佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 決闘祭!   インターミッション 黒の決闘

<<   作成日時 : 2017/03/01 00:00   >>

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◆ ◆ ◆



アトランティスに1人の男が、どこからともなく現れた。
黒い髪と黒い瞳、白い肌と白い服。地獄から這いずり出てきた幽鬼のような、痩身の優男だった。

彼は生まれたときは人間だった。
生まれつき知恵が回るということ以外は、ごく普通の人間だったと言って差し支えないだろう。
たとえ彼が、母親が強姦されて生まれた子供だったとしても、それで差別される謂れは無い。
彼を取り巻く周囲の環境は、それを理解し、彼と、彼の母親を気遣い、よく助けた。
彼も純粋な気持ちで周囲に接し、笑顔いっぱいの少年時代を過ごした。
彼の心を傷つけたのは、彼を狂わせたのは、ほんの些細な言葉だった。

―――“悪魔の子”―――

そのセリフを吐いたのは、諸国を巡遊する占い師だった。
人の心を傷つけるのに大した言葉はいらない。
RA計画を主導した天馬夜行を狂わせたのは、兄へのコンプレックスと“劣化コピー”の一言だったように。

彼は自分の出自は知っていた。しかし自覚していることと、それを他人に言われることでは意味が違う。
彼の心の中に、彼自身も気付かないうちに邪悪な魂が育っていた。
彼の“嘆き”が邪悪な魂を育て、その魂は冥界より大邪神を呼び寄せた。
99人の命と引き換えに、大邪神は“もう1人の彼”に“滅びの力”を与えた。

彼は死罪となった。

肉体の死と共に主人が滅びると、もう1人の彼が目覚めた。
もう1人の彼、いや、ここからは“彼”と呼ぼう。彼は人知れず行動し、時間をかけて力を蓄えていった。
当時の行方不明者のうち、どれほどが彼の犠牲になったのかは定かではない。
大災害が起こったときなどは、彼にとって絶好の機会だった。
人間を殺し、その恐怖と苦痛を糧にして、際限なく成長していった。

やがて彼は人間の心の闇に直接干渉できるまでに成長した。
アトランティスへ来たのは、それから間もなくしてだった。

「そなたは何者だ? この警戒の厳重な王宮へ、いとも容易く、誰にも見つからずに忍び込めるなど、只者ではあるまい。」

アトランティスの王ダーツは、不信感と好奇心の混ざった顔で詰問した。

「レムリアから来ました、デスティ・トレビックと申します。よろしく。」
「レムリア・・・だと・・・?」

ダーツは顔を歪めた。

「あの大陸の様子は知っている。田畑は荒れて、民は飢え、野盗が蔓延り、女は犯され、子供は哭き、荒れ狂う鬼か修羅の如き男どもが奇声をあげながら暴れまわる。宮中は奸邪の巣窟、税を搾り取るのが良い役人、人を罵り奴隷のように扱うのが良い上司、おべっかを使い、賄賂を渡し、ご機嫌取りやゴマすりを行うのが良い部下、そんな場所だと聞いている。まるで豚の国だ!」
「それ、わたしの仕業だと言えば信じますか?」

デスティは不敵な笑みを浮かべて笑う。

それが、ますますダーツの癇に障った。と、同時にダーツは危機感を覚えた。

「そなた、この地に災いを齎しに来たのか!?」
「ご明察の通りでございます。このアトランティスを統べるは貴方ですから、当然わたしの目的も貴方です。」
「ならば受けて立とう。このダーツに挑んだのが、そなたの敗因と知れ!」

「「ディアハ!」」

「出でよ《キュトラー》!」

ダーツが繰り出したのは、全身が棘で覆われた一つ目のモンスターだった。

「ほほう、随分と可愛らしい魔物を出してきましたね。では、わたしの僕は《死皇帝竜》です。」

白骨で武装したような黒いドラゴンが現れた。
ダーツは思わずゾッとした。

「迎え撃てキュトラー!」
「薙ぎ払え。」

死皇帝竜の吐き出す炎がキュトラーを襲う。
しかしキュトラーは平然としている。

「ほう、これはこれは。」
「キュトラーは攻撃力は低いが、特殊能力を備えている。それは“不死”の能力だ。」
「なるほど、不死、ですか。そそられますね・・・。ですが、主人である貴方は不死とはいかない。キュトラーが特殊能力を発動する度に、貴方は魂の力を消耗する。」
「それは、そなたの僕とて同じこと。その火炎攻撃、一体どれ程のバーを消費しているのだ?」
「ククッ、何を言うかと思えば・・・死皇帝竜の炎は、わたしの憎しみを糧にしている。際限なき憎しみ、終わりなき憎しみ、それを炎に変えて放っているのです。」

