佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 決闘祭!   番外編 電脳遊戯の交響曲 (1)

<<   作成日時 : 2017/05/05 00:00   >>

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◆ ◆ ◆



黎川零奈は生涯で99人に、マジックアンドウィザーズ、今で言うデュエルモンスターズを教えた。
その中には善良な人間もいたし、悪党もいた。プロデュエリストになった者もいれば、カードプロフェッサーになった者もいるし、闇のデュエルに身を投じた者もいた。中でも最も有名なのは、かの鷹野麗子であろう。
これから語られるのは、99の分母のうち、2の分子。女を意味する数字が紡ぐのは、友情の決闘物語。



◆ ◆ ◆



「おはよっ、マドカ!」

後ろから元気よく挨拶してきたのは、わたしの親友。
水白施波(みずしろ・せなみ)は、小柄でショートヘアの可愛らしい女の子だ。
ソバカスのある顔が、今日も元気よく笑みを見せる。
その瞳は透き通るような淡い水色をしていて、元気ハツラツな印象と真逆に見える。
それもチャームポイントだったりするけれどね。

「おはよう、シィハ。」

施波(せなみ)の読み方を変えると、“しは”。しの字を伸ばしてシィハ。
それが彼女のニックネームになっている。
いつからこんな呼び方をするようになったのか覚えてない。
出会ったのが2年前だから、それより後ということになるけれど。
ま、そんな些細なことは友情には関係ないか。気になると言えば気になる程度かな?

「見て、マドカ。雲が鳥みたいな形してるよ。」
「あ、本当。鷹みたいね。」

シィハは何故だか、こういうちょっとした面白いことを発見するのが上手だ。
そういうところも含めて、敵わないなと思う。

周囲からの評価で、美人と言われるのは、わたしの方。
自分でも、栗色のロングヘアも含めて容姿やプロポーションには割と自信がある。
けれど、それを踏まえて言う。
男の子が恋人にしたいと思うタイプは、きっとわたしでなく彼女の方。

わたしは男の子と接するとき、おしとやかに“構えて”しまう。心理的に距離を取ってしまう。
高嶺の花なんて言い方をすると、自慢してるみたいで嫌だけど、要するにそういうことだ。
小さい頃から「お人形さんみたい」と言われてきたけれど、人形は飾って愛でるもので、恋人にはならない。
だからといって、シィハに憧れ以上の、嫉妬や僻みを感じることはない。
たとえ感じても、友情の方がずっと大きい。


わたしたちは並んで歩き出した。
他愛無い会話をしながら、楽しく笑って歩いていった。
このままずっと、こんな生活が続けばいいと思っていた。

高校へ着くと、シィハと別行動になる。三年生になってから、クラスが別れてしまったんだ。
そんな現実に直面すると、永遠なんて無いんだと思わされてしまう。
なんて思うのは大袈裟か。クラスが違っても友情が消えるわけじゃないし。

このまま、ずっと楽しく過ごしたい。
人生は楽しいことばかりじゃないけれど、トータルで楽しいなら幸せだ。

楽しいことばかりじゃないと言えば、わたしとシィハが出会ったのは、いじめの場面だった。
元気で明るいシィハだけど、けっこう気の弱いところがあり、小さい頃からいじめの的にされていたと聞いている。
わたしは逆に、普段おしとやかで通っているけれど、いざというときは強気で啖呵を切れる。
あまり自覚してなかったけれど、わたしって意外と血の気が多いのかな?
あのときも、考えるより先に言葉が出てきたみたいだった。

シィハをいじめた奴らは、同じ高校の上級生だった。
彼女はわたしにお礼を言った後、少し躊躇った様子を見せてから、「助けて」と声を絞り出した。
その意味はすぐに理解できた。彼女から言い出さなければ、わたしからお節介を焼こうと思っていたことだから。

わたしは学校に事の次第を連絡し、それぞれの両親にも手紙を送った。
自分の両親や、信頼できる人たちにも相談して、裁判を起こす準備もした。

いじめと戦う手段のひとつとして、事態を大きくするというものがある。
個人的な見解としては、たとえ本人が「事を荒立てないでほしい」と言っても、やるべきだと思っている。
事を荒立てないでほしいと言う人間は、我慢してしまえる人間だ。
我慢したくてしてるわけではなく、しがらみやプレッシャーに負けて我慢する方を選択してしまう。
今風な言い方をすれば、空気を読みすぎるタイプということになるかな?

