佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第十三話 光が繋ぐ道の先 (下)

<<   作成日時 : 2016/10/01 00:16   >>

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現代―――2004年6月。
そのときは突然やって来た。
場所は綾小路家。

梅雨も明けた爽やかな日の朝、綾小路草栄は気難しい顔をしながら新聞を読んでいた。
「またフリーター増加か。ちゃんと働かない若者が増えて、まったく、この国の将来は、どうなることやら・・・。もっと子供に責任感というものを教育せねばならんのだ・・・。」
めっきり老け込んだ草栄は、ぶつぶつと呟いていた。
「最近の若者は自分のことばかり考えて、社会や親に対する敬意がなってない。育ててやった恩も忘れて、平気で親を蔑ろにし、社会のルールを破る。みっともない。やれ社会が悪いの、やれ政治が悪いの、努力もせずに責任転嫁ばかり。馬鹿者が。文句を言う前に働けという話だ。」
汚いものでも見る目をして、草栄は新聞を閉じ、庭に出た。
そこに触手があった。
「は・・・?」
正確には、草栄はそれを触手だと認識したわけではない。ぬるっとした、わけのわからないものが、庭中を這いずり回っていたのだ。うねうねうねうね・・・
「馬鹿って言った?」
庭には、鼻の平べったい馬面の男が、裸で勃っていた。触手は彼から生えていた。
「な、何だお前は!?」
「そんな大声出さなくても聞こえてるっつーの。大声出すのは可愛い女の子だけにしてくれっつーの。」
男はクネクネ動き、ポーズを取った。
草栄は吐き気がした。
「オレは第八の邪戦士“イヴィル・テンタクル”だっつーの。ここに、よも・・じゃねーや、茉莉花いる?」
「貴様は何なのだ!?」
「は? 耳遠いの? 今言ったっつーの。い、び、る、て、ん、た、く、る。」
「ま、茉莉花の何なのだ!」
「うっせーな。こっちの質問に答えろっつーの。」
触手の一本が草栄を殴る。
「がはっ・・」
草栄は床に転がって頭を打った。
「あ、しまった。オレってばキレやすいっつーの。」
物音を聞きつけて、使用人やボディーガードが駆けつけてきた。
“イヴィル・テンタクル”は顔をしかめた。
「男とババアばっかり。男とババアばっかり。オレうんざりだっつーの。」
触手が次々と、使用人もボディーガードも、当たるを幸いとばかりに薙ぎ払う。
「あー、茉莉花いねーの? 腹立つっつーの。腹いせにブッ殺すっつーの。」
「待ちや!」
「お?」
塀の上に1人の老婆が、着物姿で立っていた。
「またババアかよ!? 茉莉花出せっつーの!」
「人をババア呼ばわりする馬鹿者に差し出す娘は無いよ。」
「は? 馬鹿って言った? ねえ、馬鹿って言った? ジジイやババアは二言目にはそれだ。やってらんないっつーの。」
“イヴィル・テンタクル”は、触手で老婆を薙ぎ払おうとした。
しかし、かわされた。
「お?」
「儂は六道櫃。何者か知らんが、退治してくれる。」
「だーかーらー、オレは第八の邪戦士“イヴィル・テンタクル”だっつーの。何度も名乗らせんなっつーの。」
「いびるてんたくる? 面妖な姿形といい、もののけの類か。」
櫃は冷静だった。
100年以上も生きていれば、大概のことには耐性が出来る。1900年生まれの櫃からすれば、現代はSFみたいな世界だ。妖怪が現れたくらいでは驚くに値しない。
「もののけ? 邪戦士だっつーの。綾小路茉莉花を出しやがれっつーの!」
