佐久間闇子と奇妙な世界

アクセスカウンタ

zoom RSS 決闘祭!   インターバルまたは昼食休憩 (中編)

<<   作成日時 : 2016/11/16 00:05   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 2

◆ ◆ ◆



「はぁ、なっさけねー。」

レッドラム化した淵乃井が、ベッドから起き上がって自嘲する。
開会式で、ただでさえ緊張していたところを、予定と違う進行になったことでパニックを起こし、吐血。
全世界に放映されている中で、とんだ恥晒しだ。

「それも愛嬌よ。淡々と進むだけの儀礼的な式典なんて、面白くないじゃない?」

泣笠がクスクス笑いながら首を傾ける。

「ちえっ、人ごとだと思ってさあ。」

レッドラムは渋い顔で口を尖らせた。

「レッドラム様、リンゴいかがですか?」

脳堂美宇(のうどう・みう)が、ウサギに剥いたリンゴを、爪楊枝で口に運ぶ。
ちょっと値の張るリンゴで、ジューシーな果汁が口に広がった。

「美味いな。」
「そうでしょう。お父様が買ってきたのですよ?」

テレビでは、エキシビションマッチの表彰式が終わり、試合のダイジェストが放送されていた。
どの試合も見ごたえがあり、レッドラムは出られなかった悔しさと、泣笠への申し訳なさで、自然と俯いた。

「しっかし大河が負けるかねー。7人の中じゃあ、奴が一番の人格破綻者だと思ってたんだがな。」

人格が破綻してるほど強いというわけではないが、確かに勝負事は一般的に、“人が悪い”方が強い。
それは必ずしも良い意味ではないが、だいたいの場合において当てはまる経験則だ。

しかし、それはそれとして腑に落ちないのは、大河をトップの破綻者として挙げていることである。

「いっとう破綻してるのは安藤さんじゃないの?」
「天神さんも大概だと思います。」

泣笠、脳堂が、それぞれに自身の思う名を挙げる。

「まあ、確かに天神は底知れねえし、安藤は説明無用だが、大河は、あの竜堂って奴と親友だってんだろ?」

レッドラムは2つ目のリンゴを齧りながら、鳥肌を立てる。

「竜堂神邪。何なんだ、あいつは。会った瞬間に全身の毛が逆立ったぜ。まるで苦痛の塊じゃねえか。」

淵乃井はテレパシストというわけではないが、感受性は高い方だ。
基本的に人間は、相手の言葉や動作から、心理を読み取る力を持っている。“阿吽の呼吸”などが好例だろう。

「酷死病の頃を思い出したぜ。怨み、怒り、嫌悪、憎悪、得体の知れぬ不安感、固定された感覚のリピート、肉体あちこちの痛み・・・オレが感じ取った苦痛なんざ、ほんの一部だ。あれだけの苦痛を恒常的に感じていながら、どうして奴ぁ、あんなヘラヘラ胡散臭い笑みを浮かべてられるんだ? 寒気がする・・・。文字通りに理解できねえ。」

レッドラムの額には、冷汗が流れていた。
泣笠は汗を拭い、ぽつりと告げた。

「あれは、ただの鏡よ。」

その表情を見れば、彼女もまたレベル5に名を連ねる破綻者であることを思い出すだろう。

「ただし、恐ろしいほど悪意の詰まった鏡・・・。あれに耐えられるのは、不惑の境地に辿り着いた人くらいね。」
「そういう意味じゃ、二十歳そこそこで孔子の四十歳とタメを張るなんざ、破綻者でないにしても異常者だな。」
「“誠実な”異常者よ。普通の側でいる資格も持っているタイプと言えばいいかしら。」
「レッドラム様も、誠実ですよね。」
「そうね。」
「いやいや・・・///」



◆ ◆ ◆



「誰かが僕の悪い噂をしている気がするなァ。」

竜堂は不機嫌な顔で呟いた。
昼食休憩といっても、内臓が無いぞうな竜堂は、物を食べても虚空へ消えるのみである。

「いつものことでしょう。神邪さんの嫌われぶりは、バツグンですからね。」

くぐもった声で、ゴーストフェイスが言う。
ゴーストフェイスもまた、内臓どころか実体の無い幽霊のようなデュエリストだ。

「そうなんだよ。最近だと、ランク能力者とかいう連中に絡まれたしさ。結局しょーもない奴らだったけど。」
「神邪さんの絶対能力はバツグンですからね。“僕の敵じゃない”ってやつですか?」
「そうだね。僕は敵を作らない。どこかの誰かが勝手に僕の敵になるだけさ。発想の陳腐な、誰かさんがね。」
「それ自体、バツグンに敵を作るセリフじゃないですか?」
「誤解されやすいセリフであることは承知しているよ。行方(ゆくえ)さんも誤解されやすい人だったし・・・。」
「田宮行方ですか。」
「何を隠そう、マサキに会う決心がついたのは、彼女の後押しがあったからでね。」