自分でも過激な考え方だと思っている。
けれども、過激だから間違ってるとも言えないと思う。
事を荒立てなかったから、人格が破壊された人間を、わたしは1人知っている。1人で十分だ。

おしとやかで通っているので普段は機会が無いけれど、わたしはデュエルモンスターズを嗜んでいる。
黎川零奈という凄腕のデュエリストに教えを受けていたことがあるのだ。
デュエルの基礎から応用まで、黎川師匠からは幅広く学んだ。
そのときの同輩が、従妹の麗子ちゃん、近所に住むマサキ君、そしてシンヤという少年。

竜堂神邪。そう、そんな名前だった。
出会ったとき、竜堂神邪は既に壊れていた。生きながらにして人生が終わっているような印象を抱いた。
この先ろくな人生を歩まないだろうと、出会った瞬間に思わせられた。
そう思った自分が気持ち悪くて、そんな思いを自分に抱かせる彼に恐怖と嫌悪を感じた。

彼が壊れた理由は、いつだったか、マサキ君から聞いたことがある。
詳しいことは話してくれなかったけれど、いじめられて、それを我慢してしまったからだと言っていた。
その事実は、わたしのいじめに関する認識を根本的に変えた。
いじめられた人間は、こんな風になるのか。助けられなかった人間は、こんな風になるのか。
そのときのマサキ君の悲痛な表情が忘れられない。
そして、竜堂神邪に対する恐怖と嫌悪は、そのまま、いじめに対する言いようもない怒りに繋がった。

そのことがシィハを救うことに繋がったのだと思うと、竜堂神邪に出会ったことは結果として幸運だった。
少なくとも、シィハが彼のようにならずに済んだということは、諸手を挙げて喜ぶべきことには違いないのだから。

わたしが裕福な家に生まれてきたことも、プラスにはたらいたと言える。
並みの家では、裁判を起こす余裕など無い。
事を荒立てても、それを貫徹することが出来ないのなら、荒立てるべきじゃない。

力量も無しに事を荒立てると、余計に酷くなる。
だからこそ、弱い人間は「事を荒立てないでくれ」と言うのだ。

力のある人間こそが、事を荒立てるべきだ。
わたしは、恵まれた人間でも怠けていいという考え方が大嫌いだ。
そんな寝言は、どこか別の平和な世界でほざいていればいい。


「」


けれど、この世界を平和だと思い込んでいた点では、わたしも大して変わりはしなかったのだ。



◆ ◆ ◆



このままずっと、こんな生活が続けばいい。
このままずっと、楽しく過ごしたい。

それがどれだけ当たり前で、どれだけ贅沢なことか、わたしは理解することになった。


「」


わたしは何かを言っていた。
何かを言ってることはわかるのに、その内容がわからない。


「―――!!!」


叫んでいたのか。



血まみれの

シィハ



◆ ◆ ◆



シィハが交通事故に遭った。
わたしの目の前で血まみれになった。

すぐに救急車を呼んで、彼女は病院に運ばれた。

何故、わたしは、シィハを、助けられ、なかった、の?
もっと早く呼べなかったか、救急車を。
それ以前に、車が来たとき、庇えなかったのか。

シィハ、死なないで。
死なないで!



◆ ◆ ◆



シィハの両親と同席して医者から説明を受けた。

「娘さんは、脳死状態です。」

そして、横にいた女性が話を引き継ぐ。

「私は移植コーディネーターです。脳死状態の娘さんは、もう死んでいるのと同じです。せめて、その臓器を、病で苦しんでいる人々に提供してもらえないでしょうか?」

そう言って、その女性は、“酷死病”という病気について語り始めた。
あらゆる臓器が駄目になっていく、先天性の疾患。それを治すには移植以外の道は無いと言う。
「名前を言うのは本来タブーなのですが」と言いながら、淵乃井斑(ふちのい・まだら)という少年の話を始めた。
その話を聞いて、シィハの両親が心を動かされるのが、傍から見ていてわかった。