「・・・茉莉花なら、半年も前に死んどるわ。」
櫃は沈痛な表情で答えた。
しかし“イヴィル・テンタクル”は驚きもせず、思い出したように手を叩いた。
「あ、そっか。死んだことになってたんだっけ? 忘れてたっつーの。」
「ほ・・・・・・!?」
滅多に驚かない櫃だが、このときばかりは目を丸くした。
「茉莉花は、生きとるのか!?」
「だーかーらー、そう言ってんじゃん。どいつもこいつも耳遠いっつーの。」
“イヴィル・テンタクル”は鬱陶しそうに耳を傾けた。
「どこじゃ、どこにいる!」
「だーかーらー、それを聞きに来たんだっつーの。話聞かねえババアだな。」
「何の為に茉莉花を探しとるんじゃ?」
「決まってんじゃねーか。オレの花嫁にすんだよ。一目見たときからピピッときたね。可愛くてキレーで、あの強気な。惚れたっつーの。この触手で犯しまくって、オレのことを好きになってもらうっつーの。」
「下郎が・・・。」
櫃は吐き捨てた。
「はあ? 黙れよババア!」
触手が櫃めがけて放たれる。
それをかわしたところへ、別の触手が来る。
「ぐっ!?」
弾き飛ばされた櫃は、塀に激突した。
「ただの人間がオレに勝てないっつーの。あー、またババアに触手使っちまったし。もったいねー。」
「ふんぬっ!」
櫃は気合を入れて立ち上がった。
「は? まだやんの? 馬鹿?」
「お主のような外道を野放しにしておくわけにはいかんでな。」
櫃は俊敏な動きで、“イヴィル・テンタクル”の本体めがけて突撃した。
触手が間に合わない。
(木村流戦闘術・幻速幻打!)
だが、触手は間に合わなくても、別のものが間に合った。
「がはっ・・・!?」
触手から放たれた光線が、櫃の両手足を貫いた。
そのまま彼女は触手に掴まれ、無造作に放り投げられた。
「あー、うぜー、うぜー。ババアがアツくなって、みっともねーの。」
“イヴィル・テンタクル”は、これみよがしに溜息をついた。
「はあー、しっかし、ここに手がかり無けりゃ、どこ行きゃいいんだっつーの。」
「どこへも行かさんよ。」
櫃が立ち上がってくる。
「しっつこいババアだなー。もう死ねっつーの。」
光線が放たれるが、櫃はかわす。
(そんな直線的な攻撃なぞ・・・)
しかし貫かれた箇所が痛む。
そして“イヴィル・テンタクル”の光線は、直線だけではない。
「ビーム!」
曲がった光線が櫃の胸を貫いた。
「・・・こっ・・・・・・」
櫃は倒れた。
心臓が破壊されている。
(・・・あ・・・・まさか・・・・・こんなところで・・・・)
どこかで、自分は死なないと思いあがっていたかもしれない。
死ぬとしても、後の世代に未来を託して死ねると思い込んでいたかもしれない。
現実には、人は呆気なく死ぬ。
無意味に。
無価値に。
みじめに。
みっともなく。
こんな死に方だけはしたくないと思う死に方をする。
(死にたくない。)
まだ死ねないと思っても。
(死にたくない。)
どれほど強く思っても。
(死にたくない。)
死は訪れるし、無価値だと烙印を押される。
(死にたくない。)
どれほどの思いを抱えてようとも。
(死にたくない。)
どれだけ人生を過ごしてきても。
(死にたくない。)
誰かの勝手な都合で死に至る。
(死にたくない。)
生きるに値しないと思われる。
(死にたくない。)
切り捨てられる。
(死にたくない。)
殺される。
(死にたくない。)
殺される。
(死にたくない。)
殺される。
(まだ儂は・・・)
殺される。
(光を知らない。)
殺される。
殺される。
殺される。

