可に理解してたときは、プレイングミスしてたっけ? 相手の能力を知ってるってのも、あまりイイもんじゃねえかもなぁ・・・。」

安藤が天神を“最強”と評したことを思い出しながら、大河は頭の後ろで手を組んだ。

「フフ・・・・あれはボクの、偽装でしたけれどね・・・・・・。」


そのとき、安藤の腹がきゅううと鳴った。

「あやや・・・」

安藤が苦笑いし、それに続くようにして、正午を告げる時報が鳴った。
午後のプログラムの前に、昼食休憩の始まりである。





   決闘祭!   第1章 了

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
あ、そうか。
佐久間vsタイヨウ戦で隠された回数制限があるかもしれないから、とにかく攻撃するぜ!って記述があったのに、今回の決闘では、比呂子の能力を最初のターンで使わなかったってのは、コレへの伏線だったのか。
ラギ
2016/10/28 01:43
>ラギさん
その通りです! 統合人格が能力を使っておきながら、比呂子は能力を使わなかったのは、この一瞬のカウンターを狙っていました。
途中で削っても100ポイントなので、自分のライフが減るのを待っていたわけです。(相手に悟られないように、燈炉子に伝えたのはラストターンでした)
アッキー
2016/10/28 08:18
勝った…ヒロコさんが勝ったー!無敵のようなデュエリスト能力であっても同じデュエリスト能力なら対抗出来る!目には目を、歯には歯を、デュエリスト能力にはデュエリスト能力だ!あんな状態から見事に勝ったよー!流石のエウレカさんも主人格の能力変化までは予測出来なかった。ヒロコさん、おめでとうございます!
千花白龍
2016/12/29 11:43
>千花白龍さん
隕石の群れすら弾き返す最強の壁も、たった一点を穿つ最弱の鉾に貫かれる!
比呂子「歯を食いしばれよ最強・・・わたしの最弱は、ちょっとばかり響くよ。」
どんな強固なダムも1センチのヒビから崩壊するが如くの、逆転勝利でした。
比呂子「ふたりなら、エウレカを超せる。」
アッキー
2016/12/29 23:43

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