けれど、違う、違うわ!
混乱した頭でも、おかしいってことがわかった。

「何が違うのですか。」

コーディネーターを名乗る女性が、優しい声で詰問した。
自分でもわからないうちに、声に出ていたのだろうか。
いや、それよりも。

詰問。まさに詰問だ。
声は優しいけれど、目が笑ってない。

憎悪を秘めながら胡散臭い笑みを浮かべられる、竜堂神邪と同じ種類の人間だ。

わたしは、その場から逃げ出すようにICUに駆け出した。

「開けて! 開けてよ!」

扉には電子ロックがかかっていた。
どうしようもないまま、わたしは警備員に捕まって、外へ放り出された。



◆ ◆ ◆



どうしよう。どうしようか。

混乱して気が狂いそうになる心と、冷静にシィハを救う方法を考えている心が、同時に存在する。
引き裂かれるような思いで、わたしは家に向かって走り出した。

そうだ、あの扉は電子ロック。
あの病院のセキュリティーは、コンピューターで制御されているのだ。

もしやという期待と、そうであってほしいという願いを込めて、パソコンの前に座る。
起動する時間が、やけに長く感じる。

人生一番の大急ぎで検索すると、オセロ総合病院は海馬コーポレーションと提携を結んでいて、システムはKCの端末を使っていることを突き止めた。
予想通り、願い通りの展開に、わたしは歓喜した。歓喜しながら、動かす手が速くなっていた。

海馬コーポレーションのコンピューターは、ハッキングに対して意外と脆い。
否、デュエルモンスターズの神秘を利用したハッキングに弱いと言うべきだろう。
インダストリアルイリュージョン社の邪神によるハッキングなどは、有名な話だ。
逆に海馬社長自身、ソリッドビジョンシステムにハッキングして、盗まれたデッキの《青眼の白龍》を弱体化するという離れ業もやってのけている。
ハッキング不可能な防御を築くよりは、いざというときに自らが逆襲できるような構築にしてあるのだろう。
それはデュエリストとして、共感できる姿勢ではある。
どれほど強固な、ハッキング不可能な防御だろうと、いずれは打ち破られる。今の不可能は、未来の可能なのだ。
だったら、破られることを前提としたシステムを築けばいい。

この考え方は、様々なところで応用できる。
人間はミスをするものという前提で、車や飛行機などを作ることで、大惨事を小さな事故に押しとどめられる。
いじめなんかも、起こらないようにするのではなく、必ず起こるいじめに対処するのが正しいのだ。

そんなことを考えている間に、病院のシステムを掌握した。
と同時に、ノートパソコンを持って、わたしは病院の前まで来ていた。



◆ ◆ ◆



無事にICUの中に辿り着けた。
わたしを拒んだ電子ロックが、今はシィハを守る鉄壁の砦と化している。
そう、砦。ここは一種の要塞と化している。

シィハ

シィハ!

わたしは彼女に近寄って、じっと見つめた。
頬は赤いし、人工呼吸器をつけてだけど息もしてるし、何より心臓だって動いている。

「シィハは死んでない。シィハは死んでない。生きてるよぉ・・・!」

わたしは安堵して、その場に座り込んだ。
心臓が痛いほど高鳴っていた。
あふれた涙が頬を伝って顎で合流した。

けれども、じっとしてる暇は無い。

これからわたしがやることは、れっきとした重犯罪だ。

もう、後悔してる。
今だって、逃げ出してしまいたい。

もっと上手い方法は無かったのか。
両親に相談しておけば良かったんじゃないか。
仲間に相談しておけば良かったんじゃないか。
そんなことが頭の中を、ぐるぐると渦巻いている。
でも、そうしている間にシィハが死んでいたら?

どうすれば良かったの?
いっそシィハを見捨てていれば良かったの?
今からでも遅くはない。
仕方ない。
・・・本当に?

黒い感情を振り払えないまま、わたしはメールを送信した。
宛先は、このオセロ病院の院長だ。

要求は、たったひとつ。シィハの命を救うこと。
それが出来ないのなら、全患者の命を保障しない。

保障しない。

保障しない。

わたしは、悪い奴になってしまった。
シィハを助ける為に、他人の命を盾に取った。

嫌だ。そんなことを思うだけで、胸が痛くて我慢できない。
たまらなくなって床に座り込む。
気が付けば、胃液を吐いていた。

助けて。

誰か助けて!



◆ ◆ ◆



「マドカ!」
「マドカ!」

「お父さん、お母さん!」

光が差した思いだった。

「助けて、シィハを助けて!」

わたしは扉の向こうから、声を振り絞った。
あのときのシィハを助けることに協力してくれた、お父さんとお母さん。
やっぱり両親に相談すればよかったんだ。
今からでも遅くない。
シィハを助けて、誰の命も盾に取らない。
そんな未来を―――


「」
「」


返ってきた言葉の意味が、一瞬わからなかった。

どうしてわたしは、両親に相談しなかったんだろう。
どうしてわたしは、この扉をすぐに開けなかったんだろう。

心のどこかで、こうなることをわかっていたんじゃないかな?

