佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 決闘祭!   Act 26 虚無

<<   作成日時 : 2016/11/30 00:00   >>

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◆ ◆ ◆



「どれほどの高次元であっても、零ベクトルの向きはわからない」

それが21年前、高校一年生だった無堂幻大に対して、あるクラスメートが下した評価だった。
幻大の人となりを修辞的に表現した、この評価を、本人もいたく気に入ったようだった。
それがきっかけで幻大は、そのクラスメートと親しくなり、友人と呼べる仲にまでなる。

クラスメートの名は、括屋束(くくりや・たばね)。中性的な風貌の少年で、ミステリアスな雰囲気を携えていた。
長く伸ばした髪を後ろで束ねているのが、いっそうユニセックスな外見を際立たせている。
彼は日本における、公式3人目のレベル5能力者であり、そのことを幻大にも話していた。
幻大はデュエリスト能力を持たなかったが、能力デュエルに強く興味を持ち、目を輝かせた。

括屋にとって、無堂は貴重な友人だった。
数年前に行方不明になった「2人目」ほどではないにしろ、強力な能力を持つ彼だ。周囲の人々の反応は、概ね2つに分けられる。すり寄ってくるか、嫉妬するかだ。
そうでない人間というのは、およそ無堂幻大ただ1人と言っても良かった。

無堂は、カードデザイナーになるという夢を持っていた。
だからだろうか、嫉妬などしないのは。
夢に向かって、きびきびと歩いている人間は、人を僻んでいる余裕など無いだろうから。

強者のサポートに回る人生を選んだのかと思えば、そうでもない。
無堂は括屋に積極的にデュエルを挑み、目を煌かせて感想戦に興じた。
デュエルをしていると、カードのアイデアが浮かんでくるのだという。

果たせるかな、程なくして無堂は1つのアイデアを具現化する機会を得る。
I2社の会長が、新しいカードの製作に難航しているという話を耳にしたのだ。

トレーディングカードゲームは、新しいカードを生み出し続けることを要求される。
その行き着く先に何が待っているかはともかく、新規カードは環境に新鮮な風を吹かせることも多い。
20年前のペガサスは、これまでに無い斬新な効果を持つカードを作ろうと、頭を捻っていた。

カード名と効果だけを考えるのであれば、そう難しいことはない。アイデアは湯水のように溢れている。
しかし問題は、かつて犯した“ある過ち”を繰り返さないかということだ。

《オシリスの天空竜》 《オベリスクの巨神兵》 《ラーの翼神竜》

これらのカードは強大な闇の力を携えてしまい、ひとたびデュエルで使用すれば、プレイヤーを殺しかねない。
ペガサスは恐れ、3枚のカードをエジプトへ封印した。
それだけでは飽き足らず、もしも封印が破れ、神々が解き放たれるようであれば、それを食い止める為のカードまでデザインしたほどだった。

しかし、である。
エジプトに封印した三幻神、それ以上に、抑止力として作り出した三邪神は、恐るべきカードとなってしまった。
強大な力に対抗しようとして、更なる強大な力を求めることが、いかに愚かしいことか。
気安く愚かと断ずるべきではないのだろうが、これを続けた先に待っているのは、破滅だ。

幻神の見せる悪夢や、邪神の胎動に怯えながらも、ペガサスはカードデザイナーとしての自分を捨てなかった。
更なる強大な力で対抗するのではなく、弱きを束ねたような力で対抗できないものか。
あるいは、他では弱小であっても、ある局面では極めて有効なカード。
そして当然、プレイヤーを殺傷するような力の宿らない、誰でも手にすることが出来るカード。

すっきりした頭で考えれば良かったのだろうが、I2社の会長というのは多忙だった。
まだ海馬瀬人という才覚が、その能力を世の為に役立てていなかった頃の話だ。
当時のKCは軍需企業であり、5年後に担当していたようなことも一切合財、I2社が行っていたのである。

そこへ彗星の如く現れたのが、無堂幻大である。
新風を吹き込まれたペガサスは、彼の意見を受けて、新たなカードを作り出すことに成功した。
ペガサスは作り出したカードのうち、どれでも1枚を持っていっていいと、大盤振る舞いをした。
まだ発売もされていないカードを一介の高校生へ贈るなど、破格のことである。