「こーなったら片っ端から女の子、襲ってやるっつーの。そしたら、いずれ凜が出てくるに決まってるっつーの!」
“イヴィル・テンタクル”は、おどけた調子でポーズを決めた。
クネクネと体を動かして、ダンスでも踊っているようだった。
「つーの・・・」
妙な気配を感じて、彼は振り向いた。
閃光と爆音が轟いたのは、それと殆ど同時だった。

人は呆気なく死ぬ。
無意味に、無価値に、惨めに、みっともなく。
こんな死に方はしたくないと思う死に方をする。
まだ死ねないと思っても、どれほど強く思っても、死は訪れるし、無価値だと烙印を押される。
どれほどの思いを抱えてようとも、どれだけ人生を過ごしてきても、誰かの勝手な都合で死に至る。
生きるに値しないと思われる。
切り捨てられる。
殺される。

「お〜!? お〜!? お〜っ!?」
“イヴィル・テンタクル”は、触手を何本か吹き飛ばされた痛みに悶えながら、それ以上に驚き、喜んでいた。
「噂をすれば影かよ! ホントに凜が来たっつーの! 何その技! 今度ベッドの中で教えてくれよ!」
彼は興奮し、いきり立った。
一糸纏わぬ肢体が、脚を閉じて立っていた。白い肌が所々、揺らめきながら光っている。
「いやもう、どうして裸なの凜ちゃん!? いや、文句違う、それ何てサービス!? オレ感激だっつーの!」
「・・・・・・。」
彼女は動かず、口も利かず、表情も変えずに突っ立っている。
「ショートヘアも似合ってるう! とゆーか、いつの間に全快したわけ? 体の傷すっかり治ってんじゃん。やっぱさー、傷だらけの女の子って抱く気しないっつーの。」
“イヴィル・テンタクル”はクネクネと動きながら、彼女に近寄っていく。
「オレの花嫁にしてやるっつーの!」
触手が八方から襲いかかる。
(捕らえた!)
はずだった。
「あ・・・・・・?」
逃れられる隙間は無いはずだった。
人ひとり通り抜けられるスペースは無かった。
「どうした。」
ようやく喋った。
その声を聞いて、“イヴィル・テンタクル”は何故か不安を覚えた。
「そ、そっか。それが流水ナントカか。」
「速すぎて見えんかったか。しゃあないの、お主にもわかるように、右腕だけ発動させたるわ、こんハナタレ小僧が。」
「あ・・・・・・?」
澄み切った少女のような声で。
まるで老人のような口ぶり。
「お、おまっ、誰だっつーの!?」
「お主のような礼儀知らずの小童に、教える名など持ち合わせておらんでな。もう呼ぶこともないじゃろうしの。」
「ひっ!?」
彼女の右腕は、光か、電撃か、とにかくバチバチと輝くエネルギー体になっていた。
「ひィ〜〜っ!? あれじゃ、まるで、“雷撃獣バルバロッサ”!?」
「何じゃそれは・・・や、どうでもええか。」
彼女は小さく息を吐いて、そして冷たい声で告げた。

「死ね。」

「あぎゃあああああああああああああああああああああ!!」
“イヴィル・テンタクル”に稲妻が降り注いだ。
彼は一瞬にして黒焦げになり、その場に倒れた。
「ふん、他愛も無い。」
閃光の中から出てきた女は、家の中に入り、タンスから着物を取り出して身につけた。
「おい、草栄。起きい。」
「う、う・・・?」
草栄は呻きながら起き上がった。
そこに娘の顔があったので、彼はギョッとして痛みも忘れた。
「ま、茉莉花っ!?」
「アホっ! 儂じゃ、六道櫃じゃ。」
「お、おばあさま? は? いやしかし、その雰囲気と口調は・・・。」
草栄の見ている前で、彼女の姿は元の老婆に戻った。
「あ、あれ?」
「しっかりせえ。」
「あ・・・」
(見間違いか?)
草栄は目を擦り、そして破壊された家を見て、先程のことが夢でないことを理解した。
「これは・・・」
そのとき、黒焦げになった“イヴィル・テンタクル”が、皮を剥がして起き上がってきた。
「痛かったっつーの! マジで痛かったっつーの!」
「お主も愚かな男じゃな。そのまま寝とればええものを・・・。」
櫃の目つきが冷たくなり、それと同時に全身の皺が薄れて消える。
若返った姿は、髪の長さこそ違えど、凜そっくりだ。
「な、それ何だっつーの!?」
「くたばれや。」
彼女の全身が雷となった。
ゴロゴロなどという音ではない。
バリバリッと、いや、この至近距離での爆音は、もはや形容しきれない。
“イヴィル・テンタクル”の全ての触手は灰となり、本体の手足や男根も、ボロボロと崩れ落ちた。
「お、おばあさま・・・・・・?」
「これが儂の“光”じゃよ。」

光ファイバーという技術がある。
情報を光によって伝達する、コンピューターネットワークの技術で、従来のコンピューターに比べて極めて高速で大量の情報を伝えることが出来る。
櫃は自らの肉体を光子と電子に変換し、とてつもない速さで相手に“降り注いだ”のだ。
元に戻るときに傷を修復することも出来るし、細胞を活性化させて一時的に若返り、身体能力を最高の状態にすることも出来る。
極めて破壊力が高く、汎用性にも優れている、恐るべき能力だ。
電脳の第八戦士“ファイバー”六道櫃、堂々の覚醒だった。