そのときダーツはデスティの背後にドス黒い影を見た。
心底から寒気を感じた。それはダーツがイメージする“悪魔”そのものだったから―――

「守っているだけでは勝てませんよ?」
「くっ・・・!」

火炎攻撃にもキュトラーは耐える。しかし主人のダーツは魂を削られる。
どんどん、どんどん、ダーツの顔色は悪くなり、呼吸も乱れてくる。
辺りは火炎攻撃によって燃え盛っている。部屋の温度は50度を超しているだろうか。

「そんなことは計算ずくよ・・・進化しろキュトラー、その身を無敵の兵と化せ!」

ダーツが叫ぶと、キュトラーの体が急速に変化した。
一気に膨れ上がった体は遮光器土偶のようになり、その右腕と左腕が胴体から離れて浮遊した。

「これで我が最強の僕シュノロス。受けたダメージが大きければ大きいほど、その力を増す。」
「それで今まで防戦一方だったわけですか・・・。ですが、奥の手なら、わたしにもありますよ。」

デスティの瞳がドス黒く輝いた。

「―――《死皇帝竜》“強襲形態”―――!」

ギアアアアッと猛々しく唸ったドラゴンは、その形を変えていく。
先程よりも一回り大きくなり、紫色のオーラを纏い、より禍々しい姿となった。

「主人を殺せば、シュノロスが如何に強くても関係ありませんよね。地獄の炎で焼き尽くせ!」

死皇帝竜が強大な威力の火炎を放つ。
それはシュノロスもろともダーツを覆い尽くした。

「・・・それで、勝ったつもりかデスティ?」
「なにっ?」

炎が晴れると無傷のダーツが立っていた。

「シュノロスの左腕は、あらゆる攻撃を通さない無敵の盾だ。今度はこっちからいくぞ!」

浮遊した右腕が死皇帝竜めがけてミサイルのように飛んでいく。
それを死皇帝竜は真正面から受け止めるが、明らかに力負けしている。

「そしてシュノロスの右腕は、あらゆる魔物を破壊する無敵の矛だ!」

断末魔の叫びをあげ、死皇帝竜は分解する。
ダーツは勝利を確信した。

「もっとも、闘った分だけシュノロスは弱体化するが・・・。」

シュノロスの体が縮んでいく。
キュトラーに戻った。

「もはや打つ手はあるまい。諦めて降参しろ。」
「・・・・・・ククク。」
「何がおかしい。」

勝ったというのにダーツは苛立っていた。

「いえ、無敵の盾と無敵の矛。ぶつかれば、どちらが勝つかなどと考えてしまいましてね。」
「ふん、戯言を。」
「しかし貴方が、わたしの思った通りの人間でよかった。」
「なに・・・?」
「いるんですよ、生まれつき闇に心を囚われやすい人間が。今の攻防で、貴方が“そう”だとわかりました。これは、わたしからの贈り物です―――」

デスティの背後の“闇”が濃くなり、蛇に姿を変えてダーツを襲った。

「くあっ!?」

蛇はダーツの体に絡みつき、強く締め上げた。
そして赤い舌で彼の首筋を嬲るように舐める。

「あくぁああ・・・・くうっ・・・!」

蛇は執拗にダーツを嬲り、彼の口を犯して中に侵入した。
ぬめぬめした鱗の感触が口いっぱいに広がり、ダーツは嫌悪感で悶え苦しんだ。
大きく太い蛇は体をうねらせながら、ダーツの咥内を犯し、奥へ奥へ進んでいく。