スランプを脱却したペガサスは、その後もカードをデザインし続け、M&W及びDMの隆盛を築いていった。
その過程で、ゾークネクロファデスに殺されたり、天馬兄弟とトムの活躍で蘇生したり、ドーマとの戦いで伝説の三竜をデザインしたり、神之崎やフェニックスらと親交を深めたりした。

三幻神が盗まれたり、それから紆余曲折あって決闘王のもとへ辿り着いたり。
廉価版の一般販売にあたって、元グールズのレアハンターが苦労したり。

神之崎がペガサスに因んでJカードを作り出し、学校を設立したり。
その学校で、あらすじを書くのも難しいような波乱が起きたり。

フェニックスが“究極のD”を作り出し、それを狙った男に殺されたり。
またそれが、回りまわって息子の手に渡ったり。

そうした歴史は、もう少し後の話である。



◆ ◆ ◆



そして現在。

「なはははは、久しぶりだな括屋。」

快活な声で笑いかけられて、括屋は振り向いた。
そこに懐かしい友人の姿があった。

「無堂・・・変わらないな。」

多少の皺は増えたが、それが貫禄を増している。
37歳という歳相応の、好青年とナイスミドルを足して2で割ったような風貌だ。

「なはは、そう言う括屋も、相変わらずハンサムじゃないか。女どもが放っておかないだろう?」

「まあ、不自由はしてないってところかな。」

苦笑いしながら、括屋は流す。
あまり女性関係には、良い思い出が無いのだ。

「無堂こそ、子供が出来たって聞いたよ。高校中退して行方を晦ましたかと思えば、しっぽりかい?」

「なはははは、それは事のついでってやつだな・・・。癇癪持ちの老人を演じるには、丁度いい道具だがね。」

「老人? オレにも告げずに高校を中退したの、あれって本当だったのか?」

「なはは、本当だよ。竜堂さん・・・竜堂眸に、年齢を賭けた闇のデュエルを挑んで、負けた。」

恨みや憎しみが全く無いような顔で、あっけらかんと無堂は言った。
それこそ、昼食に何を食べたかを報告するような気安さで。

「そういうとこ、ぜんぜん変わってないな・・・。マイナス感情ってものが無いのかい? それとも最初から負けるつもりで挑んだ、とか。」

「なははは、括屋は誤魔化せないな。あわよくば勝とうと思わなかったわけじゃないが、わしが・・・ううん、わたしが負けるのは織り込み済みだったよ。何しろ相手はカンサーS級だからねぇ。」

「しかし何故? どうしてわざわざ老人になろうと思った?」

「この国は馬鹿と老人に優しいんだよ。」

薄ら笑いを浮かべて、無堂は答えた。

「言い換えれば、優秀な若者ほど孤立を深めるってこと。それはほら、レベル5能力者を見れば一目瞭然だ。括屋にも覚えがあるだろう?」

「ああ・・・まあな。オレが優秀なのは、少なくとも相対的には確かだった。」

レベル5能力者であり、例によってスポーツも学業もそつなく出来た。
それだけでなく魔術の才能もあり、魔術師としても優等生である。

「相対ねぇ。謙遜しなくてもいいよ。・・・それに、括屋のような稀有を除いても、普通に、出る杭は打たれる、夢追う若者は貶される、元気な者は叩かれる、そんな社会じゃないか。優れてるからこそ迫害されるってことが、ぜーんぜん珍しくない国ってのは、なはは、珍しいかもね。」

言いながら無堂は、首を振って、日本の“公式5人目”の方を見る。

「別に私は、優れているわけでもなければ、元気でもありませんよ。」

秋野連珠は気の乗らない声で返事する。
まともに受け答えしているものの、殆ど生返事のようなものだ。

「なはははは、謙遜が美徳になるのも日本の特徴かな。でもそれも、馬鹿の方が生き易いってことと繋がってると思うね・・・。わかってても、わからないフリをする方が、有利になったりするわけだから。」

「まあ、一理あるとは思いますが。」

「なはは、もちろん参考程度に留めておく論だけどね。しかし竜堂くん・・・ああ、息子の方ね、彼なんかは、そこんとこがわかってないんだなぁ。わかっていても認めたくないのかな。良くも悪くも若いよね。清く正しく、賢く合理的に、自分を高め磨く・・・それが孤立を深めることになるんだ。ねへへ、個人的には好ましいけど。」