「そうなのか?」

肉を食いながら、大河が振り向く。

「しょーもない連中だと言ったけどね、だからこそ厄介でもあるんだよ。デュエルで勝つだけなら容易かったけど、ぶつけられた嫌悪は僕の中に痛みとして残り続ける。前にも言ったと思うけど、平気で“きしょい”とか言う奴が、僕は最も恐ろしい。ランク能力者、というか、あの世界の連中は、そういう奴らばかりでね。人を安く見積もる奴らばかりでね。そういう代わり映えのしない陳腐な世界を見ていると、やりきれない気分になる。」

一見、話が繋がってない。
前置きが長いのは竜堂の習性みたいなものだ。

「そして行方さんは、表層だけを撫でた陳腐さを嫌う。僕は最初、それを聞いて、自分の中にも彼女の嫌う陳腐さで満ちているのかと思ったんだ。僕の能力も酷いものだしね。」
「・・・お前は違うよ。そんなんじゃない。」

大河は真剣な顔で言った。
そして竜堂の言いたいことが、わかってきた。

「うん。行方さんも、そう言ってくれたんだ。僕は雑魚を喰う強者の側だって。ぐだぐだ迷っても結局は、醜悪なパロディを拒絶できる側の人間だって。・・・褒めすぎだけどね。」
「しかし、バツグンに勝ったのは事実でしょう。V能力も、自身のレベル未満の効果を受け付けない性質も、神邪さんの絶対能力の前には、文字通りに何の意味も無いわけですから。」

ゴーストフェイスは肩を竦める。
それは竜堂に恐れをなしているようにも見える。

「元から勝てるのはわかってたんだ。無闇に相手を低く見積もるってことは、そうでなければ勝てないと白状してるようなものだからね。」
「ははは、まったくです。ましてデュエリスト能力を受け付けないカードなんて、バツグンにお笑い種です。能力はテキストに優先するのだから、そんなテキストを足したところで無駄なこと。どこのド素人ですかって話。」

能力を封印する“闇のカード”でも、能力を消失させることは出来ない。
しかも効果が持続するのはデュエル中だけなのだから、言ってみれば「デュエリスト能力発射嚢の発射口を閉じている」だけの話だ。

「“世界の掟”が気に入らないのなら、その世界から出て行けばいい。僕は行方さんから、そう学んだ。僕は悪い奴だが、取り返しのつかない悪い奴だが、世界から出て行かなくてもいいんだってさ。だからマサキ、大河マサキ、君に会いに来れた。」
「もっと早く会いにこればよかったんだ。そしたら俺が、同じセリフを言ったと思うぜ。」
「うん。マサキは僕の期待を裏切らないね。いつでも僕をドキドキさせてくれる。」

「おいおい、男同士で怪しいじゃねェの。」

いつの間にか安藤が側にいた。

「やあ、燈炉子さん。7年ぶりだね。今のは需要に応えてみたんだ。」
「誰得だよ・・・。久々に会ったと思えば、随分わけわかんねえキャラになっちまって。」
「わけがわからないかい?」

竜堂が不穏な目つきになる。

「あァ。わけわかんねえ奴は嫌いじゃねェな。7年前の泣き虫小僧よりか、よっぽどイカしてるぜェ。」
「気が合うね。僕も7年前より今の自分が好きだ。胡散臭いとか人間味が無いとか、よく非難されるけどね。」
「はン、人間味なんてェ、それらしいエクリチュールに過ぎねェんだ。ンなもんに振り回されるこたァねえよ。」

「・・・エチュード?」
「エクリチュール。」
「オートクチュール。」
「エクリチュールだ。」
「エレクチオン。」
「エクリチュールだっての。」

「難しい言葉を知ってるんだね。」
「・・・あァ、要するに、抽象的一般的な人間らしさなんて、どこにも無ェってことよ。人間らしさに拘泥して、その枠から外れた奴を非人と見なす、攻撃する、迫害する。差別を憎む一方で、より苛烈な差別をやってのける。なるほど、そういう奴らは確かに“人間らしい”。悪い意味でな。・・・良い意味で人間らしい奴なんて、ほんの一握りだ。」