「くおっ・・・・くぅ・・・・」

蛇を飲み込んでしまった。

「ハァ、ハァ、くっ・・・デスティ貴様・・・何を・・・」

しかしダーツが顔を上げるとデスティは消えていた。
ダーツはデスティの気配を探ったが、既に近くにはいないようだった。
デスティの目的が自分の命ではなく、自分に“闇”を植えつけることだということに、ダーツは気付かなかった。

その後ダーツはオレイカルコスの力を手にし、オレイカルコスの神の力でアトランティスを滅ぼすこととなる。


―――――ここまでが1万2千年前の話―――――



◆ ◆ ◆



ソールズベリ侯爵には、可愛らしい娘がいた。名前はアーロネッサ。アーロネッサ・ソールズベリ。
公爵は、貴族の多くがそうであるように、地位と財産、家の存続と繁栄を第一に考える男だった。
その為に娘アーロネッサを力と地位のある男と結婚させようと目論んでいた。

しかしアーロネッサにはクリストファーという恋人がいた。貧乏な使用人ということで侯爵は気に入らなかったが、アーロネッサはクリストファーを深く愛していたし、クリストファーも誰よりもアーロネッサのことを愛していた。

無理やり結婚が決められた日の夜、クリストファーはアーロネッサを連れて逃げ出した。
持ち出したものは僅かな金とデュエルモンスターズのデッキ。
しかし、ソールズベリ侯爵は何もかもお見通しだった。

「はっはっは・・・どこへ行こうというのかね?」
「「!」」

気が付けば2人は侯爵と私兵に囲まれていた。

「いにしえより、優れた監獄には1つだけ弱点があるという。仕組まれた弱点めがけて押し寄せるネズミどもを、まとめて処分できるようにな。」
「く・・・!」

震えるアーロネッサを抱き締めて、クリストファーは侯爵を睨んだ。

「貧乏人ふぜいがわたしの娘に触れるとは汚らわしい。商品価値が下がったら、どうやって責任を取るのかね?」
「アーロネッサは売り物なんかじゃない!」
「黙れ小僧。・・・ふん、本来なら今すぐに殺してやるところだが、寛大なわたしは君にチャンスを与えたいと思う。デュエルディスクを構えたまえ。“闇のゲーム”で勝負してやる。わたしが勝てば君は死ぬ。君が勝てばアーロネッサは君のものだ。悪くない話だろう。これはわたしの誠意だ。」
「いいだろう、だが約束は守ってもらうぞ。」
「ああ、闇のゲームは絶対だ。」

ソールズベリ侯爵とクリストファーが、互いにデュエルディスクを構える。

「駄目よクリストファー! これは罠よ!」
「そうかもしれない。だけどチャンスでもある。」

「「デュエル!」」

もちろん罠などではない。しかし、決してチャンスなどではない。
クリストファーは知らなかったのだ。本気を出したソールズベリ侯爵に自分が勝てる確率など0.001パーセントもありはしないということを。

―――およそ30分後。


ソールズベリ侯爵:LP530000、手札7
場:キャノン・ソルジャー(攻1500)、羊トークン(守0)、羊トークン(守0)、羊トークン(守0)、羊トークン(守0)
場:魂吸収(永続魔法)、神の恵み(永続罠)、魔法吸収(永続魔法)、光の護封壁(永続罠・10000)

クリストファー:LP1000、手札0
場:ダーク・クルセイダー(攻1600)
場:



「はぁっ、はあっ、はあっ・・・!」

クリストファーは立っているのがやっとだった。これまでに受けたダメージは累計16000ポイント。
ソールズベリ侯爵は《ギフトカード》でわざとクリストファーのライフを回復し、ダメージを与えて痛めつけたのだ。

カードパワーが違いすぎる。潤沢な資金を持つ侯爵と、満足にカードも買えないクリストファーとでは、スタート地点からして大きな差が開いていたのだ。運やプレイングなどでは覆せない差が。
そのことを侯爵は知っていた。侯爵にとっては絶対安全保障つきのゲームだった。

「偽の希望を与えて、それを毟り取るのは気持ちがいいわい。どれ、そろそろ終わらせるとするか。羊トークンを装填し、まず1発目!」
「うぐっ!」

クリストファー:LP1000→500


「2発目!」
「ぐううっ!」

クリストファー:LP500→0


「3発目を装填、ファイア!」
「ぐああああっ!」
「4発目ファイア!」
「あああああああああっ!!」
「5発目・・・」
「もうやめてお父様! とっくにクリストファーのライフは0よ! もう勝負はついたのよ!」