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<イヴィルんチャット>

アイシー:キャハハハハ! キモデブに続いてキモオタまで倒されてんじゃん。これで何人やられたわけ? え?
バトラー:5人よ。“ポイズン”久須見昼、“マリオネイター”十島隆子、“パニック”邑甘恵須実が倒されてるから。
アイシー:あー、女捨ててる奴らね。加えてキモ男2匹って、見事にどうでもいいのばっかり。キャハハハハ!
バトラー:どうでもよくはないわ。仲間を軽んじる発現は謹みなさい。
アイシー:仲間ァ? バトラーこそ、戦えればいいとしか思ってないくせに。
バトラー:そうね。私は戦えればいい。こっちは5人、向こうは8人、面白くなってきたわ。
アイシー:不利な方が燃えるって心理わっかんないなー。ひょっとしてマゾだったりして? キャハハハハ!
バトラー:そういう貴様は真性のサドよね。
アイシー:キャハハハハ! イヴィルには敵わないけど!
イヴィル:ん、ん、んあっん〜、私はサドじゃないよ。狂った人を愛してるだけさ。
アイシー:よっく言うわ、私たちのことさえ捨て駒くらいにしか思ってないくせに! キャハハハハ!
バトラー:イヴィル様が完全復活するまで何人残るかしらね。いつでも私は死ねるけども。戦って死ぬわ。
アイシー:キャハハハハ! バトラーも完全体じゃないくせに、気が早いって!
バトラー:戦いたいわ。早く戦いたいわ。
アイシー:バトラーって、戦いたいのか死にたいのか、よくわかんないね。
バトラー:誰も死からは逃れられない。死ぬなら戦って死にたいの。
アイシー:キャハハ、それって刹那主義?
バトラー:アイシー、貴様のことは気に食わないが、ひとつ共感できることがあるわ。
アイシー:何よ急に。
バトラー:醜く老いさらばえるくらいなら、死んだ方がマシだというところよ。
アイシー:やーだ、バトラーってばレズッ気あったの?
バトラー:何故そうなるの。
アイシー:別にイイよ、1回くらい相手してあげても。私レズじゃないけど、キモい男とヤるよりか美女がイイし〜。
バトラー:貴様のそういうところが嫌いよ。
アイシー:キャハハハハ、それ何てツンデレ?
イヴィル:る・ら・ら・ら〜、仲良きことは美しきかな。
バトラー:仲良くなどありません。イヴィル様は目玉腐ってるんですか?
アイシー:それでイヴィル、キモオタの暴走で警察が本格的に捜査に乗り出してるらしいじゃん。どうする?
バトラー:確かに由々しき事態ね。
イヴィル:ん、ん、んあっん〜、ヴァイラスを使うことにするよ・・・。
バトラー:!!
アイシー:本気じゃん。どったのイヴィル?
イヴィル:る・ら・ら・ら〜、私は常に本気だよ。皆さんよくご存知の通り♪
バトラー:準備も整わないうちから、いきなり全面戦争を仕掛けるおつもりですか? それくらいなら私が・・・
イヴィル:ん、ん、んあっん〜、全面戦争だなんて大袈裟だなバトラーは。
アイシー:今回に限っては大袈裟じゃないでしょ? ヴァイラスの能力は・・
イヴィル:そうかな〜。捨て駒にするわけでもなし。ただの前哨戦だよ。
バトラー:しかしヴァイラスを使うとなれば、必然的に向こうは“ガーディアン”が出てくると思われますが・・・。
アイシー:ヴァイラスって普段は冷静なのに、ガーディアンのこととなるとムキになるからねー。キャハッ
イヴィル:ん、ん、んあっん〜、アイシーとバトラーは反対なの〜?
バトラー:いえ、イヴィル様の判断に従います。
アイシー:私も別に反対とかしてないよ。驚いただけ。
イヴィル:る・ら・ら・ら〜、じゃ、ヴァイラスに出撃命令とか出しとくね〜。ばいちゃ♪
イヴィルが退室しました
アイシーが退室しました
バトラーが退室しました






   第十三話   了

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