「脳が死んだ人間は、もう生き返らないんだ。」
「諦めなさい、マドカ。」

「何でそんなこと言うの!? あのときは助けてくれたじゃない! わたしと一緒にシィハを助けてくれたじゃない!」

「わかってくれとは言わない。これは親のエゴだ。それを踏まえて言う。施波さんは、他人だ。」

「・・・っ!」

ゾッとして涙が出た。

「マドカを犯罪者にするような真似は、させたくない。」

「だったら、シィハを助けて! お願い!」

「マドカ、よく聞きなさい。死んだ人間は蘇らないんだ。脳死というのは、脳が死んでいる状態。脳が死んだら、人は死ぬんだ。」

「だって、シィハは、まだ、生きてるもの。死んでなんかいないもの・・・!」

扉にもたれかかるようにして、わたしは泣き崩れた。

「生きてるように見えても、それは死んでるんだ。」

「見てもいないくせに、何でわかるの・・・? 生きてるとか、死んでるとか、誰が判定するの? 判定する人は神様?」

たとえ神様が死んでると言ったって、否定してやる。

「そっか。わかったよ、お父さん。あの移植コーディネーターとかいう人に、吹き込まれたのね?」

扉の向こうから動揺する気配が伝わってきた。
それと同時に、背後から彼女の声が聞こえてきた。

「そうよ。」

ハッとして振り向くと、声はパソコンからだった。
しかし機械音声とは思えないほど肉声に近かった。

「あなたが、お父さんとお母さんを、たぶらかしたのね?」

「たぶらかしたぁ? だったら何?」

口調が変わっている。
けれど、この方が本性と合致しているようでスッキリする。

「許さないわ。けれど、あなたの相手をしてる暇は無いの。」

「そちらの都合に私が合わせるとか意味わかんない。あ、でも、お前の行動でわかること、1つだけあるわ。お前にデュエルで勝てばハッキングを解除できるようにしてるとこ。いいね、それ。遊び心があって。」

別に遊び心とかじゃないんだけれどね。
かつてインダストリアルイリュージョン社が使った手口を真似ただけ。
天馬夜行は《邪神アバター》を基軸にしてハッキングを行った。
デュエルモンスターズの神秘を利用する“抜け道”は、デュエルで《邪神アバター》が敗北するとハッキングが解除されるという、避けられない弱点も生み出した。

それと同じ理屈で、わたしにデュエルで勝利すれば、ハッキングは解除される。
ただし、それ以外の手段となると、物理的な破壊しかない。
軍事基地ならともかく、病院でそんなことをすれば、患者の命を脅かすことになる。
わたしは卑怯だ。卑怯なのは嫌だ。けれど、シィハが殺されるのも嫌だ。
どちらを選ぶかと言えば、どちらも選べない。
いや、シィハを選ぶということを、この現実が示しているかな?

「念の為に言っておくと、デュエルを断ることは出来ないから。私も闇の力を持っているのでね。電子の海を通じてだろうと、お前をデュエルに引きずり込むことくらい出来るから。」

「わかったわ。元より逃げる気は無い。けれど、デュエルを始める前に質問いいかしら?」

「するだけならどーぞ。」

「どうして、こんなことをするの? 生きてる人間の体から臓器を取り出すなんて!」

「あー、はいはい。ま、録音もされてないみたいだし、お前には本音を語るか。別に酷いことだと思えない。ただそれだけなんだ。私にとってはね。」

「・・・っ!」

わかった。
こいつとは話が通じない。
デュエルで叩き潰すしかないみたいだ。

「何故あっさり本音を語ったかわかるか? お前が私らの宿敵だからだ。そうだろう、反カンサー統一戦線“キューブ”の、“聖天使”高見沢円ぁ!?」

「まさか・・・あなた・・・!」

「あー、多分そう。おそらく察しの通り。カンサーA級が40席ぃ、膾有雨(なます・ありう)、第9席マリー・ネーブルの補佐官だぁ。さっそく始めよーか闇のデュエル。誰が相手でも、デュエルってやつはワクワクする。」


「「デュエル!」」


高見沢円:LP8000
膾有雨:LP8000





つづく

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