耐えられなくなったアーロネッサが侯爵の腕にしがみつく。

「ファイア。」
「がはっ!」

胸を打ちぬかれたクリストファーが倒れる。

「クリストファー!」

アーロネッサが駆け寄ったときには、既にクリストファーは息絶えていた。

「よくも・・・よくもクリストファーを!」
「どうしたんだい、アーロネッサ。無礼な野良犬を1匹始末しただけじゃないか。」
「・・・!」

もはや何を言っても無駄だった。
ソールズベリ侯爵にとって、貧乏な人間は犬畜生と同じなのだ。

「クリストファー・・・・・・クリストファー・・・・・・」

呆然と呟くアーロネッサは、使用人たちによって部屋へ運ばれていった。

翌日には結婚式が行われ、その夜にアーロネッサは処女を失った。
まだ10代半ばの華奢な体躯は40を過ぎた脂ぎった男に蹂躙され、血と涙を流した。
それは世間的には合法であり、聖なる行為であり、駆け落ちなどという不道徳なものに比べれば遥かに素晴らしいものだった。たとえアーロネッサが、どれほど傷つき、どれほどの苦痛を味わい、どれほどの悲しみと絶望に心を塗り潰されたとしても、貴族社会にとっては取るに足らないことだった。

―――ニクイ!

―――憎い!

気が狂いそうなくらい、はらわたが煮えくり返りそうなくらい、脳髄が沸騰しそうなくらい―――そのどれもが彼女の状態を表すには不十分だった。
クリストファーが殺されたときから彼女は狂っていた。胃は食物を殆ど受け付けなかった。何日も高熱が続いた。
死神が彼女の周囲を巡遊していた。
そんな中で、それは、夢か、幻か―――

『ハローCQCQ・・・じゃねえや。聞こえてる?』

―――誰?

闇の中、アーロネッサの前に現れたのは、少女ほどの背丈しかない女性だった。顔立ちも少女のようだ。
白に近い金髪をたなびかせ、白いワンピースと黒いスカートを身に纏い、漆黒の瞳でアーロネッサを見つめていた。

『私はゾーク。貴方の嘆きに引き寄せられてきたの。』

―――わたしの嘆き・・・

『貴女は憎い?』

―――!

―――憎い!

『何が? 父親が? それとも、この世界が?』

―――!

『貴女の父親が特別に残虐なわけじゃない。貴族なんて大概はあんなものだよ。』
そう言ってゾークは可笑しそうにケラケラと笑う。
『いや、貴族や王族だけじゃないか。突き詰めてしまえば、人間の大半は同じようなものだよね。たとえ同族であっても、同族と見なさなければ平気で殺せちゃう。悪口を言うのだって、邪険に扱うのだって、下に見るのだって、殺すのと同じことだよ。相手の魂を削っていることに変わりは無いんだからねっ♪』

―――わたしが憎いのは、世界?

―――クリストファーを殺したのは、この世界なの?

『違うかな。例えば、貴女がクリストファーと駆け落ちして、その後どうなるの? 侯爵令嬢として生活してきた貴女が、貧乏暮らしに耐えられたとは思わないけどなァ。体を壊して早死にするのがオチだったんじゃないかな。そうなったらクリストファーは死ぬほど悲しんだだろうね、間違いなく。後を追って自殺したかもしれない。』
そしてゾークは瞳を輝かせて囁く。
『ねえ、アーロネッサ。貴女は何をしたい? 貴女の望みは何? 復讐?』

―――いいえ・・・

―――いいえ!

『じゃあ、何?』
とっくにわかりきったことでも、あくまでカノンはアーロネッサ自身の口から答えを聞きたかった。
アーロネッサはポロポロと涙を流しながら、心の底から叫んだ。

―――クリストファーに会いたい!!

『そう言うと思ったよ。でもねアーロネッサ、人間1人を蘇らせるのに、一体どれほどの力が必要だと思う? 貴女には覚悟があるかな、どんな代償を払ってでも、クリストファーを蘇らせるって覚悟が。』

―――もう一度クリストファーに会えるなら、わたし、何だってするわ!

『じゃあ、穢れを知らない子供99人を生贄にして私に捧げて。そうしたらクリストファーを闇の中から救い出してあげる。』
その条件を聞いても、アーロネッサは驚きもしなかった。
侯爵令嬢としての自分の力を利用すれば簡単なことだ―――そんな冷淡な思いしか浮かんでこなかった。
『もう一度問うよ。貴女は殺せる? 何の罪も無い、清らかな子供を。99人。』
それに対してアーロネッサの答えは決まっていた。

―――殺せるわ。


その後アーロネッサは領地の子供を次々と攫い、生贄として地獄の神へ捧げていった。
そのことが表沙汰になる前にソールズベリ侯爵はアーロネッサを毒殺し、封印の黒い十字架を立てた墓に葬った。
しかし、その翌朝。墓の側で使用人2人が死体で見つかっており、アーロネッサの遺体は消えていた。


―――――ここまでが200年前の話―――――



◆ ◆ ◆



ラインハルト・シュタルナーは、自分が長く生きられないであろうことを知っていた。
幼い頃から病弱で、何度も死にかけたことがあった。12歳になった日に、医者から告知を受けた。
当時の医学ではどうすることも出来ない不治の病・・・ラインハルトは生まれつき長くは生きられない運命だった。
父親の家系から受け継いだ病だということは明白だった。ラインハルトの父親も、その父親も、知る限りの先祖は40歳まで生きた人間はいなかった。よくここまで子孫を残せたものだと、ラインハルトは子供心に思った。

母親はラインハルトを1秒でも長く生かそうと努力した。規則正しい生活リズムを整え、食べさせるものにも気を配り、身を削ってラインハルトに尽くした。それによって彼女は、髪はボロボロになり、肌はガサガサに荒れ、年齢より20は老けて見えた。それでも彼女は満足だった。

仙人のような生活を送るだけでは哀れだと思ったのだろう、母親はラインハルトにデュエルモンスターズを教えた。
何故デュエルモンスターズだったのかはわからない。単なる偶然だろう。
しかし、それがラインハルトの人生を多く変えてしまったのだ。

ラインハルトにはデュエルの才能があった。たちまちのうちに母を追い抜き、体調が良いときにはデュエルモンスターズの大会に出るまでになった。何故か大会のある日に限って体調が良くなることも幸いした。
数年のうちにラインハルトはデュエル界のスターとなり、更に数年後にはカード製作のスタッフにも加わることになった。彼の作るカードは単体では並の強さなのに、コンボや専用デッキを作ると環境に影響を与えてしまうほどの力を持っていた。なので彼がカードを作るとなると、それだけでニュースになった。
その頃がラインハルトの絶頂期だった。

ある日ラインハルトは、ふと思った。
どれほどの栄光を手にしようとも、どれほどの賛辞を受けようとも、どれほどの金や、どれほどのカードを手に入れようとも、死んでしまえば意味が無いのでは、と。
そのとき彼は30歳を過ぎていた。
自分は後10年も生きられないのだと思うと、急に恐ろしくなった。

それから彼は秘密裏に自分専用のカードを製作することにした。

30代も半ばを過ぎた頃、彼は自らを悪魔主義者と名乗るようになった。プレイングも今までのような着実にアドバンテージを稼ぐスタイルから、相手の行動を束縛し、潤沢なライフと手札を駆使して圧殺するというスタイルへと変貌した。まるで皇帝を名乗ったデュエリスト丸藤亮が、自らの呼び名に地獄を冠したように。
深く豊かなタクティクスは見る者を圧倒し、戦慄させた。彼のデュエルを見るだけで観客は鳥肌が立ち、卒倒する者さえ現れた。そんな彼を、鬼才と言う者、禍々しいと言う者、様々な評価が成された。
この頃がラインハルトの第二の絶頂期だと言えるだろう。少なくとも、デュエル界にとっては。

そんな彼に心酔する若者がいた。その名はレイモンド・ワトキンズ。
ラインハルトは自分の死期を悟っていたのだろう、今まで孤高のデュエリストとして生きてきた彼が、レイモンドを弟子に取ったのだ。
レイモンドのデュエリストセンスもラインハルトに匹敵するほどだった。ラインハルトはレイモンドに自分の持てる限りのタクティクスを教え込んだ。
そうしているうちにラインハルトの心にドス黒い情念が浮かんできていたが、その念を彼は心の底に封印した。

そして1年後、いよいよラインハルトは自分の寿命が尽きるのを感じた。
常に目の前には砂時計が浮かんで見えた。残り僅かな砂を見て、彼は恐怖と未練で涙が出そうになった。

そんな彼に、“闇”は語りかけた。

『貴方、もうすぐ死ぬのね。』

―――誰だ?

『酷いなあ。日頃あれほど私を讃えながら、いざ目の前に現れたらフーアーユー? そりゃ無いよ〜。』
白く長い髪は、光の加減によっては金色にも見える。少女のように華奢な体躯は、白いワンピースと黒いスカートに包まれていて、漆黒の瞳から放たれる“邪気”だけが、彼女が見かけ通りの人間ではないということを物語っていた。

―――まさか、まさか。

『それとも、こんな威厳も何も無い姿と口調で幻滅した?』
彼女は少し悲しそうな顔を作る。
しかし、その瞳から放たれている底知れぬ邪気がラインハルトに確信させた。

―――ゾーク様・・・!

『えっへへ、様とか付けられたら照れちゃうな。』
ゾークは頭を掻いてクルッと回った。
黒いスカートがフワッと翻る。
『それでね、ラインハルト。もうすぐ貴方は死ぬわけだけど、本当にそれでいいの?』

―――それは・・・

―――正直に言えば、未練はあります。

―――けれど、仕方ないじゃないですか。もう諦めたんです。

『あははっ、嘘ついちゃ駄目だよ。本当は、何を犠牲にしてでも生きたいって思ってるくせに。』
ゾークは可笑しそうにケタケタと笑う。

―――そんなこと・・・

『だったらどうして私なんかを崇めたわけ? 知っての通り私は大邪神だよ。私に嘘は通用しないよ。』
ゾークの眼光がラインハルトを優しく包み込む。
『それにさあ、母親はどうなるの?』

―――!

『可哀想だよねえ。今まで自分の人生を犠牲にして貴方に尽くしてきたのに、何の見返りもなく死んでいくんだ。いくら貴方の母親とはいえ、彼女自身のデュエルセンスは大したことないし、貴方が死んだらどうなるのかな。貴方は崇拝者も多いけど敵も多いし、そんな中に彼女を置き去りにするのかな。いや、もっと根本的なことを言えば、貴方が死んだら彼女はどんなに嘆き悲しむんだろうね。後追い自殺するかも。気が狂うかも。』
そこで少し言葉を切って、ゾークは舐め回すような目つきでラインハルトを見つめた。
『ねえ、ラインハルト。人は死んだらどうなるか知ってる? 生きてきた時間の何倍も何倍も長く、闇の中で独りぼっちさ。誰にも姿は見えないし、誰にも声は届かない。そんな中、楽しい思い出や嬉しい思い出をたくさん持っていたら、ずっと魂は維持されて、いずれは生まれ変わる。けどね、悲しみや嘆きに心を満たされていると、だんだんと魂が壊れていって、いずれは完全に闇に食われ、永遠の苦痛を味わい続けるんだ。それはもう、例えば溶鉱炉で・・』

―――やめてくれ!

『およ?』

―――頼む・・・もう、やめてくれ・・・

『ふふっ、ごめんね。でも私が来たのは絶望を告げる為じゃない。希望を掴む方法を伝える為だよ。』

―――え?

『貴方の弟子にレイモンドって青年がいるよね。彼の体、乗っ取っちゃいましょ♪』

―――何・・・だって・・・?

