「サトリン」 第五話 虎の最後 36

虎男と竜命が戦っている間、石泥地区の戦況は一変していた。途中から四方髪連合が参戦し、住民たちの協力と合わせて、舜平たちは機動隊を撃破した。残り少ないメンバーで負傷者を助け出し、火事も消し止めつつあった。
残るは虎男と竜命の決着を待つのみだった。もしも竜命が勝ったとしたら、彼を止められるだけの戦力は残っていない。たとえ深手を負っていたとしても、逃亡は防げないのは目に見えていた。
皆が虎男の勝利を切望した。
それが現実になり、僅差で勝利した虎男が、くるりと振り返った。
場の空気が驚愕に包まれたのは、そのときだった。
虎男は“竜巻”によって上半身の装備が全て吹き飛んでいた。虎縞のジャケットも、その下の黒いシャツも、胸に巻いていたサラシも、サングラスもバンダナも、全てが剥ぎ取られ、“彼女”は僅かに残ったジーンズ以外の裸身を晒していた。
「リー・・・ダー・・・?」
「嘘・・・・?」
「女・・・・?」
「その顔・・・・・綾小路茉莉花!?」
(!!?)
その瞬間、茉莉花の全身に電流が奔った。彼女は信じられないという顔で目と胸に手をやった。
「・・・あ・・・あ・・・・?」
仮面は剥がれた。
茉莉花は驚愕と絶望が入り混じった表情で震えていた。
(世界が・・・・崩れていく・・・・!)
頭の中で何かがガラガラと崩れていく音が聞こえた。
次の瞬間には、茉莉花は逃げ出していた。
舜平たちは驚愕のあまり、しばらく動けなかった。

茉莉花は傷ついた体のままバイクに跨った。
(俺は虎だ!)
(この体に流れる熱い血が滾る)
(本能の赴くままに突っ走る)
(俺は虎だ!)
(手負いの虎だ!)
(傷ついた肉体が熱を帯びる)
(血を振り撒きながらブッ飛ばす)
(そう、俺は虎だ!)
(野生の虎だ!)
(俺の人生はもう終わりだ)
(もう頂上を極めちまった)
(皆に正体もバレてしまった)
(俺は獣だ!)
(死に場所くらい自分で選ぶぜ)
(虎として生まれ)
(虎として生き)
(虎として死ぬ)
(心が裸になって、この広い大地に還る)
(俺は虎だ!)

そして、虎男の視界は消えた。
茉莉花は愛車ごと綾小路の屋敷に激突し、火花がバイクのガソリンに引火して爆発炎上した。
泣き叫ぶように燃え盛る炎の中、ちぎれた足が焼け崩れていった。




つづく

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この記事へのコメント

2012年08月07日 13:57
バカヤロー!!??何を!??何で死を選ぶ!?まだ、世界が崩れ切ったかどうか分からないのに、その結果を見届けずして、死ぬ!?馬鹿な!こんなのってあり得ないよ!
2012年08月07日 18:31
火剣「まさか死んだんじゃないだろうな?」
コング「そんな結末は許さん」
ゴリーレッド「これでENDなら終わりだが、つづくだから希望はある」
火剣「このシーンでどうやってギャグを飛ばせと言うんだ?」
ゴリーレッド「飛ばさなければいいだろ」
コング「咄嗟とはいえ何てことを。そうだ、サトリンはなぜ止めない。この薄情者! かき回すだけか。それではどこかのキリンと変わらないではないか」
ゴリーレッド「サトリンはモグロフクゾーと紙一重だから」
火剣「とにかく死ぬという選択肢は間違っている」
コング「そう、死んだら何もできないと八武院長も言っていた」
ゴリーレッド「この際ドクター八武は関係ない」
火剣「本当に仲間なら、好きなら、同志なら、虎男が茉莉花だったくらい、どうってことねえ」
ゴリーレッド「火剣、たまには良いこと言う」
火剣「そりゃあびっくりするけど、決裂するほどのことじゃねえ」
コング「生きててほしい」
ゴリーレッド「次回を待とう」
火剣「待てねえ」
ゴリーレッド「ところでキリンって?」
コング「動物園のキリンが見たくなっただけだ。キリン、キリン!」
2012年08月07日 22:12
>千花白龍さん
そうです。世界は崩れていないし、頂点に立ったわけでもない。
狭い認識で生きてきたからこそ、そして、なまじっか半端に物が見えるようになったからこそ、極端な選択をしてしまった茉莉花。
けれど、まだ物語は終わっていません。納得できる結末にはならないかもしれませんが、最後まで見届けてくださいませ。
2012年08月07日 22:37
>火剣さん
生存は絶望的な状況ですが、まだ終わりません。死ぬのは間違っていると、サトリンも同じ結論を出すはずです。
逃げ出すのではなく、みんなと向き合って話をするのが正しかったのですが・・・虎男の仮面が剥がれたと同時に、心の弱さが前に出てしまったのでしょうか・・・。

佐久間「キャラクターは、必ずしも作者の思い通りには動かないってことだな。」
八武「すると、予定では一世一代の頑張り物語を告白するはずだったのか。聞きたかった。」
山田「じゃあ、死んでないんだな!?」
佐久間「・・・まぁ、アッキーはキャラの生死は滅多に覆さないけどな。覆すときも、死んでたはずのが生き残ったケースが多い。」
山田「たまには佐久間も人を安心させることを言う。」
八武「それが逆に不穏な気配を漂わせているが。」
山田「・・・うん、それは俺も思ったけど、今は目を瞑りたい。」
佐久間「しかし、喪黒と紙一重か・・。やはりゴリーレッドは鋭い。」
山田「え?」
佐久間「まぁ、サトリンは石泥地区には関与できないけどな。電子機器が置いてないから。」
山田「でも、バイクで走ったよな? 街中なら関与できるよな?」
佐久間「可能ではある。」
八武「わざと不穏な言葉を選んでないか?」
佐久間「みんな、サトリンを信じるんだ。」
山田「そう言われると信じたくないな、あんまり・・・。それと佐久間のことは、もっと信じられない。」

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