「そうなんですか? 私も別に嫌いではないですが、気が合うことはないでしょうね。」

「しかし無堂、お前が若返ってるのは時間系の魔術で了解なんだが、負担も小さくないだろう?」

「なははは、同じことを竜堂さんにも言われたよ。彼女あれで仲間思いなんだね。しかしそれは、承知のリスクってやつだ・・・目的の為には、最大限の準備を整えておくのが、わたしのモットーでねぇ。」

「目的? それがオレたちを集めた理由か?」

「なっはっは、あの頃の目的は既に達成したようなもんだ。それも当初の上位互換でね。竜堂くんを騙して・・・もとい、利用して、計画は上々。なはは、老い先短い老人の頼みに、笑顔で応じてくれて、可愛かったなぁ。」

「よく話が脱線するあたり、老人が板に付きすぎているんじゃありません?」

「なはは、秋野さんは手厳しいね。別にもったいぶってるわけじゃないんだよ。曳砂(ひきさご)兄妹が来てからでないと、二度手間になるというだけさ。」

「あの人たちも呼んでるんですか?」

秋野が嫌そうな顔をする。

「わたしとしては、全員に来て欲しいくらいなんだよ。でも死人は来れないからね。4人で我慢してるのさ。」


日本における、公式レベル5能力者は、累計で14名。
現在の7名よりも前に、年代のバラバラな7名が存在している。

すなわち。

世界的にも公式初のレベル5能力者である、“幽幻神帝”(ファントムロード)

当時のカードプールで最大最強と謳われた、“時計技師”(クロックワークス)

極めて大味と言われるレベル5能力を持つ、“火中道化”(ピエロマスター)

相手のカードすら手中に収める強欲な青年、“石堀り人”(トレジャーハンター)

特殊勝利能力のパイオニアと言われている、“連星棋士”(バンブーパレス)

加虐的な能力を持ちながら被虐嗜好の変態、“痛み奉行”(マジストレイト)

猟奇殺人の罪で、刑務所に服役中の殺人鬼、“凶行狂女”(シリアルキラー)

以上の二つ名を冠する、7名のデュエリストである。
このうち括屋は3番目、秋野は5番目、これから来る予定の曳砂兄妹が6番目と7番目だ。
8番目に天神、9番目に泣笠、その後に、呉星、波佐間、安藤、大河、淵乃井と続く。
リンネが死んだことで、自然発生的にデュエリスト能力者が生まれることはなくなり、淵乃井斑は日本最後のレベル5能力者と見られている。(※登録順であって発生順ではない)


「あ、来たね。・・って、なはははは、その格好どうしたんだい?」

無堂は思わず腹を抱えてしまった。

“痛み奉行”こと曳砂奉佐(ひきさご・ほうざ)は、見た目は普通の青年なのだが、しかし格好が普通でなかった。
全裸に首輪という、室内でも通報されて不思議ではない状態。しかも興奮し屹立しているのだからタマらない。

「さ、最低・・・。」

秋野は顔に手を当てて横を向いた。
レベル5能力者は人格破綻者の集まりだというが、現行12名は全然マシな方ではなかろうか。
安藤やエウレカでも、流石に全裸ハァハァは無いと思う。
強いて言えば、ゼロサムやレッドラムならタメを張れるかもしれないが、かなり方向性が違う。

そして首輪にはリードが付いており、そのリードを持っているのは、濁った目つきの少女。
年齢的には成人しているはずだが、子供のように幼い外見をしている。ロリータファッションがよく似合う。
幼いのは外見だけでなく、内面的にも幼児の残虐性そのままの、しかも知能は年齢相応にある凶人。
メンバーがメンバーだけに本性を出しているが、極めて愛らしい常人のフリも出来るのだから恐ろしい。

曳砂死鉤(ひきさご・しかぎ)。5年前から刑務所に服役中であるはずの彼女が、何故ここにいるのか。
答は言うまでもないだろう。デュエルモンスターズに優先される法律など、リンネの世界に存在しないのだから。

「こんにちは! 今日も良い天気ですね! 僕は元気です!」

「お兄様が元気なのは普段からでしょう? ええ、というわけで、お久しぶりです。括屋束さん、秋野連珠さん。あらためて、名乗らせていただきます。わたしは曳砂死鉤、こちらは知能の退化した兄、曳砂奉佐です。」

「ふああん! 知能が退化してるだなんて酷いよ死鉤! もっと言って! ダボより酷い言葉をお願いします!」

「それよりも兄様、わたしを差し置いて秋野さんの言葉に興奮しましたね。オシオキです。」

死鉤がボタンを押すと、首輪に電流が流れた。

「おがががが! 痛い! 痛い! 気持ちイイーーっ!」

「変態! 変態! 愚兄! 変態!」

愚兄を罵る死鉤は実に楽しそうだった。
この兄妹は、本当にヤバいのは妹の方なのだ。

「相変わらずだなあ、君たちは。楽しそうで何よりだよ。」

微笑ましいとばかりに柔らかい表情になる括屋。
この人も相変わらずマトモじゃないと、秋野は思った。
世間的には異常者の側に属する彼女でさえ、ドン引きする光景。何かの次元が違う。

「ねへへ、揃ったところで本題に入ろうか。えーと、括屋ぁ、あのカード持ってる?」

「あのカードって、これのことか?」

括屋は懐から、スリーブに入ったカードを出した。
かつてペガサスが無堂に贈った、《現世と冥界の逆転》の初版。
それを無堂は括屋に預け、程なくして行方を晦ましたのだった。

「ねへへ、持っててくれたんだね。」

「当たり前さ。こいつが禁止カードになったときは、そりゃあ悲しかったぜ。」

「なはは、わたしも残念だったよ。けれど《リソース・リバース》という、もっと扱いやすいカードが出たのは僥倖だった・・・索抜(さくぬき)さんには、感謝しないとね。」

《リソース・リバース》を手がけた索抜ちえりは、本職はプログラマーであるが、カードデザインも手がけていた。
数は少ないが、《強制詠唱》や《先取り天使》などのカードを作成しており、評価は高い。

「・・・まさか無堂、お前?」

言わんとすることを察して、括屋は無堂を見据えた。

「なはは、そうだよ。君たち、デュエリスト能力者に、戻りたくはないか?

基本的に、デュエリスト能力は、遅くとも20歳で消失する。
37歳の括屋はもちろん、28歳の秋野、26歳の曳砂兄妹も、能力は消失している。

しかし、基本があれば応用もある。
現に無堂は、老人になりながら魔術の力で、若返っているではないか。


「さてと竜堂くん。今の状況を読んでいるなら、わたしの言った意味は当然わかっているね?」



◆ ◆ ◆



癒虫鰐条は、再び奈落に突き落とされた。逃げることも出来ず、瞳を潤ませて震えていた。
蒼白な頬を汗が伝い、唇からは言葉にならない空気が出たり入ったりしていた。

圧倒的なんてものではない。絶対的な力。文字通りに次元が違う。
強大な力に胡坐をかいているだけの雑魚だと舐めきっていたが、近付けば得体の知れない大魚。
どうして挑もうなどと思ったのか。癒虫は過去に戻ってやり直したいと切に願った。


「さてと。」

デュエルディスクを畳んだ竜堂は、怯える癒虫を見た。
自分が視線を向けただけで、死にそうなくらい絶望しているのがわかった。

(ここでレイプする流れなんだろうけど、どうも気が進まないな。)

未熟な肢体を蹂躙することに抵抗は無いが、やはり自分の性嗜好は大人の女に向いているのだと思う。
スリムであっても成熟した、大人の女。特筆すれば、スレンダーかつグラマーというのが理想系。

しようと思えば幼女でもレイプできるが、自分から進んでレイプしたいとは思わない。
それは例えば、数学の問題を解く場合、計算問題よりも文章題を解きたいとか、そういう感覚に似ている。
計算問題は必要性で解くが、文章題は好奇心で解く。進んで解きたいのは、文章題の方なのだ。

(必要性があるとは、とても思えないんだなぁ。今更感があるというか、今は無堂さんの方が気にかかる。まあ、とりあえずゴーストを待って、それから・・・・あ・・・)

ふと竜堂は、自分の魔力が著しく減少していることに気付いた。
燃費の悪さは解消しつつあるとはいえ、時間の巻き戻し自体が禁術指定の大技である。
37万という膨大な魔力も、そろそろ枯渇しそうになっていた。

「・・・喰うか。」

癒虫がエサに見えた。

「―――っ、―――っ!」

竜堂の意図を察知したのか、そうでなくても恐ろしいものを感じたのか、癒虫は声にならない叫びを発した。
逃げようと必死に手足を動かそうとし、しかし満足に動けず、もがくだけになってしまう。
清らかな涙が飛散し、ぱくぱくと唇が動く。濡れた腿は、既に気化熱を奪われて、冷やされていた。




「シンヤ!! 無事か!!?」




扉を破って、大河が入ってきたのは、そんなときだった。

部屋の中は黒焦げで、まだ熱と煙が残っていた。
パッと見て無傷な8人も、倒れ伏して動かない。
中央には親友と、怯えに怯えた華奢な肢体。

これだけの惨状を、1人で作り出したというのか。
流石に大河も、恐怖の二文字に支配されずにはいられなかった。

「やあ、マサキ。僕が恐いか?」

「恐いさ。」

いつも通りの胡散臭い笑みを浮かべる親友に、マサキは正直に答える。
正直に答えながら、真っ直ぐ歩み寄る。

「恐いが、それがどうした?」

愛や友情が幻想なら、不安や恐怖も錯覚だ。
この恐怖が錯覚でないなら、友情だって本物だ。

そもそも、本物だとか、偽物だとか、拘泥するようなことじゃない。
本音が建前より良いとも言えないように、偽物だって本物を超えることはある。

名画の贋作も、贋作と知って価値を認めるなら、その思いは本物だ。
建前も、貫き通せば本音と融合し、豊かな人間性を獲得できるだろう。

「無事で良かったぜ。デュエルで負ける心配は皆無だったが、心を傷つけられてるんじゃないかと思ってな。」

言いながら大河は、ジャケットを脱いで、癒虫に羽織らせた。
こういう気遣いが自然に出来るあたり、敵わないなぁと思う竜堂だった。

「・・・ほんと、マサキには敵わないや。」

「ん? 俺の推理したことくらい、お前も推理できてただろ。」

本当に無自覚な紳士ぶりだ。
竜堂は癒虫への気遣いを見て言ったのだが、大河は癒虫の能力についてのことだと捉えたのだった。

「それより、殺してないよな?」

「あァ、大丈夫。死んでない。マサキが来るのが遅れてたら、魂を喰ったかもしれないけど。」

「ったく、来て良かったぜ。どっちかというと、お前と戦う奴が心配だからなぁ。」

「アハハハハ。」

大河と竜堂は、互いに屈託なく笑い合った。
この笑顔を見れば、先程の癒虫に向けていた笑顔さえ、行為と同じく非人間的に見えるくらいに。

「ちなみに、そちらはエルスさん? エルス・レッスルさんじゃないですか。」

「・・・っ、あ、はい。」

呼ばれてビクッとなったエルスだったが、取って喰われはしないだろうと自分に言い聞かせた。
どれほどの凶人であろうとも、かつて対峙した“バケモノ”に比べれば、まだ人間の範疇なのは間違いない。

「お久しぶりです。」

「あ、はい、お久しぶりです・・・。」

これだけの惨状を作り出しておきながら、何気に礼儀正しい。
壊れてるところは壊れているが、まともなところは至極まともだ。
かえって不気味というか気持ち悪いと思いながら、エルスは口をつぐんだ。




「ここかぁ、癒虫ぃいい!!」



反対側の扉を蹴破って、レッドラムが現れた。
彼の左右には、泣笠と脳堂もいる。

「よくも葉継をっ・・・・・・おお・・・?」

レッドラムは面食らった。

「・・・な、何だ、これ。」

脳堂も同じ表情で、泣笠は渋い顔で首を振っていた。
この展開は、3人の誰も読めなかった。

「やぁ、淵乃井くん、脳堂さん、それに葉継。お祭は楽しんでるかい?」

爽やかな笑顔で、竜堂は尋ねた。
その質問をする前に、この惨状を何とかしろと言いたかったが、そんなことを言っても謝られるだけだ。

(竜堂神邪。絶対能力者・・・。)

あらためて脳堂は、堂一族(シュライン・ファミリー)の新たな宗主を眺めた。
決闘祭の前に会ったときと同じだ。何も感じない。

脳堂は、人を見る目は確かなつもりだ。
もちろん主観的な意味ではあるが、第一印象を裏切られたことは殆ど無い。
超能力とかではなく、初対面で多くの情報を得られる観察眼の賜物である。

しかし、竜堂に関しては、殆ど何もわからなかった。
感情とか、欲望とか、そういったものが感じられなかった。
言ってることが、極めて空疎な文字の羅列に聞こえた。

欲望は、どれほど醜いものであっても、だからこそ魅力的だということが往々にしてある。
ファウスト博士やエリザベート・バートリーに、文学的な艶かしさを、退廃的な美を、ピカレスクを感じるだろう。
淵乃井斑の、レッドラムの、醜くも切ない欲望に、脳堂美宇は強烈に惹かれたのだ。

竜堂神邪には、それが無い。あるのかもしれないが、感じない。
そこに立ってるのはマネキン人形だと言われれば、すんなり納得してしまうかもしれない。

(本当に、掛け値なしに何も感じないわ・・・。まるで、心が無いみたいな・・・。)

ゆえに、好意も抱けなければ、嫌悪も抱けない。
どういう感情を抱いていいたのかわからない。


「別に心が無いわけじゃないよ。」


「・・・っ?」

脳堂はギョッとして目を大きくした。
まさか思考を読めるのか。

「流石に二重鉤括弧では喋らないけど、僕にも心らしきものはある。・・・ああ、いや、“ブック・オブ・ザ・ワールド”で状況を確認してたら、脳堂さんの思考も出てきたものでね。」

竜堂はフルフルと首を振って、咳払いした。

「ええと、無堂さんの言ってる意味はわかるんだけど、その目的がわからないんだなぁ。葉継・・・泣笠さんは?」

「さっぱりよ。“カンサー”に関しては、お前の方が詳しいわ。」

「無堂さんは“カンサー”でなく“シュライン”の方だけどね。」

そうこうしているうちに、ゴーストフェイスがテレポートしてきた。
黒いフードを風圧で広げながら、竜堂の隣に降り立った。

「あ〜いかわらず、バツグンな惨状を作り出してますね。」

「どうだいゴースト。《魂の牢獄》は取り戻してくれた?」

「ええ、琴美さんと桜さんの分は。」

そう言ってゴーストフェイスは、《闇坂琴美》と《麦庭桜》の2枚を提示した。
竜堂は2枚を見て、考え込む。

(・・・・・・無堂さんの本当の狙いは、海堂?)

ある“おぞましい計画”のことを思い浮かべて、竜堂の思考に筋が通る。

(そうだ。僕の思考は、母さんと、黎川師匠、そして無堂さんの影響が大きい。)
(逆に言えば無堂さんにとっても、僕の思考は読みやすいことになる。)
(海堂を呼ぶことを読まれていたとしても不思議ではない。)

(しかし)

(更に考えて、これに僕が気付くことまで織り込み済みだとすれば―――)


竜堂は、推理を終えて呟いた。


「・・・無堂さんの目的が、わかったよ。」



◆ ◆ ◆



マンデルブロの凶積竜 レベル10 無属性・無族
攻撃力???? 守備力????
同名モンスター3体を生贄にして特殊召喚する。
このカードは他のカードの効果を受けない。
このカードの攻撃力と守備力は、このカードと戦闘するモンスターの
攻撃力の2乗に、そのモンスターの元々の攻撃力を加えたものになる。



次元神帝フラクタル レベル× 無属性・無族・融合
攻撃力× 守備力× ヒルベルトの曲双竜+シェルピンスキーの虚心竜+マンデルブロの凶積竜
×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××




「・・・海堂くんには悪いことをしたが、“次元神帝”を目覚めさせるわけにはいかないのだよ。」

無堂幻大は、海堂瑠夜の封印された《魂の牢獄》を手に、深い声で呟く。
その重苦しい様子からは、絶望へ抗う勇気と悲痛が滲み出ていた。

「リンネがいなくなったことで、これまで抑え込まれていた怪物どもが跋扈する・・・・・・だが、吉井くんを責めるわけにもいくまい。むしろ、ひとりの少年に世界の命運を背負わせた、我々大人の不甲斐なさを恥じるべきだ。」

ここではない“どこか”から、恐ろしいカードの鼓動が聞こえてくる。
人を滅ぼす為に作られたカードの、渦巻く怨嗟が響いてくる。

「多くの意味で、我々人類は罪深い・・・・・・だが、滅ぼされてなどやるものか。なははははっ!」






   決闘祭!   第2章 了

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