『何を驚いているのかな。そんな残酷なことは出来ないってことかな。それとも、そんな素晴らしい方法があったなんて、という喜びの驚きかな。あ、言わなくていいよ。わかってるから。』
ゾークは可愛らしい笑顔を浮かべてデュエルディスクを取り出した。
『これでレイモンドと闇のデュエルをする。勝てば彼の魂は闇に食われ、体を乗っ取れる。負ければ貴方が闇に食われてしまうんだけどねー。あはははは。』

―――いや、しかし・・・

『そうだ、レイモンドには恋人がいたよね。その体、貴方の母親の器にしよう。』

―――待ってくれ、少し・・・考えさせてくれ・・・

『そんな時間は貴方には無いよん。』
ゾークが指し示した方向に砂時計があった。
砂は殆ど落ちていて、残り数粒だった。
『今は私の“停刻”で止めてあるけど、解いたら数秒で死ぬよ。貴方の思考時間を確保する為に私が力を使う義務は無いわけだしさぁ。闇に食われるのはキツいよ・・・それはもう全身のあらゆる神経を・・」

―――わ、わかった、やる!

『よし、じゃあルールを説明するね。貴方がレイモンドと1対1で闇のデュエルを行う。貴方が勝てば、貴方はレイモンドの体を、貴方の母親はレイモンドの恋人の体を乗っ取る。貴方が負ければ、母親もろとも闇に食われて死んでもらう。』

―――な、待て!

『へ、何?』

―――何で母さんまで闇に!?

『ん、別個でデュエルする方がいいの? そりゃまあ、レイモンドの恋人はデュエル素人だから、貴方の母親がデュエルすれば99.9パーセント勝てると思うけどね。でも貴方が負けたら同じことだし、1回にまとめようと思ったんだけど、余計な気遣いだったかな?』

―――わかりました・・・やらせてくださいゾーク様。

『ああん、何かキュンッてくるな、その言い方。』
ゾークは顔を赤らめてクルクル回った。
ラインハルトは狂気の宿った目でゾークを見つめる。

―――僕はゾーク様の讃美者であり、崇拝者であり、奉仕者です。

『うんうん、ようやく正直になったね。』

―――貴女は僕の神です。貴女なしで僕は存在できない。

『よくわかってるね、偉いよ。ご褒美に私の力を宿したカードを貴方のデッキに入れてあげよう。』

―――ありがとうございます。

『それじゃあ始めるよ、ラインハルト・シュタルナー、一世一代の頑張り物語を♪』


それから30分後。


(レイモンドのターン)

ラインハルト:LP1、手札0
場:コード96 Devil-Master (攻1)
場:ウィジャ盤(永続罠)、死のメッセージ「E」(永続魔法)、死のメッセージ「A」(永続魔法)、死のメッセージ「T」(永続魔法)

レイモンド:LP7168000、手札0
場:
場:



「馬鹿な・・・こんなカードの存在を認めろとでもいうのか・・・!」

レイモンドはデュエルディスクを腕に装着したまま尻餅をついた。

「あ・・・あはは・・・ラインハルト・・・・・・貴方は、悪魔だ・・・!」
「ありがとう、最高の誉め言葉だ。」

身も心も悪魔に売り渡したラインハルトは、爽やかな笑顔で礼を述べた。


- - - - - -


それから2年後、レイモンド・ワトキンズの名はデュエル界トップリストの常連になっていた。
謎の自殺を遂げた師匠ラインハルト・シュタルナーのデッキを使い、ラインハルト以外には不可能だと言われていた難易度の高いプレイングも易々とこなし、まさしくラインハルトの弟子だと称賛された。
それに対して彼は、どこかシニカルな笑みを浮かべていたという。


―――――ここまでが150年前の話―――――



◆ ◆ ◆



そして現在。2005年―――


アンダーソン家の地下室で、黒いローブの人間たちが同心円状に歩き回りながら呪文を唱えている。


その中心で、2人の少年がデュエルをしていた。



黒維ツガル:LP100、手札0
場:
場:

丸石ルト:LP8000、手札0
場:神殿を守る者(攻1100)、速攻の吸血蛆(攻7900)、メタルデビルトークン(攻0)
場:団結の力(装備魔法)、魔導師の力(装備魔法)、魔導師の力(装備魔法)、伏せ×2



長身の男は残りライフは風前の灯。綺麗だが陰のある顔が、いっそう翳っているように見える。
もう一方の小柄で丸顔の少年は、羽織っている赤いマントと同じように血色も良かった。
伏せてあるカードが《神の宣告》と《和睦の使者》であることも、気分の良さに拍車をかけているのだろう。



互いの墓地にカードは“存在しない”。


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