「竜堂様は、良い意味で“人間らしくない”ですよね。」

今まで興味深く話を聞いていて、しかし沈黙していた女が、唐突に的確な発言をする。
凹凸のある艶かしい体つきに、セミロングの茶髪。童顔な彼女の名前は、麦庭桜(むぎにわ・さくら)。

「・・・・・・お前、どっかで会ったことあったか?」

安藤は、ずいっと前のめりになって、麦庭に尋ねた。

「え、ええっ? な、無いと思いますけど・・・。」
「だよなァ。見覚えあるツラじゃねェし。こンな美人を忘れるようなあちしでもないし。」

「僕が人間らしくないのは当たってるね。表情と思考が一致しないみたい。」

竜堂が話を続ける。

「あァ。人間、音声言語は5割以下とか言われてるもんな。表情とか身振り、仕草、ちょっとした視線の動き、エトセトラ・・・そうしたノンバーバル言語が、7割以上を占めてるとか。」

「ノングローバル?」
「ノンバーバル。」
「のんのん婆。」
「ノンバーバルだって。」
「バーバパパ。」
「てめぇ覚える気ねェだろ。」

「横文字って難しいね。」
「・・・へいへい、無駄に教養ひけらかしたあちしが悪ぅござんした。つーかホントは知ってるだろ。」
「こう見えて、僕の頭はカラッポだ。僕が賢く見えるなら、それは賢く見てる人が賢いだけなんだよ。」
「・・・ま、とにかくだ。表情から受ける情報と、発している言葉に齟齬がある。だから言葉も態度も胡散臭く思えるし、無意識で信用できねェって思われるんだろう。魂が壊れてるし、迫害され続けて表情筋がマヒしてんだな。」
「そうなんだよ。どんな表情をしても攻撃されるから、そのうち自分の表情がわからなくなった。結局、いじめ被害者は、その先の人生も上手く行かないってことだね。」

するとゴーストフェイスが、おもむろに自らのフードをめくってみせる。
中には何も無い。カラッポの空間だ。

「・・・何だい、ゴースト。」
「展開が暗くなりそうなので、バツグンの読者サービスってやつです。」
「ひくっ、マサキ×シンヤ以上に誰得だよ! 1ミリもサービスしてねェよ!」
「そんなことを続けていると、そのうち僕は真っ二つになりそうだなァ。」
「どこのプラシドかっ!」
「燈炉子さんって、結構ツッコミ体質だよね。知らなかった。」
「ボケた主人格を持ってるからな。」
『わたしボケじゃないもん! 燈炉子ちゃんのバーカ! オタンコナスー!』

「シンヤは真っ二つになっても大丈夫そうだよな。」
「マサキの中で、僕は何になってるのさ・・・。」
「一番の親友に決まってんだろ。」
「マサキ・・・。」

「はいはいBLBL・・・あ、でも厳密にはBLじゃねェのか、これ・・・」

「っ・・・!」

竜堂の顔色が変わり、見たこともない険しい目つきで安藤を睨んだ。

「・・・ひくっ、こわ・・・・・・」
「どうした?」
「いや、何でも。あちしも誰かに悪い噂をされてるのかなァ。」

「竜堂様、素敵です。」

麦庭は目がハートだ。
それを見て安藤は、再び彼女を凝視する。

「やっぱし、どっかで会った気がするんだけどなァ・・・。AVとか出てね?」
「で、出てませんよ!」





つづく

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
決闘祭!   目録
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ...続きを見る
佐久間闇子と奇妙な世界
2016/11/16 00:12

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
内臓が無いぞう…。冒頭のシリアス展開からのこれである。更にはゴーストフェイスの読者サービス、もとい場を和ませるギャグ(?)。麦庭さんも加わって、何だかんだで和気藹々(?)とした雰囲気。しかし、これが嵐の前の静けさか…?
千花白龍
2017/01/09 19:41
>千花白龍さん
シリアス一辺倒ではなく、ほんのりとギャグも混ぜていくスタイルです。そして何気に伏線も張られていたり・・・。
麦庭さんは燈炉子と少なからず因縁のある間柄ですが、その答え合わせは第5章の予定。
第2章は、華やかな舞台の裏で嵐が巻き起こります。
アッキー
2017/01/09 23:04

コメントする help

ニックネーム
本 文
決闘祭!   インターバルまたは昼食休憩 (中編) 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる