佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 決闘祭!   番外編 確定死刑の摩天楼(前編)

<<   作成日時 : 2017/02/03 00:00   >>

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◆ ◆ ◆



ごく普通の兄と妹だったと思う。

中流の家庭に生まれ、充実も不満も、程よく散乱した子供時代だった。
バブル景気の崩壊の呷りに、受験戦争の斜陽、戦後半世紀。
時代の転換期、失われた時間を僕たちは生きていた。

やがて運命の日が訪れる。
双子の僕たちは同時に誕生日を迎え、同時に神様から嚢を貰った。


ごく普通の両親だったと思う。

戦後の出産ブームから少し遅れて生まれた、新人類と呼ばれた世代。
古い時代を知っていて、新しい感覚を持っていた。

見合い結婚で、慎ましい家庭を築き、幸福も疲労も、程よく織り交ざっていた。
生まれた双子は仲は悪くないが、距離感も程々にある、普通の兄妹だった。

奉佐―――HOUZA

仕喜歌―――S I K I KA



◆ ◆ ◆



「・・・また、殺人鬼“スクリーチ”が現れたのか。」

武藤遊戯は新聞を閉じて嘆息した。
少年時代の幼い風貌は鳴りを潜め、精悍な顔立ちに風が当たる。

新聞を読むのは子供の頃からの習慣だ。
妻と10年前にデートしたときも、新聞を読んでいて機嫌を損ねたほどである。
あの頃は夫婦どころか、恋人未満の間柄だった、甘酸っぱい青春の思い出。
当時世間を騒がせていた、トランプ爆弾魔の逮捕に、協力した日でもあった。

“スクリーチ”の犯行と目される、最初の事件は、8年前の夏。尾瀬呂港。
暑さで腐敗し、魚に食われて骨が見えていた水死体は、無数の切り傷があった。
身元を確認するまでに時間を要したが、直近で行方不明になっていた子供の中に、それは見つかった。
童実野小学校に通う女子児童で、正義感が強く、みんなから好かれる人柄で知られていた。

同じ年の冬に、精肉業者の管理する冷凍倉庫で、人間の肉が散らかっていた。
第一発見者は二度と肉が食えなくなったほどのショックを受けるほど、凄惨な現場であった。
凍りついた眼球が、死んだまま見つめてくる。幼い乳房が、凍った口の中に詰め込まれて。
最初の事件と同じく、童実野小学校に通う女子児童だった。切り刻まれた肉片には無数の切り傷があった。

翌年には事件は起こらず、無念と安堵が錯綜した。
しかし6年前の秋に、またしても童実野小学校の女子児童が、近所の池に投げ込まれていた。
死体には無数の切り傷があり、そして正義感の強い人気者だという点でも、第一の事件と共通。

更には、その1か月後にも女子児童が廃工場で輪切りの死体となって発見された。
輪状になった肉片ひとつひとつに、丁寧に切り傷がつけられていて、怨恨とは別の何かを思わせた。

これらを同一犯の仕業と見た警察は、“童実野小学校児童連続殺人事件”の捜査本部を新たに設立。
今までの事件に携わっていた刑事も集めて、大規模な合同捜査に乗り出すことになった。
いずれも被害者が女子児童であることから、幼児性愛者の男性の線で調査したが、芳しい結果は得られず。
同時に、いずれも性的暴行を受けた形跡は見られなかった為、女性犯人説も浮上していた。

その矢先、捜査本部に送り主不明の小包が届く。
慎重に開封してみると、出てきたのは爆弾などではなく、被害者4人の名前が連ねられた音声ディスクだった。
果てしなく嫌な予感がしたが、ベテランの刑事がそれを聴くことにした。
ディスクに記録されていたのは、被害者女児のものと思しき悲鳴だった。
耐え難い激痛から発せられる金切り声が、延々と6時間。そのベテラン刑事は心を病んで引退した。

挑発的な劇場型犯罪行為、女児を切り刻む変質者。
マスメディアは、この凶悪犯罪者を“Screech”(金切り声)と名付けた。



◆ ◆ ◆



妹が狂い始めた日を覚えている。

僕たちには、8つ歳の離れた兄がいた。名前は頼座(らいざ)。
優しい性格をしていて、勉強が良く出来て、自慢の兄だった。
様々なゲームを一緒に遊んだ。デュエルモンスターズも。

この世界で生き抜くには、兄は優しすぎたのかもしれない。
兄が小学生の頃、いじめられていたと知ったのは、僕たちが五年生の頃。
国公立の大学に合格した兄は、喜びも束の間、心を病んで引き籠もった。

それでも兄は、僕たちには優しかった。
相変わらずゲームには付き合ってくれるし、知識も教えてくれた。
時折、発作が起きて叫ぶことを我慢すれば、以前と変わらない兄だった。

しかし両親は、そうは思わなかったらしい。
ごく普通の両親は、普通に満たないものに対して、普通に冷たかった。
虐待とまではいかない。・・・が、兄を壊すには十分だった。

半年後、兄は自殺した。遺書も残さず。

その日から妹の目に、昏い昏い光が宿った。
きっと僕も同じ目をしていた。



◆ ◆ ◆



「武藤さん、お会いできて光栄です。」

19歳の曳砂奉佐は、歳より幼い笑みで武藤遊戯を出迎えた。
小学生の頃から憧れだった人と対面して、心が少年に戻らずにはいられない。
ひとつだけ残念なのは、恐らく相手は、自分を容疑者の1人と目していることだろうか。

(まあ、それでもいいか。種類はどうあれ、遊戯さんに興味を持たれているわけだ。今このときは、遊戯さんの心は僕のものだ。いちファンなどでは得られない、特別な関係だ。)

奉佐は下半身に血流が集まるのを感じた。
彼は種類が何であれ、興奮を覚えると屹立するタイプの人間だった。

「早速だが、オレとデュエルをしないか?」
「性急ですね。だけどその性急さ、嫌いじゃないですよ。」

いちファンだったなら、こんな“男の会話”も出来なかったに違いない。
年上だし、緊張で舌足らずなことしか言えなかっただろう。

いよいよ奉佐は先走り汁を漏らしながら、デュエルディスクを展開した。


「「デュエル!」」


武藤遊戯:LP4000
曳砂奉佐:LP4000



「オレの先攻、ドロー! 手札を1枚捨てて、《THEトリッキー》を特殊召喚する!」

「僕のデュエリスト能力発動!」


武藤遊戯:LP4000→3000



「それが君の能力、“真綿で絞める首”(スクラッガー)か。だがオレは、《グリーン・ガジェット》を召喚し、その効果で《レッド・ガジェット》を手札に加えるぜ。」

武藤遊戯:LP3000→2000


「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」


武藤遊戯:LP2000、手札2
場:THEトリッキー(攻2000)、グリーン・ガジェット(攻1400)
場:伏せ×2

曳砂奉佐:LP4000、手札5
場:
場:



「僕のターン、ドロー!」

奉佐のレベル5能力は、このスーパーエキスパートルールにおいては殊更に凶悪だ。
初期ライフが4000ポイントで、魔法・罠も1ターンに1枚ずつしか出せないので、回復も容易ではない。
《魂吸収》と《ネクロフェイス》のコンボも1ターンでは難しいし、出来たとしても差引き1500ライフしか得られない。

(ガジェットなら伏せカードは《血の代償》? だとしても1回、もう1枚と合わせても、せいぜい2回が限度・・・。)

エクシーズ召喚の登場する前の話である。
この頃は《血の代償》も禁止指定を受けていなかった。

(墓地に送られたのは《オベリスクの巨神兵》か《ラーの翼神竜》? だとしても《死者蘇生》で蘇らせて効果を発動した時点でライフは尽きる。しかしもう1枚の伏せカード、あれが《女神の加護》なら・・)

不敵に微笑む遊戯を前に、奉佐は汗を垂らす。

「・・・僕は《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚します。このカードはレベル5ですが、相手フィールドにのみモンスターが存在するとき生贄なしで特殊召喚できる。そして《メカ・ハンター》を召喚します。《サイバー・ドラゴン》は、相手の機械族を呑み込んでキメラとなる!」


武藤遊戯:LP2000、手札2
場:THEトリッキー(攻2000)
場:伏せ×2

曳砂奉佐:LP4000、手札4
場:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻3000)
場:



「へえ・・・」

遊戯は動揺することなく、感心した様子で見つめている。
当時サイバーモンスターや、その融合体は極めてレアであり、実際にデュエルで相対することは少なかった。

「魔法カード《速攻》を発動し、《THEトリッキー》へ攻撃!」

「リバースマジック《死者蘇生》!」

「・・・!」

読んだ通りのカードが伏せられていて、奉佐の心臓がドクンと鳴る。

「甦れ、《イエロー・ガジェット》!」

武藤遊戯:LP2000→1000


(・・・!? オベリスクでもラーでもない。これじゃあ、僕の勝ちじゃないか・・・!)

あの武藤遊戯に、デュエルキングに、勝てる。
そう思った瞬間、脳髄からドーパミンが溢れ出した。

「《イエロー・ガジェット》の効果で、オレは《グリーン・ガジェット》を手札に加えるぜ。」

武藤遊戯:LP1000→0


(勝っ―――)





武藤遊戯:LP0、手札2
場:オベリスクの巨神兵(攻4000)、THEトリッキー(攻2000)、イエロー・ガジェット(攻1200)
場:魂のリレー(罠カード)

曳砂奉佐:LP4000、手札4
場:キメラテック・フォートレス・ドラゴン(攻3000)
場:




「―――っあ・・・」

「オベリスクは最上級能力で、相手ターンだろうと攻撃を仕掛けることが出来るぜ! ソウルエナジーMAX!!」


巨神の豪腕に、しもべたちの魂が吸収され、灼熱の疾風が大地に吹き荒れた。


《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》 (破壊)
曳砂奉佐:LP4000→0



「・・・ま、負けました! やっぱり遊戯さんは凄いです! てっきり回復カードを伏せてるとばかり・・・!」

「君のデュエリスト能力がライフを奪うものなら、きっと回復は間に合わない。だから、能力を利用した戦術が出来ないかと考えたんだ。」

精悍な顔は、真っ直ぐ奉佐を見つめていた。
それは犯罪者を糾弾する正義漢の顔ではなく、決闘者に対する決闘者としての顔だった。

もはや逃げられないと感じた。
逃げることは恥だと思った。


「・・・いいですよ、全て話します。僕が希代のシリアルキラー、殺人鬼“スクリーチ”です。」

奉佐は少年時代を振り返りながら、凍える瞳で嘘に塗れた言葉を吐いた。





つづく

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